心理相談室ニューズレターL.A.News第48号を

L.A.News
ove nger 2013年9月2日発行
企画/編集:
栗田七重・関戸直子・
Tham, Yee Pink
目次
● オープンハウスより
1-2p
● 相談員 自己紹介
2p
● 北山修先生 インタビュー 3p-5p
● 「私の塞翁が馬」
6p
9月のご挨拶
残暑がまだまだ厳しい毎日
ですが、今年の夏の季節を、
皆様はどのようにお過ごしで
したでしょうか。熱い夏から
涼しい秋への変わり目は、自
分のエネルギーの使い方、体
と心の休憩の取り方が随分と
変化するように思います。
さて、今回のL.A.Newsは、
特別記事として北山先生のイ
ンタビューが掲載されていま
す。精神分析・ミュージシャ
ン・桜・嫉妬とたくさんの
「ことば(言葉)」が散りば
められています。
どうぞL.A.Newsの記事を
読んで、心落ち着ける秋のは
じまりをお過ごしください。
国際基督教大学
高等臨床心理学研究所
心理相談室
〒181-8585
東京都三鷹市大沢3-10-2
ICU心理相談室(Psychological Consulting
Services) PCS ニューズレター 48号
オープンハウスから
心理相談室では毎月1回、地域と学内の皆様に向けて「オー
プンハウス」を行なっています。L. A. Newsではオープンハウ
スに参加した相談員が心の動いたことを毎月お伝えしています。
6月のオープンハウスより
6月のオープンハウスは、脇谷
先生の小講演から始まった。先生は、
今年度のテーマである 巡り来るい
のち から、精神分析についてのお
話をされた。精神分析とは、フロイ
トによって発見された人間の心を探
求する方法である。そこで用いられ
る基本的な方法は自由連想法と呼ば
れる。これは、頭に浮かんでくるこ
との全てを批判・選択することなし
にそのまま言葉にしていくという手
法である。脇谷先生は精神分析を受
けることで、ご自分の分析家に対し
て、普段の人間関係で抱く以上の、
人間が人間に対して感じるありとあ
らゆる感情を体験されたという。そ
して、カウチに横たわって自由連想
をしていく中で、分析家と共に居る
ところで語っている自分の言葉が自
分自身に返ってくること、「言霊」
というものを感じられたとも仰った。
私には、人前で話したり何か発表
をしたりするとき、頭の中で考えて
準備してから話をしようとするとこ
ろがある。講演を聞きながら、ある
先生が「考えてから、ではなくて、
考えながら語りなさい」と私に言っ
て下さった言葉を思い出した。その
先生は、私が初めて発表をしたある
場面で、「今のあなたの中にある喜
びについて教えて」と仰った。私は
緊張からくる不安のあまり、それ以
外の感情が自分の中にあるとは考え
ていなかった。しかし、意識してい
なかった私の中の喜びについて、考
えながら語り始めると、その発表の
時間と場所を私がどのように体験し
ているのかについて、自分でも驚く
ほどありのままに描写することがで
きた。誰かに何かを伝えようとして
語ったことでも、それが自分の中に
ある感情を伴った「生きた言葉」で
あると自分にも返ってきて、自分で
も気づいていなかった私についての
新しい何かを、私自身にも教えてく
れるのかもしれない。
小講演の後は、箱庭のワークシ
ョップ、一文字書のワークショップ、
感じたことを自由に語り合うフリー
グループが行われた。私はフリーグ
ループに参加させて頂いた。さまざ
まなお気持ちや体験を語って下さる
参加者の方々の言霊は、私の心にも
強く響いた。そこではいろいろな感
情に揺れながらも、参加者全員が作
り出す、独特の安全な時間を共有す
ることができたと感じた。
自分の気持ちを言葉にして誰かに
伝えるということは、時にとても勇
気が必要なことでもあると考える。
しかし、共に居てくれる人を前にし
て語ることは、自分ということを理
解したり、自分がどのような影響を
