奥山清行 - PMIコンサルティング

新 連 載
#1
安藤忠雄,奥山清行,三浦知良
#2
#3
#1
安藤忠雄,奥山清行,三浦知良
PMIコンサルティング株式会社 浦山 貴継(監修:PMIコンサルティング 代表取締役社長 辰井伸洋)
第一人者の成長要因とは
を考えたいと思う。
なもののときもあれば,その建築
予定地や建て替え対象となる建築
企業が成長拡大しながら,掲げ
建築家 安藤 忠雄
り,極小地や断崖地など物理的な
たビジョンを達成していくために
は,「人と組織」の成長は絶対に
物を愛する人々の想いのときもあ
まず 1 人目のプロフェッショナ
制約であることもある。
欠くことのできない条件である。
ルは,建築家の安藤忠雄氏。安藤
しかし,安藤氏はそうした人間
だからこそ,今を勝ち抜くための
氏は,打ち放しコンクリートによ
の想いや土地・建物の歴史を含め
人材,次世代を担うための人材を
る住宅や商業建築,また文化施設
て,自分が理想とする姿を描き出
育てようと,企業は時間と費用を
などを手掛け,世界的に高い評価
し,具現化することを追求してい
かけているのだが,思うように人
を得ている建築家として知られて
る。最終的に,その理想が常にク
材が育たないというのが,多くの
いる。また,その経歴もユニーク
ライアントに受け入れられるとは
企業が抱えている悩みだろう。
で,建築を志す前は「プロボクサ
限らない。安藤氏自身,自著『建
その問題解決のヒントを本連載
ー」であったことや,建築家を目
築家 安藤忠雄』の中で,「現実
では,各界,各分野のトップラン
指すにあたり独学で建築を学んだ
の社会で,本気で理想を追い求め
ナーから学んでみたい。どんな世
ことでも有名である。このユニー
ようとすれば,必ず社会と衝突す
界にせよ,第一人者といわれる人
クな経歴や自らの設計事務所を
る。大抵,自分の思うようにはい
には先進性や独自性をはじめ,ト
「ゲリラ集団」と称していること
かず,連戦連敗の日々を送ること
ップの地位を築いたゆえんがあ
もあり,安藤氏に「戦う建築家」
になるだろう。それでも挑戦し続
る。彼らが頭抜けて発揮した力や
というイメージを持たれている方
けるのが建築家という生き方だ。
」
遂行した戦略を,企業人事は今こ
も多いのではないだろうか。
と述べている。
実際,建築家が自らの建築を完
安藤氏は,クライアントや施工
成させるには,まず自身の提案の
業者などと必要な調整は行いなが
価値をクライアントから認めても
らも,決して迎合することなく自
で,第一人者として活躍している
らわなければならない。そして,
らの理想に対する社会的評価を追
プロフェッショナルとして,建築
施工業者や行政など,多くのステ
求し続けてきた結果,多くの建築
家の安藤忠雄氏,工業デザイナー
ークホルダーからの納得,協力も
物を世に送り出してきた。安藤氏
の奥山清行氏,プロサッカー選手
必要となる。また,建築物を造る
にとって,自らの成果に対する
の三浦知良氏を取り上げる。 3 氏
環境にも挑戦し,問題を克服しな
「社会的評価の追求力」が,自分
の成長を支えてきたものは何かを
ければならないこともある。それ
の理想とする建築を実現させる大
紐解きながら,企業が人を育てて
は,例えば周囲の景観やその土地
きなエネルギーであり,建築のプ
いくためには,何をすべきなのか
の歴史というある種の財産のよう
ロフェッショナルとしての成長を
そ参考にすべきときではないだろ
うか。
そこで,今回は企業社会の枠外
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人事マネジメント
2010.9
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浦山貴継(うらやま たかつぐ) PMIコンサルティング株式会社 シニアマネージャ
1977年生まれ。中央大学法学部卒業後,システム開発会社,戦略系コンサルティングファームを経て,2007
