ソプラノ課題システム SDS の構築とその評価 Evaluation of Soprano Donnée System for the Theory of Harmony 三浦 雅展*, 尾花 充+, 柳田 益造** Masanobu MIURA*, Mitsuru Obana+, and Masuzo YANAGIDA** *同志社大学大学院 工学研究科 知識工学専攻 +宝塚造形芸術大学 芸術学部 音楽学科 **同志社大学 工学部 知識工学科 * Graduate Student, Dept. of Knowledge Engineering., and Computer Sciences, Doshisha Univ., Kyoto, Japan. + Department of Music, Takarazuka Univ. of Arts and Design, Hyogo, Japan. ** Dept. of Knowledge Engineering and Computer Sciences, Doshisha Univ., Kyoto, Japan. 〒610-0321 京田辺市多々良都谷 1-3 E-mail : [email protected] 1-3 Tatara-Miyakodani, Kyo-tanabe, Kyoto, Japan, 610-0321 E-mail : [email protected] 音楽大学生にとって重要な科目の一つに和声学がある.和声学の学習はバス課題とソプラノ課 題が柱となっている.バス課題は,和声学学習上,習得すべき「禁則」群についての理解を深める ことを目的とした課題であるのに対して,ソプラノ課題は,例えば即興和音付けなどの,現実の場で 要求される技術を養うことを目的としていると考えられる.しかし,バス課題と同様,あるいはそれ以 上にソプラノ課題を独学しようとした場合,自分の作成した回答の正誤判定を自らが行うことはでき ず,教師の評価に頼らざるを得ないのが現状である.これは一般にバス課題よりもソプラノ課題の 方が回答作成がより困難であるからである.ここでは,自分の回答の正誤判定を行うことのできるシ ステム”SDS(Soprano Donnée System)”を提案し,ソプラノ課題における回答作成の困難さについて 調査し,また,回答確認システムとしてのSDSの構築と評価について述べている. キーワード : 和声学,ソプラノ課題 Key Word : Theory of Harmony, Soprano Donnée 1.はじめに 音楽教育において重要な科目に和声学[1] と対位法[2]がある.これらは,17~18 世紀に は,「芸大和声」と呼ばれる,池内らによって 書かれた和声学の教科書[1]が事実上の標準 となっている. 完成した古典西洋音楽に関する理論体系で, 和声学を独学で学ぶことは困難であると一 現在では音楽大学などで広く教えられている. 般に言われる.それは,和声学の柱であるバ 特に和声学については,はじめに ス課題およびソプラノ課題において,許容解 Rameau[3]が体系化し,その後西欧に広く普 が極めて多数存在し,問題集の解答欄にそ 及し,現在ではフランス和声,ドイツ和声など れらを網羅できないので,学習者が自分の作 と呼ばれる種々の和声学が存在する.日本で 成した回答を自ら正誤判定することが困難で あるからである.これまで三浦らは和声学を独 課題の難易度について調査し,次にソプラノ 学することのできるシステムの概念設計につ 課題の正誤判定を行うことのできるシステム いて提案し,そのサブシステムとして,使用す 「SDS(Soprano Donnée System)」について述 る和音を3和音に限定したバス課題について, べる. 全 解 答 を 求 め る こ と の で き る BDS(Basse 2.和声学の習得 Donnée System) を構築してきた[4].また,柳 和声学ではバス,テノール,アルト,ソプラノ 田らは学習者がバス課題の回答を作成する の4声部を配置する課題が与えられる.課題 場合,感覚と思考のどちらか一方に頼って処 にはバス課題とソプラノ課題の2種類があり, 理しており,感覚と思考は課題実行時ではな 与えられたバスパートに対してテノール,アル く学習過程で長期間に渡って徐々に統合され ト,ソプラノ(上3声という)を配置するのが「バ ることを報告している[5]. ス課題」であり,与えられたソプラノパートに対 バス課題およびソプラノ課題の回答を作成 してバス,テノール,アルト(下3声という)を配 するには,和声学上の「禁則」と呼ばれる規則 置するのが「ソプラノ課題」である.本報告で 群の習得が不可欠となる.禁則とは古典西洋 はソプラノ課題のみを扱う.ソプラノ課題の例 音楽の観点から導かれた「音楽的な美しさ」を を Fig.1 に示す. 具体的に実現するためのルール群であり,「こ 実際の教育現場において,学習者はまず うするのがよい」「こうしなければならない」ある バス課題に対する能力の養成を求められる. いは「こうやってはならない」などの規則の形 学習者は,バス課題の回答作成を通して,禁 で表現されている.