受けたり与えたりしながら生きてい
るのかを考えていく上での大きな助
けになるということを、改めて感じ
た1日であった。 (野間 麻理子)
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L. A. News
PCS ニューズレター48号 相談員紹介
心理相談室には、たくさんの職
員や相談員の先生方がいらっしゃ
います。L. A. Newsでは毎回、心
理相談員のうちおふたりに自分の
ことを紹介していただきます。
岡本 美穂先生
7月のオープンハウスより
今回のオープンハウスは「こころの願いを求めて」というテ
ーマに基づいて七夕会がありました。玄関や小講義を行う部
屋には笹が飾られ、どこかさわやかな雰囲気の中で始まりま
した。
思えば幼い頃私にとって七夕は、大人になるという私の夢
をかなえてくれる日だったように思えます。私の小学校は、
ちょうど7月7日が開校記念日だったので、普通であれば学校
にいる時間に、いつもより少しおしゃれをして出かけること
や、いつもは混んでいるので行けないような場所に行くこと
ができました。そんな風に平日に学外に出かけることが、な
んだか自分が大人と認められた証のような気がしてドキドキ
していました。多くの人が一度は抱いた夢かもしれませんが、
私は小さい頃早く大人になりたいと思っていました。大人に
なったらよくわからないけれど、漠然と格好良く生きられる
気がしていました。しかし成人した今は 、もっとゆっくり大
人になっても良かったなと正直少し後悔する気持ちもありま
す。いざ大人になると、憧れていたかっこよさとはほど遠い
不器用さが残っていることに気づきました。その反動かどこ
か子どもだからこそ当たり前だった日常、一日中時間を忘れ
て友達と外で遊ぶといった時間をもっと大事にしておけばよ
かったな、と思う気持ちが心の片隅にありました。
しかし、今回オープンハウスに参加する中で、単に過去を
嘆くことだけではなく、育てなおすこともできるかもしれな
いと感じました 。それは、昔の写真を眺めてみる、友達と語
り合うといった小さなことから始められると思います。失っ
たと思っていても、じっくり見つめてみると忘れていたこと
をたくさん思い出したり、新たな視点からそのことについて
考えたりすることもできるのではないでしょうか。実際短冊
を自分で書いたときと他の人の願いを聞いたときで、それぞ
れ違う幼い頃の願いを思い出すことができ、それが今の自分
と遠回りながらもつながっていることに気づきました。時間
はかかるかもしれませんが、そういう失ってしまったと思う
ものを育てる過程の中で、自分の得たものの大切さに改めて
気づくこともあるかもしれないと思いました。(福島 玲子)
私は、スキューバダイビングが好
き で す。 海 の 中 で 聴 こ え る の は、
水の音、そして自分の呼吸する音
です。音に溢れた日常生活では自
分の呼吸の音などは聞こえず、自分
が生きているということを忘れて
しまうように感じることがありま
す。
大きな海の中で、ただ息をして
足を動かして進んでいく…そんな体
験は、私の中の生を感じる時間で
あり、日常生活の中で忙しかった
自分を整理する時間でもあります。
海に行くことはなかなか難しいで
すが、私は時々、静かな場所で目
を瞑って海の中でのあの感覚を思
い出すことで、自分の心と対話を
しています。
金見 志穂先生
私は「ありのまま」の自分を見る
こと、感じられることに関心があ
ります。最近思うこととして、私自
身の中で、大人な部分と子どもの
部分がせめぎ合うことがあります。
上手く切り替えて、大人な対応を
する部分と、思いっきり自由にな
れる子どもの部分とをともに生き
たいと思うのですが、なかなかそ
うは出来ませんでした。 私は映画を見ることが好きで、
映画を通していろいろな『自分』
との出会いがあるように感じてい
ます。Camp Rockという映画では、
