1 - 高松赤十字病院

第1回高松赤十字病院学術講演会
(2014年6月4日)
病棟・救急で必ず出会う
気管支喘息
一明日から役立つ基本的知識一
名古屋市立大学大学院医学研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学
新実彰男
気道・肺の解剖
気管
終末細気管支
鼻腔
気道系 (導管部)
口腔
喉頭蓋
分岐部
気管
食道
肺
終末細気管支
食道括約筋
酸素→血液へ
横隔膜
肺胞実質系
(ガス交換部)
肺胞 (肺胞嚢)
胃
二酸化炭素→呼気へ
毛細血管
大循環と小循環
小循環
肺静脈
肺動脈
(肺循環) 右心室
左心房
心臓 (=ポンプ)
右心房
左心室
大循環
喘息とは・・・
気管や気管支 (空気の通りみち=
気道) が狭くなる*ために咳、喘
鳴、呼吸困難が生じる疾患
狭くなった気管や気管支が
広がると、症状は改善する
*気道閉塞 と呼ぶ
どうして気道が狭くなるのか?
健常者の気道
喘息患者の気道
安定時
発作時
刺激
・上気道炎
・アレルゲン
など
空気の通りみちが広い 慢性的な炎症
好酸球などの浸潤、粘膜の腫脹
→気道過敏性亢進
気道平滑筋収縮
炎症の悪化
痰の貯留
気道リモデリング
→気道がさらに狭窄
長期罹病に伴う組織学的変化→咳、喘鳴、呼吸困難
 可逆性・変動性の気流閉塞が喘息の本態 (一部は不可逆性)
 診断、治療には気流閉塞の評価(呼吸機能検査)が重要
気流閉塞の評価
スパイロメーター (医療機関)
1秒量 (FEV1)、努力肺活量 (FVC) 等の測定
気流閉塞の最も重要な指標
再現性良好
ピークフロー (PEF) メーター (自宅)
再現性やや劣るが簡便、主に自己管理に用いる

保険適応(喘息治療管理料)
:機器は病院が貸与

自費購入
喘息死患者剖検肺の病理像
炎症細胞浸潤
(好酸球, T細胞)
粘液栓
平滑筋増生/肥大
基底膜肥厚
気道壁肥厚
血管新生
気道リモデリング
Elias JA et al. J Clin Invest 2003
身長で補正した1秒量 ( FEV1)(L)
非喫煙男性の呼吸機能の長期経過
1.7
健常者 (n=5480)
喘息 (n=314)
1.5
1.3
1.1
0.9
0.7
0.5
→気道リモデリングによる
不可逆的気流閉塞
0.3
20 30 40 50 60 70 80
年齢 (yr)
Lange P et al. New Engl J Med 1998
CT画像による気道リモデリングの評価
健常者
%FEV1 102%
軽症持続型喘息
%FEV1 80%
Niimi A et al. Am J Respir Crit Care Med 2000
(右上葉B1)
気道壁の厚さ
重症持続型喘息
%FEV1 56%
Wall Area (WA)
重症例ほどリモデリングが
Nakano Y et al. Am J Respir Crit Care Med 2000
進行している
Nakano Y et al.
Am J Respir Crit Care Med 2000
喘息の概念と、慢性期薬物治療の変遷
1960
1970
2000
1980
1990
2010
気道過敏性、平滑筋攣縮、可逆性気流閉塞
→ 気管支拡張薬
気道炎症
→ 吸入ステロイド薬
気道リモデリング
(不可逆性気流閉塞)
→ 吸入ステロイド薬?
