医療環境における クロストリジウム・ ディフィシル

APIC
エリ ミ ネ ー シ ョ ン ガ イ ド
医療環境における
クロストリジウム・
ディフィシル
(Clostridium difficile)
伝播阻止のためのガイド
Guide to the Elimination of
Clostridium difficile in Healthcare Settings
監訳/満田年宏(Toshihiro Mitsuda)
公立大学法人 横浜市立大学附属病院
感染制御部部長 准教授
Toshihiro Mitsuda, M.D., Ph.D, CICD
Associate Professor
Director of the Department of Infection
Prevention and Control
Yokohama City University Hospital
本書の発行に際しては株式会社モレーンコーポレーションの支援を受けています
APIC ガイド
2008
医療環境における
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium
difficile)伝播阻止のためのガイド
APIC について
APIC の使命は,感染,その他の有害転帰の危険性を減じることによって,健康増進及び患者
の安全性の向上を図ることである。12,000 人を超える会員は,世界中の医療現場において感染
予防と感染制御,および病院疫学に一義的な責任を有するものである。APIC は看護師,医師,
疫学,微生物学および臨床病理学の専門家,臨床検査技師,公衆衛生の専門家で構成される。
教育,研究,指導,連携,公共政策,実践指導,認定業務を通じて,その使命を推進する団体
である。
About APIC
APIC’s mission is to improve health and patient safety by reducing risks of infection and other adverse
outcomes. The Association’s more than 12,000 members have primary responsibility for infection
prevention, control and hospital epidemiology in healthcare settings around the globe. APIC’s members
are nurses, epidemiologists, physicians, microbiologists, clinical pathologists, laboratory technologists
and public health professionals. APIC advances its mission through education, research, consultation,
collaboration, public policy, practice guidance and credentialing.
本書の発行に際しては株式会社モレーンコーポレーションの支援を受けています。
Financial Support for the Distribution of this Guide Provided by Moraine Corporation in the Form of
an Unrestricted Educational Grant.
詳細は www.apic.org/EliminationGuides を参照のこと。
APIC エリミネーションガイド・シリーズ(APIC’S Elimination Guide Series)には
以下のようなテーマがあり,参照されたい。
•
•
•
•
カテーテル関連血流感染症
カテーテル関連尿路感染症
縦隔炎
長期ケアにみる MRSA
Copyright © by 2008 APIC
本書のいかなる部分も,発行者から事前に文書による許可を得ることなく,電子的手段,機械的手段,複写,
録音,その他のいかなる形式または方法によっても無断で複製,検索システムへの保存,または送信をして
はならない。
本書または APIC の他の製品およびサービスについての問い合わせは下記まで。
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Suite 1000
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表紙写真提供―CDC
72 時間嫌気性菌血液寒天培地の捺印塗抹標本から作製した細菌クロストリジウム・ディフィシルの顕微鏡写真(1980 年)
日本語版の監訳にあたり
On the supervising a translation of the Japanese edition of
“Guide to the Elimination of Clostridium difficile in Healthcare Settings”
米国で医療関連感染の感染予防と感染制御の中心的な役割を担っている APIC では,APIC エリミネーショ
ンガイド・シリーズ(APIC’s Elimination Guide Series)として様々なテーマに即した資材を提供しています。
今回,“医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド(Guide to the Elimination
of Clostridium difficile in Healthcare Settings)”を日本語で提供することができるようになりました。これは昨年
刊行した,
“多剤耐性アシネトバクター・バウマニの医療施設における伝播を阻止するためのガイド(Guide to
the Elimination of Multidrug-resistant Acinetobacter baumannii Transmission in Healthcare Settings)”日本語監訳版
に引き続くものです。
本書原文は 2008 年に公開されたもので刊行から 3 年以上経ているため,何点か以下に補足します。
(1) クロストリジウム・ディフィシル(CD)の毒素の迅速診断法として本書では CD 毒素の検出法として“EIA
法”中心で記載されていますが,現在ではより高感度な免疫クロマトグラフ法(ICA)検査が国内でも普
及しています。一方 CD の検出に米国では PCR 法をはじめとする遺伝子増幅検査法が使われ始めていま
す。
(2) CD の対策として環境整備に次亜塩素酸ナトリウムの使用が強調されていますが,米国で市販されている
次亜塩素酸ナトリウムの終濃度は我が国とは異なるため希釈においては倍率ではなく,塩素濃度(ppm)
をもとに換算する必要があります(つまり米国内で供給されている家庭用の漂白剤は 5.25~6.15%次亜塩
素酸ナトリウム[52,500~61,500 ppm の有効塩素]であり,この 1:10 希釈液には 5,250~6,150 ppm の有
効塩素が含まれています)
。我が国では 1,000 ppm 以上の高濃度を医療環境の清拭消毒に用いることはこ
れまでなく,今後の課題です。
(3) 臨床の現場で使用可能なツールにも日米間で差があります。米国では単包化された次亜塩素酸ナトリウ
ムの含浸不織布製品や除菌クロス(たとえば“Clorox® Germicidal Wipes”には,有効塩素 0.55%[5,500 ppm]
の次亜塩素酸ナトリウムが含浸されています)があります。
(4) 現在米国では患者退院・退室後に病室環境を浄化するため,最終的清掃の一環として加える環境の消毒
方法として古典的な次亜塩素酸ナトリウムに加え,①蒸気化過酸化水素,②蒸気化過酢酸混合液,③紫
外線照射装置など様々な処理方法が試みられています。
本書の刊行にあたっては 2011 年度に APIC 会長を勤められた Russell Olmsted 氏の尽力によるものが大きく,
この場をお借りして感謝申し上げます。また日本語版実現にあたっては,モレーンコーポレーションの草場
恒樹社長には多大な支援を戴きました。この場をお借りして御礼申し上げます。
※本書の pdf 版は APIC のホームページからがダウンロード可能ですので併せてご活用下さい。
2012 年 1 月 15 日
公立大学法人
横浜市立大学附属病院感染制御部
部長 准教授
満田年宏
February 15th, 2012
Toshihiro Mitsuda, M.D., Ph.D, CICD
Associate Professor
Director of the Department of Infection Prevention and Control
Yokohama City University Hospital
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
目次
謝辞 .................................................................................................................................................................................... 5
手引きの概要 .................................................................................................................................................................... 6
クロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile Infection, CDI)の発生機序と
疫学的状況の推移 ............................................................................................................................................................ 8
小児にみられるクロストリジウム・ディフィシル感染症 ....................................................................................... 13
伝播経路 .......................................................................................................................................................................... 15
診断 .................................................................................................................................................................................. 17
サーベイランス .............................................................................................................................................................. 21
予防への取り組み:接触予防策 .................................................................................................................................. 29
予防への取り組み:手指衛生 ...................................................................................................................................... 33
予防への取り組み:環境感染制御 .............................................................................................................................. 39
クロストリジウム・ディフィシル感染症伝播予防の段階的な対応 ....................................................................... 46
日常の感染予防・感染制御対応におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播予防への
取り組みに関するまとめ ......................................................................................................................................... 46
強化した感染予防・感染制御の対応における追加のクロストリジウム・ディフィシル伝播予防への
取り組みのまとめ..................................................................................................................................................... 48
その他の予防策 .............................................................................................................................................................. 51
抗微生物薬の適正使用とクロストリジウム・ディフィシル感染症:感染予防師のための手引き ................... 53
クロストリジウム・ディフィシル感染症の伝播阻止にシステムを利用する ....................................................... 61
用語集 .............................................................................................................................................................................. 67
よくある質問 .................................................................................................................................................................. 69
参考文献 .......................................................................................................................................................................... 75
4
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
謝辞
クロストリジウム・ディフィシルから突きつけられた課題は,感染予防・感染制御の前に立ちはだかる最
も困難かつ急を要する問題の一角を占めている。この問題への取り組みにかかわる諸要素は,変化を続ける
クロストリジウム・ディフィシルの疫学的状況と同じく,互いに対立しており,感染予防・感染制御におい
て「破滅的な事態」をもたらしている。このことは,病院,長期ケア施設,外来診療,通院治療,診療所の
別を問わず,すでに患者の健康と安全に影響を及ぼしている。
この病原菌が投げかける難題は同時に,私たちがクロストリジウム・ディフィシルの影響を最小限に抑え,
患者の安全を最大限に高めるべく一致団結するなかで,医療従事者の連携を促す契機となるものである。こ
の病原菌の蔓延は,感染予防,微生物学検査室,薬局の強力な結びつきを維持していく必要性をはっきりと
知らしめるものである。
この手引きは,クロストリジウム・ディフィシルと患者やケア環境に対するその影響に関して最新の情報
を提供し,感染予防師が各自の所属施設で用いることができる段階的な手法を紹介するものである。感染予
防師が個々の現場で問題に対処できるようにするため,具体的な手段を盛り込んでいる。感染制御・疫学専
門家協会(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology,APIC)は,以下に名前を列記す
る方々の貴重な貢献に感謝の意を表する。
執筆者
Ruth M. Carrico, PhD, RN, CIC
Lennox K. Archibald, MD, PhD, FRCP(Lond),
DTM&H
Kris Bryant, MD
Erik Dubberke, MD
Loretta Litz Fauerbach, MS, CIC
Juliet G. Garcia, MS, MT(ASCP), CIC
Carolyn Gould, MD, MSc
Brian Koll, MD
Jennie Mayfield, BSN, RN, MPH, CIC
Xin Pang, MD
Julio A. Ramirez, MD, FACP
Dana Stephens RN, CIC
Rachel L. Stricof, MT, MPH, CIC
Tim Wiemken, MPH, CIC
校閲者
Kathleen Meehan Arias, MS, MT, SM, CIC
Candace Friedman, MT(ASCP), MPH, CIC
Jeff Kempter
Michael Ottlinger, PhD
Judy Potter
William Rutala, PhD, MPH
Marion Yetman, RN, BN, MN, CIC
病室の物理的要素および設計に関して手腕を発揮し,知識をご提供いただいたインテリアデザイナーの
Julia J. Fauerbach 氏(Shands Healthcare ビジネスアソシエイト,クレムソン大学 2009 年建築・保健学修士候補
者)に心から感謝する。
感染制御・疫学専門家協会
5
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
手引きの概要
クロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile Infection, CDI)※1 の影響は医療全体にわたっ
て実感されており,今やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)
に匹敵するほどヒトを苦しめる病原菌であると認識されている。感染症としての重症度は増しつつあり,小
児,成人,高齢者に影響を及ぼしている。クロストリジウム・ディフィシル感染症を併発した際の医療施設
への入院期間は 2.6 日から 4.5 日に延びており,クロストリジウム・ディフィシル感染症による入院患者の治
療費は 1 回の発症につき,外科的介入に要する費用を除いて 2,500~3,500 ドルと推定されている。アメリカ
では,この感染症の管理にかかわる経済的影響が 1 年当たり 32 億ドルを超えている※2。残念ながら,クロス
トリジウム・ディフィシル感染症による死亡率は 30 日後では 6.9%,1 年後では 16.7%にのぼる
1-6
。あらゆ
る医療現場でクロストリジウム・ディフィシル感染症の発症および伝播の予防が感染予防師(infection
preventionist)の最優先課題となることは疑問の余地がない※3。
国内外でクロストリジウム・ディフィシル感染症の感染率が上昇を続けており,この手引きに盛り込む情
報としてまずこうした情勢の解説から始め,次に感染制御のための介入の対象となる領域を見極めるための
段階的な手順を記載し,介入を実施するための明確な手引きと本書がなることが求められている。
介入策に関係した“バンドル(束ねる,bundling)”という概念や,段階的な対応(tiered approach)の採用は,
クロストリジウム・ディフィシルの伝播の予防に取り組むべく,あらゆる医療環境で応用することができる
組織的な手法を示すものである。段階的な対応の採用は,多剤耐性菌の予防に関する医療感染制御諮問委員
会(Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee,HICPAC)および米国疾病制御予防センター
(Centers for Disease Control and Prevention,CDC)のガイドラインで紹介された勧告における取り組み方に同
じである 7。
医療の様々な局面に見られる次のようなクロストリジウム・ディフィシル感染症の実例を考慮すること。
• 48 歳男性。医療関連感染症のため抗菌薬療法を実施。急性期ケア施設に入院中,クロストリジウム・ディ
フィシル感染症を発症した。
• 25 歳女性。外科的予防投与として抗菌薬を単回投与。外科外来で外科的治療を終えて帰宅後,数日でクロ
ストリジウム・ディフィシル感染症を発症した。
• 62 歳男性。長期ケア施設でクロストリジウム・ディフィシル感染症を発症した。
• 51 歳女性。かかりつけ医の抗菌薬処方よる治療の後にクロストリジウム・ディフィシル感染症を発症した。
• 12 歳女児。慢性疾患の療養期間中に抗菌薬を処方され,のちにクロストリジウム・ディフィシル感染症を
発症した。
※1 監訳者注釈(以下、監訳注):“クロストリジウム・ディフィシル感染症”は従来は“Clostridium difficile associated
disease(CDAD)”と表記していたが,2007~2008 年以降より米国感染症学会等が記載を変更しこの CDI に落ち着い
ているが意味は同じである。
※2 監訳注:32 億ドルは 1 ドル 80 円換算で約 2600 億円に相当する。
※3 監訳注:米国における感染対策を担う専門家は従来は“感染制御実務者(infection control practitioner, ICP)”と呼んで
いたが,2008 年頃より感染制御に先立ち感染予防の優先度を重要視して,専門職の呼称を“感染予防師(infection
preventionist, IP)”に変更した。
6
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生率が上昇し毒性の強い菌株が出現する以前は,医療チーム
が抗菌薬療法関連下痢症については“やっかいなことになった”という程度にとらえる程度で,ことによると,
抗菌薬の投与を受けている患者には許容範囲内の転帰であるとさえ考えていた。外来,救急,長期ケア,在
宅ケアなど医療のいかなる場でも,この医療関連合併症に対する油断はもはや許されない。医療関係者にと
って,クロストリジウム・ディフィシル関連の罹病率および死亡率の高さは医療全体に共通し対応すべき予
防策の確立に向けていっそう努力する動機づけとなっている。“万能”な対策などほとんどないことを承知し
つつも,この手引きの目標は,介入に段階的な対応を実施するにあたって特定の医療環境で得られた結果が
水先案内となってきたように,他の医療関連感染症に様々な取り組みを“束ねる(bundling)”ことが効果的で
あるという証拠をさらに積み重ねることにある。
ピッツバーグ大学でクロストリジウム・ディフィシルの感染予防・感染制御に採用されたバンドル・アプ
ローチ(bundled approach)※4には,教育,患者発見の促進,感染制御策の充実,クロストリジウム・ディフ
ィシル管理チームの組織化,抗微生物薬の適正使用プログラムの実施が組み込まれている 8。McDonald は
Muto らの報告書を分析し,そのバンドル・アプローチはサーベイランスから得られたデータに基づく連続的
かつ段階的な介入を反映したものであると結論づけている。このことは,優先事項を定め,介入を選択して
そのタイミングを決定するのに現地のデータを使用する重要性を強調するものである 9。クロストリジウム・
ディフィシル感染症の予防に焦点を合わせる組織として,医療施設がその場所のサーベイランスデータを評
価し,それぞれの状況に対応するしかるべき介入を選択する必要がある。クロストリジウム・ディフィシル
感染症に関するバンドルの構成要素には次のような取り組みが挙げられる。
• しかるべきサーベイランス・患者発見方法および微生物学的同定によるクロストリジウム・ディフィシル
感染症の早期認識
• 標準予防策,患者配置のほか,接触予防策の実施
• 環境感染制御の遵守の確立と監視体制
• 手指衛生の方法
• 患者および家族の教育
• 患者の治療および感染症の管理のための根拠に基づく対策
• 抗微生物薬の適正使用
• 医療従事者の教育
• 病院経営担当者による支援
次章以降には,クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生機序,その疫学的状況の推移,伝播経路を
概説したのち,上に挙げた要素を詳しく検証する。感染予防・感染制御の日常対応と強化対応の要点を示し
た章では,個々の構成要素が束(bundle)にまとめあげられる。
※4 監訳注:bundled approach とは,様々な感染対策のなかからより効果的な感染対策の方策を組み合わせて実施するも
ので,実施にあたっては臨床の現場で遵守率を高めるために項目を 5 項目前後に限定して強調実施するものである。
この bundled approach は米国医療の質改善研究所(IHI)が医療関連感染撲滅キャンペーンにおいて開発した手法であ
る。
感染制御・疫学専門家協会
7
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ デ ィ フ ィ シ ル 感 染 症 ( Clostridium difficile
Infection, CDI)の発生機序と疫学的状況の推移
クロストリジウム・ディフィシル感染症にかかわる連続的な出来事を理解するには,この微生物について
概要を把握し,どのようにしてヒトに影響を及ぼすかというところから始めるのが良いだろう。クロストリ
ジウム・ディフィシル感染症の発生機序や疫学的状況の推移を理解することで,予防的介入策に最もよく照
準を合わせたポイントに関する見識が得られるだろう。
クロストリジウムは嫌気性グラム陽性芽胞形成桿菌である。クロストリジウム属のなかに破傷風菌,ボツ
リヌス菌,ウェルシュ菌,クロストリジウム・ディフィシルなど多数の菌種がある。このような微生物はい
ずれもヒトの重大な疾患にかかわっているが,この手引きの焦点はクロストリジウム・ディフィシル感染症
である。クロストリジウム・ディフィシルの中には毒素を産生しないもの,低レベルの毒素を産生するもの,
高度に毒素産生性のものがある。
1970 年代半ばまで,偽膜性大腸炎(pseudomembranous colitis, PMC)※5の発症は特にクリンダマイシンおよ
びリンコマイシンなど,一部の抗菌薬の使用後にみられるものと認識されていた。偽膜性大腸炎は,微生物
によって産生された毒素に反応して発現する大腸の炎症である。この過程は,腸管の正常細菌叢が(たとえ
ば抗菌薬の使用によって)攪乱され,残存する細菌叢が特定の抗菌薬から影響を受けない微生物に増殖の機
会を与えたときにみられる。クロストリジウム・ディフィシルの場合,この過程でクロストリジウム・ディ
フィシルが大腸の粘膜に付着することが可能になり,毒素産生がお膳立てされ,結果的に粘膜感染を引き起
こす。クロストリジウム・ディフィシルの毒素産生株は軽度ないし中等度の下痢から偽膜性大腸炎にわたる
疾患を引き起こす恐れがあり,大腸の中毒性拡張(巨大結腸症)
,敗血症,さらには死に至ることもある。図
3.1 は,クロストリジウム・ディフィシルの伝播と影響を図示したものである。
クロストリジウム・ディフィシルが抗菌薬によって誘発される偽膜性大腸炎の原因であることを確認した
最初の報告が 1978 年に発表さた 10,11。それ以来,クロストリジウム・ディフィシル感染症が抗菌薬関連下痢
の最大の原因であるとともに大きな問題を孕む医療関連感染症として浮上してきた。クロストリジウム・デ
ィフィシル感染症の発症には通常,不可欠な条件が 2 つある。(1)抗菌薬への曝露,
(2)糞口伝播などによ
るクロストリジウム・ディフィシルの新たな獲得。この 2 つの因子に曝露した人のなかにはクロストリジウ
ム・ディフィシル感染症を発症する人もいれば,無症候性に菌を保菌する人もいる。そこで,宿主の感受性
や細菌の毒性にかかわっていると思われる第 3 の因子が,もうひとつ重要な感染症の発症の決定因子である
と考えられる 12。
胃の酸性度に耐性を示す芽胞を経口摂取することにより,クロストリジウム・ディフィシルが獲得される。
このような芽胞は小腸内で発芽して栄養型の細菌になる。抗菌薬に曝露することによって正常大腸細菌叢が
変化すると,クロストリジウム・ディフィシルが増殖,成長し,大腸炎の原因となる毒素を産生する環境が
生ずる。主な毒素は炎症および粘膜損傷を引き起こす 2 種類の大きな菌体外毒素,毒素 A および B である。
菌体外毒素とは細菌によって産生され,その周囲に放出される蛋白質であり,他の細胞を破壊したり,細胞
※5 監訳注:偽膜性大腸炎は“偽膜”を形成する病理診断学的な名称であり,判定には肉眼的あるいは組織学的な病理検
査が必要となる。つまり,症状のみから下される臨床診断名として用いるべき呼称ではない。また偽膜性腸炎=ク
ロストリジウム・ディフィシル症ではなく,偽膜性腸炎は様々な病原菌により発症する。
8
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
代謝を攪乱したりすることにより,宿主に損傷をもたらす。データからは毒素 A が主要な毒素であることが
示唆されているが,毒素 B のみ産生するクロストリジウム・ディフィシルの菌株が両毒素を産生する菌株と
同じ疾患を引き起こすことが明らかにされている 13。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の主な危険因子は抗菌薬への曝露,入院および高齢である
14
。ほ
ぼ全ての抗菌薬がクロストリジウム・ディフィシル感染症に関与するとされているが,なかでもセファロス
ポリン,クリンダマイシン,フルオロキノロンなど特定のクラスの抗菌薬では疾患のリスクが高くなると考
えられる。このことは,蔓延しているクロストリジウム・ディフィシル菌株の抗菌薬耐性パターンのほか,
正常大腸細菌叢を攪乱するこのような抗菌薬の傾向とかかわりがあると思われる。最近のクロストリジウ
ム・ディフィシル感染症の集団発生では,クロストリジウム・ディフィシル感染症に関与していた主な抗菌
薬のクラスはフルオロキノロンであり
15-17
,最新の流行株がフルオロキノロンに示す高レベルの耐性がその
18
原因であるとされている 。
 クロストリジウム・ディフィシル関連疾患の発生機序
クロストリジウム・ディフィシ
ルは糞口経路で広がる。この微
生物は栄養型でも頑健な胞子
のかたちでも取り込まれ、環境
中で長期間生存し、酸性の胃の
中を動き回ることもできる。
大腸で正常細菌叢が抗生物質療法
によって攪乱されるとクロストリ
ジウム・ディフィシル関連疾患が
発生する。
小腸で胞子が発芽して
栄養型になる。
偽膜
クロストリジウム・ディフィシル
毒素
腸陰窩でクロストリジウム・ディ
フィシルが繁殖し、毒素 A および
B を放出して重度の炎症を惹き起
こす。粘膜および細胞の破片が排
出され、偽膜の形成に至る。
図 3.1.
