平 成 26 年 度 証 券 ゼ ミ ナ ー ル 大 会 論 文 5 テーマ 6 日本の証券市場の活性化について ~M&Aは活性化に寄与するか?~ 桃山学院大学 10 野瀬ゼミ 川畑班 目次 概要 第 1章 15 はじめに 1.1 研究の背景 1.2 M&Aの現状 1.3 M&Aの動向 1.4 研究の目的 1.5 本論文の構成 第 2章 先行研究 2.1 株 価 デ ー タ と 新 聞 記 事 か ら の マ イ ニ ン グ 20 ( 小 川 /渡 部 2001) 2.2 合 併 の 株 価 効 果 と 合 併 オ プ シ ョ ン 価 値・シ ナ ジ ー 効 果 価 値 の 関 係 に つ い て の 実 証 分 析 ( 大 川 /馬 ) 2.3 日 本 の M & A の 課 題 ~ M & A が 効 率 的 な 経 営 戦 略 に な る に は (辻 /安 藤 /大 谷 /大 原 /久 保 田 /後 藤 /戸 田 2009) 2.4 M & A の 株 価 効 果 と 取 引 形 態 25 (井 上 /加 藤 2.5 M & A は 買 収 企 業 の 企 業 価 値 を 高 め る か 2010) 30 第 3章 検証仮説 第 4章 研究方法 第 5章 結果 第 6章 まとめ 1 2006) (小 林 /杉 原 /福 田 /松 本 /溝 上 概要 本研究では特に株価変動に影響を与えている企業同士の合併・買収に絞り、 ジャスダックに上場している銘柄の中で合併・買収を行った企業を分析するも 5 のである。また、合併・買収が株価変動に影響を与えているかどうか明らかに する。 今日の日本では競争力強化や事業再編、また海外進出などの手段として、M &Aの注目度が高まっている。M&Aとは企業の合併や買収の総称であり英語 の mergers and acquisitions(合 併 と 買 収 )の 略 で あ る 。 本 研 究 で は 狭 義 の 意 味 10 としてM&Aを企業の合併と買収の 2 点に絞ることにする。現在日本企業では 年 間 1000 社 以 上 合 併・買 収 が 行 わ れ て お り 、同 業 同 士 の 合 併 を 中 心 に 、異 業 種 との合併・買収も増加している。その中でも、比較的小規模な新興企業がM& Aという重大な施策を行う場合の影響について関心があった。そこでM&Aが 株価変動にどう影響を与えているのかを分析したいと考えた。 15 そこで本稿では、企業がM&Aを発表することによって、買収企業の株価が 上 昇 す る と い う 仮 説 を 立 て 、M & A 発 表 前 後 10 日 の 株 価 を 分 析 し た 。分 析 対 象 は ジ ャ ス ダ ッ ク に 上 場 し て い る 企 業 375 社 で あ る 。分 析 期 間 は 、2009 年 1 月 か ら 2014 年 11 月 ま で の 6 年 間 を 対 象 に イ ベ ン ト ス タ デ ィ を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 企業がM&Aを発表することによって株価が上昇することが判明し、新興市場 20 におけるM&Aは買収企業のリターンの向上を通して、結果的に日本の証券市 場の活性化にも寄与しているということが証明できた。 25 30 2 第 1 章 はじめに 1.1 研究の背景 現 在 日 本 で は 全 市 場 を 併 せ る と 約 3500 銘 柄 存 在 し て お り 、 そ の う ち 東 証 1 5 部 に 上 場 し て い る 銘 柄 は 1800 と 大 部 分 を 占 め て い る 。そ し て 東 証 1 部 に 上 場 し て い る 銘 柄 の う ち か ら 選 ば れ た 225 社 の 株 価 を 平 均 し た も の を 日 経 平 均 株 価 と いう。近年日経平均株価の上昇や個人株主数の増加がみられることから、株式 市 場 が 活 性 化 し て い る と 考 え ら れ る 。2014 年 の 9 月 に は 日 経 平 均 株 価 が 16,374 円 14 銭 と 昨 年 の 最 高 値 を 上 回 っ た 。株 式 市 場 の 活 性 化 に 伴 い 株 価 が 上 昇 し て い 10 る 企 業 が 多 く み ら れ て い る 。ま た 2020 年 の 東 京 オ リ ン ピ ッ ク に 向 け て 日 本 の 株 式市場はより一層活性化していくと思われる。しかし上場企業数は近年増減し ており、新規上場企業がある一方で上場廃止企業も毎年みられる。上場廃止の 一要因としてM&Aが挙げられ、この傾向は新興企業にもみられる。このよう に比較的小規模な新興企業がM&Aという重大な施策を行う場合の影響につい 15 て関心があった。そこで私たちはM&Aが株価変動にどう影響を与えているの かを分析したいと考えた。 現在、日本には5つの新興市場が存在しており、規模の大きい市場ではジャ スダック、東証マザーズの二つが存在する。特にジャスダックの時価総額は 2010 年 9 月 時 点 で 8 兆 8000 億 円 ほ ど で あ る 。 マ ザ ー ズ の 時 価 総 額 は 2010 年 9 20 月 時 点 で 1 兆 1000 億 円 ほ ど で あ る 。こ の よ う に 、ジ ャ ス タ ッ ク は 国 内 で は 圧 倒 的な大きさであることが分かる。 ( し か し 、韓 国 の 新 興 市 場 で あ る コ ス ダ ッ ク の 急成長や、中国での新興市場の創設などを見ると、アジアにおけるジャスダッ クの地位も安泰ではなく、今後はアジアの新興市場との競争が激しくなってい く と 考 え ら れ る 。)