干渉波電流を用いた機能的電気刺激による手指機能再建

計測自動制御学会東北支部 第 253 回研究集会 (2009.11.20)
資料番号 253-3
干渉波電流を用いた機能的電気刺激による手指機能再建
Reconstruction of finger function by functional electrical
stimulation based on interference potential current
○儀保耕平,高橋隆行,二見亮弘
○ Kohei Gibo, Takayuki Takahashi, Ryoko Futami
福島大学
Fukushima University
キーワード : 機能的電気刺激 (Functional Electrical Stimulation),
干渉電流 (Interferential Current)
連絡先 : 〒 960-1296 福島県福島市金谷川 1 福島大学 理工学群共生システム理工学類 高橋研究室
儀保耕平,Tel.: (024)548-5259,Fax.: (024)548-5259,E-mail: [email protected]
1.
はじめに
おいて,前腕部には機能的電気刺激を用いるこ
とで筋を選択的に刺激し,握力方向への力を発
近年,上肢麻痺者の手指運動機能再建を目的
とした様々なアプローチがなされている.その
中でも,機能的電気刺激,パワーアシスト装置
に関する研究は多数報告されているが,両手法
には様々な課題が挙げられる.機能的電気刺激
生させる.また,手掌部にはパワーアシスト装
置を用いることで内外転の運動を実現する.本
論文では,目的とする筋以外の興奮を防ぎ,任
意の筋を局所的に刺激するための機能的電気刺
激法について述べる.
においては (1) 前腕部・手掌部に多数の筋があ
り,それらの選択的制御が困難であること,(2)
把持動作において重要な指の内外転運動や対立
2.
運動を行う筋が多数存在する手掌部への電極配
置が困難であることなどが課題として挙げられ
る.また,パワーアシスト装置においては,(1)
小型で十分なトルクを出力出来るアクチュエー
タの入手が困難であること,(2)(1) に伴いシス
テム全体の小型・軽量化が困難であることなどが
課題として挙げられる.我々はこれらの問題点
に対し,両手法を複合的に使用することで問題
を解決し日常的に使用可能なアシストシステム
のを提案をめざしている.アシストシステムに
干渉電流による局所刺激
通常,機能的電気刺激では数十∼数百 Hz の低
周波電流を用いることが多い.しかし,深層に
存在する筋の刺激を目的とした場合,低周波電
流では刺激経路途中の浅層にある筋を支配する
運動神経も刺激してしまい局所的な刺激は困難
である.さらに感覚神経も刺激してしまい,刺
激時に痛みを伴う不快感を感じることが多い 1) .
そこで本論文では干渉電流による局所刺激につ
いて述べる.干渉電流とは, Fig. 1 に示すよ
うに,2 つの異なる周波数を有する電流を重ね
–1–
)OH[RU3ROOLFLV/RQJXV
110Hz current
100Hz current
Interferential current
2
Current[mA]
1
0
-1
-2
0
0.05
0.1
Time[s]
0.15
0.2
Fig. 1 Interferential Current
([WHQVRU3ROOLFLV/RQJXV
Fig.
3 Cross Section of Forearm at
Midpoint3)
Single Stimulation
成された部分のみ刺激される 2) .干渉電流を用
いた局所刺激のイメージを Fig. 2 に示す.
3.
干渉電流による局所刺激実験
干渉電流による局所刺激実験について述べる.
Interferential Current Stimulation
この実験は実際に干渉電流を用いた局所刺激の
Fig. 2 Scheme of Interferential Current
Stimulation
合わせて生成される電流であり,その包絡線の
可能性の検証を目的として行った.実験は Fig.
3 に示すような前腕深層にある長母指屈筋と長
母指伸筋を選択的刺激の対象とした.
変化する周波数は 2 つの入力電流の周波数の差
分となる値になる.この干渉電流の特性を活か
した刺激法を考える.
