No.1 化学工学物性定数 基本物性 (担当 三島健司) 学籍番号 氏名 1 補助資料 目次 1. 化学工学物性定数の履修説明 1.1 化学工学物性定数の講義の進め方 1.2 注意点 4 4 5 2. 化学工学と物性定数 2.1 化学プラント・装置の設計・操作と物性値 2.2 インターネットによる情報収集 2.3 インターネットによるオンライン計算 2.3.1 標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算 2.3.2 気体の定圧モル熱容量のオンライン計算 2.3.3 蒸気圧(Riedel 式)のオンライン計算(1) 2.3.4 蒸気圧のオンライン計算(2) 2.3.5 臨界定数のオンライン計算 2.3.6 標準沸点のオンライン計算 2.3.7 液体の密度のオンライン計算 2.3.8 蒸発潜熱のオンライン計算 2.3.9 粘度のオンライン計算 2.3.10 熱伝達率のオンライン計算 6 6 6 10 12 15 16 18 19 20 21 22 23 24 3..製造装置の設計・操作での物性値 3.1 メタン改質プラントと供給する天然ガス 3.2 天然ガスの貯蔵・運搬技術 3.3 天然ガスの貯槽・運搬と蒸気圧 25 25 26 30 4. 熱物性 4.1 比熱・熱容量 4.1.1 比熱・熱容量を用いた基礎計算 4.1.2 熱容量の推算 4.1.3 データのない物質に対する熱容量の推算 4.1.4 化学プロセスでの熱容量 4.2 蒸気圧・蒸発潜熱 4.2.1 蒸気圧・蒸発潜熱を用いた基礎計算 4.2.2 データのない物質に対する蒸気圧の推算 33 33 38 40 40 43 45 45 50 5. 輸送物性 5.1 粘度 5.1.1 気体の粘度 51 51 51 2 5.1.2 液体の粘度 5.2 拡散係数 5.2.1 気体の拡散係数 5.2.2 液体の拡散係数 53 55 55 57 6. 臨界定数 58 7. 対応状態原理 69 8. 9. 87 組成計算 8.1 溶液モデルと物性 8.2 状態方程式と物性 物性計算を支援するコンピュータ技術 3 1. 化学工学物性定数の履修説明 科 目 名 期別 化学工学物性定数 単位数 開講年次 担 3 三島 2 後期 当 者 健司 1.1 化学工学物性定数の講義の進め方 化学工学物性定数の講義・演習・中間試験の場所・日程・内容は下表の通りです。 授 月/日・曜日 場 所 項 業 方 法 目 及 び 内 計 画 容 1 9月26日・月 センターC室 化学工学と物性定数 コンピュータを用いた物性推算方法 2 10月3日・月 センターC室 熱物性(1) 比熱、熱容量 3 10月17日・月 センターC室 熱物性(2) 蒸気圧、蒸発潜熱 4 10月22日・土 センターC室 臨界定数 臨界定数の推算とグループ寄与法 5 10月24日・月 センターC室 輸送物性 粘度、拡散係数 6 10月31日・月 センターC室 物性値の工業的利用 物性定数を用いた気液平衡組成の計算 7 11月7日・月 センターC室 物性値と高圧力技術 物性値を用いた高圧プロセスの設計 8 11月14日・月 センターC室 物性値と状態方程式 状態方程式を用いた組成計算 9 11月21日・月 センターC室 対応状態原理 対応状態原理を用いた物性推算 10 11月28日・月 センターC室 超臨界流体利用技術 超臨界流体抽出プロセスの設計 11 12月5日・月 12 12月12日・月 センターC室 演習(2) コンピュータを用いた物性計算(2) 13 12月19日・月 センターC室 演習(3) コンピュータを用いたプロセスの設計 14 1月10日・火 センターC室 まとめ 総合演習課題の解説。重要事項の整理と総括。 644教室 演習(1) コンピュータを用いた物性計算(1)中間試験 1 月 10 日・火は、予備日で、月曜の時間割です。 講義に持参するもの 持参するもの テキスト、ノート、化学工学物性定数補助資料、コンピュータ記憶媒体 (フラッシュメモリーまたはフロッピーディスク)、電卓、パスワード 4 1.2 注意点 はじめに 概 要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ この講義では、1年次の「基礎物理化学A,B」および 2,3 年次の「工業物理化学I、II」 「基礎化学工学」 を基礎とし、実際(非理想系)の化学工業で対象となる物質の蒸気圧、熱容量、臨界定数、粘度などの 物理化学的性質(平衡、輸送、熱物性)について概説し、それらを数値的に予測し、その値を用いて装 置および生産プロセスを設計・操作する方法について解説する。 また、多くの化学工業プロセスで使用される製造プロセスでは、その物質ごとの性質を利用しなけれ ばならない。そこでこの講義では、物質の個々の物理化学的性質を数値的に予測する方法(物性推算法) とあわせて、それらを利用した製造プロセスについても演習を交えて解説する。 学習目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 物質の蒸気圧、熱容量、臨界定数、粘度などの物理化学的性質(物性)に関する基礎知識が身について いること。物性値を推算し、製造プロセスの設計・操作に役立てる方法が理解できること。 教科書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 荒井康彦、岩井芳夫編:「工学のための物理化学」、朝倉書店 参考書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アトキンス「物理化学」 、東京化学同人 履修上の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 講義中に配布する資料ならびに補助資料は、各自がファイルに整理し、講義に必ず持参する こと。また、関数電卓、コンピュータ用記憶媒体(フラッシュメモリーまたはフロッピーディスク (3.5inch) )を持参することが望ましい。 成績評価の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 定期試験 80%と平常点 20%(中間テスト、小テスト、演習、宿題など)で評価する。 科目の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・B 群 「化学プロセス工学」コースでの位置づけ・・・・・・・・・・・ 学習・教育目標:(G) 総合情報処理センター使用上の注意 総合情報処理センターにてコンピュータなどを使用する場合、総合情報処理センターUSER’S GUIDE の使用注意をよく読んでから使用してください。特に、終了時に電源のきり忘れや、記憶媒体 (プロッピーディスクなど)の忘れ物をしないようにして下さい。 定期試験、中間テストに関する注意 定期試験、中間テストには、電卓を持参すること。電卓は、記憶機能を有するポケットコンピュータ や携帯電話のようなものは不可です。試験には筆記具、電卓以外は持ち込み不可です。テキスト、資料、 コピーなどは持ち込めません。なお、化学工学物性定数の講義では、数値を用いた具体的な計算を行い、 それらを中心に、定期試験、中間テストで出題します。講義には必ず出席すること。また、講義中の演 習も自分で実際に手を動かして、内容の理解と技術の習得につとめて下さい。 5 2. 化学工学と物性定数 2.1 化学プラント・装置の設計・操作と物性値 化学関連の装置を設計・操作するためには、取扱う種々の化学物質に対して、その性質(物性)を数 値として把握する必要がある。 物性値 化学装置の設計・操作に必要となる物質特有の性質 化学装置の設計・操作に用いられる化学物質の主な物性値には、熱容量(比熱)、潜熱、標準生成熱、 エンタルピー、反応平衡定数、反応速度定数、熱伝導度、蒸気圧、密度、粘度、拡散係数、溶解度、 臨界定数、標準生成熱、表面張力等がある。ここで注意すべきことは、同じ化学物質でもその状態が異 なると物性値も異なることである。例えば、身近な物質である水でも、固体である氷、液体である水、 蒸気である水蒸気のそれぞれで、熱容量も粘度も異なる。 きわめて多くの化学物質を対象として装置の設計・操作を行うためには、個々の化学物質の物性値を 迅速に入手しなければならい。化学便覧や種々のデータブックも数多く発行されており、多くの情報を 得ることができる。また、論文などからも多くの情報が得られる。 さらに、コンピュータ・IT技術の進歩にともないそれらの情報の取得がさらに容易になりつつある。 例えば、インターネットを利用して、物性情報を知ることもできる。また、化学装置の設計に頻繁に利 用されているアスペンプラスやプロIIなどのプロセスシミュレータでは、データや関数値として多くの 物性値が用意されている。これらの情報について、将来の仕事を想定して、自身で調べてみるとよい。 2.2 インターネットによる情報収集 社会で必要とされるコンピュータ・リタラシーの一つに、情報収集能力がある。ここでは、化学工学 演習 I,工業物理化学 II に引き続き、さらに、インターネットで物性に関しても情報収集を試みます。 検索サイトとしては、グーグル(Google)のホームページhttp://www.google.co.jp/やYahooのホームペ ージhttp://www.yahoo.co.jp/、などがありますが、ここでは、主にグーグル(Google)のホームページ http://www.google.co.jp/を利用します。 総合情報処理センター端末を使用したインターネットの利用 1) デスクトップ画面となっていることを確認する。 2) デスクトップ画面の左下のスタートボタンを下図のようにクリックし、各表示にポイン トして<Internet Explorer> または<Netscape Navigator>をクリックする。このよ うな操作を下記のように記述する。 スタートボタンをクリックし、<プログラム(P)>→<Internet Tools>→<Internet Explorer >→の順にポイントして、<Internet Explorer>をクリックする。 起動したら、グーグル(Google)のホームページhttp://www.google.co.jp/やYahooのホームページ http://www.yahoo.co.jp/、福岡大のホームページhttp://www.fukuoka-u.ac.jp/を見てみましょう。 文書ファイルのデジタルデータがある場合、前述の文章でhttp∼jpのように青く書かれたアドレス (URL)例えば「http://www.yahoo.co.jp/」についてCtrlキーを押しながらクリックするとリンク します。またはInternet Explorer のアドレス欄にこの部分(URL)を記入します。 百科辞典を調べるように検索した場合は、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』が便利で す。http://www.wikipedia.org/ 下記のリンクを使用することで、Googleの検索エンジンをウィキペデ ィアの検索に使用できます。Googleはウィキペディアのストップ・ワードやネームスペースを無視しま すし、複数言語を同時に検索することもできます。 Use Google to search Wikipedia 6 物性データを探すには、他にも次に示すような幾つかのサイトがある。 http://chemfinder.cambridgesoft.com/ ChemFinder http://webbook.nist.gov/ National Institute of Standards and Technology 例題 2.1 インターネットを利用して、物性情報を知る一例として、フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』でヘリウムの沸点などの物性値を調べてみましょう。 [解]フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』でヘリウムを調べた例を次に示します。 http://www.wikipedia.org/ をクリックするか、検索サイトで「Wikipedia」や「フリー百科事典」を キーワードとして検索すると下記の画面のメインサイトに入れます。 「日本語」でも 同じ単語を調 べてみましょ う。 通常、 「日本語」をクリ ックするのですが、今 回は物性に関連する英 語表現に慣れるため に、 「English」を選択 します。 図 2-1 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』のサイト ここで、Helium と入力して search をクリックする。 例 え ば 、 こ の 部 分 に 「 Helium 」 と 入 力 し て 、 Search をクリックする。 「Helium」と入力されている ので、Google Search をクリ ックする。 7 図 2-2 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』での検索 検索結果に次のような『ウィキペディア(Wikipedia)』の結果がでるので、それをクリックする。 Helium - Wikipedia, the free encyclopedia - [ このページを訳す BETA ] Properties of the element, including its history, applications, and characteristics. en.wikipedia.org/wiki/Helium - 87k - キャッシュ - 関連ページ ウィキペディア(Wikipedia)に記載の Helium に関する物性値および説明の一部を以下に示す。 表から、ヘリウムの沸点(BoilingPoint)は、4.22K とわかる。 表2-2 Wikipedia の Helium の物性値(English) Physical properties 表 2-1 日本語で調べた場合 物理特性 相 gas Density (0 °C, 101.325 kPa) 0.1786 g/L Melting point (at 2.5 MPa) 0.95 K (-272.2 °C, -458.0 °F) Boiling point 4.22 K (-268.93 °C, -452.07 °F) 0.0138 kJ/mol 気体 融点(加圧下) 0.95 K (-272.20℃) 沸点 Phase 4.22 K (-268.93℃) ×10-3 m3/mol モル体積 21.0 気化熱 0.0845 kJ/mol Heat of fusion 融解熱 5.23 kJ/mol Heat of vaporization 0.0829 kJ/mol 蒸気圧 不明 Heat capacity 音速 (293.15 K) 970 m/s (25 °C) 20.786 J/(mol·K) Vapor pressure P/Pa 参考までに、英語と日本語の説明部分も下記に示す。 at T/K 1 10 100 1k 10 k 100 k 3 4 Helium (He) is a colorless, odorless, tasteless, non-toxic, nearly inert monatomic chemical element that heads the noble gas series in the periodic table and whose atomic number is 2. Its boiling and melting points are the lowest among the elements and it exists only as a gas except in extreme conditions. Extreme conditions are also needed to create the small handful of helium compounds, which are all unstable at standard temperature and pressure. Its most abundant stable isotope is helium-4 and its rare stable isotope is helium-3. The behavior of liquid helium-4's two varieties—helium I and helium II—is important to researchers studying quantum mechanics (in particular the phenomenon of superfluidity) and those looking at the effects that near absolute zero temperatures have on matter (such as superconductivity). Helium is the second most abundant and second lightest element in the periodic table. In the modern Universe almost all new helium is created as a result of the nuclear fusion of hydrogen in stars. On Earth it is created by the radioactive decay of much heavier elements (alpha particles are helium nuclei produced by the decay of uranium). After its creation, part of it is trapped with natural gas in concentrations up to 7% by volume. It is extracted from the natural gas by a low temperature separation process called fractional distillation. In 1868 the French astronomer Pierre Janssen first detected helium as an unknown yellow spectral line signature in light from a solar eclipse. Since then large reserves of helium have been found in 8 the natural gas fields of the United States, which is by far the largest supplier of the gas. Helium is used in cryogenics, in deep-sea breathing systems, to cool superconducting magnets, in helium dating, for inflating balloons, for providing lift in airships and as a protective gas for many industrial uses (such as arc welding and growing silicon wafers). Inhaling a small volume of the gas temporarily changes the quality of one's voice. ヘリウム(Helium)は原子番号 2、元素記号 He の元素。無色、無臭で、最も軽い希ガス元素でもあ る。