排卵障害の診断 - 徳島大学病院産婦人科

産科婦人科研修セミナー
平成23年11月30日 排卵障害の診断
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
産科婦人科学分野
松崎利也
不妊症の3大原因 排卵因子
卵管因子
男性因子
視床下部・下垂体性排卵障害を来す疾患 ・Kallmann症候群 ・特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(IHH) 原
発
性
視
床
下
部
性
下
垂
体
性
・骨盤位分娩による下垂体柄切断 ・GnRH受容体遺伝子変異によるIHH
視
床
下
部
性
続
発
性
下
垂
体
性
・機能性視床下部性無月経 (体重減少性無月経、ストレス性
無月経、神経性食欲不振症、神経性過食症) ・頭蓋咽頭腫 ・鞍上部胚細胞腫/内胚葉洞腫瘍 ・Hand-­‐Schuller-­‐Chris8an disease(his8ocytosis X) ・頭部外傷 ・頭部放射線照射後遺症 ・Sheehan症候群 ・リンパ球性下垂体炎 ・プロラクチン産生腫瘍 ・GH産生腫瘍(先端巨大症) ・ACTH産生腫瘍(Cushing病) ・TSH産生腫瘍 ・LH,FSH産生下垂体腺腫 ・ホルモン非産生腫瘍
木内理世、松崎利也ほか 臨床婦人科産科 2011 4月増刊 一部改変
排卵障害を来す疾患と排卵誘発法 視床下部障害
機能性視床下部性無月経
ダイエット性無月経
ストレス性無月経
高プロラクチン血症性無月経
クロミフェン療法
視床下部 特発性低ゴナドトロピン性腺機能低下症(IHH)
カルマン症候群
神経性食欲不振症 下垂体 下垂体障害
下垂体腫瘍、骨盤位分娩の後遺障害
シーハン症候群
卵巣障害
早発卵巣機能不全
性腺発育不全
(ターナー症候群など)
卵巣手術、放射線、抗癌剤の後遺症 フィードバック障害 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) 第1度無月経
無排卵周期症
を来す排卵障害 ドパミン作動薬療法
機能性高プロラクチン血
症、プロラクチノーマ GnRHパルス療法
視床下部性無月経 ゴナドトロピン療法
第2度無月経
クロミフェン無効の排卵
障害 卵巣 子宮 松崎利也ほか:排卵障害の治療. インフォームドコンセントのための図説シリーズ不妊症・不育症 改訂版 一部改変
排卵障害の診断
1.排卵障害の診断総論
排卵障害の分類
診断の手順
2.排卵障害を来す代表疾患の診断と治療
高プロラクチン血症
多嚢胞性卵巣症候群
月経異常/排卵障害の分類、診断名
① 疾患名、症候群名
② 月経(周期)異常のタイプ
頻発月経
無排卵周期症
希発月経
無月経
(黄体機能不全)
③ 障害部位、機序
視床下部性
下垂体性
卵巣性
フィードバッック障害
④ WHO分類
Group 1,2,3・・・
無月経の分類
⑤ 生理的 (妊娠、閉経)
非生理的
⑥ 原発
続発
⑦ 第1度
第2度
子宮性
本来は①を診断名とすべき。
しかし、便宜上、いろいろな呼び方が用い
られているので混乱しがち。
「無排卵周期症」「第1度無月経」「視床下部性無月経」など、
疾患名ではないが頻用される。
WHOの性機能障害の分類
Group 1 視床下部・下垂体機能不全 E2低い、LH・FSH値が低い
中枢性第2度無月経 (視床下部性・下垂体性)
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症など
Group 2 視床下部・下垂体性機能異常 E2正常範囲、LH ・ FSH値がほぼ正常範囲
第1度無月経や無排卵周期症、黄体機能不全、希発月経等の月経異常
多嚢胞性卵巣症候群、肥満による排卵障害、軽症の視床下部性の排卵障害の各疾患
など、雑多な病態の疾患群
