ペットロス 「抑うつ」と「生活状況」の関連性

ペットロス
「抑うつ」と「生活状況」の関連性
帝京科学大学 理工学部 アニマルサイエンス学科
○相馬 隆介
横山 章光
ペットロス 「抑うつ」と「生活状況」の関連性
帝京科学大学 相馬隆介 が 発表します
1
はじめに
近年のペットブームにより・・・
ペットの飼育数の増加
ペットを失う機会も増加
※ペットロスによる悲嘆反応を経験する機会
が増加している
近年のペットブームにより
ペットの飼育数の増加に伴い、ペットを失う機会も増加しています
これにより
ペットロスによる悲嘆反応を経験する機会が増加している
ということがいえます
2
ペットの家庭内での立場の変化
実用的な動物(番犬・ネズミ捕りなど)
核家族化・高年齢化
晩婚化・少子化 ・・・
より親密な立場(家族の一員・話し相手など)
ペットへの愛情のかけ方が強くなり、失うことに
よる深い悲嘆反応を経験する飼い主の増加
また、ペットの家庭内での立場が
番犬やネズミ捕りなどの実用的な動物から
核家族化 高年齢化 晩婚化 少子化により
家族の一員や話し相手など より親密な立場へと変化してきています
このことから
ペットへの愛情のかけ方が強くなっており、失うことによる深い悲嘆反応を経験する飼
い主が増加している という事がいえます。
3
目的
「飼育環境」と「生活上でのストレス」によってもたらさ
れる「ペットロスのうつの深さ」の関連性の調査
どのような飼い主がペットロスにより、
深い悲嘆反応を経験するのかを明らかにする
そこで、
飼育環境と生活上でのストレスによってもたらされる
ペットロスのうつの深さの関連性を調査し
どの様な飼い主がペットロスにより 深い悲嘆反応を 経験するのかを 明らかにする
ということを目的とし 調査を行いました
4
調査方法
アンケート調査
〔ペットを失った当時の〕
• ペットロスによるうつの深さの測定
ズンクの自己評価抑うつ尺度(SDS)
• 要因
年齢・性別・家族構成・飼育環境・ペットに対する考え方
ペットを失った前後に起こったストレス因子
• 対象
神奈川県の動物病院において、ペットを失った経験のある飼い主
方法はアンケートにより ペットを失った当時の 調査を行いました。
ペットロスによるうつの深さの測定には 精神医療の場で一般に使われている ズン
クの自己評価抑うつ尺度 SDSテストを用い
要因として
年齢 性別 家族構成 飼育環境 ペットに対する考え方 ペットを失った前後に起
こったストレス因子を用いました
アンケートは神奈川県の動物病院において ペットを失った経験のある飼い主 を対
象としました。
5
アンケート結果
回収率 78%(39/50)
平均年齢 39.2歳(22歳から77歳)
男性16名 女性23名
アンケートの回収率は 78%
回答していただいた方の平均年齢は 39.2歳で 男性16名 女性23名でした
6
ズンクの自己評価抑うつ尺度
• 自己記入式による抑うつ傾向を評価するための
質問紙
• ベックのうつ病調査表 (BDI テスト)、ハミルトンう
つ病評価尺度(HAM-D)などの評価法に比べ、重
症度の低い抑うつの測定に適している
• 45点以下は正常範囲で、46-55点が軽度、56
点以上が中程度の抑うつ傾向があると判断され
る
今回の調査で ペットロスによるうつの深さの測定にもちいた ズンクの自己評価抑う
つ尺度は
自己記入式による 抑うつ傾向を評価するための 質問紙です
ベックや、ハミルトンなどの評価法に比べ 重症度の低い抑うつの測定に 適してい
ます
45点以下が正常範囲で 46点から55点が軽度 56点以上が中程度の 抑うつ傾
向があると判断されます。
7
ズンクの自己評価抑うつ尺度を7段階に分類
レベル
得点
1
20~25点
0人
―
0人
0人
2
26~30点
0人
―
0人
0人
3
30~45点
6人
30.8歳(18歳~42歳)
5人
1人
4
46~50点
7人
33.6歳(15歳~50歳)
4人
3人
5
51~55点
10人
25.4歳(17歳~48歳)
5人
5人
6
56~60点
15人
20.9歳(10歳~37歳)
2人
13人
7
61点以上
1人
75歳
0人
1人
人数 失った際の平均年齢 男性 女性
今回の調査では ズンクの自己評価抑うつ尺度を レベル1からレベル7の7段階に
分類しました。
レベルが高くなるに従い、抑うつ傾向も強くなります。
レベル1~レベル3は正常範囲となっており、今回該当者があったレベル3は 正常
範囲だけれども 抑うつ傾向の見られる飼い主となります。
