金時豆エタノール抽出物のアポトーシス誘導作用の検討(PDF: 43.3 KB)

研究ノ ー ト
金時豆エタノール抽出物のアポトーシス誘導 作用の検討
鳥居貴 佳 * 1 、近藤徹弥 * 1 、角 田有紀 * 2 、竹内 啓子 * 1
A popt os is -i nduci ng A cti vit y of Et ha nol Ext ra ct s of Phas eolus vulga ris
Tak ayosh i TORII* 1 , Te tsu ya KONDO *1 , Yuk i K AKUDA* 2 an d K e iko TAKEUCHI* 1
Foo d Re se ar c h Ce nte r, AI TE C * 1* 2
金 時 豆 戻 し 汁 を 合 成 吸 着 剤 ダ イ ヤ イ オ ン HP -20 に 吸 着 さ せ 、 20、 4 0% エ タ ノ ー ル で 溶 出 し た 。 40% エ タ
ノ ー ル 溶 出 画 分 を 培 地 中 に 1mg/mL と な る よ う に 添 加 し 、ヒ ト 印 環 胃 が ん 細 胞( KATOⅢ )を 培 養 し た と こ ろ 、
10 時 間 後 に は 生 細 胞 率 が 約 30 % と な り 、細 胞 形 態 の 変 化 が 見 ら れ た 。さ ら に 、細 胞 か ら DNA を 抽 出 し て ア
ガ ロ ー ス ゲ ル 電 気 泳 動 を 行 う と 、断 片 化 し た DNA が 検 出 さ れ た 。こ れ ら の こ と か ら 金 時 豆 戻 し 汁 に は KA TOⅢ
細胞に対し てアポト ーシスを 誘導する 成分が存 在するこ とが明ら かになっ た。
1.はじめに
ーで 濃縮した後 、凍結乾 燥を行い細 胞培養時に 添加する
食品 には大きく 分けると 3 つの機能 があると考 えられ
てい る。栄養素とし ての働き(一次 機能)、おい しさや香
り、 食感などの 五感に訴 える働き( 二次機能) 及び病気
を予 防する働き (三次機 能)である 。近年、健 康長寿化
社会 に対する意 識の向上 により食品 が有する三 次機能が
注目 を集め、日 常的に摂 取する食事 (食品)を 制御する
試料 として用い た。
2.2 供試細胞 及び培養条 件
HL-60 ヒト前骨 髄性白血 病細胞( JCRB0085)は ヒュー
マン サイエンス 研究資源 バンクより 提供を受け た。
KATOⅢヒト印環 胃がん細 胞(TKG0213)は東北大 学加齢
医学 研究所より 提供を受 けた。
こと により健康 を維持し たいという 需要が見ら れるよう
共に 10%ウシ胎 児血清、 硫酸ストレ プトマイシ ン、ペ
にな ってきた。 このため 、製薬・食 品企業、大 学、研究
ニシ リン G を含 む RPMI-1640 培地( Sigma 製)を 用いて、
所な どにより多 くの食品・食材を対 象に、生活 習慣病(高
37℃ 、95%Air-5%CO 2 の条件で 培養した。
血圧 症、肥満、 糖尿病な ど)の予防 作用、抗酸 化作用、
2.3 細胞数の 測定方法
発ガ ンの抑制作 用、免疫 賦活機能な ど種々の機 能性の検
抽 出物 が 細胞 の 増殖 に及 ぼ す影 響を 調 べる ため にト
リパ ンブルー色 素排除試 験法を用い て細胞数を 計測した 。
証と 製品化が進 められて いる。
我々 は発酵食品 、食品廃 棄物を中心 に機能性の 一つと
血球 計算盤を用 いて全細 胞数と生細 胞率(全細 胞数に対
して アポトーシ ス誘導能 について検 討を行った ところ、
して 色素染色さ れなかっ た細胞の割 合)を計測 した。
金時 豆戻し汁や 酒粕の上 澄み液抽出 物がヒト前 骨髄性白
2.4 アポトー シスの検出 方法
血病 細胞 HL-60 に対して アポトーシ スを誘導す ることを
1)
アポトーシス に伴うク ロマチン DNA のオリゴ ヌクレオ
そこ で本研究で は、
ヒ ト印環胃が ん細胞 KATO
見出 した 。
ソー ム単位の切 断物(断 片化 DNA) を検出する ため、細
Ⅲを 用いて培養 時間、添 加濃度の変 化による生 細胞率の
