労働力の国外送出についてのPDFファイル

国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
5.1
関係法令及び制度の概要
メキシコは、当初は労働者の差別の解消を目的として生まれた NAALC(the North
American Agreement on Labor Cooperation:北米労働協力協定)と呼ばれる国外
への労働力送出に関する主要な国際協定を締結しているため、当報告では、米国に
向けたメキシコ人労働者の送出、現在の状況の解説及びそれに関連した現行の移民
政策に焦点を当てる。
未熟練労働者の米国への輸出国として有名なメキシコは、同時に世界で第 3 位の高
等教育を受けた移民の輸出国でもある。メキシコで高等教育を受けた人口の 10%、
ただし科学及びエンジニアリングの学位取得者に限っては 30%が実際に外国に居
住している。しかし、多くの調査結果によると、米国に在住する教育水準の高いメ
キシコ人移民は、給与の受取額は多いはずであるが、教育水準の低いメキシコ人よ
り本国への送金額が少ない可能性がある。
さらに、本国送金によるメキシコの GDP に対する乗数効果は、高度な技能を持つ
移民の出身地である都市部では低くなっている。メキシコでは、開発プロジェクト
のための連邦、州及び地方レベルのマッチングファンド・プログラムを含む、本国
送金を利用する多数のプログラムが存在している。また、本国送金は、国外留学で
知識を取得した後にメキシコに帰国し、就職するメキシコ人のための学生ローンに
も利用されている。
人種差別は、国際社会が懸念する最大の差別形態の 1 つであるが、労働者の観点か
らは、ILO(International Labor Organization:国際労働機関)の「強制労働条約
第 29 号(1930 年)」及び「強制労働廃止条約第 105 号(1957 年)」に反映されてい
る。前者では、人種、労働、社会、宗教及び国籍による差別に関して特別な取り組
みがなされている。ILO の「差別待遇に関する条約第 111 号(1958 年)」では、
“人
種差別”を最も受け入れがたい差別の理由の 1 つとしており、本条約は、ILO の条
約の中で最も広く認められ、かつ多くの国で批准されている。この形態の差別に対
抗する国際的なコンセンサスは、1965 年国連で採択された CERD(International
Convention on the Elimination of all forms of Racial Discrimination:人種差別の
撤廃に関する国際条約)にも盛り込まれている。
最後に、ILO の「雇用政策に関する条約第 122 号」では、貧困の撲滅と開発の促進
の手段として、差別に対抗する雇用創出の政策を掲げている。本条約では、とりわ
け労働政策が、人種、肌の色、性別、宗教、政治的立場、あるいは社会及び出身に
かかわらず、適格性のあるすべての労働者に対し、その能力に適した就労の機会が
与えられることを保証すべきであると強調している。
これらの国際的な意味合いに加えて、北米各国(カナダ、米国及びメキシコ)にお
ける国内の法的枠組みでは、職場における差別の廃絶を命令し、かつ規制を実施し
ている。なお、これらの国内法の枠組みには、それを生み出した各国固有の歴史的
背景及び法規制が当初生み出される理由となった特定の問題及び政治的、社会的な
力学も反映されている。
例えば、米国の反差別法は、アフリカ系市民に対する不平等及び人種差別の撤廃を
1
国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
目的とした公民権運動から発展してきた。その結果として、米国の法律は、市民の
自由契約の権利を保護し、市民の権利への連邦国家の侵害を制限するための手段と
して発展している。米国の雇用に関する反差別法は、すべての労働者に対し権利あ
るいは保護を保証するというよりは、むしろ雇用主の不正の制限を目的として立案
されている。これとは対照的に、メキシコ及びカナダの雇用・労働法は、あらゆる
労働者に対して平等及びその他の権利を保証するという見地から、国際的な人権及
び労働運動から発展したものである。それゆえ、米国においては労働者に適用され
る反差別法が、事業所の種類及び雇用の規模に左右される場合があるのに対して、
わずかな例外を除いて、メキシコ及びカナダの反差別法は、事業所の被雇用者数に
関わりなくすべての労働者及び雇用者に適用される。
NAALC の 3 カ国の法的枠組みにおいて、国際条約はそれぞれの国において大きく
異なる役割を果たしている。メキシコでは、その法制度における権利の根源及び条
約で提供される権利は、メキシコ憲法を除いたすべての法令諸規則に優先する。
一般論として、職場の労働問題に関する連邦あるいは準連邦の立法及び司法におけ
る重要性は、各国の全体的な政治制度における力のバランスを反映したものとなっ
ている。例えば、連邦段階での中央政府に権力が集中しているメキシコでは、独占
的な司法権を有するのは連邦の憲法及び連邦労働法であり、国内全域で優先的に扱