Group 3 卵巣機能不全 E2低い、LH・FSH値が高い
卵巣性無月経
早発卵巣不全など
Group 4 先天性または後天性の子宮腔の異常 E投与を繰り返しても消退出血なし。
Group 5 視床下部・下垂体領域に占拠性病変がある高プロラクチン血症
Group 6 視床下部・下垂体領域に検出可能な占拠性病変のない高プロラクチン血症
Group 7 視床下部・下垂体領域に占拠性病変のあるプロラクチン異常のない無月経
WHO Group 1, WHO Group 2 はよく使われます。
排卵障害の診断手順
ステップ1 病歴、身体所見など
ステップ2 超音波所見
ステップ3 内分泌所見
ステップ4 その他(ゲスターゲン試験など)
①病歴、身体所見のポイントと想定すべき疾患
1 乳汁漏出
乳汁漏出あり 高PRL血症を来す種々の疾患
2 体型/誘因
やせ 機能性視床下部性無月経、甲状腺機能亢進症
肥満 肥満による排卵障害、PCOS
体重変化/ストレス/運動 体重減少性/ストレス性/運動性無月経、
肥満による排卵障害、PCOS
3 月経異常の発症時期
初経から持続 PCOS
産後から持続 シーハン症候群?(大量出血) 体重増減は?
4 多毛、ニキビ
思春期から PCOS
ある時期から 男性ホルモン産生腫瘍、副腎皮質過形成(晩発性)、薬剤性
5 月経異常のタイプ
原発無月経 カルマン、IHH、ターナー
続発無月経 体重減少性、高PRL 、POF
希発月経・無排卵周期症 PCOS、肥満による排卵障害など
6 悪性腫瘍治療歴 放射線/抗がん剤による卵巣性無月経 ②超音波検査の注目点
1 子宮
・サイズ
小さい 重度長期の無月経 続発性なら、体重減少性などを想起 無い Rokitansky
・子宮内膜
薄い 重度の無月経 (PCOSではない)
数ミリ 軽度の排卵障害
2 卵巣
・サイズ
大きい PCOS?
小さい 卵巣性?
・小卵胞数
多い PCOS? (2-9mm, 少なくとも片側卵巣全体で10個以上)
なし 重度の無月経
*1cm以上の卵胞状エコー像
(発育卵胞ならE2を分泌している。ネガティブフィードバックのため
LH、FSH基礎値を適正に評価できない。 PCOS診断に注意。)
3 合併疾患の有無
子宮筋腫、子宮内膜症性嚢胞、子宮内膜ポリープ、卵管留水腫
これらは、不妊治療の際に考慮が必要
③内分泌所見(PRL、LH、FSH、E2、T)の判定
1 まずPRL関連疾患かどうかを判断する
PRL高値 (通常はLH、FSH低めとなる)
乳汁漏出あり 高PRL血症の種々の疾患を鑑別する。
乳汁漏出なし 乳汁漏出を確認、PRL再検査、マクロプロラクチンの確認
2 LH、FSHを確認
LH FSH
高 高 卵巣性 (POFなど)
低 低 中枢性 (体重減少性、機能性視床下部性無月経)
正 正 雑多 (PCOS、肥満による排卵障害、軽度中枢性など)
高 正 PCOSなど
3 T高値
PCOSなど
4 E2
低い 中枢性、卵巣性 (PCOSではない)
正常 中枢性、PCOSなど
(5 最初から甲状腺系、空腹時血糖を検査しておくのも有用)
④ その他
1 基礎体温
排卵が起きているかどうか。
不妊症では、無排卵周期症、黄体機能不全の診断に役立つ。
2 無月経の重症度分類 (ゲスターゲン試験、エストロゲン-ゲスターゲン試験)
疾患名の診断ではなく、治療法の選択のため重症度を分類する。
不妊治療(排卵誘発) 月経異常のホルモン療法
第1度無月経 クロミフェン、FSH Holmstrom
第2度無月経 hMG、 GnRHパルス Kaufmann
(卵巣性第2度無月経は個別対応)
排卵障害による不妊症に対する診断と治療の流れ 排卵障害による不妊症
高PRL血症を来す疾患
原因疾患の鑑別診断・治療
卵巣性無月経を来す疾患
個別対応
やせ、ストレス、肥満による排卵障害
PCOS 原因、誘因の除去(体重の適正化等)