年より現職。多様な業種の企業を対象に,人事戦略全般のコンサルティングに携わりつつ,グループ経営戦略
や営業戦略など,組織戦略に関わるプロジェクトにも深く関わり,「人と組織の成長」の実現に貢献している。
#1
安藤忠雄,奥山清行,三浦知良
支えた原動力の 1 つとなっていた
ながらすぐに却下された。当時の
具現化していくための大きなエネ
のである。
上司に必死に食い下がり,与えら
ルギーであり,また後進のデザイ
れたのは15分の猶予。この15分の
ナーを育成する上でも重要な要素
間に,奥山氏はデザインを一から
だと理解していたのである。
工業デザイナー
奥山 清行
作り直し,相手を納得させるだけ
のデザインを生み出した。
2 人目のプロフェッショナル
このときの奥山氏の頭には,過
プロサッカー選手
三浦 知良
は,工業デザイナーの奥山清行
去の膨大なデザインが溢れ出し,
氏。奥山氏は,ゼネラルモーター
この瞬間のために何十年もかけて
3 人目のプロフェッショナル
ズ社,ポルシェ社,ピニンファリ
準備をしてきたのだと感じたとい
は,プロサッカー選手のカズこと
ーナ社を渡り歩き,ピニンファリ
う。まさに,これまで培ってきた
三浦知良氏。三浦氏は,Jリーグ
ーナ社時代にフェラーリ社が創業
知識や経験を総動員して生み出し
の黎明期を支えた人気選手であ
55周年を記念して開発した「エン
た自分のデザインの価値を,相手
り,日本代表のエースとして活躍
ツォ・フェラーリ」のデザインを
に認めさせようというエネルギ
した選手でもある。
担当したことで知られ,カーデザ
ーが大爆発した瞬間だったのだ
イナーとして世界的に高い評価を
ろう。
得ている。
また,ピニンファリーナ社では,
三浦氏にとって,最大の目標は
「日本代表としてワールドカップ
に出場すること」であり,この最
現 在 は , KEN OKUYAMA
デザイン部門の最高責任者を務め
大の目標の実現に向けて,高校を
DESIGN社のCEOを務め,ロボッ
ており,自身が統括するプロジェ
中退し単身ブラジルへ渡り,プロ
トや腕時計,テーマパークなどの
クトには必ず複数のデザイナーを
サッカー選手を目指すところか
デザインを手掛けている他,自ら
参加させ,コンペ形式で競わせる
ら,氏のキャリアはスタートして
立ち上げた山形工房ブランドの家
ことを常としていた。当然,そこ
いる。カズと聞くと,非常に華や
具などを世界に発信している。
にはデザイナー同士の衝突があ
かなイメージを持つ人も多いと思
り,奥山氏とデザイナーの間でも
うが,ブラジル時代は決して順調
ラルモーターズ社では,外国人で
衝突が起きる。しかし,奥山氏は,
だったわけではなく,自分の実力
ある自分の実力を認めてもらうた
自分のデザインや考えを衝突させ
を磨き,それが周囲に認められて
めに,アメリカ人が10枚のスケッ
ることこそが,より良いデザイン
プロになるまで, 4 年間の歳月が
チを描くなら自分は100枚描く,
を生み,かつデザイナーを育てる
かかっている。
と自分を周囲に認めさせるために
のに必要な要素だと捉えている。
膨大なエネルギーを使うことを厭
奥山氏は,何度も繰り返し自分
単身海外へと渡り全く異なる環境
のデザインの価値をクライアント
に自ら乗り込み,レギュラーポジ
そして,そのエネルギーが前述
が認めるまでぶつけていくこと
ションを獲得するために,周り以
の「エンツォ・フェラーリ」のと
で,自分のデザインを世の中に送
上の成果を残し,初めてプロとし
きに大爆発を見せる。最初にフェ
り出してきた。奥山氏にとって,
て認められたのである。
ラーリにプレゼンした 2 年間がか
自らの成果に対する「社会的評価
その後,ブラジル,日本,イタ
りで作り上げたデザインは,残念
の追求力」が,自分のデザインを
リア,クロアチア,オーストラリ
奥山氏は,最初に入社したゼネ
わなかった。
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三浦氏も,前述の奥山氏同様,