われている。なお、法律の施行及び実施の義務は、連邦及び州レベルの労働当局で
分掌されている。
連邦レベルでは、NAALC に調印している 3 カ国すべてにおいて、人種、民族、出
身国、性別、年齢、宗教あるいは障害を基準にした雇用に関する差別は禁止されて
いる。メキシコ憲法の第 1 条は、あらゆる事を基準にした差別を禁止している。メ
キシコにおいては、州法あるいは判例法のいずれも、連邦憲法及び連邦労働法と比
較して、職場での差別に対抗する幅広い保護を付与する一層大きな雇用の保護を提
供するものではない。
(1)
国家レベル
メキシコにおいて民間セクターに対する主要な公的労働制度は、憲法、メキシ
コが参加する国際条約及び連邦労働法とそれに関連する規則から構成されて
いる。メキシコでは憲法の下、連邦議会が労働法制定に関する独占的な権限を
有している。憲法とともに、連邦労働法は、民間セクターにおける被雇用者の
権利の主要な根拠法となっている。連邦労働法にはまた、雇用に関する特別な
規定が含まれている。
メキシコ憲法の初版における第 123 条では、州議会に対して州における労働
法の制定の権限が付与されていた。1929 年に実施された憲法第 73 条 10 項及
び第 123 条の改正では、労働法制定に関する独占的な権限は連邦議会に与え
られることとなった。これらの規定により、最初の労働法 (Ley Federal del
Trabajo) が 1931 年に制定されたが、本法は、憲法第 123 条によって認めら
れる労働者の基本的権利を規定するものであった。それ以降は、今日に至るま
で憲法第 123 条及びそれを実施するための規定を定める連邦労働法が全国を
通じて適用されている。
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労働法の施行に関しては、1941 年、労働法の施行に係る連邦及び地方政府間
の責任分担を規定する第 31 項が第 123 条に加えられた。この規定では、一般
的な労働関係に対する法律の施行に関する地方当局の権限及び労働問題に関
する法律の施行に関しては連邦政府の権限を明確に規定している。
全国レベルでは、労働者の権利及び保護は、メキシコ憲法の下に保証されてお
り、メキシコ連邦労働法及び社会保障法を通じて実施されている。規制の実務
及び保護は、メキシコ労働社会福祉省(STPS)及び民間セクターの労働者に
関する社会保障機関であるメキシコ社会保障機関(IMSS)を通じて提供され
ている。メキシコにおいては、メキシコ憲法及び連邦労働法による保護は、共
和国及び民間セクターにおけるすべての労働者に適用される。
(2)
国際レベル
国際的にみた場合、外国への労働者送出に関連するメキシコの制度は 、
NAALC に基づいている。この合意は 1993 年 9 月 14 日にメキシコ大統領、
米国大統領及びカナダの首相により調印されたが、この合意は、NAFTA
(North America Free Trade Agreement:北米自由貿易協定)の補完協定の
ひとつとして合意されたものであり、1994 年 1 月 1 日に発効している。
NAALC は、国際貿易協定に付随して締結された労働問題に関する初めての国
際協定である。この補完協定は、協定の参加国に対して、現行及び将来の国内
労働基準及び法令の効果的な施行を確保するための手段を提供するものであ
る。環境保護に関する補完協定とともに、NAALC は、NAFTA に対して社会
的側面を加えるものである NAALC を通じて、当該地域の貿易パートナーは、
労働条件及び生活水準の改善、かつ労働者の基本的権利の保護、増進及び強化
を目指すものである。
5.2
送り出しの所轄機関
(1)
国家レベル
連邦国家レベルでは、STPS がメキシコにおけるすべての労働関連法令の施行
の管轄権限を保有している。同省はまた、連邦労働審判調停委員会の調整、労
働者の法的保護、事業所査察及び調停委員会にも責任を持っている。メキシコ
の労働政策策定に関する権限をもつ当局として、STPS は、特に最も社会的弱
者であるグループに重点を置いて、労働者の尊厳を重視した職業の促進を図る
プログラムの確立に責任を有している。これらの業務は、反差別、労働力の統
合プログラム及び能力訓練事業を所管する STPS の明確な責任となっている。
また、STPS は、連邦レベルでの労働問題を監督するため、各州における連邦
の代表及び連邦地域に依存している。代表は、一般的には州都に配置され、ま
た大規模な労働力が存在する都市にも配置されることがある。この配置の目的
は、経済活動が活発に行われている地域に近接して多くの代表事務所を設置す
るためである。
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(2)
多国籍レベル
労働協力委員会は、NAALC の下で設立された国際組織である。当委員会は、
1) 3 人の労働関係閣僚あるいはその代理から構成され施策及び政策決定を担
当する内閣レベルの組織である大臣評議会、2) 当評議会及び協定の規定の下
で評議会が設立することのできる独立の専門家による評価委員会、3) 仲裁委
