山形県医師会会報 平成28年7月 第779号 19 我が愛しのシャンパーニュ 山形県医師会理事 三 條 典 男 もう20年以上になる。最初に銘柄まで意識して飲んだシャンパーニュは、ヴーヴ・クリコのイエロー ラベルだったと思う。 その時に、脳裏になにかフラッシュしたような感じがした。爾来ワインにはまり、WSETの資格まで 取得することになった。 ちなみに、生まれて初めて飲んだワインは、中学3年頃、父親が秘蔵していたドイツワインを父に ちょっとだけ「なめさせて」もらったのが最初だと認識している。 という産地のワインであると教えてくれた。細長い 父は、自慢そうにラベルを見ながらこれは、Nahe ブルーのボトルは覚えているが、その時の味は覚えていない。 シャンパーニュとは、フランス北東部シャンパーニュ地方で作られる発泡ワインの内、瓶内二次発酵 、Pi 、Char で作られ、かつ使われるブドウは、Pi notNoi r notMeuni er donnayの三種類のみのものに許 された呼称である。 国際的にマドリッド条約に於いて規定されており、これ以外にシャンパーニュという名の製品を作る ことは出来ない。 日本では、良くシャンパンと呼ばれているが、シャンパンと発音して通じる国は日本以外には無い。 英語では、シャンペインと発音される。つまり、 海外のレストランでシャンパーニュを飲みたいと思っ たら、(英語で)シャンペインと発音するか、(仏語で)シャンパーニュと発音しなければならない。 と男性名詞。シャンパーニュ 蛇足だが飲み物であるシャンパーニュはフランスでは、LeChampagne と女性名詞になる。 地方を指すときにはLaChampagne さて、シャンパーニュ以外の発泡ワインを総称してスパークリングワインと呼び習わす。フランス語で はVi nMousseux(ヴァン・ムスー)。この中には、フランスでは、クレマンやペティヤン等が含まれる。 ドイツで生産される発泡ワインはゼクトと称され、イタリア産であればスプマンティ、スペイン産で あればカバと呼ばれる。 それぞれ使われるブドウの種類も異なり、瓶内のガス圧も異なる。 それでは、何故シャンパーニュなのか?と言うことになる。どこの国へ行ってもシャンパーニュは別 格である。 それは、発泡ワインを作るのに適したシャンパーニュ地方のブドウのみならず、フランスでは、シャ ンパーニュの製造過程も法律で規定されており、それが特に厳格に守られている。 ブドウ4トンから約2, 550リットル以上の果汁を搾ってはならないとか、最上級シャンパーニュ(プ レスティージ)を作るためには、最初のやんわり絞った1024リットルのブドウ果汁しか用いないとか、 とにかく厳しい。瓶内二次発酵をさせるため、瓶の中には酵母の死骸である澱が溜まる。これを動瓶 (ルミュアージュ)というシステムで澱抜き(デゴルジュ)をし、それによって生じた欠損分をストッ クワインに糖分を加えたもの(門出のワイン=リキュール・デクスペディシオン)で補う(ドザージュ) 。 20 山形県医師会会報 平成28年7月 第779号 こうして出来たシャンパーニュは、直ぐには出荷できず、18ヶ月ほどセラーで熟成させる。こうやっ て始めて我々の元に届く。特別に手間の掛かった、特別なワインなのである。 ワインについては、食事とのマリアージュと言う言葉を良く聞く。料理はワインを選び、ワインは料 理を選ぶのである。 しかし、シャンパーニュは食前酒から、食中、食後までオールマイティである。ほとんどの料理と合 わせることが出来る。 高級レストランでワイン選びに迷ったら、シャンパーニュで食前から食後まで通す、とソムリエに伝 えてみたら良い。 そして、テーブルにボトルを一本選んでもらう。スマートなやり方であり、レストラン側でも、この 客はただ者では無いと思ってくれる。また料理によって合わないと言うことがまず無い。 しかし、シャンパーニュの中でも種々有り、甘みの強いものから、超辛口まで様々である。 門出のワインに糖分を全く含まない、ブリュット・ゼロ、ブリュット・ナチュール、あるいはブリュッ ト・ソバージュからドゥと呼ばれる甘口まで。これらはすべてボトルのラベルに表示されている。 食事に合わせるシャンパーニュはなるべく辛口のものが良い。ただし、飲み慣れない向きには、超辛 口は避けて、ブリュットを選ばれるのが良いだろう。これには1リットル中に7グラム程度の糖を含ん でいる。酸と甘みのバランスの取れたものが良いのである。 現在、シャンパーニュ地方には5000ほどのシャンパーニュ製造者がある。 このうち、大手のものは400ほど。名の通ったシャンパーニュであり、 保存状態の良いものであれば、 ま ず、外れは無いだろう。 筆者は、ここ20年ほどで、300以上のシャンパーニュ、そしてそれ以上の数のスパークリングワイン を味わってきたが、やはり優れたメゾンの作るシャンパーニュに勝るものは(一部の例外・温暖化のた めに南部イギリスで作られるスパークリングワインや、イタリア、ロンバルディア地方のフランチャコ ルタ、米国はカリフォルニアのシュラムスバーグなどを除けば)ほとんど無い。 我が愛しのシャンパーニュ、私の好みは、一番には、He nr iGi r audのAr gonne、二番手には007で有 名な「男のシャンパーニュ」Bol l i ngerのVi ei l l eVi gneFr ancai s e、そして、Dom Per i gnonP2、Cr ys t al あたり。ただし、Kr ugのCl osd' Anbonnayは別格。 Br ut 終わりに、シャンパーニュについてのトリビアをいくつか上げておこう。 1.シャンパーニュを初めて作ったのはDom Pe r i gnonである、というのは実は誤り。彼は、シャンパー ニュ地方独特の気候の為、ワインが発泡してしまうのを避ける為、(当時発泡ワインは欠陥品と思わ れていた)日夜研究していた。その頃、既にイギリスでは、発泡ワインを楽しむようになっていた。 2.グラス一杯のシャンパーニュに発生する泡の数は?瓶内圧6PSI として計算すると、炭酸ガス溶融 量は約12g/ リットル。Moe tetChandonの研究所が測定した平均的泡の直径から体積を求めると、約 1200万個となるが、グラス表面から蒸散する炭酸ガスは全体の80%ほどになることが分かっている為、 実際にフルートグラスの中で発生する泡の数は、約200万個。 3.実際には、シャンパーニュに使用可能なブドウの種類は8種類。これは法律で決まっている。歴史 的に古いブドウの種類は淘汰され、現在の3種類に落ち着いて来たが、いくつかのシャンパーニュハ ウスでは、古いブドウを復活させて8種類のブドウを使ったものも作られている。その種類は:前出 の3種類の他、Ar 、 Pi Enf ) 。 banne、Pet i t Mes l i er notBl anc, ume、 Fl omont eau(Pi notGr i s 4.Dom Pe r i gnonが盲目だったという証拠は歴史的に何一つ無い。 5.フランスの中でもシャンパーニュ地方の一人当たりの年収は最も高い。 6.それにもかかわらず、シャンパーニュ地方の人はアメリカ人よりも日常的にシャンパーニュを消費 している量は少ない。 シャンパーニュについて思いつくままに書き散らしてみた。乱文ご容赦。
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