PCOSの治療指針へ (減量、クロミフェン、FSH、LOD、クロミフェン-­‐メトホルミン)
中枢性の第1度無月経、希発月
経、無排卵周期症を来す疾患
1.クロミフェン、2.FSH 中枢性第2度無月経を来す疾患
hMG、(FSH)、GnRHパルス
松崎利也ほか 産婦人科治療 2011 4月増刊
排卵障害の診断のまとめ
1. 排卵障害には種々の分類があり、疾患/症候群の名称を診断
名とすることが望ましい。
2. 病歴、身体所見で病名を推定、USGでは卵巣のPCO所見な
どに注意し、PRL、LH、FSH、E2、Tの内分泌検査をあわせて診
断する。
排卵障害の診断
1.排卵障害の診断総論
排卵障害の分類
診断の手順
2.排卵障害を来す代表疾患の診断と治療
高プロラクチン血症
多嚢胞性卵巣症候群
高プロラクチン血症
各測定系が採用しているWHOスタンダードと基準値の相違
スパック-Sの基準値 (1st IRP) 15ng/mL 以下
他の測定系の基準値( 2nd IRP, 3rd IRP) 30ng/mL 以下
1977年
WHO 1st IRP(75/504) 1986年
WHO 2nd IS(83/562)
1988年
WHO 3rd IS(84/500)
基準品
キット名
参考基準値の上限( ng/mL )
WHO 1st IRP
スパック-S プロラクチンキット
15
WHO 2nd IRP
ST E テスト「TOSOH」 II
30 ケミルミACS-プロラクチン
30.5
DPC・イムライズ プロラクチン
31.1 (卵胞期)
エクルーシス プロラクチンIII
30.5 アーキテクト・プロラクチン
30.5
アクセス・プロラクチン
26.72 (卵胞期)
ルミパルスPRL
30 (施設参考)
WHO 3rd IRP
血中PRL濃度に影響を与える生理的要因 妊娠・授乳
妊娠中に上昇、授乳で上昇
月経周期 黄体期、排卵期に高い
食事
食後30分以内に、1.5 2倍
睡眠
睡眠60分 90分で上昇
運動・ストレス ストレスで1時間以内に2 3倍
血中PRL濃度の日内変動 プロラクチン高値の再現率
不妊患者1705例の初回採血でプロラ
クチン高値の患者206名(12.1%)
再検査で高値は88例(再現率42.5%
、全体の5.2%)
Souter I,et al Fertil Steril 2010
適切な採血条件:
ストレスを避け、空腹時に採血
PRLが高値の場合:
適切な条件で再検査
プロラクチン分子の多様性
1.大きさ(分子量)の違い
単量体 : little
分子量 22,000∼23,000 約85%
多量体 : Big プロラクチン 分子量5∼6万(二量体) 約10%
: Big-Big プロラクチン 分子量約10万(三量体) 5%以下
マクロプロラクチン(IgG結合) 15∼17万以上(個人差あり)
免疫活性はあるが生物活性はほとんど無い
2.性質の違い(Recombinant PRL/糖鎖形成など)
非糖化プロラクチン : 分子量 22,000∼23,000bio-Activity 100%
糖化プロラクチン
: 分子量 約25,000
bio-Activity 25∼35%
Y N Sinha; Endocrine Reviews 2006 Vol. 16(3) 354
マクロプロラクチン血症
マクロプロラクチン血症の頻度
一般成人の0.1-0.2%、高PRL血症患者の9.6-29%。
マクロプロラクチン血症の診断
polyethylene glycol(PEG)処理でPRL回収率が40%以下
(=PEG処理で沈降するマクロプロラクチンが60%以上)
かつ
PEG処理後のPRL濃度が正常範囲内
(PRL回収率(%)=PEG処理後のPRL濃度/PEG処理前のPRL濃度)
マクロプロラクチンに対する反応性が低いとされる測定試薬
エクルーシス・プロラクチンIII
(ロシュ・ダイアグノスティックス)
