現代を生きる人間の倫理 ホッブズ,ロック,ルソーの社会契約説 1 市民

現代を生きる人間の倫理
民主社会の形成
ホッブズ,ロック,ルソーの社会契約説
1
市民革命以前の政治体制
絶対王政 : 16世紀から18世紀にヨーロッパの多くの国で,国王が官僚と
常備軍を支えとして強力に国家統一を進めた政治の形態。
絶対王政を支えた理論
(
王権神授説
)
国王の支配権は王の先祖が神から直接に授けられたものである
とする説。
*市民革命:封建社会の下で発展した新興ブルジョワジーが,その発展の障害となった封建的秩序と,そ
の統一的政治権力としての絶対主義とを打倒することによってブルジョワジーの支配体制
を樹立し,資本主義的発展の自由を保障しようとしたもの。ピューリタン革命、フランス
革命などが代表例である。
2
(旺文社『世界史事典』)
啓蒙主義
17 世紀の近代自然科学の成功を背景に,また経済力をつけた市民
啓蒙主義(思想)
階級が政治的発言力を持つ中で,人間社会を合理的に考察して,
伝統的な因習・迷信・偏見・無知から人間を解放しようとする思
想運動。
イギリスで始まり,18 世紀にはフランス・ドイツへと広がる。
政治面では?
封建的な社会体制(絶対王政)を批判し,近代市民社会の理論で
ある(
社会契約説
)を確立した。
↓
人間は本来,自由で平等な存在であり,国家や社会の成立の根拠
をこの個人間の契約に求める思想。
3
社会契約説を理解するために
自然法思想
人間がつくった法(
由来する法(
(
グロティウス
)(英)
自然法
実定法
)とは別に,人為的でない自然に
)が存在するという考え。
オランダの法学者
主著『( 戦争と平和の法
)』 『海洋自由論』
人間の本性に由来する人類普遍の原理として自然法を説き,自然法を法体系
の最上位において,全ての法を基礎づけた。→(
近代自然法の父
)
3つのキーワード
(
自 然 法
) : いつでも,どこでも,だれに対してもあてはまる普遍的な法
(
自 然 権
) : 人間の自然な本性に根ざした権利で,すべての人間に備わっ
ている権利。
(
自然状態
) : 国家が成立する以前の法的な拘束のない状態。社会契約によ
る国家の成立を説明するための論理的架空の世界。
4
(
ホッブズ
)の社会契約説
自然権
(
自己保存
)のために,自分の力を自由に行使する権利を持つ。
人間観
(
自己保存
)の欲求を満たすためには,何でもやるという
主
著(『 リヴァイアサン
(
さらに人間は本来(
平等
利己的
』)
)な存在
)である。
「もっとも弱い者でも,…もっとも強い者を殺すだけの強さを有している。」
→「(
人は人に対して狼になる。
(
)
」
自然状態
「
万人の万人に対する戦い
社会契約
このような状況を回避するために,人々は理性の声(
したがって,各人が互いに協定(
を共通の権威(
)
」
社会契約
自然法
)に
)を結んで,各人の自然権
国家 )に譲渡し,それに絶対的に従うべきである。
自然権を譲渡され成立した国家は絶対的な権力を持つ怪物
=「(
リヴァイアサン
)」である。
ホッブズの社会契約説の歴史的評価
結果的には,(
絶対王政
)を擁護することになった。
しかし,国家権力の根拠を王権神授説ではなく,市民相互の(
契約
この点,近代の民主主義的な考えのさきがけとなるものと評価できる。
)に求めた。
5
(
ロック
人 間 観
)の社会契約説
主
著(『 統
人間は神によって造られたものとして,
(
治
理性
論
』)
)的であり,自由・
平等である。
自然状態
生命,自由,
(
財産の所有
)といった自然権も,他人の権利を侵し
てはならないとする理性の声( 自然法
れている(
社会契約
平和な理想的
)によって比較的よく保障さ
)な状態であるとする
しかし,自然法の解釈の相違と偶発的悪によって,対立や混乱が生じ