それらの禁則群を習得す 則と呼ばれる和声学上の規則を習得する.ソ ることが和声学学習の主な目的である. プラノ課題とはバス課題の応用問題的な位置 バス課題はそれらの規則群を習得すること 付けであるとされている.バス課題では,ソプ を目的とした基礎的な練習問題であるのに対 ラノパートが音楽的な動きをするように求めら して,ソプラノ課題は例えば旋律にあわせて れるが,ソプラノ課題ではバスパートが音楽的 伴奏付けを行う場合などの,より実践的な課 な流れを構成するように求められるのが通常 題であり,その難易度もバス課題よりも高いと である. 一般的に言われる.本報告では,まずソプラノ (a) An example of a soprano donnée (or given soprano) sequence. (b) An example of student’s answer to (a). Fig.1 An example of soprano donnée sequence and its answer. Fig.2 A display example of SDS (Japanese version). SDS shows one (#12756 in this case) of all the allowable solutions (34540, in this case), under chord progression #6 (among 12 chord progressions, in this case). 3.ソプラノ課題の難しさ 「ソプラノ課題システム SDS(Soprano Donnée バス課題と比較すると,ソプラノ課題では「与 System)」を開発した.SDS では和声学上の規 えられたソプラノにもとづいて和音設定を行い, 則体系をアルゴリズムの形で実装している.対 下3声を配置・連結してゆく点が異なるだけ」 象としている禁則は,文献[1]に従う.Fig.2 に [1]であり,和音設定さえ間違わなければ,バス SDSの概観を示す.以下に SDS に実装して 課題とほぼ同じ難易度であるといえる.しかし, いる機能を述べる. バス課題では,3 和音の範囲内では,許容さ ・ れる和音進行のバリエーションがさほどないが, 許容される全和音進行の検索と下 3 声を 設定することのできない和音進行の排除 ソプラノ課題では,各和音において転回型を SDS では与えられたソプラノ課題について, 一意に決定することができないので,和音設 Fig.3 に示す和音進行の規則に従って,許容 定の可能性がバス課題と比べて膨大な数とな される和音進行をすべて列挙することができる. り,多くの学習者が和音設定において困難を また,Fig.3 に示す和音進行の規則では許容 生じる場合がほとんどである.すなわち,ソプラ されてはいるが,実際に下3声を配置すること ノ課題はバス課題に比べて,回答を作成する のできない和音進行をそれらの中から取り除く のに難しい課題であると言える(5で評価す ことができる. る). ・ 4.ソプラノ課題解答システム“SDS”の機能 ユーザの回答の和音進行,転回型の入力 ユーザの回答の和音進行と転回型を,キー 今回我々は,3和音の範囲に限定したソプラ ボードおよびマウスを使って全てあるいは一部 ノ課題の回答の正誤判定をすることのできる 入力することができる.また,ユーザは自分の 回答に自信のない場合に,全ての和音を入力 エーションを考慮すると,2ないしは3通りの可 せずに,一部の和音のみを入力し,その条件 能性を持つ(基本型,第1転回型,および第二 を満たす和音進行を全て列挙することができ 転回型).従って,ソプラノ音数を c とした場合, る. 一般には 2(c ・ 和音進行のカデンツごとの表示 -2) から 3(c -2)通り存在することと なる.(指数の「 c-2」の「-2」は,開始および終 和音進行を列挙した場合に,和音の機能ご 了の和音はソプラノ課題,あるいは多くの調性 とに分けてツリー形式で表示することができる. 音楽では主和音に限定されるからである.)た その表示例は,Fig.2 に示した表示例の下位 だし,和音進行は Fig.3 に示す規則により制 中央に見ることができる. 限されるので,実際にはいくつかの和音進行 ・ 各和音進行における,許容される全下 3 が除外される.そこで以下のような調査を行っ 声の検索・表示 た. 許容された和音進行に対して,配置すること 一般に,ソプラノ課題に対してどのくら ができる下3声をすべて検索することが可能で いの数の和音進行が許容され,また,下 3 ある.また,許容解を楽譜形式で表示すること 声を配置することができるのかどうかを調 ができる. 査した.SDS は現段階では3和音にのみ対 ・ 応しているが,3和音のみを用いたソプラ 演奏・保存 検索した下3声について,Standard MIDI ノ課題は文献[1]には載っていない.そこで, File(SMF)形式で演奏・保存が可能である.