ハクサイの雑種強勢の分子機構の解明を目指して(PDF

平成23年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ)
殿
申
請 者
所 属
自然科学系• 農学部
代表者氏名
藤本 龍
本年度、交付を受けたプロジェクト推進経費について、現時点までの研究の進行状況等を報告し
ます。
プロジェクトの種目:推奨研究
プロジェクトの課題:ハクサイの雑種強勢の分子機構を目指して
プロジェクトの代表者:所属 自然科学系 職名 助教 氏名 藤本 龍
分担者 0 名
プロジェクトの成果:
動物、植物において、同一種内のある組合せの両親間の交雑により得られた F1 雑種個体が、両親
の特性よりも優れた形質を示す雑種強勢 (ヘテローシス)という現象が知られている。この雑種強勢
の特性を活かした品種育成 (一代雑種品種)が行われ、高収量品種の育成に成功している。これらの
品種育成には両親系統の選抜が重要である。両親系統は、育種家が、たくさんの組合せ交配を試し、
得られた F1 雑種の収量等の後代検定による評価を行うことで選抜されており、両親系統の選抜には
時間がかかる。また、最良の雑種強勢を示す両親系統の選抜では、育種家の経験と勘によるところ
が大きく、雑種強勢の分子機構は未だほとんど明らかとなっていない。
本研究では、アブラナ科植物のハクサイを用いる。ハクサイは、品種育成において雑種強勢が優
先項目となっていることから、雑種強勢の研究材料として適している。さらに、今年の 8 月にハク
サイが属する Brassica rapa の全ゲノム塩基配列が公開されたことから、今後、B. rapa において、
分子生物学的な研究を行う環境が飛躍的に発展すると考えられ、分子生物学的なアプローチを行う
にはまさに最適なタイミングである。申請者は、雑種強勢の分子機構の解明を目指し、(1) ハクサイ
の雑種強勢の詳細な表現型の解析及び、(2)両親系統と F1 雑種において、発現が変化する遺伝子の特
定、の 2 つの研究を現在進めている。
(1) ハクサイの雑種強勢の詳細な表現型の解析
ハクサイでは、育種過程において雑種強勢は、重要な目標形質とされていることから、商業的に販売さ
れている F1 雑種品種が、両親系統に比べて、高い収量を示す。しかし、具体的にどのような形質変化が、
収量増に繋がるのか明らかでない。本プロジェクトでは、渡辺採種場(株)により提供を受けた、2 種類
の F1 雑種品種 (W39、W77)とそれらの両親系統を用いて、雑種強勢の初期生育の表現型を詳細に解
析し、さらにほ場レベルでの雑種強勢の表現型を調べた。
種子の大きさは、50 粒重を指標に用いて調べた。W39 では、F1 の 50 粒重は両親系統よりも重か
った。一方、W77 においては、50 粒重に両親系統と F1 雑種で違いが見られなかった。よって、少
なくとも W77 においては、種子の段階では雑種強勢が見られないことが分かった。
(注)報告書は2枚程度とする。別紙による場合も同じ。
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次に、播種後 7 日及び、14 日のシュートの新鮮重について調べた。播種後 7 日では、W39、W77
両方で F1 雑種が両親系統に比べて 20%程重くなっていた。また、両親系統間で新鮮重に違いは見
られなかった。播種後 14 日では、W39 では、F1 は両親の平均よりも 10%程重かった。また、両親
系統間では、母親系統の方が重かった。W77 では、F1 は両親の平均に比べ、20%程重く、また、両
親系統間では重さに違いが見られなかった。以上の結果から、W39、W77 の両系統で、播種後 2 週
間で、F1 雑種のシュートにおいて雑種強勢が見られることを明らかにした。本研究成果を、第 120
回日本育種学会 (福井県立大学)にて口頭発表した。
さらに、これら 2 つの系統について、ほ場レベ
ルで収量を調査した。本調査は、宮城県の(株)渡辺
採種場との共同研究で、渡辺採種場の保有するほ
場で行った。W39 と W77 の両系統で、新鮮重を指
標として調べた結果、W39 と W77 の両系統で、顕
著な雑種強勢を確認した (図 1)。さらに、ハクサ
イの高さ、幅、胴回りにおいても F1 雑種が両親系
統よりも全ての項目で上回った。ほ場調査により、
本プロジェクトに用いている両系統が顕著な雑種
強勢を示す系統であることを確認できた。
以上の結果から、特に W77 においては、種子の
大きさでは雑種強勢が見られないが、播種後すぐ
に雑種強勢が現れ、最終的な収量においても顕著
な雑種強勢が現れることを明らかにした。今後は、
複数の生育ステージについて、葉面積や細胞サイ
ズを調べていく予定である。
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(2) 両親系統と F1 雑種において、発現が変化する遺伝子の特定
(1)の表現型解析から、雑種強勢は、播種後数日で顕著に見られることを明らかにしたので、初期
生育に着目し、両親系統と F1 雑種のゲノムワイドな転写パターンを RNA-sequencing 法により比較
した。W77 系統において、5 つの生育ステージ (2、4、6 日後のコチレドン、10、14 日後の第 1、
2 葉)について、トータル RNA を抽出し、ハイスループットシークエンサー (Illumina HiSeqTM 2000)
を用いて塩基配列の決定を行った。塩基配列の決定は、BGI (Beijing Genome Institute)に外注した。
1 サンプルおよそ 500Mbp の塩基配列が決定され、得られた配列情報は、オーストラリアの CSIRO
のバイオインフォマティシャンの協力を得て、B. rapa のリファレンス配列にマップした。転写量は、
遺伝子領域にマップされた塩基配列のリード数で、評価した。このゲノム全体での転写情報を、そ
れぞれ 5 つの生育ステージで F1 雑種と両親系統で比較した。この際に、F1 雑種と両親の平均値と
の比較も行った。現在、データの解析を行っており、どのような機能をもつ遺伝子が F1 雑種におい
て転写が変化する傾向にあるかを調べている。今後はこの、転写情報に基づき、転写の変化と雑種
強勢の表現型との関係性について明らかにしていきたいと考えている。
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
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