員会への支援を提供する 3 つの部局の事務局により形成される。当委員会は、
NAALC の実施のため各国政府が労働省の内部に設置した国家行政組織と密
接な連携の下で業務を進める。
労働協力委員会は、1994 年、NAFTA 加盟国間の労働問題に関する協力の促
進及び国内の労働法の効果的な施行を目的として、NAALC によって設立され
た。当委員会は、各国の労働大臣により構成される大臣評議会及び米国テキサ
ス州ダラスに本部がある事務局により構成されている。
事務局は、評議会に対し管理、技術及び運営上の支援を提供し、年次国際作業
プログラムの実施を担当している。国家管理オフィスは、メキシコ、米国及び
カナダの 3 カ国の労働問題を担当する部局に設置され、協定の国内的な実施
機関として機能している。北米の労働問題に関する補完協定における現行の年
次作業プログラムは、業務上の安全衛生、雇用、職業訓練、労働法、労働者の
権利及び生産性に焦点が当てられている。
労働大臣は通常、相互に会談し、NAALC の運営及び実効性について包括的な
検証を行う。結論には常に、国家管理オフィスにより管理される国際協力プロ
グラムの強化及び委員会の特別調査による行政の協議プロセスの増強に向け
た提言が含まれる。
NAALC の前文では、労働及び生活水準の改善の重要性を確認し、協定は、こ
の改善の実現に向けた関係者間の協力におけるさまざまな分野を概観してい
る。協定は、国内労働法のみに言及しており、加盟国はその国内法が高い労働
基準を規定する国内法を確保することを要求される。ただし、ここでは高い労
働基準の定義はなされていない。協定では、参加国が労働組合を含む当事者に
国内法違反を主張する苦情の処理制度を提供することを要求している。また協
定では、当事者は労働協約の実施を確保することを明確にしている。しかし、
当制度から結社及び交渉の権利を除外している。
実施の制度は脆弱で、NAALC の仲裁機関に持ち込まれたケースのいずれも、
対象である違反当事者がその実務慣行を改善する強制力を持ったことはない。
この手続き及び労働者の権利の侵害として NAALC の下に提訴された案件の
国際的側面は、違反の状況を解決し、3 カ国における労働組合の一部との間の
協力関係を強化する助けとなっている。
5.3
送出労働力の属性
(1)
NAALC により確立された具体的な協定及び協力
前述のとおり、1993 年 8 月 13 日、米国、メキシコ及びカナダの各国政府は、
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北米における労働条件の改善及び国内労働法の強力な実施が必要とされる労
働協定に関して、歴史的な合意に達した。当該協定の規定では以下の項目の確
保に努めなければならない。
・
職場環境基準及び必要条件の執行が強化されること。
・
各国内において、問題に関係した個人は、ほかの 2 国におけるあらゆる
労働問題に関し、自国の国家管理オフィス及び三者特別委員会に対して
通告する機会を有する。
・
各国は、労働関係基準の実施に向けた国内の行政及び法的手続きにおい
て、基本的な適正手続き及び公正な要件を満たし、違反の抑止を目的と
した罰金及びその他の罰則制度の強化を提供する。
・
紛争に関する三者特別委員会は、児童労働、安全衛生及び最低賃金基準
に関する継続的な違反に対する罰金を認めることが可能となる。
当該協定は、米国及びメキシコ両国間の過去から現在に至る協力及び共同作業
を強化するもので、以下の事項が含まれる。
・
1992 年 10 月 25~27 日まで、米国及びメキシコは、学界、政府、労働
界及び民間の法律実務セクターから構成される代表が参加した第 1 回年
次二国間労働法会議が開催された。
・
1992 年 9 月、職業安全衛生管理及びそのメキシコの担当部署は、今後
数年にわたり、米国及びメキシコにおいて労働者の安全衛生基準の改善
及びその強化を目的とした新たな共同作業に関する合意を発表した。当
プログラムは、STPS 及び IMSS のメキシコ労働基準を順守するマキラ
ドーラ(自由貿易特区)を確保すること、米国及びメキシコの安全衛生
制度の比較研究、並びに相互に関心のあると認められる特定の産業を対
象とし、労働組合及び被雇用者双方が参加する一連の二国間労働安全衛
生セミナーを活性化するものである。
・
1991 年 5 月、米国及びメキシコの労働長官は、二国間労働協力に関す
る覚書に調印した。それに続き、米国労働省及び STPS は、両国の児童
労働に関する共同研究を実施し、また、メキシコにおける大規模な非公
式経済及び米国の地下経済に関する追加の研究も実施している。
労働力送出の要因は、経済状況に依存するため、労働協力委員会により実施さ
れた作業の多くは、メキシコから米国への労働者の移動に関するものである。
現実に、メキシコ及び米国間の移民は、よりよい労働条件及び雇用機会を求め
てメキシコの労働力が米国に移住する動機となる経済格差により主導されて
いる。
5.3.1
受入国
メキシコの労働力を受け入れる主要国は米国である。実際、北米の人口統計的
傾向は、メキシコ、カナダ及び米国に顕著な経済難関を突き付け始めている。
