D1-20 チベットの住宅における内部温熱環境をシミュレーション解析によって改善する方法 Improving Method of Internal Thermal Environment in Tibetan House using simulation analysis ○小林 遼平1 吉野 泰子2 王 岩3 1.はじめに 既往研究 1) によりチベット高原の居住環境実態を把 握したが,本報告は現地における特殊な環境下での住 集合住宅 伝統民居 環境改善を試みるものである. チベット特有の高山気候や建築様式,現地の豊富な 太陽エネルギーを考慮した結果,機械に頼らないパッ A シブな手法により住宅の居住性能を向上させることが B 望ましいと判断される. そこで,現地の自然エネルギーを有効活用するため 図 2.伝統民居 図 1.集合住宅 に開口部や建築床材料を検討し,ダイレクトヒートゲ 表 1.シミュレーション条件 1) イン(直接蓄熱型)による環境適応型住宅を提案する. 2.研究概要 チベットラサ市内の 2 件の住宅 1)を対象として複数 の条件を設定し,各々の蓄熱性能や室温に与える影響 項目 緯度 経度 天気 期間 開始時刻 基本情報 N29.4° E91.08° 晴れ 12 月 24 日 15 時(13 時) 項目 初期温度 部材温度 流入温度 風速 風向 集合住宅 伝統民居 18.4℃ 18.4℃ 19.7℃ 12.1℃ 27.1℃ 18.4℃ 1.13 m/s 1.13m/s 南西 南西 をシミュレーション解析で比較検討する. 3.研究方法 3-1.床材の検討 対象とする住戸はラサ市内の集合住宅と郊外の伝統 民居である.各々のプランニングに対して気温,風速, 杉 日時等の基本的な解析条件は変えず(表 1),床材のみに コンクリート 磁器タイル 着目し,材質別の表面温度分布を比較する.検討材料は 表 2 に示す. 図 3.床材別 温度分布図 (3 時間後) 解析には 3 次元温熱環境シミュレーションソフト (Stream ver.6)を用い,図 1,2 に示す各住宅モデルに対 して表 1 の条件を適用する.時刻は北京時間であるが, ポリ塩化ビニル 40 3-2.開口部計画 35 杉 コンクリート タイル ポリ塩化ビニル 花崗岩 レンガ 30 蓄熱体である床に太陽光が長時間当たる工夫を施し 25 た開口部の計画をすることはダイレクトヒートゲイン 20 を採用する上で重要な要素である. 15 0 図 2 の伝統民居における南側開口率を,既存の 20%か 2:日大短大・教員・建設 レンガ (℃) 対象となるラサ市は北京との時差が約 2 時間ある. 1:日大理工・学部・建築 花崗岩 45 30 60 90 (分) 120 150 180 図 4.集合住宅における表面温度の経時変化(A 点) 3:日大理工・院・建築 337 表 2.各材料の物性値 2) ら 60%に変化させた時の床面温度分布および温度上昇 密度 比熱 熱容量 熱伝導率 (Kg/m3) [J/(Kg・K)] [J/m3・K] [W/(m・K)] 率を比較する.床材には最も顕著に温度変化が表われ 杉 300 1300 390000 コンクリート 2400 800 1920000 1.0 磁器タイル 2300 840 1932000 1.62 ポリ塩化ビニル 1250 ると予測される杉材を用いる. 4.シミュレーション結果 集合住宅の,解析開始から 3 時間後までの床表面温 0.069 1675 2093750 0.15 度の推移を図 4 に示す。温度上昇率は杉が群を抜いて 花崗岩 2700 840 2268000 3.8 高く,最高で 39.5℃に達した.開始時の温度は 19.7℃ レンガ 1820 990 1801800 0.52 であるから,その差違は約 20℃である. → 伝統民居の開口部計画では,改善後の開口率 60%の窓 付近の温度は,広範囲で 30℃に達していた.建物の東 図 5.1 改善前(開口率 20%) 西では日射が到達する範囲が多尐異なり,日射が強い → 午後になると西部屋が高温となっている(図 5). 次に,伝統民居の解析において 8 時間後までの床表 面温度の推移を図 6 に示す.杉は開始後 60 分で 40℃ 図 5.2 改善後(開口率 60%) 45 (℃) 40 まで急上昇しているが,温度低下も激しい。しかし他の 材料については,温度上昇も下降も穏やかである. 杉 コンクリート タイル ポリ塩化ビニル 花崗岩 レンガ 35 5.まとめ 30 今回の解析で明らかとなった点を以下に示す. 25 (1)日射による温度変化は材質ごとに異なるが,杉を除 20 く 5 種類の材料間では顕著な変化は認められなかった. 15 10 (2)熱容量が最小の杉と最大の花崗岩では,120 分経過 (分) 0 時で最大約 24.6℃の差が生じることが判明した. 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360 390 420 450 480 図 6.伝統民居における表面温度の経時変化(B 点) (3)日射の届く室内表面に低熱容量の材料を用いた場 表 3.材料毎の居室床表面温度分布の推移 合,気候や日射量が温度変動に与える影響が大きいた め,実際に適用するのは困難だと考えられる. (4)効率的なヒートゲインを行うためには,重量部材を 日射のあたる場所に設けることが有効である. 今回のような床材に限った評価方法では温度変化に 明確な特徴が表れなかったため,壁や天井の材料,厚さ なども考慮することにより材料間の変化が顕著になる と考えられる.特に,レンガや花崗岩は現地で豊富に調 達することが出来るため,数多くのパターンの検討を 重ねることで実用性の向上を図る. 【参考文献】 1)王,吉野ら「中国チベットにおける高原居住環境の実態調 査-その 3 都市と農村住宅の温熱・空気・音環境測定結果」日 本建築学会大会,D-2 分冊 p1181-1182,2008 年 2)橘高義典(著),「新編 建築材料」市谷出版社 pp212-213 3)木村建一(著),「ソーラーハウス入門」オ-ム社,p47 338
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