国際社会学 第六回 現代アメリカらしさの諸相 PartⅡ 平成26年12月6日(土)10:00~12:00 「アメリカの世紀」から見た太平洋戦争 戦争なき国際秩序の理想と欺瞞 講師:東京外国語大学・大学院教授 金井 光太朗 氏 今回の主題『「アメリカの世紀」から見た太平洋戦争』は、現代アメリカらしさの 諸相を代表する諸相でした。ほとんどの受講生は「太平洋戦争」の体験あるいは戦後 生活の記憶のある人で熱心に聴講されていました。 ヨーロッパ公法の時代(紛争の解決手段として戦争をする。徹底的に潰すわけでは なく、秩序のなかでの戦争であった)から、アメリカの正義の時代に移ってゆく諸相 の話は、第一次世界大戦と第二次世界大戦で完全に「アメリカの世紀」となったとい うこと。やはり「for the people」の正義とイデオロギー戦略で勝利国になると強い。 第一次世界大戦から大量破壊兵器、更に原子爆弾となってきている現代、紛争は今 後も絶えることはないので、戦争での解決は御免蒙りたいが、それにかわるべく解決 手段も見つかっていないのも現状のようである。紛争を解決するための人類の英知が 求められていることを強く感じさせられた講義でした。 今日の受講生37名 ※金井先生、2年間の「アメリカらしさの諸相」大変魅力あるシナリオと講義でし た。今年の若い先生方の講義も大変良かったです。後継者が育っていることも感じら れ、嬉しくなりました。またの機会にも是非宜しくお願い致します。ありがとうござ いました。 以下は、講義風景です。 <講義風景> ※今日の全体レジメ(KeyWord)を、講義の最初にホワイト・ボードへ そして、講義がはじまる。 ←講義の全体レジメ 以下は、講座のレジメです 赤文字は私なりに興味を持ったKeyWordです (1)ヨーロッパ公法秩序に挑戦するモンロー・ドクトリン ① ヨーロッパ公法秩序の承認と正義 交戦団体承認の意味変化 アメリカ: あらゆる(実力ある)交戦者を平等に扱うこと(相手とする) を放棄 古典的ヨーロッパ公法: 相手を正しき敵として扱うこと 公法秩序支える空間秩序は壊さないと認識するゆえに承 認するもの アメリカの承認:世界のどこであれ、何についてであれ是認しうるものと して承認すること 西半球、合衆国はラテンアメリカ独立運動を交戦団体とする、スペインにはア メリカ中立 アメリカ連合国(南部)の問題 南部連合の交戦団体資格を英仏が承認したのはヨーロッパ公法秩序の限 界示す。両広域圏間関係の問題として表れる 西半球の原理 合衆国一体は不滅、正義に反する反乱者の団体承認は重大 問題とする 英:交戦上の諸権利は原理の問題ではない。勢力、規模から交戦者と 取り扱うのが便利、相手としておいた方が便利 交戦の主張が正当か否かは関係せず 米:反乱者としての立場を認めれば力貸すことになる、結局不正義を 後押し、主権国家の一体性を認めよ、そうでないと世界の国々常 に揺らいでしまう ② 防疫ラインとしての西半球 モンロー・ドクトリンの世界観 旧世界の腐敗感染から健康な地を遮断する 新世界こそ真のヨーロッパ、西洋、文明—大地の中心である 道徳、文明、政治の上で西洋はアメリカに移ったとする——アメリカニズム ——ヨーロッパ公法秩序(万国公法)がヨーロッパ空間に特異でなく 外に拡がる前に公法秩序の構造を変えてしまう 社会・政治全体のあり方の問題、精神の問題——共和制・自由の問題で分ける 2月革命——ヨーロッパが自らの中で文明的解決ができないことの証 