ケミルミACS・プロラクチン
(シーメンスメディカルソリューションズ・ダイアグノスティクス)
ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法によるマクロプロラクチンの判定
PEG処理
②PEG沈降後の上清中PRL濃度測定
試料と等量の
25%PEG溶液添加
①PEG処理前にPRL測定 PEGの添加・遠心
回収率(%)=測定値②/測定値①
が対照検体よりも極端に低い場合
(回収率40%以下を低いと判定)
マクロプロラクチンの存在が疑われる。
プロラクチン
異好性抗体と結合する
マクロプロラクチン
(異好性抗体:非特異反応を起こす要因)
10秒 ボルテックス
にて攪拌
3,000 x gにて5分
遠心
PEGにより沈殿
上清を使用
マクロプロラクチンを有する若年のPCOS疑い症例
プロラクチン (ng/ml)
300
カベルゴリン
カベルゴリン
下垂体MRI(H18.11)
200
下垂体MRI(H19.6)
PEG処理前後のPRL値
PEG処理前 112.1 ng/ml
PEG処理後 2.56 ng/mlと正常値
回収率 2.3%と40%を下回った。
PRL値と月経周期異常の推移が一致しない
100
30
合成黄体ホルモン
H 20.6
H 20.4
H 20.1
H 19.7
H 19.4
H 19.1
H18.10
0
(月)
合成黄体ホルモン
基礎体温は低温一相性
無月経
年齢 14 歳
主訴 続発性無月経
初経 10歳
月経周期 30 90日 不順
BMI 17.9
乳汁漏出 なし
希発月経
正常周期
初診時内分泌検査(アーキテクト)
LH : 8.63 mIU/ml(1.8-10.2 mIU/ml)
FSH : 5.05 mIU/ml(3.0-14.7 mIU/ml)
E2 : 40.2 pg/ml(19.0-226 pg/ml)
テストステロン : 0.67 ng/ml l(0.33-1.26 ng/ml)
PRL : 113.1 ng/ml(6.12-30.54 ng/ml)
fT4 : 1.18 ng/dl (0.85-2.15 ng/dl)
fT3 : 2.52 pg/ml (1.45-3.48 pg/ml)
無月経
正常周期
下垂体MRI 腫瘍を認めず
初診時診断
特発性高PRL血症 (Argonz-del Castillo症候群)
最終診断
マクロプロラクチン血症
清川麻知子、松崎利也 他
PCOS疑い
現代産婦人科 2009
PRLが高値であり、臨床症状と乖離がある場合の対応
1 採血条件を確認、適した条件で再検査
食後? ストレス?(採血の失敗など)
空腹で午前中に再検査
2 臨床症状の見直し
乳汁漏出の有無を入念に観察
他の原因による排卵障害の除外
3 マクロプロラクチンの検査
(血液検体を、PEG処理して回収率を確認する。)
検査試薬の販売会社が検査
高プロラクチン血症の疫学 対象 オランダ国内25地域、200万人の医療圏、 1996-2006にドパミン作動薬の投与を受けた高PRL血症患者1607名。 女性が1342名(84%) 結果 男性では年間1.4人/10万人、女性では年間8.7人/10万人。 女性には25-34歳に発症率のピークあり(年間23.9人/10万人)。 Kars M, et al.: J Clin.Endocrinol Metab. 2009
高プロラクチン血症の原因疾患と
その頻度 (女性)
その他�
視床下部腫瘍�
巨人症�
2.6 %�
14.7 %�
34.3 % �
プロラクチノーマ�
4.0 %�
原発性甲状腺機能低下症�
5.2 % �
8.6 %�
薬剤服用に伴うもの�
キアリ-フロンメル症候群�
17.8 %�
12.8 % �
アルゴンツ-デル・カスチロ 症候群�
(厚生省間脳下垂体機能障害調査研究班)�
高プロラクチン血症の鑑別診断手順と治療方針
高PRL血症
原因薬剤服薬
あり
T3
、T
4、TSH測定
なし
原因薬剤の変更
または休薬
正常
薬剤性
遊離T3低値、遊離T4低値、
TSH高値
下垂体腫瘍あり
甲状腺ホルモンの補充
1cm以上
マクロプロラクチノーマ
鞍上進展、視機能障害があり
(海面静脈洞浸潤、視交叉に接する)
特に、妊娠を希望する女性で減量手術希望者
手術
* * PRL値100ng/mlに関わらずMRLを
行ってもよい
<100ng/ml
原発性甲状腺機能低下症
* 正常値上限が30ng/ml の場合
≧100ng/ml * *
頭部MRI
PRL値 *
腫瘍なし
機能性高PRL血症
1cm未満
ミクロプロラクチノーマ
根治手術の
希望強い
薬剤抵抗性腫瘍
薬剤の副作用
妊娠に続発
Chiari-Frommel 症候群
術後PRL値高値
ドパミン作動薬
(カベルゴリン) 特発性
Argonz-del Castillo 症候群
高プロラクチン血症のまとめ�
1. 現在用いられているプロラクチン測定系の正常女性の基準値は30ng/ml 以
下のものが主流である。
2. PRL測定値が正常範囲を超えているが、乳汁漏出を認めないなど、臨床所
見との乖離がみられる場合は、採血条件の検討・再検査、マクロプロラクチ
ンの存在について検討する。測定値のみを根拠に治療を行わない。
3.高PRL血症の原因は多いので、原因を鑑別してから治療する。
多嚢胞性卵巣症候群
(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 注1)月経異常は、無月経、希発月経、無排卵周期症のいずれかとする。 注2)多嚢胞卵巣は、超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、 少なくとも一方の卵巣で2-9 mmの小卵胞が10個以上存在するものとする。 注3)内分泌検査は、排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に、 1cm以上の卵胞が存在しないことを確認の上で行う。また、月経または消 退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低いことに留意する。 注4)男性ホルモン高値は、テストステロン、遊離テストステロンまたはアン ドロステンジオンのいずれかを用い、各測定系の正常範囲上限を超えるも のとする。 注5) LH高値の判定は、スパック-Sによる測定の場合はLH≧7 mIU/ml (正常女性の平均値+1 標準偏差)かつ LH ≧ FSHとし、肥満例(BMI≧25) では LH ≧ FSHのみでも可とする。 その他の測定系による場合は、スパック-Sとの相関を考慮して判定する。 注6)クッシング症候群、副腎酵素異常、体重減少性無月経の回復期など、 本症候群と類似の病態を示すものを除外する。 月経周期の異常�
� 24日�� 頻発月経
25 38日�� 正常月経
39 3ヵ月�
希発月経
3ヵ月 �� 無月経�
頻発月経�
正常月経�
希発月経�
続発性無月経�
25 38日
�月経周期�
多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 注2)多嚢胞卵巣は、超音波断層検査で 両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、 少なくとも一方の卵巣で2-9 mmの小卵胞が10個以上存在する
ものとする。 多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 男性ホルモンとLHは相補的であり、PCOSの診断には両者
とも重要である。
PCOSの内分泌検査所見
ホルモン
ゴナドトロピン
異常高値率
LH