すべての元素の中で最も沸点が低く、超高圧下でしか固体にならない。ヘリウムは不活性の単原子 ガスとして存在する。また、存在量は水素に次いで宇宙で 2 番目に多い。ヘリウムは地球の大気中にも 存在し、鉱物やミネラルウォーターのなかにもとけ込んでいる。天然ガスと共に豊富に産出し、気球や 小型飛行船の浮揚用ガスとして用いられたり、液体ヘリウムを超伝導用の低温素材としたり、深海へ潜 る際の充填ガスとして用いられている。 検索には、 「ヘリウム 標準沸点」なども入力してみましょう。 http://www.jiga.gr.jp/sangyou/youso.htm 日本産業ガス協会のサイトを調べてみましょう。 日本産業ガス協会のサイトより引用 産業ガスって何?―種類別解説 窒素 [Nitrogen] 窒素は無色・無味・無臭のガスで、空気の約 78%(容積比)を占めており、比重 は0.97(空気=1)で沸点は−196℃です。また、たんぱく質やアンモニアなど の窒素化合物として、自然界にたくさん存在しています。常温では化学的に不活 性で、他の物と化合することはありません。工業的には、空気を冷却することによ り酸素、アルゴンなどとともに分離・精製して製造されます。 ヘリウム [Helium] ヘリウムは無色・無臭・不燃性のガスで、大気中に約 5.2ppm存在しており、比重 は0.14(空気=1) 、沸点は−269℃です。化学的に はまったく不活性で、通 常の状態では他の元素や化合物と結合しません。理論的には 空気から分離抽 出できますが、含有量があまりに希薄なため、工業的には天然ガス中に約 0.5% 前後含まれるヘリウムを分離・精製します。また、ヘリウムの沸点である−269℃ は、沸点としてはもっとも低い温度です。 化学関連のサイト データや情報だけでなくバーチャルな実験や計算も可能です。オンライン計算 については、次節で紹介します。ここでは、幾つかの化学系サイトを紹介します。 http://www.chem.ox.ac.uk/vrchemistry/ Virtual Chemistry(オックスフォード大より引用) 例えば、では、Co+2 をクリックして、SodiumHydroxide をクリックすると、酸性のコバルト溶液にア ルカリを添加して場合の反応が、PlayMovie ボタンを押すとビデオで見られます。Reset ボタンでやり 直せます。 9 2.3 インターネットによるオンライン計算 インターネットを用いると、オンラインで計算を行うサイトも利用できる。単位換算などの簡単な計 算を行うサイトは数多くある。「単位換算」などのキーワードで検索してみるとよい。それらに使用さ れているプログラムについては、2年次の「化学工学プログラミング」の講義資料の「単位換算」の中 で既に解説しているので、参照されたい。「Calculator」などのキーワードで調べてみるとよい。 化学工学関連のサイトを丹念に集めた次のMartindale's Calculators On-Line Center –オンライン計 算 のサイトも参考にされたい。このサイトは、当学科の諸岡教授よりご紹介いただいたものです。ご 協力に謝意を表します。 http://www.martindalecenter.com/Calculators.html このサイトがたちあがったら、画面右横のスクロールバ ーをドラッグして下げて、次のことばの書かれた枠の中から、「ENGINEERING:A-Z」のことばを探し、ク リックします。 MATHEMATICS ~ STATISTICS SCIENCE: A-Z CHEMISTRY ENGINEERING: A-Z (工学の意味です) 「ENGINEERING:A-Z」のページには、多くの工学のページがありますので、その中から、CHEMICAL ENGINEERINGをクリックする。http://www.martindalecenter.com/Calculators4_5_Che.html ここを クリックしても同じです。興味あるものを選択して、オンライン計算も体験して下さい。 http://www.pirika.com/chem/index.html Virtual Material and Process Simulation Center 物性のデータやそのデータを用いた物性計算に関して、そのデータの価値から、無料で公開されてい るサイトは多くない。有料のサイトもあるが、簡単なものは無料のサイトなどもある。 次に示す 「Virtual Material and Process Simulation Center」のサイト(Martindale's Calculators On-Line Center –オンライン計算 にも掲載されています。)は、化学装置の設計・操作に必要な物性値を推算す るためのサイトです。計算技術のレベルも高く、使いやすいサイトですので、ここでは使い方を中心に 説明します。物性値に関しては次章以降に説明します。 まず、次のサイトをクリックしてみましょう。 http://www.pirika.com/chem/index.html 「Virtual Material and Process Simulation Center」 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより引用) 10 ここをクリックして物性 値のサイトへ移動します。 標準沸点、臨界値、蒸気圧、 密度、蒸発潜熱、溶解度パラ メータ、熱容量、粘度、水素 結合エネルギ、標準生成熱、 標準生成 Gibbs エネルギー、標準 エントロピ、屈折率などを推算で きます。 図 2-3 Virtual Material and Process Simulation Center のホームページ :::******************************::: 物性推算のサイトへ行くように「Thermo Chemical Properties Estimations」をクリックしましょう。 なお、このサイトで用いられている単語は、物性値の基本的な単語が多いので、下記の表にまとめて示 す。大学院入試や入社試験の純勉強にも活用して下さい。 表 物性の英単語 Chemical 化学の Property 物性、性質 Estimation 推算 Boiling Point 標準沸点 Critical Properties 臨界値 Vapor Pressure 蒸気圧 Density 密度 Heat of Vaporization 蒸発潜熱 Solubility Parameter 溶解度パラメータ Heat Capacity 熱容量 Viscosity 粘度 Hydrogen Bonding Energy 水素結合エネルギー Heat of Formation 標準生成熱 Gibbs energy 標準生成 Entropy of Formation 標準エントロピ Refractive Index 屈折率 Gibbs エネルギー ホームページ画面の作動不良への対応 インターネット関連で調査した場合、画像で3次元表示がう まく作動しない場合があります。目的のホームページにせっかく到達しても、そこの画像が表示されず 何も出来なかった経験をされた方もあると思います。ホームページの中に「JAVAアプレット(計算を したり画像を動かしたりなどできます。)」を置いて、InternetExplorer や Netscape などのWWWブ ラウザの中で動作させることが出来ます。「JAVAアプレット」と言うのは InternetExplorer や Netscape などのWWWブラウザ上で動くプログラムです。これが動作しないということは、 (1) WWW ブラウザの設定で、JAVA アプレットが動かないようになっている (2) WWW ブラウザに JavaVM が入っていない Internet Explorer の場合、 (1)であれば、メニューバーから[表示(V)]→[インターネットオプション(O)] [セキュリティー]を「中(安全)」に設定してください。または、メニューバーから[ツール(T)]→[イン ターネットオプション(O)]→[セキュリティー]、「スクリプトの"JAVA アプレット"を有効」「Microsoft VM の"Java の許可"」に設定してください。 また、[ツール(T)]→[インターネットオプション(O)]の「詳細」に「Microsoft VM」や"「Java」そのも のがみあたらない場合、 「JavaVM」や「Microsoft VM」をそのコンピュータにインストールする必要 が あ り ま す 。 こ れ ら に つ い て は 、 http://www.microsoft.com/japan/java/xp.asp や マ イ ク ロ ソ フ ト Windows Update http://windowsupdate.microsoft.com/ を参照し、XP用の Microsoft VM をイン ストールしてください。サン マイクロシステムズ JavaVM ダウンロードページ(英語) http://java.sun.com/getjava/download.htmlサン マイクロシステムズの「JavaVM」をインストする場 11 をクリックしてください。しばらくすると、JavaVM のダウン 合は、上のページに行き ロードが開始されます。 http://hp.vector.co.jp/authors/VA006860/howto_java.htmlより引用 ::: *********************************** TCPE: Thermo Chemical Properties Estimations 図 2-4 Chemical Properties Estimations Therno Chemical Properties Estimationsn のサイト 熱化学物性の推算のサイト 2.3.1 標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算 標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーに関しては、既に基礎物理化学 A,B、工 業物理化学 I,II で学習しているので、ここでは、プロパンを例にその求め方を示します。 図 2-4 の中から、標準生成熱、標準生成Gibbsエネルギー、標準エントロピを計算するためのサイトへ行くため に、9のHF,G,S calculate Heat of Formation, Gibbs energy of Formation, and Entropy of Formation を選択します。ここで、HF、G、Sはそれぞれ Heat of Formation(標準生成熱), Gibbs Energy(標 準生成 Gibbs エネルギー),Entropy(標準エントロピー)です。 Heat of Formation, Gibbs Energy,Entropy of Formation by JAVA applet Draw molecule at cyan panel. How to use animation1, animation2 Change atom type or delete atom, mouse down and up at the same atom. 12 図 2-5 標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算画面 標準生成熱、標準生成Gibbsエネルギー、標準エントロピーのオンライン計算画面が現れたら、水色で 表示された画面左上のパレットに今回物性値を求めるプロパンの構想式(C−C−C)をマウスで描き ます。描き方が分からない場合は、画面右上のanimation1,か animation2をクリックしてデモのムービ を見るとよいでしょう。実際には、簡単で、まず、水色で表示された画面左上のパレットの適当な部分 にマウスでクリックすることで、最初の炭素の位置を決め、クリックしたままドラッグして2個目の炭 素位置(適当な位置)でクリックをはずします。その位置で再度クリックしてドラッグして3個目の炭 素の位置(適当な位置)でクリックをはずして、プロパンがパレット上に描けます。水素は自動的に付 加される。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより使用した 場合の例を示す。) 図 2-6 プロパンの標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピー計算 プロパンがパレット上に描けたら、パレットの右横の「Calc」ボタンをクリックすると、標準生成熱、 標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算がなされ、図 2-6 のように結果が表示 されます。今回の場合、標準生成熱が-101.761 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-14.022383 kJ/mol、 標準エントロピー-276.42014 J/mol であるという推算結果が表示される。文献の実測データと比較して みるとデータでは、標準生成熱が-103.85 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-23.47 kJ/mol、標準エン トロピー269.91 J/mol であるから、誤差が少ないことがわかる。また、煩雑なデータの調査・測定を行 わずに、分子の絵を描くだけで標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのおよその 値がもとめられるこの方法が、化学関連の装置の設計や操作に有用であることがわかる。 プロパンのような飽和炭化水素以外でも計算できる。極性物質の一例として次に、エタノールについ ての計算例を示します。パレット上で分子を描く方法はプロパンを描いた方法と同様ですが、末端を炭 素の一つを酸素に置き換える必要があります。 プロパンの計算が終わったら、数値を記録した後、図 2-6 の「Calc」ボタンの下にある「Clear」ボ タンをクリックして、エタノールの計算に移ります。プログラムを終了する時は、「戻る」ボタンでも どれます。 エタノールをパレットに描くには、まず、先ほどと同様に図 2-7 に示すようにプロパンを描きます。 さらに、末端の炭素を再度クリックすると、図 2-7に示すように、パレットの左下に CNOS と表示さ 13 れます。ここで、C;炭素、N;窒素、O;酸素、S;硫黄を表します。エタノールを作るので、Oを クリックします。羽 2-8 に示すようにプロパンの末端の炭素の一つが酸素に置き換わり、エタノール分 子がパレット上に表現されます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホー ムページより使用した場合の例を示す。) 図 2-7 エタノールを描く場合(1) 図 2-8 エタノールを描く場合(2) エタノールがパレット上に描けたら、パレットの右横の「Calc」ボタンをクリックすると、標準生成熱、 標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算がなされ、図 2-6 のように結果が表示 されます。今回の場合、標準生成熱が-228.99548 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-152.25597 kJ/mol、 標準エントロピー-241.16019 J/mol であるという推算結果が表示される。文献の実測データと比較して みるとデータでは、標準生成熱が-276.98 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-174.14 kJ/mol、標準エ ントロピー160.67 J/mol であるから、誤差が少ないことがわかる。 プロパン、エタノールのような分子以外でも計算できる。一例として次に、アセトンについての計算 例を示します。パレット上で分子を描く方法はプロパンを描いた方法と同様ですが、中央の炭素にもう 一つ炭素原子を付加し、それを酸素に置き換えた後、炭素と酸素の結合を二重線に代える必要がありま す。 エタノールの計算が終わったら、数値を記録した後、図 2-8 の「Calc」ボタンの下にある「Clear」 ボタンをクリックして、アセトンの計算に移ります。 アセトンをパレットに描くには、まず、先ほどと同様に図 2-9 に示すようにプロパンを描きます。 さらに、中央の炭素をクッリクし、図 2-10 に示すように適当な位置までドラッグしはなすと、もう一 つ炭素原子が中央の炭素に付加されます。新たに付加した炭素を再度クリックすると、図 2-11 に示す ように、パレットの左下に CNOS と表示されます。ここで、C;炭素、N;窒素、O;酸素、S;硫 黄を表します。アセトンを作るので、Oをクリックすると、図 2-12 に示すような分子が描かれます。 次に、この炭素を酸素の間の結合を図 2-13 のように二重にしてアセトンにします。 図 2-9 アセトンを描く場合(1)図 2-10 アセトンを描く場合(2)図 2-11 14 アセトンを描く場合(3) 図 2-12 アセトンを描く場合(3) 図 2-13 アセトンを描く場合(3) この炭素と酸素の間の結合を二重にするには、図 2-12 で、再びこの炭素と酸素の間をクリック&ドラ ッグすると、図 2-13 のように結合が二重になります。これで、アセトンになります。 アセトンがパレット上に描けたら、パレットの右横の「Calc」ボタンをクリックすると、標準生成熱、 標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算がなされ、図 2-6 のように結果が表示 されます。今回の場合、標準生成熱が-212.87228 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-142.33011 kJ/mol、 標準エントロピー-227.52106 J/mol であるという推算結果が表示される。文献の実測データと比較して みるとデータでは、標準生成熱が-248.1 kJ/mol、標準生成 Gibbs エネルギー-155.39 kJ/mol、標準エン トロピー200.4 J/mol であるから、誤差が少ないことがわかる。 2.3.2 気体の定圧モル熱容量のオンライン計算 気体の定圧モル熱容量Cpに関しては、既に基礎物理化学A,B、工業物理化学I,IIで学習している。4章 の 4.1.2 で計算の詳細について説明するが、ここでは、エタノールを例にその求め方を示す。 図 2-4 の中から、気体の定圧モル熱容量を計算するためのサイトへ行くために、10. CP calculate Heat Capacity of gas を選択しクリックします。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/CP/ourCP.htm をクリックしても同じサイトへ行きます。 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) Heat Capacity of GAS Estimation by JAVA applet Draw molecule at cyan panel. How to use animation1, animation2 Change atom type or delete atom, mouse down and up at the same atom. 15 図 2-14 プロパンの気体の定圧モル熱容量Cpのオンライン計算例 図 2-15 プロパンの気体の定圧モル熱容量Cpのオンライン計算例 気体の定圧モル熱容量Cpに関しては、相関関数とデータが多くの物質について化学便覧、物性推算ハン ドブックなどに掲載されており、このオンライン計算よりも精度が高いのでそちらを利用することを推 奨します。