調査結果によれば、カナダ及び米国では 2010 年代にベビーブーマー第 1 陣の年
齢が 65 歳に到達する。出生率の低下及び寿命の延伸とあいまって、ベビーブー
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ム世代の退職により労働力の拡大は減速し、高齢者の扶養比率は上昇していく。
カナダは、米国と比較して高齢化のスピードが速い。メキシコは、人口統計的
にはまだ若い国といえるが、2050 年までには北の隣国に類似した高齢者扶養比
率となることが予想される。
カナダ及び米国における労働力人口の増加の減速は、両国が低水準の経済成長
を避けるとするならば、長期、持続可能かつ効果的な経済社会政策を必要とす
る。これらの政策のうち重要なものは、特に女性、障害者及び高齢の労働者に
重点を置いた高い労働力の参加率の達成である。付随する政策は、特にメキシ
コを中心とした外国から労働者の輸入の継続である。1990~2000 年代の間、既
に移住者は、米国及びカナダにおける労働力人口成長のうち、それぞれ 2 分の 1
と 3 分の 2 を占めるに至っている。前述の調査による現在の予測では、この傾
向は近い将来にわたって継続することが示されている。
メキシコ及び米国間の移民は、世界的に見てこの種の移動としては最大のもの
で、その規模は、その複雑性、国境を越えた関係、家族、労働者、文化のつな
がりについても言えるが、大部分は不均性な一体化から派生する所得水準及び
雇用機会の大きな差異から発生したものである。移住における社会関係の広が
りも、移住の経済的性格を上回るものではない。メキシコ人は、メキシコでの
生活水準を改善するか、あるいは移住者及びその家族のより良い未来を提供す
る可能性のあるより良い仕事を求めて米国に移住する。
5.3.2
職種
移民政策は、労働市場の力学以外にも多くの要因によって決定され、送出国及
び受入国双方とも一様に困難かつ複雑な問題を発生させている。特に、経済成
長が労働力の数だけでなくその質にますます依存する状況で、人的資本は極め
て重要となっているため、メキシコの送出国としての人的資本の喪失は、この
ような重要な問題の一つとなっている。実際、特に IT が職場を決定的に特徴付
ける時代においては、労働力の質は生産性への重大な寄与となる要素となって
いる。政策立案者にとって中心となる課題は、市場が要求する技能を労働市場
に参入する者の場合は、その技能の保有、また既存の労働力となっている者は
生涯学習を通してその維持を保証することである。
技能開発への投資は、北米の 3 カ国すべてにおいて極めて重要である。カナダ
及び米国におけるベビーブーム世代の退職は、すべてのタイプの労働者への新
たな需要を生み出しているが、特に、急激な技術革新及び国際的に激化する競
争からのプレッシャーに対応できる技能を持ちかつ教育を受けた労働者へのニ
ーズが高い。
(1)
鉱山業
鉱山業は、メキシコ、カナダ及び米国において主要産業セクターのひとつ
である。例えば、2006 年にはメキシコの鉱山業の 200 社以上がメキシコ
全土において 400 件以上のプロジェクトに取り組んでいる。合計生産額は
69 億 2,000 万米ドルであり、鉱山業の GDP への寄与度は 1.6%であった。
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鉱山業は、北米各国の主要な雇用の提供者であり、メキシコでは 2006 年、
鉱山・金属産業に従事する労働者数は 27 万 9,000 人となった。この数値
は、全国レベルで見て雇用保険加入労働者の約 2%を占めている。また重
要な点は、メキシコの全 31 州のうち 24 州において鉱山業が活発なことで
あり、5 つの州(ソノラ、サカテカス、チワワ、コイラ、サンルイポトシ)
が全国内生産の 60%以上を占めている。
(2)
農業及び非農業一時労働ビザ
(i)
H-2A
H-2A 査証プログラムでは、外国人労働者が米国において農業に従事
することを許可している。雇用主と契約した外国人労働者は米国に
入国し、仕事に就く。その後、当該契約が終了した時点で母国へ帰
還する。男女の双方が H-2A 査証プログラムへの参加が可能である。
労働者の賃金は、連邦レベルあるいは州レベルの最低賃金のいずれ
か高い方の賃金レベルを下回ることはできない。H-2A 査証プログラ
ムでは負の影響となる高い賃金率が支払われることがある。この賃
金率に関して米国労働省は、該当地域においてほかの農場労働者の
賃金水準を基準に算出する。雇用主は、法律で定められた安全衛生
基準に合致する無料の宿泊施設を提供しなければならない。
しかし、労働者は、自己の責任で施設に損傷を与えた場合は、補償
する必要がある。雇用主は、すべての労働者に対し、1 日 3 食(低価
格)の食事を与えるかあるいは無料の調理設備を提供する必要があ
る。
(ii)
H-2B
H-2B は、非農業部門の職業に従事する外国人労働者のための一時労
働許可プログラムである。男女の双方が H-2B 査証プログラムへの参
加が可能である。当プログラムは、熟練労働者及び未熟練労働者の