発症後早期からの使用により
防止できる可能性
喘息の基本病態と治療
発症因子
遺伝的素因:アトピー, 気道過敏
原因因子:アレルゲンなど
寄与因子:ウィルス感染など
気道炎症
抗炎症薬
(吸入ステロイド)
増悪因子
アレルゲン
ウィルス感染
大気汚染
過労、ストレス
など
気道過敏性亢進
気管支
拡張薬
(β刺激薬)
喀痰好酸球数
呼気中NO濃度
気流閉塞 (攣縮、浮腫、分泌亢進)
(長期持続)
PEF, FEV1
客観的
モニタリング
気道リモデリング
喘息症状 (発作性呼吸困難、喘鳴、咳)
不可逆的気流閉塞、重症難治化
よくある質問
72歳女性:「この歳になって喘息を発症することがあるの
ですか?」
→はい。喘息は新生児から高齢者まで、全ての年齢層で
発症し得る病気です。(約60%以上が成人発症)
38歳男性:「私の喘息は治りますか?」
→子供の喘息ほど治る確率は高くはありません。(10-20%)
しかし治療は進歩しており多くの患者さんは普通の生活が送
れます。病気とつき合うつもりで治療に取り組んで下さい。
日本の喘息死亡数と吸入ステロイドの販売額
吸入ステロイド+長期間作用性吸入β2刺激薬配合剤1)
吸入ステロイド1)
喘息死亡数2)
(百万円)
100,000
吸
入
ス
テ
ロ
イ
ド
販
売
額
90,000
80,000
(人)
8,000
7,000
6,000
70,000
5,000
60,000
50,000
4,000
40,000
3,000
30,000
2,000
20,000
2,060人
10,000
0
喘
息
死
亡
数
΄85
΄87
΄89
΄91
日本の喘息ガイドライン
΄93
΄95
JGL
΄93
JGL
΄95
΄97
΄99
΄01
΄03
΄05
΄07
΄09
JGL
JGL
JGL
JGL
΄98 JPGL JPGL΄03 JPGL
΄06 JPGL΄09
΄00
΄02
΄05
΄08
1,000
΄11
0
(年)
JPGL
΄12
1)Copyright 2012 IMS Japan co Source:IMS JPM (MAT 2011Dec)をもとに作成 All right reserved.
2)厚生労働省人口動態統計
喘息死の危険因子
• 難治性喘息
• 過去1年間の喘息発作による救急受診や入院の既往
• 致死的発作の既往
• 重篤な食物・薬物アレルギー歴
• 不適切・不十分な治療
• 全身ステロイド薬の減量・中止
• 吸入β刺激薬への過度依存傾向
• 不規則な通院治療(コンプライアンス不良)
• 精神障害の合併
• 崩壊家庭、独居
高齢者喘息の問題点
 ↑患者数 (高齢化社会の影響)
 喘息死の約90%を占める
 診断の難しさ
典型的症状を示さない患者が少なくない
COPD、心不全などとの鑑別や合併
検査、問診がしばしば困難
 治療に関する問題点
• 合併症、併用薬
• 吸入手技の拙劣さ
•↓アドヒアランス
•↓薬剤クリアランス、↑副作用
•↓薬剤反応性
喘息の増悪因子
アレルギー性
(アレルゲン)
ハウスダスト・ダニ
カビ
非アレルギー性
食物
排気ガス
大気汚染
昆虫
花粉
動物の
毛やフケ:
ネコ、イヌ、
ハムスター、
ウサギなど
かぜ
過労
ストレス
気象
花火、線香の煙
たばこ
激しい運動
解熱鎮痛薬
まず病歴が重要
抗原感作は血液(特異的IgE)検査、皮膚テストで確認できる
アスピリン喘息(NSAID過敏喘息)
酸性非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で誘発される喘息
成人喘息の約10%(小児ではまれ)
20-50歳代で発症することが多い後天的過敏体質
(喘息発症前にはNSAIDは安全に使用できていた場合も多
い)
一度獲得したNSAID過敏は、ごく一部の例外を除き一生続く
しばしば致死的重症発作をきたす
アスピリン喘息の診断と対応
診断:
• In vitroの診断法はない!