単球
好中球
毒素 A は好中球および単球を誘引し、
毒素 B は大腸上皮細胞を分解する。
いずれも大腸炎、偽膜形成および
水様下痢を惹き起こす。
クロストリジウム・ディフィシルの伝播と影響
出典:Sunenshine RH, McDonald LC. Clostridium difficile-associated disease: New challenges from an established pathogen. Cleve
Clin J Med 2006;73:187–197。許可を得て転載。Copyright © 2006 Cleveland Clinic. 無断複写・転載を禁じます。
感染制御・疫学専門家協会
9
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
多数の抗菌薬に曝露したり,治療期間が長くなったりすると患者のクロストリジウム・ディフィシル感染
症のリスクが高くなると考えられているが,術前予防に抗菌薬を単回投与しただけでもクロストリジウム・
19-21
ディフィシル感染症の発症が認められている
。数件の研究では,クロストリジウム・ディフィシル感染
症の発生率を低下させ,集団発生を制御するのに狭域スペクトルの抗菌薬の使用を推進し,特定の抗菌薬を
制限したり処方を変更したりする効果が裏づけられている
22-26
。このような取り組みは抗微生物薬の適正使
用プログラムの基礎となるものである。
クロストリジウム・ディフィシル獲得後の潜伏期間ははっきりとわかっていない。1 件の研究では 7 日未
満という短い潜伏期間が示唆されているが
る
28
,曝露から症状出現までの間隔はそれよりも長くなると考えら
29
。そのため,医療関連クロストリジウム・ディフィシル感染症の症例の多くが入院を経て市中で発症す
※6
る 。サーベイランスの目的で作成されたクロストリジウム・ディフィシル感染症の定義では,医療施設(急
性,長期)を退院後 4 週間以内に発症した市中発症例の場合はその施設に原因があるとすべき、とされてい
る 30。具体的なサーベイランス定義については後ほど概説する。
疫学的状況の推移
近年,クロストリジウム・ディフィシル感染症の疫学的状況が劇的に変化しており,国際的に発生率の上
昇が認められるほか,北米およびヨーロッパでは医療施設内のクロストリジウム・ディフィシル感染症の集
団発生の報告例が増加し,これまでに説明されてきたものよりも重症度の高い感染症が確認されている。ア
メリカでは,全米サーベイランスのデータによると,何らかの診断結果としてクロストリジウム・ディフィ
シル感染症が記載された病院退院者の数が 2000 年から 2003 年の間に 2 倍に増加しており,64 歳以上では際
立って増加している(図 3.2)4。
人口 100,000 人当たりの退院者数
15~45 歳
46~64 歳
64 歳以上
図 3.2.
アメリカで短期入院から退院し,何らかの診断結果としてクロストリジウム・ディフ
ィシル関連疾患が記載された患者の年齢別割合 4
出典:McDonald LC, Owings M, Jernigan DB, 2006.
※6 監訳注:米国では平均在院日数が我が国と比較して極端に短い。従って我が国では入院期間中に観察される院内発
生の下痢症としてのクロストリジウム・ディフィシル感染症の多くが,米国では退院後にも発症する頻度が高くな
る。
10
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
さらに最近の疫学統計では,クロストリジウム・ディフィシル感染症が認められた退院患者の数が 2001~
2005 年に 2 倍以上に増加したことが明らかにされ,2001 年の約 149,000 例が 2005 年には 300,000 例超に増加
している 31。退院者 10,000 例当たりのクロストリジウム・ディフィシル感染症感染率にも同程度の増加が認
められており,クロストリジウム・ディフィシル感染症が認められた退院者の急激な増加が単に病院退院者
の増加によるものではないことを示している。アメリカ国内のクロストリジウム・ディフィシル感染症症例
の地理的な分布をみると北東部が最も感染率が高く,次いで中西部,南部となっている。65 歳以上の人に最
も多く,クロストリジウム・ディフィシル感染症患者の 2/3 超を占めており,クロストリジウム・ディフィ
シル感染症が認められた退院者の割合が最も増大している
31
。しかし,変化し続けている最近の疫学的状況
は,これまで低リスクとされてきた集団にクロストリジウム・ディフィシル感染症の報告が出るようにもな
ってきており,健常な周産期女性の重症例がみられるほか,最近医療の場に足を踏み入れたり,抗菌薬に曝
露したりしていない市中の小児や健常人でも報告が増加している 32。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生率が上昇しているこの期間に,重症度が高くなり,クロス
トリジウム・ディフィシル感染症関連の合併症および死亡者の数が多くなっていることを示すデータが多数
得られている。カナダのケベック州,次いでアメリカの病院でクロストリジウム・ディフィシル感染症の集
団発生の報告が出され,重症例が記載されており,これまでの報告よりも結腸切除,治療失敗例および死亡
者の数が多くなっている
15,18,27
。2004 年には,ケベック州の病院にみる院内感染クロストリジウム・ディフ
ィシル感染症の 30 日寄与死亡率(attributable mortality)が 6.9%となり 27,1997 年にカナダの病院で確認され
た 1.5%という数字 33 を上回った。寄与死亡率とは,クロストリジウム・ディフィシル感染症が原因であると
考えることができる死亡者数または割合を指す。アメリカでは,死亡証明書のデータから,1999 年に人口 100
万人当たり 5.7 人であったクロストリジウム・ディフィシル感染症による死亡率が 2004 年には 100 万人当た
り 23.7 人に増大していることが明らかにされた(図 3.3)2。
クロストリジウム・ディフィシルの強毒性の流行株がアメリカの 6 つの州の少なくとも 8 ヵ所の病院とケ
ベック州の集団発生を引き起こし,続いてヨーロッパで集団発生を引き起こしていたことが確認された
18,27,34,35
。この流行株は BI/NAP1/027 と命名され,以前は病院の菌株には認められなかった種類の毒素を産生
36
する 。BI/NAP1/027/toxinotype III 株は in vitro で toxinotype 0 株の 16 倍の濃度の毒素 A,23 倍の濃度の毒素
B を産生することが確認されている 34。この菌株のもうひとつの特徴にバイナリー毒素(binary toxin)と呼ば
れる毒素の産生が挙げられるが,その役割は未だ明らかにされていない。ただし,バイナリー毒素(binary
toxin)を産生する菌株の場合,下痢が重度になると考えられる
37
。BI/NAP1/027 株にみる強毒性の原因は,
毒素 A および B の産生量の増大やバイナリー毒素(binary toxin),その他の知られていない因子の組み合わ
せであると考えられる。
感染制御・疫学専門家協会
11
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
図 3.3. 1999~2004 年のアメリカにおける人口 100 万人当たりの年間クロストリジウム・ディフィシル関連
死亡率 2
出典:Redelings MD, Sorvillo F, Mascola L, 2007.
毒性の増強とは別に,この菌株の増殖の原因となるもうひとつの特徴にフルオロキノロンクラスの抗菌薬
に対する高レベルの耐性が挙げられる
18
。BI/NAP1/027 分離株は以前から存在していたが,従来の菌株では
フルオロキノロンに対する耐性が比較的低く,感染症の集団発生を引き起こすとは考えられていなかった。
BI/NAP1/027 株はアメリカでは 2007 年 11 月現在,少なくとも 38 の州で(www.cdc.gov/ncidod/dhqp/id_Cdiff_
data.html を参照)
(図 3.4)
,カナダでは 7 つの州で検出されているほか 38,イギリスおよびヨーロッパのその
他の地域では集団発生を引き起こしている 34,39。
クロストリジウム・ディフィシル BI/NAP1/027 株が検出された州(N=38)2007 年 11 月現在
2007 年 11 月 9 日更新
ワシントン D.C.
ハワイ
アラスカ
図 3.4.
クロストリジウム・ディフィシル BI/NAP1/027 株が検出された州(n=38)
。2007 年 11 月現在。
出典:CDC(www.cdc.gov/ncidod/dhqp/id_Cdiff_data.html)
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プエルトリコ
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
小児にみられるクロストリジウム・ディフィシル感染症
現時点で,小児のクロストリジウム・ディフィシル感染症についてはわからないことが多いものの,小児
では成人よりもクロストリジウム・ディフィシル感染症がはるかに少なく,乳幼児の 2~70%に毒素産生株
の定着を含め,無症候性にクロストリジウム・ディフィシルが定着していることがわかっている
40,41
。年齢
とともに定着率が低下し,2 歳の時点で約 6%に下がるが,2 歳以上の小児では保菌率が成人とほぼ同じにな
る(約 3%)
。
乳児には生後 1 週間のうちに早くも保菌が認められる 42。クロストリジウム・ディフィシルに関する危険
因子を検討した研究では,分娩様式の差や調整乳を与えるか母乳を与えるかという問題による一定の連関を
明らかにすることはできていない。しかし,新生児集中治療室(NICU)ではクロストリジウム・ディフィシ
ルの院内獲得に関するデータが豊富であり,NICU における環境のクロストリジウム・ディフィシル汚染が
明らかにされている 43。
大半の研究では,1 歳未満の乳児のクロストリジウム・ディフィシルの保菌と感染症との疫学的な関係を
明らかにすることができていない。たとえば,スウェーデンの 1 件の研究では,生後 1 週間から 1 歳の健康
な乳児(17%)と下痢のある 6 歳未満の小児(18%)から同じ頻度でクロストリジウム・ディフィシルが分
離された 44。外来患児を対象とする 1 件の研究では,下痢のある患児 7%,健常対照 15%からクロストリジ
ウム・ディフィシルが分離されている。クロストリジウム・ディフィシルのある小児の方がクロストリジウ
ム・ディフィシルのない小児よりも年少だった(平均年齢 8.2 ヵ月,9.8 ヵ月)
。抗菌薬を投与されていたの
は 22%にとどまる
59
。別の研究では,下痢のある小児 618 例のうち 4.2%と,ほぼ同数の健常対照に毒素 B
46
が確認された 。
NICU の患児を対象とする対照研究の大半でも,ほぼ同じ観察結果が得られている。1 室の NICU に収容さ
れた患児の 55%の糞便からクロストリジウム・ディフィシル毒素が検出されているが,毒素陽性の乳児でも
毒素陰性の乳児でも,壊死性腸炎をはじめとする腸疾患の徴候がみられる頻度は同じだった
47
。孤発例の報
告では,特に腸に基礎疾患がある場合など,乳幼児には時に重症のクロストリジウム・ディフィシル感染症
がみられることが示唆されている。
幼児のクロストリジウム・ディフィシル感染症は,酵素免疫測定法(EIA)など,毒素 A および B によく
用いられる検査法がこの年齢群では特異性に欠けるため,正確な診断が困難になっている。
2004~2006 年に,
ジョージア州のある病院で未熟児にクロストリジウム・ディフィシル毒素陽性の糞便の増加が確認された。
乳児 5 例が壊死性腸炎と診断された。米国疾病制御予防センター(CDC)で EIA により,凍結させた糞便検
体 26 検体を再検査したところ,5 検体に毒素が確認されるにとどまった。いずれの検体の培養からもクロス
トリジウム・ディフィシルを分離することはできなかったが,全検体の 50%に他の菌種のクロストリジウム
属菌が発見されている(L. Clifford McDonald, CDC, 私書)。
症状がないままクロストリジウム・ディフィシルを保菌している幼児でも,他人に伝播させ感染症を発症
させる感染源となりうる。19 歳女性が,出産直後にクロストリジウム・ディフィシル感染症を発症した。女
性の症状はメトロニダゾール治療によって消失したが,その後 3 回再発した。無症状の乳児は母親から分離
されたクロストリジウム・ディフィシルと同一の菌株のキャリアであることが確認され,この乳児が母親に
再発したクロストリジウム・ディフィシル感染症の感染源であることが示唆された 48。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
B1/NAP1/027 の出現は,小児のクロストリジウム・ディフィシル感染症の疫学的状況を変えつつあると考
えられる。B1/NAP1/027 は最近医療施設に足を踏み入れていない場合でも,ことによると最近の抗菌薬使用
歴がない場合でも,成人患者,小児患者の両者に重症の疾患を引き起こしている。2005 年には CDC が,最
近の抗菌薬使用歴がない健康な小児など,これまで疾患のリスクが低いとされていた集団のクロストリジウ
ム・ディフィシル感染症重症例を報告している 32。ある三次医療小児病院で実施された 5 年後向き研究では,
市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症によって救急治療部を受診した小児の増加が明らかにさ
れた。43%は最近の抗菌薬使用歴がなかった 49。
乳幼児にみられるクロストリジウム・ディフィシルの病原性,流行株 B1/NAP1/027 に起因する小児の一連
の疾患,小児患者のクロストリジウム・ディフィシル感染症の確認に最も適した診断的手段に関する私たち
の知識は依然として不足している。この集団の疾患について理解を深めるには慎重な検査と,首尾一貫した
定義を用いた前向きのサーベイランスが不可欠である。
1995 年にアメリカ医療疫学学会(Society for Healthcare Epidemiology of America,SHEA)によって発表され
たガイドラインでは,1 歳未満の幼児の糞便にはクロストリジウム・ディフィシルの検査を実施しないよう
勧めている。全米医療安全ネットワーク(National Healthcare Safety Network,NHSN)のクロストリジウム・
ディフィシル感染症サーベイランス定義では,NICU 収容患者を除外する以外には,成人患者と小児患者と
を区別していない。その他の 1 歳未満の患児は特に除外されていないが,この集団では偶発的な保菌を真性
のクロストリジウム・ディフィシル感染症と鑑別するのが依然として困難である。ほかにもこれまで疾患の
リスクが低いとされていた集団で変化を続けている疫学的状況に鑑みると,医師に向けた手引きの追加が当
然必要になる。この集団の疫学について理解を深めるには,NICU 収容患者を含め,乳幼児のクロストリジ
ウム・ディフィシル感染症の体系的評価が不可欠である。
小児のクロストリジウム・ディフィシル感染症に関する診断的評価のガイドラインが提案されている(L.
Clifford McDonald, Ad Hoc Clostridium difficile Surveillance Working Group, 私書)。さらに情報が得られるまでは,
1 歳未満の小児に対するクロストリジウム・ディフィシルの日常検査を制限するのが賢明であると思われる。
検査を実施する場合は,2 種類以上の診断手法を利用する必要がある。たとえば,他の検査に加えて,培養
や毒素(またはその両者)の検査を実施する必要がある。診断の確定や流行株の検出には,特殊な専門的技
術をもつ保健機関やセンターの検査に備えた微生物学的検査のための検体,手術検体および剖検検体の保存
が有用である。感染症の集団発生が疑われる場合は調査が不可欠である。
年齢とともに無症候性の保菌が減少することから,下痢が認められ最寄りで抗菌薬使用歴がある 1~2 歳の
小児には,ほかにさらに頻繁にみられる病原体が確認されなかった場合は特に,クロストリジウム・ディフ
ィシルの検査を検討する必要がある。
下痢が認められ,最近の抗菌薬使用歴がある 2 歳以上の小児には,年長の小児および成人と同じ方法で検
査することができる。最近の抗菌薬使用歴がない健康な小児に感染症が確認されている場合,クロストリジ
ウム・ディフィシルの検査を検討しても構わないが,その他の診断結果が得られる可能性の方が高い。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
伝播経路
クロストリジウム・ディフィシルの伝播経路を考慮する場合は,次の基本的な概念に注意を払うことが重
要である。
• クロストリジウム・ディフィシルは病院環境と病院のさまざまな表面で生存することができる。この微生
物が好ましくない環境条件から自らを守ろうとする時には,芽胞型(spore form)をとることである。※7
• 患者や医療従事者が栄養細胞と芽胞の両者により汚染された表面に接触すると,クロストリジウム・ディ
フィシルを伝播させたり,獲得したりする恐れがある。
• 糞口経路で伝播するため,予防策の一環として,この微生物が口の中に入る恐れのある動作に対処しなけ
ればならない。
医療環境でのクロストリジウム・ディフィシルの生存
クロストリジウム・ディフィシルは偏性嫌気性菌であり,その栄養細胞は大腸の外に出て概ね 24 時間以内
と,急速に死滅する
50,51
。このことから,クロストリジウム・ディフィシルは感染力の高い微生物ではない
と思えるかもしれない。しかし,クロストリジウム・ディフィシルは,環境中で何ヵ月も生き続けることが
でき,清浄・消毒手段に対して高い耐性を示す芽胞を産生する
50,51
。クロストリジウム・ディフィシルは体
内に取り込まれても,芽胞のおかげで胃酸の殺菌作用に耐え,胃を通過して生き残ることができる。芽胞は
体内に取り込まれると発芽して毒素を産生し,感染症を引き起こす。このため,環境清浄・消毒ではクロス
トリジウム・ディフィシルの栄養型,芽胞型の両者が重要になる。
医療環境から患者へのクロストリジウム・ディフィシルの伝播
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシルの二大感染源は感染したヒト(症候性,無症候性の別
を問わない)および無生物である。症候性の腸管感染症のある患者が大きな感染源であると考えられる 52。
環境がクロストリジウム・ディフィシルの芽胞で汚染される度合いは,患者の重症度と比例している 6。た
だし,無症候性の保菌患者も汚染源となる可能性があると考えなければならない
56
。ほかにも,電子体温計
や汚れた室内便器など,患者ケア用品がクロストリジウム・ディフィシル感染症の伝播に関与している 53。
医療従事者の手に付着して短時間で運搬されることによる患者へのクロストリジウム・ディフィシルの伝
播が,最も可能性の高い伝播経路であると考えられている。手袋の使用によってクロストリジウム・ディフ
ィシル感染症感染率が低下していることが,手による運搬の重大性の強力な裏づけとなる
54
。アルコールは
クロストリジウム・ディフィシルの芽胞を死滅させるのに効果的ではないが,擦式アルコール手指消毒剤の
使用の増加にしたがってクロストリジウム・ディフィシル感染症感染率が上昇することは確認されていない。
病院で集団発生が起こっている場合やクロストリジウム・ディフィシル感染率が上昇しつつある場合は,ク
ロストリジウム・ディフィシル感染症が確認された患者のケアにあたるときに必ず医療従事者が流水と石け
んで手を洗うことが有益であると考えられる 55。
※7 監訳注:芽胞形成菌は 2 数分裂し自己増殖可能な栄養細胞のサイクルと 1 が 1 にしかなれずにいる芽胞のサイクルの
2 つの生活史を巧みに生かし生存している。
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15
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
患者ケア業務による伝播
クロストリジウム・ディフィシルの糞口伝播の機会となる患者ケア業務が多数ある。たとえば,次のよう
な業務が挙げられる。
• 直腸温の測定に使用した電子体温計の共用(プローブを交換し,プローブカバーを使用していても,握り
がクロストリジウム・ディフィシルで汚染される可能性がある)
• 手または用具が汚染された状態での口腔ケアおよび口腔吸引
• 汚染された手指や食物,薬剤による食物または薬剤の投与
• 挿管などの救急処置
• 手指衛生の実行が不十分
• 患者ケア用品の消毒が不十分または不徹底
• 適切な消毒をせずに患者ケア用品を共用
• 環境清拭が不十分
このような具体例は,クロストリジウム・ディフィシルの糞口伝播を招きかねない数々の業務を洗い出す
のに有用である。このように,予防策を立案する場合は,それまで認識されていなかったか疑いが向けられ
ていなかった伝播経路を確認するべく,上に挙げたような伝播の機会を考慮するほか,患者ケア業務を観察
することが重要である。
16
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
診断
下痢または腹痛の症状があり,最近の抗菌薬使用歴があるか,最近医療の現場に足を踏み入れたことがあ
る患者にはクロストリジウム・ディフィシル感染症を疑わなければならない
52
。最近の抗菌薬使用歴がない
患者や最近医療施設に足を踏み入れていない患者など,“低リスク集団”にも重症のクロストリジウム・ディ
フィシル感染症が報告されており,発熱または腹痛を伴う下痢が 3 日以上続いている患者にはクロストリジ
ウム・ディフィシル感染症を考慮しなければならない
32
。後述のサーベイランス定義を参照のこと。クロス
トリジウム・ディフィシル感染症は臨床検査によって確認されることが最も多く,クロストリジウム・ディ
フィシルまたはその毒素の検出に用いる臨床検査法にはいずれも長所と短所がある。そのため,各施設で用
いられる検査法を熟知しておくことが不可欠である。
誰に,どのくらいの頻度で検査を実施すべきか?
下痢が認められる患者など,クロストリジウム・ディフィシル感染症の疑いがある患者のクロストリジウ
ム・ディフィシルを検査するにとどめることが推奨される
52,57
。無症状の患者をスクリーニングしたり,治
療が奏効している患者に“治癒判定目的の検査”を実施したりしないことが推奨される 52,57。このような推奨事
項にはいくつか理由がある。培養を実施しないクロストリジウム・ディフィシルあるいはその毒素の検出に
よる臨床検査法は,いずれも症状のある患者にのみクロストリジウム・ディフィシル感染症を診断するべく
開発され質保証が担保されたものである。このような検査法の感度(その疾患や病態のある人の検査結果が
陽性になる見込み)
,特異度(その疾患や病態のない人の検査結果が陰性になる見込み)および陽性反応適中
率(検査結果が陽性であった人に実際にその疾患や病態がある見込み)は無症状の患者では低くなり,結果
が偽陽性または偽陰性となることが多いと考えるに足る理由がたくさんある。さらに,この情報は臨床的に
有用な情報を何らもたらすことはなく,患者に害を及ぼす恐れがある。
クロストリジウム・ディフィシルの無症候性保菌の状態の患者に接触予防策を実施することは推奨されて
いない。患者満足度を低下させるほか,患者を個室に移すことや不要なガウンと手袋の使用により,医療費
の増大を招くことになる。いくつかの報告では,転落,監視時間の減少,医療ミスなど他の有害事象により,
隔離が患者の安全に及ぼす影響が問題視されている。
治療終了時に検査結果が依然として陽性であってもクロストリジウム・ディフィシルの再発を予測するわ
けではなく,無症候性の患者の検査結果がクロストリジウム・ディフィシル陽性の場合抗菌薬による無用な
治療を実施することになりかねず,逆にそれによって患者がその後クロストリジウム・ディフィシル感染症
を発症するリスクが増大する恐れがある
59
。また,無症候性の患者に対するクロストリジウム・ディフィシ
ルの検査は,糞便を採取して検査するのに看護と微生物学検査の時間を要するほか,検査自体の費用も必要
とする。
よくある質問のひとつに,初回の検査が陰性であった場合,検査の感度の低さが懸念されるとすれば,下
痢のある患者にどのくらいの頻度で検査を実施すべきかという問題がある。数件の研究では,再検査を実施
すると患者のさらに 10%が陽性となることが明らかにされている 52。前回の検査結果が陰性であった患者の
方がクロストリジウム・ディフィシル感染症の有病率が低くなることに注意する必要がある。クロストリジ
ウム・ディフィシル感染症の有病率が低下すると,検査の陽性反応適中率も低下し,陽性であった検査結果
が偽陽性になる可能性が高くなる。偽陽性の増加と追加検査の効率の低さは,費用対効果の高い手段として
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17
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
再検査の日常的利用を後押しするものではない 52。
クロストリジウム・ディフィシルの検査に用いる糞便の採取と輸送
クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断を確定するには水様便または軟便のみ採取し,検査しなけ
ればならない。検体を清潔な耐水性の容器に入れて提出する。一部の検査法の偽陽性率を高める可能性もあ
る輸送培地は不要である 59。可及的速やかに検査検体を輸送し,検査の実施まで 2~8℃で保管する。
室温で保管すると一部の検査法の感度が低下するが,これは毒素の不活性化によるものと考えられる
60
。
60
同じ理由により,検査検体の凍結融解の繰り返しも避けるべきである 。
クロストリジウム・ディフィシル感染症診断のための臨床検査
クロストリジウム・ディフィシル感染症は毒素が媒介する疾患であり,毒素産生能のあるクロストリジウ
ム・ディフィシル分離株だけがクロストリジウム・ディフィシル感染症を引き起こすため,大半の診断検査
ではクロストリジウム・ディフィシルの毒素 A または毒素 B
(またはその両者)
の検出を実施している
(表 6.1)
。
細胞系を培養して毒素 B の細胞変性作用を検出する細胞傷害試験は,クロストリジウム・ディフィシル感染
症診断に用いるゴールドスタンダードの臨床検査とされている
52
。ただし,この検査法の感度にはクロスト
リジウム・ディフィシル培養と比較すると 67%という低い数字がいくつか報告されている 52。この検査法の
主な長所は毒素 A や B の免疫測定法よりも感度が高いことにある。短所には,総待ち時間が 48~72 時間と
長いことや,検査室がこの検査を実施するには細胞培養を継続できなければならないことが挙げられる。
アメリカでは,毒素 A および B の酵素免疫測定法(EIA)がそのコストの低さ,使いやすさ,総待ち時間
の短さから,クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断に最も広く用いられる臨床検査法となっている。
測定法には毒素 A のみ検出するものもあれば,毒素 A,B 両者を検出するものもある。これは重要な違いで
ある。クロストリジウム・ディフィシルの菌株には毒素 B のみ産生するものがある。このような菌株は毒素
A,B 両者を産生する菌株と同じ種類の疾患をもたらす 52。このような菌株は毒素 A のみ検出する EIA では
見落としてしまう。EIA には先に言及した細胞傷害試験を上回る長所(コストが低い,使いやすい,総待ち
時間が短い)がいくつかあるが,その感度は細胞傷害試験と比較すると 63~94%の範囲であり,特異度は 75
~100%となっている 52。
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase,GDH)はクロストリジウム・ディフィシルによ
って産生される蛋白質であり,糞便中の GDH を検出する検査法がある。当初,この検査法はクロストリジウ
ム・ディフィシルに特異的なものと考えられていたが,その後,他の細菌の菌株がこの検査法と交差反応を
起こすことが明らかにされた 52。この検査法は比較的コストが低く,迅速に結果が得られる。新たな GDH 検
査法は感度が 85~95%,特異度が 89~99%となっている 62。この検査法はクロストリジウム・ディフィシル
に特異的なものではなく,毒素を産生しない(疾患を引き起こすことがない)クロストリジウム・ディフィ
シル菌株も検出する場合がある。そのため,この検査法をクロストリジウム・ディフィシル感染症診断に単
独で用いるべきではない 52。
18
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 6.1.