ま た 、日 本 に は ジ ャ ス ダ ッ ク と マ ザ ー ズ 以 外 に も 札 幌 、名 古 25 屋、福岡に小さい規模の新興市場が存在する。 こ こ で 、 ジ ャ ス ダ ッ ク の 概 要 を 説 明 す る 。 ジ ャ ス ダ ッ ク は 2010 年 10 月 に ジ ャスダック、ジャスダックNEO、大証ヘラクレスの三つの新興市場を統合し て出来た市場である。なお、新たに出来たジャスダックは二つの市場から構成 されており、一つはヘラクレスと同じく二部構成のスタンダード市場、二つは 30 上場基準がより緩やかで赤字企業でも上場可能なグロース市場である。 3 こ こ で 、三 つ の 証 券 市 場 が ジ ャ ス ダ ッ ク に 統 合 す る に い た っ た 経 緯 を 述 べ る 。 統合後とそれ以前のジャスダックを区別するため、前者をジャスダック、後者 を旧ジャスダックと呼ぶことにする。当初は、日本証券協会が運営する店頭市 5 場(後の旧ジャスダック)がベンチャー企業による株式公開の場として中心的 役 割 を 担 っ て い た 。し か し 、1999 年 に 東 証 マ ザ ー ズ 、2000 年 に は ナ ス ダ ッ ク ・ ジャパン(後のヘラクレス)といった新しい新興市場が開設され、この三つが 競 争 す る こ と と な っ た 。そ ん な 中 、旧 ジ ャ ス ダ ッ ク は 2007 年 に 将 来 性 の あ る 技 術を持つが、これとは別に、旧ジャスダックの上場審査基準を満たせず、発展 10 段階がよりアーリーな企業が上場する市場として、旧ジャスダックよりも上場 審査基準を緩和したジャスダックNEOを別に創設した。しかし旧ジャスダッ クは競争に伴う経営の悪化から、ヘラクレスを運営する大阪証券取引所に完全 子会社化された。こうして、大阪証券取引所は旧ジャスダック、ジャスダック N E O 、 ヘ ラ ク レ ス の 三 つ の 新 興 市 場 を 持 つ よ う に な り 、 2010 年 10 月 に こ れ 15 らを統合し「ジャスダック」とした。また、新興市場では個人投資家が新興市 場の投資の中心である。新興市場の活性化を目指すならば、個人投資家が土役 なので、特に個人投資家に注目すべきであると言える。なお、機関投資家(個 人 投 資 家 以 外 の 証 券 投 資 を 行 っ て い る 団 体 )に よ る 投 資 が 小 さ い 理 由 は 、一 。 社当たりの時価総額が小さく、一社に投資できる金額が小さい、アナリストレ 20 ポートが書かれていない企業が多い、流動性が低く、時価総額の規模が小さい ため、売りたいときに株を売れないことが多い、上場企業の質が低いといった ことが挙げられる。我々は、このような新興市場の現状を踏まえた上で本研究 を行っていく。そこで、私たちは新興市場の活性化の一要因としてM&Aが考 え ら れ る 。こ こ で M & A の 概 要 を 述 べ る 。世 界 の M & A は 、2000 年 の I T バ ブ 25 ル 崩 壊 や 、2008 年 の サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 の 影 響 、金 融 危 機 の 発 生 な ど で 減 少 し 、世 界 的 な 不 況 が M & A に 与 え た 影 響 は 大 き く 、2009 年 も 引 き 続 き 減 少 傾 向となった。しかし、一般に不況期には、企業の価格(企業価値)が低下する ことにより、買収を検討しやすい状況になったり、事業再生関連のM&Aが活 発 化 す る 面 が あ る こ と も 事 実 で あ る 。M & A は 2000 年 以 降 、急 速 に 増 加 し て い 30 る 。 1999 年 に は 1169 件 だ っ た が 、 2000 年 に 1635 件 ま で 増 加 し 、 さ ら に 2004 4 年 に 2211 件 、2005 年 に 2725 件 と 大 幅 に 増 加 し て い る 。こ れ が ト レ ン ド で あ る 。 このようにM&Aが増加した背景には、大きく三つ指摘できるだろう。まず 一つは制度的要因がある。持株会社の解禁、株式移転・株式交換制度の創設の 法 制 度 の 変 更 で あ る 。1997 年 に 独 占 禁 止 法 改 正 に よ っ て 純 粋 持 株 会 社 が 解 禁 と 5 なった。 ( 純 粋 持 株 会 社 と は 、事 業 を 行 わ ず グ ル ー プ 会 社 の 株 式 の み を 保 有 す る 会 社 の こ と で あ る 。)企 業 グ ル ー プ の 頭 と し て 戦 略 を 決 定 、実 行 し 、傘 下 に あ る 子 会 社 等 を 監 督 す る 。具 体 的 に は「 み ず ほ フ ィ ナ ン シ ャ ル グ ル ー プ 」 「JFEホ ールディングス」 「 阪 急 阪 神 ホ ー ル デ ィ ン グ ス 」等 が 挙 げ ら れ る 。多 数 の 関 連 事 業と関連会社を有する公開会社にとっては大きく、このような純粋持株会社の 10 ニ ー ズ は 、実 際 に 多 く の 純 粋 持 株 会 社 が で き た 。こ の 純 粋 持 株 会 社 を 作 る に は 、 旧株主の株式を新会社へ移転する必要がある。これを低コストで可能にしたの が 株 式 移 転 制 度 で あ る 。こ の 制 度 に よ り 、100% 親 子 関 係 の あ る 親 会 社 が 新 た に 作成され、旧株主はその親会社の株主となる。こうした制度改革はM&Aを増 加させた要因の一つである。 15 二つに、株式交換制度は二つの会社の資金的負担を最小にし、親子会社関係 を作ることができる。子会社の旧株主には、親会社の株式が交付される。従っ て、買収に多額のお金が不必要になる。