3.1
3.1.1
長母指屈筋
実験目的
まず,2 つの異なる周波数を有する中・高周
干渉電流を用いて長母指屈筋のみを刺激する
波電流を対応する電極に流す.神経は刺激周波
数が高くなると反応しなくなる性質があるため,
ことを目的とする.長母指屈筋の分布図を Fig.
どちらか一方のみを流しても筋の動作を起こし
4 に示す.
にくい.さらに周波数が高ければ皮膚インピー
ダンスも小さくなり,深部組織への通電も可能
3.1.2
である.また,2 つの電流を同時に流すことでそ
れらが重なりあう部分で干渉電流が生じる.干
渉電流は入力電流の周波数の差分にあたる周波
数を有するため,この周波数差が低周波数にな
るように設定することで,理論上干渉電流が生
実験条件
この実験では (1) 母指の屈曲動作が見られる
か,(2) 母指を屈曲させようとする刺激感覚が強
く感じられるかの 2 点に重点をおいた.刺激電
極は 90mm × 70mm のゲルパッド電極 (日本メ
ディックス製) を使用したが,前腕部に配置する
–2–
には大きすぎるので 50mm × 50mm に加工して
用いた.刺激信号は正電圧と負電圧の比が 4:1,
それぞれの電圧の持続時間の比が 1:4 になる方
形波を,自作した定電流回路に入力して用いた
4) .信号電圧はマルチファンクションシンセサ
イザ WF1946(エヌエフ回路設計ブロック製) か
ら出力した.回路は入力 ±5V,出力 ± 60mA の
仕様となっている.電極は,掌側面に一対,背側
面に一対の電極をそれぞれ手首近傍に配置した.
さらに,入力信号は被験者が痛覚やピリピリと
した感覚を感じない周波数とし,それを無感覚
周波数とする.使用電極,刺激信号波形,電極
配置例をそれぞれ Fig. 5 ,Fig. 6 , Fig. 7
Fig. 5 Electrode
に示す.
t1
+V
3.1.3
実験方法
t2
この実験は 6 人の被験者に対して行った.実験
の方法は (1) 前腕の解剖図などを参考にしなが
0
ら電極を配置する,(2) 掌側面,背側面での無感
1
− V
4
覚周波数を測定する,2000Hz から刺激感覚が無
T
T = t1 + t2
t1 : t 2 = 1 : 4
くなるまで入力周波数を調節する,(3) 掌側面,
Fig. 6 Waveform of Stimulation Signal
背側面で測定した無感覚周波数のうち高いほう
を基準値として入力周波数を決定する,(4) 電極
3.1.4
実験結果
位置,干渉電流周波数を変えながら母指の動作,
又は刺激感覚を確かめながら (1)∼(4) を繰り返
Table 1 に 6 人の被験者の各パラメータを示
し,母指の動作が最大となる状態と被験者本人
す.表中の Frequency of Interferential Current
が最も強く刺激感覚を感じる状態を探索する.
は被験者が最も強く刺激を感じた値である.ど
の被験者も母指の屈曲動作は得られなかった.母
指に強い刺激感覚を感じたり,屈曲動作が起こ
りそうな場合もあったが屈曲には至らなかった.
しかし,掌側面,背側面のみの刺激では得られ
なかった刺激感覚が両側を刺激したときに得ら
れた.これは,体内で低周波の干渉電流が生成
)OH[RU3ROOLFLV/RQJXV
されたと予想される.
Fig. 4 Flexor Pollicis Longus5)
3.1.5
条件変更
上述の実験を踏まえ,実験条件の変更を行っ
た.刺激効果が高いことから市販の干渉電流治
–3–
Human
Subject
A
B
C
D
E
F
Table 1 Experimental Data 1(using
Area of Elec- Determined Frequency
trode Attach- with No Sensation
ment
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
9100Hz
7700Hz
14900Hz
13500Hz
14900Hz
7800Hz
11600Hz
8300Hz
17500Hz
11000Hz
9600Hz
7400Hz
Electrode Arrangement 1)
Applied Frequency for Frequency of
Interferential Current Intereferential
Stimulation
Current
9100Hz
8900Hz
14900Hz
14700Hz
14900Hz
14800Hz
11600Hz
11400Hz
17500Hz
17300∼17499Hz
9600Hz
9590Hz
200Hz
200Hz
100Hz
200Hz
1∼200Hz
10Hz
ない周波数を探索し,これを無動作周波数とす
る.この無動作周波数を基準値とした実験を行っ
た.電極サイズ,電極の配置箇所の決定方法な
どは先の実験と同じである.