クロストリジウム・ディフィシル感染症に関するさまざまな臨床検査学的診断法の比較
臨床検査
長所
短所
毒素の酵素免疫測定法
安価,迅速
細胞傷害試験よりも感度が低い
毒素 A しか検査できないものもある
(EIA)
細胞傷害試験
毒素 EIA 検査よりも感度が高い
あらゆる検査室で実施できるわけではない
結果が出るまで 48~72 時間かかる
グルタミン酸デヒドロゲナ
迅速,安価,感度が高い
特異的ではない(毒素産生能のないクロストリジウ
ーゼ検査
初回スクリーニングに用いるこ
ム・ディフィシルや別の細菌が検出される)
とができる
クロストリジウム・
最も感度が高い検査法
特異的ではない(毒素産生能のないクロストリジウ
ディフィシル糞便培養
クロストリジウム・ディフィシル
ム・ディフィシルが検出される),労力を要する
分離株が得られる
結果が出るまで 72 時間以上かかることがある
GDH 検査は陰性適中度が高いため,数名の研究者がスクリーニング検査として GDH 検査を研究している
61,62,63
。GDH 検査の結果が陰性であった糞便は陰性と報告され,それ以上は検査を実施しない。GDH が陽性
であった糞便には細胞傷害試験で毒素の検査を実施する。細胞傷害試験の結果が陽性であった糞便はクロス
トリジウム・ディフィシル感染症の診断が下される。細胞傷害試験の結果が陰性であった糞便は陰性と報告
される。この二段階の手法はクロストリジウム・ディフィシル感染症のない(GDH 検査の結果が陰性)患者
を迅速に確認することができる一方で,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者の確認にはさら
に感度の高い細胞傷害試験を利用している。また,この手法は細胞傷害試験を単独で用いるよりも費用対効
果が高くなる 63。
しかるべき条件下では,糞便培養がクロストリジウム・ディフィシルの検出に最も感度の高い臨床検査法
である。しかし,培養に費用と時間を要するため,アメリカではまれにしか実施されていない。クロストリ
ジウム・ディフィシルの同定には多くの場合,特徴的なコロニーの形態とグラム染色の外見が得られれば十
分である。クロストリジウム・ディフィシル分離株の実に 25%は毒素を産生せず,クロストリジウム・ディ
フィシル感染症を引き起こすことがないため,クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断を確定するに
はクロストリジウム・ディフィシル分離株の毒素産生能を検査する必要がある
52
。糞便培養による菌株の確
保は分子疫学的な解析の実施に必要であるため,集団発生の有無や,感染源および制御策の評価には有用な
手段である。
分子タイピング
クロストリジウム・ディフィシルには数種類の分子タイピング法があるが,いずれも研究施設以外ではル
ーチンに実施することができない。クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断は毒素試験に依存してお
り,クロストリジウム・ディフィシル培養をルーチンに実施することはなく,分子タイピングのために分離
株が得られる機会は多くない。クロストリジウム・ディフィシルの詳細な疫学的研究には分子タイピングが
必要であり,クロストリジウム・ディフィシル感染症の疫学的状況に変化が生じている場合は有用である,
日常の患者ケアには必要ではない。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
臨床検査以外の検査
クロストリジウム・ディフィシル感染症は偽膜性大腸炎症例の 90%以上の原因となっており,S 状結腸鏡
検査または大腸内視鏡検査を用いた偽膜の直接可視化によって診断することができる。直接可視化では偽膜
性大腸炎が発見されず,組織病理学検査で偽膜性大腸炎の証拠が得られる患者もいる。クロストリジウム・
ディフィシル感染症の診断が考慮されるが,偽膜性大腸炎が確認されるのはクロストリジウム・ディフィシ
ル感染症の全症例の 50%にとどまる 64。
腹痛またはイレウスのある患者に大腸炎が確認される場合,クロストリジウム・ディフィシル感染症の診
断を示唆するには腹部 CT スキャンが有用である。ただし,このようなスキャンは感度および特異度が低い
ため,クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断を考慮に入れたり除外したりする拠り所とすべきでは
ない 65,66。また,腹部 CT スキャンの所見単独ではクロストリジウム・ディフィシル感染症の重症度との相関
は認められない 65,66。
20
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
サーベイランス
サーベイランスとは健康関連の事象に関するデータの継続的かつ体系的な収集,分析,解釈および伝達を
指し,罹病率および死亡率を低下させ,健康状態を改善するために利用される。サーベイランスには,プロ
セスに関する尺度(手指衛生,特定のプロトコールに対する遵守率など)や感染率,死亡率,在院日数,医
療費など転帰に関する尺度がある。感染予防策の効果を評価し,変化の兆候を読み取るには,転帰にかかわ
る尺度が特に重要である 7。
医療サーベイランスシステムの基本的な構成要素は以下のとおりである。
• 標準化された症例定義集
• 感染のリスクがある集団の特定と監視
• 統計解析(妥当な分子と分母による割合の計算,発生率が高い場所を特定し,動向を監視するため管理図
を用いた動向分析)
• プライマリケアに関わる医療従事者に結果をフィードバックする 7
• 部長,院長へのフィードバック,病院経営上の管理者さらには役員会や理事会を含めた上層部へのフィー
ドバック
少なくとも,あらゆる医療施設が感染症の大発生を確認する能力を備え,人,場所および時間の面から共
通点を洗い出すほか,予防策を考え,実行に移し,評価する体系的な疫学調査のノウハウをもっていなけれ
ばならない。クロストリジウム・ディフィシルについては,臨床的疾患の監視か,代替策となる検査情報に
基づくサーベイランス指標を用いることによって遂行することができる。
臨床的クロストリジウム・ディフィシル感染症サーベイランスのための
症例定義
特定の 1 病棟や施設を別の病棟や施設と比較したり,経時的に動向を監視したり,感染を減少させる介入
の効果を評価したりするために情報を利用しようとする場合は,標準化された症例定義が決定的に重要であ
る 30。McDonald らが提案した定義集をここで要約し,サーベイランスの目的に推奨する 30。サーベイランス
定義が必ずしも臨床的定義と同じものとはかぎらず,臨床的な意志決定および治療に適したものではない場
合もありうることをご承知おきいただきたい。
クロストリジウム・ディフィシル感染症症例とは,下痢(形を成さず,検体採取容器の形状に適合する糞
便)または中毒性巨大結腸(大腸の異常な拡張が X 線で確認される)の症状があり,ほかに病因が明らかで
はなく,次の項目に該当する個々の患者と定義される。
1. その患者の下痢便検体がクロストリジウム・ディフィシル毒素 A または B(またはその両者)か毒素産生
クロストリジウム・ディフィシルの検査で陽性を示す
または
2. 手術時または内視鏡的に偽膜性大腸炎が発見される
または
3. 組織病理学検査で偽膜性大腸炎が認められる 30
感染制御・疫学専門家協会
21
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症
(Healthcare Facility-onset, Healthcare Facility-associated CDI)
医療施設とは,専門的看護を提供し,患者を少なくとも一晩入院させる急性期医療,長期急性期医療,そ
の他の施設と定義される 30。
医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症に区分される患者とは,医療施設
に入院後 48 時間以上経過してから下痢またはクロストリジウム・ディフィシル感染症の症状を発現し,上に
定めた基準 1, 2, 3 のいずれかを満たす患者と定義される 30。全米医療安全ネットワーク(NHSN)はさらに明
確に入院後第 3 暦日としている。
医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症は,医療施設を退院後 48 時間以内
に下痢またはクロストリジウム・ディフィシル感染症の症状を発症し,上に定めた基準 1, 2, 3 のいずれかを
満たす患者とも定義されている。
市中発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症
市中発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症に区分される患者とは,医療施設を最
後に退院してから 4 週間以内に症状が発現したという条件で,クロストリジウム・ディフィシル感染症の症
状が市中で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に発症した患者と定義される 30。
市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症
(Community-associated CDI)
市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症に区分される患者とは,医療施設を最後に退院して 12
週間以上経過してから症状が発症したという条件で,クロストリジウム・ディフィシル感染症の症状が市中
で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に発症した患者と定義される 30。
分類不能型クロストリジウム・ディフィシル感染症
以上の基準のいずれにも該当しない患者の場合は,分類不能型クロストリジウム・ディフィシル感染症と
定義される 30。
再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症(Recurrent CDI)
再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症の患者とは,治療の有無にかかわらず消失した前回の症状
の発症から 8 週間以内にクロストリジウム・ディフィシルを発症した患者と定義される。表 7.1 はここまで
にまとめた定義を示したものである。
22
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 7.1.
クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)のサーベイランス定義
症例の型別
定義
医療施設発症-医療施設関連型
CDI 症状が入院後 48 時間以上経過してから出現(第 3 暦日)。
(HO-HCFA)
市中発症-医療施設関連型
医療施設を最後に退院してから 4 週間以内に症状が出現したという条件で,CDI 症
(CO-HCFA)
状が市中で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に出現。
市中関連型
医療施設を最後に退院して 12 週間以上経過してから症状が発症したという条件で,
(CA-CDI)
CDI 症状が市中で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に出現。
分類不能型
以上の基準のいずれにも該当しない CDI 症例患者。
再発型 CDI
前回発症時の症状が消失しているという条件で,前回の症状出現から 8 週間以内に
CDI が発症。
図 7.1 は時系列を視覚的に表したものであり,定義の適用に役立つと思われる。入院期間(*)中に症状を
発症した症例患者の場合,患者が医療施設を退院したのが 4 週間前以降であれば,市中発症-医療施設関連
型クロストリジウム・ディフィシル感染症(CO-HCFA)に区分される。患者が医療施設を退院したのが 12
週間前から 4 週間前の間であれば,分類不能型に区分される。患者が医療施設を退院したのが 12 週間前より
さらに前であれば,市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症(CA-CDI)に区分される。入院後
48 時間以上経過してから症状を発症した場合は,医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフ
ィシル感染症(HO-HCFA)に区分される 30。
退院
入院
48
時間
4 週間
8 週間
症状発現
分類不能
図 7.1.
クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)曝露の定義に関する時系列
出典:McDonald LC, Coignard B, Dubberke E, et al., 2007.を利用。Copyright © 2007, Society of Healthcare Epidemiology of
America.
サーベイランスのための補足
1. 症状があり,最後に検査した検体が陽性を示してから 2 週間以内に毒素試験で再び陽性を示した患者の場
合,同じクロストリジウム・ディフィシル感染症症例の継続であり,新たな症例ではない。
2. 症状があり,最後に検査した検体が陽性を示してから 2 週間後から 8 週間後の間に毒素試験で再び陽性を
示した患者の場合,再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症の症例となり,新たな症例ではない。
3. 症状があり,最後に検査した検体が陽性を示してから 8 週間以上経過して毒素試験で再び陽性を示した患
者の場合,新たなクロストリジウム・ディフィシル感染症の症例となる 30。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
サーベイランスの実施
サーベイランスの目的に応じて,上に挙げたクロストリジウム・ディフィシル感染症症例定義を全部適用
するのが妥当である場合も一部のみ適用するのが妥当である場合も考えられる
30
。医療施設への入院がクロ
ストリジウム・ディフィシル感染症の危険因子と認識されているため,医療施設で実施するサーベイランス
の当初の目的は第一に医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症を追跡し,比
較することでなければならない。
サーベイランスは施設全体で実施し,ラインリスト(line list)を Microsoft Excel,Microsoft Access,SPSS
(社会科学のための統計パッケージ),その他これに類する電子的手段により,検索可能なデータベースファ
イルに保存する。データベースには少なくとも次の項目を記載する必要がある。
• 患者の識別(氏名。または診療記録番号など識別できるもの)
• 生年月日
• 入院日
• 糞便採取時の患者の居場所(病棟と病室)
• クロストリジウム・ディフィシル感染症の症状を発症した日付(下痢など)
• 糞便採取日
• 退院日
基礎疾患の診断,治療(抗菌薬など),処置(内視鏡,外科的介入など)
,ほかにクロストリジウム・ディ
フィシルへの曝露や獲得のリスクをもたらしたと考えられる事柄などの要素を含め,その他の情報を収集す
ることも考えられる。そのほか,入院歴の有無,前回の入院の時期,入院前の居住地や居場所(長期ケア施
設など別の医療施設からの転院)
,退院時の状況(死亡,退院して長期療養,帰宅など)を記録しておくこと
も有用であろう。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の感染率
クロストリジウム・ディフィシル感染症の感染率の計算に用いる分母 30
• 割合は,のべ入院日数 10,000 日当たりの報告期間(通常は 1 ヵ月)症例患者数で表す必要がある。
• この割合の計算は(1 ヵ月のクロストリジウム・ディフィシル感染症症例患者数/1 ヵ月ののべ入院日数)
× 10,000 = のべ入院日数 10,000 日当たりの割合となる。
• この割合は 1 日当たりの患者のクロストリジウム・ディフィシル感染症リスクを反映するものであり,患
者の入院日数に幅があるさまざまな種類の医療施設に有用である。
• この割合は施設全体のクロストリジウム・ディフィシル感染症感染率を他の組織と比較するほか,その医
療施設の異なる病室や病棟,部門を比較するのに使用することもでき,病室特異的,病棟特異的,部門特
異的な分母を用いることができる。
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感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
ケア提供者へのフィードバックと比較を目的とする
クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率の表示
管理図(Control charts)
医療施設全体や病室/病棟/部門別のクロストリジウム・ディフィシル感染症症例数またはクロストリジ
ウム・ディフィシル感染症感染率を表示するには,管理図を作成する方法がある。
• X 軸はサーベイランス期間(月)
• Y 軸はクロストリジウム・ディフィシル感染症症例数またはクロストリジウム・ディフィシル感染症感染
率
• 管理図は医療施設や病室/病棟/部門別の感染率が範囲外であるかどうか判断し,動向を監視するのに有
用である。
•
医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症,市中発症-医療施設関連型ク
ロストリジウム・ディフィシル感染症,市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症,分類不能
型クロストリジウム・ディフィシル感染症,再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症のそれぞれ
に別々の図を用いることにより,サーベイランスのさまざまな側面を示すために管理図を使用すること
ができる。施設および共同体にかかわる情報提供および転帰の監視に力点を置かなければならない。
• 管理図は,スタッフが図に反映されていることを理解するほか,クロストリジウム・ディフィシル感染症
の感染率を減少させるべく実施した介入の結果を確認することができるよう,個々の患者ケア病棟に張り
出したり,現場教育に使用したりすることもできる。図 7.2 に管理図の一例を示している。
• 管理図の使用は,クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率を監視するほか,感染率が統計的管理の
範囲内または範囲外にある時期を視覚的に表すのに有用な手段である。
図 7.2 に示す管理図を使用した場合,クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率が 3 標準偏差(standard
deviations, SD)を超えると,段階的手法を用いた強化介入を実施する引き金となる。介入の目安とするため
の管理図の適切な利用と引き金の見極めは,感染予防・感染制御委員会の重要な議題である。たとえば,平
均値から 3 標準偏差という目安を当初用いることが,その引き金に関する出発地点となるだろう。時間が経
過し,感染率がゼロに近づくにしたがって,委員会は引き金を調整する選択をしたり,特殊な原因の監視に
用いる別のルールの探索を選んだりすることになる。
管理図に関する詳細な情報については,Infection Control and healthcare epidemiology(ICHE)誌に掲載され
た J.C. Benneyan の論考と,Quality Management in Health Care に掲載された Amin による統計的工程管理の概
説を参照のこと 67-69。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシル臨床分離株
のべ入院日数 1 日あたりの感染率
X 病院,のべ入院日数 1 日あたりの感染率
2006 年 1 月~2008 年 3 月
平均値(Pbar)
= 0.00505
下限 = 0
臨床分離株の日付
特殊な原因に関するルール
1. 1 点が平均値から 3 SD を超える(Pbar)
3. 6 点連続で増大または減少
2. 9 点連続で平均値からみて同じ側(Pbar)
4. 14 点連続で交互に増減
図 7.2. 管理図の例
その他の監視ツール
感染予防師は感染率の監視のほか,介入の時間の記録に他の種類のグラフや図が有用と考えることもある
だろう。図 7.3 は EpiGraphics(APIC で入手可能)を使用して作成した実行流れ図(ランチャート,run chart)
を示す。
実行流れ図は感染率を経時的に示すもので,感染予防師が特定の介入の内容と実施時期を説明するテキス
トボックスを付け加えることができる。このようなチャートは,医療スタッフ,運営陣および病院機能評価
の際の監査官などのグループに活動および結果の包括的概観を提示する場合に役立つ。
発症日別にみた疾患の症例数のグラフを提示するには流行曲線(エピカーブ,epidemic curve/epi curve)を
用いる方法がある。エピカーブによって蔓延パターン,事象の規模,異常値を示す症例,時間的動向に関す
る情報を提示することができる。
クロストリジウム・ディフィシルに関する検査情報に基づくサーベイランス
カルテの見直しによる臨床的感染症のサーベイランスを実施するのではなく,簡略化された選択肢や代替
策として検査情報に基づくサーベイランスを検討することも考えられる。これはあくまで,水様便の検体検
査のみ実施する検査室や,クロストリジウム・ディフィシル保菌に関するスクリーニング培養および毒素試
験は実施しない(いずれも実施すべきではない)検査室と共同で行わなければなければならない。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
医療関連感染症
クロストリジウム・ディフィシル
糞便検体中にクロストリジウム・ディフィシル毒素が同定されれば評価のための分離株とする。入院から症状出現まで
の時間,前回の入院,治療内容によって医療関連感染症であるか,市中関連感染症であるか,市中発症-医療関連感染症
であるか判断することができる。クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬療法に起因する場合と直接伝播に起因する場
合とがある。検出症例数は患者 1 例あたり 1 件と数える。
のべ入院日数 10,000 日当たりの感染者数
最近 12 ヵ月間の
データを病院と
共有
電子直腸プローブを個々の患
者用のデジタル体温計に交換
洗浄に用いる四級アンモニウムを
次亜塩素酸 1:10 に切り替え
臨床薬剤師が薬剤・治療委員会
とともに抗菌剤使用と
ガイドライン遵守について審査
感染率
感染率の
中央値
医療スタッフと患者ケア区域に
結果を報告
医療スタッフに正式発表
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2008
図 7.3.