主人公が理想の自分と現実の自分
との間で葛藤しつつも、自分とは
何かを追求していきます。自分のあ
り方と向き合っていた主人公は最
終的にその答えを見出します。その
姿は活き活きとして、本当に魅力
的です。私も自分が自分である感
覚に出会いたいです。
2
PCS ニューズレター4
8号 L. A. News
北山 修先生インタビュー
何かちょっと人前に出たらその状況
に曝され、集団ができたらすぐ競争
が始まると思う。だから人前へ出る
ということ。一人であれば嫉妬にも
う巻き込まれないから、引きこも
り・オタクとかって呼ばれているの
はそういう状況からの撤退でしょう
ね。だからセラピストに彼らが会っ
た瞬間に、もうセラピストの方が社
会に参加できている。ICUに入れて
こういうところで勉強できているっ
てことが、うらやましい可能性があ
るわけで、みなさんきっと嫉妬され
るわけですよね。そういう気持ちが
わからないと援助もできないので、
私たち自身が嫉妬され、また嫉妬す
る存在でいいと思う。これを避けて
生きていくことは社会に参加する上
で無理だろうと思う。それで自然な
情緒で多くの場面で危険な効果を発
揮する。いわゆる誤解を生んで悪巧
みをされて社会から排除されるなん
てこと、長い人生の中で何回も起き
ます。それは誤解であったっていう
ことを示すためにも、生き残ってい
かなければならない。それに強くな
らなきゃいけない。「あーこれ嫉妬
されているな」と知ることって、そ
の場面に強くなることだろうと思う
よ。嫉妬はすぐそこにあるよ。それ
が物事を良くしたり、革命を起こし
たり、パフォーマンスを向上させて
いるのだから。これは大事にしたい
エネルギーですよね。
*
雨宮:「あの素晴しい愛をもう一
度」という曲というのは、誰に向け
て歌われている曲なのでしょうか。
北山先生:僕はそのことについて
「共視論」というものに、あるいは
幻滅論という本にも書いているんだ
けども、やっぱり二人で肩を並べて
同じものを見て美しいっていうのは、
母子関係にももちろん原点があるし、
恋人同士とか友人、どこにでもある
愛だと思う。愛の関係はどこにある
のか、それは見詰め合う2人ではな
くて肩を並べる2人であって、これ
は普遍的な、人間の繰り返しにある
と思う。だから誰に向けて歌われた
のかというと、一つの解釈は一緒に
歌った加藤和彦との間にあったとい
う解釈があると思う。それは僕が一
番気づかなかったところだと思うん
だよね。一緒に音楽活動をやったこ
との間にあって、彼を失ってみて感
じている類の愛だろうと。でもそれ
は同時に普遍的に色んな人が経験し
ている横並びの愛、横のつながりだ
と思う。愛ってどこにあるって、み
んなは見詰め合う2人にあると思い
がちだけど、同じものを評価してい
る2人の間の横に愛ってあるんだと
思う。そこがあの歌のみなさんに愛
されている理由だと思うんだよね。
それは「星の王子様」書いた、フラ
ンスの作家のテグジュペリが、「愛
とはお互い見詰め合うことではなく、
共に同じ方向を見つめることであ
る」と言っているんだよね。また一
方で、浮世絵の絵の中でそういった
ことが描かれているのです。昔から
作家たちはそれを書いていた。だか
ら私もまた普遍的な物を書いたのだ
と思う。それはみんな横並びの愛だ
よね。日本の夫婦なんてそんな会話
ないですよ。むしろ孫を見て、同じ
もの眺めているのが良くある光景じ
ゃない。あるいは子どもを見ている。
そういう眼差しじゃないかと思うん
だよね、二人の間に、横のつながり
を感じて。
北山先生のことばは、いかがでし
たでしょうか。次回は9月より着任
された橋本 和典先生からお話を伺う
予定です。
3
年間コラム
さいおう
私の『塞翁が馬』
『塞翁の馬が逃げたが、北方の駿馬を率いて戻ってきた。
喜んでその馬に乗った息子は落馬して足を折ったが、ために
戦士とならず命長らえたという故事。人生は吉凶、禍福が予
