変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり 特 集 変化に対応しながら元気を取り戻す「人と組織」の風土づくり 株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー 東 條 茂 樹 仕事を 「こなす」 だけで精一杯の組織構造の中で、 疲弊している組織人も少なくない。 人と人と のつながりを大切にしながら仕事に取り組む中で、 個人が成長し、 また、 組織の可能性も高められ ていく。 本稿では、 「変化対応力」 に着目し、 オフサイトミーティングなど、 組織における取組事例 の紹介を交えて、 組織風土づくりの一つの在り方について探る。 今日の不安定な経済状況、 予測不能なビジネス環 や効率化を図ってきた。 境の中では、 人も組織も同じように早いスピードで そこで起こっている深刻な問題は、 組織が組織と 変化しながら生きていかなければならない。 このと して機能するための条件や、 人が人らしく 「考える き、 組織人の 「変化対応力」 が育っていないと、 従 力」 を使って生き生きと仕事をするための環境が失 来どおりのやり方や立場にしがみつかざるを得ない われているということだ。 人が多く生まれてしまい、 組織としての環境適応力 このような現実の中で、 個人の前向きな成長意欲 や競争力は低下する。 パフォーマンスの低下した組 は著しく減退している。 同時に、 そのことが組織の 織は、 更なる人員削減や組織再編の波にさらされや 創造的な活力を奪う要因になっている。 では、 どの すくなり、 ますます自律的なキャリア形成が難しく ようにして“人と組織の元気”を回復すればよいの なるなどの悪循環が生じる。 これは組織と組織人の だろうか。 双方にとって、 決して幸せなことではないだろう。 この悪循環を断ち切るのが、“変化対応力を持っ た人材の育つ組織風土づくり”である。 ここで大事なポイントは、 個人の意識に働き掛け るだけでは、 組織人は前向きにはならないというこ とだ。 組織人は飽くまで組織という 「環境」 の一部 その中身は、 矢継ぎ早に断行される改革によって であり、 その環境 (職場の人間関係、 マネジメント 疲弊している組織人のモチベーションを回復するこ の在り方、 経営や方針に対する信頼性、 ビジョンや とと、 変化対応力の育成とを、 同時に行うアプロー 目的の明確化、 価値観など) との相互作用において チである。 そこで焦点になるのは、 「人の成長」 と 変化する。 それゆえに私たちは、 「風土」 と呼ばれ いう可能性をいかに組織の可能性に結び付けていく る組織や集団に特有の相互作用に目を向けて、 個人 のかという視点である。 と組織を一体で変化させていく働き掛けをしている。 1 2 変化の時代の 「持ち運び可能な」 基本能力 変化に振り回されて疲れた組織 今日の組織人が直面している変化は、 「もしかし たら、 会社や職場がなくなるかもしれない」 という 会社や職場がいつなくなってもおかしくないよう 先行き不安を伴う厳しいものである。 不安定な経済 な先行き不安の時代には、 組織も人も"持続可能な" 状況の中で、 企業はやむなくドラスティックなリス 存在になるために、 「変化に対応する力」 を育てる トラや経営統合を断行し、 現場に対してはストレッ ことが急務になっている。 ここでいう変化対応力と チ目標を課して、 利益確保のための徹底した合理化 は、 刻々と変化していく環境の中で、 職業人として 特 集 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり の自己の能力の在り方を見直し、 再構築することの 多かれ少なかれ組織人は、 自分の現在の居場所や職 できるメタ能力1)である。 変化の激しい時代には、 種に定住し続けることを前提に仕事をしている。 異 このような自律のベースとなる能力がないと、 組織 動はともかく、 職種転換の可能性など想定していな 人として幸福なキャリアを築いていくことは難しい。 いのが普通だろう。 個人でいえば、 その核になるのが 「主体的に考える 力」 と 「自発的につながる力」 である。 