異なる大きさのセルが混在する環境下における複数基地局間協調制御の研究開発 Cooperative control for multiple base stations in an environment consisting of various cell sizes 研究代表者 藤井 輝也 ソフトバンクモバイル株式会社 Teruya Fujii, Softbank Mobile Corp. 研究分担者 中嶋 信生†††,唐沢 好男†††,藤井 威生†††,表 英毅††,太田 喜元††,杉田 洋祐††,林 秀樹†,宮島 春弥†, 岡廻 隆生†,張 亮†,永井 泰裕†,長手 厚史†,星野 兼次†,緒方 大悟†,吉野 仁†,三上 学†,宮下真行† Nobuo Nakajima†††, Yoshio Karasawa†††, Takeo Fujii†††, Hideki Omote††, Yoshichika Ohta††, Yosuke Sugita††, Hideki Hayashi†, Haruya Miyajima†, Takao Okamawari†, Liang Zhang†, Yasuhiro Nagai†, Atsushi Nagate†, Kenji Hoshino†, Daigo Ogata†, Hitoshi Yoshino†, Manabu Mikami†, Masayuki Miyashita† ††† 電気通信大学 ††ソフトバンクテレコム †ソフトバンクモバイル ††† The University of Electro-Communications ††Softbank Telecom Corp. †Softbank Mobile Corp. 研究期間 平成 20 年度~平成 23 年度 概要 次世代の移動通信システムでは高速・広帯域化に伴うビット当たりの受信電力低下や、同一周波数干渉により、セル端 やシステム全体でのスループット低下が課題である。本研究開発では、マクロセル、マイクロセル、ピコセル等の異なる 大きさのセルが混在するセル構成において、隣接セルに留まらずにそれ以遠の数多くのセル間で、各基地局の周波数、送 信電力、アンテナリソース等の無線リソースの割り当てを相互に協調制御することにより、隣接基地局を含む複数基地局 間協調制御を用いない場合に比べて、セル端で 3 倍以上、システム全体で 2 倍以上の周波数利用効率の向上を目指す。 さらに、セル境界での周波数利用率の一層の向上を図る技術として、セルにオーバーラップさせて設置するリレー基地局 の検討を行う。 Abstract For next generation mobile communications systems, it is required to drastically improve both cell-overall and cell-edge throughputs, which are now degraded by co-channel interference and low received signal power caused by high-speed and wideband communications. In this R&D, we propose a coordinated resource allocation control among multiple base stations in an environment with varying cell sizes such as macro, micro, and pico cells. In the proposal, not only neighbor cells but also cells outside of them are taken into account and the resource allocation algorithm is optimized by considering radio resources such as frequency, transmit power, and antennas in order to triple cell-edge throughput and double cell-overall throughput compared with the case without cooperation. We also study on relay stations deployed within macro cell area to further improve spectral efficiency. 1.まえがき 有限の周波数資源で、ブロードバンドサービスを提供 する方法として、セルの小セル化(マイクロセル、ピコセ ル化)がある。小セル化を行えば同一周波数を共有する基 地局当たりのユーザ数を少なくすることができることか ら、ユーザ当たりの伝送速度の向上が図られ、各ユーザに ブロードバンドサービスを提供できる。 小セル化は通信トラヒックの多い場所から行うことが 一般的である。そのため、実際のセルを構築した場合には、 マクロセル、マイクロセル、ピコセルなど様々な大きさの セルが混在することになる(以下、このようなセル構成を “非正則セル構成”と称す)。 理想的な正則セル構成では各セルが受ける干渉は同一 であるのに対して、非正則セル構成では干渉の受け方が 様々異なる。例えば、図 1 に示すようにセルの配置が規則 的で、1 セル繰り返しを行っている移動通信システムでは 隣接セルからの干渉波が最も強く、隣接セル干渉により通 信品質は大方決まる。 一方、図 2 に示すように非正則セル構成では隣接セルの 図1 正則セル構成 図 2 様々な大きさのセルが混在する セル構成(非正則セル構成) みならず遠方の基地局からも強い干渉波が到来するため、 広い範囲の基地局からの干渉により通信品質が決定する。 そこで、非正則セル構成において通信品質を改善する方 法として、希望波電力を向上させ、干渉電力を低減するよ うに各基地局が協調して制御する“複数基地局間協調制 御”を提案した。提案では隣接基地局のみならずそれ以遠 の多くの基地局が協調することが大きな特徴である。 本研究開発では、3GPP(Third Generation Partnership Project)標準である LTE(Long Term Evolution)をベース 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) として提案した“複数基地局間協調制御”の検討を行い、提 案技術の適用によりセル境界で約 3 倍、セル全体で約 2 倍の通信容量の向上を目標とした。 先ず、(1)通信容量を向上させるための複数基地局協調 無線リソースの協調割当て技術、(2)協調制御するための 同期制御を行うための基地局間協調ネットワーク制御技 術の検討を行い、セル境界で約 3 倍、セル全体で約 2 倍 の通信容量を達成できることを計算機シミュレーション で確認した。