プロパンの場合、100℃で 89.3 J/molK程度です。 2.3.3 蒸気圧(Riedel 式)のオンライン計算(1) 蒸気圧は物質特有の値で温度のみよって決定される重要な物性値です。理論や詳細については、4.2 で詳細に説明する。ここでは、オンライン計算の方法について説明する。 どの物性値のオンライン計算でも注意しなければならない点は、その適用範囲です。蒸気圧は、なく る温度範囲があります。このことも6章で詳しく説明しますが、物質には臨界温度があります。この臨 界温度を超えるといくら圧力をかけても、液化することができなくなります。つまり、臨界温度を超え た温度では、液相がなく、液が蒸気になる蒸気圧も存在しません。 蒸気圧をオンライン計算する前に、その物質の臨界点を超えた温度域でないか確認して下さい。臨界 点(臨界温度)が分からない場合は、この後の臨界点のオンライン計算を参照して下さい。 図 2-4 の中から、蒸気圧を計算するためのサイトへ行くために、1. Vapor Pressure calculate Vapor Pressure by using Reidel equationを選択します。ここでは、7章で説明する対応状態原理を利用した Reidel equation 式を利用した蒸気圧の計算方法の利用方法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/VP/Riedelcalc.htm 蒸気圧のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 16 (下図は、「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより使用した場合の例 を示す。) Riedel equation calculate vapor pressure as follow, 図 2-16 プロパンの蒸気圧のオンライン計算例 プロパンの臨界点は 370Kなので、 図 2-17 プロパンの蒸気圧のオンライン計算結果 2.3.4 蒸気圧のオンライン計算(2) 図 2-4 の中から、蒸気圧を計算するためのサイトへ行くために、2. Vapor Pressure calculate Vapor Pressureを選択します。ここでは、エタノールを例に蒸気圧の計算方法の利用方法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/VP/ourVP.htm 蒸気圧のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 17 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-18 エタノールの蒸気圧のオンライン計算例 図 2-19 エタノールの蒸気圧のオンライン計算結果 2.3.5 臨界定数のオンライン計算 インターネットによるオンライン計算を利用した臨界定数の推算方法として Joback のグループ寄与 法を利用したサイトの使用方法について説明します。 例題として、1−ヘプタノールの臨界圧力Pc,臨界温度Tc,臨界体積Vcを求める方法を示します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/CriP/jobackCP.htm 臨界定数の計算サイト 「Critical Properties Estimation」は、臨界定数の推算の意味です。使用例を次に示します。 次のような画面が表示されます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホー ムページより使用した場合の例を示す。) 18 Please input functional group number and push calc button. If molecule contains ring, please select (R) fragment. 図 2-20 臨界値のオンライン計算例 例題 3.3 に示す 1−ヘプタノールの臨界圧力Pc,臨界温度Tc,臨界体積Vcをこのオンライン計算で求めて みましょう。 [解] 1−ヘプタノールの分子式,分子量および標準沸点は下記に示す. 分子式:CH3(CH2)6OH(分子量M = 116.20,標準沸点TB = 176.81℃) 1−ヘプタノールの分子式から、官能基のグループ数は、−CH3=1、−CH2=6、−OH=1 であるので、 官能基のグループ数 1,6,1 と沸点Tb=449.96K(画面ではBP)を入力画面に入力して、下の計算ボタン 「Calc.」をクリックすると計算結果として、Tc,Pc,Vcの値が画面に表示されます。 図 2-21 1−ヘプタノールの臨界値のオンライン計算結果 この場合、Tc,=609.78333366 K、Pc,=30.932899117 bars、Vc =446.6cm3/mol となり、後に述べる6 章の臨界定数の例題 3.3 とほぼ一致していることがわかる。 19 2.3.6 標準沸点のオンライン計算 図 2-4 の中から、標準沸点を計算するためのサイトへ行くために、5. BP calculate Boiling Pointを選択 します。ここでは、エタノールを例に、標準沸点のオンライン計算の利用方法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/BP/ourBP.htm 標準沸点のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-22 標準沸点のオンライン計算例 下記のような基本的な説明もホームページ上にあります。 The boiling point is defined as the temperature at which the vapor pressure of a liquid is equal to the pressure of the atmosphere on the liquid. For pure compounds, the normal boiling point is defined as the boiling point at one standard atmosphere of pressure on the liquid. If the pressure on the liquid differs from one atmosphere, the boiling point observed for the compound differs from that estimated for the pure compound. It can be said molecular size become larger, boiling point become larger, compare with spherical structure and stick type structure, spherical structure become lower boiling point. ( because of accessible surface area? ) hydrogen bond make boiling point raise dramatically Dipole moment(refer to CNDO or QEQ) make boiling point (maybe) raise Halogen atom make boiling point bring down 図 2-23 エタノールの標準沸点のオンライン計算結果 エタノールの標準沸点のオンライン計算結果は、348.10Kとなったが、測定データでは、351.6K (78.5℃)である。この値の精度が十分であるか否かは、それを用いる場合による。例えば、蒸気圧か ら圧力を算出するような場合であれば十分な精度と考えられる。逆に、化学反応に最も大きい影響を与 える組成を決定する平衡組成の計算にこの蒸気圧を用いる場合であれば、十分な精度とはいえない。し かし、測定値が容易に入手できないような物質であればこの値でも価値がある。 20 2.3.7 液体の密度のオンライン計算 図 2-4 の中から、液体の密度を計算するためのサイトへ行くために、7. Density calculate liquid density.を選択します。ここでは、エタノールを例に液体の密度のオンライン計算の利用方法について 説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/Den/ourDen.htm 液体の密度のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-24 液体の密度のオンライン計算例 下記のような基本的な説明もホームページ上にあります。 Density, ratio of the mass of a substance to its volume, expressed, for example, in units of grams per cubic centimeter or pounds per cubic foot. The density of a pure substance varies little from sample to sample and is often considered a characteristic property of the substance. Most substances undergo expansion when heated and therefore have lower densities at higher temperatures. Many substances, especially gases, can be compressed into a smaller volume by increasing the pressure acting on them. For these reasons, the temperature and pressure at which the density of a substance is measured are usually specified. The density of a gas is often converted mathematically to what it would be at a standard temperature and pressure (STP). Water is unusual in that it expands, and thus decreases in density, as it is cooled below 3.98'C (its temperature of maximum density). (下図は、「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより使用した場合の例 を示す。) 21 図 2-25 エタノールの液体の密度のオンライン計算結果 エタノールの液体密度のオンライン計算結果は、298.15Kで 0.8268735 となった。 2.3.8 蒸発潜熱のオンライン計算 図 2-4 の中から、蒸発潜熱を計算するためのサイトへ行くために、7. Density calculate liquid density. を選択します。ここでは、エタノールを例に蒸発潜熱のオンライン計算の利用方法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/Hv/ourHv.htm 蒸発潜熱のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-26 蒸発潜熱のオンライン計算例 22 図 2-27 エタノールの蒸発潜熱のオンライン計算結果 エタノールの蒸発潜熱のオンライン計算結果は、298.15Kで 41.52522kJ/mol となった。 2.3.9 粘度のオンライン計算 図 2-4 の中から、粘度を計算するためのサイトへ行くために、17. VIS calculate Viscosityを選択しま す。ここでは、エタノールを例に粘度のオンライン計算の利用方法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/Hv/ourHv.htm 粘度のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-28 粘度のオンライン計算例 図 2-29 エタノールの粘度のオンライン計算結果 エタノールの粘度のオンライン計算結果は、298.15Kで 1.0459565 cP となった。 23 cP は粘度の単位です。詳細は、粘度のところで確認します。 2.3.10 熱伝達率のオンライン計算 図 2-4 の中から、熱伝達率を計算するためのサイトへ行くために、18. THC calculate Thermal conductivity of Liquidを選択します。ここでは、エタノールを例に熱伝達率のオンライン計算の利用方 法について説明します。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/THC/ourTHC.htm 熱伝達率のオンライン計算サイト 計算方法は、前節の標準生成熱、標準生成 Gibbs エネルギー、標準エントロピーのオンライン計算と 同様です。 ホームページを立ち上げると、下記のような画面になりますので、前節と同様にパレットに目的物質 の構造を描きます。 (下図は、 「Virtual Material and Process Simulation Center」のホームページより 使用した場合の例を示す。) 図 2-30 熱伝達率のオンライン計算例 図 2-31 エタノールの熱伝達率のオンライン計算結果 エタノールの熱伝達率のオンライン計算結果は、298.15Kで 0.1717894 W/mK となった。 W/mK は熱伝達率の単位です。詳細は、熱のところで確認します。 24 3. 製造装置の設計・操作での物性値 3.1 メタン改質プラントと供給する天然ガス 2年次の化学工学演習 I では、 「アンモニア合成」 「メタノール合成」のプロセス計算と、これらのプ ロセスに原料を供給プロセスとして、「メタンの改質反応」のプロセス計算をシミュレーターと Excel 計算で練習しました。ここでは、復習の意味で、再度、「メタンの改質反応」のプラントと供給する天 然ガスを例にとりあげ、次節にて、その計算過程で物性値をどのように利用するかを確認してみます。 実際の製造装置の設計・操作での物性値の重要性を、燃料電池自動車の燃料として、現在工業界から 注目されているメタノールの製造プロセルを例に考えてみよう。図1に東洋エンジニアリング(株) (TEC)のメタノール製造プラント(10,000t/d plant)を示す。 (「石油化学プロセス」 ;石油学会編,講談社 2001)より引用) 図 3-1 メタンからメタノールを製造するプラント この化学プラントでは、天然ガス(主成分メタン)からメタノールを製造している。化学反応として、 メタンと水の反応(メタン改質)でメタノールを生成している。 この化学プラントでは、天然ガス(主 成分メタン)からメタノールを製造している。化学反応として、メタンと水の反応(メタン改質)と、 合成ガスによるメタノール合成反応とでメタノールを生成している。 天然ガス自動車 天然ガス自動車(NGV; Natural Gas Vehicle; CNG) とは、天然ガスを燃料とする自動車で低公害車 の一種。天然ガスの主成分はメタンであり都市ガスなどで広く使われている。自動車で使用する場合、 圧縮天然ガス(CNG)と液化天然ガス(LNG)の 2 種類があるが、現在では高圧ガス容器に 200 気圧 程度で貯蔵する CNG が普及の中心となっている。 CNG 自動車は、ガソリン自動車比べて二酸化炭素の排出を 2 割程度低減でき、また、ディーゼル自動 車と比べると窒素酸化物、粒子状物質の排出低減に効果的である。 一回の燃料充填で走行できる距離が短いのが欠点であるが、都市内での路線バス、貨物集配車などを中 心に普及が進められている。 主な天然ガス産出国 ロシア、イラン、カタール 石油代替資源としてのメタンの重要性 25 天然ガスの主成分は、メタンである。また、近年、未開発資源として注目されているメタンハイドレ ートも主成分としてメタンを含んでいる。メタンハイドレートなどの地下資源は、その埋蔵量が膨大で あることから石油代替資源としてメタンの重要性はさらに高まっている。メタンは、常温ではガスで存 在しているため、取り扱いに高度な技術を要する。また、メタンは、化学原料として利用する場合、種々 の生成物を生じる場合が多く、メタノールへ変換する反応が工業的にも重要であり、上述のメタノール 製造プロセスもそのような観点からも有用である。 3.2 天然ガスの貯蔵・運搬技術 天然ガスは、高圧ガスとなるためその貯蔵・運搬にも化学工学の知識と技術が必要となる。 天然ガスの採掘・製造・配送のイメージ図を帝国石油のホームページより引用し、下図に示す。また、 貯蔵の際に重要となる圧力・モル体積の具体的な計算については、以下の例題で紹介する。 天然ガスの貯蔵・運搬技術に関しては種々のインターネットサイトで紹介されているが、次に示す帝 国石油のジャパニーズ・ミュジーアムがわかりやすい。http://www.teikokuoil.co.jp/japanese/museum/ 図 3-6∼3-9 は、この帝国石油のジャパニーズ・ミュジーアムより引用している。 LNG船: liquefied natural gas carrier液化天然ガス船、エルエヌジ船[マイナス 162℃の液化ガスを専用 に輸送する船; もともと気体の天然ガスをマイナス 162 度に冷やして液体の状態にして輸送する]. 船の燃料には何を使う? 船(商船)の燃料(バンカー)は、C 重油が一般的です。原油を精製して、LP ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油などを抽出した最後の残りかす(残渣(ざんさ) 油)が、重油とアスファルトになります。重油もその粘度によって、A 重油、B 重油、C 重油に分けら れますが、C 重油は一番粘度が高く、常温では固まってしまいます。 このため、ディーゼル機関の燃料として C 重油を使用するためには、加熱して、不純物を取り除く必 要があります。こうして取り除いた不純物はスラッジと呼ばれ、燃料消費量の 4%も含まれます。例え ば、1 日に 50 トン程度の燃料を必要とする超大型タンカー(VLCC)では、1 日に 2 トンものスラッジ が発生することになりますが、船内の焼却炉で燃やすか、港に到着した時に陸上に降ろしています。 また、船内用の電気を作る発電機も小型のディーゼル機関ですが、こちらは、一般的に A 重油が使わ れます。また、LNG(液化天然ガス)船のように積み荷の LNG が蒸発したガス(ボイルオフガス)を 燃料として利用する例もあります 貯槽 化学物質を保管するには、種々の容器(貯槽)を使用する。 3.2 天然ガスの貯槽・運搬と蒸気圧 天然ガスにかぎらず、工業的に化学物質を取扱う場合、貯蔵、運搬、化学反応、精製などの工程でも、 各物質の蒸気圧は、重要な数値となる。蒸気圧に関する詳細な理論や正確な計算については、後ほど詳 細に解説する。ここでは、今回の化学プロセルにかかわりの深い物質を中心に演習を行うので、蒸気圧 に関して簡単に説明する。 重要なことは、蒸気圧は、温度のみの関数で各物質ごとに計算できることである。