双方を対象にしたもので、公式的な学歴の要件は存在しない。当査
証の申請にあたり、申請者は、事前に就職先が決定していることの
証明の提出が要求される。雇用主は、以下の 2 段階の手順を踏む必
要がある。
・
メキシコ人は米国での就労のため、米国労働省に対して一時
労働証明書の申請を行う必要がある。
・
メキシコ人労働者は、米国の BCIS(Bureau of Citizenship
and Immigration Service:市民移民局=旧移民帰化局)を通
し、移民のための H-2B 査証の申請をしなければならない。
移民労働者は、米国に 1 年間滞在が可能である。1 年経過後、当移民
労働者は、1 年間の延長申請が可能となる。延長部分も含め、米国に
滞在できる最長期間は 3 年間である。査証の有効期限が切れた後、
移民労働者は、米国から帰国するかあるいは延長の申請をする必要
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がある。延長申請した者は、その申請が認められるかあるいは拒否
されるまで、米国に滞在することが可能である。
米国における雇用主は、長期にわたる申請手続きを実施する必要が
ある。移民労働者が最初に就労した雇用主の下での労働を希望しな
い場合、当該労働者は、新しい申請を行わなければならない。移民
労働者の家族は、H-4 査証を取得することが可能であり、この査証を
もって移民労働者と共に米国に移住することが可能となる。しかし、
当該移民労働者の家族は、H-4 査証の権利で米国において就学するこ
とは認められるが労働に就くことは許されない。
5.3.3
年齢
調査中
5.3.4
技能水準
(1)
低い技能水準
現在及び将来の米国における農場及びサービス業の労働力は、主としてメ
キシコからの移民労働者により形成されているため、現在の労働力の構成
は、2 つの対抗する傾向により大きな影響を受けている。その 1 つは、急
速に上昇する移民にともなう費用の増大であり、2 つめは、過剰な労働力
が継続する中で、米国における賃金及び労働条件が悪化していることであ
る。移民の費用の上昇は、新規の移民(10 代の若年者及び成人の双方)が
ひとたび米国に到着すると、米国に長期的に滞在する傾向を引き起こして
いる。この費用に関しては、アメリカンドリームの達成を再度試みて、身
の危険を冒し、河川あるいは砂漠の国境を超えるという潜在的な費用も考
慮に入れる必要がある。しかし、若年者個人にとっての、また米国に残留
するかあるいは帰国するかに関する若年者の移民労働者の意思決定の分析
の一般的な努力においての不確実性の 1 つは、多くの者が米国における農
産物収穫作業に関する知識、労働及び生活条件をどのように感じるかにつ
いてのアイデアを持っていないことである。
米国において就労する 10 代の移民労働者に係る労働条件及び生活スタイ
ルの最も問題となる点は、彼らの米国における青年時代に知的、教育的発
展の明確な支援が存在しないことである。これらの若年者は、一般的に健
康ではあるが、体系的な学習機会を提供するプログラムへのアクセスが存
在しないため、米国での就労機会と引き換えに発展と知的成長の機会を譲
歩するのである。ほとんどの者は、農業労働者あるいは非技能職(靴磨き、
露天商、小売販売、顧客サービス担当、食品製造労働者、レジ係、清掃人、
ウェイター、看護補助、病院用務係等)として極め、若い時に雇用され就
労しているため、ほぼ全員が米国において就学の経験がない。大多数の者
は、英語をほとんど話すことができず、また一部の者は先住民地域出身で
主要言語が先住民のものであるため、スペイン語能力も限定されている。
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(2)
高い技能水準
その他の移民は、平均的なメキシコ人よりも高い教育を受けており、教育
水準の最高レベルにおいて最も大きな喪失が発生している。
平均的には、移民を選択するメキシコ人は、それ以外の者よりやや教育レ
ベルが高くなっている。教育に関する移民の特徴が、チャレンジへの支援
となっており、また国際的な労働力移動の費用となっている。しかし、平
均で見ると、教育は移民のフローの構成に関して説明能力を持つものでは
ない。米国におけるメキシコ人移民の絶対多数は、ほとんど教育を受けて
いないが、メキシコが米国に対して相対的に大きく失っている労働力は、
最高の教育水準を持つメキシコ人(例えば、大学院での学位を取得した者
等)となっている。一方、相対的に最も少ない喪失は、大学卒業生である。
この理由はさまざまであるが、1990 年代にメキシコの労働市場が相対的に
彼らの採用に成功していること、メキシコと米国の大卒レベルの賃金格差
が低いこと、及びメキシコの学位の相互認定性が少ないこと等が挙げられ
る。
基盤的技能開発への効果的な投資は、メキシコ開発の安定性強化及び経済
的自立性強化のための最も強力で可能性の高い戦略である。その理由は、
このような基盤的技能の基礎は、農業及びその他のセクターの内部で労働
力を上方へ移動させるための、あるいはその他の多くの産業分野で必要と
