抄録 - 第 134回北海道整形外科外傷研究会

第118回
北海道整形外科外傷研究会
抄
平成20年8月23日(土)
録
14:50~
於 : 札 幌 市 教 育 文 化 会 館
会長:手稲前田整形外科病院 畑中 渉先生
共催:北 海 道 整 形 外 科 外 傷 研 究 会
大 日 本 住 友 製 薬 株 式 会 社
第118回北海道整形外科外傷研究会
一般演題
(1)リバース法を用いたハンソンピンによる大腿骨頚部骨折治療の
pit falls
手稲前田整形外科病院 整形外科 畑中 渉先生
(2)終止伸腱付着部骨折を伴う腱性 mallet finger の一例
勤医協苫小牧病院 整形外科 真壁 光先生
(3)後内側陥没骨片を伴った足関節果部骨折の治療経験
札幌東徳洲会病院 外傷センター 村上 裕子先生
(4)大腿骨近位部インプラント周囲骨折の治療経験
札幌東徳洲会病院 外傷センター 谷平 有子先生
(5)橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定後プレート折損の 3 例
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター 新井 学先生
(6)上肢デグロービング損傷に対して初回分層植皮が有効であった 2 例
市立札幌病院 整形外科 松井 裕帝先生
主
題:上肢の外傷とマイクロサージャリー
(1)小児指尖部損傷の治療経験
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター 佐々木 友基先生
(2)逆行性指動脈島状皮弁術術後の指 ROM の検討
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター 辻 英樹先生
(3)Reverse Digital Flag Flap を用いた指尖部損傷の治療成績
函館亀田病院 整形外科 三浦 一志先生
(4)Degloving injury の経験
市立函館病院 整形外科 中島 菊雄先生
(5)上腕・前腕重度開放骨折の 1 例
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター 斎藤 丈太先生
北海道整形外科外傷研究会―生い立ちと 33 年の歩み―
札幌中央病院 整形外科
荒川 浩先生
教育研修講演
『マイクロサージャリーを用いた上肢の治療
― 外傷およびその再建について ―』
奈良県立医科大学 整形外科 准教授 矢島 弘嗣先生
一般演題(1)
リバース法を用いたハンソンピンによる大腿骨頚部
骨折治療の pit falls
手稲前田整形外科病院 整形外科
畑中 渉
【はじめに】
ハンソンピンを従来法とは逆の位置(遠位ピンを後下方、近位ピンを前上
方)に挿入するリバース法を用いて、大腿骨頚部骨折に対して骨接合術を行
った。リバース法はピン間隔を広げることで回旋固定力が増すといわれてい
る。本当に回旋固定力は増したのかを検証したので報告する。
【対象と方法】
2004 年 1 月から 2007 年 7 月までに同一術者がリバース法による骨接合術
を行った 12 例(男性 1 例、女性 11 例)である。年齢は 44~93 歳(平均
76.9 歳)で、Garden 分類では stageⅠ:1 例、stageⅡ:1 例、stageⅢ:4
例、stageⅣ:6 例であった。受傷から手術までの期間は 0~20 日(平均 4.1
日)、経過観察期間は 2~49 ヶ月(平均 14.5 ヶ月)であった。後療法は、術
後早期から荷重制限せず起立歩行訓練を開始した。
【結果】
ピン間隔は 6mm:1 例、8mm:3 例、10mm:8 例(平均 9.2mm)であった。合
併症としては、術後感染、転子下骨折はなく、LSC を 1 例(stageⅣ)、偽関