専制支配に対する市民革命の失敗——フランス第 2 共和制、ドイツ国民会義 ポーランド、ハンガリー⇒自由を追求する個人、アメリカ亡命の波 (2) 第一次世界大戦の衝撃と戦争を終わらせる戦争 ① 総力戦 手段としての戦争の終わり⇒皇位継承者殺害事件の解決が一気に両陣営存亡戦い 戦争の産業化 消耗戦:国家の潜在力の全てを効率よく動員できる現代国家 周辺民族の動員 —ユダヤ系、加・豪、南部黒人、アフリカ、インド、香港 生産能力、行政上の専門官僚、官僚の中央集権、物流交通手段の整備 ⇒格段に高い戦闘能力 ——数ヶ月と思われた戦争が長く激しいものに 主要参戦国、産業大国⇒ 敵が最後の血の一滴を流すまで勝利なし ホームフロント、銃後ではなく前線(フロント) 軍需生産の国家管理 ——資源、設備。労働力の一元管理 女性労働力の動員 ——男性労働者の総動員で女性の労働参加 封鎖と空襲 国家の潜在力を奪うために国民生活の破壊 ——海上封鎖で食料燃料を断つ戦い 無制限潜水艦作戦の応酬 空襲 ——戦場から遠く離れた市民 (女・子供)に対する直接攻撃 ——平等な相手(正しい敵)概念は吹っ飛んでしまう ② 戦争の機械化 兵力動員の肥大化と犠牲の肥大化 仏: 841 万(動員) 英: 890 万 91 万 209 万 露: 1200 万 170 万 495 万 436 万 5 万 21 万 独: 1100 万 181 万 425 万 米: 136 万(戦死) 427 万(負傷) これまでにない多くの兵を投入→できる限り手軽に素早く敵を倒す武器への 依存 戦場の主役として銃剣、騎兵の突撃は退場、戦場は火力が完全に支配 機関銃、戦車、飛行機、さらには毒ガス ——大量破壊兵器の開発 新たな残虐性 ——「敵が倒れるのを見ていた。機関銃の見事な性能に悦に入り 忍び笑いしながら」 ③ 大衆ナショナリズムの戦争 一体感の昂揚 ——開戦の報に隣にいた人と肩抱き合って歓喜 ユダヤ人もドイツ市民として喜びをともにしていた、と言われる 大衆化したナショナリズム 強烈な愛国心をもって政府・軍の指導者を支持 フォッシュ元帥、パーシング将軍への人気、徴兵への応募、リバティボン ドの売上げ 民族的憎悪の激情:蔑称「フン」「ソールズベリ・ステーキ」ドイツ系市 民に暴行 ④ イデオロギーの戦争 宣伝戦 ——思想文化の戦い、国際世論への訴えかけ、メディアは英米仏からの発 信が圧倒 ベルギーの中立を侵犯、ルーヴァン焼き討ち、毒ガス攻撃 ——ドイツの野 蛮非難 国際法違反 イギリス側もドイツと中立国との通商を妨害、無制限で違法な海上封鎖 ドイツ側は無制限潜水艦作戦、民間商船まで無警告で攻撃、ルシタニア号 事件 ——両者、正当性をめぐって争い(いかに相手は非道か)、正しい敵を否定 ⑤ アメリカの安全保障の変化 ウィルソン大統領の理念 自由主義と資本主義が繁栄するような国際秩序にコミット 被治者の同意による政府が単位 ウィルソンのメキシコ干渉 ——理念とのズレ メキシコ革命で ディアス独裁からマデロに交替、 ウェルタの反乱でマデロの殺害 →ウィルソン、 ウェルタ排除目指す、 メキシコ人によい人物を選ぶように教えてやる 戦争を終わらせる戦争←→解決手段としての戦争 アメリカが領土や利害権益を求めて戦争に参加はありえない←→ヨーロ ッパ公法秩序 17 年 4 月宣戦布告——戦争を終わらせる戦争として、野蛮に対して文明を守る、 ウィルソンの 14 ヶ条 秘密外交の廃止、海洋の自由、自由通商、民族自決、軍縮、国際平和 機構創設 