68.2
LH/FSH比
74.6
プロラクチン
3.9
性ステロイド
テストステロン
14.3
ホルモン
遊離テストステロン
65.3
アンドロステンジオン
67.5
DHEA-S
13.1
DHEA
16.7
エストロン
44.4
エストロン/エストラジオー
100
ル比 (≧0.7)
(日産婦誌 2007)
インスリン抵抗性の有無とその背景因子、各種ホルモン異常の陽性率
(日産婦誌 2007)
HOMA-IR ≦1.6
HOMA-IR
平均年齢
BMI
HOMA-IR ≧2.5
0.9 ±0.3 (n=197) 6.4 ±9.8a (n=129)
27.9±4.8
28.5±5.4
20.7±3.6
6.6% (13/196)
93.4% (183/196)
30.1±6.6
78.4%a (98/125)
21.6%a (27/125)
LH高値
61.2% (101/165)
54.1% (53/98)
LH/FSH比高値
71.4% (115/161)
70.4% (69/98)
テストステロン高値
11.4% (18/158)
25.0%a (24/96)
≧25
<25
アンドロステンジオン高値 58.5% (31/53)
71.4% (25/35)
Free-T高値
26.7%a (4/15)
76.1% (35/46)
a
: P <0.01 vs. HOMA≦1.6症例
インスリン抵抗性なし:非肥満 LH陽性率高い
インスリン抵抗性あり: 肥満 男性ホルモン陽性率高い
PCOSの診断におけるLHと男性ホルモンの相補的関係
PCOS
LH+テストステロン+アンドロステン
ジオン LH高値 LHまたは男性ホルモン高値
男性ホルモン高値
(男性ホルモン高値はテストステロン、アン
ドロステンジオンの少なくとも1つ。)
43.3% (58/134)
80.6% (108/134)
69.4% (93/134)
LH+テストステロン
LH高値 LHまたはテストステロン高値 テストステロン高値 67.7% (483/713)
71.7% (511/713)
14.3% (102/713)
LH+アンドロステンジオン
LH高値 LHまたはアンドロステンジオン高値
アンドロステンジオン高値 44.5% (66/145)
82.1% (119/145)
68.3% (99/145)
LHとTは相補的。
Tの高値率が低いのが
問題点であった。
(測定系の問題)
LH+遊離テストステロン
LH高値 LHまたは遊離テストステロン高値 遊離テストステロン高値 62.6% (77/123)
90.2% (111/123)
63.4% (78/123)
(日産婦誌 2007)
正常月経周期女性とPCOS患者の血中テストステロン濃度の分布
(徳島大学)
35%
旧キット
(H23年3月まで販売)
)*+,-.
エクルーシス試薬
テストステロン
正常月経女性 (N=117)
PCOS (N=86)
30%
25%
高テストステロン:
旧キット 30.2%(26/86)
基準範囲 0. 7未満 20%
15%
日産婦の全国アンケート調査では、
14.3% (使用キットは多様)
10%
5%
!
1.
2
1.
1
!
1.
0
!
!
0.
9
0.
8
!
0.
7
!
!
0.
6
0.
5
!
!
0.
4
0.
3
!
0.
2
基準範囲 0.47未満 30%
高テストステロン:
新キット 44.2%(38/86)
25%
20%
15%
10%
5%
1.
2
1.
1
1.
0
0.
9
0.
8
0.
7
0.
6
0.
5
0.
4
0%
0.
3
(H22年9月17日発売)
正常月経女性 (N=117)
PCOS (N=86)
35%
0.
2
エクルーシス試薬
テストステロン II
(ng/mL)
"#
$#
"%
&'
(
40%
0.
1
新キット
!
!
0.