る可能性もある。そこで,契約を結んで国家をつくり,各人の自然権を守
るための権利(制裁権:法律の制定およびその実施の権利)を国家の代表
者である政府に(
信
託
)する。
ただし,政府が権力を濫用し自然権を侵害した場合,国民は国家に抵抗
し,新たな政治組織を形成することができる(
革命権
)とした。
また,権力の濫用を未然に防ぐための権力分立を唱える。
ロックの社会契約説の歴史的評価
社会契約説の立場から国家の成立を論じ,革命権(抵抗権)の正当化を主張するなど,
近代の民主政治の諸原理を理論づけた。
名誉革命(1688〜89)を思想的に支えると同時に,
(
アメリカ独立宣言
)
(1776),
フランス人権宣言(1789)に多大な影響を与えた。
(
アメリカ独立宣言
)(1776) トマス=ジェファソンらが起草
…われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、①造物主によ
って、一定の奪いがたい天賦の諸権利を付与され、その中に生命、自由および幸
福の追求のふくまれることを信ずる。また、②これらの権利を確保するために人
類の間に政府が組織されること、そしてその正当な権力は被治者の同意に由来す
るものであることを信ずる。 ……そしていかなる政治の形体といえども,もしこ
れらの目的を毀損するものとなった場合には,③人民はそれを改廃し,かれらの
安全と幸福とをもたらすべしとみとめられる主義を基礎とし,また権限の機構を
もつ,新たな政府を組織する権利を有することを信ずる。…
問1
下線部①のような人間が生まれつき持っているとされる権利を何というか,漢字3
文字で答えよ。
問2
下線部②のように個人がお互いの権利を保障するために,契約を結んで国家・社会
を形成しようとする考え方を何というか。
問3
下線部③について,このような権利を何権というか。
6
(
ルソー
)の社会契約説
主
著(『 人間不平等起源論
(『 社会契約論
』)
』)
人 間 観
自己愛と憐憫の情を持つ自然人
自然状態
人間は完全に自由,平等であり,平和な理想的生活が営まれている。
しかし,現実の社会は不平等である。
なぜか?
不平等の起源は?
ある土地に囲いをして「これはおれのものだ」ということを思いつき,人々
がそれを信ずるほど単純なのを見いだした最初の人間が,政治社会の真の創
始者であった。杭を引き抜き,あるいは溝を埋めながら,
「こんな詐欺師の言
うことを聞くのは用心したまえ。産物が万人のものであり,土地がだれのも
のでもないということを忘れるならば,君たちは破滅なのだ!」と同胞たち
に向かって叫んだ人があったとしたら,その人はいかに多くの犯罪と戦争と
殺人と,またいかに多くの悲惨と恐怖とを,人類から取り除いてやれたこと
だろう。
(世界の名著
→(
私有財産
)制が不平等に満ちた(
ルソー『人間不平等起源論』中央公論社)
文明社会
)を生み出した。
いかに不平等な状態を克服するか?
→社会契約
各人が自己とその権利(自然権)を(
一般意志
)に全面的に譲渡
するということを誓うことによって,社会をつくりなおすしかない。
*(
一般意志
)とは?
・特殊意志
個人の利己的意志
・全体意志
特殊意志の総和。個々の私的利害の単なる集合
・一般意志
公共の利益を目指す普遍的な意志
→自然権を一般意志に譲渡するとは?
一般意志は国家(共同体)の普遍的な意志であると同時に,人民自身の
意志である。したがって,一般意志に従うとはことは,自己の意志に従
うことであり,ここに市民的自由が得られる。
また一般意志がよく表明されるために,すべての人民が意見を述べる機
会を持つ(
直接民主 )制の国家が理想であると考えた。
ルソーの社会契約説の歴史的評価
(
直接民主
)制を主張
→ロックによって明確にされた人民主権をさらに徹底化したもの
→(
フランス
)革命や(
フランス人権
)宣言に大きな影響を与えた。