また、複数基地局間協調制御の実証実験シス テムを開発し、フィールド実証実験を実施した。 また、セル境界等において周波数利用率の一層の改善を 図る技術として、複数のリレー基地局をセル内にオーバー ラップさせて設置し、それらが協調制御するリレー基地局 連携制御の検討を実施した。 本稿では、これらの概要について報告する。 2.研究内容及び成果 2.1 システム構成 図3に提案する複数基地局間協調制御のシステム構成 を示す。サービスエリアは様々な大きさのセルで構成され る。協調制御はエリア内のセルを一定の数の基地局で構成 される協調制御セル群(協調制御グループ)に分割し、各 協調制御グループは独立に協調制御する。協調制御グルー プ内のセル数を多くするほど大きな協調効果が期待でき るが、その分制御処理量が増大する。協調制御グループを どの程度のセル数で構成するかについては制御処理量と 適用効果のトレードオフの関係にある。 ネットワーク構成に関しては、周波数、送信電力、基 地局アンテナの各無線リソースの最適割当てを実行する “複数基地局間協調無線リソース管理プラットホーム”と 無線リソースの割当て情報を各基地局に配送し、また協調 制御するための同期制御を行う“複数基地局間協調ネット ワーク制御プラットホーム”から構成される。 システムの最適化及び評価を行うためには様々な大き さのセルに対応できる時空間電波伝搬モデルの開発も不 可欠である。 2.2 基地局間協調制御 基地局間協調制御は、(a)隣接セルとだけ協調制御する 隣接基地局間協調制御 (Adjacent cell cooperation)と(b) 隣接基地局のみならずそれ以遠の基地局が協調制御する 広域基地局間協調制御(Wide area cell cooperation)に 分けて構築する。 2.2.1 隣接基地局間協調制御 隣接基地局間協調制御は、セル境界でのスループットを 向上させるために、隣接基地局が相互に協調して、セル境 界における受信電力の向上や同一チャネル干渉の軽減を 図る技術であり、3GPP(Third Generation Partnership Project)では CoMP(COordinated Multi- Point)に属する 技術である。 一 例 と し て 、 提 案 し た 隣 接 基 地 局 間 協 調 MIMO (Multi-Input Multi-Output)を示す。この技術は図 4(a) に示す単一基地局対応の MIMO を、図 4(b)に示すように 隣接基地局のアンテナリソース及び送信電力リソースを 同時に利用するように拡張した MIMO 技術である。単一 基地局の MIMO 構成を 2x2MIMO とした場合、隣接基地 局間協調 MIMO はセル境界の端末に対して 4x2MIMO を 実現する。尚、ここで示す隣接基地局間協調 MIMO は各 基地局(eNB:evolved Node B)が端末(UE:User Equipment)に対して SFBC(Space Frequency Block 複数基地局間協調無線リソース管理プラットフォーム 複数基地局間協調ネットワーク制御プラットフォーム 協調制御グループ1 図3 協調制御グループ2 提案する複数基地局間協調制御のシステム構成 eNB1 eNB1 SFBC SFBC eNB2 1ストリーム 1ストリーム 2ストリーム UE UE 基地局間同期 (a) 単一基地局MIMO-SDM 図4 (b) 隣接基地局協調MIMO-SDM 隣接基地局協調 MIMO Code)で 1 ストリームを送信し、隣接 2 基地局で 2 スト リ ー ム 送 信 を 行 う MIMO-SDM ( Spatial Division Multiplexing)である。隣接基地局間協調 MIMO は単一 基地局 MIMO に比べて送信電力を 2 倍、基地局アンテナ 数を 2 倍にできることから、セル境界での端末の受信特性 を大幅に改善できる。ただし、隣接基地局間協調 MIMO を適用した場合には隣接基地局に在圏する端末の通信を 停止させることから、隣接セルのスループットが低下し、 逆にサービスエリア全体のスループットが低下すること が懸念される。そこで、基地局間協調 MIMO を適用した 場合のスループット値を推定し、基地局間協調 MIMO を 適用しない場合のスループットと比較して、適用の判断を 決定する評価基準を提案している。具体的には、基地局間 協調 MIMO 適用なしのセル 1、セル 2 のスループットを C1、C2 とし、基地局間協調 MIMO を適用した場合のセ ル 1 のスループットの推定値を C12 とすると、次式に示 す条件を満たした場合に限り基地局間協調 MIMO を適用 する。 (1) C12 C1 C2 又は、 C12 C1 (2) ここで、 はスループットの合計に対する利得であり、 一般に ≦1 の定数である。一方、 はセル境界に位置す る端末のスループットに対する利得であり、一般に >1 の定数である。例えば、式(1)において =1 と設定した場 合は、各セルのスループット値 C1、C2 の合計値よりもス ループット値が大きい場合に限り、隣接基地局間協調 MIMO が適用されることになる。すなわち、 =1 と設定 した場合には隣接基地局間協調 MIMO により各セルのス ループットの合計値が低下することはない。 一方、各セルのスループットの合計値は下がってもセル 境界の端末のスループットの改善を優先する場合には、式 (1)において <1 と設定する、あるいは式(2)に従って基地 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) 局間協調 MIMO の適用を判断する。この設定により、セ ル境界の端末のスループットは確実に改善できる。 ところで、隣接基地局間協調 MIMO で通信品質の改善 を図るためには単一基地局 MIMO と同様に伝搬変動の瞬 時変動に追従する適応変調(Adaptive Modulation and Coding: AMC) 、 再 送 制 御 (Hybrid Automatic Repeat reQuest: HARQ )、 ラ ン ク ア ダ プ テ ー シ ョ ン (Rank Adaptation: RA)制御が必須であり、隣接基地局間でもこ れらの制御を実現する必要がある。また、隣接基地局間協 調 MIMO は隣接基地局間で信号を同時送信する必要があ る。そのため隣接基地局間で高精度な同期制御が必要とな る。 2.2.2 広域基地局間協調制御 広域基地局間協調制御は協調制御グループ内の基地局 が広範囲に協調制御することによりセル全体のスループ ットを向上させる技術である。これを実現する技術として、 (a)プリコーディングを用いた基地局アンテナ垂直面内指 向性制御技術、(b)複数基地局間協調送信電力制御技術を 提案した。ここでは、 (a)の基地局アンテナ垂直面内指向 性制御について説明する。本技術は、図 5 に示すように端 末毎にプリコーディング(コードブックに基づくビームフ ォーミング)を用いた基地局アンテナの垂直面内指向性制 御技術である。