戦争は民主主義にとって危険なもの⇒戦争を手段として紛争解決はできない 無制限潜水艦作戦の現実 ——限定された戦争ではありえない →正しい敵は存在しえない,敵対は民主主義を脅かす (3)「アメリカの世紀」の大義と殲滅戦争:第 2 次世界大戦 ① 殲滅戦争 限定なき戦争 戦争の廃絶、そもそもあってはならないもの→どのような戦い方なら許さ れるか、は無意味 侵略戦争を始めた犯罪者を捕まえて処罰するまで戦う、政権と国民との一体化 ナチと sonder weg、日本はサムライ文化、イタリアはバドリオ政権になって も無条件降伏 政権側としても講和はなし、降伏しても名誉ある平和は認められない →相互に自己の全存在をかけて相手の殲滅目指す戦い、大量破壊の努力 必死の抵抗→激戦の連続 マキン・タラワ、レイテ・ルソン、硫黄島、沖縄、(本土上陸) 犠牲者うなぎ登り:硫黄島 米陸軍の死傷者数 日—19900 名 米—6821 名+21865 名(死傷) 43 年前半 20671 名 後半 39546 名 44 年前半 117903 名 後半 360486 名 45 年前半 222360 名 ② 大量破壊兵器 正戦からの必要性 ならず者に対する警察行為→警察の打撃力を強化せよ、正しくない敵には何 を使ってもよい ⇒大量破壊兵器の出現、大量殺戮兵器認めるには正戦観念が必須だった 戦争の犯罪化に伴い、新兵器の開発——第一次大戦、第二次大戦、現代戦争 原子爆弾 究極の大量破壊兵器——都市を一挙に破壊 敵を総体として否定、抹殺、軍閥と一般国民、邪悪な指導者と善良な市民の 区別なし 敵軍ではなく社会を丸ごとなくしてしまう←相手が邪悪だからこそ ③ 無条件降伏 正戦——対等な正しい敵同士の交戦ではない、必ず優劣をつける、優劣が決まって いる 敵を圧倒して懲罰を加えることこそが最終目的→条件付きの降伏では受け 入れられない ⇒完全な武装解除、戦争犯罪の処罰、全国民の再教育まで視野に FDR:「少なからず研究して、ドイツの内外で個人的にも経験を積んだ結果、私は ドイツ人の哲学は法令や軍の命令くらいでは変わらないと確信するに至った。ド イツ人の哲学を変えるには進歩の過程が必要で 60 年くらいかかろう」。 「われわれは日本にも教訓を与えるつもりである。われわれは彼らに裏切 りと欺瞞の代償、それに隣人に盗みを働いた代償を教えてやる意思も能力も有し ている。固い絆で結ばれている同盟国と共同で、われわれは彼らに 2 度と忘れら れないような教訓を与えてやらなければならない。・・・われわれは日本軍国主義 という竜を絞め殺さねばならない」。 軍事裁判 戦争が犯罪であれば法的処罰が当然→戦指導者、人類人道に対する犯罪と して糾弾 勝者が敗者を裁くのであっても優者が劣者を裁くとの構図になる、勝敗は 優劣確認で終了 日本側の反発——日本は敗者なのであって劣者ではない、道徳的に不正 な存在ではない 正非を問うなら、日本国民に対する戦犯の部分は問わずにいいのか ニュールンベルグ裁判 東京裁判 ナチの指導者 12 名処刑 陸軍と広田 7 名処刑、BC 級 920 名処刑、有期刑 3400 名 軍事占領と「再建」 ドイツ 日本 4 カ国占領 52 年まで 7 年の占領、GHQ 戦後改革——武装解除、財閥解体、農地改 革、教育改革、公職追放、憲法制定、自治体警察、神社の民間化、さ らに日米安保条約 以上です。
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