介入を記載したテキストボックス付きのランチャートの例
検査情報に基づくサーベイランスは,施設全体または特定の病棟や場所に分けて実施することができる。
分母は施設全体または特定の病棟や場所ののべ入院日数とする。
患者が少なくとも 48 時間施設に収容されていたことを,診療記録に記載された正確な入院時刻と発症日時
を(臨床的疾患サーベイランスで実施されるように)見直さずに確認するには,検査室で確認する医療施設
発症疾患の症例を,入院後第 3 暦日以降(入院後 48 時間以上)に初めてクロストリジウム・ディフィシルが
検出された患者に限定する。
陽性患者のラインリスト作成を継続すれば,偶発性または再発性の疾患を確認することもできる。新たな
症例,偶発性の症例とは,新たにクロストリジウム・ディフィシルが認められた患者,または,前回陽性を
示したのち 8 週間以上経過してから検体が陽性を示した患者と定義される。再発性の症例とは,前回陽性を
示したのち 2 週間以上,最大 8 週間経過してから検体が陽性を示した患者と定義される。2 週間前以降に検
体が陽性を示していた患者の場合は感染の継続と判断し,二重にカウントしないようにしなければならない。
動向を探り,集団発生の有無を見極めるには,施設全体または特定の場所に分けて偶発性のクロストリジ
ウム・ディフィシル感染症症例を監視する必要がある。治療の効果を評価するには再発性の疾患を監視する
必要がある。臨床的クロストリジウム・ディフィシル感染症について先に記載した方法で管理図を作成する
こともできるが,情報が検査情報に基づくサーベイランスデータに基づくものであることを反映させるよう,
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27
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
はっきりと表題を記さなければならない。
米国疾病制御予防センター(CDC)はクロストリジウム・ディフィシル感染率を監視し,比較しようとす
る病院のため,検査室クロストリジウム・ディフィシル・モジュールを全米医療安全ネットワーク(National
Healthcare Safety Network, NHSN)に組み入れていく予定である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
予防への取り組み:接触予防策
クロストリジウム・ディフィシル感染症が疑われる患者またはクロストリジウム・ディフィシル感染症と
診断される患者の早期認識が,この疫学的に重大な病原菌の蔓延を防ぐ最初のステップとなる。クロストリ
ジウム・ディフィシルは患者との直接的接触および患者の周囲のものとの間接的接触によって蔓延するため,
この微生物が認められる患者には,HICPAC/CDC 隔離予防策ガイドラインの推奨事項に従って接触予防策を
取らなければならない 7。接触予防策の各項目を遵守することにより,感染の連鎖を断ち切ることができる。
便失禁により環境の汚染が進み長引く可能性が高まれば,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患
者が疾患を蔓延させ,伝播させる大きな脅威となる可能性がある。以下に説明する接触予防策の項目は,ク
ロストリジウム・ディフィシル感染症が疑われる患者やクロストリジウム・ディフィシル感染症と診断され
る患者については遵守しなければならない。
1. 患者の配置
その患者専用のバスルームを備えた個室を割り当てる必要がある。個室が足りない場合は,便失禁のある
患者を優先する。個室に空きがなければ,インフェクションコントロール・チーム(ICT)がリスクを評価し,
患者ケア・チームと協力して最善の患者配置を判断しなければならない(例:クロストリジウム・ディフィ
シル感染症と診断され,ほかに有害な微生物のない別の患者と集団隔離する,そのまま同室者と一緒にする)。
クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者 2 人を集団隔離している場合は,1 人の下痢が治まれば,
なるべくその患者を清潔な病室に移動させる 70。
リハビリテーションプログラムや長期ケア施設,居住看護など,多くのケアの場には個室がないことも考
えられる。ケア・チームは,部屋に他の患者を入れないようにするかどうか判断する必要がある。チームは
このような追加の予防策を取るため,病院経営上の管理者による支援を得なければならない。個室に隔離す
ることが不可能な大部屋では,感染/保菌患者と他の患者が不注意により物品を共用する可能性を減らすた
め,ベッドとベッドの間隔を少なくとも 1m 空けるなど,別の対策を検討する。分離を促すには患者と患者
の間にプライバシーカーテンを引くのが賢明である。立ち入りが制限され,ほかにも予防策が必要な領域を
示すため,床にカラーテープを貼るなどして目印を用いている施設もある。
2. 個人防護具(PPE)
患者から医療従事者,また別の患者への伝播を予防するにはバリアプリコーションが決定的に重要である。
個人防護具は患者の部屋またはスペースに入室する前に着用し,退室する前に廃棄しなければならない。CDC
ウェブサイト(www.cdc.gov/ncidod/dhqp/ppe.html)では,正しい個人防護具着脱法を解説したビデオとポスタ
ー「医療現場における個人防護具(PPE)の選択と使用の手引き(Guidance for the Selection and Use of Personal
Protective Equipment [PPE] in Healthcare Settings)
」を見ることができる。
a. 手袋
手袋は入室する前に着用し,医療従事者が患者のケアに当たる間と患者の周囲のものに接触するときに
は必ず着用しなければならない。さらに,手袋の使用に関する標準推奨事項に従って交換し(汚れがひど
い場合や破れた場合など)
,医療従事者が退室するときに外して廃棄する必要がある。医療従事者が患者
および患者の周囲のものに接触すると,栄養型クロストリジウム・ディフィシルおよびその芽胞に曝露す
る可能性がある。
高頻度接触部位(ベッドレール,ライトのスイッチ,蛇口など)がクロストリジウム・ディフィシルの
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29
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
芽胞の感染源となることがわかっている。クロストリジウム・ディフィシルは鼠径部,胸部,腹部,前腕,
手など,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者のさまざまな部位の皮膚にもみられ,介護者
の手に移動する可能性がある。この保菌状態は下痢が治まっても持続する 71。
b. ガウン
医療従事者が接触予防策の対象となっている人のケアのために入室するときは,ガウンと手袋を着用し
なければならない。手袋だけでも,伝播の予防には手袋とガウンをともに使用するのと同じ効果があると
考えられる 72。しかし,決定的なデータが得られるまで,患者や汚染された備品,患者を取り巻く環境内
で汚染されたと考えられる領域に接触するやりとりには必ず,引き続き手袋とともにガウンを着用すべき
である。
クロストリジウム・ディフィシルのような病原菌を保菌しているか,感染している患者のケアによって,
個人防護具のほか,衣類や制服など個人が身に着けている物が汚染することが考えられる。汚染された衣類
が伝播に直接かかわることは確認されていないが,汚れた衣類によって次の患者に感染病原体が移動する可
能性があるため,クロストリジウム・ディフィシル感染症の重症度に鑑みると,個人防護具を惜しみなく使
用するのが妥当である 73。
3. 患者の移送
患者にクロストリジウム・ディフィシル感染症が認められる場合,患者を部屋またはスペースの外に移動
させるのは医療の上で必要な目的に限定すべきである。患者には自室から移動する前に手指衛生を実行する
よう教育しなければならない。このような対策によって菌の環境への排出を食い止め,抑制することができ
る。
「隔離予防策のための CDC ガイドライン 2007」によれば,移送係は接触予防策が取られている患者を移
送する前に,汚染された個人防護具を外して廃棄し,手指衛生を実行しなければならない。移送先で患者を
扱うには,清潔な個人防護具を着用しなければならない。受け入れ先病棟の職員がその患者に特別に必要な
事柄に対応できるよう,移送前に患者の隔離状態を伝えておく必要がある。
4. 患者ケア用品,器具,機器および環境
クロストリジウム・ディフィシルは,排便や患者または医療従事者の汚染された手指を介して,患者ケア
用品や器具を汚染する。クロストリジウム・ディフィシルが環境の表面で生存性可能であり,交差汚染の予
防に推奨される方法の遵守を必要とする。クロストリジウム・ディフィシルの伝播の拡大が,環境の除染そ
の他の感染予防策に対する遵守不良を示す指標となると考えられる。インフェクションコントロール・チー
ム(ICT)は伝播が拡大しているときをはじめ,感染予防業務に何らかの違反を発見するため,職員を観察し,
しかるべき医療業務への遵守率を評価する必要がある。
クロストリジウム・ディフィシルの芽胞は医療環境の中で何ヵ月も生き続けることができ,その間に患者
に伝播する。表面,機器および(室内便器,浴槽,直腸用電子体温計などの)物品
55
が糞便で汚染されると
クロストリジウム・ディフィシルの芽胞の感染源となり,伝播することになる。芽胞を除去したり,死滅さ
せたりするには,高頻度接触部位や備品を徹底的に洗浄・消毒しなければならない。患者ひとりひとりに別々
のポータブル便器を使用すれば,感染病原体の伝播のリスクを減らすことができる。ポータブル便器を使用
する場合,スタッフはしかるべき個人防護具を使用し,はね散らさないようにして排泄物を取り出さなけれ
ばならない。排泄物を廃棄したのち,室内便器を洗浄・消毒しなければならない。
医療現場のそれぞれが,糞便による汚染(下痢が制御されなかった場合など)が生じたときに表面を洗浄・
消毒する手順を定めておく必要がある。職員が汚染された患者ケア用品を残らず確実に洗浄・消毒するよう
30
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
にする。再使用可能な物品は次の患者に使用する前に洗浄・消毒しなければならない。交差汚染を最小限に
抑えるため,できるだけ患者ひとりひとりに専用の物品を割り当てる必要がある。
5. 接触予防策の解除
現時点では,患者に下痢がみられなくなれば接触予防策を解除することが推奨されている 7。環境の汚染と
患者の皮膚への保菌状態が持続することを理由に,下痢が治まってから 2 日間は接触予防策を継続すること
を推奨する専門家もいる 74。これは強化対応活動の 1 例であり,クロストリジウム・ディフィシル感染症伝
播予防の段階的な対応を取り上げた章で詳しく考察する。
6. 隔離予防策の遵守率の評価
隔離予防策の遵守率を評価することが予防の重要な要素となる。図 8.1 は遵守率を監視するのに用いる手
段の一例である。ウェブサイト www.apic.org/eliminationguides にも掲載されている。
感染制御・疫学専門家協会
31
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
感染予防・感染制御のための隔離に関連した遵守率に関するチェックリスト
監視日時
監視者
予防策/隔離の種別
隔離を 100%遵守しているか
「はい」または「いいえ」をチエック
監視対象者(医療従事者または訪問者)
個人防護具と表示に分け不適切かどうかを記録する
該当するボックスをチェックをする
略号
手指衛生の遵守
ユニット
部屋
擦式アルコール
手指消毒剤
流水+石けん
1
2
3
4
5
6
7
8
図 8.1. 感染予防・感染制御のための隔離に関連した遵守率に関するチェックリスト
32
感染制御・疫学専門家協会
いいえ
7=リハビリテーション
8=検査室
9=食事係
10=施設係
11=その他の医療従事者
12=訪問者
1=医師
2=登録看護師
3=搬送担当者
4=医師助手
5=呼吸器療法士
6=看護助手
9
10
不適切だつた項目にチェックを入れる
はい
手袋
11
ガウン
マスク
表示
12
出典:Loretta Litz Fauerbach, Shands at the University of Florida.
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
予防への取り組み:手指衛生
クロストリジウム・ディフィシル感染症の予防には,現に実施されている手指衛生の遵守率の測定,アセ
スメントおよび評価が必要となる。クロストリジウム・ディフィシルは,伝播を予防する最善の手指衛生の
方法に関して他のどのような医療関連感染症よりも方法が対立している。各現場のクロストリジウム・ディ
フィシル感染症発生率,手指衛生の実施の障害となるもの,環境の清浄度を把握することにより,各チーム
がこの病原菌の伝播を予防するべく,疫学的な動機づけによる正しい介入を選択することができるだろう。
「医療現場における手指衛生のための CDC ガイドライン 2002」によれば,患者に接触したのちに医療従
事者の手がクロストリジウム・ディフィシルで汚染されていることが少なくない。手袋を着用すれば,病院
内のクロストリジウム・ディフィシルの蔓延を顕著に抑えることが可能である。従来の手洗いを実施する必
要性を擦式アルコール手指消毒剤の使用と比較した最新の情報が相矛盾するものとなっている。手洗いによ
く使用される抗菌剤(アルコール,クロルヘキシジン,ヘキサクロロフェン,ヨードフォア,PCMX,トリ
クロサンなど)は芽胞には有効ではない。流水と石けんによる手洗いの有益性は,芽胞を死滅させることで
はなく手から物理的に除去したり菌量を減らすことにある 54。
手袋を外したのち,医療従事者の手は抗菌,非抗菌の別を問わず流水と石けんで洗うか,擦式アルコール
手指消毒剤で消毒する必要がある
76
。手指衛生の一次的手段として擦式アルコール手指消毒剤を使用してい
る病院では,その導入によるクロストリジウム・ディフィシル感染症発生率の上昇は確認されていない。多
数の病院に認められるクロストリジウム・ディフィシル感染症発生率の上昇は,流行性のクロストリジウム・
ディフィシル菌株 NAP1 の出現が原因とされており,擦式アルコール手指消毒剤の普及によるものではない
と考えられる
77
。しかし,施設内でクロストリジウム・ディフィシル関連感染症の集団発生が起こった場合
や伝播が進行している証拠が得られた場合は,手袋その他の個人防護具(PPE)を外したのちに,抗菌,非
抗菌の別を問わず流水と石けんで手を洗うのが賢明である。
集中治療室を対象に医療従事者と患者との接触の実態を探り,手指衛生の遵守率との相関関係を明らかに
した研究では,2 分未満という短時間の対応時は手指衛生の遵守率が最も低くなることが確認されている。
監視者は,短時間の面会が接触のかなりの部分を占めており,短時間の面会の間でも必ず医療従事者に手指
衛生の機会があったことを指摘している。同著者らは,医療従事者の教育訓練では短時間の面会であっても
手指汚染の可能性があることを特に強調し,手指衛生の重要性を強調すべきであるとする結論を下している。
強毒株が出現し,クロストリジウム・ディフィシル感染症をはじめ,疫学的に重大な微生物の出現率が上昇
していることに鑑みると,このように機会を逸することが伝播の真のリスクであると言える 77。
表 9.1 に手指衛生教育用のための各種リソースを示す。APIC による例を図 9.1 に示す(ウェブサイト
www.apic.org/eliminationguides にも掲載されている)
。
感染制御・疫学専門家協会
33
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 9.1.
手指衛生教育のための各種リソース
WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care (Advanced Draft)※8: A Summary.
世界保健機関(WHO),2005 年。http://www.who.int/patientsafety/events/05/HH_en.pdf
および http://www.who.int/gpsc/tools/en/に掲載
IHI How-to Guide: Improving Hand Hygiene “A Guide for Improving Practices among Health Care Workers.”
この手引きは米国疾病制御予防センター(CDC),感染制御・疫学専門家協会(APIC)およびアメリカ医療疫学学会(SHEA)
の協力により作成されたものであり,APIC および SHEA が推薦している。WHO「患者の安全のための世界連盟(World
Alliance for Patient Safety)」からも,「患者安全への世界的挑戦(Global Patient Safety Challenge)」を通して貴重な寄与が得
られている(この文書は公有に属するものであり,ウェブサイト www.IHI.org に掲載されている。出典に医療の質改善協
会(Institute for Healthcare Improvement)の名称をしかるべく記載すれば,許可なしに使用したり,転載したりすることがで
きる)※9。
Hand Hygiene for Health Care Settings.
オンタリオ州保健・長期ケア担当省/公衆衛生部門/州感染症諮問委員会,2008 年 5 月。裏づけとなるデータを記載した
手指衛生に関するファクトシートを閲覧するには,次のウェブサイトを参照のこと。
http://www.health.gov.on.ca/english/providers/program/infectious/pidac/fact_sheet/fs_handwash_010107.pdf
APIC
http://www.apic.org/AM/Template.cfm?Section=Search&section=Brochures&template=/CM/ContentDisplay.cfm&ContentFileID=298
http://www.preventinfection.org/Content/NavigationMenu3/InformationCenter/HandHygiene/default.htm
Joint Commission※10は指導的な感染予防・感染制御関連組織および手指衛生専門家と共同で,手指衛生ガイドラインへの
遵守率を評価する分野の手引きとなる教育用刊行物を作成している。この刊行物は評価の目標の設定に関する手引きを提
供し,手指衛生を評価する主要な 3 種類の手法の長所と短所を検討するものである。組織に合った評価ツールの例や有用
なウェブサイトへのリンク集など,豊富な資料が盛り込まれる。この刊行物は 2008 年秋に発表が見込まれており,APIC
ウェブサイトに掲載される予定である。
CDC の手指衛生のサイトにはポスターと教育プログラムのほか,対話式教育プログラムが掲載されている。
http://www.cdc.gov/Handhygiene/
John Boyce 氏の所属する St. Raphael 病院のウェブサイトにはスタッフ教育に用いる PowerPoint 発表資料のほか,手指衛
生監視ツールが掲載されている。
http://www.handhygiene.org/
Henry the Hand は地域で手指衛生キャンペーンを展開し,コンプライアンスを高める活動に用いるキャンペーン用のスラ
イドとプログラムを紹介している。
http://www.henrythehand.com/
米国石けん・洗浄剤協会(Soap and Detergent Association)
Educational materials are presented on this site. このサイトにも教育用資料が紹介されている
http://www.cleaning101.com/newsroom/2005_survey/handhygiene/
※8 監訳注:本 WHO ガイドラインは既に確定版が公開されている。
※9 監訳注:本リソースは本書監訳者により株式会社ジョンソンエンドジョンソンから日本語完訳版が無償配布されて
おり同社の HP より pdf 版を入手することが可能である。(満田年宏監訳. 手指衛生改善のための手引き ―医療従事
者の実務改善のための手引書―,http://www.jjasp.jp/common/pdf/academic/teach/ihi_improvinghandhygiene.pdf)
※10 監訳注:The Joint Commission は,我が国の医療機能評価機構のお手本となった米国における医療の質第三者評価
機関である。
34
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
手を洗いましょう:正しい方法で!
擦式アルコール手指消毒剤※
擦式アルコール手指消毒剤を用いる場合の手順:
➊ 概ね次の分量で一方の手の平に消毒剤を出します。
・ゲル:硬貨大
・泡:卵大
➋ 手が乾くまで手をこすりあわせます。水は不要です。
※ 手が目に見えて汚れている場合やクロストリジウム・ディフィシル
集団発生時,炭疽菌に曝露したときを除き,どのような場合でも
アルコール系の製品が推奨されます。
手洗い
いずれの方法でも a~c
を含め,手と指の表面を
残らず洗うようにしてく
ださい。
手洗いの手順:
a. 爪の下
b. 手首
c. 指と指の間
清潔な流水で手をぬらし,
石けんをつけます
手をこすりあわせて泡立て,
15~20 秒間ごしごしこすります
流水で手をよくすすぎます
ペーパータオルまたは
空気乾燥機で手を乾かします
図 9.1.
蛇口を締め,バスルームの
扉を開けるときは,
できるだけペーパータオルを
使用してください
手指衛生教育用資料サンプル
提供元:APIC
感染制御・疫学専門家協会
35
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
患者に手指衛生,入浴などの衛生習慣を教える
家族,訪問者および患者がクロストリジウム・ディフィシル感染症予防のパートナーとならなければなら
ない。患者が自身のケアに能動的な役割を担うことを促す国内計画がいくつか実施されてきた。患者が知識
を身に着ければ自身のケアに対する理解が促される。教育には次の内容を盛り込む。
• クロストリジウム・ディフィシルによる感染症に関する解説
• 感染症とその再発の範囲に関するレビュー
• どのようにして病原菌が蔓延するかについての説明
• 感染症の拡大を抑えるために患者自身ができることを説明
• 患者と家族に抗菌薬を服用している人や免疫抑制された人など,クロストリジウム・ディフィシルを獲得
するリスクが高い訪問者について教育し,その訪問に関する判断をサポートする
• 接触予防策,標準予防策,手指衛生など,クロストリジウム・ディフィシル伝播を防止する対策について
の説明
• 患者と家族が自宅環境を清潔にするために実施可能なステップを紹介する
患者と家族に対する教育プログラムが功を奏せば,在院時の接触予防策に協力を得ることができる
79
。蔓
延を極力抑えるには手指衛生,特に手洗いが決定的に重要になる。特にトイレ使用後と食前には,患者が手
指衛生を実施できない場合は看護スタッフが支援しなければならない。看護スタッフは家族に伝播の危険因
子について教育する必要がある。
患者の教育では,皮膚上のクロストリジウム・ディフィシルのバイオバーデン(bioburden)※11を減少させ
るための手指衛生とシャワーの両方の重要性を伝えなければならない。患者がシャワーを浴びることができ
ない場合は,スタッフの補助により清拭を実施する。入浴またはシャワーののちに清潔な病院用のガウンや
衣服を着用する。患者がクロストリジウム・ディフィシルとその芽胞の排出を続けることで,リネンの汚染
がひどくなる可能性があるため,新しいベッドリネンに交換することも重要である。
表 9.2 はクロストリジウム・ディフィシルに関して患者と家族の教育に使用するハンドアウトの見本を示
す(ウェブサイト www.apic.org/eliminationguides にも掲載されている)。
※11 監訳注:バイオバーデン(bioburden)とは,微生物負荷のことである。つまり汚染菌の菌体が形成する堆積物のこ
とである。
36
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 9.2.
患者および家族の教育
クロストリジウム・ディフィシル感染症に関する患者および家族の教育
クロストリジウム・ディフィシルとは何ですか?
クロストリジウム・ディフィシルとは,下痢のほか,大腸炎や腸の炎症などさらに重篤な腸の病態の原因となる
細菌です。
クロストリジウム・ディフィシル感染症とは何ですか?
クロストリジウム・ディフィシルは,医療施設にみられる感染性下痢の最大の原因です。主な症状には水様下痢,
発熱,腹痛・腹部圧痛があります。クロストリジウム・ディフィシル感染症は,感染症の治療のために抗菌薬を服
用した場合の望ましくない結果として発生します。感染症を治療するとき,腸内の善玉菌の一部も殺菌されてしま
うため,抗菌薬で殺菌されなかった細菌が増殖します。このように多数の抗菌薬に耐性がある細菌のひとつがクロ
ストリジウム・ディフィシルです。クロストリジウム・ディフィシルが増殖すると,腸を傷つけ,下痢を引き起こ
す毒素や物質を産生します。クロストリジウム・ディフィシル感染症によって特別な治療を必要とする下痢を来た
し,非常に重症になることもあります。重症の場合は,腸の一部を摘出する手術が必要となることもあります。
どのような人がクロストリジウム・ディフィシル感染症を発症するのですか?
クロストリジウム・ディフィシル感染症は“CDI”とも呼ばれ,通常は抗菌薬の使用時または使用後に発症します。
重篤な疾患のある人や高齢者,全般的な健康状態がよくない人はクロストリジウム・ディフィシル感染症を発症す
るリスクが高くなります。
どのようにしてクロストリジウム・ディフィシル感染症の診断を下すのですか?
抗菌薬を服用しているか最近服用したことがあり,水様下痢と発熱がみられる場合は,医師がそのような症状の
原因としてクロストリジウム・ディフィシルを疑います。大便の検体を採取し,分析のため検査室に送ることにな
ります。検査室はクロストリジウム・ディフィシル毒素の有無を調べるため大便を検査します。検体を 2 つ以上採
取することもあります。
どのようにしてクロストリジウム・ディフィシル感染症を治療するのですか?
担当の医師がクロストリジウム・ディフィシルを死滅させるために特別な種類の抗菌薬を処方します。治療には
通常,抗菌薬を約 10 日間服用します。
どのようにしてクロストリジウム・ディフィシル感染症に罹患するのですか?
健康状態が良好な人であれば,通常はクロストリジウム・ディフィシル感染症に罹患することはありません。長
期間の抗菌薬使用を必要とする疾患や病態がある人や高齢者では,この疾患に罹患するリスクが高くなります。ク
ロストリジウム・ディフィシル感染症に罹患すると,糞便中の病原菌がトイレ,取っ手,差込み便器(ベッドパン),
便器付き椅子などの表面に付着する恐れがあります。このような物に触れると,患者のほか,医療従事者や家族の
手にもクロストリジウム・ディフィシルが付着します。このように汚れた物や手が病原菌を他の表面や人に移動さ
せます。そのため,医療環境ではクロストリジウム・ディフィシル感染症に罹患した人を隔離します。
クロストリジウム・ディフィシル感染症にはどのような隔離方法を用いるのですか?
クロストリジウム・ディフィシルによる下痢がみられる場合は,下痢が治まるまで個室に移動していただきます。
室外での活動は制限されます。その部屋に入る人は全員,ガウンと手袋を着用しなければなりません。ケアした後
や周囲の物に触った後には必ず手の汚れを落とさなければなりません。みなさんにも,皮膚に付着した細菌の量を
減らすため,規則正しく手の汚れを落とし,シャワーを浴びたり入浴したりするよう注意を払っていただく必要が
あります。病室も規則正しく清掃し,備品を病室から移動させる際には必ず事前に消毒します。
感染制御・疫学専門家協会
37
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシルがほかの人に広がらないようにするには,どうすればよいですか?