本技術は簡易な垂直面内のビームフォーミ ングであり、端末の受信電力を向上させ、他セルへの干渉 を低減できることから通信品質を大幅に改善できる。 尚、提案した(a)、(b)の技術は共に瞬時変動に追従する 制御ではなく、短区間変動、長区間変動のゆっくりした変 動に追従する技術ある。 2.2.3 基地局間協調制御による通信容量改善 基地局間協調制御として、セル全体の通信容量を向上さ せる「垂直面内アンテナ指向性制御技術」とセル境界のス ループットを向上させる「隣接基地局間協調伝送技術」を 同時に適用した場合の通信容量の改善効果を計算機シミ ュレーションにより評価した。 評価は一例として、図 6 に示す大中小様々な大きさのセ ルが混在する環境で実施した。図中、“+”は基地局の位置 を表し、色分けされたエリアが各基地局のカバレッジエリ アを表している。通信容量の評価はここではシャノン容量 で行っている。 図 7 に シ ャ ノ ン 容 量 の 累 積 確 率 (Cumulative Distribution Function: CDF) 特性を示す。同図(a)、 (b) はそれぞれセル全体、セル境界での評価結果である。ここ では、 「セル境界」を隣接する基地局間の受信電力差が 3dB 以内の場所と定義した。 シャノン容量の平均値で評価すると、協調制御を適用す ることにより、“協調制御なし”と比較してセル全体におい て 2.2 倍、セル境界において 3.5 倍となり、大きなスルー プットの改善効果が得られている(注1)。 提案技術により、基地局アンテナ本数及び送信電力等の 無線リソースを従来のシステム構成と一切変えないで、セ ル全体のスループットを 2 倍以上、セル境界のスループッ トを 3 倍以上改善できたことは大きな成果である。 (注1) 計算結果の詳細: 星野兼次, 藤井輝也, “大中小様々な大きさのセル が混在するセルラ移動通信におけるスループット改善-プリコーディン グを用いた基地局アンテナ垂直面内指向性制御 及び隣接基地局協調伝送 -”, RCS2012-16,pp.91-96, Apr. 2012. 2.3 ネットワーク制御技術 提案技術を実現するためには、隣接基地局間協調制御と 広域基地局間協調制御を同時に実現するネットワーク制 御アーキテクチャーが必要となる。 2.3.1 隣接基地局間協調制御ネットワーク 隣接基地局間協調制御を行うには送信データを隣接基 地局に分配する必要がある。送信データの分配をどのノー ドで行うかによってネットワーク構成は大きく変わる。図 8(a)はコアノードで分配する例であり、制御等はコアノー ドと基地局間のインターフェース(S1 インターフェース) を用いて行う(以下、“集中制御構成”と称す)。一方、図 8(b)は通信元の基地局を主基地局(マスター基地局)、隣接 基地局を従属基地局(スレーブ基地局)として、マスター基 地局からスレーブ基地局に送信データを分配する例であ 素子群1 素子群2 プリコーディング 100 累積確率 [%] 異なる複数 のビームを 形成する 60 提案法 従来法 40 20 0 送受信機 0 2 4 6 8 10 12 14 シャノン容量 [bps/Hz] 16 (a) セル全体 プリコーディングによる垂直面内指向性制御 100 累積確率 [%] 10 8 6 4 y[km] 図5 80 2 0 -2 80 60 提案法 従来法 40 20 -6 0 -8 -10 -10 図6 -5 -0 x[km] 5 10 大中小様々な大きさのセルで構成 されたセル構成(非正則配置) 0 2 4 6 8 10 12 14 シャノン容量 [bps/Hz] 16 (b) セル境界 図7 非正則配置構成におけるスループット特性 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) 2.3.2 広域基地局間協調制御ネットワーク 例えば、複数基地局間協調送信電力制御は協調制御グル ープ内のすべての基地局を対象として最適制御を行う。さ らに、本制御は基本的に瞬時変動に比べて非常にゆっくり した変動である短区間変動(シャドウィング)や長区間変 動(伝搬距離変動)に追従する制御であり、基地局と広域 基地局間協調制御装置の間では隣接基地局間協調制御の ような高速な制御は必要ではない。そこで、広域基地局間 協調制御装置はコアノード上に設置する。 バックボーン ノード データ分配 S1インターフェース eNB1 eNB2 GPS GPS データ ヘッダ UE (a) S1 インターフェースを用いたデータ分配 バックボーン ノード S1インターフェース X2インターフェース eNB1 eNB2 GPS GPS データ分配 マスター 基地局 スレーブ 基地局 UE (b) X2 インターフェースを用いたデータ分配 図8 基地局間協調データの分配 RLC (ARQ) RLC (ARQ) MAC (HARQ) MAC (HARQ) PHY (MCS) PHY (MCS) eNB1のスケ ジューラに よる制御 eNB1 拡張スケジューラ X2 インターフェース 拡張スケジューラ り、制御等は基地局間のインターフェース(X2 インター フェース)を用いて行う(以下、“分散制御構成”と称す) LTE ではスループットの向上を図るために AMC、 HARQ、RA 及び周波数スケジューリング等の高度な通信 機 能 を 実 現 し て い る 。 こ れ ら は 送 信 間 隔 で あ る TTI (Transmit Time Interval)が 1ms オーダーの高速な制 御であり、すべて基地局内の“スケジューラ”が管理してい る。隣接基地局間協調 MIMO においても単一基地局 MIMO と同等の機能を実現するためには、基地局間協調 時に用いる無線リソースを管理する“スケジューラ”が必 要となる。 上記条件を前提として図 8(a)、(b)の構成について考察 する。図 8(a)の集中制御構成で隣接基地局間協調 MIMO を実現するには、単一基地局 MIMO では基地局で終端し ている AMC、HARQ、RA 等を決定するための制御情報 をコアノードに転送し、決定した情報を端末に送信する必 要がある。そのため基地局で決定する場合に比べて制御遅 延時間が増加する。また、コアノードにおいて協調時に用 いる各基地局のリソースを管理する必要がある。そのため の情報もコアノードに転送する必要がある。これらの制御 は 1ms オーダーの非常に高速な制御であり、コアノード でこれらの制御を実現することは容易ではない。更にコア ノードに協調制御がすべて集中する課題もある。 一方、図 8(b)の分散制御構成は AMC、HARQ、RA 等 の決定を従来どおりすべて通信元基地局で行うことから、 図 8(a)の集中制御構成のように制御遅延時間が増大する ことはない。また、通信元基地局で信号処理された MIMO の物理的な送信信号を通信元基地局の変調回路に転送す る代わりに、隣接基地局の変調回路に転送するだけであり、 制御は比較的簡易である。