しかし、 今のような環境変化の激しい時代には、 組織の事情で個人のキャリアが断たれることはあっ これはどんな組織であっても、 どんな職種や業務 ても、 組織が自分の職業人生を守ってくれることな においても、 どんな立場になっても通用するいわば ど期待できない。 自分の運命のカギは自分でしっか 「持ち運び可能な能力」 だ。 従来のキャリア形成で り握って生きていなければ、 不安は常につきまとう。 中心になってきた 「特定の業務・職種に対応する専 その代わりに組織には、 メンバーが主体的に仕事 門能力」 だけではなく、 これからは 「超組織的・超 を通じて成長していけるような機会や環境を用意す 時間的・超職能的」 ともいえるこうした能力が強く ることが求められているのである。 求められている。 図1 変化対応力は、 ポータブルスキルとしてキャリアの中核を成す 【事例】ある日突然、 キャリアが断たれる 大手製造業A社は、 生産工程の海外移転と国内生 産の縮小のため、 工場を集約することを決めた。 こ れに伴い、 B事業所では100人近くの現場作業者が 職を失うことになった。 彼らに与えられた選択肢は、 同じ職種で他事業所に転勤するか、 同じ事業所で他 職種に変わるか、 若しくは退職するかの3つであっ た。 これら3つの中では、 同じ事業所での継続勤務を 希望する人が最も多かった。 そこで人事担当者が面 談し、 一人一人に希望職種を聞いた。 しかし、 ほと んどの人が 「分からない」 と答えた。 というのも、 図1に示すように、 「持ち運び可能な能力」 すな 彼らは会社の中にどんな部署があるのかさえ知らな わちポータブルスキルは、 一般的なキャリアの中核 かったからだ。 彼らは現場作業者として入社して以 を成すものである。 来、 他の仕事を経験したことがない。 しかも、 3交 この能力を身に付けた人材は、 例えば設計部門か 代勤務で他部署の社員との交流もほとんどなかった。 ら営業部門に異動したとしても、 「営業とは何か」 いつもの現場と仕事が、 自分の職業人生のすべてだっ 「何のために存在するのか」 と仕事の意味や価値を たのである。 問い直して自分なりに中身を考え、 周囲の人々の経 多くの人たちが、 「定年まで現場作業を続けるか、 験に学びながら新たな能力を形成していく。 さらに、 現場の管理者になる」 ことしか考えていなかった。 設計部門で培った専門知識を普遍化して営業に応用 その結果、 この異動を新たなキャリア形成の機会と するというように、 必要に応じて柔軟に新たな営業 して生かすことができた人は、 全体の2割にも満た スタイルや、 仕事の仕方を作り出していくことがで なかった。 きる。 どこへ行っても、 また、 手掛ける対象が変わっ この話は、 多くの組織人にとって人ごとではない。 ても、 核となる力であり、 仕事を意味のあるものに 統合していけるのである。 1) 人間が自分自身を認識する場合において、 自分の思考や 行動そのものを対象として客観的に把握し、 認識する能力 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり 3 「働きがい」を支えるものは何か 【事例】組織を渡り歩くポータブルスキル Aさんは大学で物理学を専攻し、 研究者として大 特 集 ないし、 やりがいも持てない。 逆に言えば、 どんな 種類の仕事であっても、 自分の成長を実感できる、 やりがいのある仕事の仕方に変えていくことはでき るのである。 手メーカーに入社した。 他の研究者が自分の専門分 野に固執するのとは逆に、 Aさんは自分の専門分野 を特定しきれない上に、 何事に対しても好奇心が強 かったため、 他の研究プロジェクトからの協力要請 も積極的に引き受けていた。 4 「つながる力」 と 「考える力」 協力し合える組織には、 「困った時はだれかが助 けてくれる」 という仲間への信頼感に裏付けられた このような柔軟性が評価され、 研究所から新規事 安心感がある。 この安心感は、 個々の苦手な部分や 業開発部門へ、 さらには、 新規事業部に異動するこ 弱さを補い、 経験のない取組への不安や抵抗感を軽 とになった。 事業部内でも、 生産技術、 開発、 製造、 くしてくれる。 