節を 3 例(stageⅢの 1 例は人工骨頭置換術、残り 2 例はともに stageⅣで
ADL が低く放置で症状なし)に認めた。Sliding を 8 例に認めた(5 例は許
容範囲外)
。回旋変形を 8 例に認め、7 例は術後 1 週までの早期に発生して
いた。
【考察】
リバース法では、近位ピンのフックが前方から後方に向かっているため、
荷重下での後方からの支えが無いために、従来法に比べて骨頭回旋に対する
強度が高いとは考えにくく、今回の結果でも早期に回旋変形が生じているこ
とから骨頭回旋に対して強度が上がっているとは言えない結果となり、従来
法に比べて有用とは言えないことが分かった。
ハンソンピンでは、髄内皮質に沿ってピンを挿入することが、三点支持を
高め、回旋固定力にも影響するため、ハンソンピンを正しく挿入することが
重要である。
一般演題(2)
終止伸腱付着部骨折を伴う腱性 mallet finger の1例
勤医協苫小牧病院整形外科
真壁 光 柴田 定 越智比呂子
高畑直司
末節骨の終止伸腱付着部骨折を伴う腱性 mallet finger の一例を経験した
ので報告する。
【症例】
17 歳女性。ドッジボールにおいて捕球の際指先にボールが直撃し、左環
指の痛みと伸展制限を訴えて同日当科を受診した。診察時、左環指遠位指節
間関節(以下 DIP 関節)背側の腫脹と圧痛を認めた。DIP 関節は自動屈曲可
能、他動過伸展可能、自動伸展は−40°であった。X−P では末節骨終止伸腱
付着部の骨折を認めた。DIP 関節面の 1/3 未満の小骨片であった。また、中
節骨骨頭の背側に剥離骨片を認めた。主骨片は回転転位しているが DIP 関節
屈曲位においても末節骨との gap が無く、単純な骨性 mallet finger では無
い事が示唆された。
【手術】
受傷翌日に観血的手術を行った。末節骨の終止伸腱付着部が骨折し、骨片は
反転していた。また、終止伸腱自体も骨片との連続性は無かった。
付着部骨片を整復し 0.7mm K-wire 骨接合した。K-wire 先端をフック状に屈
曲させて骨片の逸脱を防いだ。腱の断端を付着部の骨膜にナイロン糸で縫合
した。DIP 関節を 1.0mm K-wire で仮固定した。
【経過】
術後 8 週目に抜釘を行った。骨癒合は得られ、術後 12 週経過した現在では、
環指 DIP 可動域は、自動伸展/屈曲;-10°/70°、他動伸展/屈曲;10°
/80°と良好である。
【考察】
終止伸腱皮下断裂と末節骨骨折が同時に生じた例は極めて稀である。受傷機
序としても、mallet finger の受傷機転として考えうる DIP 関節の屈曲強制
による牽引力や、軸方向への剪断力のみでは説明できない。ただし、骨性
mallet finger の診断で石黒法を行うも extension lag が大きい成績不良例
の中には、本症例のように腱損傷が同時に存在している可能性も否定できな
い。
一般演題(3)
後内側陥没骨片を伴った足関節果部骨折の治療経験
札幌東徳洲会病院 外傷センター
村上裕子 土田芳彦 井畑朝紀 熊谷明史
【目的】
足関節内転外力による内果垂直剪断骨折は後内側陥没骨片を伴うこと
がある。後内側陥没骨片が大きい(前後幅の 25%を超える場合)場合に
は、解剖学的整復と固定が必要である。今回我々は同骨折に対して 1 つ
の皮切(後内側)と 2 つの窓(window)からのアプローチにより骨接合
術を施行した。良好な整復固定が得られたので報告する。
【症例】
52 歳、男性。仕事中、ベニヤ板が倒れてきて右足の上に落ち受傷した。
X 線画像では腓骨外果部の粉砕骨折と脛骨内果垂直剪断骨折に加え後内
側の陥没骨片を認めた。足関節周囲難部組織の修復まで待機した受傷 1
週間後に内果部の骨接合術を施行した。皮切は下腿遠位後方部から内果