協調制御を開始する場合は、ま ず通信元基地局のスケジューラは隣接基地局に周波数リ ソースの問い合わせを行い、周波数リソースに空きがあれ ばそれを借り受ける。一旦借り受けた周波数リソースは通 信元基地局がすべて管理する。この構成では制御が集中制 御構成のように一極に集中することがなく各基地局に分 散できる。 以上述べた利点、欠点を総合的に判断すると、図8(b) の構成は図8(a)の構成よりも隣接基地局間協調MIMOに 適しているものと考える。 図 9(a)に隣接基地局間協調 MIMO 適用時の制御アーキ テクチャーを示す。図 9(b)に示すように各基地局のリソー スを管理するスケジューラを、単一基地局を管理するスケ ジューラ(ローカルスケジューラ)と隣接基地局間協調制 御を管理するスケジューラ(協調スケジューラ)に分けて 構成する。協調時には通信元の協調スケジューラが協調先 の基地局のローカルスケジューラから周波数リソースを 借り受けて、協調先の基地局のローカルスケジューラとは 完全に独立に制御する “拡張スケジューラ方式” を提案 している。この方式により、単一基地局で実現している MIMO と同等の制御を隣接基地局間協調 MIMO でも実現 できる。 eNB2 (a) 基地局間協調アーキテクチャー eNB1 eNB2 拡張スケジューラ 拡張スケジューラ ローカル スジューラ ローカル スジューラ 協調スケ ジューラ #1 #2 #3 #4 #5 #6 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #3 f #4 UE1 f UE2 CoMP UE eNB1の拡張 スケジューラの管理 協調スケ ジューラ eNB2の拡張 スケジューラの管理 (b) 拡張リソースケジューラ 図9 隣接基地局間協調アーキテクチャー 2.3.3 基地局間同期制御/同時送信 LTEで隣接基地局間協調MIMOを実現するためには、 受信側の遅延時間差がガードインターバル(4.5μs)の約 1/10以下となるシンボル同期が必要である。そのため、基 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) 地局間を高精度に同期させる必要がある。そこで、GPS (Global Positioning System)をベースとして、所要の 基地局間同期精度を実現できる基地局間同期方式を確立 した。 一方、隣接基地局間協調MIMOでは各基地局からデータ を同時送信する必要がある。そこで、隣接基地局に転送す るデータパケットに送信タイミング情報を付加して転送 し、所定の時刻に所定のデータパケットを両基地局で同時 送信する技術を確立した。 これらの技術により、セル境界における両基地局からの データの受信時間差をガードインターバルよりも十分に 小さい数百nsで実現できることを確認した。 2.3.4 ネットワーク制御アーキテクチャー 図10に提案する複数基地局間協調制御ネットワーク構 成を示す。各基地局にはGPSベースの基地局間同期装置が 設置されている。また、ローカルスケジューラと協調スケ ジューラで構成される拡張スケジューラが設置されてい る。一方、広域基地局間協調制御装置はコア側に設置され ている。 隣接基地局間協調制御時は、基地局と端末の制御信号の 送受信をすべて通信元基地局が行い、制御はすべて通信元 基地局の拡張スケジューラが実行する。したがって、端末 は下り回線で複数の基地局からの信号を受信するが、上り 回線は通信元基地局だけに信号を送信する。 次に、コアノード(EPC) 1 台, 基地局(eNB) 2 台、端末 (UE) 1 台の構成を用いて、基地局間協調送信制御の基本 動作例を示す。ここでは図 11 に示すように UE がセル 1 からセル 2 へ移動する場合を考える。はじめに、UE は eNB1 と通信をしている(同図(a))。UE が両セルの境界に 移動すると基地局間協調送信を開始する(同図(b))。そして UE がセル 2 へ移動すると基地局間協調送信を終了し、 eNB2 にハンドオーバを行い、通信を継続する(同図(c))。 図 12 に協調開始、協調中、協調終了までの制御フロー を示す。 (a)協調開始: セル 1 に位置する UE がセル 2 の方向に走 行している。 eNB1 では UE から受信した各基地局から の RSRP (参照信号受信電力)を評価し、UE がセル境界に 近づいたと判断すると、協調送信制御フローを動作させる。 eNB1 は eNB2 と制御信号を交換して基地局間協調送信に 用いる無線リソースの有無を確認する。無線リソースがあ る場合は eNB1 の拡張スケジューラは eNB2 から無線リ ソースを借り受けて基地局間協調送信用データのスケジ ューリングを独立に実行する。一方、eNB2 では貸し出し た無線リソースを使用することができない。 (b)協調中: 基地局間協調送信実行中は、eNB1 は基地局間 協調送信用データを複製し、 送信タイミングや MCS な どの制御情報とともに X2 経由で eNB2 に基地局間協調送 信用のデータを送信する。そして、各 eNB は基地局間協 調送信用のデータを MCS 情報に基づき変調・符号化し、 指定された送信タイミングに同時送信する。制御信号は eNB 間で定期的に交換され、UE がセル境界にいると判断 されれば、基地局間協調送信を継続する。 (c)協調終了: UE から受信した RSRP に基づき, eNB1 は UE がセル 2 へ移動したと判断すると、eNB 間で制御信 号を交換し、借り受けた無線リソースを eNB2 へ返却し て基地局間協調送信を終了する。同時に、UE をセル 2 に ハンドオーバさせて、eNB2 と通信を継続させる。 広域基地局間 協調制御装置 広域協調制御信号 eNB1 eNB2 基地局間協調 制御信号 拡張スケ ジューラ 拡張スケ ジューラ データ ACK/NACK 送信タイミング情報 UE 図 10 ヘッダ 提案する複数基地局間協調制御ネットワーク構成 EPC eNB1 EPC eNB2 eNB1 EPC eNB2 eNB1 eNB2 セル1 セル2 セル1 セル2 UE UE セル1 セル2 (a)協調送信開始前 (b)協調送信中 図 11 UE (c)協調送信終了後 隣接基地局間協調制御の動作例 UE eNB1 eNB2 RSRP RSRP評価 CoMP Request 無線リソース確認 CoMP Response 協調開始・継続 ・終了判断 無線リソース借受 CoMP Notification CoMP Command CoMP Command Ack 図 12 無線リソース貸出 隣接基地局間協調制御フロー 2.3.5 ネットワーク構成 提案する複数基地局間協調制御の適用効果を最大化す るネットワーク構成を考察する。複数基地局間協調制御を 簡易に実現する方法として、図13(a)に示すように基地局 装置を集中設置して、光ファイバ等を用いて各セルの基地 局アンテナから送受信する “集中基地局制御構成”が提案 されている。