感染すると,ほかの人に病気をうつす恐れがあります。しかし,病気になりやすいのは入院している人や抗菌薬
を服用している人だけです。用心のため,ほかの人にうつす可能性を減らすには次のことを実行します。
•
特にトイレの後と食事の前など,流水と石けんで手を洗う
•
バスルーム,台所などの表面を定期的に家庭用洗剤や消毒薬で清拭する
家では何か特別なことを実行しなければならないのでしょうか。
抗菌薬を服用していない家族や友人など健康な人であれば,クロストリジウム・ディフィシル感染症を発症する
リスクは非常に低いです。しかし,どなたも規則正しく手の汚れを落として下さい。バスルームなどは特に衛生的
な環境を保つて下さい。普段使用している殺菌剤で掃除しても構いませんし,塩素系漂白剤の水溶液を使用するこ
ともできます。塩素系漂白剤の水溶液を使用する場合は,塩素系漂白剤(無香)1,水道水 9 の割合で混合します。
漂白剤の希釈液は毎日作り直してください。また,しぶきが顔に掛かったり眼に入ったりしないように注意してく
ださい。漂白液が皮膚に付着しないようにするには,保護用手袋を着用するとよいでしょう。
家の掃除についてほかに知っておかなければならないことはありますか。
清潔な布に殺菌剤または希釈した漂白液を染み込ませます。表面を洗浄する場合はこすり,空気乾燥させます。
表面に汚れがある場合は,汚れを落としてから新しい布に殺菌剤を染み込ませて表面を消毒してください。室内用
便器や流し台など,人が大便に触れる可能性がある場所には特に注意を払ってください。洗濯の際は,大便が付着
した衣類や織物をすすいでから普段の手順で洗濯します。お湯のサイクルで,洗剤を使用してください。塩素系漂
白剤を加えると病原菌の殺菌に有用です。乾燥機で洗濯物を乾燥させます。食器には特別な対策を取る必要はあり
ません。
手の洗浄はどのようにすればよいでしょうか。
手を清潔にすることこそ,病気の予防に誰にでもできる最も重要な事項です。手指衛生(手を洗浄すること)の
実行には,流水と石けんによる通常の手洗いでも構いませんし,アルコール系溶液を用いても構いません。クロス
トリジウム・ディフィシルは糞便中にみられる病原菌ですので,通常の手洗いが好ましいです。
手を洗うときは,水で手を濡らしてから,手の平に石けんをつけます。手の表面全体から指と指の間まで両手を
くまなくこすりあわせます。15 秒以上こすってから水ですすぎます。手をこするのではなく軽くあてるようにして
拭けば,皮膚の損傷やひび割れを防ぐことができます。擦式アルコール手指消毒剤を使用する場合は,片方の手の
平に少量の溶液(5 セント硬貨大)を載せてから,溶液が乾くまで両手全体から指と指の間に溶液をこすりつけま
す。手をすすぐ必要はありません。
トイレの使用後,汚れた表面や物を触った後,食事前や食事の準備前,そのほか,手が目に見えて汚れていると
きや汚れていると感じるときはいつでも手指衛生を実行してください。お子さんをはじめ,ほかの人にもこの大切
な習慣を教えてください。
ほかに知っておくべき情報はありますか。
医師から処方された薬剤を残らず服用することが非常に重要です。薬局で販売されている止瀉薬(イモジウムな
ど)はクロストリジウム・ディフィシルの毒素を大腸にとどめてさらに重症の疾患を引き起こす恐れがあるため,
使用しないでください。下痢が続く場合や再発する場合は医師に相談してください。
クロストリジウム・ディフィシル感染症に関するさらに詳しい情報については,米国疾病制御予防センター
(CDC)のウェブサイト(www.cdc.gov/ncidod/dhqp/id_CdiffFAQ_general)をご覧ください。
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感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
予防への取り組み:環境感染制御
環境はきわめて重大な汚染源であると認識しなければならず,感染の拡大を助長するのに大きな役割を果
たしている。クロストリジウム・ディフィシルは糞便中に排出されるため,糞便で汚染された何らかの環境
表面や物品,医療機器が芽胞の感染源となり,感染の伝播に関与する 50,51。
クロストリジウム・ディフィシルの芽胞は硬い環境表面で 5 ヵ月も生きることができる 50,51。1 件の研究で
は,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者で占められた部屋の 49%,無症候性キャリアの部屋
の 29%に芽胞が検出されている。汚染の度合いが最も大きいのは床とバスルームである 74。
ほかに汚染される恐れがある場所に,病室にある電子体温計,血圧測定用カフ,ベッドレール,呼び出し
ボタン,栄養チューブ,点滴および経管栄養に用いる流量調節器,ベッドシーツ,室内便器,トイレ,計量
器,電話,テレビのリモコン,ライトのスイッチ,窓枠が挙げられる。環境汚染の度合いが大きくなれば,
医療従事者の手指汚染の度合いも大きくなる。クロストリジウム・ディフィシル感染症の発生率が高くなる
ほど伝播の可能性が高くなるため,介入にあたってはサーベイランスの結果を踏まえる必要がある。
医療現場でよく使用される消毒薬には第 4 級アンモニウム塩とフェノールがあり,いずれも殺芽胞性はな
い
81,82
。消毒薬のなかには実際には芽胞形成(微生物が栄養型の状態から防御された芽胞の状態に変化する
こと)を促進するものもある。芽胞形成過多(hypersporulation)という用語は,細菌が速い速度で栄養型か
ら芽胞型に移行する傾向を指して用いられている。この用語は,一部の殺菌剤と接触することによって細菌
にストレスが加わるため,急速に芽胞型に移行することを指して使用されてもいる。このように,芽胞形成
過多という用語は,微生物が通常の条件下よりも速く栄養型から芽胞に移行する傾向のことと理解される。
多数の EPA 登録殺菌剤が栄養型クロストリジウム・ディフィシルを死滅させるが,芽胞を死滅させるのは塩
素系消毒薬と高濃度の蒸気化過酸化水素(vaporized hydrogen peroxide, VHP)だけである。現時点では,一般
的な環境表面消毒薬としての使用を認められている EPA 登録済みの殺芽胞剤はない 83-85。
この情報から,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者の周囲は必ず次亜塩素酸溶液で清拭す
べきである,清拭しなければならないと思えるかもしれない。しかし,次亜塩素酸ナトリウム溶液(以下,
漂白剤)の使用には,物品や他の表面の経時的な腐食ないし孔食のほか,溶液を使用している作業者の呼吸
困難の引き金となるなどの従業員関連の懸念をはじめ,多くの問題がある。このため,漂白剤の使用は,CDC
が推奨するように集団発生の状況に限定すべきである。物理的な洗浄・消毒作業のほか,常用されている殺
菌剤の使用でも芽胞を除去し,菌量を低下させるものであり,集団発生が認められない場合に適している。
一般に,「医療施設における環境感染管理のための CDC ガイドライン 2003」
(Guidelines for Environmental
Infection Control in Health-Care Facilities)※12にまとめられているように,環境表面を清潔に保ち,生体物質の
こぼれには迅速に対処しなければならない
86
。この文書はウェブサイト www.cdc.gov/ncidod/hip/enviro/guide.
htm で閲覧することができる。EPA に登録されている消毒薬であれば医療環境の日常洗浄に使用することが
できる。積極的な洗浄では汚れ,汚染の除去および希釈を実施する。洗浄は至適な消毒に決定的な役割を果
たす。
※12 監訳注:「医療施設における環境感染管理のための CDC ガイドライン 2003」は株式会社サラヤから満田年宏監訳
版を無料で入手可能である(http://med.saraya.com/gakujutsu/guideline/pdf/kankyocdc.pdf)。
感染制御・疫学専門家協会
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
「医療施設における環境感染管理のための CDC ガイドライン 2003」が示すように,サーベイランスや疫
学調査からクロストリジウム・ディフィシル伝播の進行が明らかにされた患者ケア区域では,周囲の表面消
毒に次亜塩素酸系消毒薬が使用され,一定の成果を挙げている。毎日新たに混合した 10 倍希釈の次亜塩素酸
ナトリウム溶液(家庭用塩素系漂白剤を 1,水道水を 9 の割合で混合したもの)※13の使用により,一部の現
場ではクロストリジウム・ディフィシル感染症減少が認められている 81。米国環境保護庁(EPA)の話では,
家庭用漂白剤(5.25%~6%)1,水道水 9,酢(5%酢酸)1 の割合で混合して作製した pH 調整漂白液を使用
すれば,クロストリジウム・ディフィシルにさらに大きな影響を与えられることが示唆されている(J. Kempter,
Environmental Protection Agency, 2008, 私書)。
感染対策チーム(infection-prevention team)が消毒薬に表示された効果を評価する場合,チームへの警告に
“表示の意味をはっきりさせるようにしてください”というものがある。たとえば,ある製品にクロストリジ
ウム・ディフィシルを死滅させる適応が表示されていても,芽胞ではなく栄養細胞のことを指している可能
性がある。栄養細胞であれば大半の消毒剤で容易に死滅させられる。洗浄剤および消毒薬には,化学物質が
基準を満たし,使用目的に適う効果があることを確認するため,感染予防・感染制御の委員会による審査お
よび承認が必要となる。
10 倍希釈の次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用する場合,記憶しておくべき重要事項がいくつかある。
• 市販の次亜塩素酸製品には,洗浄剤のほか消毒にも有用な洗剤基剤が含有されていることがある。
• 施設内での市販溶液の使用状況を評価すること。次亜塩素酸製品のなかには,そのまま使用できるものも
ある。時間の節約になり,希釈ミスの可能性が最小限に抑えられるが,同時に保管の問題があるほか費用
が高くなることがわかっている。
• 漂白剤と水の混合液を作製すると消毒薬となるだけであり,洗剤基剤は得られない。そのため,消毒の前
に洗浄を実施する場合は二段階の手順が必要となる。
• 漂白剤と水の混合液を作製する場合,香料が含有されていない塩素系漂白剤のみ使用すること。香料が含
有されていると,得られる有効塩素の百万分率が低下する。
• 漂白剤の水溶液には有効塩素が 4,800 ppm 以上含有されている必要がある。
• 殺菌漂白剤(次亜塩素酸 6.15%)
,洗濯用漂白剤(次亜塩素酸 6.0%),格安漂白剤(次亜塩素酸 5.25%以
下)の違いがある。※14
• 次亜塩素酸(漂白剤と水)溶液は接触時間 1 分で非多孔性の表面に十分な消毒効果が得られる。次亜塩素
酸溶液で表面を十分にぬらし,空気乾燥させる(Rutala, APIC 2008)。
接触時間
接触時間とは,殺菌剤が微生物と接触し,その数を顕著に減少させるのに必要な時間を指す。通常は微生
物数が 3 ログ(3Log)減少することを意味する。医療環境での使用に適するものとして殺菌剤に承認を得る
のに EPA に提出しなければならないのが,この殺菌能力に関する表示内容である。
接触時間という概念を医療環境に応用する場合,感染予防師が選択された殺菌剤の接触時間を把握し,そ
※13 一般家庭用の市販の漂白剤の濃度は日米で異なる場合があり,注意が必要。
※14 監訳注:ここでの標準的な濃度表示はあくまでも米国での市販品のことを示している。
40
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
の知識をいかにして応用すべきか理解しておくことが不可欠である。医療環境でよく使用される殺菌剤の接
触時間は 10 分だが,それより接触時間が短いものもある。つまり,微生物の数を 3 ログ(99%)減少させる
には,消毒しようとする対象物の表面が殺菌剤と 10 分間(殺菌剤の仕様によっては 10 分未満)接触する(洗
浄後ぬれた状態にある)必要があるということである。製造業者の推奨事項に従って殺菌剤を適量の水と混
合し,清潔なバケツまたは容器に入れるバケツ法による洗浄を実施すれば,最もうまくいく。洗浄には清潔
な布を使用し,汚れた布を清潔な殺菌剤が入ったバケツまたは容器に戻してはならない。殺菌剤の溶液は,
効果を保つために一定の間隔で交換する必要があり,バケツや容器はひび割れがないかどうか点検するほか,
定期的に洗浄し,消毒すること。洗浄・消毒作業の手順は,方針を記したフォーマットに明確にまとめ,監
視して遵守率を評価する。
環境清浄には除菌クロスが重要な選択肢となっているが,効果を発揮させるには正しく使用しなければな
らない。クロスには殺菌剤が含まれており,クロスが殺菌剤を吸収し洗浄・消毒作業時にその殺菌剤が表面
に行き渡るようにする素材でできている。
EPA には除菌クロスが登録されており,その殺菌剤には EPA 承認手続きの一環として一定の接触時間が定
められている。クロスには,洗浄しようとする表面に存在する微生物を死滅させるため,作業者がその表面
をラベルに表示された接触時間だけぬらすことが可能なものでなければならない。このように,適した種類
の作業にクロスを使用することが重要である。たとえば,現在市販されている除菌クロスの 1 種類は接触時
間が一部の細菌(クロストリジウム・ディフィシルなど)には 30 秒,一部のウイルスには 1 分となっている。
その接触時間だけ表面がぬれた状態を維持することを考えれば,同クロスは 20 平方フィート(6m2 に相当)
の面積を消毒するのに適していることになる。感染予防師にとっては,殺菌剤の接触時間のほか,対象とな
る作業に関してクロスが接触時間を維持する能力を把握することが重要である。病室内で高頻度接触部位の
洗浄にクロスを使用する場合,消毒の対象となる表面の数によっては,作業を完了するのに多数のクロスが
必要となることも考えられます。環境サービススタッフも含め,医療従事者にはクロスを正しく使用する訓
練を受ける必要がある。感染予防師は,必要な業務に適した種類のクロスの選択に関与しなければならない。
環境清浄の監視
推奨される洗浄・消毒法が守られているかどうか日常的に監視する必要がある。患者の近くのあらゆる環
境表面や物品が作業の対象となる。チェックリストがあれば,各区域が洗浄・消毒されたことを作業者が確
認するのに有用である。作業者はリストをたどり,洗浄・消毒作業が完了すれば各項目にチェックを入れて
いく。
• 施設と日常業務に推奨される作業を説明し,作業を評価するチェックリストがあれば,ケア・チームが改
善の機会を発見する助けとなる。環境清掃業務の遂行を支援するため,病棟や専門分野別グループと協力
してチェックリストおよび基準を作成すれば,遵守率を改善するのに役立つだろう。表 10.1 は,ニューヨ
ークの医療施設で環境清掃を評価するために使用されているチェックリストである。表 10.2 は,クロスト
リジウム・ディフィシルが認められ,環境清掃業務に変更が加えられた場合に使用されるチェックリスト
である。図 10.1 は高頻度接触部位を確認する前の病室である。図 10.2 は同じ病室で,接触の機会が多く,
一定の患者環境に関して対象とする必要がある表面を示したものである(ここに挙げたチェックリストお
よび図はウェブサイト http://www.apic.org/eliminationguides にも掲載されている)
。
感染制御・疫学専門家協会
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
現場によっては,注入ポンプや人工呼吸器など一部の患者ケア用品は看護師や専門の機器技術者がクリー
ニングしていることに留意すること。ここに挙げた例の採用にあたっては,各現場の方式を考慮に入れる必
要がある。
クロストリジウム・ディフィシルについて日常的に培養のための検体採取を実施する必要性はない。チー
ムが適切な環境消毒薬を選択することが重要である。大抵の場合,病原菌の伝播が進行しているときに手順
の違反が発見される。伝播の進行が確認されれば,環境の徹底的な清浄・消毒を実行しなければならない。
42
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 10.1.
日常清掃に次亜塩素酸ナトリウムを使用する環境のチェックリスト
環境のチェックリスト-日常清掃用-病室観察:週に 5 人(1 日 1 人)の患者について点検してください
病院:
日付:
病棟:
病室:
時刻:
指示内容
開始時に手指衛生を実施
個人防護具(PPE)を着用
接触頻度の高い環境表面の消毒:
消毒:
水拭き:
清掃:
床の清掃:
必要に応じて交換:
最終的清掃のため水拭き:
その他:
汚れた布を廃棄
各隔離室が終わればモップのヘッドを交換
退室前に個人防護具(PPE)を外す
手指衛生を実施
項目
はい
いいえ
該当せず
ドアノブ/取っ手
ドア表面
ベッドレール
呼び出しボタン
電話
ベッド用テーブルと引き出し
カウンタートップ
ライトのスイッチ
家具
患者用椅子の肘掛け
患者用椅子の座面
その他のさまざまな水平面の全部
窓枠
ポータブル便器
医療器具(点滴の流量調節器など)
消毒薬含浸除菌クロスで壁の汚れを落とす
バスルーム:
バスルームのドアノブ
トイレの水平面/便座
水洗レバー/水洗装置
蛇口(流し台)
バスルームの手すり
流し
浴槽/シャワー
鏡
頭上ライト(ベッドが空いていれば)
テレビと台
ライト
タイルをモップで乾拭き
タイルをモップで水拭き
手指衛生剤
ペーパータオル
汚れたカーテン
ベッドのフレーム
マットレス
清潔なリネンでベッドメークのし直し
必要に応じて交換:枕,マットレス,枕カバー,マットレスカバー
ごみ箱を空にし,ごみ袋を交換
上記記載以外の重要なポイント(具体的に記入して下さい):
この病室は清潔であり,使用準備が整っている:
病室を清掃担当環境サービス従業員 署名:
各病院の病室清掃の管理責任者者
署名:
感染制御・疫学専門家協会
43
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
表 10.2.
クロストリジウム・ディフィシルが認められる場合の日常清掃に次亜塩素酸ナトリウムを使用する
環境のチェックリスト
クロストリジウム・ディフィシル
次亜塩素酸ナトリウムを使用する環境のチェックリスト
日常清掃用-病室観察:クロストリジウム・ディフィシルが確認されたか,その疑いがある患者を週に 5 人(1 日 1 人)
について点検してください
病院:
日付:
病棟:
病室:
時刻:
指示内容
開始時に手指衛生を実施
個人防護具(PPE)を着用
次亜塩素酸系消毒剤で接触頻度の高い
環境表面を消毒する:
次亜塩素酸系消毒剤で消毒:
水拭き:
清掃:
床の清掃:
必要に応じて交換:
最終的清掃のため水拭き:
その他:
汚れた布を廃棄
各隔離室が終わればモップのヘッドを交換
退室前に個人防護具(PPE)を外す
手指衛生を実施
項目
該当せず
該当せず
ドアノブ/取っ手
ドア表面
ベッドレール
呼び出しボタン
電話
ベッド用テーブルと引き出し
カウンタートップ
ライトのスイッチ
家具
患者用椅子の肘掛け
患者用椅子の座面
その他のさまざまな水平面の全部
窓枠
ポータブル便器
医療器具(点滴の流量調節器など)
消毒薬含浸除菌クロスで壁の汚れを落とす
バスルーム:
バスルームのドアノブ
トイレの水平面/便座
水洗レバー/水洗装置
蛇口(流し台)
バスルーム手すり
流し
浴槽/シャワー
鏡
頭上ライト(ベッドが空いていれば)
テレビと台
ライト
タイルをモップで乾拭き
タイルをモップで水拭き
手指衛生剤
ペーパータオル
汚れたカーテン
ベッドのフレーム
マットレス
清潔なリネンでベッドメークのし直し
必要に応じて交換:枕,マットレス,枕カバー,マットレスカバー
ごみ箱を空にし,ごみ袋を交換
該当せず
該当せず
該当せず
該当せず
上に挙げられていない重要な領域(記入してください):
この病室は清潔であり,使用準備が整っている:
病室を清掃担当環境サービス従業員 署名:
各病院の病室清掃の管理責任者者
44
感染制御・疫学専門家協会
署名:
はい
いいえ
該当せず
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
図 10.1.
室内清掃の訓練に使用する病室の絵
図 10.2.