される高度技能職に適応する能力の基盤を提供するためである。
5.4
送出労働力の技能水準の評価制度
メキシコから米国に移住した送出労働力の技能レベルに関する主要な評価は、メキ
シコ及び米国双方の学術機関及び米国政府により実施されていることに留意が必
要である。
米国におけるメキシコ生まれの人口は、一様にはとらえられない。当該人口は、多
くの異なる行動的及び法的立場のサブグループから構成される。一部の移民は、短
期、一時的あるいは循環的(メキシコが通常の居住地である短期滞在者)である一
方、そのほかの者は比較的長期あるいは居住者(米国が通常の居住地)である。こ
れらは概して行動の面から見た分類であり、法的な立場からの分類と重ね合わせる
ことはできない。例えば、循環的移民には正式な労働許可を所有しない不法移民が
含まれるが、ほかにも合法的農場労働者(H-2A)、H-1 査証の労働者、学生及び旅
行者等その他の合法的一時居住者が含まれる。メキシコ生まれの米国居住者人口に
は、合法的一時居住者、米国に長期間滞在する不法移民、一部帰化した市民を含む
合法永住許可外国人が含まれる。両グループともに多様性に富み、技能でいえば農
場労働者から Ph.D.を保有する科学者及びオーケストラの演奏者まで幅広いものと
なっている。
メキシコ人移民全体の 73~94%の短期、一時的あるいは循環的移民は、男性で、年
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齢は 28~32 歳で、学歴が低く、米国の農業労働への就労に極端に偏っている。ま
た、英語をうまく話すことのできる者は極めて少数である。循環的移民は、メキシ
コの社会秩序の中で中流から下層に位置する者から選別される傾向にある。この選
択の過程に関しては、米国の雇用主が季節労働のため、未熟練なメキシコ人労働者
を採用したことに端を発している。
比較的定住性の高い移民の特徴は、多くの場合、メキシコ人移民と全体的な米国人
との間の差異は顕著ではあるものの、米国人全体の特長に類似する傾向にある。調
査結果によると、循環的移民と比較した場合、平均的に見て定住した移民は、性別
ではよりバランスがとれており、年齢は 30~31 歳と若干高く、また教育水準は高
くなっている。定住移民の労働力参加率はやや低くなっているが、これも査証の種
類及び情報源によって異なっている。例えば、1990 年の人口調査における労働参加
率の報告では、男性が 85%となっているが、最近の合法的移民の報告ではその数値
は 90%となっており、農業に従事する者の数は 4~13%と極めて低い数値となって
いる。
また、結論的には循環的移民と比較して、定住的移民のほうがより高い収入、より
高い世帯収入を得ている(最近の合法的移民の米国での平均年収は、男性が 1 万
9,000 米ドル、女性が 1 万 3,600 米ドルである)。しかし、世帯収入は、米国の家計
の中央値より低くなっており(1990 年の人口調査では、メキシコ人世帯の年収は 2
万 7,000 米ドルで、すべての米国家計の世帯年収は 3 万 8,000 米ドルであった)、貧
困レベルの下で生活している。
循環的移民及び定住的移民グループの双方は、米国人全体あるいはメキシコから国
外に出ない者と比較して、技能水準の低い個人が多数を占める傾向にある。しかし、
彼らの中には一部の高等教育を受けた個人も存在している。例えば、合法的一時居
住者(H-1 及び J-1 査証を持つ個人)は、メキシコの技能水準のランクでいえば大
部分が上位に位置しているが、これら個人の一部は循環的移民でもある。その他の
者は、比較的長期間の米国居住者である。高度な技能を持つメキシコ人移民の数は、
米国における熟練労働者数及びメキシコから米国へ移動する総移民人口と比較する
と小さいものであるが、メキシコにおける熟練労働人口と比較すると顕著な数値と
なっている。米国在住で高度な教育を受けたメキシコ生まれの者には、国外の大学
で学位を取得した者が含まれる。彼ら個人のその後の移住行動は、両国にとって明
らかに重要性を持つものであり、さらなる調査・研究の必要がある。
また、メキシコ人移民の特徴は、時とともに変化している。これらの変化の一部は、
長期的な現象となっている。例えば、メキシコ人移民の学歴水準は、過去と比較し
て徐々に向上してきており、移民の出身地及び移住先は、徐々に都市部が多くなっ
てきている。移民の特徴に関する長期的な変化は、大部分が移民を生み出すメキシ
コの人口動向の変化を反映しているが、時間の経過とともに移民の選好が変化して
いることも反映している。
その他の変化は、旱魃あるいは洪水といった外因性ショックによる短期的あるいは
循環的なものである。例として、ある調査では、移民の特徴の変化は米国の景気循
環と一致するとしており、景気拡大の局面では、より女性が多く、また都市部への
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国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
移民と学歴のある者の増加が見られる。
しかし、それ以外の移民の特徴の変化は、施行される法律あるいは導入される政策