更に、簡易的な組織再編が認められた り、組織再編に関する税法の取扱いが明確になったことや、会計基準が整備さ れたことも大きな理由の一つである。 20 三 つ に 、会 社 法 が 施 行 さ れ 、組 織 再 編 が 更 に 容 易 に な っ た 。そ の 理 由 と し て 、 一つは対価の柔軟化である。従来では、吸収合併や株式交換の際には、株式を 交付していたが、株式ではなく現金等の財産を交付することもできるようにな った。二つは、三角合併も認められるようになった(子会社が他の会社を吸収 合 併 す る 場 合 に 、親 会 社 の 株 式 を 対 価 と し て 交 付 す る 合 併 )。三 つ は 、簡 易 組 織 25 再編や略式組織再編などの制度もでき、より簡単に組織再編ができるようにな った。会社法における制度改正はこれでしばらくはないと予想される。今後、 もし制度的な改正が行われるとすると、それは会計だと思われる。現在、認め られている持分プーリング法は国際的には認められていない。日本の基準は、 現在国際的な基準に合わせる方向で進んでおり、組織再編に関わる会計基準は 30 定められたばかりだが、この持分プーリング法に関する部分は近い将来変更さ 5 れると思われる。いずれにせよ、企業が考えるM&Aをより容易に行えるよう になってきていると言える。国としても外国企業に負けない競争力の構築を制 度的に支援したいということだと思われる。こうした制度的な改正を受け、日 本 の M & A は 2000 年 以 降 増 加 し た と 言 え る だ ろ う 。 5 表 1 2012 年 ま で の 上 場 企 業 数 の 推 移 デ ー タ ( 東 証 ホ ー ム ペ ー ジ 引 用 ) 上場企業数(東証) 2600 2391 2400 2276 2389 2373 2323 2319 2280 2279 2293 2010 2011 2012 2200 社数 2000 1800 1600 1400 1200 1000 2004 2005 2006 2007 2008 2009 東 証 1 部 の 上 場 企 業 数 の 推 移 か ら 2006 年 以 降 上 場 企 業 数 は 減 少 し て い る の が わ 10 かる。 6 表 2 2012 年 ま で の 新 規 上 場 企 業 数 と 上 場 廃 止 企 業 数 の 推 移 デ ー タ (ジャスダックホームページ引用) 新規上場と上場廃止 150 100 113 50 98 69 54 50 社数 65 23 廃 止 新 規 26 0 -51 -45 -67 -70 2007 2008 -51 -55 2011 2012 -65 -77 -50 -100 2005 2006 2009 2010 こ 5 の 新 規 上 場 企 業 数 と 上 場 廃 止 企 業 数 の 推 移 デ ー タ か ら 、2009 年 以 降 ジ ャ ス ダ ッ クの新規上場企業数は上昇し、上場廃止企業数は減少していることがわかる。 7 1.2 M&Aの現状 まず初めにM&Aについて簡単に説明する。M&Aとは企業の合併や買収の 総 称 で あ り 英 語 の mergers and acquisitions( 合 併 と 買 収 )の 略 で あ る 。 本 研 究 では狭義の意味としてM&Aを企業の合併と買収の 2 点に絞ることにする。現 5 在 日 本 企 業 で は 年 間 約 1000 社 合 併・買 収 が 行 わ れ て お り 、同 業 同 士 の 合 併 を 中 心に、異業種との合併・買収も増加している。M&Aはリーマンショック以降 景 気 悪 化 の 影 響 に よ り 一 時 的 に 大 き く 落 ち 込 ん だ も の の 、2006 年 頃 か ら 日 本 企 業 に よ る 海 外 企 業 の M & A 案 件 は 増 加 傾 向 に あ り 、 2011 年 と 2012 年 に お け る 日 本 企 業 か ら 海 外 企 業 の M & A 案 件 は バ ブ ル 期 に 当 た る 1990 年 に 記 録 し た 463 10 件 を 超 え て 過 去 最 多 と な っ た 。 企 業 が M&A を 実 施 す る 目 的 は 大 き く 分 け て 2 つ あ る と 考 え ら れ る 。1 つ 目 の 理 由 は シ ナ ジ ー 効 果 で あ る 。シ ナ ジ ー 効 果 と は 、2 つの企業の合併による規模の経済、範囲の経済や技術の獲得などの経済的な相 乗効果を通じて価値を創造することをいう。これがM&Aの根源的な動機であ ると考えられている。シナジー効果により企業価値を増加させ、したがって株 15 主価値も増大させると期待できる。2 つ目の理由が経営改善効果である。これ は企業価値向上の方策を持った経営者チームが、非効率な経営者を株主の協力 のもとに排除し、経営改善を実現することで株主価値を増大するというもので ある。これら 2 つの効果は企業がM&Aを実施する主な理由であり、メリット でもある。しかし、一方で、M&Aにはデメリットも存在する。その 1 つが企 20 業 同 士 の 融 合 に 失 敗 す る 可 能 性 で あ る 。買 収 企 業 と 被 買 収 企 業 が 統 合 す る 際 に 、 例えば社風や経営システム、雇用体制といった企業の文化や風習が 2 社間で著 しく異なると、円滑に 1 つの企業へ融合することができない場合がある。その 結果、想定していたようなシナジー効果を生むことができず、M&Aが失敗に 終 わ っ て し ま う の で あ る 。さ ら に 、M & A 実 施 の 際 に 、実 際 の 価 値 以 上 の 対 価 25 を支払ってしまう可能性もデメリットとして挙げられる。