この構成は基地局が集中設置されていること から複数基地局間協調制御を行うスケジューラの連携が 比較的容易に行える利点がある。しかし、実際には集中設 置できる基地局数には制限があるため、図に示すように一 定範囲内の基地局を一つのグループにまとめて構成する クラスタ構成となる。クラスタ構成では、異なるクラスタ との間で協調制御することが基本的にできないため、基地 局が密に設置されている市街地ではクラスタ境界が多く 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) などの地物パラメータと、送受間距離、キャリア周波数、 伝送帯域幅、基地局アンテナ高などの基本パラメータを設 定することで、個々の地点の時空間電波伝搬プロファイル を精度良く推定できる。図14に開発した時空間電波伝搬 モデルによるLOS環境における各プロファイルの推定例 を示す。 光ファイバ 集中 基地局 光ファイバ (a) 光張り出しによる集中制御構成 協調が必要な基地局を動的に変更 基地局 X2インター フェース (b) 基地局間インターフェース X2 を用いた分散制御構成 図 13 基地局間協調制御を実現する構成方法 存在することになり、隣接基地局間協調制御効果が低下す ることになる。 一方、基地局間インターフェース(X2)を利用する“分散 基地局制御構成”では図 13(b)に示すように端末ごとに隣 接協調を必要とする基地局を適宜選択することが可能で あり、隣接基地局間協調制御効果は基本的に低下すること はない。 従って、図13(b)の基地局間インターフェース(X2)を利 用する“分散基地局制御構成”が図13(a)の“集中基地局制御 構成”よりも隣接基地局間協調制御に適しているものと考 える。 2.4 時空間電波伝搬技術 マクロセル構成では送受信間が見通し外となる見通し 外通信が支配的である。一方、マイクロセル、ピコセル構 成では送受信間が見通しとなる見通し内通信が一般であ る。そのため、通信品質や通信容量を評価するためには見 通し外のみならず見通し内の電波伝搬モデルが不可欠で ある。MIMO 等の時空間信号処理を適用した無線伝送技 術を評価するためには、伝搬損失、電波伝搬遅延時間特性 (時間特性)、基地局及び端末の電波到来角特性(空間特 性)を同時にモデル化できる時空間電波伝搬モデルが不可 欠である。そこで、フィールドでの測定結果を基に見通し 外(Non Line Of Sight: NLOS)、見通し内(Line Of Sight: LOS)を同時に扱うことができる時空間電波伝搬モデルを 開発した。 2.4.1 LOS 環境における時空間電波伝搬モデル 本研究開発では LOS 環境において、(a)電波伝搬遅延プ ロファイル、(b)基地局側電波到来角プロファイル、(c)移 動局側電波到来角プロファイルを同時に推定できる時空 間電波伝搬モデルの推定式を開発した。更に、開発した L OS 環境の時空間電波伝搬モデルを、NLOS 環境の時空間 電波伝搬モデルと統合して、NLOS 環境と LOS 環境の両 方に対応できる時空間電波伝搬モデルを開発した(注 2)。 開発した時空間電波伝搬モデルは、平均建物高、道路幅 2.4.2 時空間電波伝搬推定ソフトウェア 開発した時空間電波伝搬プロファイルの推定式を実装 し、様々な地点における時空間電波伝搬特性を推定できる ソフトウェアを開発した。図15に開発した時空間電波伝 搬推定ソフトウェアの基本構成を示す。開発した時空間電 波伝搬推定ソフトウェアは、実際の住宅地図から地物パラ メータを算出し、設定した基本パラメータに対して、伝搬 損失値、電波伝搬遅延プロファイル、基地局側電波到来角 プロファイル、移動局側電波到来角プロファイルを推定し て表示する。本ソフトウェアでは移動局の地点毎に伝搬損 失、送信アンテナ相関及び受信アンテナ相関を推定するこ とができる。また、これらの推定結果を基に、空間相関を 考慮した2x2MIMO の無線伝送容量(シャノン容量)を 推定することができる。 本ソフトウェアは、時空間電波伝搬推定法であるITU-R 勧告P.1816-1 を実装した世界初の時空間電波伝搬推定ソ フトウェアである。同時に、世界に先駆けて開発した2x 2MIMO 適用時の無線伝送容量を評価できるソフトウェ 0 設定パラメータ d=0.1km 平均建物高 : <H>=20m -10 基地局高 : hb=50m d=0.2km 送受信間距離 : d=0 1, 0 2km -20 道路幅 : W=20m -30 0 0.1 0.2 0.3 0.4 相対遅延時間 (s) 0.5 (a) 電波伝搬遅延プロファイル 0 相対受信電力 (dB) 集中 基地局 相対受信電力 (dB) クラスタ クラスタ 相対受信電力 (dB) クラスタ境界 d=0.1km -10 -20 d=0.2km -30 -40 -20 0 20 電波到来角度 (°) 40 0 -10 d=0.1km d=0.2km -20 -30 -40 -180 -120 -60 0 60 120 180 電波到来角度 (°) (b) 基地局側電波到来角プロファイル (c) 基地局側電波到来角プロファイル 図 14 LOS 環境における時空間電波伝搬プロファイルモデル 基本パラメータ(設定) ・基地局高 ・移動局高 ・送受信間距離 ・搬送周波数 ・送信帯域幅 等 図 15 地物パラメータ(住宅地図から抽出) ・平均建物高 ・道路幅 ・道路角 ・道路際建物高 開発した時空間電波伝搬推定ソフトウェア 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) 表1 基礎実験装置諸元 EPC アクセス方式 搬送波周波数 下りリンク OFDMA 3,385MHz システム帯域幅 サブキャリア数 送信アンテナ数 受信アンテナ数 送信電力 協調送信方法 上りリンク SC-FDMA 3,315MHz GPS X2インター eNB2 フェース GPS eNB1 20MHz 1200 (サブキャリア間隔15kHz) 2 1 2 2 23dBm 43dBm/送信アンテナ 隣接基地局間協調MIMO 2x2MIMO UE アでもある。 図 16 ( 注 2) 推 定 式 の 詳 細 : T. Fujii, H. Omote, Y. Ohta and Y. Sugita, “Empirical Time-Spatial Propagation Formula for Outdoor LOS Environments,” Proc. EuCAP 2011, Rome, Italy, Apr. 2011. 1 2.5 フィールド実証実験 2.5.2 屋外システム実証実験 開発した装置を用いて、フィールド実証実験を東京都内 お台場で実施した。図 19 にフィールド実験における基地 局配置を示す。120°セクタ基地局を 4 局設置した。