遠位部に向かう下方凸の後内側アプローチにより展開した。先ず内果骨
折に対して直視下に整復し buttress plate を併用して骨接合を施行した。
次にアキレス腱と長母趾屈筋の間からもう一つの窓(window)をあけ、
後内側骨片を確認し関節面を整復、rafting 効果が得られるように T 型
locking plate による固定を行った。
さらに 1 週間後に軟部組織腫脹が消退するのを待ち、腓骨外果の骨接
合術を施行した。術後 PTB 装具により歩行訓練中である。
【考察】
脛骨の後内側陥没骨片を伴う両果骨折は比較的まれであり、同骨片が
大きい場合には直接的整復固定術が必要とされる。この後内側骨片を展
開するには内側アプローチを後方に延長する方法では不十分である。ま
た屈筋支帯付着部の部分切離は屈筋群の亜脱臼を呈する危険性を伴う。
今回我々が用いた 1 つの皮切(後内側)と 2 つの窓(window)からのア
プローチは良好な視野と屈筋支帯の温存が可能であった。
一般演題(4)
大腿骨近位部インプラント周囲骨折の治療経験
札幌東徳洲会病院 外傷センター
谷平有子 土田芳彦 村上裕子
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター
辻 英樹 磯貝 哲 倉田佳明 橋本功二 佐々木友基
井畑朝紀 田邊 康 森 利光
新井 学
【はじめに】
高齢者骨折の増加に伴い、大腿骨近位部骨折術後にそのインプラント周囲に
再度骨折をきたす頻度も増加している。ほぼ全例に骨粗鬆症を伴っており治
療に難渋することも多い。今回大腿骨近位部インプラント周囲骨折 3 例の治
療経験を報告する。
【症例 1】79 歳女性。2 年前に他院で左大腿骨頸部骨折に対して人工骨頭頭
置換術を施行された。今回転倒し受傷、Vancouver 分類 B1 の左大腿骨骨幹
部骨折をきたした。LCP Distal Femoral(SYNTHES)+Dall‐Miles Cable に
て観血的骨接合術施行。術後 6 週から部分荷重開始、術後 10 週で全荷重。
骨折部の転位なく骨癒合が得られてきている。
【症例 2】68 歳女性。両 TKA・左 THA を施行されている。今回転倒し受傷、
Vancouver 分 類 C の 左 大 腿 骨 骨 幹 部 骨 折 を き た し た 。 LCP Distal
Femoral(SYNTHES)+Dall‐Miles Cable にて観血的骨接合術施行。術後 4 週
より部分荷重開始、術後 10 週より全荷重。骨折部の転位なく骨癒合が得ら
れてきている。
【症例 3】98 歳女性、2 年前に左大腿骨転子部骨折に対してガンマネイルに
よる骨接合術施行された。今回転倒し受傷、Vancouver 分類 C の左大腿骨骨
幹部骨折をきたした。LCP Disital Femoral(SYNTHES)にて観血的骨接合術を
施行した。Plate はガンマネイル lag screw 刺入部まで長く挿入した。術後
11 日目に車椅子よりずり落ちガンマネイルと LCP の monocortical screw と
の間で再骨折し再度 wiring,LCP による内固定を追加。患肢免荷のまま現在
経過観察中である。
【考察】症例 1,2 は十分に長い plate に cable wiring を追加し骨癒合が得
られた。しかし症例 3 は十分に長いインプラントにて固定したが、再骨折を
きたした。一般的には Vancouver C に対する骨折治療はインプラントとは無
関係に ORIF を行うとされているが、術後の応力集中をきたさぬよう長い
plate 固定、wiring 等が必要である。また内反変形などのアライメント等に
十分注意を払う必要がある。
一般演題(5)
橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定後
プレート折損の3例
札幌徳洲会病院 整形外科 外傷センター
新井 学 辻 英樹 磯貝 哲 倉田佳明 橋本功二 佐々木友基
谷平裕子 森 利光
【はじめに】
橈骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定後のプレート折損の報告は稀
である。今回われわれが経験した 3 例を報告する。
【症例 1】53 歳男性 転倒し受傷。右橈骨遠位端骨折(AO23-C2)volar
tilt(以下 VT):-20°、尺骨茎状突起骨折の診断。同日観血的骨接合術を
施行(掌側ロッキングプレート)
。術後外固定はせず。術後 7 日目より理容
師の仕事を開始。術後 14 日目より手関節の痛みを自覚。術後 22 日目の Xp
でプレートの折損と骨折部の背側転位を認めた。術後 28 日目に再手術を施
行した。
【症例 2】73 歳女性 転倒し受傷。左上腕骨外科頚骨折、右橈骨遠位端骨折
(AO-C2)VT:-20°の診断。翌日、両骨折に対し観血的骨接合術を施行(上
腕骨髄内釘、橈骨掌側ロッキングプレート)
。術後 3 週間のシーネ固定をし
ていたが対側の上腕骨骨折もあり右手はシーネ下によく使用していた。術後
24 日目の Xp でプレートの湾曲を認めたが骨折部のアライメントが維持され
ており経過観察。術後 2 ヶ月目の Xp でプレートの折損と骨折部の背側転位
を認めた。再手術予定であったが、以後外来通院を自己中断された。
【症例 3】53 歳女性 転倒し受傷。右橈骨遠位端骨折(AO-C2)VT:-15°の
診断。受傷 2 日目に観血的骨接合術を施行(掌側ロッキングプレート)。術
後 4 日間シーネ固定。事務職であり術後早期より書字など患肢をよく使用し
ていた。術後 23 日目に右手関節痛を自覚し来院。Xp でプレートの折損と骨
折部の背側転位を認めた。術後 28 日目に再手術を施行した。
【考察】3 例とも骨幹端の粉砕を伴う関節内骨折であり、またいずれも術後
早期より患肢をよく使用していた。十分な骨癒合、安定性が得られないうち
に早期より骨折部およびプレートに繰り返しの負荷がかかったことが原因と
考える。骨粗鬆症、粉砕骨折を伴う橈骨遠位端骨折に対してはプレートによ
る内固定の固定力を過信しすぎず、ロッキングプレートの潜在的な欠点に注
意を払う必要がある。
一般演題(6)
上肢デグロービング損傷に対して初回分層植皮が
有効であった2例
市立札幌病院 整形外科
松井裕帝 本間信吾 佐久間隆 平地一彦 奥村潤一郎
高橋敬介
金子 知
【目的】
上肢のデグロービング損傷を伴う多発開放骨折では皮弁形成を行うほうが
機能再建としては優れていると考えられている。しかし、今回はデグロービ
ングし廃棄されるべき皮膚から分層植皮し良好な結果を得た 2 例を経験した
ので報告する。
【症例】
症例は 63 歳(症例 1)と 65 歳(症例 2)の女性でともに交通外傷である。
上腕から前腕にかけてのデグロービング損傷でともに上腕骨と前腕骨骨折開
放骨折を伴っていた。主要な神経血管損傷は認めなかった。症例 1 では左脛
骨高原骨折、両側血気胸を伴い、症例 2 では多発顔面骨骨折、左血気胸、肩
甲骨開放骨折を合併し、人工呼吸管理を要した。
受傷当日に手術室にて洗浄、デブリドマン後、骨接合もしくは創外固定を
行ったのち、筋肉や皮下組織を丁寧に修復後、全周性に剥脱され切除せざる
を得ない皮膚から分層植皮を行った。皮膚の欠損部には人工真皮を使用し、
追加の骨接合を行う際に、大腿より分層植皮を追加した。2 例とも初回植皮
はほぼ完全に生着した。途中 MRSA をはじめとする表層感染を生じたが、症
例 1 では約 40 日、症例 2 では約 60 日を要し創治癒した。腱癒着はなく機能