M&Aの当事者間に 情報の非対称性が存在すると、買収企業は被買収企業の企業価値や発生するで あろうシナジー効果の算定を誤ることがある。結果として買収企業はM&Aに よる企業価値向上分を上回る対価を支払い、逆に企業価値を低下させる可能性 があるのである。 30 8 表 3 M&A解消件数の推移(雑誌MARRより引用) 5 この表からM&Aの解消は年々減少している傾向が読み取ることができる。 また、いずれの年においても国内企業同士のM&Aの解消が大部分を占めてい ることが読み取れる。 9 表 4 M&A目的別分類の推移(雑誌MARRより引用) 5 こ の 表 か ら は M & A の 目 的 が 2013 年 ま で は 、既 存 強 化 の パ ー セ ン ト が 大 部 分 を 占 め て い た が 、2014 年 か ら は バ イ ア ウ ト・投 資 の 目 的 の パ ー セ ン ト が 上 が っ ていることが読み取れる。 10 サンプルとして、日本電産のM&Aの実績と株価の推移を比べてみる。 5 表 5 日 本 電 産 の M & A 実 績( M & A 戦 略 の ケ ー ス・ス タ デ ィ 文 堂 /坂 本 より引用) 11 2008 表 6 ミ ネ ベ ア 、 マ ブ チ モ ー タ ー 、 TOPIX と 比 較 し た 日 本 電 産 の 株 価 の 推 移 ( M & A 戦 略 の ケ ー ス ・ ス タ デ ィ 文 堂 /坂 本 2008 よ り 引 用 ) 5 これらの図表から、M&Aが日本電産にどのような影響を与えたかが読み取 れる。日本電産は数多くのM&Aを行っている。これらのM&Aをしたことに より、日本電産の株価は上昇していることが分かる。このことから、M&Aは 企業の株価を上昇させるために有効な手段であり、成功すればこれほどまでに 10 株価が上昇することは企業側からしても魅力であり、メリットである。M&A の現状としては、このような企業の変化もみられる。 12 1.3 M&A の 動 向 2013 年 の 日 本 企 業 が 当 事 者 と な る M&A 件 数 は 2048 件 で 、 12 年 の 1848 件 と 比 べ て 200 件 、 10.8%増 と な り 2 年 連 続 で 増 加 、 2008 年 以 来 の 2000 件 超 え 5 と な っ た 。 一 方 金 額 は 8 兆 4597 億 円 と な っ た 前 年 比 3 兆 5033 億 円 、 29・ 3% の 減 少 と な っ た 。IN-IN の 件 数 は 2 年 連 続 で 増 加 し 、ま た OUT-IN の 件 数 も 増 加 と な っ て い る 。 し か し 一 方 、 IN-OUT の 件 数 は 499 件 と な り 前 年 比 3.1% 減 と な っ た 。日 本 企 業 に 対 す る 投 資 会 社 の M&A は 233 件 で 、前 年 比 95 件 、68.8% の 大 幅 増 と な っ た 。こ の う ち IN-IN は 201 件 で 前 年 比 81.1%増 で あ り 、OUT-IN 10 も 32 件 、同 18.5%増 で あ っ た 。一 方 で 、金 額 は 4700 億 円 で 前 年 比 18.3%減 と なった。 次 に 上 場 し て い る 企 業 が 売 り 手 (被 買 収 企 業 )と な る M&A 動 向 に つ い て は 、 1997 年 ま で 2 桁 台 で 推 移 し て い た が 、1998 年 に 103 件 と 初 め て 100 件 台 に の せ た 。 1999 年 に は 198 件 と 倍 増 し 、 そ の 後 も 2000 年 215 件 、 2001 年 260 件 15 2002 年 325 件 と 徐 々 に 増 加 し て い き 、2005 年 に は 651 件 と 総 件 数 に 占 め る 割 合 は 23.9% と 2 割 を 超 え た 。し か し 、そ の 後 は 、リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク に よ る 投 資ファンドの停滞や景気悪化に伴う先行き不透明感などを背景に徐々に減少し、 2011 年 は 東 日 本 大 震 災 の 影 響 も あ っ て 309 件 ま で 落 ち 込 ん だ 。2012 年 に は 330 件 と 増 加 に 転 じ 、特 に 、電 機 業 界 で 救 済 型 の M&A が 目 立 っ た 。2013 年 は 305 20 件 と 再 び 減 少 し た 。今 年 は 5 月 ま で で 、154 件 と 前 年 同 期 の 126 件 か ら 22.2% の 増 加 と な っ た 。 154 件 の 買 い 手 ( 買 収 企 業 ) は 事 業 会 社 が 129 件 、 投 資 会 社 25 件 で 事 業 会 社 が 8 割 超 え を 占 め て い る 。形 態 別 で は 、 「事業譲渡」 「出資拡大」 がほぼ倍増している。5 月に入って、持株会社設立による経営統合などの「合 併 」 案 件 や TOB に よ る 「 買 収 」 案 件 が 増 え る な ど 、 国 内 市 場 も 活 性 化 し て き 25 ている。 30 13 表 7 M&A件数とM&A金額の推移(雑誌MARRより引用) 14 M & A の 件 数 は 2006 年 以 降 減 少 し て い き 、 2011 年 以 降 か ら は 再 び 上 昇 傾 向 に あ る 。 M & A の 金 額 は 、 1998 年 よ り も 2 倍 の 数 値 と な っ て い る 。 