帯域 基地局間協調MIMO 単一基地局MIMO BLER 0.1 MCS12 MCS4 0.01 0.001 0 10 20 30 SNR [dB] 図 17 ブロック誤り特性 参照信号電力[dBm] -70 協調制御 開始 -80 -90 協調制御終了 /ハンドオーバ eNB1 eNB2 -100 -110 -120 0 セル境界 50 100 150 200 時間 [s] 250 300 (a) 各基地局の受信電力 スループット [Mbps] 複数基地局間協調制御技術を実フィールド環境で検証 するために無線伝送実験装置を開発し、実証実験を実施し た。 2.5.1 室内システム検証実験 複数基地局間協調制御技術の一つである隣接基地局間 協調MIMOを実現する基礎実験装置を開発した。表1に基 礎実験装置諸元を示す。主な仕様は3GPP LTEに準拠し た。本実験装置では、単一基地局伝送時の2x2MIMOと基 地局間協調伝送時に各基地局がそれぞれで1アンテナを使 用して1ストリームずつを送信する基地局間協調 2x2MIMOを実装している。 先ず、室内において無線伝送特性を評価した。図16に システム構成を示す。基地局は2局であり、端末がeNB1 の直下から走行を開始し、セル境界を通って、eNB2の直 下まで走行する状況を模擬している。 先ず、図 17 に基地局間協調 2x2MIMO のブロック誤り 率特性を示す。同時に通常の単一基地局 2x2MIMO のブ ロック誤り率特性も併せて示している。図より、基地局間 協調 2x2MIMO と単一基地局 2x2MIMO のブロック誤り 率特性は等しく、基地局間同時送信、基地局間 AMC 制御、 基地局間 HARQ 等、基地局間インターフェース X2 を介 した提案方式が正常に動作していることが確認できる。 次に、図18に端末の走行に伴い変化するスループット 特性を示す。端末がeNB1の直下からセル境界まで走行す る間はeNB1と通常の単一基地局2x2MIMOで通信を行 う。セル境界付近では、eNB2からの干渉が増大するため、 スループットが大幅に低下する。そこで通信元のeNB1は eNB2と調整を行い、基地局間協調2x2MIMOを動作させ る。その結果、eNB2からの干渉がなくなり、スループッ トを大幅に改善できる。その後、端末がセル境界から eNB2方向へと更に走行すると、eNB1はeNB2との基地局 間協調2x2MIMOを停止させて、端末をeNB2にハンドオ ーバさせる。ハンドオーバ後、端末はeNB2と通常の単一 基地局2x2MIMOで通信を行う。 図18から提案するアルゴリズムが正常に動作している ことが確認できる。また、同図には基地局間協調制御を適 用しない場合のスループットも併せて示している。基地局 間協調制御によりセル境界でのスループットが大幅に改 善できることがわかる。 室内実験システム構成 25 20 両eNB と接続 eNB1 と接続 eNB2 と接続 協調制御 あり 15 10 5 協調制御 なし 0 0 50 100 150 200 時間 [s] 250 300 (b) スループット 図 18 スループット特性 幅を 10MHz とし、両基地局からの受信電力はほぼ等レベ ルであるセル境界付近の路上を移動局が走行して測定を 行った。 図 20 は横軸を走行距離として、基地局間協調制御を適 用した場合、適用しない場合の移動局で受信した各セクタ 基地局の受信電力、スループットの測定結果を示す。図よ り、基地局間協調制御を適用した場合、セル境界付近で基 地局間協調制御が動作して、スループットを大幅に改善で きていることがわかる。また、ハンドオーバが適切に動作 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) に動作していること、またセル境界で大きなスループット を改善できることが確認され、提案方式がセル境界のスル ープット改善に非常に有効な技術であることが確認でき た。 尚、本実証実験は基地局間インターフェース X2 を用い た基地局間協調 MIMO の世界初の実証実験である。 1km 1.6km 1 km 基地局装置 移動局装置 図 19 フィールド実験での基地局配置 参照信号電力 [dBm] -80 -85 eNB1 eNB2 -90 -95 -100 -105 -1100 100 200 300 走行距離 [m] 400 (a) 各セクタ基地局の受信電力 スループット [Mbps] 協調制御 (eNB1) ハンド 協調制御 オーバ (eNB2) 20 15 協調制御 なし 協調制御 あり 10 5 0 0 100 200 300 走行距離 [m] 400 (b) スループット 図 20 2.6 リレー基地局間協調中継技術 基地局の送信信号を受信して中継するリレー基地局は 受信電力が低いセル端やセル境界での通信品質改善技術 として有効である。そこで、将来技術としてリレー基地局 を協調させて中継することで更なる周波数利用率の改善 が期待できるリレー基地局間協調中継技術の検討を行っ た。 一般にリレー基地局を数多く設置すれば、それに応じて 通信品質やスループットを改善できるが、同時に設置コス トが増大する。そのためリレー基地局の検討では通信品質 の改善とコストの増加がトレードオフの関係にあること を考慮して評価を行う必要がある。 そこで、本研究開発では、先ず、リレー基地局設置コス トを変数として達成できるスループットとの関係を明ら かにし、システムにリレー基地局を導入するかどうかを判 断するための指標を確立した。 確立した指標を用いて、図 22 に示すような複数基地局 を連携利用するマルチセル連携リレーシステムを用いた 場合のリレー基地局設置コストと達成できるスループッ トの検討を行った。マルチセル連携リレーシステムでは、 セル境界で通常干渉となる他のセルからの信号に、自分あ ての信号を連携送信することで、セル境界の特性を大幅に 改善できる。そこで、マルチセル連携リレーシステムを適 用した場合のコスト当たりのスループットを導出し、リレ ー基地局設置コストと性能改善の関係をシミュレーショ ンにより求めた。尚、評価は理想的な正則配置のセル構成 モデルのみならず、様々な大きさのセルが混在する現実的 なセル構成(非正則配置)モデルでも行った。 図 23 に一例としてセル境界で一定の改善効果(例えば 1.5 倍のスループット)を達成するために必要な一台当た りの基地局コストとリレー基地局コストの比の上限)を 示す。横軸はリレー基地局設置数である。一台当たりのリ スループット特性 1 累積確率 0.8 0.6 0.4 協調制御 あり Backbone 図 22 図 21 5 10 15 スループット [Mbps] BS2 RS2 RS1 0.2 00 MS BS1 協調制御 なし 20 セル境界でのスループット特性の比較 していることも確認できる。 図 21 に受信電力がほぼ等しい走行距離 150m 付近のス ループットの累積確率(CDF)を示す。基地局間協調制御を 適用することで、セル境界におけるスループットを 3 倍以 上改善できていることがわかる。 