に依存しており、例えば、ある法令の下での移民の大規模な合法化等が挙げられる。
なお、移民がより選択的でなくなり、また移民の特徴も徐々に非均一的となる兆候
が一部に現れている。これは、米国移民法の家族再会規定によって強化された、移
住の費用及びリスクを減少させる移民のネットワークの影響による可能性がある。
5.5
労働力送出・受入に関する二国間・多国間協定
メキシコが調印した労働力の送出及び受入を含む主要な多国間協定には、NAALC
が含まれる。この政治的枠組みが適用されるほとんどの移民政策は、主たる目的と
して、メキシコから米国への移民の流れの制限に関わっている。
また最近では、2008 年 6 月 12 日にスペイン政府及びメキシコ政府との間で、メキ
シコからスペインへの労働力の送出に係る二国間協定が締結されている。この協定
の下での試験的プログラムの主要な目的は、スペイン及びメキシコ両国の法的枠組
みを逸脱しない労働契約を通して、あらかじめ決められた期間中、スペインの雇用
主がスペインにおいて就労する目的でメキシコ人を雇用することである。当プログ
ラムは、スペインの雇用主の求人に関する情報を収集するスペイン労働省及び求人
情報を公開し、スペインに送出する前にメキシコ人応募者を事前評価するメキシコ
の STPS により主導される。
5.6
送出労働力の技能水準
二国間・多国間協定
メキシコから米国に送出される労働力の技能水準評価は、ほとんどが米国側の情報
源に依存している。その情報源とは、1) ミクロのデータ及び公開一覧表(米国の歴
史統計で公表される歴史的時系列等)を含む、10 年ごとの人口調査及び現在の人口
調査、2) 旧米国 INS(U.S. Immigration and Naturalization Service:移民帰化局)
がまとめたミクロのデータ、INS がその年次報告書で公表する一覧表及びその後継
である統計年鑑、米国国務省査証局の年次報告書で公表する一覧表を含む、合法的
移民の情報、GAO(General Accounting Office:米国会計検査院)が INS データ
から集積した特別なミクロデータのサンプル、新規移民調査からの予備的データ、
3) 農場労働者に関する調査データ、4) COLEF/USC(メキシコ北部国境大学院大
学/南カリフォルニア大学)ロサンゼルス・プロジェクトの 4 つである。
その一方で、メキシコから米国に送出される労働力の技能水準は、INEGI(Instituto
Nacional de Estadistica, Geografia e Informatica:メキシコ国家統計・地理及び
情報院)/ENADID(National Survey of Population Dynamics:国家人口動態調
査)、COLEF
(The College of the Northern Border:北部国境研究)の EMIF
(Survey
on Migration at the Northern Frontier of Mexico:メキシコ北部国境における移民
調査)及び地方の世帯調査(多くは地域コミュニティーレベル)等、メキシコの主
要な 5 つのデータ情報源に依存している。
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国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
ほとんどの米国のデータ情報源(米国人口調査及び INS 管理記録)は、移民のフロ
ーの循環性は考慮に入れていない。人口統計及び人口調査の分析単位は米国におけ
る住居となっており、人口調査に含まれる個人の母集団は、対象となる米国の住居
に通常居住するすべての個人から構成されている。したがって、人口調査では、法
的身分及び査証の種類といった移民の研究に適切な特徴に関する情報は含まれて
いない。
メキシコにおいては、ENADID を含む政府の調査が、メキシコにおける固定的な世
帯に焦点を当てて、これらの世帯の家計に積極的に参加している可能性のある米国
居住の多くの移民労働者を除外しているため、米国のデータと同じような欠点を含
んでいる。これらの調査では、共同生活あるいは近親性を基礎においた世帯の定義
に拠っているが、この基準は、最近の移民に関する文献及び調査において疑問視さ
れている。
【メキシコから米国への移民フローの評価】
1970 年代の一部の文書によると、その当時から米国におけるメキシコ人の数が増加
を開始している。加えて、一時的な移民のフローは、徐々に永久的な滞在に変容し
ている。この理由としては、一時的ではない仕事への労働力の需要が増加したこと、
また、米国側での国境の警備が厳格化し、国境を越えるのが一段と困難になったこ
とが挙げられる。
米国における移民関連のデータベースによると、現在メキシコは明らかに主要な労
働力の供給源である。米国国勢調査局の 2000 年人口調査概要によれば、2000 年に
はメキシコ出身の米国居住者数は 917 万人であったが、これと比較して中国出身は
151 万人であった。なお、移民が国境を越えるポイントは、国境に沿った以下のよ