物質の蒸気圧と温度 の関係を熱力学的に導出したのが、式(3.1)に示すクラウジウス−クラペイロン(Clausius‐Clapeyron) 式である。 ln p° = A − B T (3.1) ここで、A、B は定数であり、狭い温度範囲において成り立つ。蒸気圧の対数値を1/T に対して表す と、狭い温度範囲で直線関係がみられる。工学的には、式(3.1)よりも実測値を精度よく表現する次のア ントワン(Antoine)式が広く用いられている。 26 ln p° = A − B (T + C ) (3.2) ここで、A,B,Cはアントワン定数と呼ばれる物質固有の値である。ただし、使用する温度範囲、温度と 圧力の単位によりその値が異なるので、使用する場合には注意を要する。 今回の演習で取扱うメタンなどの物質について、蒸気圧poと温度Tの関係を計算できる。アントワン 式を用いて計算した結果を図 3-17 に示す。 0.25 メタン 0.2 P [MPa] 窒素 0.15 一酸化窒素 0.1 一酸化炭素 0.05 ヘリウム 0 0 20 40 60 80 T [K] 100 120 140 図 3-17 温度Tと蒸気圧poの関係 0.4 log10P[Bar] 0.2 メタン 0 0.002 -0.2 0.007 0.012 0.017 0.022 窒素 -0.4 一酸化窒素 -0.6 -0.8 一酸化炭素 -1 -1.2 1/T[K-1] 図 3-18 蒸気圧poの対数log10poと温度の逆数 1/Tの関係 図 3-18 からも、蒸気圧poの対数lnpoが温度の逆数 1/Tの一次関数であることがわかる。また、液化天然ガ スをー162℃(111K)に保った場合、その主成分であるメタン蒸気圧が約 0.1MPaであり、大気圧以下と 27 なることがわかる。逆に、大気圧下で、この温度より上昇すると、液体天然ガスが沸騰することが考え られる。この図の作成に用いた各物質のアントワン定数とアントワン式(3.3)を以下に示す。ここで、単 位の関係で、式(3.2)と異なる形になっていることに注意する。 表 3-1 アントワン定数 log10 p o = A − B (T + C − 273.15) 物質名 He N2 NO CH4 CO CO2 H2 * A B 1.68360 3.61947 5.8679 3.7687 3.81912 22.5898 2.93954 * ここで (3.3) 注)CO2については、 温度範囲[K] C 8.15480 255.68 682.9386 395.7440 291.7430 3103.39. 66.79540 ln p o = A − p [ Bar ],T [ K ] 273.71 266.55 268.27 266.681 267.996 −0.16 275.65 B (T + C ) 、 1.85∼5.34 60.81∼83.65 106.94∼127.56 92.64∼120.59 69.73∼88.08 154∼204 10.25∼22.82 p [ mmHg ],T [ K ] R. C. Reid, J. M. Prausnitz and B. E. Poling, The Properties of Gases and Liquids, 4th edit., Appendix, McGraw – Hill (1987)より抜粋. 例題 3.1 天然ガスの主成分であるメタンの蒸気圧poと温度Tの関係は、図 19 のようなった。液化天然 ガス(純メタンと仮定して)の標準沸点(大気圧 0.101325MPaでの沸点)をアントワン式(3.3)から正 確に計算してみましょう。標準沸点は、その物質の蒸気圧が 0.101325MPaとなる温度である。 ただし、1Bar は 0.1MPa として計算する。 [解] 表1のメタンのアントワン定数より、式(3.3)を用いてメタンの蒸気圧が 0.101325MPa となる温 度 T を求める。表1より、A=3.7687、 B=395.7440 、C=266.681 である。 式(3.3)より、 log10 p° = A − B (T + C − 273.15) B = A − log10 p° (T + C − 273.15) T + C − 273.15 = T= B A − log 10 p° B − C + 273.15 A − log 10 p° (3.4) 28 T= 395.7440 − 266.681 + 273.15 3.7687 − log 10 (10 × 0.101325) T = 111.63 K = -161.51 ℃ (答え) -161.51 ℃ この計算から、メタンの標準沸点は-161.51℃であり、天然ガスを-162℃にて LNG 船で運搬すること が合理的であることがわかる。 例題 3.2 産業用ガスとして液体窒素を耐圧容器に-196℃(77K)で貯蔵していた。容器内温度が 93K となった時、容器内の圧力は何 MPa となっているか。表1の値は、93Kに対して適用範囲外となって いるので、この値を用いるのは適当ではないが、今回はおよその値を求めるとしてこの値を用いるとす る。ただし、1Bar は 0.1MPa として計算する。 [解] 表1の窒素のアントワン定数より、式(3.3)を用いて窒素の 93Kにおける蒸気圧を求める。表1 より、A=3.61947、 B=255.68 、C=266.55 である。 式(3.3)より、 log10 p° = A − p° = 10 p° = 10 A− B (T + C − 273.15) B (T + C − 273.15 ) 3.61947 − (3.5) 255.68 ( 93+ 266.55 − 273.15 ) p° = 10 0.66021 = 4.573Bar =0.4573MPa 29 4. 熱物性 化学反応では、燃焼熱、生成熱、溶解熱、中和熱などに遭遇する機会があります。ただ、このような 区別は熱素説の遺物であり、以下のように実際は全て同じもの(エンタルピー変化)です。これらにつ いては、すでに多くの講義で学習しているので、ここでは、装置として化学物質を取り扱う場合に重要 となる比熱・熱容量、融解熱・蒸発熱のような状態変化に伴う熱量を中心に説明します。化学反応関連 の燃焼熱、生成熱、溶解熱、中和熱に関しては、熱化学方程式に関して幾つかの例を示す程度の説明に とどめます。興味のある方はインターネットなどで、関連のサイトを検索してみて下さい。 http://www.chem.ox.ac.uk/vrchemistry/energy/Page_19.htm Virtual Chemistry http://irws.eng.niigata-u.ac.jp/~chem/itou/bce_bunb.html 新潟大のサイト http://homepage2.nifty.com/organic-chemistry/calculated/heat.htm 基礎知識 熱化学方程式の例を次に示します。熱化学方程式やエンタルピーに関する注意を上記のサイトから引用。 炭素 1molを完全に燃焼させ、394kJの熱量を発生し、二酸化炭素になる場合、 C(固体)+O2(気体)=CO2(気体)+394kJ ① 左辺と右辺は「→」ではなく「=」 ② 反応熱は右辺の最後に"∼kJ"、発熱は+、吸熱−で表す。 ③ それぞれの物質の状態を化学式の直後に( )で書く。 ④ 基準となる物質の係数は必ず「1」にする 反応前後のエンタルピー変化 ∆H を (エンタルピー変化 ∆H )=(生成物質の持つエンタルピー)−(反応物質の持つエンタルピー) で定義する. すると,熱化学における反応式・反応熱の記述はこのようになる。 ここで,高校における「反応熱」と「エンタルピー変化」では符号が逆になっていることに注意する. 反応の結果,ある系のエンタル ピーが低下したことは,外部への熱の放出または仕事に等しい.また, 反応式と反応熱は独立して書くことに注意. 高校の方法と違って、両者を独立に書くことで、熱化学 計算での化学式と数値で ある熱量との取り扱いが明確となる。(上記の新潟大のサイトから引用) 4.1 比熱・熱容量 4.1.1 比熱・熱容量を用いた基礎計算 熱の量(熱量)の単位には、エネルギーの単位ジュール[J]が用いられます。常温付近で、水 1gを 1K 上げるのに必要な熱量は、およそ 4.186Jです。熱量の単位に、以前カロリー[cal]も用いられていた。 calは国際単位系の単位(SI)ではないが、使用している分野もある。1cal=4.186J で、この 4.186 はジ ュール定数[J/cal]と呼ばれる。 温度の上昇のしかたは、物体の種類や量によって異なります。物体の温度を1K上昇させるのに必要 な熱量をその物体の熱容量といいます。熱容量C[J/K]を用いると,物質をt1からt2に温度を変化させた時 のエネルギーQは次式で与えられる. Q = C ( t2 − t1 ) [J] (4.1) 物体の 1gあたりの熱容量を比熱容量(specific heat capacity)または比熱(specific heat)と呼んでいる.比 熱容量cを用いると,mgの物質をt1からt2に温度を変化させた時のエネルギーQは次式で与えられる. 30 Q = mc ( t2 − t1 ) [J] (4.2) mは質量[g],cは比熱容量[J g-1 K-1],( t2 − t1 )は温度変化[K]を示している したがって、物体の質量が m なら、熱容量 C と比熱 c との関係は、次式で与えられる。 C = cm (4.3) 化学反応でどの程度の生成物が生じるかについては、反応平衡定数、反応速度定数の情報から求める ことができる。メタン改質反応は、十分大きい反応速度を有しているので、反応平衡定数が重要となる。 このように、温度の寄与は大きくそれらを制御するには、熱に関わる物性も重要となる。以下に 熱物性の例のとして比熱・比熱について説明する。 定容過程および定圧過程における内部エネルギー ここでは仕事として体積仕事を考える.体積仕事とは膨張や圧縮による仕事を示す.体積一定の密閉 された容器に気体を封入し,加熱もしくは冷却をする過程を考えよう.体積変化が無いことから, dW = − pdV = 0 となり,熱力学第 1 法則は次式のようになる. ∆U = Q (V 一定) (4.4) すなわち系が受け取る熱は,すべて内部エネルギーを増加させ,また内部エネルギーが減少すると, その分だけ熱として放出される. 物体の温度を 1K だけ上昇させるのに必要な熱量を熱容量(heat capacity)という.また,物質の1モル あたりの熱容量をモル熱容量(mole heat capacity)といい,容積一定状態のモル熱容量を定容モル熱容量, 圧力一定状態のモル熱容量を定圧モル熱容量という.定容モル熱容量は次式で与えられる. CV = (dQ / dT )V = (dU / dT )V (4.5) これより,一定体積のとき内部エネルギーが温度によってどのように変化するかを求めるための次式 を得ることができる. dU = CV dT または T2 ∆U = ∫ CV dT (V 一定) T1 (4.6) 次に定圧過程を考えてみよう.化学反応をはじめ多くの状態変化は圧力一定のもとでおこなわれる事 が多いので実際的な取り扱いといえる.定圧変化は容積変化の仕事と内部エネルギー変化が同時に起こ ることを意味している.熱力学第 1 法則である dU = dQ + dW に dW = − pdV を代入すると,次式が 得られる. dQ = dU + pdV (4.7) 定圧過程では p 一定であるから,次式が成り立つ. 31 dQ = d (U + pV ) (p 一定) (4.8) ここで、 (U + pV ) は定圧過程特有の内部エネルギー変化と容積変化の仕事を同時にあらわす状態量 を意味しており,あらたにエンタルピー(enthalpy),H と呼ばれる状態量を使うと便利である. H ≡ U + pV (4.9) この式がエンタルピーの定義式である.したがって式(4.14)は次のように表す事ができる. dQ = dH (p 一定) (4.10) また,積分形式で表現すると次式となる. 2 Q = ∫ dH = H 2 − H 1 = ∆H (4.11) 1 これは,例えば定圧条件で液体を加熱すると,加えた熱の分だけ系のエンタルピーが増加する事を意 味している.また,定圧条件で液体を蒸発させて蒸気とするための熱は,蒸気のエンタルピーと液体の エンタルピーの差に等しい. 定圧モル熱容量は,熱またはエンタルピーを用いて次式であらわされる. C P = (dQ / dT )P = (dH / dT )P (p 一定) (4.12) これより定圧条件のときの温度変化によるエンタルピー変化は次式で与えられる. dH = C P dT または T2 ∆H = ∫ C P dT (p 一定) T1 (4.13) 例題 4.1 熱容量がC = 1200 J/Kの容器に、 500gの水を 25℃から 85℃まで加熱するのに必要な熱量 を有効桁数3桁で求めよ。ただし、容器と内部の水の温度差はないものと仮定して、水の比熱cはc = 4.186 [J g-1 K-1]一定として計算する。 32 容器の熱容 C [J/K] 水の質量m [g] 水の比熱 c [J/gK] + = 容器に蓄えられる熱 水に蓄えられる熱 C( t2 − t1 ) 図 4-1 [解] mc ( t2 − t1 ) 容器の熱容量と液体の比熱 容器と物質をt1からt2に温度を変化させた時のエネルギーQは式(4.1)、(4.2)の和で与えられる. Q = C( t2 − t1 ) + mc ( t2 − t1 ) [J] (1) = (C+ mc )×( t2 − t1 ) = ( 1200 + 500×4.186 )×( 85 − 25 ) = 197580 ≅ 198000 J (答) 198000 J 例題 4.2 40℃の水 100gと 20℃のエタノール 200gを混合した場合、混合液の温度は何℃かを有効桁数 3桁で求めよ。ただし、エタノールの比熱を 2.38J/ [J g-1 K-1] 、水の比熱cはc = 4.186 [J g-1 K-1]一定とし て、混合エンタンピー(混合することで起こるエネルギーの出入り)と容器の熱容量が無視できると仮 定する。 [解] 混合エンタンピーと容器の熱容量が無視できるので、2種類の液体が混合前に持っていたエネル ギーが混合後にも保存されるとし、水が失うエネルギーと、エタノールが得るエネルギーが等しいとし て計算すればよい。それぞれのエネルギーは、式(4.2)で表され、質量m [g],比熱容量c [J g-1 K-1],温度 変化( ti − tj ) [K]の積で表される。混合後の温度をx[℃]と仮定して、式の左辺に水が失うエネルギー、 右辺にエタノールが得るエネルギーとなるように方程式を作ります。水の温度をt1、エタノールの温度 をt2とし、それぞれの比熱、質量をc1,c2,m1,m2とします。 Q = m1c1( t1 − tx ) = m2c2 ( tx − t2 ) [J] (1) この式をtxについて整理すると、 (m2c2+m1c1)×tx=m1c1t1+m2c2 t2 tx = m1c1t1 + m2 c 2 t 2 m2 c 2 + m1c1 tx = 100 × 4.186 × 40 + 200 × 2.38 × 20 200 × 2.38 + 100 × 4.186 =29.4 ℃ (答) 29.4 ℃ 例題 4.3 一定体積の条件で水蒸気 10molを 373.2Kから 473.2Kまで加熱するとき,内部エネルギー変化 はどれだけか.ただし,Cvは 26.43J mol-1K-1一定とせよ. 33 [解] 内部エネルギー変化は ∆U = ∫ T2 T1 CV dT であり,次式となる. ∆U = nCV (T2 − T1 ) =10×26.43×(473.2-373.2)= 26430 J =26.43 kJ (答) 26.43 kJ 例題 4.4 マイナス 30℃の氷が 15gある.これを暖めて 20℃の水にするには,何Jの熱容量が必要か.た だし,氷および水の比熱容量は 2094 および 4187 J kg-1K-1とし,0℃の氷を溶かして 0℃の水にするのに 必要な熱量(融解熱)は 1 kg当たり 335 kJとする. [解] マイナス 30℃(243.15K)の氷を 0℃(273.15K)の氷にするのに必要な熱量は,次のように計算 される. ( 273.15-243.15 )×2094×0.015 = 942.3 J 0℃(273.15K)の水を 20℃(293.15K)の水にするのに必要な熱量は,次のように計算される. (293.15−273.15)×4187×0.015 = 1256.1 J 0℃の氷を溶かして 0℃の水にするのに必要な熱量(融解熱)は,次のように計算される. 335000×0.015 = 5025 J よって,必要な熱量を求めると,次のようになる. 942.3 + 1256.1 + 5025 = 7223.4 J (答) 7223.4 J 例題 4.5 理想気体においてCP − CV = nRであることを示せ. [解] 式(4.11)と式(4.18)よりCPとCVの関係を求めると次のようになる. CP − CV = ( ∂H ∂U )P − ( )V ∂T ∂T (1) ここで,エンタルピーの定義式は次式で表される. H = U + pV (2) 式(1)に式(2)を代入すれば次式のようになる. CP − CV = [ ∂ ∂U ∂ (U + pV ) ∂U ∂U ]P − ( )V = ( ) P + [ ( pV )] P − ( )V ∂T ∂T ∂T ∂T ∂T (3) ここで内部エネルギーU を T と V の関数とし,全微分すると,次式のようになる. dU = ( ∂U ∂U ) T dV + ( ) V dT ∂V ∂T (4) 式(4)の両辺をP一定の条件の下,整理すると,次式のようになる. 34 ( ∂U ∂U ∂V ∂U )P = ( )T ( )P + ( )V ∂T ∂V ∂T ∂T (5) 式(3)に式(5)を代入すると,次式のようになる. CP − CV = ( ∂U ∂V ∂U ∂V ∂ ( pV ) )T ( )P + [ ] P = [( ) T + P ]( ) P ∂T ∂V ∂T ∂T ∂V (6) ここで,式(4.11)より理想気体の内部エネルギーは温度のみの関数であり,体積によらないので次式が 成り立つ. ( ∂U )T = 0 ∂V (7) 理想気体の状態方程式より,次式が成り立つ. V = nRT p (8) 式(8)より ( ∂V nR )P = ∂T p (9) 式(6)に式(7),(9)を代入すると,次のようになる. C P − C V = [0 + p ]× ( nR ) = nR p (10) したがって,1mol については求めると次のようになる. CP − CV = R 4.1.2 (11) 熱容量の推算 気体の熱容量 理想気体の定圧モル熱容量Cp°は,ある温度範囲内で近似的に成り立つように温度の関数として示す ことができる. Cp°= a1 + a2T + a3T2 + a4T3 (4.14) このときのa1,a2,a3,a4は表 4-1 に示すように物質により決まる定数である.温度T1からT2までの エンタルピー⊿Hは式(4.13)と式(1)より,次の関係が得られる. 定圧条件のときの温度変化によるエンタルピー変化は次のように与えられる. dH = C P dT または T2 ∆H = ∫ C P dT (p 一定) T1 T2 ∆H = ∫ ( a1 + a 2T + a 3T 2 + a 4T 3 )dT (4.13) (4.15) T1 35 一方,実在気体の定圧モル熱容量は,求める気体が純粋気体または一定組成の気体混合物の場合,理 想気体の定圧モル熱容量と次式の関係がある. Cp = CP° + ⊿CP (4.16) このときのCpは実在気体の定圧モル熱容量,⊿Cpは残余定圧モル熱容量である. この残余定圧モル熱容量を求めるには偏心因子を用いて以下の式で求めることができる. ⊿CP = ( ⊿CP )(0) + ω ( ⊿CP )(1) (4.17) 気体の定圧モル熱容量の温度依存性 気体の定圧モル熱容量については、データブックによりその関数系が異なる場合がある。