• 誘発歴 (NSAID服用1時間以内の中等度以上の発作惹起)
• 臨床像 (嗅覚低下、鼻茸の手術歴など)
• 負荷試験
対応:
• NSAIDの回避が基本 (湿布や外用薬なども避ける)
• 塩基性NSAIDやCOX-2選択性NSAID (celecoxib) は安全
• コハク酸エステル型ステロイド (ソルコーテフ、サクシゾン、
ソルメドロール、水溶性プレドニン) の静注で40-60%が悪化
→リン酸エステル型 (リンデロン、デカドロン) を緩徐に点滴
谷口正実ほか.
日本胸部臨床 2007
その他の薬剤と喘息
β遮断薬
β遮断薬は喘息を悪化させ、生命の危険ももたらし得る 喘息
や 気管支攣縮の既往のある患者での使用は避けねば なら
ない
代替薬がない場合は、心選択性(β1選択性)薬剤の使用を専
門家の指導下に厳重な注意を払いながら考慮する
British National Formulary 2005
実際には、慎重な漸増投与で問題なく使用できる場合も多い
ACE阻害薬
10〜30%の頻度で咳を惹起 (↓サブスタンスP、ブラジキニンの代
謝)
ごく一部の報告では気管支攣縮を誘発(否定的見解が
多い)
喘息に禁忌ではない
アンギオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB):咳惹起なし、喘息にも安全
喘息の症状
3主徴:喘鳴、呼吸困難、咳・・・典型例では全て揃う
その他の症状:胸の重苦しさ、痰、胸痛
痰や胸痛のみを呈する喘息患者は少ないが、その他の症状は
それぞれが喘息の唯一の症状となりうる
*Cough variant asthma (咳喘息)
咳を唯一の症状とする喘息
*Chest-pain variant asthma (胸痛喘息)
胸痛を主訴とする喘息
発作性、変動性
夜間〜早朝に悪化する傾向(ときに起坐呼吸)
咳だけが続く喘息=咳喘息
吸入ステロイドを用いるなど、
Chest-pain variant asthma(胸痛喘息)の臨床像
喘息の悪化時に胸痛を来すことがあり、特に胸痛が主症状と
なる場合をchest-pain variant asthma(胸痛喘息)と呼ぶ
夜間や早朝に胸痛のために覚醒したり救急受診を要するほど
の激しい胸痛を呈することあり
循環器・消化器疾患との鑑別を要する
呼吸困難や咳嗽を伴うことが多いが喘鳴はしばしば認めない
機序:咳嗽や深吸気に伴う胸郭・肋間筋の過伸展、胸骨付着
部の伸展、刺激など?(詳細は不明)
β刺激薬の吸入による速やかな改善が鑑別に有用
症例:54歳女性、喘息+過換気症候群
既往歴:
2000年喘息発症、2001年-当科で加療。
(キュバール600、ホクナリンテープ、キプレス、ドメナン、
サルタノール頓用、プレドニン短期内服:年に10回程度)
2001年
2002年
気管支・肺結核で抗結核化学療法
上記治癒後の瘢痕狭窄に対し、右中葉切除術+
気管支形成術
うつ病、統合失調症、高血圧症、高脂血症、胃食道逆流症、
アレルギー性鼻炎、腰椎すべり症、閉塞型睡眠時無呼吸症候群
現病歴:
喘息の定期受診のため2007年3月30日来院。診察待ちの間に呼
吸困難出現。順番が来て診察室に呼んだら、ドアを開けて入
るなり「先生息苦しいです」と言いながら倒れこんだ。
起立不能。手足のしびれあり。
身体所見:
呼吸数 30/分
胸部聴診:喘鳴なし、左右差なし
SpO2 98 (room air)
過換気症候群の確実な診断には
血圧136/80
動脈血ガス分析が不可欠
経過:
ストレッチャーで処置室へ移動
ABGA: pH 7.528, PaCO2 25.7 Torr, PaO2 99.6 Torr,
BE -0.6
過換気症候群と診断し、ペーパーバッグ呼吸にて症状軽快
喘息と過換気症候群
喘息患者の36%に過換気症候群を合併
合併例は、非合併例と比べて女性が多く、年齢が高く、不安感
や呼吸困難感が強く、喘息による救急受診・入院回数が多い
(Martinez-Moragon et al. Arch Bronchoneumol 2005)
 過換気により喘息が悪化し得る
(気道粘膜乾燥→肥満細胞活性化)
 喘息発作に対する不安が過換気を惹起
→悪循環を形成
 過換気症状が前面にでて喘息が見逃されることあり
 患者本人による対応が難しい・・・喘息発作? 過換気発作?