的にも良好で、整容も許容される範囲である。
【考察】
剥奪された皮膚は一般的に廃棄されてしまうが、分層採皮により生着率が
向上し、人工真皮や軟膏処置よりは生物学的に強いと考えられる。2 例とも
に糖尿病や動脈硬化などの既往がなく、主要な神経血管損傷がなかったこと
も機能的に良好な結果につながった。限られた症例ではあるが剥奪された皮
膚を分層植皮として再利用する価値はある。
主題(1)
小児指尖部損傷の治療経験
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター
佐々木友基 倉田佳明 辻 英樹 磯貝 哲
【はじめに】
小児指尖部損傷の治療として再接着術が可能であればそれに勝る再建方法
はない。しかし小児では血管径が細くその遂行は非常に困難である。今回当
科で Brent 変法を行った 2 症例を若干の文献的考察を加え報告する。
【Brent 変法】
切断側の真皮を露出後、composite graft し手掌部皮下に埋没する方法
【症例1】
5 歳 男児。マンホールの蓋に右中指をはさめて受傷。石川 Zone II レベ
ルの指尖部損傷。同日、緊急手術にて母指球部に同法を施行した。術後 14
日目に埋没していた指を取り出した。生着良好で、術後 1 ヶ月現在、良好な
指形態であり、指可動域も正常である。
【症例2】
2 歳 女児。姉の運転する自転車の補助輪に左小指を巻き込まれ受傷。石
川 ZoneIV レベルの指尖部損傷。切断側は、一部圧挫が著明であった。同日、
緊急手術にて小指球部に同法施行した。術後 13 日目に埋没していた指を取
り出した。圧挫の強かった部分が壊死となっており、取り出し 7 日後にデブ
リドマン施行した。引き続き保存加療中である。
【考察】
Arata らは、胸壁に埋没する Brent 本法に比して、同法は埋没中の ADL 障
害が少なく、埋没指の引き抜き、また指可動域障害が少ないことから、特に
小児例に有効であると報告している。小児例における本法の治療成績を規定
する要因について考察する。
主題(2)
逆行性指動脈島状皮弁術術後の指 ROM の検討
札幌徳洲会病院 整形外科外傷センター
辻 英樹 磯貝 哲 倉田佳明 橋本功二 佐々木友基 新井 学
谷平有子 田邊 康 森 利光 越後 歩 井部光滋 野呂郁絵
札幌東徳洲会病院 外傷センター
土田芳彦 村上裕子 井畑朝紀
【はじめに】
再接着術が困難で、また保存療法では高率に claw nail を生じる石川
subzone II の爪基部指尖部損傷に対して当科では逆行性指動脈島状皮弁
(reverse digital artery island flap,以下 RDIF)を行っている。 しかし、
皮弁採取部に隣接する PIP 関節にしばしば屈曲位拘縮を生じることが報告さ
れている。今回当科における指尖部損傷に対する RDIF 後の指 ROM を調査し
た。拘縮を生じた原因について考察し報告する。
【対象と方法】
当センターにおいて 2007 年 4 月~2008 年 2 月までに指尖部損傷に対し,
RDIF を行った 10 例 10 指を対象とした。男性 9 例,女性 1 例で平均年齢は
39 歳(24-74)
、右 4 例左 6 例、示指 4 例、中指 2 例、環指 4 例であった。8
例が労働災害であった。指可動域訓練は原則術後 1 週間以内より開始した。
開始同日に PIP 関節の屈曲位拘縮の予防を目的に、手関節軽度背屈,MP 関
節屈曲、IP 関節伸展位での safety splint を作製している。平均可動域訓
練期間は 13.2 週(4‐36)であった。可動域訓練終了時の指可動域を調査し
た。特に PIP 関節の屈曲位拘縮の有無に着目し、皮弁採取部、縫合部の部位
について検討した。ADL 障害や復職状況についても調査した。