「やるだけ損」 「ハシゴを外される」 検査、 品質保証、 営業支援及びシステム開発と、 様々 という不安がなければ、 問題をきちんと問題として な職種を経験した。 異動のたびに仕事の成果はリセッ 提起でき、 個人の失点ではなく組織の問題として、 トされてしまうため、 Aさんの昇格は遅かった。 し その解決のために協力しようという前向きな気持ち かし、 Aさんにとっては、 自分がだれかの役に立て も生まれやすくなる。 ていること自体が、 仕事の喜びだった。 そして、 40歳を過ぎて人材育成を担当するように 「他の人が手伝ってくれないから、 思うように仕 事ができない」 と愚痴をこぼす人は多い。 しかし、 なり、 Aさんの積み重ねてきた経験が生かされるこ 最初は損得勘定抜きに 「人に力を貸す」 ことが大事 とになった。 社内のいろいろな現場を体験し、 多く だろう。 これによって、 他者との関係は大きく変化 の人脈を持つAさんは、 これまで多くの前任者が成 する。 その上で初めて、 「人の力を借りる」 ことが し得なかった人材育成施策の改革に成功した。 当たり前にできる間柄になっていくのである。 この その後、 他部門からの異動要求があったが、 Aさ プロセスを図2に示す。 んは初めて自分の意思で断った。 Aさんは、 人材育 ポータブルスキルの一つである 「自発的に人とつ 成が自分の今の能力を最大限に発揮できる本当にや ながる力」 は、 このサイクルを回し続けることで更 りたい仕事だということに気付いたのだ。 に強化される。 「自発的に人とつながる力」 は、 損得勘定抜きに Aさんは人から頼まれた仕事に 「NO」 を言わな 人と協力する姿勢を持って、 信頼をベースに人との かったために、 様々な職種を経験することになった。 関係を結んでいく力である。 といっても、 困ってい 「希望の職種に就けない」 「決まりきった仕事だか る人に手を貸すだけではなく、 自分の弱みを補って ら面白くない」 という話をよく耳にする。 Aさんに もらうために積極的に他人の力を借りるという意味 とってやりがいのある仕事とは、 研究所の研究者と での協力も含んでいる。 それによって個人は“個の いう職種ではなかった。 問題は、 「どういう職種に 限界”を超え、 相乗的に能力を発揮し合うチームワー 就くか」 ではなく、 「どういう仕事の仕方をするか」 クを形成することができる。 自分の力だけで解決で ということだったのだ。 きない問題に直面しても、 経験のない試みを実行す 仕事が単なるオペレーションになっている、 自分 なりに考えたり工夫したりする余地がない、 周りに 相談できる人も力を貸してくれる人もいない、 黙っ て与えられたノルマをこなすだけ…の状態であれば、 どんな優良企業にいたとしても仕事としては楽しく るときも、 人の力を上手に借りていく能力によって、 主体的に実行の環境を作っていけるのである。 特 集 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり 信頼と協力で仕事を回すサイクル 図2 ていてもしょうがないよね」 「そうそう、 今日は職 場の問題について話し合ってみようよ」 と、 X部の メンバーが自分たちから言い出した。 そして、 目下 の関心事になっていた 「職場の派遣社員切りをどう 考えるか」 に議論が移った。 女性社員3人は口を揃えて、 「派遣切りなんてと んでもない。 絶対に反対」 という立場で議論を引っ 張ったが、 2人の男性社員が 「今の状況を考えると、 派遣切りはやむを得ない」 と主張し、 両者は対立し た。 しかし、 なぜ主張が異なるのか、 なぜ相手がそ う考えるのかを、 互いの意見の背景をじっくりと聞 き合っていくと、 1日の議論を終えた後には両者共 に自分のものの見方が広がった感じを抱き、 他者の 意見を前向きに受け止めていこうという気運が生ま 【事例】見知らぬ同士が 「協力関係」 になっていく プロセス れていた。 そして、 最終日を迎えた。 大手製造業C社の技術開発本部長は、 危機感を持っ 「今日は、 自分自身のためになるような議論をし ていた。 部下たちは与えられた仕事を毎日黙々と確 よう」 という言葉から、 係長全員に共通する 「部下 実にこなしてはいるが、 前後工程の部署のメンバー 育成」 がテーマになった。 