高頻度接触部位および物品をいくつか示した絵
感染制御・疫学専門家協会
45
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシル感染症伝播予防の段階的な対応
ここまで,クロストリジウム・ディフィシル感染症に関する知識を深めるほか,複雑な医療環境であらゆ
る患者にケアの提供を続けながら伝播を防止する最も効果的かつ効率的な方法に関して多くの問題に焦点を
当ててきた。このような難問や制約を踏まえ,
「医療環境における多剤耐性菌管理のための CDC ガイドライ
ン 2006」※15では,多剤耐性菌の独特の特徴に対応するべく,段階的な対応という発想を初めて紹介している。
そのような先例にならい,この手引きはクロストリジウム・ディフィシルに対する日常の感染予防・感染
制御対応の一環として取り掛かるべき伝播予防のための対応をいくつかを紹介した。このような“日常の取り
組み”について取り上げた後のページでは,“強化した取り組み”という次の段階を紹介する。日常の取り組み
と強化した取り組みとに分けることにより,ひとつの医療環境に固有の患者の転帰に対するいっそう強力な
対応をいつ,どのように開始すべきかということについて明示する。このような段階的取り組みはさまざま
な医療環境にかかわるものであり,意志決定においては現地データの利用に力点を置いている。
日常の感染予防・感染制御対応におけるクロストリジウム・ディフ
ィシル伝播予防への取り組みに関するまとめ
クロストリジウム・ディフィシル感染症の早期認識
サーベイランス
• クロストリジウム・ディフィシル感染症に関する施設全体のサーベイランスを実施する。
• 各患者ケア区域の医療発症/医療関連クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率
(healthcare-onset/healthcare-associated CDI rates)のほか,組織全体の総感染率を計算。
• 中心的な人物のほか,感染対策委員会,病院経営管理者,医療スタッフ,看護スタッフ,薬剤・治療委員
会などのグループにクロストリジウム・ディフィシル感染症に関するデータと介入手段を伝える。
• 結腸切除の実施率の上昇を監視。
• 地域を越えたクロストリジウム・ディフィシル感染症の影響を評価する手段として他の地域の感染予防師
とネットワークを形成する。
• クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率に関して地域の衛生局とオープンに話し合う。
微生物検査による同定
• 微生物検査室と協力し,週末や祝日でもクロストリジウム・ディフィシル感染症に関する検査結果を迅速
に報告できるようにする。
• 迅速に隔離予防策を取ることができるよう,患者ケア区域に結果を伝える手順をきちんと定めておく。
※15 監訳注:“医療環境における多剤耐性菌管理のための CDC ガイドライン 2006”については満田年宏訳・著でヴァン
メディカルより刊行されている。
46
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者に対する接触予防策の実施
• 診断結果にかかわらず全ての患者に標準予防策を実施する。
• 空室があればクロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者を個室に収容し,接触予防策を実施する。
便失禁が認められる患者を,優先的に個室に収容する。
• 個室に空きがなければ,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者を集団隔離する。ただし,ほ
かに重大な病原菌(MRSA,VRE,アシネトバクター)に感染している患者をそうではない患者と一緒に
収容しないこと。
• 患者に専用の物品を用いる(つまり体温計,聴診器など)。
• 該当する患者の病室への入室時にガウンと手袋を着用する。
• 手袋が目に見えて汚れている場合や糞便で汚染された表面や器具に接触したり取り扱ったりした後には,
ただちに手袋を交換する。
• 退室する前にガウンを脱ぎ,手袋を外す。
• 集団隔離を実施した場合,次の患者に接触する前にガウンと手袋を交換し手指衛生を実施する。
• 接触予防策を実施する際に利用可能な物品を,十分な種類と数量がすぐに利用できるよう日常的に点検し
ておく。定期的に在庫を確認し,補充する業務の責任者を決めておくのが最もよい。
• 下痢が治まれば接触予防策を解除する。流行時や伝播の進行が疑われる場合は隔離予防策の期間延長を検
討する。“強化した感染予防・感染制御対応における追加クロストリジウム・ディフィシル伝播予防への
取り組みのまとめ”の章を参照。
• クロストリジウム・ディフィシルの無症候性キャリアは隔離しない。
環境感染制御
•
集団発生ではない状況では,EPA 承認の殺菌剤を日常消毒に使用する。
•
職員がしかるべき殺菌剤の接触時間を確保する。
•
環境清拭・消毒の責任者がきちんと訓練を受けているようにする。
•
全病室の日常清掃については,少なくとも次の物品に対処する。
○
ベッド。ベッドレールや患者用家具(ベッドサイドテーブル,ベッド用テーブル,椅子)を含めて
○
ポータブル便器
○
バスルーム。流し,床,浴槽/シャワー,トイレなど
○
ライトのスイッチ,ドアノブ,コールボタン,モニターケーブル,コンピュータのタッチパッド,
モニター,医療器具(点滴の注入ポンプなど)など高頻度接触部位
•
患者間で共用されている物品(血糖測定器,注入ポンプ,栄養ポンプなど)を,残らず消毒する。
•
環境清浄の責任者が洗浄・消毒手順の遵守率を監視する。
手指衛生
• 該当患者の病室を出る前にガウンと手袋を外して手指衛生を実施する。
• クロストリジウム・ディフィシルに対する日常の感染予防・感染制御対応では手指衛生に擦式アルコール
手指消毒剤を使用する。
• 手が目に見えて汚れている場合は,流水と石けんによる手洗いが手指衛生の手段として推奨される。
感染制御・疫学専門家協会
47
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
• 手指衛生の遵守率を評価し,実施の障害となるものに対処する。
抗微生物薬の適正使用
• 抗菌薬の適正使用を後押しするプログラムを実施する。
• そのプログラムには,抗菌薬の使用状況を監視・評価し,医療スタッフおよび施設の上層部にフィードバ
ックする作業を組み込むこと。
患者の教育
• クロストリジウム・ディフィシルとその伝播に関する情報を患者および家族と共有する。
• 患者と家族に手指衛生と個人単位の衛生について教える。
• 患者と家族に毎日の入浴の重要性について教え,必要に応じて補助する。
医療従事者の教育
• 感染伝播の経路,クロストリジウム・ディフィシル感染症感染率,患者ケアスタッフによる感染予防のた
めの介入に関して指導を続ける。
• 感染制御に関する患者ケアスタッフとの連携を通して能力を高め,隔離,手指衛生,環境清掃など感染予
防に関係した業務に対する遵守率を監視する場合はその支援を活用する。
病院運営上の管理者による支援
• 感染率と感染予防介入について上層部と情報を共有する。
• 遵守率の監視に関する伝達には上層部の参加を得る。
• 予防活動に関する支援および説明責任に希望することを上層部の中心に伝え,感染予防・感染制御を支援
する方法の具体例を提案する。
強化した感染予防・感染制御の対応における追加のクロストリジウ
ム・ディフィシル伝播予防への取り組みのまとめ
日常の予防への対応の甲斐なく,クロストリジウム・ディフィシルの伝播進行やクロストリジウム・ディ
フィシル感染症感染率の上昇,クロストリジウム・ディフィシル感染症発生状況の変化を示す証拠(クロス
トリジウム・ディフィシル感染症が認められる患者の罹病率/死亡率の上昇など)が得られれば,強化され
た水準の介入を実施しなければならない。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の早期認識
サーベイランス
• クロストリジウム・ディフィシル感染症関連と考えられる下痢のある患者をあらい出すべく患者ケア業務
を実行する。
• 症状があり,クロストリジウム・ディフィシル感染症が疑われる患者(原因が明らかではない下痢がある
患者など)に残らず接触予防策を実施する。初回の検査がクロストリジウム・ディフィシルに陰性を示し
48
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
た場合は隔離を解除する。
• サーベイランスの対象を市中発症,医療関連など,他の範疇のクロストリジウム・ディフィシル感染症の
患者まで拡大することを検討する。
• 地方衛生局や,同じ地域の他の感染予防師と積極的に連携する。
微生物検査による同定
• 微生物検査室スタッフとクロストリジウム・ディフィシル感染症感染率の上昇について議論し,結果に影
響を及ぼしている可能性がある検査法の変更点を評価する。
クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者に対する接触予防策の実施
• 別の洗浄液および洗浄手順が必要となることから,環境清浄の責任者を含めた全スタッフの意識を高める
べく,新たなクロストリジウム・ディフィシル感染症の患者であることの表示の利用を検討する。利用す
る場合,標識は患者のプライバシーが保護されるものにし,診断結果が他の人にわからないようにしなけ
ればならない。
• その時点で患者配置に取られているシステムを評価する。
• (検査結果が陽性になってから隔離を開始するのではなく)クロストリジウム・ディフィシル感染症では
ないことが確認されるまで,下痢のある患者に残らず接触隔離の実施を検討する。
• 隔離予防策および手指衛生の遵守率の監視を強化する。
• 患者ケアスタッフと自由な議論の場を設け,感染予防策の障害となるものを確認する(隔離に必要な物品
の在庫切れ,個室の不足など)。
• 下痢が消失しても接触予防策を継続する。患者の退院まで隔離期間を延長することを検討する。
環境感染制御
• 該当患者の病室のほか,その病室で使用されている備品を残らず消毒するには 10%次亜塩素酸ナトリウム
※16
を使用する。物品と漂白液との適合性を確認する。
• クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者の病室には,日々の消毒および退院時の消毒に 10%次
亜塩素酸ナトリウムを使用する。
• 伝播の進行を示す証拠があれば,全病室および物品の消毒に 10%次亜塩素酸ナトリウムの使用を拡大する
ことを検討する。
• スタッフ各人が次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)溶液の使用法を理解し,十分な接触時間を確保する。
• 環境清浄・消毒の責任者がしかるべき訓練を受け,適切な個人防護具を使用していることを確認する。
• 環境清浄・消毒の補助として漂白剤含浸クロスを使用する。スタッフに,ひとつの除菌クロスで消毒でき
る範囲の広さや,物品の汚れ,腐食,損傷など製品に考えられる有害作用に関する知識をはじめ,その使
用法を教える。
• 環境清浄の責任者が清浄・消毒手順の遵守率を監視し,遵守を徹底させる。
※16 監訳注:ここで言っているのは米国市販の漂白剤の 10 倍希釈液のことで,塩素濃度では 5,500~6,150 ppm になる。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
手指衛生
• クロストリジウム・ディフィシル感染症の患者の病室を出る前にガウンと手袋を外し,しかるべき手指衛
生を遵守する。
• この強化対応の際の手指衛生に望ましい方法として,流水と石けんによる手洗いを強化する。
• 手指衛生の遵守率を評価し,実施の障害となるものに対処する。
• 包括的な手指衛生プログラムの一環として,擦式アルコール手指消毒剤が利用できるようにする。
抗微生物薬の適正使用
• 抗菌剤の適正使用を後押しするプログラムが実施されていること。
• クロストリジウム・ディフィシル感染症が確認された患者の抗菌剤の使用状況を評価し,医療スタッフお
よび施設の上層部にフィードバックする。
患者の教育
• クロストリジウム・ディフィシルとその伝播に関する情報を,患者および家族と共有する。
• 手指衛生について教育し,遵守率を監視する。
医療従事者の教育
• 医師,医療従事者および補助的職員(環境サービスなど)に対して,クロストリジウム・ディフィシル感
染症感染率のほか,感染率の上昇に応じて変化していく責務について指導を続ける。
病院経営上の管理者による支援
• 感染率と介入について上層部と情報を共有し,病院経営上の管理者による支援を示すのに必要な業務を明
確にまとめる。
• クロストリジウム・ディフィシル感染症にかかわる費用,施設に対する資金的影響に関する情報を共有す
る。
50
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
その他の予防策
アメリカの医療施設でクロストリジウム・ディフィシルの伝播による罹病率および死亡率が増大している
ことを示すデータが数多く発表され,この有害事象の予防には手洗いと基本的な感染制御業務が重要である
にもかかわらず,CDC が発表した国内データでは,この 10 年間,アメリカの医療施設ではクロストリジウ
ム・ディフィシル感染・疾患に長期的な増加傾向がみられることが示されている。このような現実は,これ
までの感染制御業務・感染制御策だけではなく,ほかにも予防努力が必要ではないのかという苦しい状況を
浮かび上がらせている。現在のマネージドケアの時代では,効果の可能性を示す証拠が少しでもある領域に
新たな予防努力の焦点を合わせる必要がある。
新たな 3 つの領域の予防策に関するデータがある。
1. 抗微生物薬の適正使用
どのような抗菌薬でもクロストリジウム・ディフィシル疾患を引き起こす可能性があるため,抗菌薬の適
正使用を促す管理プログラムを奨励し,感染制御の努力と環境的介入を補完しなければならない
87,88
。クロ
ストリジウム・ディフィシル感染症予防の観点からは,微生物薬の適正使用では施設でクロストリジウム・
ディフィシル感染症の原因となる抗菌薬を制限したり,不要な抗菌薬の使用を減らしたりすることが考えら
れ,本書の別の箇所で取り上げている。
2. プロバイオティクス(Probiotics)
プロバイオティクスは自然の生きた細菌であり,大部分は非病原性菌である。クロストリジウム・ディフ
ィシル感染症の予防に用いる根拠は,プロバイオティクスが抗菌薬の曝露によって変化させられた消化管細
菌叢に平衡を取り戻すことにより,クロストリジウム・ディフィシルの保菌や異常増殖を防ぐとする仮説に
ある。クロストリジウム・ディフィシル疾患の予防に考慮されてきたプロバイオティクスには,さまざまな
細菌(ビフィズス菌[大腸内によくみられるグラム陽性嫌気性菌]
,乳酸菌種,フェシウム菌)や酵母(サッ
カロミセス・ブラウディ[Saccharomyces boulardii],サッカロミセス・セレビシアーエ[Saccharomyces
cerevisiae])がある。いずれも一般に凍結乾燥カプセルや発酵飲料のかたちで市販されている。Sullivan と
Nord89 は,サッカロミセス・ブラウディが再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症の予防にいくらか
効果があることを示唆している。しかし,抗菌薬を投与されている患者のクロストリジウム・ディフィシル
疾患予防についてプロバイオティクスの有用性を検討した研究では,クロストリジウム・ディフィシル疾患
の発生率の低下は示されていない。これまで,クロストリジウム・ディフィシル疾患の予防または治療にプ
ロバイオティクスの日常臨床使用を後押しする,根拠に基づくデータは十分ではない。
3. 除菌
これまで,患者からクロストリジウム・ディフィシルを取り除く狙いで,この微生物が保菌している無症
状の人にバンコマイシンまたはメトロニダゾールを使用することを後押しするデータはない。ふたつの抗菌
薬をこのような目的で使用しても効果はない。また,他の抗菌剤を投与されている患者のクロストリジウム・
ディフィシル疾患の予防には,バンコマイシンおよびメトロニダゾールの効果は示されていない。
感染制御・疫学専門家協会
51
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
まとめると,プロバイオティクス,ワクチンおよび除菌法の有用性に関してさらにデータが発表されるま
で,クロストリジウム・ディフィシル感染・感染症の効果的な予防には,当面の間次の事柄を統合した感染
制御プログラムに概ねウエイトを置くことになる。(a)手指衛生の強化,(b)標準予防策および接触予防策
の適切な運用,(c)高水準の環境清浄度の維持,(d)抗微生物薬の適正使用プログラム。
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感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
抗微生物薬の適正使用とクロストリジウム・ディフィシル感染症:
感染予防師のための手引き
抗微生物薬の適正使用は,感染予防師の職責に新たに加わりうる感染予防・感染制御の一側面である。あ
らゆる医療環境での抗菌薬の使用と患者に対する影響,さらに,抗微生物薬の適正使用プログラムに関する
議論について,専らクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の枠組みのなかで展開する。管理プロ
グラムの作成には抗菌薬だけではなく,抗ウイルス剤と抗真菌剤をも取り上げるのが理想的であるため,意
味範囲の広い用語として“抗微生物薬の適正使用(antimicrobial stewardship)”という用語が“抗菌薬の適正使用
(antibiotic stewardship)”に代わって用いられる。この議論では,クロストリジウム・ディフィシル感染症に
対処する際に最も大きなかかわりがある薬剤であるため,“抗菌薬”という用語が最も頻繁に用いられる。
クロストリジウム・ディフィシル感染症発生にみる抗菌薬使用の位置づけ
クロストリジウム・ディフィシル感染症はほぼ例外なく抗菌薬使用の合併症として観察されるため,適切
な抗菌薬の使用を確実なものにする医療施設プログラムの作成がクロストリジウム・ディフィシル感染症の
制御に重要な介入であると考えられる
24,90,91
。図 13.1 は大腸のクロストリジウム・ディフィシル感染症のさ
まざまな段階を表しており,正常な大腸環境(段階 A)に始まり,偽膜性大腸炎(段階 D)の発症に至る。
抗菌薬の使用が偽膜性大腸炎の発症に演じる決定的な役割を理解するため,クロストリジウム・ディフィシ
ル感染症発生機序のさまざまな段階をレビューしてみよう。
段階 A
段階 B
段階 C
段階 D
正常な消化管細菌叢
クロストリジウム・
クロストリジウム・
クロストリジウム・
および粘膜
ディフィシル定着
ディフィシル毒素産生
ディフィシル大腸炎
クロストリジウム・
ディフィシル
クロストリジウム・
ディフィシル毒素
A および B
抗菌薬
偽膜
白血球
図 13.1.
クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎の発生機序の各段階
感染制御・疫学専門家協会
53
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
正常大腸細菌叢
正常な消化管細菌叢は腸内の病原体に対する重要な防御機構である。正常細菌叢の一部は大腸上皮細胞に
ある受容体に付着するが,他の細菌は腸の管腔に存在している(図 13.1,段階 A)
。クロストリジウム・ディ
フィシルが腸に定着するには,正常細菌叢が攪乱されることが条件となる。ヒトの大腸に存在する菌種の数
はまちまちであるため,クロストリジウム・ディフィシルからの保護作用を担う微生物を特定するのは困難
になっている。無傷の腸内細菌叢がクロストリジウム・ディフィシル定着から自らを防御する方法は十全に
は解明されていないが,いくつかの機序が提示されている。クロストリジウム・ディフィシルはヒトの腸細
胞にある受容体に付着しようとするが,受容体が正常腸内細菌叢で占められているかぎり,腸粘膜に到達し
たクロストリジウム・ディフィシルの菌株には付着する場所がない。
正常細菌叢は付着部位をめぐり競合することによって定着を阻止するほか,クロストリジウム・ディフィ
シルから必要不可欠な栄養分を奪うことによって定着を阻止する。正常細菌叢はこのほか,クロストリジウ
ム・ディフィシルを阻止したり,死滅させたりする物質を産生してクロストリジウム・ディフィシルに拮抗
する。一方,抗菌薬は大腸細菌叢を変化させるだけではなく,大腸の蛋白質組成や粘液産生量を変化させて
大腸の微小環境に変化を加えることによって,クロストリジウム・ディフィシルに味方する。
クロストリジウム・ディフィシルの定着
医療施設に入院した患者は,施設内に存在するクロストリジウム・ディフィシルの菌株に接触する可能性
が高くなる。クロストリジウム・ディフィシルが大腸環境に到達しても,その患者に正常細菌叢があるかぎ
り,腸内細菌叢の一部として確立され,腸に定着することはできない。正常腸内細菌叢のある患者は概ね,
クロストリジウム・ディフィシル定着に抵抗性がある。クロストリジウム・ディフィシルは患者の大腸細菌
叢の環境では生存の機序に関して,感受性の高い微生物に対する優位性はないと考えられる。細菌叢の環境
が抗菌薬の使用によって攪乱されると,患者はリスクにさらされる(図 13.1,段階 B)
。
特定の抗菌薬が腸内細菌叢を変化させる傾向は,抗菌薬の付随的な副作用(collateral damage)である。こ
の付随的な副作用の程度は,抗菌薬の抗菌スペクトル,大腸環境に到達する抗菌薬の量,大腸の嫌気的条件
下で抗菌薬が示す殺菌活性など,抗菌薬の一連の因子に左右される。その他の付随的な副作用の程度に影響
を及ぼす事柄としては抗菌薬の用量,投与経路,胆汁を介しての排出経路,腸内の抗菌薬代謝物の存在など
が挙げられる。抗菌薬の付随的な副作用は大部分が正常大腸細菌叢の死滅によるものであるが,クロストリ
ジウム・ディフィシルに対する大腸の防御機構に重要な役割を果たしている細菌を越えて,抗菌薬が他の大
腸の因子を変化させることによって付随的な副作用をもたらすことも考えられる。
クロストリジウム・ディフィシルによる毒素産生
クロストリジウム・ディフィシルの菌株の全部が毒素を産生するわけではない。毒素産生性の菌株は主に,
A と B の 2 種類の毒素を産生する。毒素が細胞に侵入できるようになるには,上皮細胞にある受容体に付着
する必要がある(図 13.1,段階 C)。新生児がクロストリジウム・ディフィシル感染症から防御される理由は,
新生児には腸に毒素 A および B の受容体がないことにある。
いずれの毒素も細胞傷害活性を持つ。アメリカの病院で最近みられた重症クロストリジウム・ディフィシ
ル感染症の集団発生では,通常の菌株に比して 15~20 倍の量の毒素 A および B を産生する毒素産生能の高
い菌株が原因となっている。この菌株は分子を利用する手法によって toxinotype III, North American PFGE type
54
感染制御・疫学専門家協会
医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
1(NAP1)と命名された。
クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎(C. difficile Colitis)
菌の定着および毒素の産生ののち,毒素が細胞内の受容体に付着し,大腸の細胞に侵入する。クロストリ
ジウム・ディフィシルの毒素はアポトーシスを促進し,細胞死を誘発する。アポトーシスは,寿命が短くな
るよう遺伝的にプログラムされているか,損傷される一定の細胞の自然な自己破壊の過程である。上皮細胞
が基底膜から管腔に排出され,浅い大腸潰瘍を残す。白血球と他の炎症細胞のほか,血清蛋白と粘膜が潰瘍
の外に流出し,典型的なクロストリジウム・ディフィシル関連の大腸偽膜を形成する(図 13.1,段階 D)。
クロストリジウム・ディフィシル予防のための対応の一要素としての
抗微生物薬の適正使用
医療関連-医療発症クロストリジウム・ディフィシル感染症(healthcare-associated, healthcare-onset CDI)に
考えうる上での最悪の臨床的シナリオは,感染症がなく正常な消化管細菌叢のある患者が病院に入院し,ク
ロストリジウム・ディフィシル劇症型大腸炎を発症した結果,入院から数日後に腹腔内敗血症により死亡す
るというものである。図 13.2 は,この種の患者の入院から死亡に至る臨床経過のさまざまな段階を示したも
のである。そのほか,医療関連-医療発症クロストリジウム・ディフィシル感染症の予防と感染制御および
治療に用いることができる対策の組織的かつ体系的な手法を示している。各々の抗微生物薬の適正使用プロ
グラムを作成し実施することにより,医療環境の抗菌薬の使用状況を改善することが,クロストリジウム・
ディフィシル予防のための対応にかかわる過程のいくつかの段階に決定的に重要な要素である。
第 1 段階:
抗生物質の付随的障害
第 2 段階:
クロストリジウム・
ディフィシル院内曝露
第 3 段階:
クロストリジウム・
ディフィシル毒素産生
第 4 段階:
毒素の過剰産生
第 5 段階:
ショックおよび
重症敗血症
図 13.2.
患者
正常な消化管細菌叢
クロストリジウム・
ディフィシルの
予防・管理
抗菌剤管理
患者
消化管細菌叢の攪乱
感染制御
患者
クロストリジウム・ディフィシル
定着
患者
クロストリジウム・ディフィシル
大腸炎
感染予防
抗菌剤管理
患者
劇症大腸炎
至適な外科的治療
患者
クロストリジウム・ディフィシル
により死亡
事象の監視と
根本的原因の分析
医療環境でクロストリジウム・ディフィシル感染症を予防・管理するための対応
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
保菌の予防における抗微生物薬の適正使用の役割
あらゆる抗菌薬が大腸細菌叢を攪乱するが,患者の消化管細菌叢の付随的な副作用を引き起こす能力の点
では同じではない。特定の抗菌薬によってもたらされるクロストリジウム・ディフィシル感染症のリスクを
評価する場合は,ふたつの要素を考慮する必要がある(図 13.3)
。ひとつはある特定の抗菌薬がもたらすリス
クの程度である。この点については,抗菌薬による患者のクロストリジウム・ディフィシル感染症発症リス
クの程度が低,中,高に分けられる。もうひとつは,患者がクロストリジウム・ディフィシル感染症発症の
リスクにさらされることになる日数である。患者が抗菌薬療法の投与を受けている期間中クロストリジウ
ム・ディフィシルを保菌するリスクが生じ,この状態は抗菌薬療法中止後の 5~10 日目まで続く。
たとえば,外科的予防投与(surgical prophylaxis)としての第 1 世代セファロスポリン系抗菌薬※17の 1 回投
与など,狭域スペクトルの抗菌薬を投与されたのが 1 日にも満たない患者であれば,クロストリジウム・デ
ィフィシルを保菌するリスクの程度は低く,リスクにさらされる期間も短いと考えられる(図 13.3,A)
。も
し,同じ患者が不要な広域スペクトルの抗菌薬による外科的予防投与を受けるとすれば,その抗菌薬による
臨床的便益がほかに得られないまま,リスクの程度が「低」から「高」に上がる可能性がある(図 13.3,B)
。
第 1 世代セファロスポリンによる外科的予防投与を延長し,手術当日を過ぎて反復投与を続けた場合でも,
患者がリスクにさらされる日数が長くなることにより,クロストリジウム・ディフィシル感染症のリスクが
高まる(図 13.3,C)。
適切な処方であるかどうかに関係なく,あらゆる抗菌薬療法が付随的な副作用をもたらし,患者をクロス
トリジウム・ディフィシル感染症のリスクにさらすことになる。ことに広域スペクトルの抗菌薬の不適切な
使用の延長が,予防すべき付随的な副作用のきわめて重要な決定因子である。この種の付随的な副作用は長
期間にわたって患者を高いリスクにさらすことになる(図 13,3,D)。
リスクの程度
高リスク
中程度のリスク
低リスク
日数
リスクのある期間
図 13.3.