1
0%
多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 注5) LH高値の判定は、 ・スパック-Sによる測定の場合は、 LH ≧ 7 mIU/ml (正常女性の平均値+1
標準偏差) かつ LH ≧ FSH とし、 ( LH/FSH比 ≧ 1 正常女性の平均値+1
・その他の測定系による場合は、 スパック-Sとの相関を考慮して判定する。 標準偏差) PCOS診断における各測定系の高LHの基準
Spack-S * アーキテクト* エクルーシス* ケンタウルス**
LH基礎値 7 7 (6.72) 8.55 8.0
(mIU/mL)
LH/FSH 比 1
1 (1.07) 1.25 1.4
* 平均値±1標準偏差から算出
** 相関を検討して算出
LH,FSH測定系の
採用状況
アーキテクト :SRL、ファルコ、三菱化学
エクルーシス :BML
PCOSにおけるBMIと血中LH、LH/FSH比
P<0.05
P<0.1
14
2
1.8
12
10
1.4
LH/FSH
LH(mIU/mL)
1.6
8
6
1.2
1
0.8
0.6
4
0.4
2
0.2
0
0
BMI<20
20≦BMI<25
25≦BMI
BMI<20
20≦BMI<25
25≦BMI
(mean
SE)
肥満PCOSの血中LHは低めである。LH/FSH比は高い。
多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 注5)LH高値の判定は、 スパック-Sによる測定の場合は LH≧7 mIU/ml(正常女性の平均値+1
標準偏差) かつ LH ≧ FSHとし、 肥満例(BMI≧25)では LH ≧ FSHのみでも可とする。 (LH/FSH比≧ 1) 同一症例の血中LH、LH/FSH比の変動
LH(mIU/mL)
25
20
15
全測定でLH≧7の症例
5/13(38.5%)
10
5
LH/FSH比
0
3
全測定でLH/FSH比≧1の症例
6/13(46.2%)
2
1
0
0
5
10
15
MC
20
25
30以降
月経周期とLH、LH/FSH比の関係
LH(mIU/mL)
25
20
15
10
5
LH/FSH比
0
3
2
1
0
0
5
10
15
20
MC
25
30以降
周期日数別のLH、LH/FSH比 平均LH
P<0.1
(%)
LH (mIU/mL)
16
P<0.1
P<0.1
LH異常高値率(LH≧7mIU/mL)
100
14
80
12
10
60
8
6
4
40
20
2
0
0MC1-10 MC11-20 MC21-30 MC31以降
(n=38)
(n=19)
(n=5)
(n=14)
LH/FSH比
(P<0.05 vs MC1-10)
P<0.1
P<0.05
(%)
P<0.1
70.3%,
MC1-10 MC11-20 MC21-30 MC31以降
(n=38)
(n=19)
(n=5)
(n=14)
P<0.05
2
100
80
1.5
60
1
40
0.5
0
42.9%
LH/FSH比異常高率 (LH/FSH≧1)
平均LH/FSH比
2.5
P<0.05
47.6%
76.0%(P<0.05 vs MC1-10)
20
MC1-10 MC11-20 MC21-30 MC31以降
(n=40)
(n=19)
(n=5)
(n=14)
0
MC1-10 MC11-20 MC21-30 MC31以降
(n=40)
(n=19)
(n=5)
(n=14)
多嚢胞性卵巣症候群の診断基準
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会,2007 ) 以下の1
3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする 1.月経異常 2.多嚢胞卵巣 3.血中男性ホルモン高値 または LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 注3)内分泌検査は、排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与
していない時期に、1cm以上の卵胞が存在しないことを確
認の上で行う。 また、月経または消退出血から10日目までの時期は高LH
の検出率が低いことに留意する。 ・陰性なら時期を変えて再検査
多嚢胞卵巣症候群の治療
排卵誘発
ホルモン療法
・不妊
・月経異常(無排卵周期症、希発月経、無月経)
子宮内膜増殖症・子宮内膜癌の発症リスク
・多毛、ニキビ
減量
(肥満例)
・生活習慣病発症リスク
1 肥満か非肥満か
2 不妊かそれ以外か
多嚢胞卵巣症候群の治療指針
(日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会、日産婦誌61巻3号、 2009年3月)
挙児希望なし
非肥満
挙児希望あり
減量2)
肥満
非肥満
肥 満 1) 1) 減量2) ・運動
・運動
排卵なし
排卵なし
クロミフェン4)
黄体ホルモン療法 3)
カウフマン療法
排卵なし
クロミフェン
+ メトホルミン5)
排卵なしまたは
妊娠なし
FSH 低用量 漸増療法 6)
排卵なし
妊娠なし
OHSS発症例
hCG cancel 例
laparoscopic ovarian drilling
妊娠なし
排卵なし
クロミフェンまたはFSH低用量漸増療法6)
妊娠なし
注
1) 
2) 
3) 
4) 
5) 
6) 
IVF‐ET
BMI ≥ 25
BMI ≥ 25の場合、5∼10%の減量と 2∼6か月のダイエット期間を目標とする
低用量経口避妊薬を用いる場合もある
高PRL血症にはドーパミンアゴニスト、副腎高アンドロゲン血症にはグルココルチコイドを併用
肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性を持つ症例
主席卵胞 18 mm以上で hCG投与、但し16mm以上の卵胞が4個以上の場合はhCG投与を中止
クロミフェン療法の治療スケジュール
妊娠反応陽性
クロミフェン
50-150 mg/日p.o. hCG
クロミフェン
50-150 mg/日p.o.