5 表 8 2009 年 以 降 の マ ー ケ ッ ト 別 M & A 金 額 の 推 移 ( 雑 誌 M A R R よ り 引 用 ) 15 表 9 M&A金額の推移(雑誌MARRより引用) I N -I N 、 I N -O U T の M & A 金 額 は 2012 年 以 降 減 少 し て い る 。 5 1.4 研究の目的 本研究では、日本市場の活性化として新興市場のM&Aが寄与するかどうか の確認を目的として分析し、また私達が特に株価変動に影響を与えていると考 えている企業同士の合併・買収に絞り、ジャスダックに上場している銘柄の中 で合併・買収を行った企業を分析対象とする。そして、合併・買収が株価変動 10 に影響を与えているかどうかを分析し、また、M&Aは日本の証券市場の活性 化に寄与するのかどうかを分析していくことを目的とする。 15 16 1.5 本論文の構成 本 論 文 で は「 企 業 間 で の 合 併・買 収 が 株 価 に 与 え る 影 響 」に つ い て 分 析 を 行 う 。 5 構成は以下の通りである。第 2 章では本論文を研究するにあたって調べた 5 つ の先行研究を分析し、そこから示唆を得る。第 3 章では、検証仮説を立てる。 第 4 章 で は 、 ジ ャ ス ダ ッ ク に 上 場 し て い る 企 業 の 2009 年 1 月 か ら 2014 年 11 月 ま で の 6 年 間 の 間 に 合 併・買 収 を 行 っ た 企 業 の 前 後 21 日 の 株 価 を 比 較 し 検 証 する。第 5 章ではその結果をもとに企業間での買収、合併が株価の変動に深く 10 関わっているのかを考察する。第 6 章では、まとめとして結論を述べる。 第 2章 先行研究 本章では関係する先行研究 5 本につき概要を記す。 15 2.1 株価データと新聞記事からのマイニング ( 小 川 /渡 部 2001) 1) 目 的 株価データと新聞記事からそれらの間の関連牲の自動抽出を試みている。次の 2 つの相補的な視点から分析している。 ①新聞記事の株価変動への影響分析 20 ②あるテーマの新聞記事が株価変動に一般にどのような影響を与えるか 2) 分 析 対 象 分 析 カ テ ゴ リ ー 対 象 と し て の サ ン プ ル 数 158 件 で あ り 、 す べ て の サ ン プ ル を 分 析 対 象 と す る 。 電 気 メ ー カ 4 社 ( 日 立 , 東 芝 , NEC , 富 士 通 ) に つ い て 株 価 25 上昇に関連性の高い新聞記事のテーマを求める。 3) 分 析 手 法 最大エントロピー法 30 4) 分 析 方 法 17 大きな株価変動の要因の分析を新聞記事のテーマを用いて行う。これにより, どのようなことが要因で株価変動がもたらされるかが分かり,これを進めるこ とで新聞記事を用いた株価変動の予測にもつながるものと期待している。具体 的な手順は以下のとおり。 5 ①複数銘柄の比較による株価変動の抽出を行う ②価変動を抽出する単位期間を変更することで,異なる視点での変動抽出を行 う 5)分 析 結 果 10 単位期間 1 週間の場合の株価上昇と関連性の高い新聞記事のテーマとして、 〈 特 許・商 標 〉や〈 新 株 発 行・社 債 発 行 〉な ど が あ る と の こ と 。単 位 期 間 1 ヶ 月 の 場 合 の 株 価 上 昇 と 関 連 性 の 高 い 新 聞 記 事 の テ ー マ と し て は 、〈 合 弁・提 携 〉 な ど が あ る 。 こ れ ら の テ ー マ が 関 連 し て い る ニ ュ ー ス は 、よ り 長 期 的 な 影 響 力 を 持 つ も の と 考 え ら れ る 。ク ラ ス 上 昇 に お い て〈 合 併・買 収( M & A )〉, 〈合弁・ 15 提 携 〉と い っ た テ ー マ が 上 位 に 出 現 し て い る 。こ れ は 、 〈 合 併・買 収( M & A )〉, 〈合弁・提携〉の記事すべてが株価上昇に関連するわけではないが、それらの 記事の中には大きな株価上昇の要因となるものがある、ということを示してい る。 20 6)ま と め 〈 合 併 ・ 買 収 ( M & A )〉 は ク ラ ス 【 上 昇 】 の 確 率 が 最 も 大 き く ,【 上 昇 】 の 特徴テーマといってよいと考えられる。 7)示 唆 25 新聞記事では合併・買収の記事の中には大きな株価上昇の要因となるものがあ るという示唆を得ることができた。 8)課 題 この論文では対象の企業が 4 社とサンプルが非常少ないので、サンプル数を増 30 やした分析が必要となる。 18 2.2 合 併 の 株 価 効 果 と 合 併 オ プ シ ョ ン 価 値 ・ シ ナ ジ ー 効 果 価 値 の 関 係 に つ い て の実証分析 ( 大 川 /馬 2010) 1) 目 的 5 合併取引そのものに対する株価市場の反応の観測とその要因を分析する。 2) 分 析 対 象 分 析 に 使 用 し た サ ン プ ル は 1988 年 1 月 1 日 か ら 2005 年 12 月 31 日 ま で に 発 表 さ れ た 合 併 で 、 か つ 、 2006 年 12 月 31 日 ま で の 期 間 に 取 引 が 終 了 し た 上 10 場 企 業 同 士 の 合 併 を サ ン プ ル と し た 。 分 析 サ ン プ ル は 66 件 で そ の 内 、 グ ル ー プ 企 業 同 士 の 合 併 が 31 件 、 非 グ ル ー プ 企 業 同 士 の 合 併 が 35 件 で あ る 。 3) 分 析 手 法 イベントスタディ 15 4) 分 析 方 法 イベントスタディによる合併の株価効果を検証し、合併の株価効果を合併オ プション価値とシナジー効果価値により分析し、またそれをグループ企業同士 の合併と非グループ企業同士の合併に分けて分析する。 