【結果】
平均自動屈曲可動域は MP 関節 87°、PIP 関節 90°、DIP 関節 44°であった。
PIP 関節の平均自動伸展可動域は-7°であり,屈曲位拘縮は 3 例(-46°,10°,-10°)に認められた。これらは safty splint を作製しなかった例、可
動域訓練が遅れた例、縫合部が指節間皮線に交差していた例であった。1 例
を除き全例において ADL 障害は生じていなかった。労働災害例は全例現職に
復帰していた。
【考察】
RDIF の皮膚切開は側正中切開とされており,指節間皮線に縫合線が交差す
ると術後に瘢痕拘縮などによる可動域制限が生じるとされている。また皮弁
の作製は掌側にかからない方が better である。今回縫合部が指節間皮線に
交差していた例で PIP 関節屈曲位拘縮をきたした症例を認めた。また術後早
期に可動域訓練を開始することも重要であり、safety splint の作製が PIP
屈曲拘縮予防に有用であると考える。
主題(3)
Reverse Digital Flag Flap を用いた指尖部損傷の
治療成績
函館亀田病院 整形外科
三浦一志
弘前大学 整形外科
藤
哲
【目的】
指神経動静脈束から固有指神経のみを分離し血管柄とする皮弁は Weeks
らにより初めて報告され、Rose により手指の皮膚欠損に対する被覆に応用
された。逆行性指動脈皮弁では静脈潅流不全が最大の問題となるが、稲田ら
は、逆行性指動脈皮弁に皮膚茎を付けた reverse digital flag flap とする
ことで静脈潅流不全を改善できると報告した。我々は、指尖部損傷の 4 例に
対し知覚付加を行わない reverse digital flag flap を用いて再建したので、
術後成績を検討し報告する。
【症例と方法】
症例の内訳は男性 2 例、女性 2 例、手術時年齢は 29 歳から 58 歳、平均
49.0 歳であった。受傷指は示指 1 例、中指 3 例であった。石川の分類によ
る受傷レベルは、zone Ⅱが 1 例、zone Ⅲが 2 例、zone Ⅳが 1 例であった。
経過観察期間は 7 ヵ月から 21 ヵ月(平均 15.3 ヵ月)であった。
【結果】
4 例とも皮弁は完全生着した。皮弁の大きさは、15×15 mm から 25×15
mm(平均 20.0×15.0 mm)であった。最終経過観察時の static 2-PD は平均
9.5 mm、moving 2-PD は平均 7.5 mm であった。指の長さが保たれたため、
手術に対する満足度は高く、4 例とも受傷前の職場に復帰していた。
【考察】
Reverse digital flag flap による指尖部の再建は、一側の指動脈を犠牲
にするという欠点はあるが、一期的な手術が可能であり、十分な組織量の皮
弁を緊張なく移動できるという利点がある。また、指尖部の皮膚と性状が類
似しているため本来の指腹部に近い形態が再建され、知覚皮弁ではないが術
後比較的良好な知覚回復が得られる。
主題(4)
Degloving injury の経験
市立函館病院 整形外科
中島菊雄 佐藤隆弘 徳谷 聡 平賀康晴 八重垣誠
【目的】
われわれは、wrist レベルでの degloving injury の 3 例を経験したので
報告する。
【症例】
症例 1、22 歳、男性、右利き、印刷工。印刷機のローラーに巻き込まれて
受傷。腱損傷や骨傷は見られず、近藤の Class ⅡV であった。手背の皮静脈
を 3 箇所吻合したが、手掌、手背ともに皮膚壊死を生じ、遊離植皮、逆行性
後骨間動脈皮弁などを追加した。MP 関節に強い拘縮が残ったが、日常よく
使っている。
症例 2、58 歳、女性、右利き、蕎麦屋経営。製麺機のローラーに巻き込ま
れ受傷。母指は末節骨先端まで脱げていた。示指~小指には骨折や関節脱臼
