繁殖生理から考える受胎トラブルシューティング(NC パート1)

繁殖生理から考える受胎トラブルシューティング(NC パート1)
原文:North Carolina University Swine News, Vol.25 (7) Aug. 2002
はじめに
豚の繁殖問題は複雑な要因が絡み合っており、対処するにはシステマティックなアプローチを理解することが重要
です。最も効果的な方法は、まず正常な繁殖生理そのものを理解し、それと照らし合わせて問題を対処していくことで
す。正常なプロセスが頭に入っていなければ、何が異常なのかが分からないからです。
この記事は、ノースカロライナ大学の養豚エクステンションが定期で生産者のために送っているものに手を加え、さ
らに平易な表現でわかりやすく編集したものです。妊娠に関する繁殖生理プロセスの知識や知見とそれに関連した分
娩率・総産子数・発情回帰日数などの3つの繁殖データの解
析から問題がいつ・どの段階で起こるのかを特定する方法に
ついて説明していくことにしましょう。まずこのNCパート1で、
母豚の妊娠のしくみについて生理的な面をおさらいし、次回
のNCパート2では、分娩率・総産子数・発情回帰日数などの
項目で、どのようなパターンで繁殖の問題が発生し、問題分
析をするにはどうすればいいのか、また最終的には管理面で
の対策にどのように結び付けて行くべきかを解説していきま
す。
妊娠成立の生理機序:
図1を見てください。妊娠日数を中心軸として、左サイドに妊
娠中の主なイベント、右サイドにそれに対応した繁殖生理の
流れが示してあります。
離乳後初回種付けした日を妊娠日として Day-0 とみなしま
す。さかのぼって離乳日が-4日、分娩日が-22日としてあり
ます。次回の分娩日がちょうど114日としてありますが、あくまでも基本的な例として母豚の繁殖整理を理解するため
のものと考えてください。理解していただきたいポイントは、妊娠が終わる、すなわち分娩すると同時に次回の妊娠サ
イクルに向けて備えがはじまっているという点です。第1妊娠シグナル、第2妊娠シグナルと見慣れない表現がありま
すが、これがこの話のエッセンスです。後に詳しく解説します。
母豚の生理回復と卵胞発育
分娩後、母豚は妊娠解除された体から回復するのに時間を必要とします。この過程で最も重要な3つの器官が、卵
巣・脳・子宮です。卵巣には卵胞が含まれており、脳から分泌される2種のホルモン:黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺
激ホルモン(FSH):の働きによって卵胞の発育が促されます。離乳後、卵胞はやがて排卵し、種付けにより精子と出
合って受精します。卵巣の回復は非常に早く、分娩後、適正に刺激されれば数時間で卵胞は再び正常に発育し始め
ます。
脳から LH と FSH という二つのホルモンが分泌され、この2つのホルモンによって排卵が誘起されます。分娩後の脳
の回復プロセスは2つのステップからなり、約12日間を要します。まず最初に、分娩直後から授乳期のほぼ全期間に
渡って低いレベルの LH と FSH が必要です。卵巣中の小さな卵胞の発達を刺激するためです。分娩後数日の間に脳
はこの指令を発信することができるようになります。一方で、授乳期の最後の方から離乳後にかけて、高レベルの FSH
と特に LH がさらに卵胞の成熟をサポートするために分泌されるようになります。分娩後、卵胞の発達が最高潮に達し
て排卵となりますが、このときはさらに高レベルの LH が必要です。通常脳は分娩後10~12日までは、卵胞成熟と排
卵をサポートできるだけの量の LH と FSH を分泌することはできないといわれています。離乳日令の限界でもあるので
す。
妊娠中、胚・胎子が発
母豚の分娩後の繁殖生理のしくみの模式図
達する場所が子宮です。
発情
離乳
状況下では14~16日
授乳
の段階からなり、通常の
母豚の主な
イベント
分娩
子宮の回復もやはり2つ
乳頭←(子豚の哺乳)