とコミュニケーションをとろうとはせず、 全体を見 「幾ら指導しても仕事を覚えてくれない」 「後輩 ないで自己完結的に仕事をしている。 来た仕事をさ を指導する自信が持てない」 という悩みから、 話が ばいているだけだから、 問題があっても見直される 始まった。 「指導するときの一番のポイントは何だ ことはなく、 新たな技術やビジネスに関する提案も ろう」 「スキルじゃなくて、 マインドじゃないかな」、 ほとんど上がってこなかった。 そこで、 本部長は若 そんな問いを発しては考えることを繰り返し、 最後 手の係長クラスを対象に、 2泊3日のオフサイトミー には、 「自分自身が、 後輩の成長を信じることが大 ティングを行った。 事だね」 「自分に自信を持つには、 どうしたらいい 本部にはX、 Y及びZの3つの部があり、 それぞ のか」 と話は深まっていった。 れから参加者が集まった。 彼らはこれまで、 ほとん 別れ際には、 「職場に戻ったら、 X部の仕事を手 ど顔を合わせて話をしたことがない。 Y部とZ部の 伝うよ」 「今回みんなから学んだことは、 自分の一 メンバーは、 口には出さないが日ごろから前工程に 生の財産だ」 「これから相談する仲間ができて、 本 当たるX部の仕事の仕方に対して不満を抱いていた。 当に良かった」 などの言葉が笑顔で語られた。 最初の自己紹介の時、 Y部とZ部のメンバーが驚い 納期に追い立てられる仕事をしていると、 個々人 たのは、 X部のメンバーから自分たちの部長に対す は次第に孤立していき、 人間関係は希薄になってい る不満が爆発するように出てきたことだった。 「彼 く。 顔の見えない間柄では、 ともすれば互いに対す らはあんなに悩んでいたんだ」 とY部とZ部のメン る見方は無情になりがちだ。 このことが、 事実認識 バーは初めて内情を知った。 X部の部長に対する愚 の不足による誤解を生んで関係が悪化しているケー 痴や不満は、 他部のメンバーも巻き込んで夜まで続 スも多い。 いた。 協力し合えるようになるためには、 メンバー同士 2日目のミーティングは 「昨日はすごかったよね」 が互いに本音で話し合い、 顔の見える関係になるこ という第一声から始まった。 「でも、 不満ばかり言っ とが大切である。 私たちは、 「オフサイトミーティ 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり ング」 をそのための手段として使っている。 特 集 例えば、 損得勘定で動く人間関係の組織では、 互 「自発的に人とつながる力」 と対をなす、 もう一 いに助け合い、 協力し合うことがなく、 「成功して つのポータブルスキルは 「主体的に考える力」 であ 当たり前、 失敗したら責められる」 という暗黙の圧 る (図3)。 力が働いている。 組織が失敗をどのように評価する のかが、 個人の行動を左右しているのである。 図3 変化対応力を生み出す要素 上司が幾ら 「チャレンジが大事だ」 と口では言っ ていても、 部下が困った時に助け舟を出すこともな く、 失敗したら部下の責任にしてしまうようでは、 部下たちは上司の言行不一致に不信を感じて、 決し てチャレンジしようとはしない。 たとえ成功確率が 90%の仕事でも、 失敗して責められる確率が10%あ るとしたら、 何もしない方を自然に選択するだろう。 そこにある不信を招く価値観は、 「失敗はしてはな らない」 というものである。 「主体的に考える」 とは、 与えられたことを与え それに対して、 部下たちのチャレンジを後押しす られるままにやるのではなく、 そのことの意味や価 るのは、 「人間は、 必ず失敗するものだ」 という価 値を問い、 やろうとしていることの目的を問うて考 値観である。 え抜くことである。 本質的に考え抜いていくと、 無 上司がこのような見方に立ってチャレンジの価値 意味なこと、 本来必要ではないこと、 目的から外れ を認めていること、 結果としての失敗を前向きに学 たところでやろうとしていることなど、 問題が顕在 習材料としてとらえるような、“失敗に対する態度 化してくる。 