共鳴器を組み込んだ吸音体を上端に持つ防音壁の遮音性能* 石塚 崇

共鳴器を組み込んだ吸音体を上端に持つ防音壁の遮音性能*
◎石塚 崇
藤原 恭司 (九州芸工大)
現在実用化されている防音壁上端に取り
音壁の高さを 3m, 吸音性円筒の半径を 25cm, 吸音材
付ける吸音体は, 外形を型取った剛板を吸音材で覆っ
の厚さを 5cm とする。また, 音源は防音壁から 7.5m
た構造をしており, その内部は中空である。そこで,
離れた地面上, 受音点は防音壁背後 25m の同じく地
はじめに
この中空部分を利用し, 吸音体の効果の低い低周波
面上に設定した。これらの設定値は特に指定しない
数を目標に設計した共鳴器あるいは 1/4 波長音響管
限り以降の解析においても変更しない。解析結果か
を組み込み一部ソフトな境界を持つ吸音体とするこ
ら, 防音壁背後で観測される道路交通騒音の 1/3Oct.
とで, 騒音低減効果を向上させることを試みた。防音
バンド レベルを予測した結果を
Fig. 2 に示す。音
2よ
壁上端に共鳴器あるいは音響管を配置した場合, 効
源の周波数特性は ASJ-Model に従った。Fig.
果が負となる, つまり騒音を増幅してしまう周波数
り, 吸音性円筒を取り付けた防音壁背後での騒音は,
400Hz にピークを持つことが分かる。そこで, 組み込
む音響管の長さを 400Hz の 1/4 波長である 21.25cm
に設定し, Fig. 3 に示すように, 吸音体に音響管を
組み込んだ。後の考察に備えこれを `Type1' とする。
防音壁に取り付けた Type1 型吸音体の音響管開口
端における音圧レベルを g. 4 に示す。解析周波数
は 1/15Oct. 毎とした。値は自由音場 1m 点の音圧で
基準化したものである。397Hz,1203Hz といった管長
が波長の 1/4 の奇数倍となる周波数付近で音圧レベ
ルが小さくなっており, 管端がソフトな境界となって
いることが分かる。しかし, その周波数より少し低い
周波数{例えば 301Hz{では逆に音圧レベルが大きく
なっている。防音壁背後 25m 地点における基準化音
圧レベルを Fig. 5 に示す。AC 型と比較すると,
が存在する [1,2]。この負の効果については, 周囲に
配した吸音材により低減させることをねらいとして
いる。
本報では一例として, 内部が中空な吸音性円筒に
音響管を組み込んだ場合の騒音低減効果について数
値解析により検討した結果を報告する。
数値解析には 2
音響管を組み込んだ吸音体の効果
次元境界要素法による結合解法 [3] を用い, 吸音材内
部の音場を考慮した解析を行なった。解析に必要と
なるグラスウール (密度 32kg/m3 ) の伝搬定数およ
び, 特性インピーダンスは実測値から算出した。
まず, 音響管の長さを決定するために, 防音壁上端
に吸音性円筒のみ (`AC') を取り付けた場合について
解析を行なった。解析モデルを
3.2
y
Fig. 1 に示す。防
AC with a tube : Type1
3.2
0.09m
: Grass wool (32kg/m3)
: Rigid material
3
Radius : 0.25m
3
d
x
y
2.8
y
2.8
2.6
3m
Thickness
: 0.05m
2.4
0
-0.5
2.6
0.5
x
Source:(-7.5,0)
2.4
Receiver:(25.0,0.0)
y=0
-0.5
Rigid ground
x=0
Fig. 1
. Calculated sound
d=340/400/4
=0.2125m
eld and details of the absorbing
Fig. 3
0
0.5
x
. Details of absorbing cylinder with a tube : Type1.
Relative SPL [dB(A)]
-5
Normalized SPL [dB]
cylinder.