抗菌薬の使用に応じた患者のクロストリジウム・ディフィシル感染症
発症リスクとリスクのある期間
※17 監訳注:代表的な外科的予防投与として処方される第 1 世代セファロスポリン系抗菌薬は,セファゾリンである。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
患者を高いリスクにさらし,リスクの期間が長くなる抗菌薬の不適切な使用に最も多い例が,感染症の原
因菌が特定されておりその菌が比較的狭域の抗菌薬に感性であると判明しているにもかかわらず,広域スペ
クトルの抗菌薬を継続している例である。たとえば,ICU 収容期間が長く人工呼吸器関連肺炎(VAP)を併
発した患者では,VAP の原因菌が耐性グラム陽性菌および体制グラム陰性菌の可能性に対応するため,広域
スペクトルの抗菌薬による経験的療法を開始するのが妥当と考えられる。
呼吸器または血液培養の結果,メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)が VAP の病因であることが確認
された場合,初期の広域スペクトルの治療を継続することは不適切と考えるべきである。この臨床的シナリ
オでは,抗菌薬療法をナフシリンやセファゾリンなど,MSSA を標的とする抗菌薬にスペクトルを縮小する
必要がある。耐性菌による感染症のリスクがある入院患者に当初は広域スペクトルの抗菌薬による経験的療
法(empiric broad-spectrum therapy)を実施したとしても,耐性菌が感染症の病因であることが確認されなけ
れば,必ず標的スペクトルを縮小しなければならない。標的スペクトルを縮小しないことが不適切な抗菌薬
使用の理由となっている場合が多いため,抗菌薬管理プログラムでは,抗菌薬療法をしかるべく縮小しない
ことによる付随的な副作用を予防する方策を立てなければならない。
抗菌薬処方プログラムには,保菌状態の患者や検査材料への汚染菌の混入事例への抗菌薬処方のほか,感
染症として発症している根拠が得られない患者に対して抗菌薬処方をするなど様々な問題がある。抗菌薬療
法は付随的な副作用をもたらす可能性があるため適正な処方が求められる。
感染予防における抗微生物薬の適正使用の役割
クロストリジウム・ディフィシルを保菌すると,その患者はクロストリジウム・ディフィシル性大腸炎を
発症することもあれば,発症せずに保菌状態にとどまることもある。発症しない場合,保有しているクロス
トリジウム・ディフィシルが毒素を産生しない菌株であることが考えられる。この臨床的シナリオでは,患
者に非毒素産生株が定着した状態になると,毒素産生株の定着から防御される。最初の菌株が受容体を占有
して,新たな菌株が付着する場所がなくなるためと考えられる。非毒素産生株のクロストリジウム・ディフ
ィシルが定着した患者に対するメトロニダゾールの使用は,わざわざ非毒素産生株を死滅させ,毒素産生株
による定着および感染を許すことになる。その結果クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎の発症を助長
することになる。
クロストリジウム・ディフィシルが一定の抗菌薬と接触すると毒素産生能が変化することが示唆されてい
る。in vitro での実験では,クロストリジウム・ディフィシルが抗菌薬と接触するとさらに多くの毒素を産生
することが示されている。理論的には,すでにクロストリジウム・ディフィシルが定着している患者に抗菌
薬投与を開始すると,抗菌薬がクロストリジウム・ディフィシルに及ぼす直接的な影響によって疾患のリス
クが高くなる。このことは抗菌薬管理プログラムに影響を及ぼし,患者がすでに定着状態にあれば,不要な
抗菌薬処方の回避はクロストリジウム・ディフィシル感染症の予防に重要な方策となる。
クロストリジウム・ディフィシルのあらゆる菌株が毒素を産生し,大腸炎をもたらすのに同じ能力を備え
ているわけではない。患者が強毒性の NAP 1 株に感染すると劇症型大腸炎を発症する頻度が高くなる。この
特別な菌株のクロストリジウム・ディフィシルはフルオロキノロンに耐性があるため,フルオロキノロンの
使用が腸内細菌叢を変化させ,NAP 1 株に有利な選択圧を生み出す。NAP 1 株が存在する場所では,フルオ
ロキノロンに関する抗微生物薬の適正使用が重要である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
糞便中のクロストリジウム・ディフィシルの毒素の検査結果が陽性であっても,それだけでは抗菌薬療法
の適応とはならない。症状がないもののクロストリジウム・ディフィシルの検査結果が陽性であった患者は
キャリアとみなすべきであり,抗菌薬療法の適応とされない。メトロニダゾールまたはバンコマイシンの不
適切な処方は,キャリアであるにすぎない患者のクロストリジウム・ディフィシル感染症の発症を助長する。
正常腸内細菌叢の存在がクロストリジウム・ディフィシルによる毒素産生を阻止するため,広域スペクトル
の抗菌薬の不適切な処方は,クロストリジウム・ディフィシルを保菌しているにすぎない患者の毒素産生と
感染症の発症を助長することになる。
感染症の治療における抗微生物薬の適正使用の役割
患者にクロストリジウム・ディフィシル感染症の診断が下されると,至適な薬物療法を実施するために抗
微生物薬の適正使用が重要となる。これは,クロストリジウム・ディフィシル予防のための対応(図 13.2)
では第 4 段階の介入に相当する。クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎のある患者の管理には考慮すべ
き方策が 3 つある。1)クロストリジウム・ディフィシルの殺菌,2)毒素のブロック,3)正常細菌叢の回復
である。
大腸内のクロストリジウム・ディフィシルは,メトロニダゾールまたはバンコマイシンの経口投与によっ
て殺菌することが可能である。経口メトロニダゾールで治療した患者では,大腸の炎症が改善し液状便が有
形便に変わっていくのにしたがって,糞便中メトロニダゾール濃度が低下する。経口バンコマイシンは治療
の開始時から終了時まで,ほぼ同じ濃度が維持される。イレウスのある患者では,抗菌薬の胃から大腸への
通過に著しい遅延が生ずる。静脈内投与が必要な場合は,胆汁,さらに,炎症を起こした大腸粘膜によって
排出され,クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療に十分な糞便中濃度が得られるメトロニダゾール
を使用することができる。一方,バンコマイシンを静脈内投与した場合はバンコマイシンは大腸の内腔には
排出されない。このためクロストリジウム・ディフィシル感染症の治療にはバンコマイシンの経静脈投与を
適用することはできない。経口バンコマイシンを用いることができない場合は,バンコマイシン注腸による
投与が大腸内のクロストリジウム・ディフィシルを殺菌する別の選択肢となる。適切なメトロニダゾール療
法またはバンコマイシン療法を実施しても,患者の 10~25%にクロストリジウム・ディフィシル感染症が再
発する恐れがある。
アニオン結合樹脂のコレスチポール(anion-binding resins colestipol)やコレスチラミン(cholestyramine)で
大腸内のクロストリジウム・ディフィシルの毒素をブロックする方法が研究されているが,この方策はクロ
ストリジウム・ディフィシル感染症の一次療法としては効果的ではない。毒素は免疫グロブリンの静脈内投
与によってブロックされると考えられる。市販されている静脈注射剤には毒素 A および B に対する抗体が含
有されているためである。この手法は重症な基礎疾患のある患者に考慮される。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の管理では正常な大腸微小環境の回復が何よりも重要である。正
常大腸細菌叢の回復に決定的に重要な段階が,現に実施している抗菌薬療法を中止できるかどうか判断する
べく患者を評価することである。患者によっては,確認された感染症の治療を終えるには抗菌薬療法の継続
が必要である。このような症例では,抗菌薬チームが感染症の種類を考慮して,消化管細菌叢の付随的な副
作用を最小限に抑えられる抗菌薬による治療の継続を提案することが考えられる。
大腸の微小環境を回復させる目的で,有益な特性のある微生物,プロバイオティクスの経口投与がクロス
トリジウム・ディフィシル感染症のある患者を対象に研究されている。クロストリジウム・ディフィシル感
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
染症のある患者に対するプロバイオティクスの理論的有益性には,クロストリジウム・ディフィシル増殖の
抑制,クロストリジウム・ディフィシルに結合すべき受容体を残すことなくプロバイオティクスが上皮細胞
に結合すること,腸のバリア機能の改善,大腸の免疫システムの望ましい調節が挙げられる。クロストリジ
ウム・ディフィシル感染症のある患者を対象とする臨床研究のデータが確定的なものではないため,クロス
トリジウム・ディフィシル感染症のある患者の管理におけるプロバイオティクスの利用は現在の標準治療と
はされていない。
正常大腸細菌叢を回復させるべく,健常人から得た糞便の細菌叢全体の投与(糞便移植[fecal transplant]
と呼ばれる療法)が研究されている。データは症例集積研究に限られるが,糞便移植は再発を繰り返すクロ
ストリジウム・ディフィシル感染症の治療に成果を挙げている。
抗微生物薬の適正使用プログラムの構成要素
抗微生物薬の適正使用管理プログラムの目的は,抗菌薬の賢明な使用を促進するべく,正しい薬剤の,正
しい目的による,正しい期間の使用を至適化することにある。効果的な管理プログラムを構成する事柄をめ
ぐる議論は本書の範囲を越えるものであるが,その基本には次のような要素が盛り込まれる。
1. 特定の抗菌薬の使用について基礎となる証拠を用いて作成され,医師の助言を取り入れた文書による
ガイドライン
2. 微生物学検査の正確な結果,その結果の迅速な報告
3. 医師が経験的療法に適した薬剤を選択できるようにとりまとめて報告されるアンチバイオグラム
(antibiograms)※18
4. 治療期間が不適切に長期化する可能性を最小限に抑えるシステム
5. 治療法を狭域スペクトルの抗菌薬に縮小するのを積極的に支援するプロセス
6. ガイドラインの遵守に関するフィードバック
7. プログラム全体を支援するシステムの監視
以上の例は効果的な抗微生物薬の適正使用管理プログラムに重要な構成要素のごく一部であり,業務の範
囲を示し,奏功に必要な病院経営上の管理者による支援の程度を明らかにする役割がある。
※18 監訳注:アンチバイオグラムとは,特定の分離菌株の薬剤感受性情報を表などにまとめたものを指す。通常薬剤感
受性試験の結果は,米国臨床検査標準化委員会(CLSI)の設定した菌種毎の薬剤感受性判定基準に基づき感性(S)・
中間耐性(I)・耐性(R)の 3 つのカテゴリーに分類され報告される。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
結論
医療環境ではクロストリジウム・ディフィシル感染症の発生率が上昇を続け,重症度が高くなってきてい
る。クロストリジウム・ディフィシルによる感染症が患者の罹病率および死亡率を上昇させている。非感染
性疾患のために医療施設に入院した患者が,クロストリジウム・ディフィシルによる感染症を原因に入院中
に死亡する事態が深く憂慮される。抗菌薬使用がクロストリジウム・ディフィシル感染症発生機序に演じる
決定的な役割を考慮すると,病院がクロストリジウム・ディフィシル感染症の予防,感染制御および治療に
焦点を合わせた抗微生物薬の適正使用プログラムを実施することが重要になる。クロストリジウム・ディフ
ィシルの伝播とクロストリジウム・ディフィシル感染症の発症を予防するには,至適な感染予防・感染制御
への取り組みと抗菌薬管理を組み合わせることが必要である。
抗菌薬の使用法を至適化する包括的な手法を維持するには,感染予防師が抗微生物薬の適正使用プログラ
ムの構成要素を理解し,その充実に必要な組織的支援体制を確保すること重要である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
クロストリジウム・ディフィシル感染症の伝播阻止に
システムを利用する
この 50 年間に医療知識が急激に増大した結果,アメリカの医療提供が縦割り型に変化し,高度に専門化さ
れたサービスおよび情報のシステムを提供する専門家の集団が形成された。このようなシステムの多くは別
のシステムとデータをやりとりしたり,共有したりすることができず,書類手続きの負担を増大させ,すで
に過剰な負担を強いられている医療従事者の仕事をさらに増やすことになっている。
医療には従来,標準化された業績評価尺度がなく,質と効率を高めるための活動が大きなシステムの内部
で孤立することが少なくない。業績目標を設定する場では多くの場合,遵守率 80%という目標が許容範囲と
される。しかし,80%という目標を医療以外の産業と比較すると,医療の目標は悲惨なほど不十分に映る。
他の業界で業績水準 80%といえば,毎日 3,600 万枚の小切手が誤った口座に振り出され,900 万回のクレジ
ットカード処理にミスが発生し,飛行機事故の死者の数が 1,000 倍になるということだ。
アメリカで医療システムを複雑にしている要因のひとつは,根拠に基づくものであることだ。言い換える
と,何らかの事象の発生(クロストリジウム・ディフィシルに関する糞便の毒素試験の結果が陽性となるな
ど)が他の業務対応(接触予防策を実施するなど)の引き金になるということだ。このような業務対応が,
引き金となった事象から切り離されていたり,互いに切り離されていたりすることが少なくない。
10 年ほど前,医学研究所(The Institute of Medicine, IOM)が全米の医療システムを対象に,広範囲に及ぶ
深刻な問題を洗い出した。その歴史的な報告書『人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して』
(To Err is Human: Building a Safer Health System)』※19で IOM は,毎年 98,000 人もの患者が医療ミスによって
亡くなっていることを指摘している
92
。このようなミスの大部分は個人の不注意によるものでもなければ集
団の不注意によるものでもなく,むしろ,ミスを予防することができないか,人々をミスに導くような欠陥
のあるシステム,プロセスおよび条件が原因となっている。
IOM は,安全な医療システムを構築することは,患者に事故による受傷の不安がないようにケアのプロセ
スを設計することであると認識している。また,高いリスクのある産業の仕事が,医療システムの改善に活
かせる経験や手段を提供してくれていることも認識されている。
2005 年,IOM は大きな影響力をもつもうひとつの報告“よりよい提供システムを構築する―工学と医療の
新たな連携(Building a Better Delivery System: A New Engineering/Health Care Partnership)93 を発表した。この
報告は,通信,輸送,製造などの大規模産業の質と業績に変革をもたらすのにシステム工学の手段が活用さ
れてきたことを指摘し,医療システムの改善にもそのような手段を活用することができると提案している。
システム工学概説
システム工学とは,利用者や参加者の要求を満たすシステムを生み出すことを目的に,相互に作用する構
成要素やサブシステムを設計し,実行し,管理することである。あらゆるシステムが,相互に関係があり,
相互に依存する要素,サブシステムから構成される。こうしたサブシステムは相互に作用する一連のモノや
※19 監訳注:『人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して(To Err is Human: Building a Safer Health
System)』の訳本が刊行されている:医学ジャーナリスト協会訳,日本評論社,2000 年
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
人であり,個人とは異なる振る舞いをする。そして,そのようなサブシステムの相互作用がシステムの特徴
を形作る。
システムの目的に,特定の業績目標を達成することがある。業績目標のふたつの大きな範疇はサービス(有
用性,信頼性,質など)とコスト(コストを制御したり,抑えたりできる程度)である。数学的・分析的方
法によってシステム性能の測定が可能になるほか,既存のシステムとそのサブシステムの働きを改善するこ
ともできる。2005 年 IOM 報告では,システム設計のほか,コンカレント・エンジニアリングと品質機能展
開,待ち行列法,離散型イベントシミュレーション,サプライチェーン管理など,医療システムの業績を測
定するのに有用な分析手段を検討し,考察している 93。※20
合理的かつ効率的なサブシステムの開発に頻繁に用いられる方法がプロセスフローモデル(process flow
model)である。プロセスフローは理想的な状態にある手順および作業を残らず明らかにし,それを既存のプ
ロセスと比較する。ギャップ分析(gap analysis)によって,考えられるボトルネックの発見が可能になり,
あらゆる改善の機会の検討が促される。該当プロセスにかかわりがある各分野の代表者から構成される作業
チームは,理想的なプロセスおよび作業を目に見えるようにし,その光景を現実へと変化させる。プロセス
評価を実施する際に最も重要な問いのひとつは“なぜ”である。つまり,なぜ私たちはこれをこの方法で実施
するのか?ということだ。この問いかけは,いつもその方法で実施されてきたから実施されることとは対照
的に,その仕事に必要な手順を明らかにするのに有用である。
次章ではシステムの観点から,クロストリジウム・ディフィシル排除の鍵となるプロセスを見直し,理想
的なプロセスフローを描くときに考慮すべき問題を洗い出す。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の伝播をなくすために
プロセスフローモデルを用いる
この場合のシステムはクロストリジウム・ディフィシルの伝播を予防し,制御し,なくすために必要な作
業および方策の全部から構成される。望まれる成果の閾値は院内獲得型クロストリジウム・ディフィシル感
染症の症例がみられなくなることである。しかし,クロストリジウム・ディフィシルの予防には,サーベイ
ランス,迅速な診断と治療,接触予防策の開始と継続,環境清浄・消毒など,いくつかのサブシステム,プ
ロセスが必要である。
※20 監訳注:①コンカレント・エンジニアリング(concurrent engineering):業務を同時進行させることで,開発期間や
納期の短縮など効率化を進める手法。②品質機能展開(quality function deployment, QFD):日本で開発された管理
技法で新製品等の開発に当たり顧客の要求する品質を基に設計品質を決定しこれを実現するためその構成機能・部
品の品質について体系的に図式化して展開して製造開始前に品質保証を行おうとするもの。③待ち行列法(queuing
methods):コンビニエンスストアーのレジに並ぶ時,既にそこに何人並んでいるかを考える手法。通信回線を通じ
コンピュータに仕事を指示したり電話の話し中をいかに減らすかなど,ネットワーク関係の基礎的な理論。④離散
型イベントシミュレーション(discrete-event simulation):待ち行列型モデルの混雑現象を分析・評価するためのシ
ミュレーション。到着やサービスの確率的な変動を乱数によって再現し,混雑状況を分析する。⑤サプライチェー
ン・マネジメント/供給連鎖管理(supply-chain management):主に製造業や流通業で原材料や部品の調達から製
造・流通・販売という生産から消費に至る商品供給の流れを“供給の鎖(サプライチェーン)”と捉えそれに参加す
る部門・企業の間で情報を相互に共有・管理すること。
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サーベイランス
電子カルテであれば,最近発表されたサーベイランス定義集を利用し,医療情報システム部門と協力して
クロストリジウム・ディフィシル自動クエリー※21を作成することも可能である 30。サーベイランス定義はク
エリーのためのプログラミング・ルールとなる。以前の入院時の病室または病棟のデータが病院のデータベ
ースに入力されていれば,自動クエリーによって市中発症-医療施設関連型(CO-HCFA)症例および医療施
設発症-医療施設関連型(HCFO-HCFA)症例に関するサーベイランスが可能であろう。自動クエリーを作成
すれば,予防の努力に割く時間を多くし,データの収集と見直しに費やす時間を減らすことができる。
高リスク患者の診断と治療を促す
何をもってクロストリジウム・ディフィシル検査の引き金とするのか?
(腸内細菌叢に影響を及ぼす抗菌薬または抗腫瘍剤の使用,加齢,30 日前以内の入院歴,長期ケア施設の
入居者などの)クロストリジウム・ディフィシル感染症の危険因子がある患者についてはその疑いを高度に
指数化することが早期発見には不可欠である。
1. 抗菌薬が指示されれば,疑い指数(index of suspicion)を高めた対応をとることになる。そのような方法
のひとつに,次のメッセージが書かれたステッカーをカルテの表に貼ることが考えられる。「抗菌薬はク
ロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)発症の危険因子です。患者が抗菌薬を投与されている時期
に下痢を発症しているか,60 日前以内に抗菌薬を投与されていた場合はクロストリジウム・ディフィシ
ル感染症に関する評価を検討してください」。
a. 電子カルテであれば,抗菌薬がコンピュータ指示入力システムに入力され,主治医または治療担当医
の E メールまたはコンピュータ業務リストに送信された時点で,上のメッセージを自動的に表示させ
ることもできる。コンピュータ指示入力システムへの入力によって看護計画に合図のフラグを立て,
スタッフに患者の下痢に関する評価を思い出させることも可能である。
b. 抗菌薬の指示をもって微生物検査データベースを検索する引き金とすることも可能である。患者が前
回の毒素試験で陽性を示していた場合,クロストリジウム・ディフィシル感染症の既往歴を知らせ,
新たに下痢が認められれば再検査を推奨する電子的メッセージが自動的に医師のほか,看護計画に送
信されるなどである。
2. 電子カルテの看護記録のひとつの欄を液状便排泄量に充てることも可能である。患者が抗菌薬の投与を受
けており,下痢の欄に 0 以外の数字が入力されれば,メッセージが自動的に現れて医師にクロストリジウ
ム・ディフィシルの検査の検討を促すというものである。
微生物検査室または外部委託検査機関はどのくらいの頻度で
クロストリジウム・ディフィシルの毒素試験を実施するのか?
多くの検査室が週に 1,2 回まとめて検査を実施している。試験の量に応じて,毒素試験の検査の頻度を増
やすことも考えられる。
※21 監訳注:クエリー(query)とはデータベースからデータを抽出したり操作したりといった処理を行うための命令の
こと。問い合わせと訳されることもある。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
毒素試験の結果が陽性であれば,ただちにしかるべきスタッフ(感染予防,治療担当医,
看護スタッフ)に伝えられるのか? 微生物検査室は陽性であれば結果を電話で連絡する
ことができるのか? 誰に電話するのか? その人は年中無休で連絡が取れるのか?
1. 電子カルテであれば,微生物検査室が結果は陽性であるとコンピュータに入力した時点で,主治医/治療
担当医,感染予防師および看護スタッフにメッセージを自動的に送信させることが可能である。
2. 記録の特定の欄を隔離カテゴリーに充て,隔離患者全員に目印のフラグを立てる。処置や検査のスケジュ
ールを立てる時点で隔離カテゴリーがわかるよう,フラグが他の患者ケア部門でも見えるようにする。
毒素試験の結果が得られてから医師がメトロニダゾールの処方を指示するまでどのくらい
時間が掛かるのか? 処方指示が記入されてから患者がメトロニダゾールの初回投与を受
けるまでどのくらい時間が掛かるのか?
1. 連絡システムが自動化されていれば,自動メッセージに薬剤指示に関する欄を組み込むことが可能である。
例「患者に下痢があり,糞便がクロストリジウム・ディフィシル陽性です。すぐにメトロニダゾールを指
示しますか?」。
2. 医師が「はい」をクリックすれば自動的に指示が電子カルテに入力され,他のメッセージが現れる。
接触予防策の開始と継続
誰が,なぜ,接触予防策を開始するのか?
ペイフォーパフォーマンス※22が医療費の償還に関する標準であった時期は,医師の指示を求める必要があ
った。今日では医療施設が DRG※23に基づいて医療費の償還スケジュールを取り決めており,医師の指示は必
ずしも必要なくなった。クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者のケアにあたっているスタッフ
に隔離を開始する権限を与え,患者の隔離に必要な時間が短縮されなければならない。
検査結果が得られてから隔離対象の表示がドアに貼られるまで
どのくらい時間が掛かるのか?