R. C. Reid, J. M. Prausnitz and B. E. Poling, The Properties of Gases and Liquids, 4th edit., Appendix, McGraw – Hill (1987)では、温度の3次関数として、 Cp,m = a + bT + cT2 + dT3 ( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] ) (4.18) 日本化学会編、 化学便覧基礎編(改訂3版) では、2次関数として Cp,m = a + bT + cT2 ( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] ) (4.19) これらの式と値を用いて、二酸化炭素について計算した結果を次に示す。 主な物質について、表 4-1 に気体の定圧モル熱容量を次のような温度関数で表すデータを示した。 Cp,m = a + bT + cT2 + dT3 ( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] ) 36 4.1.4 データのない物質に対する熱容量の推算 工業界ではこのようにデータある系だけを対象とするわけではない。データのない系について装置 を設計・操作する場合、どうすればよいのであろうか。 原子団寄与法・グループ寄与法 データのない系について、その物質の分子式から物性値を予測する方法として、原子団寄与法・グ ループ寄与法がある。原子団寄与法・グループ寄与法では、その対象となる物質の分子式の情報か ら、その物質を構成する原子団(CH3、CHなど)の寄与の総和としてその物性値を表現する。 OH3 CH3 CH2 CH2 CH CH3 OH CH3 CH2 CH2 CH2 CH3 プロパノール CH3 CH2 CH2 CH3 CH3 CH3 OH メタノール OH CH3 CH2 OH エタノール CH3 グループ間相互作用 ASOG式、UNIFAC式 CH3 CH2 CH2 CH3 OH CH2 CH3 CH2 OH グループ寄与法の概念図 原子団寄与法には種々のものがある。前述の気体の定圧モル熱容量についても、Rihani-Doraiswamy の理想気体の熱容量に対する原子団寄与法がある。Rihani-Doraiswamy 法の各原子団の加算値を下表 に示す。また、その加算値の利用方法として、エタノールの気体の定圧モル熱容量についての a,b,c,d の求め方を示す。 例題5 エタノールの気体の定圧モル熱容量について、Rihani-Doraiswamy の理想気体の熱容量に 対する原子団寄与法を用いて a,b,c,d を求め、さらに、400Kにおけるエタノールの気体の定圧モル熱容 量も計算せよ。 [解] エタノールの分子式を考える。 CH3―CH2−OH エタノールの原子団はCH3、CH2、OHの3つであるので、そのそれそれについてRihani- Doraiswamy 37 の原子団寄与法の加算因子を表より求めると次のようになる。 ai CH3 CH2 OH 0.6087 0.3945 6.5128 bi×102 2.1433 2.1363 −0.1347 ci×104 −0.0852 −0.1197 0.0414 di×106 0.01135 0.002596 −0.001623 a = ∑ ni a i =1×0.6087+1×0.3945+1×6.5128 =7.516 b = ∑ ni bi ={1×2.1433+1×2.1363+1×(−0.1347)}×10-2 =4.1449×10-2 c = ∑ ni ci ={1×(−0.0852)+1×(−0.1197)+1×0.0414}×10-4 =−0.1635×10-4 d = ∑ ni d i ={1×0.01135+1×0.002596+1×(−0.001623)}×10-6 =0.012323×10-6 T=×400K として計算すると、 Cp,m = a + bT + cT2 + dT3 ( Cp,m [calK‐1 mol‐1] , T [K] ) =7.516+4.1449×10-2T−0.1635×10-4T2+0.012323×10-6T3 =7.516+4.1449×10-2×400T−0.1635×10-4×4002+0.012323×10-6×4003 =22.27cal/mol・K=93.22 J/Kmol 液体の熱容量 液体の熱容量には,定圧モル熱容量(Cp),飽和熱容量(Csat),飽和変化熱容量(Cδ)の 3 種がある. Cpは定圧での温度変化による熱量変化を示し,一般的によく使われる.Csatは飽和状態を保ちながら温 度が変化する液体に必要とされるエネルギーを示し,Cδは温度変化による飽和液体の熱量を示す.液体 [例題 4.7] 理想気体の断熱変化においてはpVγ=(一定)なることを証明せよ.ただし,Cp/Cv=γと する. [解] 断熱変化の場合,熱力学第 1 法則より dQ=0 となり,次式が得られる. dQ=dV+pdV= C v dT + pdV = 0 (1) また,理想気体の状態方程式 pv=RT の両辺の微分をとる. 38 pdV + Vdp = RdT (2) 式(1),(2)より,dT を消去すると以下のようになる. pdv + Vdp pdv =− R Cv (3) (C v + R) pdV + C vVdp = 0 (4) C p pdv + C vVdp = 0 (5) 式(5)をCppVで割る. C p dV dp ・ + =0 Cv V p (6) 比熱の比をCp/Cv=γとすると,式(6)より次式を得る. γ・ dv dp + =0 V p (7) γ=一定として積分すると次式を得る. γ∫ dV dp +∫ =K V p K:積分定数 (8) よって次式を得る. γln V + ln p = K ln pV γ=K pV γ=K (一定) [例題 4.8] (9) 0[°C ]の氷 1[gr ]がとけて同温度の水になるときのエントロピーの増加量を求めよ.ただし, 氷の融解潜熱を 80[cal gr ] とする. [解] 固体が溶けて液体になるとき,あるいは液体が気化するときのようないわゆる態変化においては 温度が一定に保たれるからエントロピーの計算は簡単で,積分の必要はない. ∆S = ∫ 2 1 dQ 1 = T T ∫ 2 1 dQ = Q T ここで, Q は態変化の際の潜熱である. 1[gr ]の水の場合, 39 ∆S = [cal °K ] Q 80 = = 0.29 T 273 こ れ を 氷 の 融 解 エ ン ト ロ ピ ー と 称 す る . す な わ ち , 0[°C ] の 水 は 0[°C ] の 氷 よ り 1[gr ] に つ き 0.29[cal gr ] だけエントロピーが多いことになる. ただし, [例題 4.9] 炭酸ガス 1 モルを 0[°C ] から 100[°C ] に熱したとき増加するエントロピーを求めよ. CO2 の定圧モル比熱は次の通りである. C P (CO2 ) = 7.7 + 5.3 × 10 −3 T − 0.83 × 10 −6 T 2 [cal mol ⋅ °C ] (解)理想気体の定圧におけるエントロピー変化は(例題 4.9 参照) T2 ∆S = ∫ C P T1 ∴ ∆S = ∫ dT T [7.7 + 5.3 × 10 373 273 −3 T − 0.83 × 10 −6 T 2 ] dT T 373 ⎡ 7.7 ⎤ =∫ ⎢ + 5.3 × 10 −3 − 0.83 × 10 −6 T ⎥ dT 273 ⎣T ⎦ = 7.7[lmT ]273 + 5.3 × 10 −3 [T ]273 − 373 = (7.7 ) ⋅ (2.3) log 373 [ ] 0.83 × 10 −6 T 2 2 373 273 373 0.83 × 10 −6 + 5.3 × 10 −3 (373 − 273) − 373 2 − 273 2 273 2 ( ) = 2.90[cal °C ] 4.1.4 化学プロセスでの熱容量 先に例として示したメタン改質プラントにおける熱容量計算について説明します。メタン改質プ ラントの主要なフローダイアグラムを次に示します。 40 HE1 改 質 装 置 メ タ ノ 合 |成 ル塔 分流器 脱 硫 装 置 天然ガス 粗 メ タ ノ | ル 分 離 器 蒸 留 塔 水 スチーム 熱交換器 図4 コンプレッサー メタン改質プラントの主要なフローダイアグラム メタン改質プラントでは、天然ガスを脱硫装置の前の熱交換器(HE1)またはボイラーで加熱します。 加熱源としてパージで排気するメタンを利用すると仮定する。メタン 1mol を完全に燃焼させると、 891kJ の熱量を発生し、二酸化炭素と水になる。加熱される側の原料天然ガス 100mol を純メタンと 考えて、300K から 800Kまで加熱する際に必要な熱源メタンの量を計算してみましょう。 41 4.2 蒸気圧・蒸発潜熱 4.2.1 蒸気圧・蒸発潜熱を用いた基礎計算 蒸気圧式 工業的に蒸留装置などを作る場合には、蒸気圧と温度の正確な関係が必要になる。物質の蒸気圧と温 度 の 関 係 を熱 力 学 的 に導 出 し た のが 、 式 (6.1)に 示 す ク ラウ ジ ウ ス −ク ラ ペ イ ロン ( Clausius ‐ Clapeyron)式である。 ln p° = A − B T (6.1) ここで、A、B は定数であり、狭い温度範囲において成り立つ。図 6-1 の蒸気圧の対数値を1/T に対 して表すと、狭い温度範囲で直線関係がみられる。工学的には、式(6.1)よりも実測値を精度よく表現す る次のアントワン(Antoine)式が広く用いられている。 ln p° = A − B (T + C ) (6.2) ここで、A、B、C はアントワン定数と呼ばれる物質固有の値である。ただし、使用する温度範囲、温 度と圧力の単位によりその値が異なるので、使用する場合には注意を要する。水、メタノール、アセト ンなどのなじみの深い物質に関して、アントワン式で計算した温度 T と蒸気圧の関係を図 18 に示す。 ジエチルエーテル アセトン メタノール 3.5 760 エタノール アセトン 蒸気圧(mmHg) 800 600 400 3 logp°[mmHg] メタノール ジエチルエーテル 1000 20 34 1.5 1 0 0.01 水 0 2 0.5 200 0 2.5 57 64 78 40 60 80 100 120 温度(℃) 0.03 0.05 1/T 水 0.07 0.09 エタノール 図 18 温度Tと蒸気圧poの関係 これらの計算結果は、実測値とよく一致している。これらのグラフから、蒸気圧poが温度Tの増加に対し て指数関数的に増加していることがわかる。さらに、クラウジウス−クラペイロン(Clausius‐ Clapeyron)式に示されるように、蒸気圧poの対数lnpoが温度の逆数 1/Tの一次関数で表されることがわ かる。 例題 6.1 図 6-2 のような耐圧 4.0 atm(4.00×1.01325×102kPa)のガラス容器がある。この中にエタ 42 ノールを封入した。今、この中の液体を何度まで加熱すると、ガラス容器が破損する可能性があるか。 ただし、この温度範囲におけるエタノールのアントワン定数は、A=16.66404、B=3667.705、C=− 46.966、po[kPa]、T[K]であるとする。 密閉 ガラス容器 耐圧:4atm エタノール 加熱 図 6-2 エタノールを封入したガラス容器 [解] エタノールのアントワン定数より、式(6.2)を用いて蒸気圧が 4.0atm となる温度 T を求める。 ln p°[kPa ] = A − T= B (T + C ) 3667.705 B −C = + 46.966 A − ln p° 16.66404 − ln(4.0 × 1.01325 × 10 2 ) T = 39104 K = 117.9 ℃ 6.2 Clausius‐Clapeyron 式の導出 熱力学第 1 法則は、次式で与えられる。すなわち、系の熱量変化 dQ は、内部エネルギー変化 dU、 系の圧力 P および体積変化 dV を用いて次式で与えられる。 dQ=dU+PdV (6.3) 熱力学第二法則より、温度 T における dQ とエントロピー変化 dS は次式で与えられる。 dQ=TdS (6.4) (6.3)、(6.4)式より、 dU=TdS-PdV (6.5) このとき、エンタルピーH は次式で定義される。 43 H=U+PV (6.6) (6.6)式を全微分すると、 dH=dU+PdV+VdP (6.7) (6.7)式に(6.5)式を代入すると、 dH=TdS+VdP (6.8) ここでギブス(Gibbs)の自由エネルギーG は、H、T、S を用いて次式で定義される。 G=H-TS (6.9) (6.9)式を全微分すると、 dG =dH-TdS-SdT (6.10) (6.8)、(6.10)式より、 dG = VdP -SdT (6.11) dG = VdP − SdT (6.12) 純物質(一成分系)の系について,気液両相が平衡状態で共存している状態を考える。ある圧力pおよ び温度Tで平衡(equilibrium)状態であるためには気相と液相の全成分の化学ポテンシャルがそれぞれ 等しくなっていなければならない。純物質系では、化学ポテンシャルは 1molあたりのギブス(Gibbs)の 自由エネルギーGmに等しいので、気相、液相、それぞれのギブスの自由エネルギーGmV とGmL は等し く、GmV = GmLとなる。ここで、下付きのmは 1 モル当たりの量を表す.次に圧力がdp,温度がdT変 化して、再び気液両相が平衡になったとすれば、GmV + dGmV = GmL + dGmLとなり、次式となる。 dGmV = dGmL (6.13) また、式(1)を気液両相の 1mol に対して適用すると、次の関係が得られる。 dGmV = VmV dp−SmV dT dGmL = VmL dp−SmL dT (6.14) (6.15) ここで、平衡の条件として、式(6.13)を適用すれば、上式より次式が導かれる。 dp S m − S m = dT Vm V − Vm L V L (6.16) ここで、気相と液相のエントロピーの差SmV − SmLは、蒸発に伴うモルエントロピー変化ΔSv,mであり、 モル蒸発潜熱ΔHv,mを用いてΔHv,m/Tと表せるので次式を得る。 44 ΔS V , m = S m − S m = V L ΔH V , m (6.17) T 式(6.16)および式(6.17)より次式を得る. ΔH V , m dp = dT T (Vm V − Vm L ) (6.18) 式(6.18)は、クラウジウスークラペイロン式と呼ばれている。圧力が高くなく,気相の体積が液相の体 積より十分大きい(大気圧下では、気相の体積は液相の 1,000 倍程度ある。)と見なせるとVmV≫VmLで あり、理想気体とみなせるとすれば、理想気体の状態方程式(pVm=RT)により次式が得られる。 1 Vm − Vm V L 1 = Vm L = p RT (6.19) 式(6.19)を用いて式(6.18)を整理すると、次式が得られる。 ΔH V ,m dp =p dT RT 2 (6.20) 狭い温度範囲では、ΔHv,mが一定とみなされるとすれば、ΔHv,mを定数として式(6.20)を積分すること で、次式が導出される。 ln p° = A − B T (6.21) ここで,Aは積分定数であり,B = ΔHv,m/Rである. 6.3 パラメータの決定方法 (6.2)式に示すアントワン式のパラメータ A, B, C は各物質に対して固有の値であり、各物質の蒸気 圧と温度の関係を良好に表現するように実験値から決定される。4 章で示した Langmuir 式のような 2 つの未知の変数をもつモデルについては、最小二乗法により決定できることを示した。しかし、3 つの パラメータを有するアントワン式には、最小二乗法の適用は困難である。このように化学工学では、モ デル式中に含まれる変数を最適化の手法を用いることで、決定することが多い。最適化の手法について は、マルカート法、修正シンプレックス法、直接探索法など多くの手法がある。 ここでは、最小二乗法によるパラメータの決定方法を以下に示す。 [問題] 45 水、トルエン、エタノール、1-プロパノールの温度 T [℃]と蒸気圧 P [mmHg]のデータは以下のように 与えられている。Clausius-Clapeyron から導かれる次式を用いて、各物質の A および B を最小二乗法 により決定せよ。また、決定した A および B を用いて各物質の 50℃における蒸気圧を計算せよ。 蒸気圧式 lnP=A‐B/T T [℃] P [mmHg] 水 トルエン エタノール 1-プロパノール 20 30 17.1893 31.3785 21.6588 36.3915 43.6367 77.8755 14.4081 28.0876 40 50 54.7542 58.7469 133.1703 51.7038 60 70 148.3944 232.2947 138.1271 202.6172 348.6829 537.8146 151.5839 244.0960 80 353.1642 289.7050 806.7594 379.5788 解)温度T [℃]と蒸気圧P [mmHg]のデータをlnP [mmHg]と 1/T [K-1]のデータに変換する。 1/T[K-1] 0.003411 0.003299 0.003193 0.003095 0.003002 0.002914 0.002832 水 2.8448 3.4467 4.0036 lnP[mmHg] トルエン エタノール 3.0760 3.7766 3.5950 4.3559 4.0740 4.8925 5.0008 5.4490 5.8680 4.9291 5.3123 5.6699 5.8552 6.2886 6.6942 1-プロパノール 2.6683 3.3359 3.9462 5.0220 5.4986 5.9401 このデータをグラフにプロットすれば次のようなグラフが得られる。それぞれの物質について最小二乗 法を用いて関係式を求めると次のようになる。 46 6 lnP [mmHg] 水 トルエン エタノール 1-プロパ ノール 線形 (エタ ノール) 4 2 0.0028 0.003 0.0032 0.0034 -1 1/T [K ] 水 トルエン エタノール 1-プロパノール y=-5214.6x+20.645 y=-4473.9x+18.35 y=-5032.8x+20.955 y=-5641.2x+21.937 したがって定数 A,B はそれぞれ次のようになる。 定数A 定数B 水 20.645 -5214.6 トルエン 18.35 -4473.9 エタノール 20.955 -5032.8 1-プロパノール 21.937 -5641.2 これらの値を使用し、それぞれの物質について 50℃における蒸気圧を計算すると下の表のようになる。 T[℃] 50 水 90.760 P[mmHg] トルエン エタノール 90.500 217.198 http://www.pirika.com/chem/ChemEngE/antoine.htm 1-プロパノール 88.243 Antoine定数を決定するオンライン計算 4.2.2 データのない物質に対する蒸気圧の推算 蒸気圧と温度の測定データから蒸気圧を相関する方法としては、前述のクラジウス・クラペイロン式 やアントワン式が有名であるが、測定データのない系に対して蒸気圧を推算する方法としては、リーデ ル(Riedel)式やシック・シュティール(Thek-Stiel)式などがある。