AC
-10
-15
-20
AC with a tube : Type1
0
-10
-20
-30
Receiver : (0.0, 3.0)
Receiver : (25.0, 0.0)
-25
125
Fig. 2
.
250
500
1K
Frequency [Hz]
2K
4k
1/3 octave-band level behind the barrier with an
125
250
500
1K
Frequency [Hz]
Fig. 4
2K
. SPL at the end of the tube of Type1.
absorbing cylinder, at receiver 25m from the barrier on the
ground.
3 Noise shielding eciency of a noise barrier with an absorbing material combined with
By ISHIZUKA Takashi, FUJIWARA Kyoji (Kyushu Institute of Design).
a resonator.
4k
Normalized SPL [dB]
-15
-20
背後のエネルギーが減少している。また, 負の効果を
生じる 301Hz においては逆に音響管に吸い寄せられ
-25
んで防音壁背後のエネルギーが増大していることが
AC
AC with a tube : Type1
るような流れが生じており, これが吸音体を回り込
分かる。
-30
前節 に示した よ うに,
吸音材の厚さに関する検討
音響管の周囲に吸音材が配置されていても負の効果
-35
が生じることは避けられない。そこで, 負の効果を
Receiver : (25.0, 0.0)
-40
125
250
500
1K
Frequency [Hz]
2K
4k
生じる周波数付近における音響管周辺の吸音率の向
上を考え,
Fig. 5
Fig. 8 に示すように円筒の上半分をグラ
スウールで充填した吸音体 (`Type2') を取り付けた
. SPL behind the barrier with AC and Type1.
音響管を組み込んだ場合の効果が管端がソフトな境界
となる 400Hz を中心にあらわれている。また, 300Hz
場合について解析を行なった。参考として, 解析に用
いたデータから算出した厚さ 5cm と 25cm のグラス
付近では防音壁背後においても音圧レベルが大きくな
ウールの垂直入射吸音率を Fig.
っており, 負の効果を生じている。この傾向は 1200Hz
下の周波数では厚さが増すことにより吸音率が大き
付近においても同様である。次に, AC 型と Type1 型
吸音体周辺における音響インテンシティ流を解析した
結果を示す。周波数は 397Hz{Fig.
6{ 及び 301Hz{
Fig. 7{とする。矢印の大きさがインテンシティの大
きさを表す。ここでは差を分かりやすくする為, 対数
圧縮をしていない。Type1 型を AC 型と比較すると,
397Hz においては音響管を避けるように図中右上方
へ向かって強い流れが生じており, このため防音壁
く向上している。実際には音波が吸音材に対して垂
直入射する場合は少ないが, 斜入射の場合も概ね同
様の傾向にあると考えられる。
防音壁背後 25m 地点における基準化音圧レベルを
Fig. 10 に示す。Type1 型と比較して Type2 型は
160Hz から 1kHz の範囲で全体的に音圧レベルが下
がっている。これは, Fig. 9 に示した吸音率の向上
する周波数とほぼ対応する。全体的にシフトしてい
AC -397[Hz]-
3.6
3.4
3.2
3.2
3
3
y
y 2.8
2.8
2.6
2.6
2.4
2.4
2.2
2.2
3.6
-0.5
0
x
0.5
2
-1
1
AC with a tube : Type1 -397[Hz]-
3.4
3.2
3.2
3
3
y 2.8
y
2.6
2.4
2.4
2.2
2.2
Fig. 6
. Intensity
0
x
0.5
1
ow around AC and Type1 : 397[Hz].
0
x
0.5
1
AC with a tube : Type1 -301[Hz]-
2.8
2.6
-0.5
-0.5
3.6
3.4
2
-1
AC -301[Hz]-
3.6
3.4
2
-1
9 に示す。1kHz 以
2
-1
-0.5
Fig. 7
. Intensity
0
x
0.5
1
ow around AC and Type1 : 301[Hz].