レベル4~5は軽度の抑うつ傾向が見られる飼い主、レベル6~7は中程度の抑うつ
傾向が見られる飼い主が該当しています。
参加していただいた飼い主の全てが何らかの抑うつ傾向があることが分かります。
また、レベルが高くなるにともない平均年齢が下がっていること 女性の比率が高く
なっていること がわかります。
レベル7に該当した飼い主が 一人であったため レベルごとのデータの比較には
レベル7以外の該当者がいる レベル3からレベル6のデータを利用しました。
8
失ったペットの種類
レベル5
レベル3
うさぎ
犬
33%
34%
猫
33%
うさぎ
10%
猫
40%
レベル4
犬
50%
レベル6
うさぎ
7%
猫
29%
犬
71%
猫
33%
犬
60%
失ったペットの種類ですが、レベル3からレベル6まで 特に違いが現れませんでした
9
失った原因
レベル3
レベル5
安楽死
事故 病気
11% 病気
17% 17%
22%
行方不明
老衰
66%
34%
事故
老衰
11%
22%
レベル4
レベル6
行方不明
事故
7%
14% 病気
事故
病気
43%
27%
39%
老衰
43%
老衰
27%
失った原因では
レベル3とレベル4で 老衰の割合が高くなっています。
また レベル5とレベル6では事故・行方不明など予測できない原因でペットを失った
飼い主が多いということがわかります
10
失った原因
レベル5
安楽死
11% 病気
22%
行方不明
34%
事故
老衰
11%
22%
レベル6
行方不明
7%
事故
病気
27%
39%
老衰
27%
失った原因では
レベル3とレベル4で 老衰の割合が高くなっています。
また レベル5とレベル6では事故・行方不明など予測できない原因でペットを失った
飼い主が多いということがわかります
11
失った原因
失った原因では
レベル3とレベル4で 老衰の割合が高くなっています。
また レベル5とレベル6では事故・行方不明など予測できない原因でペットを失った
飼い主が多いということがわかります
12
飼育環境
レベル5
レベル3
半々
20%
半々
33%
室内
67%
レベル4
レベル6
半々
29%
半々
29%
室内
57%
屋外
14%
室内
60%
屋外
20%
室内
57%
屋外
14%
飼育環境についても レベル3からレベル6まで 違いは見られませんでした
13
主な飼育者
レベル5
レベル3
分担
10%
自分
33%
家族
67%
自分
30%
レベル6
レベル4
分担
14%
自分
57%
家族
29%
家族
60%
分担
13%
自分
27%
家族
60%
家庭での主なペットの飼育者では レベル4で自分が飼育者という割合が高くなって
いる事 以外は レベルによる大きな違いは 見られませんでした
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次のペットを飼うまでの期間
レベル3
1年以上
半年~1年
1~3ヶ月
33%
レベル5
50%
3ヶ月
~半年
22%
3ヶ月~半年
半年~1年
45%
33%
17%
レベル4
レベル6
1~3ヶ月
1~3ヶ月
半年~1年
29%
42%
1年以上 13%
3ヶ月~半年
33%
13%
3ヶ月~半年
半年~1年
29%
41%
ペットを失い 次のペットを飼うまでの期間です
レベル3では 1~3ヶ月という飼い主の割合が 高いのですが
レベルが上がるにつれて 期間が長くなっている事が解ります
特に レベル5とレベル6では 半年~1年と1年以上期間が空いた飼い主の割合が
高くなっています
15
次のペットを飼うまでの期間
レベル5
1年以上
22%
3ヶ月~半年
半年~1年
45%
33%
レベル4
レベル6
1~3ヶ月
1~3ヶ月
半年~1年
29%
42%
1年以上 13%
3ヶ月~半年
33%
13%
3ヶ月~半年
半年~1年
29%
41%
ペットを失い 次のペットを飼うまでの期間です
レベル3では 1~3ヶ月という飼い主の割合が 高いのですが
レベルが上がるにつれて 期間が長くなっている事が解ります
特に レベル5とレベル6では 半年~1年と1年以上期間が空いた飼い主の割合が
高くなっています
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次のペットを飼うまでの期間
レベル4
1~3ヶ月
半年~1年
29%
42%
3ヶ月~半年
29%
ペットを失い 次のペットを飼うまでの期間です
レベル3では 1~3ヶ月という飼い主の割合が 高いのですが