20 5) 結 果 アナウンスメント効果は、グループ企業同士の合併より非グループ企業同士の 合併に大きな影響を与えることが確認できた。 25 30 19 表 10 M & A 、グ ル ー プ 内 M & A と 子 会 社 株 式 取 得 の 件 数 合 計( 雑 誌 M A R R より引用) 5 10 20 表 11 M & A 、グ ル ー プ 内 M & A と 子 会 社 株 式 取 得 の 金 額 合 計( 雑 誌 M A R R より引用) 5 6) ま と め ①イベントスタディによる分析の結果 合併のアナウンスメントに対して、株式市場は統計的有意な正の反応を示し ていることが確認できた。またその中でも、非グループ企業同士の合併の方が グループ企業同士の合併よりも反応が大きかった。 10 ② 合 併 オ プ シ ョ ン 価 値 、シ ナ ジ ー 効 果 価 値 が 合 併 ア ナ ウ ン ス メ ン ト に 対 し て 影 響を与えているかの分析の結果 シナジー効果価値はアナウンスメント効果に対しては統計的有意な影響を与え ていないが、非グループ企業同士の合併においては合併オプション価値とアナ ウンスメント効果の間には統計的有意な影響があることが確認できた。 15 21 7) 示 唆 この論文では新設合併・吸収合併の差異、持株会社形態など合併形態の違い による経済効果の差異について触れられていなかった。 8) 課 題 5 この論文で使われているデータの使用期間でM&Aに関し商法の大きな改正 が行われている。その制度改正が合併に与える影響について、さらに分析を深 めることが今後の課題である。 2.3 10 日本のM&Aの課題~M&Aが効率的な経営戦略になるには 大 谷 /大 原 /久 保 田 /後 藤 /戸 田 (辻 /安 藤 / 2009) 1)目 的 日本企業のM&Aの問題点を探し、改善点を指摘する。 2)分 析 対 象 15 海外の制度・習慣などの影響を受けない日本企業同士のM&Aのうち、電機業 界 の 149 件 を 分 析 対 象 と す る 3)分 析 手 法 TFPの対数値、労働生産性の対数値、ROA、従業員数の対数値、回帰分析 20 を用いたモデル式 4)分 析 方 法 T F P の 対 数 値 、労 働 生 産 性 の 対 数 値 が ど の よ う な 影 響 を 与 え る か を 分 析 し た 。 25 5)結 果 分析の結果、M&Aによる企業収益の拡大は、①統合が新たな経済的価値、 ②他社からの所得移転によってM&A当事者が利益を得ることがわかった。ま た、日本独自の問題点は、①合併の拒否感と過剰防衛、②効率化を阻む雇用の 問題の 2 点である。そして、実証分析の結果を受け、強引ともいえる 2 つの政 30 策 提 言 を 行 っ た が 、現 在 日 本 で の 常 識 と な っ て い る 部 分 、 「買収防衛策は存在し 22 て 当 た り 前 」、「 解 雇 は 基 本 的 に あ り え な い 」 を 否 定 す る 提 言 と な っ た 。 効 率 的 な人員整理として、許可制で解雇を可能にするという提案は、近年崩壊しつつ ある終身雇用制から考えても流動的な労働市場を作り出し、将来的には解雇の 許可などなくても再就職が一般的になる可能性がある。 5 6)ま と め 買収防衛策はコスト負担であり、迅速なM&Aの障害である。これをやめ、 買収に対する緊張感をもって企業価値を高めて株価を上げることが経済全体に よって最も良い影響を与える。 10 7) 示 唆 M&Aの大きな問題点の一つに人事問題を挙げているが、M&Aに失敗しない 政策としてそこまで重要であるか疑問である。 欧米と日本を比較して提案し、欧米を基本として提案をしているので、日本独 15 自の政策はないだろうか。ビジネス面での提案がなかった。 8) 課 題 日本独自のM&Aの効率的な経営戦略とビジネス面での提案を探ることが課題 である。 20 2.4 M&Aの株価効果と取引形態 (井 上 /加 藤 2006) 1)目 的 特 に 1990 年 代 終 わ り に ス タ ー ト し た M & A ブ ー ム を 株 主 価 値 の 視 点 で 評 価 する。M&Aの取引形態の選択が株主価値に与える影響を明らかにする。 25 2) 分 析 対 象 1990 年 4 月 か ら 2002 年 4 月 1 日 を 取 引 完 了 日 と す る 上 場 企 業 間 の M & A 137 取引 30 3) 分 析 手 法 23 市場調整収益率 4) 分 析 方 法 市場調整収益率による株主超過リターンを行い、M&Aにおける買収企業、買 5 収対象企業のそれぞれの株価効果を分析する 5)結 果 ① 1990 年 ~ 2002 年 ま で の 期 間 の M&A を と お し て み る と 、 日 本 の 上 場 企 業 間 の M&A は 全 体 と し て 株 式 価 値 創 造 に つ な が る が 、 創 造 さ れ る 価 値 の 大 半 は 、 買 収 10 対象企業の株主が得ている。 ②株式移転と株式交換の方が大きな株主価値の増大に結びつく傾向がある。 6) ま と め 1990 年 4 月 ~ 1999 年 3 月 の 期 間 に 取 引 完 了 し た M & A は 全 体 と し て 買 収 企 業 と 15 買 収 対 象 企 業 の い ず れ の 株 主 価 値 の 増 大 に も 貢 献 し て い な い 。 一 方 、 1999 年 4 月以降のM&Aブームの中の取引については平均して株主価値を増大しており、 株主の視点で見て同時期のM&Aブームの経済合理性を支持する。 