これらでは、その物質の臨界温 度、臨界圧力、標準沸点や蒸発潜熱から蒸気圧を計算する。物質の構造式から臨界定数を求める方法は、 6 章で説明するが,臨界定数がわかれば種々の物性値を推算でき、蒸気圧も推算できる.一例として、 リーデル式を示す。 Riedel equation calculate vapor pressure as follow, 47 Tc : Critical Temperature Pc : Critical Pressure Tbr : boiling Point / Critical Temperature Tr = measure Temperature / Critical Temperature リーデル式を用いたオンライン計算のサイトもある。 http://www.pirika.com/chem/ChemEngE/antoine.htm Antoine定数を決定するオンライン計算 5. 輸送物性 5.1 粘度 臨界定数を求める方法は、6 章で説明するが,臨界定数がわかれば種々の物性値を推算できる.ここ では,一例として気体の粘度の推算方法について述べる.粘度(viscosity)は,工業装置を作る場合に 重要となる.粘度と温度の相関関係,実験値がない場合の粘度の推算法,粘度に及ぼす圧力の影響の推 算法などを簡単に述べる. 気体の粘度は圧力の影響を大きく受ける.液体の粘度は温度の上昇に伴い急激に低下するが,低圧に おける気体の粘度は温度の上昇とともに増大する.気体分子運動論であるチャップマン・エンスコッグ (Chapman・Enskog)理論により,低圧における気体の粘度ηは次式により表わされる. η = 26.69 MT δ Ωv (3.27) 2 ここで,ηは気体の粘度[μP],σは分子の直径[Å],Mは気体の分子量,Tは絶対温度[K],Ωvは衝突積 分であり,次式により求めることができる. Ωv = A C E + DT + FT* *B T T T (3.28) T* = kT ∈ (3.29) k = (0.7915 + 0.0693ω)TC ∈ (3.30) 式(3.30)において,ωは偏心因子であり,付表 6 に示される値を用いる.また,式(3.28)の A∼F は定 数であり以下のように表される. A=1.16145,B=0.14874,C=0.52487,D=0.77320,E=2.16178,F=2.43787 気体の粘度には対応状態原理(臨界点からの隔たりより予測する.)が成立し,以下に示す相関式に より,気体の粘度を推算できる. 無極性気体では, ηξ = 4.610Tr0.618 − 2.04e −0.449Tr + 1.94e −4.058Tr + 0.1 水素結合を有する極性気体でTr < 2 の場合 48 (3.31) ηξ = (0.775Tr − 0.055) Z C−5 / 4 (3.32) 水素結合のない極性気体でTr < 2.5 の場合 ηξ = (1.90Tr − 0.29) 4 / 5 Z C−2 / 3 (3.33) また,ξは次式で表される. 1 TC 6 ξ= 1 2 M PC (3.34) 2 3 ここで,式(3.34)は対臨界状態原理によるレスツォウ・スティールの相関式である.また,ZCは臨界点 における圧縮係数,ηは低圧における気体の粘度[μP],Trは対臨界温度T / TCである. [例題 3.10] エチレンの 101℃における粘度を求めよ.ただし,エチレンの臨界温度は 282.8K,臨界圧 力は 5.11MPa(50.4atm),臨界圧縮係数は 0.28,分子量は 28.05 である. [解] エチレンの臨界温度,臨界圧力および分子量はそれぞれTC=282.8K,PC=50.4atm,M=28.05 なの で,式(3.41)より定義因子ξを求める. 1 6 C 1 2 2 3 C T ξ= 1 6 (282.8) = M P 1 2 (28.05) (50.4) 2 3 = 0.0355 エチレンは無極性気体なので,式(3.38)より粘度を求めることができる. Tr = T 101 + 273.15 = = 1.323 282.8 TC 4.610Tr0.618 − 2.04e −0.449Tr + 1.94e −4.058Tr + 0.1 η= ξ = 4.610 × 1.3230.618 − 2.04e −0.449×1.323 + 1.94e −4.058×1.323 + 0.1 = 125.7 µP 0.0355 気体粘度の推算においてさまざまな相関式が提案されているが,低圧における気体の粘度を分子構造 (原子団寄与)より求める方法に,次式に示すライヘンベルク(Reichenberg)の方法がある. a *Tr η= [1 + 0.36Tr (Tr − 1)] (3.35) 1 6 ここで,a*はパラメータであり,次式より求められる. a* = 1 2 M TC ∑ ni Ci (3.36) i Mは分子量,niは原子団Iの数,Ciは原子団について決められた加算値であり,それぞれの原子団の加 算値を表 3−2 に示す. 49 表 3−2 ライヘンベルクによる気体の粘度を推算するための原子団の加算値10) 原子団 加算値Ci 原子団 加算値Ci −CH3 >CH2(非環状) >CH−(非環状) >C<(非環状) =CH2 =CH−(非環状) >CH=(非環状) ≡CH ≡C−(非環状) >CH2(環状) 9.04 6.47 2.67 −1.53 7.68 5.53 1.78 7.41 5.24 6.91 3.59 4.46 10.06 12.83 7.96 3.59 12.02 14.02 18.65 13.41 >CH−(環状) >C<(環状) =C−(環状) 1.16 0.23 5.90 >C=(環状) −F −Cl −Br −OH(アルコール) >O(非環状) >C=O(非環状) −CHO(アルデヒド) −COOH(酸) −COO−(エステル) または HCOO(ギ酸化物) −NH2 >NH(非環状) =N−(環状) −CN >S(環状) 9.71 3.68 4.97 18.13 8.86 [B. E. Poling, J. M. Prausnitz and J. P. O’Connell, The Properties of Gases and Liquids 5th edit., p.9.13, McGraw-Hill (2000)より] [例題 3.11] エチルメチルエーテルの 80℃での低圧における気体の粘度を求めよ.ただし,エチルメチ ルエーテルの分子量は 60.1,臨界温度は 437.8K である. [解] エチルメチルエーテルの分子量は 60.1,臨界温度は 437.8K なので,式(3.36)よりパラメータ a*を 求める. a* = 1 2 1 2 M TC (60.1) 437.8 = = 119.5 ∑ ni Ci 2 × 9.04 + 1× 6.47 + 1× 3.59 (1) i 式(3.42)より,エチルメチルエーテルの気体の粘度を求める. Tr = η= T 80 + 273.15 = = 0.807 TC 437.8 a * Tr [1 + 0.36Tr (Tr − 1)] 1 6 = (2) 119.5 × 0.807 [1 + 0.36 × 0.807 × (0.807 − 1)] 1 6 = 97.37µP (3) 5.1.2 液体の粘度 液体の粘度を推算する多くの方法が報告されているが、ここではそれらの推算法の中で一般的なもの を紹介する。しかし、これらは、大きな誤差がでる場合があるので、これらの推算法を用いる前に、実 験データを考えてみることが重要である。 トーマス(Thomas)は、次式で示す経験式で、標準沸点以下の温度での液体の粘度を計算することを提 案している。 50 ⎛ η log⎜⎜ 8.569 × 1L/ 2 ρL ⎝ ⎞ ⎛ ⎞ ⎟ = θ ⎜ 1 − 1⎟ ⎜T ⎟ ⎟ ⎝ r ⎠ ⎠ η L [cP]は液体粘度、 ρ L [g/cm3]は液体密度、Tr [K]は対臨界温度であり、θ は表 の値から計算され る定数である。 表 θを計算する構造加算因子 例題 Thomasの方法により、60℃におけるクロロホルムの粘度を推算せよ。ただし、クロロホルム の臨界温度は、536.4Kであり、この温度における密度は、1.413g/cm3である。 [解] クロロホルムのこの温度での対臨界値は、 Tr = T 273.15 + 60 = = 0.621 Tc 536.4 表より θ を計算すると、 θ = −0.462 + 3 × 0.340 + 0.249 = 0.807 ηL ⎞ ⎛ ⎛ 1 ⎞ log⎜ 8.569 × − 1⎟ = 0.492 ⎟ = 0.807⎜ 1/ 2 1.413 ⎠ ⎝ 0.621 ⎠ ⎝ η = 0.431 cP (答) η = 0.431 cP 液体の粘度を推算する方法として、オリックとエルバール(Orrick-Erbar)が原子団寄与法により求 める方法を提案しており、次式を用いる。 ⎛ η ln⎜⎜ L ⎝ ρLM ⎞ B ⎟⎟ = A + θ T ⎠ ここで、η L [cP]は液体粘度、ρ L [g/cm3]は液体密度、Tr [K]は対臨界温度であり、M は分子量である。 この場合、定数 A,B を次に示す表から原子団寄与法で決定する。 表 A,B 決定のための Orrick-Erbar の原子団寄与の値 51 5.2 拡散係数 溶質の濃度勾配に起因する拡散現象は、化学装置の設計・操作に利用される場合がある。その際、対 象となる物質の拡散係数が物性値として必要となる。拡散現象は、次式で示されるフィック(Fick)の 第一法則で表される。 J =D dn dx ここで、J、n、x がそれぞれ拡散流束、濃度、位置座標であり、D が拡散係数である。 拡散係数Dは、気相と液相中で大きく異なるので、その相関方法、推算方法も気相、液相で異なる。 5.2.1 気相での拡散係数 低圧から常圧における2成分系気体混合物の拡散理論は確立されており、Boltzmann 式を解いたもの で、チャップマン(Chapman)とエンスコッグ(Enskog)の理論と呼ばれている。 D AB M + MB 3⎛ = ⎜⎜ 2πkT A M AM B 16 ⎝ ⎞ ⎟⎟ ⎠ 1/ 2 1 nπσ AB Ω D 2 fD ここで、 M A , M B 物質 A,B のそれぞれの分子量であり、n,k,T はそれぞれ混合気体中の分子の数密度、 ボルツマン定数、絶対温度である。拡散に対する衝突積分 Ω D は温度と衝突する2種類の分子の分子間 ポテンシャルの関数であり、σ AB は衝突する分子 A,B の特性直径である。この理論をもとにして、広く 利用されているのが、フェーラーーシェトラーーギディング(Fuller-Schettler-Giddings)の方法で、次式 52 で示される。 −3 10 T 1.75 D AB = ⎛MA + MB ⎜⎜ ⎝ M AM B ⎞ ⎟⎟ ⎠ 1/ 2 P[(∑ v) A 1/ 3 + (∑ v) B ここで、T[K]、P[atm]はそれぞれ絶対温度、圧力である。 1/ 3 2 ] ∑ v をもとめるには次表に示す原子拡散体 積を用いる。表中の値は多くの拡散係数の実験値を,回帰分析にて決定したものです。 表 Fuller-Schettler-Giddings 式の原子拡散体積 例題 Fuller-Schettler-Giddings 式を用いて、25℃、0.101325MPa の空気中に拡散するプロパノール分 子の拡散係数を求めよ。ただし、空気の ∑ v は 20.1、分子量は 28.8 とする。 [解]上に示す表より、プロパノール(C3H7OH)の ∑v (C3H7OH) ∑ v を算出する。 = 3(C ) + 8( H ) + (O ) = 3 × 16.5 + 8 × 1.98 + 5.48 =70.8 プロパノールの分子量Mpは 60 であるから、Fuller-Schettler-Giddings式にこれらの値を代入すると、 −3 10 T 1.75 D AB = −3 ⎛MA + MB ⎜⎜ ⎝ M AM B 10 × 298 D AB = 1.75 ⎞ ⎟⎟ ⎠ 1/ 2 P[(∑ v) A ⎛ 60 + 28.8 ⎞ ⎜ ⎟ ⎝ 60 × 28.8 ⎠ 1/ 3 + (∑ v) B 1/ 3 2 ] 1/ 2 1 × [70.81 / 3 + 20.11 / 3 ] 2 =4.84/46.9=0.103 cm2/s (答) 0.103 cm2/s 気体の拡散に対する圧力の影響 気体の拡散係数に対する圧力の影響は、低圧で密度が低い場合(ρr<1;ρr=1/Vr;Vrは臨界体積) 53 ほとんどないと考えてよいので、 Dρ ≅ ( Dρ ) と考えてよい。 o マッシュとトーダス(Mathur―Thodos)は、気体の拡散係数に対する圧力の影響を考慮して、次式を 提案している。 Dρ = 10.7 × 10 −5 Tr β Tr = T Tc ρr = P Pr β= M 1 / 2 Pc Tc 1/ 3 5/6 ここで、Pc,Tcの単位は、それぞれatm,Kである。 5.2.2 液相での拡散係数 液相中での拡散:理論 液相では分子は高密度で配置しており,近接分子の力の影響を受けやすい。液相では濃度勾配が大ぎく 拡散速度は濃度勾配と D AB の積による。.拡散係数の計算のための液体論は極端にモデル化されたものに すぎず D AB を計算するには不十分であるが、特殊な場合には理論式の形も有用な推算法の基礎となる。 大きな球形の分子が希薄濃度で溶液中を拡散する場合である。この場合には、水力学理論による次式の ストークスーアインシュタイン(Stokes-Einstein の式)があてはまる. D AB = RT 6πη B rA ここでηBは溶媒の粘度であり,rAは溶質である球形分子の直径である。この式は極めて特殊な場合にあ てはまるにすぎない。 液 体 分 子 の D AB を を 推 算 す る の に 広 く 用 い ら れ て い る 方 法 は 、 次 に 示 す ウ ィ ル ケ ー チ ャ ン (Wilke-Chang)の方法である。この方法は、Stokes-Einstein 式を経験的に修正したものである。 D AB = 7.4 × 10 −8 (φM B )1 / 2 T η B V A 0. 6 ここで D AB は溶媒B中での溶質Aの無限希釈点での拡散係数,cm2/s 、MBは、溶媒Bの分子量、 η は溶媒の粘度でありTは絶対温度,Kである。VAは、標準沸点における溶質Aのモル体積,cm3/mol、 φ は溶媒Bの会合度(無次元)である。 B 標準沸点における液体のモル体積 標準沸点における液体のモル体積は、Tyn-Calus の方法により、臨界体積がわかれば次式で計算でき 54 る。 Vb = 0.285Vc 1.048 Vcが不明な場合は、シュローダー(Schroeder)やリーバス(Le Bas)の加算容積を用いるとよい。 表 標準沸点における液のモル体積を計算する 加算因子とその値 例題 メタノール中を 30℃でアジピン酸が拡散する場合の拡散係数を推算せよ。メタノールの 30℃ における粘度は、0.514cP、アジピン酸の標準沸点におけるモル体積は、173.8cm3/mol、メタノールの分 子量は 32.04 である。メタノールの会合度(無次元)φは 1.5 とする。 (物性推算ハンドブックようり引 用) [解]Wilke-Chang)の式を用いると、 D AB = 7.4 × 10 −8 = 7.4 × 10 −8 (φM B )1 / 2 T η B V A 0. 6 (1.5 × 32.04)1 / 2 × 303.2 0.514 × 173.8 0.6 =1.37×10-6cm2/s 6 臨界定数 臨界定数(臨界温度Tc,臨界圧力pc,臨界体積Vc)を知ることが重要である.また,この臨界定数か 55 ら他の物性を計算することもできる.臨界定数は,化合物の分子式から,原子団寄与法・グループ寄与 法の一種であるライダーセン(Lydersen)の方法(原子団寄与法)を用いることで次のように推算できる. TC = pC = TB 0.567 + ∑ ∆T − (∑ ∆T ) 2 M (0.34 + ∑ ∆p ) 2 VC = 40 + ∑ ∆v [K] (3.4) [atm] (3.5) [cm3 ・mol-1] (3.6) ここで, TB,Mは,それぞれ標準沸点[K](その物質の蒸気圧が 760mmHgとなる温度),分子量[g・mol-1] であり,ΔT,Δp,ΔVは,それぞれ臨界温度,臨界圧力,臨界容積を求めるために各原子団について 決められた加算因子を表す.また,表 3-1 に各構造による加算因子ΔT,Δp,ΔVの値を示す. 表 3−1 ライダーセン法における臨界定数の加算因子 12) 構造 −CH3 −CH2 −CH −C− =CH2 =CH− =C− =C= ≡CH ≡C− −CH2− −CH− −C− =CH− =C− F Cl Br I −OH(アルコール) −OH(フェノール) −O−(非環状) −O−(環状) −C=O(非環状) −C=O(環状) HC=O(アルデヒド) −COOH(酸) ΔT △p △v 0.02 0.02 0.012 0 0.018 0.018 0 0 0.005 0.005 0.013 0.012 −0.007 0.011 0.011 0.018 0.017 0.01 0.012 0.082 0.031 0.021 0.014 0.04 0.033 0.048 0.085 0.227 0.227 0.21 0.21 0.198 0.198 0.198 0.198 0.153 0.153 0.184 0.192 0.154 0.154 0.154 0.224 0.32 0.5 0.83 0.06 −0.02 0.16 0.12 0.29 0.2 0.33 0.4 55 55 51 41 45 45 36 36 36 36 44.5 46 31 37 36 18 49 70 95 18 3 20 8 60 50 73 80 56 −COO−(エステル) =O(上記以外) −NH2 −NH(非環状) −NH(環状) −N−(非環状) −N−(環状) −CN −NO2 −SH −S−(非環状) 0.047 0.02 0.031 0.031 0.024 0.014 0.007 0.06 0.055 0.015 0.008 0.47 0.12 0.095 0.135 0.09 0.17 0.13 0.36 0.42 0.27 0.24 80 11 28 37 27 42 32 80 78 55 45 [R. C. Reid, J. M. Prausnitz and T. K. Sherwood, The Properties of Gases and Liquids 4th edit., McGraw-Hill (1977)より] [例題 3.3] ライダーセンの方法を用いて 1−ヘプタノールの臨界圧力Pc,臨界温度Tc,臨界体積Vcを求 めよ. [解] 1−ヘプタノールの分子式,分子量および標準沸点は下記に示す. 分子式:CH3(CH2)6OH(分子量M = 116.20,標準沸点TB = 176.81℃) また,1−ヘプタノールのそれぞれの分子式についての加算因子を求めると,下記の表のようになる. 分子式 グループ数 ΔT Δp ΔV −CH3 1 0.02 0.227 55 −CH2 6 0.02 0.227 55 −OH 1 0.082 0.06 18 表より,1−ヘプタノールの分子式に基づいて,各加算因子の合計を求めると,次のようになる. ΣΔT = ( 0.02 × 1 ) + ( 0.02 × 6 ) + 0.082 × 1 = 0.222 ΣΔp = ( 0.227 × 1 ) + ( 0.227 × 6 ) + ( 0.06 × 1 ) = 1.649 ΣΔv = ( 55 × 1 ) + ( 55 × 6 ) + ( 18 ×1 ) = 403 TB = 176.81 + 273.15 = 449.96K したがって,1−ヘプタノールの臨界定数はそれぞれ次のように求められる. TC = TB 449.96 = = 608K 2 (0.567 +ΣΔT −ΣΔT ) {0.567 + 0.222 − (0.222) 2 } PC = M 116.20 = = 29.4atm 2 ((0.34 + ΣΔP ) ) ((0.34 + 1.649) 2 ) Vc = 40 + ΣΔv = 40 + 403 = 443cm3・mol−1 問題 イソブチルアルコールおよびエタノールの臨界温度 Tc、臨界圧力 Pc、臨界容積 Vc を決定せよ。 