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トップランナーに学ぶ人と組織の勝ち残り戦略
アといった国々で,多くのチーム
があったことからも,そのことが
視する傾向が強くなっている。そ
を渡り歩くが,常に自分のベスト
うかがえる。
うなると,自らの仕事の意義や社
会における存在価値等は二の次に
パフォーマンスを発揮し続けるこ
とで,そのチームでの自分のポジ
「社会的評価の追求力」
なり,ただ効率のことだけを優先
する仕事のスタイルが社員に定着
ションを勝ち取り,また自分こそ
が日本代表として相応しいこと
以上 3 名のプロフェッショナル
していく。その結果,社員の視野
を,周囲に認めさせてきたので
に共通していることは,駆け出し
はどんどん狭まり,新たなことに
ある。
の頃から第一人者となった今に至
挑む意識や活力は奪われ,組織も
三浦氏の場合,安藤氏や奥山氏
るまで一貫して,自分自身の仕事
硬直化していく。硬直化した組織
のようなクライアント対自分とい
の成果に対する社会的評価を追求
を抱える企業では,指示命令系統
った特定の相手と対峙する関係と
し続けてきた点である。この社会
が滞るために経営者の意思決定が
は異なるが,自分がプロサッカー
的評価の追求力こそが,プロフェ
浸透せず,社員が経営者の期待す
選手として在り続けるために,そ
ッショナルとしての成長を支えた
る行動を実践しないばかりか,得
して目標を実現するために,周囲
エネルギーとなっていたのは間違
られるはずの成果まで失うことに
の人々が自分を認めるよう,常に
いない。
なる。
自分の実力を示し続けてきた。三
人の成長を支えるエネルギーの
さらには,硬直化した組織では
浦氏にとっても,自分自身の実力
源泉が,自分自身の仕事に対する
組織間の人材流動や情報流通も滞
や存在価値に対する「社会的評価
「社会的評価の追求力」である以
り,社員が習得できる知識・スキ
の追求力」が,プロサッカー選手
上,企業でも「社会的評価の追求
ル・経験は,特定の業務に必要な
としての成長を支える大きなエネ
力」を社員の人材育成に取り込む
ものに偏ってしまう。その結果,
ルギーだったのである。
ことが可能なはずだ。しかし,企
いつしか社員は仕事をする上で
業内ではこれを阻害する要因を抱
「考える」必要がなくなるため,
えているケースが極めて多い。
「考えない社員」となり,新たな
なお,三浦氏からもう一つ学ぶ
べきは,自分自身のピークが過ぎ
ビジネスアイデアを生み出すこと
た後も,高い目標を持ち続け,自
分が目指すポジションを獲得する
2つの阻害要因
も,外部環境の変化に対応するこ
ともできない。これでは,ビジネ
ために,社会的評価を追求し続け
たことである。そして,これが43
阻害要因は大きく 2 つある。 1
スを拡大することは到底不可能で
歳となった今でも,現役であり続
つ目は,個人が自身の仕事の成果
あり,衰退するのをただ待ってい
けられる理由であり,後輩の選手
を社外に対して発表し,社会的評
るのに等しい。
たちが手本としたり,チームの精
価を追求するような業務に関わる
さながら,硬直化した組織を抱
神的支柱となったりしている理由
チャンスがほとんどないことで
える企業とは,多くの「血栓」が
である。実現することはなかった
ある。
できた人体のようなもので,放置
が,2010年のワールドカップ南ア
多くの場合,企業にとって優先
し続ければ「脳梗塞」や「心筋梗
フリカ大会において,複数の代表
されるべきは利益の確保と増大に
塞」といった死の病を罹患する。
選手から三浦氏がサポートメンバ
ある。そのため,ムダを省き,よ
ーとして帯同することを望む発言
り効率的に仕事をすることを重要
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人事マネジメント