があり Class ⅢA+V であった。骨傷に対し pinning を行い、手背の皮静脈 1
本を vein graft にて再建した。しかし、母指と環指を残し、壊死となった。
指切断、parascapular flap、環指の回旋骨切り術と指間形成を追加したが、
残念ながら pinch できない。
症例 3、55 歳、女性、右利き、珍味加工機械に巻き込まれた。Class Ⅲ
A+V であり、母指の動脈と、手関節部掌側の静脈 1 本、背側の静脈 2 本を再
建した。小指の動脈再建を試みたが、すぐに閉塞してしまい断念した。母指、
示指、小指は壊死となり、切断し、前外側大腿皮弁、全層の graft にて覆っ
た。痛みが強く、廃用性拘縮となり、機能障害は強い。
【考察】
Wrist レベルでの degloving injury では、各指の損傷程度が同じではな
く、初診時点での損傷範囲の判断は難しく、治療方針の決定にも難渋する。
骨折や脱臼の強い指、皮膚を戻しても色調が蒼白な指は動脈も広範囲に損
傷しており、救済は難しいと思われた。一方で、皮膚の剥脱が強くても、骨
損傷が軽度であれば救済できる可能性がある。
また、良好な機能を得るためには、安静の期間や、追加手術のタイミング
についても検討が必要と思われた。
主題(5)
上腕・前腕重度開放骨折の一例
札幌医科大学附属病院 高度救命救急センター
斉藤丈太 入船秀仁 平山 傑
【はじめに】
上肢の重度開放骨折に対し、マイクロサージャリーを用いて再建を行った
一例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。
【症例】
57 歳 男性。木材加工作業中に、ベルトコンベアーに左上肢を腋窩まで
巻き込まれて受傷、当センターに搬入となった。外観上、腋窩部・肘屈側・
前腕尺側に開放創を認め、前腕の開放創部では ECU、EDM の筋腱移行部から
の引き抜き損傷をみとめていた。X 線上、上腕骨 AO 分類 12-A2、前腕骨 AO
分類 22-B3、いずれも Gustilo 3B 型の開放骨折を認めた。理学所見上は橈
骨神経麻痺症状を認めた。緊急手術にて上腕・前腕のデブリードマン、上腕
骨の創外固定、前腕骨のピンニングを施行。腋窩部から上腕部にかけての神
経血管損傷は外観上認めなかった。上腕部の筋体は広範囲に挫滅していた。
結果として肘屈筋群はほぼ全切除となった。第 3 病日に上腕部のデブリード
マンを追加、髄内釘固定、有茎広背筋・肩甲皮弁移植術を用いて上腕部の再
建手術を施行。第 18 病日に前腕骨プレート固定、遊離腹壁皮弁術による、
前腕部の再建手術を施行。いずれの皮弁も問題なく生着した。橈骨神経麻痺
に関しては回復傾向を認めなかったため、受傷後 5 ヶ月で Riordan 変法によ
る機能再建を施行。現在受傷後 10 ヶ月経過し、復職へ向けてリハビリ継続
中である。
【考察】
重度四肢外傷の治療する上で、マイクロサージャリーは欠かす事のできな
い技術である。特に上肢の場合には機能再建の必要性が高い。当センターで
は以前より重度四肢外傷に対し早期からの皮弁形成術を行ない、良好な結果
を得ている。本症例の場合、上腕の軟部組織再建の際に肘の屈曲再建を同時
に行ない、良好な肘屈曲力を再獲得することができた。また、前腕部も遊離
皮弁を用いた組織再建を選択した事で、後の腱移行術に際しても支障なく施
行可能であった。このように、重度開放骨折の場合、常に後の再建も考慮し
た治療計画を受傷後早期から計画して治療を遂行する必要があると考えられ
る。
北海道整形外科外傷研究会
- 生い立ちと 33 年の歩み -
札幌中央病院 整形外科
荒川 浩
マイクロサージャリーを用いた上肢の治療
- 外傷およびその再建について -
奈良県立医科大学 整形外科
准教授 矢島弘嗣