うないくつかの「双子の町」に集中している。特に移民が集中する双子の町とは、
ティファナ=サンディエゴ、ノガレス=ソノラ・ノガレス、エルパソ=シウダード
ファレス、ラレド=ヌエボラレド、レイノサ=マカーレン及びブラウンズビル=マ
タモロスである。
近年では実際に、一部の戦略ポイントに金属性の塀を構築し、警備及び国境を渡る
通行人の検査機器に関してより強化する等、さまざまな国境警備の手段が試みられ
ている。この枠組みの中で、米国の南西部の国境において特別な戦略が実行されて
いる。
2002 年において、米国には推計で 1,000 万人近くのメキシコ人が在住しており、こ
の数はメキシコの人口全体のほぼ 10%に達するものとなっている。しかしまた、こ
こで重要な事実は、この人数のうち 87%が労働年齢(15~65 歳)の者で構成され
ていることである。メキシコにとってこの事実は、生産活動に貢献する人口の大き
な部分を喪失していることを意味し、その人口の再生産にかかる費用はメキシコで
発生するのである。当該人口部分がメキシコに居住する間は、メキシコがその保健
サービス費用を支出し、学校教育の期間が平均で 7.7 年となっている将来の移住者
の教育費用もその他の費用とともに支出するのである。米国におけるメキシコ人の
評価を行うことをその主要な目的とし、1997 年に実施された米国及びメキシコ双方
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国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
の研究者による二国共同研究では、米国に移住したメキシコ人のために費やされた
保健及び教育費用の推定が行われた。メキシコ人労働者により家族に送金された金
額も計算されたが、その額は極めて高額となっていた。メキシコ政府は、このよう
な状況に関する懸念はいまだに表明していないが、極めて大きな労働力の喪失は、
巨額な送金によって十分に埋め合わされているように考えられる。事実、メキシコ
人の米国への移動は、過去のいくつかの政権が雇用の創出に失敗したため発生した
メキシコ国内の労働市場の圧力を緩和する、「ガス抜き安全弁」として理解されて
いるように思われる。
上記に関しては、試験的に実施されているその他の補完的戦略を付け加える必要が
ある。それらは、H-2A 及び H-2B 臨時的労働プログラムの創設であり、前者は農
業のための外国人臨時労働者の採用であり、後者は同じような制度であるがよりサ
ービス業に方向を向けたプログラムである。H-2A プログラムを通じて、2001 年に
は全体で 4 万 7,000 人を若干超える労働者が契約を結んでいるが、その大多数はメ
キシコからの移民であった。H-2B プログラムでは、2004 年 10 月に公布された法
律により導入された最大限度である、6 万 6,000 人の雇用が可能である。
H-2A プログラムの労働者は、特にノースカロライナ州、テネシー州及びケンタッ
キー州等の米国東部の諸州で採用されている。H-2A 及び H-2B 両プログラムの特
別な面は、米国政府の意思決定により実施され、二国間の協定がまったく存在して
いない点である。当該プログラムは米国の法律の対象となっているが、運営の見地
からは業務委託制度の下で民営化されており、就職斡旋企業の役員が労働者を採用
する現地コミュニティーに労働契約担当者を派遣している。
メキシコにおける公式セクターの雇用の創出は、移民に対するプレッシャーの緩和
を加速することになる。移民のフローは、すでに説明したとおり複雑で、複数の要
素が、移住の実行から外国への定住、母国に帰還する際の意思決定に影響を及ぼし
ている。
メキシコにおいて、労働者が移住を決意する 2 つの背景は極めて異なったものであ
る。農村部において、移住の比率は最も高い一方で、都市部での国際移住は比較的
少ないものとなっている。しかし、メキシコは大部分が都市部で構成される国家で
あるため、合計でのフローの概算では半分を占める都市部において発生することは
重要な鍵となる。加えて、潜在的な移民が都市部出身の者かあるいは農村部出身か
によって、彼ら移民の意思決定は、求人先の仕事の質によって強く条件付けられる
が、農村部の労働者は、より多くの仕事がある場合、都市部のメキシコ人と比較し
てより頻繁に移民する傾向がある。
あらゆる種類の技能開発における、二国間あるいは多国間の効果的投資は、より効
果的で管理されたメキシコから国外への労働力送出を強化するための最も強力な
戦略の 1 つとなるであろう。
【参考文献】
1. Agustín Escobar Latapí and Susan Martin, México – U.S. Migration Management:
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国名:メキシコ (調査大項目 5:労働力の国外送出について)
作成年月日:2009 年 1 月 3 日
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