新型汚水用水中ポンプの開発

特 集
風水力機械/汎用ポンプ
新型汚水用水中ポンプの開発
新明和工業株式会社
産機システム事業部 小野工場 設計部
西 泰行 竹部 力
1.はじめに
2.開発機の構造
下水道の普及に伴いマンホールポンプ市場では、
開発した水中ポンプの構造を図 1 に示す。水中ポ
異物通過性能に優れた渦流ポンプが多く採用されて
ンプは、羽根車、ポンプケーシング、メカニカルシ
きた。これは、マンホールポンプ場には一般家庭や
ール、モータなどの主要部品で構成されている。こ
公園などから排出される固形物や繊維質の異物を多
のモータにより、モータ軸に直結された羽根車をポ
く含んだ汚水が流れ込むため、ポンプ効率を重視す
ンプケーシング内で回転させて流体にエネルギーを
るよりもむしろポンプの閉塞によるトラブルを少な
与えている。従って、ポンプ効率を向上させるため
くする必要があったからである。
には、羽根車やポンプケーシングでの水力損失を減
ところが近年、下水道事業予算の削減などにより、
少させ、効率良く流体にエネルギーを与えることが
マンホールポンプ場などを含む下水処理施設で使用
必要となるので、今回当社独自の形状をもつ羽根車
される汚水用水中ポンプにも省エネルギー化や維持
とポンプケーシングを新規に開発した。
管理費の低減が強く望まれるようになり、ポンプの
3.ポンプ性能 高効率化や無閉塞性が求められるようになってき
た。このような背景のもと、当社では高効率と無閉
汚水用水中ポンプに用いられている代表的な羽根
塞性を両立させる水中ポンプの開発に着手し、当社
車のタイプごとの特徴を表 1 に示す。従来、ポンプ
独自の形状をもつ羽根車とポンプケーシングを開発
の異物通過性能は、羽根車の流路面積の大きさで評
することによって、ポンプ効率と異物通過性能の高
価されてきた。そのため、羽根車入口部での逆流や
い水中ポンプを実現した。
流路拡大損失などによりポンプ効率は多少低下する
本稿では、開発機(代表:2.2kW−60Hz)の構造、
が、表 1 に示すように羽根枚数を少なくするとか、
ポンプ性能、異物通過性能などの特徴を中心に紹介
流路面積を大きくした羽根車が採用されている。し
する。
かし、異物などを除去する設備をもたないマンホー
ルポンプ場では、流入する多種多様な異物がポンプ
を閉塞することなく通過できて高いポンプ効率を実
モータ
表1 羽根車のタイプ別特徴
モータ軸
渦流型
メカニカルシール
羽根車
スクリュー型
ノンクロッグ型
羽根形状
長所
羽根車の前面とケーシング
の間に広い空間を設けて
いるため、大きな流路面積
を確保している
短所
羽根車とケーシングの間に 円錐状のハブに 1 枚羽根が 羽根車内の流路面積を
広い空間があるため、
ポンプ 付加された構造であるため、 確保したため、
ポンプ効率
効率が低い
流路面積を確保しにくい
が幾分低い
ポンプケーシング
図1 構造断面図
10 ●「特集」風水力機械/汎用ポンプ
螺旋状の1 枚羽根により、羽 羽根枚数を少なくして羽
根に沿って滑らかに流体を 根車内の流路面積を確
吸込むため、
ポンプ効率が高 保している
い
現するには、流路面積だけでなく新たな方法で異物
機は広範囲の流量域でポンプ効率が従来機よりも大
通過性能を評価し、新しい形状の羽根車を開発する
幅に高くなっている。また、軸動力曲線はリミット
必要があった。そこで、スクリュー型羽根車とノン
ロード特性をもっている。そのため、軸動力はピー
クロッグ型羽根車の特徴に着目した。
ク値以上の流量になると低下するので、大流量域で
スクリュー型羽根車は効率が良いが、円錐状のハ
使用する場合でも過負荷によるポンプの停止が少な
ブに螺旋状の1枚羽根が付加された構造であるので
くなる。
流路面積を確保しにくい。また、オープン型羽根車
4.異物通過性能
であるので耐磨耗性が低く効率が低下しやすいとい
う短所がある。一方、ノンクロッグ型羽根車は流路
試験方法
面積を大きくできる反面、スクリュー型羽根車より
3 項で述べたように、従来の異物通過性能は羽
も一般的に効率が劣るという短所がある。そのため、
根車の流路面積の大きさで評価されることが多
ポンプ効率の良さと流路面積が大きいというそれぞ
く、実際の異物の通過性能を表すものではなかっ
れの長所を併せもつ新型羽根車を開発することにし
た。そこで、今回、ポンプの下方から異物を投入
た。この新型羽根車では、クローズド型ノンクロッ