(授乳が脳のホルモン分泌を抑制する) (離乳が抑制刺激を解除する)
かかると言われています。
FSH
最初は伸びきった子宮
の大きさの回復いわゆる
LH
よ ば れ る段 階 です 。 妊
娠中の子宮はその中に
低
中
低
〈卵胞発達をゆっくりと助長する〉
脳
一般的に子宮の収縮と
低
低
低
低
高
〈卵胞成熟・排卵へ→〉
中
高
12日まで低レベル
子宮
含まれる子豚の大きさに
あわせて大きく拡張する
ので、次の妊娠に備え
るためにはその大きさを
元に戻さなければならな
大きさ
12日必要
内膜
収縮
修復
発育した卵胞からのエストロ
ジェン(発情ホルモン)により
発情・許容へ変化を起こす
14~16日必要
※FSH・LH
・授乳することが過剰なホルモンレベルを抑制し、適度な量で卵胞の発育を維持する
・卵胞の成熟には必要なホルモンレベルは、子宮の収縮・修復と関連して12日以降である
・離乳すると一気に増量して急激な成熟やがては排卵へと導く
※エストロジェン
・ある程度に発達した卵胞から分泌される発情ホルモン(許容や発情には必須のホルモン)
・子宮の修復にも作用するが、離乳後はむしろ精子を受け入れる準備にも作用する
いのです。このプロセス
は分娩後約12日間で終了します。
収縮に加え、子宮は胚・胎子の発達に必要な能力もこの時期に取り戻します。その能力とはすなわち子宮内膜の修
復のことで、この子宮内膜が受精卵が着床する際のベッドになり、さらには成長に必要な分泌液を出すようになるので
す。これらのプロセスは分娩後すぐ始まりますが、通常完成するまでに14~16日を要すると言われています。
授乳期間中に母豚が次の妊娠が可能になるために必要なメカニズムがたくさん仕組まれているのです。まず子豚の
哺乳活動は母豚の脳から LH と FSH を分泌させるのを刺激します。実際、乳頭一つ一つには、刺激されると低レベル
の LH・FSH ホルモン分泌を命令する神経が存在します。子豚が離乳すると、この抑制刺激がはずれるので高レベル
の FSH と LH が分泌され卵胞の発育が急激に促進され、やがて排卵するのです。したがって、授乳期間というのは子
豚に栄養源を与えるための期間であるだけでなく、母豚の子宮と脳が次の妊娠に必要な回復期間を得るための大変
重要な時期でもあるのです。
離乳は、母豚の繁殖システムが正常に機能するかどうかの鍵を握る重要なイベントです。なんらかの理由で離乳が
適正に行われなかったとしたら、繁殖システムが正常に回復し機能しなくなり、そのために多くの繁殖問題が引き起こ
されてしまうのです。例えば、離乳が非常に早く行われてしまった場合、母豚は無発情となることがあります。これは、
脳が卵胞発達の最終ステージをサポートするために必要な量の LH・FSH を産生できないからです。卵胞が未熟なま
まのため、発情を誘起するホルモンであるエストロジェンが産生されないからなのです。
発情期間が異常なほど長く続く状態のことをニンフォマニアといいますが、これもやはり脳機能の回復が完全に行わ
れなかった結果によるものです。この状態は、脳が卵胞発育の最終ステージをサポートするに十分な LH・FSH ホルモ
ンを分泌しているものの、排卵を起こすのに必要な高レベルまでには達しないために起こります。このような状態の卵
胞は許容をするのに十分な量のエストロジェンは分泌しているが、実際に排卵が起きることは無いのです。このような
母豚に交配しても当然妊娠しません。排卵しないからです。
このような2種類の状
#1 無発情
常の発情とはっきり区別
乳頭←(子豚の哺乳)
離乳
が簡単です。外見的に通
母豚の主な
イベント
授乳
アは、比較的発見するの
分娩
態:無発情とニンフォマニ
(授乳によるホルモン分泌抑制が短すぎる)
(離乳の抑制刺激が脳を刺激しない)
できるからです。発見が
FSH
難しいケースというのは、
むしろ離乳後、脳の機能
低
低
低
低
中
〈脳の回復が遅れ、卵胞の成熟を助長しない〉
脳
が回復したのにも関わら
LH
ず子宮の機能が完全に
回復していない場合です。
無発情?