それと同時に、 本当に必要なことが見 と価値観”を部下との間で共有していることが、 メ えてきて、 仕事の優先順位付けがなされるようにな ンバーの意欲や主体性を下支えする現実的なセーフ る。 ティネットとして大事なのである。 そのようにして問題を深く考えた人間は、 考える だけでは終わらず、 自らが当事者として実行にかか わるケースが多い。 リーダーシップを発揮して実行 6 日常業務の場で人を育てる にかかわっていくことで、 働きがいもまた、 高まっ 個々人に内在するポータブルスキルを引き出し、 ていく。 さらに、 本当に大事なことを一緒に考え抜 変化対応力を高めることは、 疲れた組織の閉塞状況 くプロセスを共有したメンバーは、 同じ目的の下に を打破するカギでもある。 とはいえ、 多くの組織で 助け合って仕事をするチームの仲間になっていく。 は、 集合型のoff-JTにも、 職場単位のOJTにも時 このような仲間の存在も、 働きがいの大事な要素で 間と予算を割く余裕はない。 そもそも、 「変化に対 ある。 応する力」 というのは、 実際の仕事の中で、 実地の 試行錯誤を繰り返すことでしか、 学んだり鍛えたり 5 主体的に仕事をするための価値観 できない能力でもある。 そこで有効なのが、 日常業務の現場や仕事の仕方 職場におけるメンバーの意欲や仕事の仕方に大き を 「人の成長」 という観点からとらえ直し、 仕事を な影響を与える環境要因として、 上司のマネジメン 通じて新たな能力を育てる機会に変えていくことで トスタイルがある。 もっと厳密に言えば、 マネジメ ある。 ントスタイルを決定付けている 「価値観」 に目を向 けてみる必要がある。 一般的に日常業務では、 期限付きで短期的成果を 出していくことが求められる。 そこで必要なのは決 特 集 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり まった仕事を正確に早くこなしていく能力だ。 しか し合うことで、 参加者の間には安心感と信頼感が生 し、 これからの組織は、 市場の成熟化や縮小トレン まれてくる。 この信頼関係が組織の新たな 「つなが ドの中で多様化し選択的になっていく顧客ニーズに り」 のベースになる。 対応し、 今までにない事業価値を創造していかなけ れば、 存在価値を作れない。 オフサイトミーティングを効果的に進めるために は、 場所を変えたり、 リラックスした服装に変えた 今の組織が求めているのは、 そんな答えのない状 りするだけではなく、 椅子だけで車座に座る、 アメ 況下で事業の意味や価値を考え抜き、 多様な立場や やチョコレートなどを準備する、 窓のある開放的な 経験を持つ他者に学びながら、 協力し合って創造的 場所で行うなどの物理的かつ心理的な環境への配慮 なチームワークをしていける人の力である。 も必要である。 さらに、 下表に示すような、 効果的 こうした 「考え抜く仕事」 ができるような機会 に話し合うためのルールを定めている。 (以下の3つ) を組織が用意していくのである。 ◆自主的なテーマ設定のプロジェクト 表 オフサイトミーティングのルール ◆チャレンジ課題に取り組む自主チーム活動 ◆対話の場 (オフサイトミーティング) 7 信頼のベースをつくる 「気楽に まじめな話をする場」 職場を信頼で結ばれた協力し合えるチームにする ための効果的な方法に、 「オフサイトミーティング」 がある。 オフサイトミーティングとは、 文字どおり、 仕事 この中で最も大切なことは、 「人の話をよく聞く」 ことである。 オフサイトミーティングでは、 だれか が話をしているときはその話を真剣に聞く。 人の話 の場を離れて参加者が 「気楽にまじめな話をする」 に集中し、 自分にとって相手が大切な存在であるこ 話合いの場である。 とを態度で示すことで、 互いの信頼性も高まる。 さ 通常の会議では、 参加者は部署の利益代表として らに、 自分とは異なる相手の意見を受け入れること の立場を背負って話をすることが多い。 それぞれが で、 自分の中に新たな視点が生まれ、 いろいろな角 自部署の利益を守るための駆け引きや主張をし、 話 度から事象や現状を見られるようになる。 このよう が平行線になって十分に議論を尽くせなくても、 決 な聞き合うプロセスで、 「考える力」 も養われるの められた時間内に結論を出すことを求められるのが である。 