アレルギー性気道炎症の評価方法
誘発喀痰検査
呼気中NO濃度測定
呼気NO濃度測定機器
一定のフローで呼気を行うだけで結果が得られる簡便な検査
2013年にこの機種限定で
保険適用を取得
設置型
携帯型
喘息の診断、管理のための生理学的検査
• スパイロメトリー:気の低下など)
• ピークフローモニタリング
簡易型スパイロメーター
• 気道可逆性試験
β刺激薬吸入によるFEV1の改善度を評価
FEV1が200 ml以上かつ12%以上増加すれば可逆性あり
• 気道過敏性試験
気管支収縮物質 (メサコリンなど) の吸入で誘発される収縮の程
度を評価・・・FEV1や呼吸抵抗が一定量変化する閾値をみる
喘息の呼吸機能
 発作寛解期
正常のことが多い(リモデリング進行例では低下)
 発作の強度に従い閉塞性換気障害(気流制限)、肺の過膨
張が増強
1秒量、1秒率、ピークフロー ↓
残気量 (RV)、機能的残気量 (FRC)、全肺気量(TLC)↑
 発作時の動脈血ガス分析所見
軽度 中等度 重症
動脈血酸素分圧 (PaO2)
正常 → ↓ → ↓↓
動脈血二酸化炭素分圧 (PaCO2) 正常 → ↓ → 正常* → ↑
*気管内挿管を準備、考慮
ピークフロー(Peak Expiratory Flow)
• 息をできる限り吸い、それをできる限り呼出した時
の最大呼気流量(L/分)
• 主に中枢気道の閉塞の指標
• 気流閉塞の変動が観察でき、
息の診断や治療管理に有用
喘
呼出気流 (l/s)
フローボリューム曲線
ピークフロー
12
-
6
-
0
TLC
75%VC 25%VC
PF 50%VC
RV
肺気量 (l)
ピークフローメーター
ピークフローモニタリング
1日2回〜4回測定
(通常は1日2回、朝起床時と夕方)
3回繰り返して最大値を記録
日内変動:
(最高値ー最低値)
変動率%=
× 100
最高値
保険適応(喘息治療管理料)
自費購入でも3000円程度
ピークフローモニタリング
• 77歳, 女性, 身長150 cm →予測式から基準値 281 l/min算出
• 長期間みている例では個人ベスト値がわかる (300 l/min)
日付
1/7 (月)
FP ●
薬剤 ●
●
●
β2
7AM
4
2 2
26PM
時刻
グリーン
ゾーン
(80-100%)
イエロー
ゾーン
(50-80%)
レッド
ゾーン
(<50%)
1/8 (火)
●
●
●
1/9 (水)
●
1/10 (木)
●
1/11 (金)
●
●
1/12 (土)
●
1/13 (日)
●
●
2
7AM
どちらかを
指標に管理
6PM 7AM
2 2
6PM 7AM
6PM 7AM
6PM 7AM
4
6PM 7AM
6PM
300
300
200
200
100
100
0
喘息診断の目やす
(喘息予防・管理ガイドライン 2012に基づいて作成)
1
発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽を反復。夜間、早朝に出現しやすい
安静時にも認める場合が多く、寛解時には軽快〜消失