これより、基地局間インターフェースである X2 を用い た隣接基地局間協調制御が実フィールドにおいても正常 マルチセル連携リレーモデル 01 02 0 05 01 0 5 Number of RSs (a)正則配置 図 23 10 0 5 Number of RSs 10 (b)非正則配置 セル境界での目標値に対するコスト上限 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) レー基地局設置コストがまでであれば、リレー基地局を 設置することで、セル境界での特性改善が図れることにな る。同図に、複数基地局を連携させないリレー基地局 (single relay)についても示している。適用するリレー中継 方式により上限)が異なっており、各々の方式の一台当 たりの設置コストの上限を評価できる。 【Case 1:干渉無し 【Case 2:干渉有り 送受ウェイト制御MRC】 ウェイトCase 1に同じ】 2.7 基地局協調制御技術の適用効果の評価/解析 2.8 国際標準化 ITU-R において、時空間電波伝搬モデル等の国際標準 化活動を実施した。表 2 に本研究開発で開発した電波伝搬 モデルの国際標準化達成項目を示す。 NLOS 環境における時空間電波伝搬モデルに関しては、 勧告 Rec. ITU-R P.1816 が標準化されていた。この勧告は 電波伝搬遅延プロファイル及び基地局側における電波伝 搬到来角プロフィルの推定式に対する勧告である。そこで、 LOS 環境における電波伝搬遅延プロファイル、基地局側 電波到来角プロファイルの推定式を追加する提案を行っ た。様々な審議を経て、追加提案は承認され、改定勧告で ある Rec. ITU-R P.1816-1 として標準化された。尚、Rec. ITU-R P.1816 及び P.1816-1 は本研究開発成果を含め、全 BS-B BS-A BS-B UT-A UT-B UT A UT-B 【Case 3:干渉有り UT局制御】 【Case 5:干渉有り 基地局協調 Type 2 (CSI & 送信信号共有)】 【Case 4:干渉有り 基地局協調 Type 1 (CSI共有) 】 Tx data A & B BS-A BS-B BS-A CSI BS-B BS-A CSI BS-B UT-A UT-B UT-A UT-A 図 24 UT-B UT-B 基地局協調の評価のケース分類 14 Channel capacity (bps/Hz) 基地局間でチャネル特性や送信情報を共有し、その情報 をもとに、基地局間で協調制御するシステムの特性改善限 界を評価・解析することはシステム開発を行う上での重要 な指標となる。そこで、制御が理想的に行われた場合の特 性改善の限界を理論的、および計算機シミュレーションに より評価した。 図 24 はその制御の方法を、2 つの基地局間制御を例に 5 つのケースに分類している。Case1 はそれぞれの基地局 がそれぞれのユーザ局に対して、干渉なく情報を伝送する 場合で、良好な伝送状態の基準になる。Case2 は、隣接基 地局から干渉波が到来する状況において、何も対策を行わ ない場合で、最悪状態の基準となる。Case3 は、基地局間 干渉がある状況において、受信のアレー端末で信号処理に より、干渉波の影響を最小化する動作を行う場合で、これ が、基地局制御を行わない場合の限界になる。Case4 はチ ャネルの情報を各基地局が共有して、送信アンテナ制御を 最適に行った場合である。Case5 は、チャネルの情報のみ でなく、送信情報も基地局間で共有し、積極的に干渉波を 送り込んで、それを受信端末で利用して、干渉波を抑える 方式で、究極の形態となる。この評価を、3、4、7 セルに 対して、4x2MIMO システムでの、通信路容量に着目した 評価を行った。 図 25 は 7 セルのシステムにおける Case1~5 による通 信路容量の評価結果で、基地局協調制御をおこなわない場 合の基準となる Case3 に対して、協調を行った場合の Case4, Case5 において、明らかな効果が表れている。特 に情報共有を行う究極的な制御である Case5 では、干渉 波の無い Case1 にまで、ほぼ戻っている。本研究開発で は、このような評価を、種々のパラメータ(セル数やユー ザ局配置(均一あるいはセルエッジ)など)での評価を行 って、効果を定量的に明らかにした。その結果、基地局協 調によって、それをしない場合の通信路容量に比べて、3 倍程度以上の効果が得られることを明らかにした。 ここでは、理想的に制御が実現できた場合の効果を明ら かにしたが、実際には、電波伝搬(伝搬遅延、遅延のばら つき、ドップラーシフトなど)に起因する制御の物理的限 界がある。本研究では、これに関する考察を加え、最適な 制御を実現する指針を明らかにした。 BS-A ケース分類 M 7 Nt 4, Nr 2 SNR 10,20,30dB Edge/Uniform Sd 6dB 2 SNR=10dB SNR=20dB SNR=30dB 4x2 MIMO 0 8 ② 6 ① 4 2 ①チャネル情報共有 ②上記+送信情報共有 0 1 図 25 2 3 Case 4 5 5 基地局協調制御の効果の一例 表2 標準化達成項目 ITU-Rで達成した 勧告番号(達成年) 内容 Rec. ITU-R P.1816-1 (2011年) 屋外LOS環境での時空間伝搬モデル Rec. ITU-R P.1407-4 (2009年) 時空間伝搬モデルの各評価パラメー タの定義 Rec. ITU-R P.1238-4 (2011年) 屋内端末静止・周辺移動環境下の伝 搬変動モデル Rep. ITU-R M.2135 (2008年) IMT-Advanced の無線インタフェー スを評価するための電波伝搬モデル て我が国(当社)が主導して標準化したものである。 ところで、新たに時空間電波伝搬モデルを標準化するに 当たり、その定義を明確にする必要があった。そこで、電 波伝搬遅延プロファイルを定義している勧告 Rec. ITU-R P.1407-3 に、電波到来角度プロファイルの定義を追加す る提案を行った。さらに、それに付随する様々な定義の追 加提案も行い、我が国が主導して “時空間電波伝搬プロフ ァイル”を定義する改定勧告 Rec. ITU-R P.1407-4 が標準 化された。 更に、第 4 世代移動通信システムである IMT-Advanced の無線インターフェースを評価するための電波伝搬モデ ルの標準化が ITU-R WP( Working Party) 5D で開始され た。本研究開発で開発した時空間電波伝搬モデルをベース として、瞬時変動、短区間変動等の時間変動を再現できる MIMO 対応のシステム評価用モデルを提案し、報告 Rep. ITU-R M2135 の一部及び拡張モデルとして標準化された。 システム評価用のモデルとして標準化された意義は非常 に大きい。 