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そして,
もう 1 つの阻害要因は,
「社会的評価の追求力」を発揮で
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安藤忠雄,奥山清行,三浦知良
きない経営層や管理職層の存在で
が継続的に行われていれば,そこ
レンジングな仕事を望む部下や新
ある。残念なことに自分の任期を
で社員は「社会的評価の追求力」
たな取り組み等を提案してくる部
無難に過ごそうとか,自分たちが
を身につけ,成長していく。そし
下に対して,現在の業務が大事で
満足できる結果さえあればよいと
て,社会的評価を獲得する業務経
あると諭したりしていないか。そ
考える者は少なくない。組織をリ
験を積み,成長を遂げた社員が現
れがたとえ良かれと思ってしたこ
ードする立場にあって,こうした
場に戻ったとき,その組織の成長
とでも実は部下のチャンスを奪っ
考え方は一切不要である。邪魔を
エンジンとして活躍することだ
ていることに気がついているだろ
しなければいい,という声も聞こ
ろう。
うか。もし,このようなことをし
ているとしたら,あなたが抱える
えてきそうだが,不健全な意識な
このように,人と組織の双方が
どのマイナスのエネルギーは,必
成長していく流れを社内につくる
ず部下や組織に悪影響を与える。
ことが,
「人と組織」が競争の中で
まずあなたが,自分から行動で
彼らの自己改善に期待したいとこ
勝ち残っていくことにつながる。
きるよう自己改革を行い,自らの
仕事の成果を世に問いかけてい
ろだが,
これはほぼ妄想に終わる。
残念ながらそういった経営者や管
「人と組織」の成長はありえない。
行動しながら次を目指す
く,プロフェッショナルなビジネ
スパーソンであることを周囲に示
理職には,席を外していただくし
人材マネジメントの本質は,人
さねばならない。その上で,前掲
を通して企業価値を高めることに
の 3 名のプロフェッショナルを参
ある点は言うまでもない。だから
考に,仕事を通じて部下が「社会
こそ「人の成長」と「組織の成長」
的評価の追求力」を養うチャンス
は,常に一つの事象として捉える
を与え,部下を育成していくこと
企業が取るべき「人と組織の勝ち
意識が重要だ。人材マネジメント
が求められる。自らも「社会的評
残り戦略」とは,自社の事業の価
を担う立場にある方が,この意識
価の追求力」を発揮しながら組織
値を社会に問い掛けていくような
を持っていれば,第一段階はクリ
を牽引し,「人と組織」を継続的
取り組みを継続的に行い,その取
アしていると言っていい。しか
に成長させることこそ,人材マ
り組みを自分の仕事に対する社会
し,本当に大事なのは,行動が伴
ネジメントを担う者のあるべき
的評価を獲得していく場として社
っているかどうか,である。
姿だ。
かない。
成長の流れをつくる
前掲の 3 名の経験から紐解く,
員に提供し,育成していくことで
人材マネジメントを担う立場に
ある。ただし,自分たちの事業の
ある方には,自分自身が前述の
PMIコンサルティング株式会社
価値を社会に問う以上,事業とは
「2つの阻害要因」となっていない
離れた環境保護といったものでは
か,問い直してもらいたい。高い
なく,あくまでも自分たちの事業
目標に挑戦することや未経験の事
企業の成長戦略を描くことにとどま
らず,「人と組織」の問題にダイレ
クトに踏み込むコンサルティングを
提供しています。
が生み出す成果や社会に提供でき
業やプロジェクトに参画すること
る価値を問うものでなければ意味
に対して躊躇したり,現在の従事
がない。
している仕事に注力することや忙
自らの事業の価値を世の中に発
しいことを理由に消極的になって
信し,評価を問うような取り組み
いたりしていないか。また,チャ
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