こ 文献[1]の解答集に載っているバス課題から れによりユーザは,いくつかの解答を後で聞き ソプラノパートだけを抜き出し,それらを 比べることができる. ソプラノ課題と設定し,それらソプラノ課 ・ 題が実際にどれだけ許容解を持つのかを調 印刷 入力したソプラノ課題および任意の許容解を 印刷することができる. 査した.その結果を Table 1 に示す.Table 1 より,各課題において和音の総数が増え るに従って,Fig.3 の規則に違反しない和音 進行が増える様子が確認できる.ただし, 和音の総数が同じでも(例えば Sequence ID 2~11)Fig.3 の規則に違反しない和音進 行の総数が異なることがわかる.また,そ れらの中で下 3 声を配置できる和音進行の 総数との比を,Table 1 内の RA. (Assignable Ratio)で表す.RA.の値から,課題によって 全ての和音進行に下 3 声を配置することが Fig.3 Allowable chord transitions. 5.許容される和音進行の総数 できる課題(例えば,Sequence ID:1)こと もあれば,ほとんどの和音進行に下 3 声を 任意のソプラノ課題に対する和音進行の総 配置することができない場合がある(例え 数は,一般には膨大な数となる.ソプラノ音に ば,Sequence ID:26)も確認された.この 対しての和音配置の可能性は,転回型のバリ ように,ある和音進行が Fig.3 の規則に違 反しないとしても,下 3 声を配置できるかど る全て和音進行の中で,どれほど適切なあ うかは全く予測不能であると言え,バス課 るいはその旋律にふさわしい和音付けであ 題では Fig.3 の規則に従いさえすれば必ず上 るかについてはほとんど考慮されていない 3 声を配置することができたが,ソプラノ課題に であろう. Table 1 Total chord progressions that satisfy chord transition rule, shown in Fig.3, and total note-assignable chord progressions. おいては必ずしもそうではなく,すなわちこの 点がソプラノ課題独特の困難さであると言 える.Table 1 に示す RA.を和音進行毎に平 均したものを Fig. 4 に示す.ただし,和音 進行が 13,15 と 26 の場合については和音 進行がそれぞれ 1 通しかなかったので,平 均ではなくそれぞれの場合についての結果 のみを示している.Fig. 4 より,規則上許 容される和音進行の中で,どのくらいの数 の和音進行が下 3 声を持つかが確認できる. Table 1 の Time(s)に示す数字は,計算に かかる所要時間である.計算機は,OS は Windows2000 であり,CPU は PentiumⅢ 1GHz*2 のデュアル CPU でメモリが 1GB である.このスペックで,与えられた課題 に対してその許容解を全て計算するのに, 例えば Sequence ID : 26 の場合においては, かなり時間がかかる(約 35 分)ことが確認で きた.なお,計算アルゴリズムとしては, 単純な全検索を行っている.すなわち,あ る旋律に対して自動和音付けを行うシステ ムを考えた場合,可能性を全部列挙してそ 能性があるが,その詳細は通常は明らかで ID : Sequence ID, L.:Length of input sequence, Ch.Prg. : Chord progressions that satisfy chord transition rule, NA : Note-Assignable progressions, RA. : Assignable ratio, Time:Time required for obtaining all the assignable chord progressions. 6.バス課題とソプラノ課題の難易度の比較 ない.あるいは,現存する和音付けシステ バス課題とソプラノ課題それぞれについて, ムの和音付けの決定手法としては,ある何 難易度の違いを調査することを目的に,まず らかの手法で「こうやれば例えばこのよう 全許容解の数について調査した.ここでは和 な和音が付けられる」ことを出力している 音数が 16 のバス課題とソプラノ課題について のにすぎず,出力した和音付けが配置し得 調査した.用いたソプラノ課題は Table 1 に示 の中から適切なものを選ぶことはリアルタ イム性を考慮するとほぼ不可能であり,す なわち現存する和音付けシステムについて は,何らかのサーチアルゴリズムを用いて 和音進行の可能性を大幅に減らしている可 については,Track ID : 1~3 の全てにおいて RA バス課題よりもソプラノ課題の方が多くの和音 進行を設定することができることがわかる.