低
低
低
〈卵胞未成熟・排卵しない〉
低
低
12日まで低レベル
収縮
修復
大きさ
子宮
12日必要
内膜
このようなケースは一般に
14~16日必要
卵胞からのエストロジェン
(発情ホルモン)が不足
→発情・許容が不明確に
認識されているよりも頻繁
※無発情
に起こっていると思われま
FSHやLHが十分に分泌されないので卵巣が機能しない状態で無発情
卵胞は未熟で、エストロジェンの分泌もなく、発情行動を誘起しない
原因: 早期離乳、何らかの理由による脳の回復遅れ、これによる卵胞未成熟
す。なぜなら脳の回復は
子宮のそれよりも2~3日
早いからです。この状態の母豚は発情は正常にくるし、交配すると問題なく受精します。しかし、子宮の回復が完全で
はないので着床後の胚・胎子の発達を満足にサポートできないので受胎しないという結果に終わります。生産現場で
の問題としては分娩率の低下や総産子数の減少という形で現れてくるのです。
概して、授乳日数が最低でも14~16日とれれば離乳後の卵巣・脳・子宮の回復は問題なく行われるといわれてい
ますが、時にその回復が遅れることもしばしばあります。また、まだ子豚に授乳しているにも関わらず、完全に回復する
前に繁殖システムが再活性化する場合もあります。
生理学的には、授乳期
にやせすぎた母豚はこの
離乳
が悪くなればなるほど、繁
母豚の主な
イベント
授乳
一般に体重やボディコン
分娩
回復が遅いと言えます。
#2 ニンフォマニア
脳の回復が遅れ、何らかの原因でホルモンのバランスが崩れる。排卵まで至らない
殖器への栄養供給は悪く
乳頭←(子豚の哺乳)
なり、卵巣・脳・子宮の回
FSH
低
低
低
低
復へ回る栄養源が少なく
なってしまうということです。
中
〈卵胞成熟するも未排卵〉
脳
LH
授乳 期の母豚の餌摂 取
低
低
低
低
低
低~中
12日まで低レベル
量をなるべく増やす理由
は、表面的にはボディコ
無発情?
子宮
収縮
大きさ
内膜
12日必要
14~16日必要
ンとして理解されていすが、
修復
卵胞からのエストロジェン(発
情ホルモン)は出るが、発情
は持続するも排卵されない
→ 発情は示すが弱い
実際にはこういうことなの
※ニンフォマニア
です。したがって授乳中
FSHやLHはなんとか分泌され卵胞の成熟もするが、両者のホルモンバランスが悪くなるなど、
卵胞も成熟し、微弱の発情までは示すが、排卵を起こさないので受胎しない
原因: 何らかの理由による脳の回復遅れ、ホルモンバランス失調
に十分食べてくれない母
豚は回復が遅く問題の発端になるのです。この現象は、アメリカの南東部・特にノースカロライナ周辺の農場ではっき
りと見られます。夏場の暑さが尋常でないために授乳期の餌摂取量がどうしても落ち込んでしまうのが根底にあるので
す。結果としてこのような夏が暑い地域や時期には比較的長い繁殖器の回復期間が必要になるのです。
前述したように、母豚が回復期間の間、繁殖器官の活動を休ませるには脳からの FSH・LHホルモンの分泌は低レ
ベルでなければなりません。哺乳子豚数が少ないとその分泌を促す刺激が少なく、抑制プロセスが弱まってしまいま
す。十分な哺乳子豚数があって、十分に適正な低レベルのホルモン作用が得られるのです。したがって場合によって
は授乳期間中であるにも関わらず繁殖システムが再開してしまうケースもあります。 このような母豚は子豚を十分育
てることはできないのです。
● 子宮回復の遅れの理由
・ 温度、特に夏の異常な暑さと湿度などの劣悪環境下で食下量の減退
・ 食下量の低下による、繁殖器官の栄養障害→正常な回復に支障を!