3.1.6
実験方法
3DOPDU$VSHFW
実験方法も先の実験と同じである.無動作周
波数の決定においても 2000Hz から指や手首の
動作がなくなるまで周波数を調節する.
3.1.7
実験結果
6 人の被験者のうち 5 人に母指の屈曲動作が
'RUVDO$VSHFW
見られた.しかし,同時に手首やその他の手指
の動作が見られた被験者もおり,母指のみの動
作が得られたのは 6 人中 3 人である.Fig. 8 に
Fig. 7 Electrode Arrangement 1
屈曲動作を示す.
療器などでは 4000∼5000Hz の中周波電流が用
母指のみの動作が見られたのは被験者 B,被
いられている.さらに,各被験者における無感
験者 C,被験者 F である.そのうち被験者 F は
覚周波数を探索した際に,6000∼8000Hz で指
最も顕著に母指のみの屈曲動作が得られた.無
や手首の大きな動作は見られなくなったことを
感覚周波数を基準とした実験と同様に,掌側面,
踏まえ,基準値の変更を行った.被験者ごとに,
背側面のみへの刺激では指や手首の動作が見ら
刺激感覚はあるが指や手首などの動作が見られ
れなかったが,両方ともに刺激すると指の動作
–4–
Human Subject
A
B
C
D
E
F
Table 2 Experimental Data 2(using Electrode Arrangement 2)
Area of Electrode Determined Fre- Applied
Fre- Frequency of InAttachment
quency with No quency for Inter- terferential CurResponse
ferential Current rent
Stimulation
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
3800Hz
3900Hz
5800Hz
4400Hz
5400Hz
3800Hz
5800Hz
4100Hz
3300Hz
3200Hz
5800Hz
4300Hz
3800Hz
4000Hz
5800Hz
5600Hz
5400Hz
5390Hz
5800Hz
5600Hz
3500Hz
3200Hz
5800Hz
5600Hz
200Hz
200Hz
10Hz
200Hz
200Hz
200Hz
([WHQVRU3ROOLFLV/RQJXV
Fig. 9 Extensor Pollicis Longus5)
:LWKRXW,QWHUIHUHQWLDO&XUUHQW6WLPXODWLRQ
た.このことから,体内で干渉電流が生成されそ
れによる刺激が行われたと考えられる. Table 2
に各被験者のパラメータを示す.
3.2
3.2.1
:LWK,QWHUIHUHQWLDO&XUUHQW6WLPXODWLRQ
長母指伸筋
実験目的
干渉電流による局所刺激の可能性を高めるた
め,長母指伸筋への刺激を試みた.この実験は
1 人の被験者に対して行った.長母指伸筋の分
Fig. 8 Flexing Action
布を Fig. 9 に示す.
や刺激感覚が感じられた.母指の屈曲動作が見
られなかった被験者も母指にかかる刺激を感じ
–5–
3DOPDU$VSHFW
,QWHUSKDODQJHDO-RLQW
0HWDFDUSRSKDODQJHDO-RLQW
Fig. 11 Interphalangeal Joint, Metacarpophalangeal Joint
'RUVDO$VSHFW
3.2.4
実験結果
長母指伸筋のみの動作が得られた.実験のデー
Fig. 10 Electrode Arrangement 2
タを Table 3 に示す.
3.2.2
この実験の被験者は長母指屈筋の実験の時の
実験条件
この実験では (1) 母指の伸展動作が見られる
か,(2) 母指を伸展させようとする刺激感覚が強
く得られるかの 2 点に重点をおいて行った.電
極種類,電極サイズ,刺激信号波形は長母指屈
筋の実験と同じである.手首近傍に配置した長
母指屈筋の実験と電極配置が多少異なり,やや
肘よりに電極を配置した.Fig. 10 に電極配置
例を示す.