7) 示 唆 20 ①日本における買収対象企業の株主の超過リターンは米国のM&Aに比較して 大幅に小さい。 ② 現 時 点 で は 、1999 年 の 商 法 改 正 に よ っ て 取 引 形 態 の 選 択 肢 が 増 え 、企 業 に と って取引の目的と性格に合致した。取引形態を選択する余地が広がったことが 取 引 コ ス ト の 低 減 に つ な が り 、1990 年 代 後 半 の 株 価 効 果 改 善 の 一 因 に な っ て い 25 る。 8) 課 題 持株会社や完全子会社などの取引後の組織体制の優位性に基づく可能性がある が 、 そ の 検 証 に は さ ら に 拡 大 し た サ ン プ ル に よ る 分 析 が 必 要 。」 30 24 2.5 M & A は 買 収 企 業 の 企 業 価 値 を 高 め る か (小 林 /杉 原 /福 田 /松 本 /溝 上 2010) 5 1)目 的 ①M&Aが買収企業の企業価値に長期的に与える影響を明らかにすること ②M&Aの成果を左右する要因を検証すること 2)分 析 対 象 10 M A A R に 記 載 さ れ て い る 2002 年 9 月 ~ 2007 年 1 月 末 ま で の M & A の う ち 、 東 証 一 部 上 場 企 業 に よ る 222 件 の サ ン プ ル を 分 析 対 象 と す る 。 3)分 析 手 法 イベントスタディ、パフォーマンススタディ、重回帰分析を実施した。 15 4)分 析 方 法 イ ベ ン ト ス タ デ ィ:M & A 実 施 後 3 年 間 の 株 価 効 果 を 検 証( 2002 年 9 月 ~ 2007 年 1 月までに実施されたM&Aが対象) パフォーマンススタディ:イベントスタディで検証した 3 年間よりさらに長期 20 の 5 年間の業績の推移を調査 重回帰分析:どんな要因がM&Aの効果に影響を与えるか 5)結 果 ① M & A 実 施 企 業 の 3 年 間 で の C A R ,B H A R は そ れ ぞ れ + 11.5% 、+ 17.3% 25 と な り 、両 者 と も 1%水 準 で 有 意 で あ っ た こ と か ら 、M & A に よ り 買 収 企 業 の 企 業価値が上昇していることが判明 ②イベントスタディの結果はパフォーマンススタディにおいても支持された ③両分析を通し、M&Aは買収企業の企業価値を上昇させ、戦略として有効で あるという結論に至った 30 ③ 回 帰 分 析 に よ り 、M & A の 形 態 で は グ ル ー プ 内 M & A と 資 本 提 携 型 M & A が 25 長期的に買収企業の価値をより高めていると判明 6)ま と め 買収後の企業パフォーマンスも向上していた。また、M&Aは買収企業の企業 5 価値を上昇させ、戦略として有効であるという結論に至った。M&Aの形態で はグループ内M&Aと資本提携型M&Aが長期的に買収企業の価値をより高め ていると判明した。 7)示 唆 10 近年、M&Aは存在感を増しているが、メリット、デメリットの両方が存在す る。メリットとしてシナジー効果によって企業及び株主価値が増大しており、 デメリットとしては企業同士の融合に失敗する可能性を挙げている。シナジー 効果によって、企業及び株主価値が増大している。 15 8)課 題 パフォーマンススタディの 5 年間という期間は十分でない可能性がある。また 重回帰分析で示したM&Aのパフォーマンスを左右する要因については、説明 変数のさらなる吟味が必要である。 20 2.6 先 行 研 究 の 示 唆 と 課 題 これら 5 つの先行研究から、新聞記事では合併・買収の記事すべてが株価上 昇に関連するわけではないが、それらの記事の中には大きな株価上昇の要因と な る も の が あ る こ と が わ か っ た 。合 併・買 収 の 記 事 は 上 昇 の 確 率 が 最 も 大 き く , 上昇の特徴テーマといってよいと考えられる。シナジー効果については、アナ 25 ウンスメント効果に対して有意な影響を与えていないが、非グループ企業同士 の合併において合併オプション価値とアナウンスメント効果の間には有意な影 響があることが確認された。買収防衛策については、コスト負担であるととも に迅速なM&Aの障害であることがわかった。これをやめ、買収に対する緊張 感をもって企業価値を高めて株価を上げることが経済全体によって最も良い影 30 響 を 与 え る と 考 え ら れ る 。ま た 、1990 年 ~ 2002 年 ま で の 期 間 の M & A に つ い て 26 は、日本の上場企業間のM&Aは全体として株式価値創造につながるが、創造 される価値の大半は、買収対象企業の株主が得ている。そして、株式移転と株 式交換の方が大きな株主価値の増大に結びつく傾向があることがわかった。以 上のことから、M&Aが株価に影響を与える要因は多くあることが分かった。 5 課題として、先行研究は大企業を含む全上場企業を対象としたものがほとんど で、成長途上の新興企業の企業価値向上においても、M&Aが有効か定かでな い 10 第 3章 検証仮説 企業がM&Aを発表することによって、買収企業の株価が上昇するという仮 説 を 立 て 、 M & A 発 表 前 後 21 日 の 株 価 を 分 析 し た 。 15 第 4章 研究方法 本 研 究 で は 、 Qicia 社 の Astra Manager を 使 っ て 、 ジ ャ ス ダ ッ ク に 上 場 し て 20 い る 企 業 を 分 析 対 象 と し て い る 。分 析 期 間 は 、2009 年 1 月 か ら 2014 年 11 月 ま で の 6 年 間 で あ る 。