胞か ら DNA を抽 出し、ア ガロースゲ ルを用いて 電気泳動
変化 について検 討を行っ た。
を行 った。
2.5 クロマチ ン凝縮の確 認方法
2.実験方法
遠心 分離により 細胞を回 収し、グル タルアルデ ヒド液
2.1 試料
の添 加により細 胞固定を 行った。固 定した細胞 をスライ
愛 知 県内 の 惣菜 製造 工場 よ り提 供を 受 けた 金時 豆戻
ドグ ラスに移し 、ヘキ スト 33258(ナカライ テスク( 株)
し汁 (金時豆を 吸水させ る際に排出 される汁) をガラス
製) 液を添加し て DNA を 染色した。 蛍光顕微鏡 を用いて
カラ ム管に詰め た合成吸 着剤ダイヤ イオン HP‐20(三菱
クロ マチンの観 察を行っ た。
化学( 株)製)に吸着さ せた。素通り した画分を 回収後、
カラ ムを蒸留水 で洗浄し 、20、 40% エタノール で段階的
に吸 着物を溶出 させた。 それぞれの 画分をエバ ポレータ
*1 食品工業技術センター
応用技術室
*2 食品工業技術センター
応用技術室(現環境部
水地盤環境課)
3.実験結果及び考察
た。HL-60 細胞の生 細胞率は 0.1mg/mL の添加試 験区で約
3.1 試料添加 後の培養時 間による 生細胞率の 変化
80% であったが 、0.2 mg/mL の添加試 験区で約 20%と著
蒸留 水洗浄物及 び 20、40%エタノー ル抽出物を 培地に
しく 低下した。 一方、 KATOⅢ細胞で は濃度依存 的に生細
添加 し、KATOⅢ 細胞の生 細胞率を計 測したとこ ろ、20%
胞率 が低下し、 1mg/mL の試験区で 約 15%となっ た。
エ タノ ール抽 出物 よりも 40%エ タノ ール抽 出物 を添加
3.3 アポトー シス誘導作 用の検出
した 試験区で低 くなった 。そこで、 40%エタノ ール抽出
40%エ タ ノ ー ル 抽 出 物 を 添 加 し て 培 養し た 細 胞 か ら
物を 用いて試料 添加後の 培養時間に よる生細胞 率の変化
DNA を 抽出し 、
アガロー スゲル電気 泳動によ り断片化 DNA
を HL-60 細胞と KATOⅢ 細胞につい て測定した 。濃度を
の検 出を行った 。HL-60 細胞 及び KATOⅢ細胞で ヌクレオ
1mg/mL に なるよう に添加した ところ、 10 時間 経過後の
ソー ム単位に断 片化した DNA が分離され た(写真1 )
。
HL-60 細胞の生細 胞率は 約 10%、KATOⅢ細胞では 約 30%
この 結果からア ポトーシ スが誘導さ れているこ とが考え
であ った(図 1 )
。また 、40%エタ ノール抽 出物は HL-60
られ た。
細胞 に対してア ポトーシ スを誘導し た酒粕の抽 出物
1)
よ
M
1
2
M
1
2
り短 時間で生細 胞率を低 下させるこ とが明らか になった
(図 1a)
。
写真 1
断片化 DNA の検 出
(a)HL-60 細 胞, (b) KATOⅢ細胞
M ,分子量 マーカー ; 1, 1mg/mL; 2, 0.5mg/mL.
3.4 細胞内構 造の変化
40%エタノ ール抽出 物を 1mg/mL になるよ うに HL-60、
KATOⅢ細胞に添 加した。 ヘキスト 33258 で DNA を染色し
たと ころ、細胞 の核は断 片化し、ク ロマチン凝 縮を起こ
して いることが 観察され た。
4. 結び
金 時豆 戻し 汁のエ タノ ール 抽出物 を KATOⅢ細胞 に添
加し たところ、 アポトー シスを誘導 することが 明らかに
なっ た。
ま た、
時 間や濃度 を変化させて HL-60 細胞と KATO
図1
試料添加に よる生細胞 率の経時 変化
Ⅲ細 胞に添加す ると生細 胞率に差が 見られた。
(a)HL-60 細 胞, (b) KATOⅢ細胞
文献
3.2 試料添加 濃度による 生細胞率 の変化
生 細胞 率に 及ぼす 40%エ タノ ール抽 出物 の濃度 依存
性 を 0.06mg/mLか ら 1mg/mLまで段階 的に変化さ せて調べ
1 ) 鳥居 貴佳 ほか :愛 知県 産業 技術 研 究所 研究報
告 ,4 ,146(2005)