測できないことのたとえ』
ー広辞苑 第五版よりー
『塞翁が馬』とは、『人間万事塞翁が馬』とも言う中国の故
事に由来する言葉です。一見すると悪い出来事が幸いをもたら
したり、幸運だと思ったことがそうではなかったことは、誰も
が人生の時間の流れの中で体験していることではないでしょう
か。
今年は『塞翁が馬』をテーマに、相談員に人生と巡り合わせ
の妙を語ってもらいましょう。
L. A. News
私は、絵本の読み聞かせの専
●心理相談室は、
9月16日(祝)・9月23日
(祝)・10月14日(祝)・
11月4日(祝)は閉室となり
ます。
●厳しい夏の暑さを乗り越えて、自
分をみつめなおしたくなるような読
み応えのある記事がお届けできたら
幸いです。
(栗田 七重)
●思い切って、秋のレイアウトにし
てみました。残暑も秋の一部なので
しょうか。
(関戸 直子)
●猛暑が続いている中、大変でした
が、少しずつ編集に対する熱意が湧
いて来ました。その熱意をお届けす
ることができると嬉しいです。
(Tham, Yee Pink)
国際基督教大学
高等臨床心理学研究所
心理相談室
〒181-8585
東京都三鷹市大沢3-10-2
※L. A. News掲載記事の著作権は、
国際基督教大学高等臨床心理学研究
所 心理相談室とその執筆者に所属
します。それらの許可なく転用・複
製することを禁じます。
<塞翁が馬イメー
ジ > PCS ニューズレター48号 門家である。絵本の読み聞かせ
を研究している。2年前には考
えもしなかったことだ。久しぶ
りに会う友人にそのことを話す
と、驚きや「なんで?」と反応
が返ってくる。当然だと思う。
自分だって驚いているのだから。
2011年3月11日。東日本大
震災。震度6クラスの地震がと
きどきある北海道に育った私は、
小学生のときの釧路沖地震など
を思い出さずにはいられなかっ
た。だが、東日本大震災ははる
かにそれを超えるもので、報道
には圧倒されっぱなしであった。
水位が上がっていき、大地を飲
み込んでいく自然の力の恐ろし
さに圧倒され、報道から目が離
すことができなくなった。震災
報道の見過ぎである。自分の不
安に対処し、コントロールしよ
うという試みであるが、不安を
増長させる悪循環だったと思う。
2年の時を経て、ゆとりを持っ
て振り返ると分かることだが。
結果としてではあるが、こう
した報道をたくさん見ていてい
たことで、東日本大震災に対す
る様々なボランティア活動を知
ることができた。絵本の読み聞
かせ活動や、絵本を現地に送ろ
うという活動もその1つである。
そのころ、前所長の小谷先生は
絵本の持つ力を研究し始めてい
た。その流れもあり、絵本の読
み聞かせのワークショップをや
ってみるよう勧められ、月1回
ワークショップをやり始めたの
がきっかけとなった。読んで、
声にし、伝えることは元から好
きだったので、まずは読むこと
が楽しいという感覚を大事にす
ることから始めた。
さらにワークショップを発展
させるために役に立ったのは、
高校時代、毎日やっていた発声
練習だった。ワークショップ中
にその場の思いつきで実験的に
取り入れてみた。発声練習をす
ると、読み手の緊張感がほぐれ、
また声に気持ちやエネルギーが
乗り、深みがでてきた。余韻と、
独特の間も生まれた。読み聞か
せが生き生きと、そして、のび
のびしてきたのである。それぞ
れの読み手らしさが伝わってく
るようになった。
この絵本の読み聞かせをライ
フワークの一つにしていきたい
と思っている。東日本大震災を
きっかけに、絵本の読み聞かせ
ワークショップが生まれた。発
声練習という過去の経験が絵本
の読み聞かせワークショップと
結びつき、発展した。今から未
来への私の「流れ」を、絵本の
読み聞かせとともに作っていき
たいと思っている。
(高田 毅)
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