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年) 表3 対外活動成果 4年間の目標累計 4年間の実績累計 特許出願 16件 29件 論文掲載数 (査読付き国際会議含 む) 9件 94件 研究発表数 70件 165件 国際標準化提案数 6件 21件 国際標準化獲得数 - 4件 その他 (受賞・報道発表 等) - 7件 寄与文書として提案を行うだけでなく、実際に国際標準 化を達成したことは非常に大きな成果である。 3.今後の研究成果の展開 年率約2倍で急増している無線トラフィック対策技術 として、セルの小セル化(マイクロセル化、ピコセル化) の期待が最も大きい。小セル化を行えば、セルの不規則性 等からセル境界の通信品質が大きく劣化する。その場合、 本研究開発成果である「基地局間協調制御」を用いれば、 セル境界のみならずセル全体においても通信品質の大幅 な改善が期待できることを、計算機シミュレーション等の 机上検討のみならず実証実験で示した。 本研究成果が今後十分活用されるように、先ず、研究開 発成果の有効性を学術論文や学術的国際会議、等を通して 広く啓蒙したい。その結果、通信オペレータが本研究開発 で提案したような基地局間協調制御技術を開発し、適用す ることが期待される。 また、通信オペレータが「基地局間協調制御」を容易に 商用導入できるように、標準化機関である 3GPP の次回 以降の LTE-Advanced の新たな仕様作成会期中に提案す ることを目標としたい。提案技術が標準化技術に採用され れば、装置ベンダーの開発・実装が期待できる。その結果、 通信オペレータは独自に実装する必要がないことから、商 用導入の判断が容易にできるものと期待される。 一方、本研究成果である「時空間電波伝搬モデル」は ITU-R で標準化された。そのため、無線通信技術者や研 究者、開発ベンダー、通信オペレータがそれを容易に利用 できるようになった。その結果、今後、MIMO 適用時の 無線伝送技術の最適設計等、周波数有効利用技術の検討に 大いに活用されるものと期待される。 4.むすび 本研究開発では、実際のセル構成を想定し、マクロセル、 マイクロセル、ピコセル等の異なる大きさのセルが混在す るセル構成において、隣接セルに留まらずにそれ以遠の数 多くのセル間で、各基地局の周波数、送信電力、アンテナ リソース等の無線リソースの割り当てを相互に協調制御 する新たな複数基地局間協調制御の検討を行い、提案する 協調制御技術により、目標であるセル境界で“3 倍以上”、 システム全体で“2 倍以上”の周波数利用率を達成できるこ とを計算機シミュレーションなどの机上検討により明ら かにした。 提案する協調制御技術を実際にシステム化する技術と して、基地局間インターフェース(X2 インターフェース) を用いた分散制御方式を提案し、それを用いた基礎実験装 置を開発した。基礎実験装置を室内実験で検証し、提案方 式のプロトコルが正常に動作することを確認した。また、 フィールド実証実験を実施し、実フィールド環境において も提案方式のプロトコルが正常に動作すること、また所定 の周波数利用率の改善が期待できることを確認した。 本実証実験は、基地局間インターフェースを用いて基地 局間協調 MIMO を実現した世界初の実証実験である。 最後に、委託研究期間中の対外活動成果を表 3 にまとめ て示す。特に、国際標準化において、4 件の国際標準化を 達成できたことは非常に大きな成果と考える。 【国際標準提案リスト】 [1] ITU-R SG3 WP3K, 3K/82, “Support document for Item 4 of working document towards revision of Recommendation ITU-R P.1238-5”, 提案:2009 年 5 月, 採択 2009 年 11 月 [2] ITU-R SG3 WP3K, 3K/131, “SUPPORT DOCUMENT FOR PROPOSED REVISION TO RECOMMENDATION ITU-R P.1816,” 提案:2011 年 10 月, 採択 2012 年 2 月 [3] 3GPP TSG RAN WG1 Meeting #58bis, R1-093879, “Views on DL CoMP configuration,” Miyazaki Japan, 提案:2009 年 10 月,修正提案 2010 年 3 月 【参加国際標準会議リスト】 [1] ITU-R SG3 関連会合, ジュネーブ, 2009 年 6 月 [2] ITU-R SG3 関連会合, エリーチェ, 2010 年 11 月 [3] ITU-R SG3 関連会合, ジュネーブ, 2011 年 9 月 【誌上発表リスト】 [1] A. Nagate, K. Hoshino, M. Mikami and T. Fujii, "A Field Trial of Multi-cell Cooperative Transmission over LTE System," Proc. IEEE ICC2011, Kyoto, Japan, June 2011. [2] T. Okamawari, H. Hayashi and T. Fujii, “A Proposal on Network Control Architecture for CoMP JT with IP Network between eNBs”, Proc. IEEE VTC 2012 Spring, Yokohama, Japan. [3] T. Taniguchi, Y. Karasawa, and N. Nakajima, "Performance Analysis of Base Station Cooperation in Multiantenna Cellular System," IEICE Trans. Fundamentals, Vol.E94-A, No.11, pp.2254-2262, Nov. 2011. 【受賞リスト】 [1] 藤井輝也, 社団法人電波産業会・第 21 回電波功績賞・ 電波産業会会長賞”, 次世代移動通信方式対応時間・空間 電波伝搬推定法の開発”, 2010 年 6 月. [2] 星野兼次, “平成 23 年度 電子情報通信学会 学術奨励 賞”, 2012 年 3 月. [3] 岡本勇司, IEICE WBS Student Paper Award, 2012 年 3 月. 【報道発表リスト】 [1] “複数基地局協調伝送方式向け予備免許の取得および 実証実験について”, ソフトバンクモバイル(株)プレス リリース, 2010 年 12 月 3 日. [2] “LTE システム実証実験の結果について”, ソフトバン クモバイル(株)・プレスリリース, 2011 年 7 月 13 日. [3] “LTE-Advanced に向けた複数基地局間協調伝送方式 向け本免許の取得および実証実験について”, ソフトバ ンクモバイル(株)・プレスリリース, 2012 年 5 月 22 日. 電波資源拡大のための研究開発 第5回成果発表会(平成 24 年)
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