ただし、イソブチルアルコールの沸点は 108℃、分子量は 74.123 である。 化学構造は次のようである。 57 CH3 CH−CH2−OH CH3 解)TC=546.6 K、PC=44.5 atm、vC=274 cm3/mol また、エタノールの沸点は 78.325℃、分子量は 46.07 である。化学構造は次のようである。 CH3−CH2−OH TC=521.4 K、PC=63.2 atm、vC=168 cm3/mol インターネットによるオンライン計算を利用した臨界定数の推算 2.3 にて、インターネットを用いたオンライン計算を紹介しました。ここでは、6.臨界定数の例題 で行った計算に対して、オンライン計算でも求めてみましょう。 http://www.pirika.com/chem/TCPEE/CriP/jobackCP.htm 臨界定数の計算サイト 「Critical Properties Estimation」は、臨界定数の推算の意味です。使用例を次に示します。 次のような画面が表示されます。 Please input functional group number and push calc button. If molecule contains ring, please select (R) fragment. 例題 3.3 に示した 1−ヘプタノールの臨界圧力Pc,臨界温度Tc,臨界体積Vcをこのオンライン計算で求め てみましょう。 [解] 1−ヘプタノールの分子式,分子量および標準沸点は下記に示す. 分子式:CH3(CH2)6OH(分子量M = 116.20,標準沸点TB = 176.81℃) 1−ヘプタノールの分子式から、官能基のグループ数は、−CH3=1、−CH2=6、−OH=1 であるので、 官能基のグループ数 1,6,1 と沸点Tb=449.96K(画面ではBP)を入力画面に入力して、下の計算ボタン 「Calc.」をクリックすると計算結果として、Tc,Pc,Vcの値が画面に表示されます。 58 この場合、Tc,=609.78333366 K、Pc,=30.932899117 bars、Vc =446.6cm3/mol となり、例題 3.3 とほ ぼ一致していることがわかる。 59 第1回レポート課題 1. Excel を用いて、表2の値をグラフにプロットし、温度に対して各物性値が、どのような関数で 表現できるかを考察する。例えば、蒸気圧については、熱力学第1法則、熱力学第2法則、エン タルピー、ギブスの自由エネルギーの定義を用いて、クラジュウスークラペイロン式を導き、絶 対温度、Tの逆数1/T を横軸にとり、縦軸に蒸気圧の対数 lnp をプロットするとよい。 2. 燃料電池自動車の場合、メタノールから生成する水素と空気中の酸素を反応させて電気を発生さ せることが想定されている。原料のメタンでなくメタノールを燃料とする理由を化学物質の物性 の観点から説明せよ。 3. メタンハイドレートとして貯蔵されているメタンの量、天然ガスと石油に含まれる平均的なイオ ウの量を調べ、酸性雨対策の観点と資源の有効利用の観点から、メタンの有用性について述べよ。 4. メタンの臨界温度、臨界圧力を調べ、液化天然ガスをタンカーで運ぶ方法(液とガスの密度も検 討する)について述べよ。 第1回レポート 提出期限 提出場所 9月 17 日(金曜)午後1時まで 6号館638A室のレポート提出箱 付表 1 基本物理量の SI 基本単位 物理量 長さ 質量 時間 温度 物質量 電流 光度 付表 2 SI 誘導単位 物理量 SI 単位 力 ニュートン 圧力 パスカル エネルギー ジュール 仕事率 ワット 電気量 クーロン 電位差 ボルト 電気抵抗 オーム 電導度 ジーメンス 電気容量 ファラット 周波数 ヘルツ 付表 3 SI 単位の接頭語 接頭語 ピコ ナノ 大きさ 10-12 10-9 記号 p n SI 単位 メートル キログラム 秒 ケルビン モル アンペア カンデラ 記号 m kg s K mol A cd SI 単位記号 N Pa J W C V Ω S F Hz マイクロ 10-6 μ ミリ 10-3 m SI 単位の定義 m kg s-2 m-1 kg s-2 (=N m-2) m2 kg s-2 m2 kg s-3 (=J s-1) As m2 kg s-3 A-1 (=J A-1 s-1) m2 kg s-3 A-2 (=V A-1) m-2 kg s-1 A2 (=Ω-1) m-2 kg s-1 A2 s4 (=A s V-1) s-1 センチ 10-2 c 60 デシ 10-1 d キロ 103 k メガ 106 M ギガ 109 G 付表 4 基本的数値・物理定数 定数 円周率 ファラデー定数 ボルツマン定数 気体定数 記号 π F K R アボガドロ数 プランク数 重力加速度 光の速度 理想気体の標準モル体積 数値 3.141593 9.6485456×104 C mol-1 1.38066×10-23 J K-1 8.31441 J K-1 mol-1 8.2056 ×10-2 dm3 atm K-1 mol-1 1.98720 cal K-1 mol-1 6.02205×1023 mol-1 6.62618×10-2 J s 9.80665 m s-1 2.997925×108 m s-2 2.241383×10-2 m3 mol-1 L H G C 付表 53) アントワン定数 ln p = A − B (T + C ) 物質名 p [ kPa ],T [ K ] A B C 温度範囲[K] 水 16.56989 3984.923 −39.724 273.15∼373.15 クロロフォルム 13.99869 2696.249 −46.918 263.15∼333.15 n-ヘプタン 13.85871 2911.319 −56.510 270.15∼400.15 メタノール 16.59214 3643.314 −33.424 288.15∼357.15 エタノール 16.66404 3667.705 −46.966 293.15∼366.15 n-プロパノール 17.27826 4117.068 −45.712 258.15∼371.15 n-ブタノール 14.94047 3005.329 −99.723 362.15∼399.15 シクロヘキサン 13.76108 2778.000 −50.014 280.15∼354.15 ベンゼン 13.82650 2755.642 −53.989 281.15∼353.15 トルエン 13.98998 3090.783 −53.963 246.15∼384.15 p-キシレン 14.08130 3346.646 −57.840 300.15∼389.15 アセトン 14.37284 2787.498 −43.486 260.15∼328.15 Gmehling J.et al. DECHEMA Chemistry Data Series.Vol.1,Part1-8(1977-1984)より抜粋 61 付表 68) 主な物質の臨界定数 物質名(分子記号) 一酸化炭素(CO) 二酸化炭素(CO2) 水(H2O) 二酸化窒素(NO2) 二酸化硫黄(SO2) フッ化水素(HF) 塩化水素(HCl) 臭化水素(HBr) ヨウ化水素(HI) シアン化水素(HCN) 硫化水素(H2S) アンモニア(NH3) メタン(CH4) エチレン(C2H4) エタン(C2H6) プロパン(C3H8) ベンゼン(C6H6) シクロヘキサン(C6H12) トルエン(C6H5・CH3) ナフタレン(C10H8) メタノール(CH3OH) エタノール(C2H5OH) フェノール(C6H5OH) アセトアルデヒド(CH3CHO) アセトン((CH3)CO) 酢酸(CH3COOH) 酢酸メチル(CH3COOCH3) 酢酸エチル(CH3COOC2H5) ジメチルエーテル(CH3)2O ジエチルエーテル(C2H5)2O アニリン(C6H5NH2) 四塩化炭素(CCl4) 臨界圧力Pc [MPa] 3.491 7.38 22.12 10.1 7.884 6.48 8.31 8.55 8.31 5.39 8.94 11.28 4.595 5.076 4.871 4.250 4.898 4.07 4.109 4.11 8.10 6.38 6.13 5.54 4.70 5.79 4.69 3.83 5.37 3.638 5.31 4.56 臨界温度Tc [K] 132.91 304.2 647.30 431 430.8 461 324.6 363.2 424.0 456.8 373.2 405.6 190.55 282.65 305.3 369.82 562.16 553.4 591.79 748.4 512.58 516.2 694.2 461 508.2 594.45 506.8 523.2 400 466.70 699 556.4 62 臨界体積Vc [cm3/mol] 93.5 94.4 57.11 82 122 69 81 110 135 139 98.5 72.5 98.9 128.68 147 203 259 308 316 408 118 167 264 168 209 171 228 286 190 280 279 276 偏心因子 ω 0.049 0.225 0.344 0.86 0.251 0.372 0.12 0.063 0.05 0.100 0.250 0.008 0.085 0.098 0.152 0.212 0.443 0.257 0.302 0.559 0.635 0.440 0.303 0.309 0.454 0.324 0.363 0.192 0.281 0.382 0.194 表 4-1 気体の定圧モル熱容量 8) Cp,m = a1 + a2T + a3T2 + a4T3 ( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] ) 物質 a2×103 a3×105 a1 ‐12.85 CO 30.87 2.789 ‐5.602 CO2 19.80 73.44 ‐7.666 CS2 27.44 81.27 ‐3.869 Cl2 26.93 33.84 ‐3.613 F2 23.22 36.57 ‐1.381 H2 27.14 9.274 ‐7.201 HCl 30.67 1.246 ‐0.2032 HF 29.06 0.6611 H2O H2S I2 N2 NH3 NO NO2 O2 SO2 SO3 ギ酸 ホルムアルデヒド メタン エチレン アセトアルデヒド 酢酸 エタン エタノール アセトン プロパン ベンゼン 32.24 31.94 35.59 27.016 27.31 29.35 24.23 28.11 23.85 19.21 23.48 11.71 19.25 3.806 7.716 4.840 5.409 9.014 6.301 ‐4.224 ‐33.92 1.924 1.436 6.515 58.12 23.83 ‐0.9378 1.055 2.432 ‐0.6988 ‐0.289 1.707 0.9747 ‐2.081 48.36 ‐0.003680 1.746 ‐4.961 ‐11.76 a4×108 ‐1.272 1.715 2.673 1.547 1.204 0.7645 ‐0.3898 0.2504 ‐0.3596 ‐1.176 0.2834 − ‐1.185 ‐0.4187 0.0293 ‐1.065 66.99 1.328 1374 3.700 ‐2.300 31.57 2.985 ‐8.411 135.8 2.017 ‐1.132 52.13 1.197 ‐8.348 156.6 1.755 ‐10.07 182.3 2.380 ‐17.53 254.9 4.949 ‐6.938 178.1 0.8713 ‐8.390 214.1 0.1373 ‐12.53 260.6 2.038 ‐15.86 306.3 3.215 ‐30.17 473.9 7.130 R. C. Reid, J. M. Prausnitz and B. E. Poling, The Properties of Gases and Liquids, 4th edit., Appendix, McGraw – Hill (1987)より抜粋.なおN2(g)は日本化学会編、 化学便覧基礎編(改訂3版) 、 p.II-239、丸善(1984)の値である. 63 表 4-2 チュー−スワンソンによる 293K における液体熱容量の原子団加算因子 4) J mol-1 K-① 原子団 飽和結合 −CH3 −CH2− | −CH− | −C− | −C = O O ∥ −C−OH O ∥ −C−O− −CH2OH | −CHOH | −CCOH | −OH −ONO2 含窒素結合 H | H−N− H | −N− −N− −N=(環状) −C≡N 加算値 36.8 30.4 21.0 7.36 二重結合 =CH2 | = C−H | = C− 21.8 21.3 15.9 三重結合 −C≡H −C≡ 24.7 24.7 環状結合 | −CH− | | −C = または−C− | −CH = −CH2− ハロゲン −Cl(1 または 2 番目 の炭素に結合) −Cl(3 または 4 番目 の炭素に結合) −Br 原子団 −F −I 含酸素結合 −O− >O= H | 18 12 22 26 原子団 含硫黄結合 −SH −C− 水素結合 H−(ギ酸、ギ酸エ ステル、シアン化水 素など) 36 25 38 加算値 17 36 35 53.0 64 53.0 79.9 60.7 73.2 76.1 111.3 44.8 119.2 58.6 43.9 31 19 58.2 加算値 44.8 33 15 問題 1 アントワン式を用いて水の 50℃における蒸気圧を求めよ。アントワン式は、次式で与えられる。 ただし、水のアントワン定数は、 A = 16.56989、 B = 3984.923、 C = −39.724 とする。(1 atm=101.325 kPa) アントワンの式 ln p°[kPa] = A − B (T [K ] + C ) (解) ln p°[kPa] = A − B 3984.923 = 16.56989 − = 2.510 (T [K ] + C ) (50 + 273.15) − 39.724 p0=12.31 kPa = 0.1215 atm 問題 2 以下の問について回答せよ。 2-1. 耐圧 2atm の圧力弁が設置されている圧力鍋に、水を入れた場合、その水が沸騰する温度を計算 せよ。ただし,水のアントワン定数は A = 16.56989、B = 3984.923、C = −39.724 とする。 2-2. 圧力鍋を用いると短時間に料理が出来る理由を物理化学的に説明せよ。 (解) ln(2.0・1.01325 × 10 2 ) = 16.56989 − T= 3984.923 (T − 39.724) 3984.923 B −C = + 39.724 A − ln p° 16.56989 − ln(2.0 × 1.01325 × 10 2 ) = 393.67 K = 120.5℃ 65 問題 3 図のような耐圧 4.00 atm(4.0×1.01325×102kPa)のガラス容器がある。この中にエタノー ルを封入した。今、この中の液体を何度まで加熱すると、ガラス容器が破損する可能性があるか。ただ し、この温度範囲におけるエタノールのアントワン定数は,A = 16.66404、B = 3667.705、 C = − 46.966、 po[kPa]、 T[K]であるとする。 密閉 ガラス容器 耐圧:4atm エタノール 加熱 図 エタノールを封入したガラス容器 (解) エタノールのアントワン定数およびアントワン式を用いて蒸気圧が 4.00atm となる温度 T を 求める. ln p°[kPa ] = A − T= B (T + C ) 3667.705 B −C = + 46.966 A − ln p° 16.66404 − ln(4.0 × 1.01325 × 10 2 ) T = 391.05 K = 117.9 ℃ 66 (「化学工学プログラミング演習」より) 化学平衡 例題 1 メタンの標準生成熱を計算せよ。 [解] メタンの生成に関して熱化学方程式を立てると次のようになる。 CH4 + 2O2−Æ CO2 + 2H2O (l) , 2H2+O2 --Æ 2H2O (l) , C(graph) + O2−Æ CO2 , ΔH298=―213,000 cal ΔH298=―137,000 cal ΔH298=―94,000 cal (1) (2) (3) ここで、(l)、(graph)はそれぞれ液体と黒鉛(グラファイト)を表す。 左辺に反応物であるC(graph)と 2H2、右辺に生成物CH4がくるように式を計算するためには、 式(2)+式(3)―式(1)を計算すればよいことがわかる。 CH4 、 C(graph) +2H2 --Æ ΔH298=―137,000―94,000+213,000 =―18,000 cal 例題 2 メタンの生成に関して任意の温度 T におけるエンタルピ変化ΔH を与える式を求めよ。 [解] メタンの生成に関して任意の温度 T におけるエンタルピ変化ΔH を求めるには、メタンの生 成に関わる物質の定圧比熱の温度依存性を調べればよい。前例題より、メタンの生成反応について は、既に下記のようなことがわかっている。 CH4 C +2H2 --Æ ΔH298=―18,000 cal (4) (5) 生成物、反応物の定圧比熱の温度依存性は下記のように表されることがわかっている。 C; Cp=1.1+0.0048T−0.0000012T2 Cp=6.50+0.0009T H2; CH4; Cp=3.0+0.0228T−0.0000048T2 (6) (7) (8) 標準反応における反応熱と各成分の比熱との関係は、熱力学的に下記のように与えられる。 ∆H = ∆H 0 + ∑ν i ai T + 例題3 1 1 ν i bi T 2 + ∑ν i ci T 3 ∑ 2 3 メタン改質反応 67 (9) メタンの改質反応は、下記の量論式で表される。いま温度、873K、圧力 1atm(101300Pa) にて、メタン 1mol に対して水蒸気 5mol を用いてメタンの改質を行った。反応後の平衡組成も求 めよ。 CO + 3H2 (1) CH4 + H2O Å--Æ CO + H2O Å--Æ CO2 + H2 (2) ただし、反応(1),(2)の平衡定数がそれぞれK1=1.385 atm2 , K2=1.805 [-]であるとする。 [解] 反応したメタンの物質量を x [mol], 式(2)によって反応したCOの物質量を y [mol], とす ると、反応後の各成分iの物質量,ni[mol]は、各反応式より、下表のように求まる。例えば、第 1 成分であるメタンの反応後の残っている物質量n1は反応前に1molあったもののうちx[mol]反応 したのだから、 (1―x)となる。 式(1)だけを考慮すると、反応後の物質量は、下記のようになる。 1-Æx CH4 + H2O Å--Æ 1 − x 5 − x 式(2)も考慮すると、 x Æy CO + H2O Å--Æ x−y 5―x―y CO CO2 y (1) + 3H2 x 3x + H2 3x+y (2) 反応後の混合物の全物質量Ntは、反応後の各成分iの物質量,niの和として次式のように求まる。 