気流閉塞 (FEV1, PEF↓) の
なし
あり 有無
3 気道過敏性+
可逆性の確認:治療による改善
PEF日内変動↑(>20%)
気道可逆性+ (β刺激薬でFEV1↑>200 ml, 12%)
4 環境アレルゲンに対するIgE抗体の証明(血液検査、皮膚テスト)
5 他の心肺疾患の除外
6 気道炎症の存在:喀痰/末梢血好酸球↑・ ECP (eosinophil cationic
protein)↑, 呼気中一酸化窒素(NO)濃度↑ 等
• 1 + 2/3 + 5
→ 喘息を強く示唆
•6
→ 喘息の診断を支持
• 4をみたす
→ アトピー型喘息
2
喘息の鑑別診断
• 左心不全 (“ 心臓喘息 cardiac asthma”)
• 中枢気道の器質的狭窄
腫瘍
気管・気管支結核
気道内異物
• 慢性閉塞性肺疾患 (COPD)
症例:38歳女性
鑑別のポイント
主訴:咳、呼吸困難、喘鳴
1. 病歴 (症状の変動性)
現病歴:喘息として近医で数ヶ月加療 2. 聴診所見 (stridor)
されるも改善なく転院
3. 画像
診断:腺様嚢胞癌
COPD (慢性閉塞性肺疾患) とは?
タバコを長年吸い続けることで、肺がんや心筋梗塞になりやすいといわ
れていますが、実はタバコと一番密接に関係する病気が「COPD」。
タバコの煙などの有害物質を長期間にわたって吸い込むことで、気管支
と肺に慢性的な炎症や障害が起こる病気です。
COPDの胸部CT所見
肺気腫
軽症例
中等症例
重症例
正常肺組織は
ほとんど消失
喘息とCOPD:なぜ鑑別が重要か?
第一選択薬が異なるから。
喘息:吸入ステロイド薬
COPD:長時間作用性気管支拡張薬
(抗コリン薬、β2刺激薬)
喘息、COPDの鑑別のポイント
喘息
年齢
喫煙歴
アトピー
症状
COPD
全年齢層
中高年
ときにあり
殆どの例であり
しばしば+
ときに+
喘鳴, 呼吸困難, 咳・痰
呼吸困難>咳・痰, 喘鳴
発作性・変動性、夜間優位、
固定性、労作時優位、
しばしば季節性
夜間はまれ、進行性
気流閉塞
種々の程度、変動性
FEV1/FVC<70%, 固定性
FEV1可逆性
通常あり(リモデリングで↓)ときにあり
拡散能
正常
しばしば↓
末梢血好酸球増多 しばしば+
通常ー
喀痰好酸球増多
しばしば+
通常ー (急性悪化時+)
呼気中NO濃度
しばしば↑
ときに↑
CT所見
気道壁肥厚+、肺気腫ー
気道壁肥厚+、
肺気腫しばしば+
喘息、COPDの鑑別のポイント
喘息
年齢
喫煙歴
アトピー
症状
COPD
全年齢層
中高年
ときにあり
殆どの例であり
しばしば+
ときに+
喘鳴, 呼吸困難, 咳・痰
呼吸困難>咳・痰, 喘鳴
発作性・変動性、夜間優位、
固定性、労作時優位、
しばしば季節性
夜間はまれ、進行性
気流閉塞
種々の程度、変動性
FEV1/FVC<70%, 固定性
高齢者では、
FEV1可逆性
通常あり(リモデリングで↓)ときにあり
 鑑別が困難なことあり
拡散能
正常
しばしば↓
 両者の合併もしばしば見られる
末梢血好酸球増多 しばしば+
通常ー
(オーバーラップ症候群)