・ 授乳中の脳からの LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)は低レベルが条
件で、子宮は時間を掛けて徐々に回復する
● 授乳中に繁殖サイクルが活性化し、発情、排卵が行なわれてしまうケースは、子豚の授
乳に積極的でなく、うまく育てられない場合もある
実際の現場では、分割離乳(partial weaning)を行っている場合や哺乳子豚が小さく哺乳行為が活発でない腹でこ
の現象が見られます。分割離乳では大きい子豚が4~5日早く離乳されるので、その母豚は必要十分な哺乳刺激を
受けることが出来なくなることがあります。同じように、腹の子豚が小さいものばかりではやはり哺乳刺激が不十分にな
ります。 両者の状況は違いますが結果は同じです。授乳中に次の繁殖システムが再活性してしまうのです。
受精と第1・第2妊娠シグナル
受精するためには排卵前に受精能力をもった多くの精子が卵管内にいなければなりません。管理面から見ると、精
液の状態や発情チェック、交配方法などは受精を成功させる上ですべてが重要な要素です。これらの管理要素が完
璧にクリアされている場合、受胎率は非常に高く90%を超えます。受胎の問題の原因を探るうえでは非常に重要なこ
とですので再認識して欲しいものです。 すなわち受胎率の問題の原因のほとんどは内的要因ではなく外的要因に
あるということです。言い換えると受胎率に問題がある場合、その原因はほとんどが母豚の生理ではなく、管理上の問
題なのです。
子豚の損失
25
妊娠第1シグナル
妊娠第2シグナル
頭(個)
20
15
10
5
0
排卵数
受精数
着床数
胚生存数
生存数
受精率=90%
胚生存率=60%
※種付け後5週目までの損失は、全体の8割以上。
離乳数
受精した胚(いずれ胎子になる活発に分裂を繰り返す受精卵のこと)は卵管内に数日間留まり、子宮内へ移動して
いきます。この期間は子宮内壁に接着(着床の前段階のこと)していないので「自由浮遊期(Free-floating stage)」とよ
ばれています。受精後12日目ごろから胚は成長しだしエストロジェンを分泌するようになります。この胚による局所的
なエストロジェンが妊娠の第1シグナルとなり、母豚は自分が妊娠したことを知るのです。エストロジェンはプロスタグラ
ンジン F2αの分泌を阻止します。プロスタグランジン F2αは黄体を退行させるホルモンで、妊娠維持に必要なプロジ
ェステロン(黄体ホルモン)の生産を抑制します。プロスタグランジン F2α分泌を抑制するのに必要な量のエストロジェ
ンは少なくとも5つの胚が子宮内に存在していなくてはならないといわれています。胚が5つ以下だと母豚は自分が妊
娠しているとは認識せず、プロスタグランジン F2αは分泌されっぱなしでプロジェステロンも減少します。その結果とし
て、母豚は繁殖サイクルを繰り返し、前回の種付けから18~21日で再発情してしまいます。
もし母豚がこの第1シグナルを妊娠12日目までにキャッチすれば、妊娠は維持されるのです。胚は成長を続け子宮
内膜に接着を始めます。このプロセスが着床の始まりなのです。妊娠17日から28日で胚はエストロジェン分泌の第2
期に入ります。この第2妊娠シグナルは胎盤における胎子部位の発達と関連していると考えられています。ここでもや
はり最低5つ以上の胚からのエストロジェンが妊娠の継続のサインに必要となります。5つ以下の場合、種付けから28
~35日と、先ほどの例よりも若干遅れて再発がみられます。
妊娠していない母豚が再発するまでの期間はこの2つの妊娠シグナルに直接関係しています。種付け後12日まで
に胚が5つ以下しかないと、再発は12~18日で起こり、これは「regular return(定期再発)」の形で発情します。これは
受精の失敗か妊娠後最初の2週間の間に胚が死滅してしまった場合に起こります。これに対して、母豚が第1妊娠シ
グナルを受けたが第2シグナルを感知しなかった場合、種付け後28~35日で再発が来ます。これは「irregular return
(不定期再発)」とよばれています。すなわち種付け後12~28日で胚が流れた場合に起こります。妊娠初期の1ヶ月