AC with a tube : Type2
3.2
3.2
y
2.8
2.6
2.6
d=340/400/4
=0.2125m
-0.5
Fig. 8
4
d
0.25m
d
2.8
2.4
π
3
3
y
AC with a tube : Type3
2.4
0
-0.5
0.5
x
d=340/400/4
=0.2125m
. Details of absorbing cylinder with a tube : Type2.
0.5
0
x
Fig. 11
. Details of absorbing cylinder with a tube : Type3.
-14
AC
AC with a tube : Type1
AC with a tube : Type3
0.6
-16
0.4
0.2
Thickness:5cm
Thickness:25cm
0
125
Fig. 9
.
250
500
1K
Frequency [Hz]
2K
4k
Normal incident sound absorption coecient of
3
Grass-Wool(32kg/m ) with thickness of 5cm and 25cm.
Normalized SPL [dB]
Absorption Coeff.
1
0.8
-18
-20
-22
-24
-26
-15
AC
AC with a tube : Type1
AC with a tube : Type2
Receiver : (25.0, 0.0)
-28
125
250
Normalized SPL [dB]
500
1K
Frequency [Hz]
-20
Fig. 12
.
-25
SPL behind the barrier with AC, Type1 and
Type3.
防音壁背後 25m 地点における基準化音圧レベルを
-30
Fig. 12 に示すが, 結果を分かりやすくするため, 周
-35
波数を 125Hz から 1kHz までとする。Type1 型と比
Receiver : (25.0, 0.0)
較すると, 負の効果を生じる 300Hz 付近で 1dB 程度
-40
125
Fig. 10
.
250
500
1K
Frequency [Hz]
2K
4k
SPL behind the barrier with AC, Type1 and
Type2.
ではあるが音圧レベルが小さい。この結果より, 音響
管を傾けて組み込むことが負の効果を低減する手段
として有効であることが確かめられる。ただし, 正の
効果を生じる 400Hz 付近では, 1dB 未満と僅かでは
ることから, 吸音体自体の効果が向上したものと考
あるが逆に Type1 型より音圧レベルが大きくなって
えられる。音響管によって正の効果, 負の効果を生じ
いる。
る周波数における音圧レベル差は Type1 型と比較し
また, Type3 型吸音体周辺の音響インテンシティ
てほとんど変わらない。しかし, AC 型と比較した場
流を解析した結果を Fig.
合には, 吸音体の効果を向上させることで音響管を
した Type1 型の結果と比較する。301Hz において,
組み込むことによって生じる負の効果を低減したと
みることが出来る。
音響管組み込み角度に関する検討
先述したように,
音響管が負の効果を生じる周波数においては, 管端に
吸い寄せられ吸音体を回り込むエネルギーが存在す
る。そこで, この回り込むエネルギーを吸音材によっ
て低減するために,
Fig. 11 に示したように音響管
を音源側に傾けて組み込んだ吸音体 (`Type3') を取
り付けた場合について解析を行なった。音響管は鉛
直方向から音源側に =4 傾けて組み込んだ。
13 に示し, Fig. 6,7 に示
Type1 型同様に管端に吸い寄せられるような流れが
存在する。しかし, その後吸音体を回り込む過程で低
減され, 結果的に防音壁背後に流れ込むエネルギーが
Type1 型と比べ僅かながら小さくなることがここで
も確認できる。397Hz においては, Type1 型同様に
管端から図中右上方向へ向かう流れがみられるが, そ
の傾きは Type1 型程ではなく防音壁背後方向への流
れも存在する。Fig. 12 において, 音響管が正の効果
を生じる周波数{ 400Hz 付近{で Type3 型が Type1
型より若干音圧レベルが大きいのはこの為と考えら
れる。
AC with a tube : Type3 -301[Hz]-
AC with a tube : Type4
3.2
3.4
π
d
3.2
y
3
2.6
2.4
2.4
0
0.5
x
Fig. 14
. Details of absorbing cylinder with a tube : Type4.