喀痰好酸球増多
しばしば+
通常ー (急性悪化時+)
呼気中NO濃度
しばしば↑
ときに↑
 鑑別が難しかったり、合併が疑われる患者では
吸入ステロイド薬(ICS)が基本治療
CT所見
気道壁肥厚+、肺気腫ー
気道壁肥厚+、
 ICS/長時間作用性β2刺激薬 (LABA)
配合剤が有用
肺気腫しばしば+
喘息治療薬の分類
◎:中心的薬剤
〇:次に選択する薬剤
作用機序による分類
抗炎症薬
気管支拡張薬
◎吸入ステロイド薬 [ICS]
◎長時間作用性β2刺激薬
[LABA] (吸入・ 貼付)
◎ICS/LABA配合剤
用
途
に
よ
る
分
類
長期管理薬
(コントローラー)
〇ロイコトリエン拮抗薬[LTRA] (経口)
〇テオフィリン徐放製剤(経口)
その他の抗アレルギー
薬 (経口、吸入)
抗IgE抗体製剤
ステロイド薬 (経口)
発作治療薬
(リリーバー)
◎ステロイド薬
(経口・静注)
◎短時間作用性β2刺激薬
[SABA] (吸入)
〇短時間作用性
テオフィリン薬 (静注)
〇抗コリン薬 (吸入)
喘息治療ステップ
治療ステップ1
治療ステップ2
治療ステップ3
治療ステップ4
吸入ステロイド薬 吸入ステロイド薬 吸入ステロイド薬 吸入ステロイド薬
(低用量)
(低~中用量)
(中~高用量)
(高用量)
上記が使用できない場合 上記で不十分な場合に
以下のいずれかを用いる 下記のいずれか1剤を併
用
長 基 LTRA
期
LABA
テオフィリン徐放製剤 (合剤の使用可*)
本
LTRA
管 治
(症状が稀であれば必 テオフィリン徐放製剤
要なし)
理 療
薬
追加 LTRA以外の
治療 抗アレルギー薬
吸入SABA
LTRA以外の
抗アレルギー薬
吸入SABA*
上記に下記のいずれか
1剤、あるいは複数を併
用
上記に下記の複数を併用
LABA
(合剤の使用可*)
LTRA
LABA
(合剤の使用可)
LTRA
テオフィリン徐放製剤
テオフィリン徐放製剤
上記のすべてでも管理
不良の場合は下記のい
ずれか あるいは両方
を追加
(最重症難治例)
抗IgE抗体
経口ステロイド薬
LTRA以外の
LTRA以外の
抗アレルギー薬
抗アレルギー薬
喘息予防・管理ガイドライン2012
吸入SABA*
吸入SABA
吸入療法
超音波ネブライザー
器具
・ジェットネブライザー
超音波ネブライザー
救急外来、病棟、(自宅)
・エアロゾル吸入器(定量噴霧式吸入器 p-MDI)
ドライパウダー
・ドライパウダー吸入器 (DPI)
長所
・局所療法:全身投与に比し 効果↑全身性副作用↓
短所
・手技が悪いと効果↓
・指導に手間がかかる
・気道狭窄強いと(重症発作、重症例)効果↓
エアロゾル
エアロゾル (p-MDI)
剤型
一般名
べクロメタゾン
(BDP)
商品名
キュバール
適
応
成人・小児
ドライパウダー (DPI)
シクレソ
(CIC)
オルベスコ
フルチカゾン
(FP)
800μg
800μg
発売年
吸入器具
2002
2007
フルタイド
フルタイド アズマネックス パルミコート
エアー
ロタディスク