の母豚の生理を理解・観察することが現場で非常に重要なのはこのためなのです。非妊娠母豚の return-to-estrus
interval(発情回帰日数)をモニタリングすることで、種付け後2週目までで起こった問題は regular return(定期再発)と
して現れるし、種付け後3~4週で起こった問題の場合は irregular return(不規則再発)として表現されます。再発が
見られたとしてもどちらであるかを判別することは管理上の修正をするうえにも重要なことです。
胎子の発達
種付け後30日目以降では、着床も完成し成熟胚は子豚の形態を持ち始めます。そのためこの時期から成熟胚は
胎子と呼ばれます。この段階まで来ると妊娠状態を維持するために必要な胎子数は決まっていません。一旦母豚が
妊娠17~28日で第2シグナルを感知すると、黄体とプロジェステロン生産はこの期間ずっと維持されます。これが、1
~2頭しか子豚がいない腹が生まれたり偽妊娠がみられたりする理由の一つです。生理学的には、妊娠28日目まで
は胚は5個以上存在していたが、その後それらが失われたことによって、これらの現象が起こると説明されています。
ミイラが多いか死産子豚(白子)が多いかをみることで、その問題が妊娠時期としてどこでおきたかを判断することが
できます。胎子の骨器官は最初は軟組織より成りたっています。これが妊娠50~60日の間で骨化が始まります。 妊
娠50日前に死んだ胎子はまだ骨が軟組織なので全て母豚に吸収されてしまうのです。一方、骨形成がはじまった50
~60日以降の胎子は死んでも硬い組織になっている骨は吸収されないためミイラとして娩出されるのです。小さいミ
イラは骨化が始まってすぐ、大きいミイラはおそらく分娩2~3週間前に死んだものです。 死産子豚(白子)は形態的
に全く正常だが死んで生まれてきた胎子を指し、通常分娩1週間前以内もしくは分娩プロセス中に死んだものがほと
んどである。子宮内で死亡して2週間すれば若干皮膚表面が琥珀色のミイラ化した死産子豚として見られるはずです。
これをミイラ子として分娩前後1週間で死亡した死産子豚と区別することも重要です。
このように胎子発達の状態によって妊娠時期のどこに問題があるのかがわかる。以下に端的にまとめてみましたので
参考にしてください。
所見
● 偽妊娠
● 総産子数が少なくミイラ・死産子豚がいない
原因が推定されるステージ
妊娠30~50日
● 総産子数が少なくミイラが多い
妊娠60~100日
● 総産子数が少なく死産子豚が多い
分娩前1週間以降
正常な生理メカニズムに基づいた分娩でないものを流産とよびます。あるいは分娩準備がまだ十分に出来ていな
いにもかかわらずなんらかの事情で生んでしまった場合を指します。胎子からのコルチゾル(副腎皮質ホルモン)生産
が一連の分娩機序の引き金になると考えられています。おそらく、このコルチゾルがプロスタグランジン F2α放出を刺
激し、このプロスタグランジンがプロジェステロン生産を抑え、分娩を誘発するという流れです。プロスタグランジンやコ
ルチゾルが大量に分泌せざるを得ないような状況が起これば妊娠豚は流産してしまうのです。
これは非常に重要なことで、なぜならこのプロスタグランジンとコルチゾルはストレスによっても放出が誘発されるか
らです。例えば、熱によるストレスや肉体的傷害によってこれらのホルモンが放出され流産することもあるのです。スト
レスにより誘発されたこれらホルモンの量が子宮内の胎子からのホルモンの濃度以上になるのかどうかについては実
は疑問が残るところですが、管理上、それもありうるということを頭の中に留めていたほうが賢明かもしれません。
要約
妊娠機序における重要な生理イベントは、授乳期の繁殖システムの回復期間から始まり、順調な胎子発達の完成に
よって終わります。まずは仕組みを理解するということで大いに参考になったのではないかと思います。次回は、これ
らの基礎知識を基に分娩率、総産子数、発情回帰日数のデータを考え合わせて、懸案になっている繁殖性の問題が
発生する時期の特定、取りくみ方などについて議論したいと思います。
2006 年 10 月 グローバルピッグファーム㈱