ただ し,バス課題については,Fig.3 に示す和音 進行の規則のみに従う和音進行の全てにおい て上3声を配置することができるにもかかわら ず,ソプラノ課題については Fig.3 の規則に Fig. 4 Average Assignable Ratio. Abscissa : Length of input sequence. Ordinate : Assignable ratio. L Table 2 Comparison of the number of chord progressions, cadences, and upper/lower three voices between basse donnée and soprano donnée for the same task. 違反しない和音進行であっても,下 3 声を配 置することができない和音進行が多数存在す る.学習者は和音設定をしても配置ができな い場合があると,和音設定からやり直しをしな くてはならないので,この点が,和声学学習者 がバス課題よりソプラノ課題が難しいと感じる 所以であると言える. 次に,バス課題およびソプラノ課題について, 設定し得る各々の和音進行に対して存在し得 る許容解の数について調査した.調査対象は, 前述と同じバス課題3題およびソプラノ課題4 ID : Track ID. C.P. : Number of variations in chord progressions. Cd. : Number of cadence. U3V : Upper three voices. L3V : Lower three voices. Numbers in parentheses on C.P. mean the number of all the allowable chord progressions. す Sequence ID:13~16 の 4 題(和音進行の 題である.調査結果を Fig.5 に示す.Fig.5 よ 合計:106 通り)であった.5.で述べたように,こ 行を固定すれば転回型も自ずと決まるのに対 こで用いたソプラノ課題は,文献[1]に載って して,ソプラノ課題では和音進行を固定しても, いるバス課題の正解例であるので,それぞれ 転回型のパターンは複数通り存在し得ることが のソプラノ課題には対応するバス課題する.こ 原因である.このことから,ソプラノ課題の回答 の場合では 3 題のバス課題を用いた(和音進 作成において,和音進行を決定しても,転回 行の合計:12 通り).その結果を Table 2 に示 型が一意に決まらないため,回答作成が困難 す.Table 2 中の C.P.は総和音進行数を,Cd. であると考えられる.言い換えると,和音進行 はカデンツの総数,U3V,L3V はそれぞれ許 を決めても,探索空間がそれほど絞られてい 容される上 3 声の配置数の合計または下 3 声 ないため,また,想定した和音進行について の配置数の合計を表している.C.P の括弧内 許容解が存在することが必ずしも保証されて は,実際に上 3 声または下 3 声を配置すること いないため,回答を作成するのが困難になる ができる和音進行数を表す.和音進行の総数 可能性があると言える.まとめると,ソプラノ課 り,バス課題およびソプラノ課題について,和 音数が同じ16であるにもかかわらず,バス課 題での任意の和音進行が持つ許容解数とソプ ラノ課題での任意の和音進行が持つ許容解 数が大きく異なることが確認できる(危険率 1% で有意).これは,バス課題の場合は,和音進 題はバス課題と比べて, ・ ・ 絞込み検索を使って検索する操作に進む.絞 和音進行を決定しても,下 3 声を配置でき 込み検索とは,自分の回答の中の1つの和音 る保証が無い. と一致する和音を,SDSが生成した全許容解 和音進行を決定しても,転回型が決まらな の中に見つけた場合,その和音を固定して全 いので,下 3 声の配置を絞り込めない. 許容解の中からその和音を用いる許容解を選 の2点が大きく異なる点であり,バス課題に比 び出して表示する操作のことであり,三浦らの べてソプラノ課題の方が難しいと結論付けられ BDS で用いられた検索方法と同じ手法であ る. る. Bass Donnée Soprano Donnée Fig.5 Average number of allowable solutions. Ordinate : A number of allowable solutions. 7.SDSの操作方法 被験者が回答の正誤確認を行う手順を Fig.6 に示す.まず被験者は当該課題を SDS Fig.6 Flow chart for confirming if student’s answer is allowable or not using SDS. に入力し,被験者自身の回答の和音進行をキ 8.SDS評価実験 ーボードのテンキーを使って入力する.これに 対してシステムは,Fig.3 に示す和音進行の規 SDS が実際の音楽大学の学生にとって有用 則のみで,被験者の和音進行の入力をチェッ であるかについて,SDSの評価実験を行っ クする.もし被験者の回答に Fig.3 のルール違 た. 