レベルが上がるにつれて 期間が長くなっている事が解ります
特に レベル5とレベル6では 半年~1年と1年以上期間が空いた飼い主の割合が
高くなっています
17
ストレス因子
• 「社会的再適応評価尺度」を参考に抽出
• ライフイベントによるストレス度を得点化
60
57.1%
53.3%
50
40
30%
30
20
16.7%
10
0
レベル3
レベル4
レベル5
レベル6
上位10項目を選択、あるいは合計得点が上位10項目と同等の飼い主
今回の調査では 社会的再適応評価尺度 を参考に ストレス因子を抽出しました
これはライフイベントによるストレス度を得点化し
当時、他にどのようなライフイベントがあり、それによりどれほどのストレスを受けてい
たのかを明らかにするものです。
ここでは、抽出した項目の中から評価点の高い上位10項目、
「親族の死 家族の病気 結婚 離婚 別居 妊娠 家族の増加 友人の死 退職
経済状態の変化」
を選択した飼い主と、評価点の合計が上位10項目と同等の得点の飼い主をレベル
ごとに示しました。
レベル4とレベル6で、半数の飼い主がペットを失った当時、他のライフイベントにより
ストレスを受けていたことがわかります。
18
家庭でのペットの存在
120%
100%
レベル3
レベル4
レベル5
レベル6
92.3%
41%
80%
51.3%
60%
30.8%
51.3%
40%
20%
0%
癒やし効果
生活の潤い
安らぎ
話し相手
家族
家庭でのペットの存在ですが、ここに挙げられている5項目の他にも 実用的な役割
ただいるだけ などの項目があったのですが 選択されたのはこの5項目のみでした
全体的にレベルによる差は見られなかったのですが、参加者全体の割合を見ると
すべてのレベルを通じて ほとんどの飼い主が ペットを家族と考えている割合が高
いという事がわかります。
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ペットを失った際の他のペットの有無
120%
有
100%
100%
無
83.3%
80%
60%
50% 50%
50% 50%
40%
16.7%
20%
0%
0%
レベル3
レベル4
レベル5
レベル6
ペットを失った際の他のペットの有無についてのグラフです。
レベル4からレベル6にかけて他のペットを飼っていた飼い主の割合が減少している
事がわかります
つまり、レベル4からレベル6にかけて他に飼っていなかった飼い主の割合は増加し
ています。
20
• 性別と抑うつ尺度
• ペットを失った際の他の
ペットの有無と抑うつ尺度
性別
抑うつ尺度
男性
48.3
女性
54.9
他のペット
抑うつ尺度
有
49.4
無
54.4
P<0.001
P<0.001
家族の人数 抑うつ尺度
• 生活状況と抑うつ尺度
1人
56.3
2人
55.0
3人以上
51.8
P<0.001
その他 各項目と 抑うつ尺度の平均値の 関連性と有意確立です
性別では、男性よりも女性のほうが 抑うつ尺度の平均値が高くなっています
同様に ペットを失った際の他のペットの飼育の有無では 他にペットを飼っていな
かった飼い主は 飼っていた飼い主よりも 抑うつ尺度が高くなっています
また 生活状況では 3人以上 2人 一人暮らし の順で 抑うつ尺度が高くなって
いる事がわかります
どの項目においても、有意確立Pが有意水準αを下回っており、有意な差があること
がわかります。
21
考察
考察です
22
レベル3・レベル4
• 老衰などの予測できる喪失を経験している
• 次のペットを飼うまでの期間がレベル5・6に比べ短い
• 他のペットを飼育している
ペットを失うことに対する準備期間があった
他のペットが心の支えになっていた
深い悲嘆を経験しなかった
レベル3とレベル4に該当した飼い主は
老衰などの予想できる喪失を経験している
次のペットを飼うまでの期間がレベル5・レベル6の飼い主に比べ短い
他のペットを飼育している
ということから
ペットを失うことに対する準備期間があったこと
他のペットが心の支えとなっていたために
深い悲嘆を経験しなかったと考える事が出来ます
23
レベル5・レベル6
• 事故・行方不明により、予測できない喪失を経験している
• 次のペットを飼うまでの期間が長い
• ペットを1匹で飼育していた
ペットを失うことに対する準備が出来ていなかった
1匹のペットに対する依存が強かった
深い悲嘆を経験した
また、レベル5とレベル6に該当する飼い主は
事故や行方不明など予測できない喪失を経験している