M & A を し た 日 の 前 後 10 日 の RR【 raw return】か ら TOPIX を 引 い た も の を AR【 abnormal return】 を 出 し た 。 具 体 的 な 計 算 式 は (1)(2)に 示 す 通 り で あ る 。 25 (1) RR=( 当 日 の 株 価 ÷前 日 の 株 価 - 1 ) ×100 (2) AR=RR- (( 当 日 の TOPIX÷前 日 の TOPIX) - 1) ×100 27 表12 M & A 公 表 日 前 後 20 日 の AR day AR t 統計量 p値 -10 0.132699 0.7734 0.4398 -9 0.171439 0.8484 0.3968 -8 0.238201 1.3046 0.1929 -7 0.216019 1.1211 0.263 -6 0.157654 0.8177 0.4141 -5 -0.12126 -0.6143 0.5394 -4 -0.10212 -0.6093 0.5428 -3 0.214107 1.0829 0.2796 -2 0.131346 0.6819 0.4958 -1 0.202958 1.0863 0.2781 0 0.712701 2.6276 0.009 *** 1 0.888262 2.7695 0.0059 *** 2 -0.15037 -0.6276 0.5307 3 0.561159 2.1931 0.029 4 0.315827 1.3754 0.1699 5 0.084972 0.5413 0.5887 6 0.073196 0.4386 0.6612 7 0.101859 0.5183 0.6046 8 -0.10328 -0.5647 0.5727 9 0.233462 1.3395 0.1813 10 -0.09627 -0.5511 0.5819 ** 注 )M & A を 行 っ た 買 収 企 業 375 社 の 超 過 収 益 率 ( AR)の 平 均 値 を 現 し た 表 で あ る 。 * * * は 1 % 水 準 、 * * は 5 % 水 準 で 有 意 な こ と を 示 す 。 day は 公 表 日 を 基 準 と し た 相 対 日 。各 日 の AR は 0 を 帰 無 仮 説 と し た t 検 定 を 行 っ て お り 、結 果 5 をそれぞれ示している。 M & A を 発 表 す る こ と に よ っ て 公 表 日 と そ の 翌 日 で 約 1.6% の 超 過 リ タ ー ン が 得られるという結果が得られた。 28 表 13 M & A 公 表 日 前 後 の CAR の 推 移 CAR 4.5 4 3.5 CAR 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 注 ) 買 収 企 業 375 社 の 公 表 日 か ら の 前 後 21 日 の 累 積 超 過 収 益 率 ( CAR)の 平 均 値 を グ ラ フ に し た も の 横 軸 は 公 表 日 を 基 準 と し た 相 対 日 、 縦 軸 は 5 CARを示す。CARがM&A公表日以前より上昇していることがわかる。 29 第 5章 結果 分析の結果、企業がM&Aを発表することによって公表日とその翌日で、 1.6% 上 昇 す る と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 こ の 結 果 は 有 意 で あ る 。 こ の こ と か ら 、 5 本研究で仮説した、企業がM&Aを発表することによって買収企業の株価は上 昇する。つまり、M&Aが日本の証券市場の活性化に寄与するという結果が得 られた。 第 6章 10 まとめ 本研究から以下のことがわかった。 ・買収企業がM&Aをすると株価は上昇する。 ・M&Aは企業の株価政策として有効である。 ・ 結 果 は 有 意 で あ る が 、 1.6% と い う 微 々 た る 上 昇 で あ っ た これらのことから、M&Aは買収企業の株価を上昇するためには有効であるこ 15 とがわかり、新興市場におけるM&Aは買収企業のリターンの向上を通して、 結果的に日本の証券市場の活性化にも寄与しているという結果を得られた。し かし、更に大きなリターンを得るためには他の要因も影響していると考える。 今後の課題としてはサンプル数を増やし、更なる理解を深めることが必要であ る 。ま た 、今 回 は サ ン プ ル を 買 収 企 業 に 絞 っ た が 、M & A の 効 果 を 調 べ る に は 、 20 被買収企業のデータも必要である。そして、M&Aが企業の株価政策として更 なる発展をしていくことが望まれる。 25 30 30 参考文献 【1】 M&Aは買収企業の企業価値を高めるか ~長期的定量分析によるアプ ローチ~ ( 小 林 )( 杉 原 )( 福 田 )( 松 )( 溝 上 ) 2010 年 【2】合併の株価効果と合併オプション価値・シナジー効果価値の関係につい 5 ての実証分析 ( 大 川 )( 馬 ) 【3】株価データと新聞記事からのマイニング 【4】M&Aと株価 第 5 章 【5】日本のM&Aの課題 ( 小 川 )( 渡 部 ) M&Aの株価効果と取引形態(井上) ~M&Aが効率的な経営戦略になるには~ ( 辻 )( 安 藤 )( 大 谷 )( 大 原 )( 久 保 田 )( 後 藤 )( 戸 田 ) 2009 年 12 月 10 【6】MARR レコフ社 【 7 】 M & A 戦 略 の ケ ー ス ・ ス タ デ ィ ( 文 堂 /坂 本 ) 2008 年 15 31
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