被験者 B と同一人物である.無感覚周波数を基
準値とした実験も同時に行った.今回の実験時
では長母指屈筋の実験に比べ無感覚周波数と無
動作周波数の差が小さかったことにより,無感
覚周波数を基準値とした実験でも母指の伸展動
作が得られた.しかし,示指と中指の伸展も同
時に行われたり,動作が小さく刺激感覚も弱かっ
たことから屈筋,伸筋どちらの実験でも無感覚
周波数を基準値とした場合は明確な母指の動作
が得られなかったことになる.無感覚周波数を基
3.2.3
実験方法
準値とした実験の実験データを Table 4 に示す.
実験方法は,先の実験と同じ方法で行う.入力
周波数は,無動作周波数を基準値として行った.
4.
ここで,長母指伸筋の近傍にあり,同じ母指
おわりに
の伸展運動を担う短母指伸筋とどちらを刺激し
本論文では,機能的電気刺激とパワーアシス
ているかの判断について述べる.短母指伸筋は
ト装置を複合的に取り合わせたアシストシステ
母指の外転と MP 関節の伸展を行うが,長母指
ムにおける干渉電流を用いた局所刺激法の調査
伸筋は外点と MP 関節と IP 関節の伸展を行う.
を行った.長母指屈筋,長母指伸筋の独立した動
故に IP 関節の伸展が見られるか否かで長母指伸
作を得ることができた.この結果から干渉電流
筋の刺激が行われているかの判断を行う.Fig.
による局所刺激が可能であると考えられる.し
11 に MP 関節と IP 関節を示す.
かし,母指が動作しない被験者や,母指と共に
–6–
Human
ject
Table 3 Experimental Data 3(using Electrode Arrangement 2)
Sub- Area of Electrode Determined
Applied
Fre- Frequency of InAttachment
Frequency
quency for Inter- terferential Curwith No Re- ferential Current rent
sponse
Stimulation
B
Human
ject
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
7000Hz
5500Hz
7000Hz
6980Hz
20Hz
Table 4 Experimental Data 4(using Electrode Arrangement 2)
Sub- Area of Electrode Determined
Applied
Fre- Frequency of InAttachment
Frequency
quency for Inter- terferential Curwith No Sensa- ferential Current rent
tion
Stimulation
B
Palmar Aspect
Dorsal Aspect
7200Hz
6500Hz
他の指や関節が動作する被験者もいるなど刺激
箇所の選択性向上においてはまだ検討が必要で
ある.さらに無感覚・無動作周波数の個人差も
大きく,また同じ被験者でも実験日などの違い
により値が大きく異なるなど,汎用性,再現性
の面で刺激法としてはまだ十分ではない. 今後
は電極のサイズ,電極配置,刺激周波数などの
パラメータを変化させながら汎用性・再現性が
共に高く,任意の筋の局所刺激が正確に行える
刺激法を検討していく.さらに,干渉電流によ
る刺激が行われているのかの評価法についての
検討もしていく.
参考文献
1) 江崎 重昭, 川村 次郎, 本多 知行, 小野 仁之:
電気刺激による筋力強化-健常人に対する高周波
電気刺激の効果-,理学療法学, 22-2, 49/52
(1995)
2) 柳澤健: 痛みと物理療法-超音波療法と電気刺激
療法-,理学療法科学, 15-3, 105/110 (2000)
3) 河合 良訓 (監), 原島 広至 (著):3D 踊る肉単,
株式会社エヌ・ティー・エス (2009)
4) 高周波治療研究会: 高周波治療について,
http://www.koushuha.jp/whats/,November.18 (2009)
–7–
7200Hz
7100Hz
100Hz
5) 筋肉.guide,
http://www.musculature.biz/,
ber.18 (2009)
Novem-