7 これからの地域づくりに問われる 人を育てる力と地域文化

育、第3に教育と答えたという。農業の時代には生産性を決めたのは自然の豊
かさであり、人間がはたらきかける自然がどういうものかで生産性が決まった。
工業の時代は人間が自然にはたらきかける時の手段、機械設備がいかによいか
が生産性を決めた。しかし、情報や知識の時代になると、はたらきかける主体、
人間そのものが大きな意味を持つ。
スウェーデンの企業はどんなに労賃が高くても、スウェーデンから出て行く
わけにはいかない。知識集約産業に特化しているので出て行く先にスウェーデ
ン人と同じ能力がなければ、出て行けない。ところが日本企業は産業構造を変
えずに、単純作業でどこでも行える作業にしているので、日本へのこだわりは
少なくどこにでも出て行ける。ここに大きな違いがある。
これからの地域づくりに問われる
人を育てる力と地域文化
知識や情報の時代には、住民の能力や人を育てる力が大きな鍵となり、まち
づくりや地域づくりにも「教育」あるいは「人づくり」の視点が重要になって
くる。
※9 ストラスブール
私たちの生活している街並みをもう一度眺めてみよう。ゆとり教育と言っ
ているが、時間軸で考えているだけで、子供たちにとって本当にゆとりのある
空間は十分とはいえない。かつては道にろう石で絵を描くことができ、それが
美術や人間の想像力を育てることにつながっていた。今、子どもたちは道から
追い出されている。
フランスとドイツの国境近くに位置する、
人口およそ25万人の都市。ライン川、ロー
ス川、マルヌ川を結ぶ運河の合流点で、古く
から交通の要衝として発展を遂げ、この地方
の行政や文化の中心地となっている。また、
機械や食品工業、製糸業の工業地帯の中心と
なっている。
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子供が育ち、人材を集められるようなまちづくりを進めて世界的に注目され
※9
ているのが、フランスのストラスブールだ。「住むのだったらここ、人間が育
つのだったらここ」を合言葉に、まちづくり運動を展開しており、自動車の
アルザス・ロレーヌ
フランス北東部に位置し、鉄鋼、石炭など
の資源が豊富で、ドイツに隣接することから、
両国間の領有争いの地となってきた。ドイツ
に併合される地域の悲哀を描いたドーデの
「最後の授業」の舞台となった地域である。
流出を制限し、LRTを活用して公園のようなまちづくりを進めている。かつ
パリ
ロレーヌ地方
ナンシー
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て工業で汚染された土壌や水などの環境を改善し、アルザス・ロレーヌという
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ストラスブール
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地域が持っていた文化を復活させようというのが彼らの戦略になっている。
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アルザス地方
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ストラスブールはグーテンベルクと関わりの深い都市として知られ、市内の
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リヨン
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大学にはパスツール研究所があり、バイオ分野の優秀な人材が集まってくる場
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所でもあった。さらに、欧州議会がストラスブールに設置されるようになり、
フランスの超エリートを養成する高等行政学院のENA(国立行政学院)も移
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ってきた。現在、ストラスブールの人口23万人のうち大学生は5万人と2割以
火薬、羅針盤と並んで、ルネサンス期の三
大発明といわれる活字・活版印刷技術の発明
者。15世紀にストラスブール及びドイツの
マインツで活躍した。
上を占めている。こうした人づくりの環境を基盤として、これからは知恵を出
す産業がどんどん増えて地域が活性化していくことだろう。
ところで、どんなに他地域から人が集まってきても、ストラスブールをはじ
めとするアルザス・ロレーヌ地方の生活を支えているのは、アルザス・ロレー
ヌの生産物だ。地域だけでしか動かない食材や商品があり、それが地域の文化
や産業と深く結びついている。だからヨーロッパでは一極集中が起こらない。
それぞれの地域にそれぞれの文化があり、その文化を支える産業が広がってい
るからだ。
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グーテンベルク
パスツール
19世紀に活躍したフランスの化学者、微
生物学者。発酵作用や伝染病など微生物の研
究で大きな成果をあげ、20世紀の生物科学
の先導者と位置づけられている。1888年に、
パリに「パスツール研究所」が設立され、そ
の後の生物化学や細菌学、分子生物学の拠点
となっている。20世紀に入って、フランス
各地に同じ名前を持つ支所を展開し、研究・
治療・教養の拠点として機能している。
日本の食糧自給率が悪化した要因の一つに「食の文化」を失ったことがあげ
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