ディスカス
成人・小児
800μg
800μg
添加剤
無水エタノール 無水エタノール
一
臭い・味
アルコール臭
一
甘味
フロンガス
(備考)
HFA
HFA
2003
+スペーサー
成人・小児
1998
ディスク
ヘラー
乳糖
アルコール臭
ブデソニド
(BUD)
フルタイド
成人・小児
最大量
モメタゾン
(MF)
成人・小児
800μg
2002
ディスカス
> 乳糖
> 甘味
成人
成人・小児
1600μg
1600μg
2009
ツイスト
ヘラー
無水乳糖
2002
タービュ
ヘイラー
一
一
(苦み)
HFA
プロドラッグ
吸入ステロイド薬の一覧 (単剤のみ)
吸入液あり
(BIS)2006
成人・小児
ジェットネ
ブライザー
定量噴霧式吸入薬 (p-MDI) 吸入のポイント
1. ゆっくり深く吸入
2. ボンベを押すタイミングと吸入動作を同調させる
3. 吸入後の息止め
吸入流量による肺内沈着率の違い (p-MDI)
ゆっくり
はやい
Laube et al. J Allergy Clin Immunol 1992
ドライパウダー製剤(DPI)吸入のポイント
大切なのは
はやく、深く吸入すること
乳糖
薬剤
能動的吸気
注)
パルミコートは乳糖なし
吸入剤型の特徴
長所
エアロ
ゾル
(p-MDI)
短所
末梢気道への到達良好
上気道への薬剤沈着少ない
能動的吸気不要 (意識障害下、
人工換気下、高齢者、神経筋
疾患で使用可能)
ボルマチックソフト
吸気への同調が必要
スペーサー必要な場合あり
残量が確認できない製剤が多い
航空機機内 持ち込み制限 (?)
インスパイアイース
エアロチャンバープラス
(マウスピースタイプ)
デュオペーサー
オルベスコ専用スペーサー
オプティヘラー
日本アレルギー学会が推奨
する海外のスペーサー →
ドライ
パウダー
(DPI)
スペーサー不要
吸気により作動(同調が不要)
残量の確認が容易
能動的吸気が必要
十分な吸気流量が必要
上気道沈着多い
(↑局所副作用:声枯れ、口内炎)
吸入ステロイド薬への上乗せ治療
中用量
吸入ステロイド薬
アドエア:
FP/サルメテロール配合剤
コントロール不十分
高用量
吸入ステロイド薬
併用療法
〇長時間作用性β2刺激薬
ロイコトリエン受容体拮抗薬
テオフィリン徐放製剤
シムビコート:
BUD/ホルモテロール配合剤
フルティフォーム:
FP/ホルモテロール配合剤
レルベア:
FF/ビランテロール
配合剤
介助者による吸入の介助
Matsunaga K et al. Allergol Int 2006
急性悪化時の管理
治療目標
• 重篤な低酸素血症を補正
• 気流閉塞を速やかに解除し,再発を防ぐ
治療の原則
自宅で治療開始(短時間作用型β2刺激薬吸入、ステロイド内服)
症状、ピークフロー値などを目安に救急受診するタイミングを予め指示
• 酸素投与:SpO2≧90%を目標 (小児、妊婦、心疾患合併例:≧95%)
• 短時間作用型β2刺激薬 (吸入反復投与):気流閉塞改善に最も効果的
(来院前の吸入が効いていなくても試みること!)