会議である。 到底、 本音での合意形成には至らず、 仮に形式的な結論が出たとしても、 参加者がその結 論に納得していないため、 実行される可能性は低い。 逆に、 仕事が終わった後の居酒屋などでは、 気楽 に本音の雑談がなされている。 しかし、 「気楽に気 楽な話をする場」 は、 互いに言いっ放しで、 酒の上 での話に終わってしまう。 オフサイトミーティングは、 公式な会議のまじめ なテーマや中身と、 居酒屋談義の雰囲気やスタイル を取り入れているわけだ。 自分の立場や意見、 価値 観などにこだわらず、 人の話を聞き合い、 本音で話 図4 話合いの場の性格 特 変化に対応しながら元気を取り戻す 「人と組織」 の風土づくり 8 組織を元気にするオフサイトミー ティングの活用 オフサイトミーティングは、 敢えて日常の自分た ちから離れて話し合うことで、 参加者の関係性に変 化を与えるものである。 その話合い方は日常業務に も応用することができる。 例えば、 普段の会議をオフサイトミーティングの 集 3か月後、 Kさんの調整能力が功を奏して、 シス テムは無事リリースできた。 Kさんの存在は、 Mさ んのコミュニケーション能力にも改善をもたらした。 Kさんも今の仕事でキャリアを磨くことを決意し、 Mさんに技術的な指導を依頼することを決めた。 L課長は語る。 「周りの管理職は、 おれのところ はいい人材がいないから、 仕事ができないんだ っ て文句ばかり言うけど、 どんな人でも絶対に良いと スタイルにすることで、 形式的な話合いから中身重 ころがあるんですよ。 オフサイトミーティングは、 視の話合いに変わり、 参加者が場に主体的にかかわ それを引き出して自発的に動くチームを作り出すん るようになる。 あるいは、 部下との対話の場として ですよね」 使うことで、 マネジメントスタイルを変化させ、 上 下の信頼関係を構築することもできる。 Lさんの課は、 K社内では 「人材再生工場」 と呼 ばれている。 社内で疲れた人が、 そこに配属される 【事例】部下の主体性を引き出すマネジメントへ ことで元気を回復していくからである。 大手製造業K社でシステム開発を担当しているL 巨大な組織の風土を一度に変えることは、 難しい。 課長は、 新規システム構築プロジェクトのスケジュー しかし、 小さな部署に限れば、 それは可能だ。 小さ ル遅延に頭を痛めていた。 システム自体はほとんど な部署で始まった風土改革をベストプラクティスと 完成しているのに、 開発リーダーのMさんとリリー して取り上げ、 他部署に展開していけば、 多くの組 ス先の部門との確執があり、 3か月が無為に過ぎて 織人と組織全体を元気にしていくことも不可能では いたのだ。 ない。 Mさんはシステム開発者としては超一流だが、 対 人関係能力に問題があった。 人にものを素直に頼む ことができないのだ。 そこでL課長は、 他部署から 9 最後に Kさんをスカウトして、 Mさんとチームにすること 人事制度や施策以上に大事なことは、 日常的な職 にした。 Kさんは、 人当たりは良いが、 年齢的な問 場でメンバー同士が助け合うことを通じて、 個人の 題で技術の進歩についていけず、 以前の組織では十 成長を促すことである。 そこで鍛えられた力は、 こ 分な貢献ができていなかった。 れから先の不安定な時代の中にあっても、 メンバー L課長は、 MさんとKさんを含めたプロジェクト メンバー6人を集めてオフサイトミーティングを実 施し、 改めてプロジェクトの背景、 目的、 制約条件 などを話し合った。 そして、 毎週月曜日の午後には メンバー6人でオフサイトミーティングを行い、 先 週の振り返りと今週の計画について本音の議論を続 けることにした。 このミーティングが軌道に乗ってからは、 L課長 はメンバーにほとんど指示をする必要がなくなった。 メンバーが自分たちで話し合って毎週の行動計画を 決め、 実施と振り返りを行うようになったためであ る。 の働きがいと市場価値を確保すると同時に、 組織の 持続的な成長を支えていく原動力になるだろう。 (とうじょう しげき)
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