-0.5
0
x
0.5
0
1
AC with a tube : Type3 -397[Hz]-
AC
AC with a tube : Type1
AC with a tube : Type2
AC with a tube : Type3
AC with a tube : Type4
Relative SPL [dB(A)]
-5
3.4
3.2
3
y
d=340/400/4
=0.2125m
-0.5
2.2
3.6
2.8
2.6
y 2.8
2
-1
4
3
0.25m
3.6
-10
-15
-20
2.8
Receiver : (25.0, 0.0)
2.6
-25
125
250
2.4
Fig. 15
.
2.2
500
1K
Frequency [Hz]
2K
4k
1/3 octave-band level behind the barrier, at re-
ceiver 25m from the barrier on the ground.
2
-1
-0.5
Fig. 13
. Intensity
道路交通騒音に対する効果
0
x
0.5
1
ow around Type3.
音源を道路交通騒音と
Table 1
. Over-All level behind the barrier, at receiver 25m
from the barrier on the ground.
Type
AC Type1 Type2 Type3 Type4
OA Level 0.0
-0.7
-1.4
-0.6
-1.4
果により 3 から 4dB 程音圧レベルが下がっている。
[dB(A)]
0.6dB の騒音低減効果の向上に留まる。これに対し
て, Type2 型は 200Hz から 1kHz で全体的に音圧レ
ベルが下がっていることから, 1.4dB の効果の向上と
なる。また, Type3 型, Type4 型をそれぞれ Type1
型, Type2 型と比較した場合, 負の効果は低減されて
いるものの正の効果の生じる周波数においては逆に
音圧レベルが上がっている為, Over-All 値では殆ん
ど差がみられない。
これに対して, 250Hz, 315Hz では負の効果により逆
まとめ
想定した場合の, 音響管を組み込んだ吸音体の効果
Fig.
14 に示す Type2 型と Type3 型を組み合わせた吸音
を検討する。ここまで検討した吸音体に加え,
体 (`Type4') についても検討対象とする。
解析結果から算出した, 防音壁背後 25m 地点にお
ける道路交通騒音の 1/3Oct. バンド レベルを Fig.15
に示す。まず, AC 型とその他を比較すると, スペク
トルのピークであった 400Hz では, 音響管の正の効
に騒音を増幅する傾向にあり, スペクトルのピークも
防音壁上端に取り付ける吸音体に 1/4 波長
音響管を組み込んだ場合の効果を検討した。更に, そ
この周波数に移動する。負の効果を低減することが,
れにより生じる負の効果を低減する為に, 吸音材の
吸音体の騒音低減効果を向上させる上で重要である
厚さを増すこと, 音響管を音源側に傾けて組み込む
ことがこれによっても確認される。これらの周波数
ことが有効であることを確認した。ただし, Over-All
に注目すると, Type1 型,Type3 型,Type2 型,Type4
型の順で音圧レベルが小さく, 負の効果を生じる周
波数における Type2 型, Type3 型及びこれらを組み
合わせた Type4 型の有効性が示されている。
Tab. 1 に Fig. 15 に示した結果から算出した
Over-All 値を示す。AC 型と Type1 型を比較すると,
400Hz では 3dB 程音圧レベルが下がっているにも関
わらず, 負の効果の影響により Over-All 値では僅か
値で評価した場合, 後者は殆んど効果が得られなかっ
た。今後は, 共鳴器を組み込んだ場合の効果について
検討を行なうことが課題となる。
[1] T. Okubo and K. Fujiwara, J. Sound
Vib., 1998, 216, 771-790. [2] M. Moser and R. Volz,
J. Acoust. Soc. Am, 1999, 106, 3049-3060. [3]
A. F. Seybert, C. Y. R. Cheng and T. W. Wu, J.
Acoust. Soc. Am., 1990, 88, 1612-1618.
参考文献