N t = n1 + n2 + n3 + n4 + n5 = 6 + 2 x (3) また、全圧をPとすると、i成分の分圧Piは、次式で与えられる。 Pi = ni P Nt (4) これらの式を用いて、反応の前後の物質収支から、反応後の各成分の物質量と分圧を計算すると下 表のようになる。 No. 1 2 3 4 5 物質 CH4 H2O CO H2 CO2 計 反応前[mol] 1 5 0 0 0 6 反応後[mol] n1= 1−x n2= 5 – x – y n3= x ―y n4= 3x +y n5= y 6 + 2x =Nt 分圧[atm] ( 1- x) P / Nt ( 5- x - y) P / Nt (x – y ) P / Nt ( 3x + y) P / Nt y P / Nt したがって、気体反応であるので、i成分の分圧Piを用いて反応平衡定数を表すと、 68 3 P3 ⋅ P43 ⎡⎛ x − y ⎞⎛ 3x + y ⎞ ⎤ = ⎢⎜ P⎟ ⎥ K1 = P ⎟⎜ P1 ⋅ P2 ⎢⎣⎝ 6 + 2 x ⎠⎝ 6 + 2 x ⎠ ⎥⎦ K2 = P5 ⋅ P4 ⎡⎛ y ⎞⎛ 3x + y ⎞⎤ P ⎟⎜ P⎟ = ⎢⎜ P3 ⋅ P2 ⎣⎝ 6 + 2 x ⎠⎝ 6 + 2 x ⎠⎥⎦ ⎡⎛ 1 − x ⎞⎛ 5 − x − y ⎞⎤ ⎢⎜ 6 + 2 x P ⎟⎜ 6 + 2 x P ⎟⎥ ⎠⎝ ⎠⎦ ⎣⎝ ⎡⎛ x − y ⎞⎛ 5 − x − y ⎞⎤ ⎢⎜ 6 + 2 x P ⎟⎜ 6 + 2 x P ⎟⎥ ⎠⎝ ⎠⎦ ⎣⎝ (5) (6) ここで、全圧P=1atm として、式(5),(6)を整理する。 ⎡⎛ x − y ⎞⎛ 3 x + y ⎞ 3 ⎤ K 1 = ⎢⎜ ⎟⎜ ⎟ ⎥ ⎣⎢⎝ 6 + 2 x ⎠⎝ 6 + 2 x ⎠ ⎦⎥ ⎡⎛ y ⎞⎛ 3 x + y ⎞⎤ K 2 = ⎢⎜ ⎟⎜ ⎟⎥ ⎣⎝ 6 + 2 x ⎠⎝ 6 + 2 x ⎠⎦ ⎡⎛ 1 − x ⎞⎛ 5 − x − y ⎞⎤ ⎢⎜ 6 + 2 x ⎟⎜ 6 + 2 x ⎟⎥ ⎠⎝ ⎠⎦ ⎣⎝ (7) ⎡⎛ x − y ⎞⎛ 5 − x − y ⎞⎤ ⎢⎜ 6 + 2 x ⎟⎜ 6 + 2 x ⎟⎥ ⎠⎝ ⎠⎦ ⎣⎝ (8) ( x − y )(3 x + y ) 3 − K 1 (1 − x)(5 − x − y )(6 + 2 x) 2 = 0 (9) y (3x + y ) − K 2 ( x − y )(5 − x − y ) = 0 (10) これらの式(9)、(10)を連立して解くことにより、x、y の値がわかり、反応後の組成がわかる。この ような非線形連立方程式を解くには、種々の方法がある。自らプログラムを作成して数値計算によ り解くには、修正 Newton−Raphson 法などが使える。Excel の拡張機能であるスルバーを用いて 解くこともできる。Excel を使いなれた方には、この方法がもっとも容易である。プログラムを作 らずに簡易的に解くにも種々の方法がある。Mathematica などの数学演算ソフトもその一つであ る。これらについては、下記にその使用例を示す。 科学技術計算ソフトである Mathematica を用いてこの問題を解く方法を下記に示す。 Mathematica を起動して、入力画面にて次のようにキー入力する。 In[1]:= NSolve[{(x-y)*(3x+y)^3-Ki*(1-x)*(5-x-y)*(6+2x)^2 0, y*(3x+y)-Kj*(x-y)*(5-x-y) 0, Ki==1.385, Kj 1.805} , {x,y},8] (11) 「shift」キーを押しながら「Enter」キーを押す。次のような計算結果が画面上に現れる。 Out[1]={{y→-1.83332-1.77999 ™,x→-1.28993-0.75229 ™}, {y→-1.83332+1.77999 ™,x→-1.28993+0.75229 ™}, {y→0.610793,x→0.952157}, {y→1.50807 -0.376682 ™,x→0.780438 -2.00006 ™}, {y→1.50807 +0.376682 ™,x→0.780438 +2.00006 ™}, {y→7.45868,x→-2.60506},{y→7.5,x→-2.5},{y→7.58102,x→-2.32811}} (12) これらは、すべて上述の2つの方程式(式(9)、(10))を満足しているが、物理化学的に意味を持つ のは、{y→0.610793,x→0.952157} である。 Mathematica の入力について簡単に説明する。連立方程式を解く場合、Solve や NSolve などの命 令が使用できる。Solve は解析的解く場合(下に例を示す。 )で、NSolve は数値的に解く場合に使 用する。ここでは、非線形方程式で数値解をもとめればいいので、NSolve を用いた。 文法的には、 NSolve[{ 解く式(9), 解く式(10), K1の条件を与える式 , K1の条件を与える式} , 69 {解くべき変数ここでは x,y }, 答えの有効桁数ここでは 8] Mathematica では、解析的な解がある場合、数値ではなく式として解を得ることもできる。例えば、 ax + by = 1 (13) x− y =2 (14) このような連立方程式を Mathematica の Solve を用いて解析的に解くと、下記のように解が求まる。 In[2]:= Solve[{a x+b y 1, x-y 2},{x,y}] (15) Out[2]= ⎧⎧ − 1 + 2 a ⎫⎫ − 1 − 2b ,y→− ⎨⎨ x → − ⎬⎬ a + b ⎭⎭ a+b ⎩⎩ (16) さらに、Mathematica は、微分演算なども式で解を得ることができる。例えば、式(9)、(10)を x、y で 偏微分すると下記のような解を得る。これらの式は、数値解を求めるために Gauss-Newton 法を用い る際に使用できる。 [例題 5.11] 次の偏微分に対して Mathematica を用いて数式を求めよ。 ∂F1 ∂x = ( x − y )(3x + y ) 3 − K1 (1 − x)(5 − x − y )(6 + 2 x) 2 [解] In[3]:= D[(x-y)*(3x+y)^3-Ki*(1-x)*(5-x-y)*(6+2x)^2,x] Out[3]= Ki (1 − x)(6 + 2 x) 2 − 4 Ki (1 − x)(6 + 2 x)(5 − x − y ) + Ki (6 + 2 x) 2 (5 − x − y ) + 9( x − y )(3x + y ) 2 + (3x + y ) 3 このように偏微分の結果を得る。同様に ∂F1 ∂y 、 ∂F2 ∂x 、 ∂F2 ∂y も下記のように得られる。 D[(x-y)*(3x+y)^3-Ki*(1-x)*(5-x-y)*(6+2x)^2,y] Ki (1 − x)(6 + 2 x) 2 + 3( x − y )(3 x + y ) 2 − (3x + y ) D[y*(3x+y)-Kj*(x-y)*(5-x-y),x] -Kj (5-x-y)+Kj (x-y)+3 y D[y*(3x+y)-Kj*(x-y)*(5-x-y),x] 3 x+Kj (5-x-y)+Kj (x-y)+2 y 70 Excel を用いてもこれらの非線形方程式を解くことができる。そのためには、Excel に「ソルバー」 がインストールされている必要がある。Excel 購入時には一般にインストールされていないので、イン ストールしておくことをお勧めする。 Excel に「ソルバー」をインストールするには(Office 2000、XP の場合を例に示す)、まず、Excel を起動し、sheet 画面、「ツール」→「アドイン」を選択する。 下記のように「有効なアドイン」が表示されるので、 「ソルバーアドイン」にチェックを入れて、 「OK」 ボタンを押す。 アラートメッセージが表示されるので、「はい」ボタンを押す。機器の設定によっては、このアラ ートメッセージが出ず、「ソルバー」をインストールできる場合がある。その場合は、下記のよう なインストール CD の挿入の必要はない。 71 ディスクの挿入を要求されるので、インストール CD などを挿入して、 「OK」ボタンを押す。 XP の場合、 「”Microsoft Office XP Professional”ディスクを挿入し・・・」表示される。 この部分は、機種により異なる。 セルB1:B2 に変数x,yの初期値を設定し、B3:B4 のセルに平衡定数K1,K2の値を記述する。さらに、 B5,B6 に式(9),(10)の左辺に相当する関数F1,F2 をそれぞれ記述する。そして、F1,F2 の絶対値の 和をセルB7 とする。 具体的には、B5,B6 には、次のように関数を記述する。 B5 ; =(B1-B2)*(3*B1+B2)^3-B3*(1-B1)*(5-B1-B2)*(6+2*B1)^2 B6 ; =B2*(3*B1+B2)-B4*(B1-B2)*(5-B1-B2) B7 ; =ABS(B5)+ABS(B6) セルへの記入が完了したら、セル B7 をクリックし、その後、 「ツール」→「ソルバー」と選択す る。下記のような「ソルバー:パラメータ設定ウィンドウ」が現れるので、目的セルと目標値を決 定後、「実行」ボタンをクリックする。ここでは、ソルバーでセル B7 を目的セルとし、目標値を 最小値とする。ただし、セル B7 を目的セルとする場合、$B$7 として絶対参照すること。 72 実行後、下記のような「ソルバー:探索結果」が現れるので、解を記入するにチックがあることを 確認して「OK」ボタンを押す。 セル B1:B2 に x、y の解が現れる。また、 「ソルバー:探索結果」中にあるレポートのリストボック スの「解答」 、 「感度」 、 「条件」をクリックしてから「OK」ボタンを押すと、Excel のシートに「解 答レポート」 、「感度」、 「条件」ページが追加される。 解答レポート1(ソルバーで追加されるレポート Microsoft Excel 9.0 解答レポート ワークシート名 : [ソルバー例題 01.xls]Sheet1 レポート作成日 : 2004/08/24 15:43:55 目的セル (最小値) セル 名前 $B$7 誤差 計算前の値 52.435074 セルの値 0.000368428 変化させるセル 73 セル 名前 $B$1 x= $B$2 y= 計算前の値 0.8 0.5 セルの値 0.952155008 0.610758432 制約条件 なし Sheet1の実行後の結果は下記のようになる。 自らプログラムを作成して数値計算により解く方法を下記に示す。Excel の拡張機能であるスル バーを用いたり、科学技術計算ソフトである Mathematioca などで解く場合も、コンピュータの中 では、プログラムによる数値計算が行われており、これらの式(9)、(10)のような非線形連立方程式 を解くには、Gauss-Newton 法や修正 Newton−Raphson 法などが使える。ここでは、Excel のマ クロとしても使われている Visual Basic Editor を用いてコードを記述して、これらの数値計算 より解く方法を説明する。 一元高次方程式の解法として、既に Newton−Raphson 法やセカント法を学習した方には、それ の多次元化した方法であると考えていただければよい。Gauss-Newton 法でも、解の初期値を与え、 連立方程式を線形化して得られる連立一次方程式を解き、近似の進んだ解を求める操作を繰り返し て収束点を探す。 一般に未知数をnとして扱うこともできるが、ここでは、この問題にあわせて未知数を2にして 原理を説明する。未知数x1,x2(式(9),(10)ではそれぞれx、yを表す)を含む二つの方程式F1(x1,x2)= 0, F2(x1,x2)=0 (式(9),(10)の左辺のそれぞれをF1, F2で表す)が与えられたとする。 74 ここで、微係数の記号を ∂Fi ∂x j = Aij と置き換えて行列の形で表す。 ⎛ A11 A12 ⎜⎜ ⎝ A21 A22 ⎞⎛ ∆x1 ⎟⎟⎜⎜ ⎠⎝ ∆x 2 ⎞ ⎛ F1 ⎟⎟ = ⎜⎜ ⎠ ⎝ F2 ⎞ ⎟⎟ ⎠ Ebert らのプログラムを書き換えて使う場合、下記のように修正するとよい。 Sub FUNCTIONS(N, F(), X()) ' Subroutine FUNCTIONS 'The functions, whose roots must be calculated, are programmed here. xK1 = 1.385 xK2 = 1.805 F(1) = (X(1) - X(2)) * (3 * X(1) + X(2)) ^ 3 _ - xK1 * (1 - X(1)) * (5 - X(1) - X(2)) * (6 + 2 * X(1)) ^ 2 F(2) = X(2) * (3 * X(1) + X(2)) - xK2 * (X(1) - X(2)) * (5 - X(1) - X(2)) End Sub Sub DIFFCO(N, X(), A()) xK1 = 1.385 xK2 = 1.805 AB11 = (3 * X(1) + X(2)) ^ 3 + 9 * (X(1) - X(2)) * (3 * X(1) + X(2)) ^ 2 AB12 = xK1 * (-(5 - X(1) - X(2)) * (6 + 2 * X(1)) ^ 2 _ - (1 - X(1)) * (6 + 2 * X(1)) ^ 2 + 4 * (1 - X(1)) * (5 - X(1) - X(2)) * (6 + 2 * X(1))) A(1, 1) = AB11 - AB12 A(1, 2) = -(3 * X(1) + X(2)) ^ 3 + 3 * (X(1) - X(2)) * (3 * X(1) + X(2)) ^ 2 _ + xK1 * (1 - X(1)) * (6 + 2 * X(1)) ^ 2 A(2, 1) = 3 * X(2) - xK2 * ((5 - X(1) - X(2)) - (X(1) - X(2))) A(2, 2) = (3 * X(1) + X(2)) + X(2) - xK2 * (-(5 - X(1) - X(2)) - (X(1) - X(2))) End Sub 初期値を 0.8, 0.5 とした場合の計算結果を下表に示す。 X( 1) X( 2) F( 1) F( 2) 0.8 0.5 -51.8815 -0.55355 0.952569 0.616785 0.000755 0.063731 0.952149 0.61079 -0.00295 -1.6E-06 SUMF2 Iteration 8.68E-06 3 初期値を 0, 0 とした場合 X( 1) X( 2) F( 1) F( 2) 0 0 -249.3 0 1.005682 1.005682 1.509465 4.045584 0.971545 0.842638 -1.0842 2.424752 75 0.960336 0.950548 0.952159 0.745695 0.619252 0.610787 SUMF2 Iteration -1.11372 -0.81369 0.000651 1.428243 0.098134 -7.2E-05 4.29E-07 6 また、微分をする部分をセカント法と同様に変形すると、式を微分することなく、 式(9),(10)のみを記述して数値計算で求めることもできる。これらのプログラムを添付ファイルとし て示す。 例題 4 メタノールから水素を取り出す反応を、次の式で表現した。 2CH3OH + H2O Å--Æ CO +CO2 + 5H2 (1) プロセスシミュレータを用いて、400∼800K、1atm の条件のもとで平衡状態として計算したと ころ、下記の結果を得た。これらの結果が妥当な値であることを、素反応の各平衡定数から組成求 めて確認する方法を示せ。 [解] 式(1)で示される反応は下記の3つの反応が同時に起こったものと考えることができる。 CH3OH + H2O Å--Æ CO2 + 3H2 (1) CH3OH Å--Æ CO + 2H2 (2) CO2 + H2 (2) CO + H2O Å--Æ 76 問題 4 超臨界流体にどのくらい物質が溶解するか、熱力学モデルを用いて計算してみる。 その溶解度は、超臨界流体(1)−固体成分(2)の 2 成分系と考えて、熱力学的基礎式から次式のように求 められる。このとき、下付きの数字2は第 2 成分(カフェイン)である固体成分を示す。 p v ( p − p2 1 exp[ 2 y2 = 2 G p φ2 RT SAT S SAT ) (1) ] ここで,p2SAT,v2Sは、それぞれ固体成分の飽和蒸気圧と固体モル体積であり、φ2Gは固体成分の気相 フガシティ係数です。上付きの数字SATとGは、それぞれ飽和とガスを示す。また、式の導出において、 (i)固体中に超臨界流体は溶解しない,(ii)純固体の気相フガシティ係数は1と近似できる、(iii) 固体のモル体積は圧力により変化しないとする三つの仮定をしている。 温度 343.15 Kにおける超臨界二酸化炭素に対するフェナントレンの溶解度の計算値y2を式(1)より計 算し,表 1 の値となることを確認し、実験値と比較せよ。フガシティ係数φ2Gは,状態方程式より計算 された次に示す表 1 の値を用いよ。ただし、フガシティ係数φ2Gは、温度,圧力,組成の関数であり、 状態方程式とその物性定数の混合則より計算せよ。実際の問題では、この問題のように与えられること はなく、状態方程式等を用いて計算することになる。この問題では表 2 の値を利用してSRK状態方程式 に非対称形混合則を用いて計算したフガシティ係数φ2Gの値を与えている。 ただし、物性定数として、固体(フェナントレン)の固体モル体積vsならびに 343.15 Kにおける蒸気圧 SAT p2 をそれぞれ 0.1512×10‐3 m3・mol‐1、2.6872 Paとし、ガス定数Rを 8.31451 Pa・m3・mol‐1・K‐1 とする。 77 表 1 343.15 K ( 70 ℃ ) の と き の 各 圧 力 に お け る φ P ×10‐5 計算値 実験値 計算値 [Pa] φ2 G y 2×104 [-] y 2×104 [-] 104.3 1.964×10‐2 0.227 0.228 118.1 2.533×10‐3 1.67 1.68 138.8 7.937×10‐4 5.08 5.09 207.7 2.386×10‐4 16.3 16.3 276.7 1.202×10‐4 35 35 380.1 1.342×10‐4 39.4 39.5 414.5 1.412×10‐4 41.2 41.3 2G お よ び y2 の 値 表 2 状態方程式の計算に用いた二酸化炭素およびフェナントレンの物性値 物質名 T c [K] p c×10‐5 [Pa] ω[-] 二酸化炭素 304.2 7.376 0.224 フェナントレン 878 2.899 0.431 [解] 表 1 の各パラメーターを用いて計算値y2を求める。 p2 v ( p − p2 1 exp[ 2 G p φ2 RT SAT y2 = = S SAT ) ] ( ⎡ 0.1512 ×10 −3 104.3 ×10 5 − 2.6872 2.6872 1 ⋅ ⋅ exp ⎢ 8.31451× 343.15 104.3 ×10 5 0.01964 ×10 −2 ⎣ 上記の計算により,計算値y2=0.227994×10-5 が得られる。 同様の計算を他のパラメーターを用いて行うと,表 1 のようになる。 78 )⎤ = 0.227994 ×10 ⎥ ⎦ −5
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