反があれば,ここで「そのような和音進行は見 8.1 実験内容 つかりませんでした」と表示され,被験者の回 実際に音楽大学の学生にSDSを試用し,評 答が間違いであることがわかるようになってい 価してもらった.用いた学生は3名である.彼 る.次に,被験者はマウスを使ってすべての和 女らは,提示された4題のバス課題の回答を計 音について転回型を入力する.入力された和 算機を使わずに自分であらかじめ作成し,次 音進行と転回型において下 3 声が配置できる にSDSに慣れてもらうために,1時間SDSの 場合は,配置可能な解の総数が表示され,そ 使用練習を行った.そのあと,被験者自身が うでない場合はエラーメッセージが表示される. 回答したソプラノ課題の回答の正誤判定を行 もし下 3 声が表示できた場合には,被験者は い,その所要時間を計測した.用いたソプラノ その中に自分の回答と同じ解があるかどうかを, 課題は,Table 1 に示す Sequence ID:1, 6, 9, 26 である. Table 3 Average time required for evaluating correctness of his/her answer. た段階で間違っていることに気づくか (Sequence ID:1,3,4),全正解を列挙して,自 分の回答と同じ和音が含まれていないことに すぐに気が付き,間違いであることが確認でき ている.すなわち,被験者はSDSを使うことで, 自分の回答を全て入力することなく,迅速に正 誤判定が行えていることが確認された. unit : sec ID : Sequence ID. C.P. : Chord progression. Inv. : Number of possible chord progressions considering inversions. L3V : Lower three voices. 8.2 実験結果 9.まとめ 今回我々は,ソプラノ課題に対する学習者の 回答の正誤判定を行うことのできるシステム“S DS”を構築し,その評価実験を行った.その 結果,被験者は自分の回答を全て入力するこ 結果を Table 3 に示す.Table 3 は,被験者 となく,迅速に自分の回答の正誤判定を行うこ が課題を入力してから自分の回答が間違って とができた.ただし,より高い教育段階としては いることを知るまで,あるいは自分の回答が許 「どこでどの禁則に違反しているか」をシステム 容解の中に含まれていることを検地できるまで が示すことが望まれる.それを実現するには, の時間を表している.“Allowable”は,被験者 現在SDSはアルゴリズムで記述されているの の回答が許容解の一つであった場合で,正解 で困難であるので,ルールユニットモデル[6] でなかった場合には実験者が正解例を呈示し, を用いて,ルールベースシステムとして改修す その正解と同じ解答を探すのに要した時間を る予定である. 表している.“Not Allowable”は被験者が自 参考文献 分の回答を間違えていた場合にそれを知るま [1] 池内友次郎,島岡譲他, 「和声 理論と実習Ⅰ, Ⅱ,Ⅲ,別巻」,音楽之友社,1964. [2] 池内友次郎, 「二声対位法」,音楽之友社,1965. [3] J.P.Rameau, “Traité de L’harmonie”, (translated by P.Gossette,Dover,New York,1971) [4] 三浦雅展,下石坂徹,斉木由美,柳田益造, 「和 声学におけるバス課題についての回答確認シ ステムの構築とその評価」,電子情報通信学会 論文誌,Vol.84,D-II,6 (2001). [5] 柳田益造,三浦雅展,下石坂徹,斉木由美,「和 声学学習過程における思考と完成の統合」,電子 情報通信学会「思考と言語」研究会,TL2000-07. [6] M.Miura, T.Shimoishizaka, Y.Saiki and M.Yanagida, “A study for reconstructing Basse Donnée sytem using a rule unit model”, Acoust. Sci & Tech. (in press). での所要時間を示している.Sequence ID : 1,3,4 において,被験者の回答が間違ってい た場合の下 3 声の配置に関する時間が記載さ れていないが,これは,被験者が転回型を入 力した時点で間違いであることに気づいたた めである.Table 3 より,被験者は数分以内に 自分の回答の正誤判定を行えていることが確 認できた.被験者は和音進行と転回型を入力 してから自分の回答が全許容解群に含まれて いるかを探すが,Table 3 の Allowable の L3V と Inv との差より,和音進行および転回型 を入力してから約2分以内で自分の回答が正 解であることが確認できている.また,Table 3 の Not Allowable から,被験者自身の回答が 間違っている場合は,和音の転回型を入力し
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