し、実際の異物での通過率は式(i)で評価した。
グポンプの吸込み流路をつる巻螺旋状にすることに
このときの通過率の判定では、異物が詰まったと
より、軸方向から半径方向に流体を滑らかに導いて
きにポンプを一旦停止させて再起動させることに
水力損失と異物閉塞の低減を試みた。なお、羽根車
よって異物が通過した場合は通過したことにして
内の螺旋状流路はポンプ吐出し口径(80㎜)と同一
いる。但し、再起動は 2 回までとし、2 回再起動
寸法を確保している。このときの新型羽根車の断面
しても通過しなかった場合は不通過とした。また、
を図 2 に、性能曲線を図 3 に示す。開発機ではポン
今回は過酷な状況を想定した異物通過試験とする
プ吐出し口径と同一寸法を確保したにも関わらず、
ために、マンホールポンプ場において特に閉塞が
従来機のノンクロッグ型や渦流型と比較して、全流
問題になっている表 2 に示す異物を対象にした。
量域で揚程が高い。一方、スクリュー型と比較する
なお、タオル(大)はポンプ吐出し口径(80㎜)
と、開発機の流路面積が圧倒的に大きいので、小流
の約10倍の長さである。
量域において若干揚程は低い。しかしながら、開発
軸動力(kW)
3.0
2.2
2.0
1.0
A
全揚程(m)
A
ここで
評価
80
12
60
8
40
4
20
0
0.0
図2 羽根車断面
100
0.5
1.0
1.5
吐出し量(m3/min)
効率(%)
開発機
ノンクロッグ型
渦流型
スクリュー型
16
断面A−A
(i)
通過率:
20
βx
通過
1
再起動 1 回で通過
2/3
再起動 2 回で通過
不通過
1/3
0
N:異物投入回数とする
0
2.0
図3 性能曲線
産業機械 2005.7● 11
表2 異物通過試験に用いた対象物
タオル(小)
タオル(大)
パンスト
生理用品
280×420㎜
34g
380×830㎜
50g
190×960㎜
22g
90×200㎜
5g
外観
サイズ
質量
試験の結果
はいずれの流量比においても通過率は高く、特に
予備実験の結果、ポンプの閉塞は羽根車内の流
流量比が1.0ではその傾向が顕著である。これは、
路で詰まる場合と、羽根車を通過した異物がポン
羽根車内の流路での通過率が向上したことに加え、
プケーシングの舌部に引っ掛かり、その内部で滞
主板、側板背面への異物の回り込みを抑制するた
留し続ける場合に大別されることが分かったの
めのスクリーニング構造の採用やポンプケーシン
で、この 2 種類の評価試験を行った。
グに種々の改良を加えたことによる。中でも、ボ
はじめに、羽根車内の流路での閉塞の評価は開
リュート断面積の拡がりを極力抑えて、巻終わり
発機と従来機を用いて異物通過試験を行った。そ
付近の流速を増大させることで、吐出し口へ異物
の結果を図 4 に示す。図から分かるように、従来
が流れやすくなり異物通過性能は大幅に向上した。
機は流量が小さくなるほど通過率の低下が著しい
が、開発機では流量が小さくても通過率は高い。
即ち、開発機は広範囲の流量域で羽根車内での閉
5.おわりに
開発機の特徴をまとめると次の通りである。
塞がほとんどない。これは、羽根車の吸込み流路
広い流量範囲で効率が良い。
を滑らかなつる巻螺旋状にした効果である。
羽根車内での閉塞はほとんどなく、広い流量
次に、羽根車を含めたポンプケーシングから排
範囲で異物通過性能が優れている。
リミットロード特性をもっているので、大流
出までのポンプ全体としての異物通過試験を行っ
た。その結果を図 5 に示す。図から分かるように、
量域で使用する場合でも過負荷状態になりにく
開発機及び従来機ともに、傾向としては流量が小
い。
さいと通過率が低いが大きくなると通過率が高く
なっている。
どによって、メンテナンス費用が低減し、メン
開発機と従来機の通過率を比較すると、開発機
テナンス作業も容易である。
1.0
1.0
0.8
0.8
0.6
0.6
α通過率
α通過率
羽根車摺動部にウエアリングを設けたことな
0.4
0.2
0.0
0.0
0.4
0.2
開発機
ノンクロッグ型
スクリュー型
0.5
1.0
1.5
Q/Qbep流量比
(Qbep:最高効率点吐出し量)
図4 羽根車の異物通過性
12 ●「特集」風水力機械/汎用ポンプ
2.0
0.0
0.0
開発機
ノンクロッグ型
スクリュー型
0.5
1.0
1.5
Q/Qbep流量比
(Qbep:最高効率点吐出し量)
図5 ポンプ全体の異物通過性
2.0