卵胞
BBT
卵胞
XXXXX
XXXXX
月経または
消退出血
月経
hCG
クロミフェン-メトホルミン併用療法(短期投与)の治療スケジュール
メトホルミン
(500 -) 750 mg/日
妊娠反応陽性
短期投与
短期投与
クロミフェン
100-150 mg/日
hCG
クロミフェン
100-150 mg/日
卵胞
BBT
卵胞
XXXXX
XXXXX
月経または
消退出血
月経
hCG
PCOSの不妊治療におけるメトホルミンの臨床応用 対象 クロミフェンで排卵が起きないPCOS症例で、
主に、肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性を持つ症例
方法 クロミフェンと併用
効果 クロミフェンとの併用で、50 70%の排卵率
排卵周期あたり約20%の妊娠率
副作用
消化器症状(4%) 悪心、嘔吐、下痢、消化不良、便秘、腹痛、腹部膨満
乳酸アシドーシス(まれ 10万人あたり年間3 4人) (腎機能の悪い症例に発生)
低血糖(まれ) 保健適応がない点に配慮し、適切な手順とインフォームドコンセントが必要 低用量漸増FSH療法
ゴナドトロピン製剤の低用量漸増投与法
5
基礎体温
FSH 50単位
FSH 75単位
1st week
u 卵胞が10mmに達したら投与量を固定
u 10mm未満の場合は初期投与量の1/
2ずつ増量する
・25単位増量 (50単位から開始)
・37.5単位増量(75単位から開始)
2nd week
75単位
112.5単位
3rd week
100単位
150単位
hCG
5,000単位
4th week
hCG 3,000単位
卵胞径<10mm 卵胞径<10mm 卵胞径≧17mm
平均径16mm以上の
卵胞が4個以上
→hCG投与の中止
FSH投与日数 6 FSH通常量療法 5 症 4 例 3 数
2 8.2 (平均 最終1日投与量 1  A 1.5 A 2 A 2.6 日 標準偏差) �
1 0 4 6 8 10 5 12 14 16 18 20 22 24 26 28 FSH低用量漸増療法 4 症
例 3 数
2 13.7 7.4 日, p<0.01 �
1 0 4 6 8 10 12 14 (増量なし: 77 % , 平均投与日数 10.2 16 18 3.5 日) 20 22 24 26 28 投与日数 (日) 低用量漸増FSH療法と腹腔鏡下卵巣多孔術の特徴
妊娠成立までの期間
多胎、OHSS防止の観点
手術リスクの観点
排卵障害の回復
FSH
○
LOD
○
○
○
FSH:FSH低用量漸増療法
LOD:腹腔鏡下卵巣多孔術
多嚢胞性卵巣症候群のまとめ
1.  日産婦の診断基準2007でPCOSを診断する。アンドロゲンの測定
は重要であり、LHと共に評価する必要がある。
2.  PCOSの治療の際には、挙児希望の有無、肥満の有無を考慮す
る。減量や薬剤(メトホルミン)でインスリン抵抗性を改善すること
は重要である。
3.  クロミフェン抵抗性PCOSには、
・FSH低用量漸増療法とLODはともに有用である。
・クロミフェン-メトホルミン併用療法は有用な選択肢である。