次のペットを飼うまでの期間が長い
ペットを1匹で飼育していた
という事から
ペットを失うことに対する心の準備が出来ていなかったこと
1匹のペットに対する依存性が強かった
ために
深い悲嘆を経験したと考えられます。
24
ペットの種類・飼育環境・主な飼育者
レベルによる顕著な違いを見ることが出来なかった
ペットの種類や飼育環境、家庭での主なペットの飼育者に
関わらず、ほとんどの飼い主がペットを家族と考えている
これらの要因による違いが出なかった
ペットの種類 飼育環境 主な飼育者 については レベルによる顕著な違いをみる
ことが出来ませんでした
これは、ペットの種類や飼育環境の違い、自分が主な飼育者ではなかったにも関わ
らず
参加していただいた飼い主のほとんどがペットを家族として考えており
そのため これらの要因については違いが現れなかったのではないかと考える事が
出来ます。
25
「性別」「ペットを失った際の他のペットの有無」
「生活状況」と抑うつ尺度の関連性において、
それぞれ有意に差があることが確認できた。
・女性
・ペットを1匹のみ飼っている
・一人暮らし
深い悲嘆を経験する
傾向が高い
26
悲嘆反応の深さと関連している要因
•
•
•
•
性別
失う原因が予測できるか否か
他のペットの有無
生活状況
レベルが高くなるに伴い、平均年齢が下がっている
若い年齢で喪失を経験する事も、
深い悲嘆に陥る要因として考えられる
以上のことから、
性別
失う原因が予測できるか否か
同時に飼育している他のペットの有無
生活状況
などを ペットの喪失による悲嘆反応の深さと関連している要因として 明らかにする
事が出来ました。
また、今回の調査では明らかには出来ませんでしたが、
抑うつ尺度のレベルが高くなるに伴い、平均年齢が下がっていることから
若い年齢で喪失を経験する事も 深い悲嘆に陥る要因 となるのではないかと考える
事が出来ます。
27
今後の課題
• アンケートの回答数を増やし、多くのデータを
収集する
• 年齢との関連性を明らかにできるような項目
を設ける
今後の課題として
アンケートの回答数を増やし、多くのデータを収集すること
今回の調査で見ることが出来た 経験年齢による悲嘆反応の違いを明らかに出来る
ような項目を設ける
ということがあげられます。
28
今後の課題
今回の調査では、「ペットを失った直後」ではなく、
その当時を思い出し記入をしてもらった。これは
主観的な調査であり、記憶に頼ってるという所は
調査として弱い点ではある。
今後、この様な調査を行う際には、ペット喪失後
時間が経っていない段階での客観的な調査が必
要であろう。
また、今回の調査では「ペットを失った直後」ではなく
その当時を思い出すという形で アンケートに記入をしてもらいました。
これは主観的な調査であり 記憶に頼っているというところは調査として弱い点では
あります
今後 この様な調査を行う際には ペット喪失後時間がたってない段階での客観的
な調査が必要だとかんがえることができます。
29
参考文献
• 今日のうつ病 上島国利・樋口輝彦・野村総一郎
• ひとと動物の関わり 養老孟司
• ペットロスの心理学 モイラ・アンダーソン
• 職場のメンタルヘルス・ケア 白倉克之・高田勗・筒井末春
• 日本人の動物観-この10年間の推移-石田戢・横山章光・上条雅子・
赤見朋晃・赤見理恵・若生謙二
• “Owner response to companion animal death: development of a
theory and practical implications” Cindy L. Adams, Brenda N.
Bonnett, Alan H. Meek
• “Predictors of owner response to companion animal death in 177
clients from 14 practices in Ontario” Cindy L. Adams, Brenda N.
Bonnett, Alan H. Meek
参考文献です
30
謝辞
お忙しい中、アンケートにご協力していただい
た動物病院のスタッフの方々、悲痛な経験を
思い起こし協力していただいた飼い主の方々
に深くお礼お申し上げます。
ご清聴ありがとうございました
謝辞です
お忙しい中、アンケートにご協力していただいた動物病院のスタッフの方々、悲痛
な経験を思い起こし協力していただいた飼い主の方々に深くお礼お申し上げます。
ご清聴ありがとうございました
31