• 全身性ステロイド:気流閉塞の改善を早め,再発頻度を低くする
• 抗コリン薬:吸入β2刺激薬への追加で相加的気管支拡張効果
• 静注テオフィリン:他剤でコントロール不十分な場合に考慮
短時間作用性吸入β2刺激薬
 p-MDI (サルタノール/メプチン2-4パフ) +スペーサー
20分毎に3回吸入 その後は必要に応じ1-4時間毎
 ネブライザー (メプチン/ベネトリン 0.3-0.5 ml+生食5-10 ml)
20分毎に3回吸入 その後は必要に応じ1-4時間毎
*上記の効果は同等
p-MDI:簡便、安価、噴霧との同調や努力呼吸が必要
→年齢、興奮状態、重症度によっては困難
ネブライザー:安静換気で可、高価
全身ステロイド薬
GINA2006:
メチルプレドニソロン 60-80 mg/日 or ハイドロコーチゾン300-400 mg
/日で十分。(殆どの患者では同40 mg/日 or 200 mg/日 で十分)
Expert Panel Report-3 2007:
プレドニソロン 40-80 mg/日分1-2をPEFが自己ベスト70%に達するまで
喘息予防・管理ガイドライン 2006:
初回:ハイドロコーチゾン200-500 mg or メチルプレドニソロン40125 mg。以後同100-200 mg or 40-80 mg を4-6時間毎
Cochrane Database Syst Rev 2000 (メタ解析):
メチルプレドニソロン < 80 mg/日 or ハイドロコーチゾン < 400 mg
/日で十分
 経口と静注で効果は同等とされる
 吸入ステロイド薬の有効性を示唆するevidenceあり
 アスピリン喘息→リン酸エステル型の点滴(全例に選択する施設も)
喘息と外科手術
外科手術17638例の合併症の検討
• 5.7%で喘息合併
• 喘息の存在により術後の呼吸器系合併症↑(5倍)
• 喘息の重症度、コントロール状況、手術や麻酔の術式に依存
高リスク例:
コントロール不良の重症喘息
胸部および上腹部の手術
全身麻酔(気管内挿管)
Chung F et al. Br J Anaesth 1999
喘息と外科手術:評価と対応
病歴(特にステロイド使用歴)、症状、呼吸機能、SpO2
追加治療する時間的余裕が必要→手術の数日前までに評価を
(緊急手術は例外)
術前1-2週に発作がないこと、特に重症例や他の呼吸器疾患
合併例では十分にコントロールされていることが望ましい
FEV1, PEF < 自己ベストの80%→経口ステロイド短期投与
6ヶ月以内に全身ステロイド投与歴あり、または
高用量吸入ステロイド薬投与中の患者の一部
→術前からハイドロコーチゾン100 mg を8時間ごとに静注
術後24時間で急速に減量
喘息と妊娠
妊婦の喘息発作は、胎児に低酸素血症をもたらす可能性あり
喘息患者では、正常妊婦に比較して早産や低体重時出産、
先天異常の頻度が高い
(Demissie K et al. Am J Respir Crit Care 1998)
ただしこれはコントロール不良例を含めた統計
かなり重症の喘息があっても、適切にコントロールされて
いれば児や母親の死亡率増加にはつながらない
(Fitzsimons R et al. J Allergy Clin Immunol 1986)
妊娠に伴う喘息の変化:悪化、改善、不変が約1/3ずつ出産
後はほぼ妊娠前の状態に戻る
(Schatz M et al. J Allergy Clin Immunol 1988)
ほとんどの抗喘息薬は妊婦、胎児に影響なく安全に使用できます
妊娠中こそより確実に喘息の治療を継続しましょう
共同研究者
名古屋市立大学 呼吸器・免疫アレルギー内科学
武田典久, 福光研介, 土方寿聡, 浅野貴光,
市川博也, 古田裕美, 福田悟史, 國井英治, 川口裕子, 上村 剛大,
大久保仁嗣, 高桑 修, 竹村昌也, 前野 健, 小栗鉄也, 中村 敦,新実彰男
京都大学医学部呼吸器内科
田尻智子, 長崎忠雄, 金光禎寛, 出原裕美,
小熊 毅, 伊藤功朗, 松本久子, 三嶋理晃
滋賀医科大学呼吸器循環器内科
山口将史
神鋼病院呼吸器内科
松岡弘典
神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科
大塚浩二郎
大阪府済生会中津病院呼吸器内科
竹田知史, 上田哲也
京都医療センター呼吸器内科
井上英樹
日赤和歌山医療センター呼吸器科
中治仁志, 西山秀樹
高松赤十字病院呼吸器内科
網谷良一
Free University Berlin and Humboldt-University Berlin, Germany
David A Groneberg
National Heart & Lung Institute, Imperial College London, UK
K Fan Chung