(抗菌薬使用歴,液状便などから)クロストリジウム・ディフィシル感染症が強く疑われる場合や病棟に
医療施設発症-医療施設関連型(HCFO/HCFA)型の症例が同時に 2 例以上収容されている場合,毒素試験の
結果を待つのではなく,糞便が毒素試験に送られた時点で,看護スタッフが接触予防策を開始する必要があ
る。
どのようにして隔離に必要な物品を用意するのか?
1. 隔離カートシステムを採用している場合は,必要な物品(ガウン,使い捨て聴診器,使い捨て血圧測定用
カフ,体温計,除菌クロス)がカートで届けられるようにする。
2. 電子カルテであれば,微生物検査室が検査結果陽性と入力した時点で,自動的に隔離用物品の指示が中央
※22 監訳注:ペイフォーパフォーマンス(pay-for-performance, P4P)とは,業績評価の指標を業績の達成度におき,それ
に応じて給与を支払う方法。
※23 監訳注:DRG(Diagnosis Related Group)とは疾患別患者分類のことで,米国の公的医療扶助制度は疾患別患者分類
(DRG)別-包括支払(Prospective Payment System, PPS)方式を採用している。日本で実施されている DPC のお手
本となった米国の医療費支払い制度である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
サプライ部門に送られる。
隔離用物品(ガウン,手袋など)はすぐに用意できるのか? 隔離カートまたは壁掛け式
ラックに必要な物品を補充する責任者は誰か? 隔離用物品が必要な場合,すぐに用意す
ることができるのか?
1. 担当者の作業リストに物品の定期的な補充が記載されていることを確認する。
2. 壁掛け式の隔離用物品ラックの所定の位置に赤色矢印を付けるなど,目印を用いて,物品が残り少なくな
ればスタッフがすぐに気づくようにする。ガウンの山の高さが赤色矢印を下回れば,ラックに補充しなけ
ればならない。
3. たとえばガウンなど,特定の物品が頻繁に供給不足となるようであれば,患者ケア病棟と中央サプライ部
門がその物品に関して病棟の標準の数量を評価しなければならない。
4. ふたつ以上の病棟で不足がみられるようであれば,中央サプライ部門が建物全体の標準の数量を評価する
必要がある。
5. 1 日当たり患者 1 人に使用される隔離用ガウンの数量の平均を明らかにする。中央サプライ部門に毎日,
病棟に収容されている隔離患者の人数を連絡する。該当患者の記録のなかで隔離状況に目印のフラグを立
てることができれば,1 日当たり 1 病棟の隔離患者数の自動報告が可能なはずである。自動報告を毎日送
信するようにすれば,中央サプライ部門が固定された標準の数量ではなく,隔離患者の実数に基づいて補
充することができる。
6. 清潔な物品室に隔離用の標識,ガウン,聴診器などを入れた予備の“隔離用パック”を保管しておく。
7. 清潔な物品室に予備のガウンを保管しておく。
施設からクロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者との接触後に流水と石けんに
よる手指衛生が求められている場合,他の病棟や部門のスタッフにどのようにして患者の
クロストリジウム・ディフィシル感染症の状態を連絡するか?
1. 手指衛生に流水と石けんを使用しなければならないことを示すには,ドアに次亜塩素酸ナトリウムのボト
ルの絵を貼る方法がある。
2. 注意:手指に次亜塩素酸ナトリウムを使用してはならないため,次亜塩素酸ナトリウムを手に取ったり,
次亜塩素酸ナトリウムのボトルの標識を誤って解釈したりする可能性を認識し,しかるべき訓練および監
視を実施すること。
環境清浄・消毒
クロストリジウム・ディフィシル感染患者の病室の清掃に次亜塩素酸ナトリウムを使用す
る場合,どのようにして施設管理に伝えるか?
a. 施設管理者に毎日,主任看護師に次亜塩素酸ナトリウムが必要な病室のリストを尋ねるようにしても
らうか,ドアに次亜塩素酸ナトリウムのボトルの絵を貼る。
効率的かつ効果的な洗浄・消毒を確実に実施するには,対処の必要がある問題がほかにもある。
• 個々の患者専用とすることができない器具を洗浄するときに,洗浄用品(除菌クロス,スプレーのボトル
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
および布,含浸布)がすぐに使用できる状態になっているか?
• 物品の供給の責任者は誰か?
• 希釈済みの第 4 級アンモニウム塩など,古くなった消耗品を監視し,交換する責任者は誰か?
• 運搬可能な装置(ベッドスケール,心電図装置,X 線,超音波など)に清掃用品が常備され,次の患者に
使用する前にすぐに清拭・消毒できるようになっているか?
• 消耗品を手入れする責任者は誰か?
• 古くなった希釈済みの消毒薬を監視し,交換する責任者は誰か?
クロストリジウム・ディフィシル感染症が蔓延しないようにするには,さまざまな医療部門および職員の
努力を必要とする。システム工学は,効率的なプロセスの開発,その管理に必要な情報伝達を可能にする手
段をもたらすものである。システム工学はさらに,そのようなプロセスの継続的な評価を可能にすると同時
に,プロセスを改善する方法を常に追求している。隔離の作業をできるかぎりひとつに統合する効率的なケ
アモデルや自動化のプロセスがあれば,患者を隔離するために追加される手順のいくつかを省くことができ
るだろう。このことは翻って,プロセスのなかの特定の手順が見落とされたり,忘れられたりする可能性を
減少させることになる。究極的には,医療従事者が望み,最善を尽くす事柄―患者と一緒に過ごすことに
多くの時間を取ることができるようになるだろう。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
用語集
BI/NAP1/027 株※24:ケベック州,アメリカおよびヨーロッパで起こった集団発生の原因であることが確認さ
れたクロストリジウム・ディフィシルの強毒性の流行株。BI/NAP1/027 株は in vitro で 16 倍の濃度の毒素 A,
23 倍の濃度の毒素 B を産生することが確認されている。この菌株のもうひとつの特徴にバイナリー毒素
(binary toxin)と呼ばれる毒素の産生が挙げられるが,その役割は未だ明らかにされていない。ただし,バ
イナリー毒素(binary toxin)を産生する菌株の場合,さらに重度の下痢を来たすと考えられる。BI/NAP1/027
株にみる極度の毒性の原因は,毒素 A および B の産生量の増大やバイナリー毒素(binary toxin),その他の
知られていない因子の組み合わせであると考えられる。
CDAD:クロストリジウム・ディフィシル関連疾患(Clostridium difficile-associated disease)
。この用語はクロ
ストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)という用語に取って代わられつつある。
クロストリジウム・ディフィシル感染症:Clostridium difficile Infection(CDI)
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile):嫌気性グラム陽性芽胞形成桿菌
市中関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症(Community-associated CDI)
:医療施設を最後に退院し
て 12 週間以上経過してから症状が発現したという条件で,クロストリジウム・ディフィシル感染症の症状が
市中で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に発症したもの。
市 中 発 症 - 医 療 施 設 関 連 型 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ デ ィ フ ィ シ ル 感 染 症 ( Community-onset, healthcare
facility-associated CDI):医療施設を最後に退院してから 4 週間以内に症状が出現したという条件で,クロス
トリジウム・ディフィシル感染症の症状が市中で発症するか医療施設に入院後 48 時間以内に発症したもの。
菌体外毒素(Exotoxin)
:細菌によって産生され,その周囲に放出される蛋白質であり,他の細胞を破壊した
り,細胞代謝を攪乱したりすることにより,宿主に損傷をもたらす。
糞便移植/糞便スラリー(Fecal transplantation/fecal slurry):クロストリジウム・ディフィシル感染症があ
り,従来の治療法に不応性であった患者の腸管内で正常な細菌を再成長させるため,ヒトの糞便のスラリー
(泥状物)および生理食塩水を使用する治療法であり,いくぶん議論の余地がある。この治療法では,家族,
通常は配偶者を提供者として糞便を得て,経鼻胃管から患者に移植する。
医療施設発症-医療施設関連型クロストリジウム・ディフィシル感染症(Healthcare facility-onset, healthcare
facility-associated CDI):医療施設に入院後 48 時間以上経過してから下痢またはクロストリジウム・ディフ
ィシル感染症の症状が出現し,クロストリジウム・ディフィシル感染症症例定義の基準を満たすもの。
芽胞形成過多(Hypersporulation)
:細菌が通常の状況下よりも速く栄養型(vegetative form)から芽胞(spore)
に移行する傾向。芽胞形成過多は一部の殺菌剤と接触することで引き起こされる可能性がある。
※24 監訳注:国内ではこの BI/NAP1/027 株タイプのクロストリジウム・ディフィシルのクローンによる流行はこれまで
検出されていない。しかし“備えあれば憂いなし”である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
次亜塩素酸溶液:有効塩素濃度 4,800 ppm 以上でクロストリジウム・ディフィシルの細菌芽胞を殺菌するこ
とができる溶液。典型的には無香の塩素系漂白剤 1,水 9 の割合の溶液であり,10%次亜塩素酸溶液となる。
このような溶液は市販されており,次亜塩素酸溶液のほかに洗剤が含有されている。※25
プロバイオティクス(Probiotics)
:天然の生きた微生物で,宿主に健康面の便益をもたらすべく投与される。
クロストリジウム・ディフィシル疾患の予防に用いる根拠は,プロバイオティクスが抗菌薬曝露によって変
化させられた消化管細菌叢に平衡を取り戻すことにより,クロストリジウム・ディフィシルの定着や異常増
殖を防ぐとする仮説にある。これまで,クロストリジウム・ディフィシル疾患の予防または治療にプロバイ
オティクスの日常臨床使用を後押しする,根拠に基づくデータは十分ではない。
偽膜性大腸炎(Pseudomembranous colitis)
:プラークが付着した特徴的な膜から成る大腸の炎症状態であり,
大量の水様下痢や腹痛などの重い症状がみられる。この病態はクロストリジウム・ディフィシル感染症に特
徴的なものとされる。
再発型クロストリジウム・ディフィシル感染症(Recurrent CDI)
:治療の有無にかかわらず消失した前回の
症状の出現から 8 週間以内に発症したクロストリジウム・ディフィシル感染症。
芽胞(Spore):環境条件が微生物にストレスを加え,増殖の持続を助長しない状態になったときに一部の細
菌が休眠期に入った状態。クロストリジウム・ディフィシルの芽胞は洗浄・消毒に対して高い耐性を示すほ
か,この微生物が胃酸の殺菌作用に耐え,胃を通過して生き残ることを可能にする。
システム工学:利用者や参加者の要求を満たすシステムを生み出すことを目的に,相互に作用する構成要素
やサブシステムを設計し,実行し,管理すること。
中毒性巨大結腸(Toxic megacolon):腸の病態の生命にかかわる合併症であり,重症の大腸炎のほか,発熱,
頻脈,ショックなどの全身症状をみる大腸の拡張を特徴とする。
栄養型クロストリジウム・ディフィシル(Vegetative Clostridium difficile)
:活発に増殖し,代謝している状態
のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)。
※25 監訳注:米国の医療機関では 6,000 ppm の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で医療環境の清拭消毒が実施されているが,
国内におけるこうした高濃度の次亜塩素酸ナトリウムによる環境清拭の使用についてはコンセンサスはない。国内
で環境清拭に用いられる次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用濃度は通常 1,000 ppm である。米国内では単包化され
た次亜塩素酸ナトリウム含浸のクロスが発売されているが,国内ではまだ同等品の供給はされていない。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
よくある質問
1.
クロストリジウム・ディフィシルの潜伏期間はどのくらいか?
クロストリジウム・ディフィシル獲得後の潜伏期間ははっきりとわかっていない。1 件の研究では 7 日未
満という短い潜伏期間が示唆されているが,曝露から症状出現までの間隔はそれよりも長くなると考えられ
る。そのため,医療関連クロストリジウム・ディフィシル感染症の症例の多くが入院を経て市中で発症する。
2.
患者が抗菌薬を投与されている場合,クロストリジウム・ディフィシル性大腸炎の発
症を予防する方法はあるか?
現在,クロストリジウム・ディフィシルの予防法はない。最も効果的な予防への対応は,抗微生物薬の使
用にあたり特定の病原菌にできるだけ対象を絞りできるだけ狭域スペクトルの薬剤を使用したり,適切な治
療後には治療期間をできるだけ短くすることに焦点を合わせた適正使用プログラムを推進することである。
3.
クロストリジウム・ディフィシル症の患者の接触予防策のための隔離はいつ解除すべ
きか?
日常の条件下では,下痢が消失すればクロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者の隔離を解除す
ることができる。集団発生の場合,または,クロストリジウム・ディフィシルの伝播の進行を示す証拠があ
る場合は,感染予防師が下痢の消失後でも患者がクロストリジウム・ディフィシルの排出を続ける可能性が
あることを認識し,退院まで接触隔離の期間を延長することを検討する。強化対応では,下痢がみられない
状態が 2 日間続くまで接触予防策を継続し,その後シャワーを浴びるか入浴するかさせ清潔なリネンを用意
し病室を徹底的に清掃する措置を取るなど隔離期間の延長に別の方法を取ることも考えられる。
4.
現在,栄養型の状態にあるクロストリジウム・ディフィシルを死滅させる殺菌剤を使
用している。これで十分だろうか?
クロストリジウム・ディフィシルは芽胞形成菌であり,当初は糞便中で栄養型の状態にあったとしても,
すぐにストレスの多い環境条件に直面し,自らを防御しようとして芽胞に姿を変え,除去されるか死滅する
まで環境中にとどまる。さらに,いつでも栄養型の状態に戻ることができる(戻らないこともある)
。多くの
殺菌剤が栄養型のクロストリジウム・ディフィシルを殺菌し,集団発生時以外の使用に適している。殺菌剤
のなかには芽胞形成過多を誘発し,環境中に芽胞による汚染度の増大を引き起こすものもあるため,集団発
生が起こった場合や患者間の伝播の進行を示す証拠がある場合は強化対応が必要である。強化対応には,集
団発生または伝播が制御下に置かれるまで殺菌剤を 10 倍希釈の次亜塩素酸ナトリウム溶液※26に取り替える
ことを盛り込む必要がある。
※26 監訳注:米国で市販の漂白剤の 10 倍希釈液の意味
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
5.
クロストリジウム・ディフィシル感染症が疑われるか,その診断が下された患者の病
室で高頻度接触部位を効果的に清拭消毒するのに,除菌クロスを使用することはでき
るか? 使用できる場合,製品の選択にはどのような基準を用いるべきか?
常用殺菌剤では十分ではない状況であると判断されれば,塩素が 5,000 ppm 以上含有されている 10 倍希釈
の次亜塩素酸ナトリウム溶液が入った除菌クロス※27が清拭のよい補助となる。除菌クロスの使用を決定する
際には効果,コストおよび使いやすさが最大の問題となるのが常である。除菌クロスがどのように包装され
ているか確認のこと(つまり個別包装かポップアップ式の容器に入れられているかどうか)。作業に用いるの
に十分な大きさがあるか。使用法を読み,除菌クロスの大きさと湿り度をみて,接触時間と拭く必要がある
表面の数を確認するテストを実施すること。こうすれば,除菌クロスが要求を満たすものであるかどうか,
要求を満たす場合は各作業にいくつ必要であるか判断する助けとなる。使用する考えがあれば,コストを計
算するとよいだろう。それ以外に使用に影響を及ぼす除菌クロスの要素をチェックすること。たとえば,使
用する人が除菌クロスの臭いに我慢できないようであれば,使用したがらないだろう。除菌クロスをテスト
するときはいったん部屋を出てすぐにまた戻り,残臭が使用に悪い影響を与えるものかどうか判断すること。
テストには除菌クロスを使用することになる人も参加させること。
6.
下痢がクロストリジウム・ディフィシルによるものであるか,別の原因によるもので
あるか,どのように判断すればよいか?
下痢の原因がクロストリジウム・ディフィシルではないことを確認する最善の方法は適切な検査を実施す
ることである。下痢が続き,クロストリジウム・ディフィシルが原因ではないかという懸念が残る場合,患
者がクロストリジウム・ディフィシル感染症に罹患していると考えるべきかどうか最良の判断を下し,隔離
および治療を実施するのは,指示する立場にある医師の責任である。
7.
小児科では漂白剤を使用することができるか?
小児科でも次亜塩素酸溶液を使用することが可能である。ただし,どのような現場で使用するにせよ,漂
白剤には特徴的な臭気がある。しかし,この臭気は概ね無害であり,漂白剤の気化物質だけでは概ね刺激を
引き起こすことはない(漂白剤のスプレーや霧への直接曝露はまた別の問題であり,刺激を引き起こす可能
性がある)
。ただし,使用時に漂白剤が汚物と相互作用し,人によっては不快または刺激的と感じる悪臭のあ
る気化物質を生じる恐れがある。肺機能が損なわれている人では,このような気化物質に特に感受性が高く
なる(喘息,閉塞性肺疾患,心臓の病態など)
。漂白剤を一定の種類の洗浄剤と混合すると刺激性の蒸気や有
害な蒸気を生じる恐れがあるため,他の洗浄剤と混合しないこと。不適切な混合によって生じたガスに曝露
することはめったになく,健康に重大な影響を及ぼすことはまれである。ガスが生じれば著しい曝露が防が
れるため,その場所を離れざるをえなくなる。不適切な混合があった場合にその場所を離れることができな
い人がいれば,曝露が重大なものになる可能性も否定できない。どのような現場であれ,十分な換気に気を
配る必要がある。市販の製剤であれば臭気の問題のいくつかは軽減されるが,臭気の作用と使用者および患
者に対するその影響の判断には,製品を使用する人が関与する必要がある。次亜塩素酸溶液は他のあらゆる
化学物質と同じく,小児や権限のない職員が製品を手に取ることができない安全な方法で保管しなければな
らない。
※27 監訳注:塩素が 5,000 ppm 以上含有されていることになる米国市販の漂白剤の 10 倍希釈液を“10%次亜塩素酸ナト
リウム溶液”と原文では書かれているが表記方法が不適切と考えられる。米国では次亜塩素酸ナトリウム水溶液含
浸除菌クロス製品が発売されているが,いまのところ国内での同等品はない。一般的に次亜塩素酸ナトリウムの成
分が揮発すると塩素濃度が下がり消毒効果が激減するため,日本では自施設で除菌クロスを次亜塩素酸ナトリウム
水溶液と併せて作成する場合には用時調整すべきである。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
8.
手術室の清掃に漂白剤を使用することはできるか?
可能である。ただし,手術器具などの物品と接触しないよう注意を払わなければならない。長期間の使用
により腐食や損傷の可能性がある。市販の製剤には腐食作用を極力抑えるように調製されているものもある。
9.
漂白液を混合することに予混合された漂白液の購入を上回る有益性はあるか?
効果,純度および有効期間を審査されているのは環境保護庁(EPA)登録製品だけでである。EPA による
審査は製品の品質,濃度および効果を保証するべく,製品の製造および流通に関する基準を確立している。
殺菌剤を用いて洗浄しようとする場合は,有機物,無機物の除去を促進する洗剤基剤が含有された殺菌剤を
選ぶことが重要である。次亜塩素酸ナトリウムを水と混合しても洗剤にはならない。殺菌剤に洗浄剤または
洗剤を混ぜ合わせたい場合は,予混合された製品を使用しなければならない。有害なガスの放出を避けるた
め,水で希釈した次亜塩素酸ナトリウムに洗剤を加えないこと(質問 7 参照)。また,洗剤によっては次亜塩
素酸の一部または全部を破壊してしまい,望まれる抗菌作用の便益が得られなくなる。適切に調製され,安
全性および効果に関して EPA から承認された製品を購入すること。このような製品は洗浄と消毒をひとつの
作業にまとめることによって両者に必要な時間を短縮するほか,必要な労働量を減らすことによって全体の
コストを減らすことができるものである。
10. クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者のケアに当たる医療従事者に擦式
アルコール手指消毒剤の使用を制限していない。間違っているか?
クロストリジウム・ディフィシル感染症症例を管理することができていれば,申し分のない対応である。
擦式アルコール手指消毒剤はクロストリジウム・ディフィシル芽胞を死滅させるものではないこと,そして
手洗いは芽胞を物理的に除去して洗い流すものであることがわかっている。患者がクロストリジウム・ディ
フィシル感染症に罹患すると,治療によって感染症から回復するまでしばらくは下痢がみられる。そのため,
糞便によって環境が汚染されることが合理的に予測され,医療従事者が患者のケアに当たっている間に糞便
に接触する可能性がある。このことから,手洗いは理に適ったものであり,クロストリジウム・ディフィシ
ル感染症のある患者の日常ケアでは擦式アルコール手指消毒剤も利用できるようにするべきである。また,
擦式アルコール手指消毒剤を撤去すると手指衛生の遵守度が低下し,達成しようとする事柄に反してしまう
こともわかっている。そこで,この複雑な状況で対すべき 2~3 の単純な規則には次のようなものがある。
•
次の患者に接触する前に必ず手指衛生を実行し,個人防護具を外してから直ちに手指衛生を実行する
•
手指が目に見えて汚れている場合は推奨される手指衛生法に従い,流水と石けんで洗う
•
医療従事者の手指衛生に用いる追加の方法として擦式アルコール手指消毒剤を用意する
11. 下痢の管理にロペラミドおよびオピエートを使用する有益性とリスクはどのようなも
のと考えられるか?
クロストリジウム・ディフィシルに起因する下痢については,毒素が関与しているため,腸運動抑制剤を
使用するのは患者に有害であることを覚えておく必要がある。下痢を極力抑えるロペラミド,オピエート,
その他の治療法は,原因が特定されてから利用するのが最も適切であり,その望むところは脱水症状を直ち
に最小限に抑えることにある。クロストリジウム・ディフィシル感染症によって脱水症状がみられることは
確かだが,そのような患者に最も重要なことはしかるべき治療を開始して感染症を治すことである。感染症
が治れば下痢は消失する。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
12. 使い捨て差込み便器の使用に何か有益性はあるのか?
この質問は,使い捨て差込み便器の使用には,患者と患者の間,使用機会ごとに消毒される差込み便器よ
りも,伝播の予防に大きな有益性があることを示すものである。差込み便器または室内便器はクロストリジ
ウム・ディフィシル感染症のある患者専用としなければならない。その患者がこの物品を必要としない状態
になれば,使い捨て式のものは廃棄し,再使用を意図した材料でつくられているものは洗浄後消毒する。使
い捨て差込み便器の使い方の簡単さは患者の安全度の増大を意味するものではない。汚染された物品を患者
の間での共用が困難になるシステムとケアのプロセスをつくることで,患者の安全を確保する機会が多くな
る。差込み便器の取り扱いは医療従事者および患者による手指汚染の可能性をもたらすものであり,やはり
手指衛生が決定的に重要な介入となる。
13. 施設内でクロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者が前にいた場所を突き止
め,その場所を最終的に清掃することに意味はあるか?
患者の動線をたどることは疫学的研究の際に用いられる一要素であるが,クロストリジウム・ディフィシ
ル感染症の枠組みでこの質問を検討するとなれば,それよりも有用な対応は,施設の隅々に至る首尾一貫し
た環境清浄のシステムを確実に整えておくことである。“最終的清掃(terminal cleaning)”という用語にはさ
まざまな定義があるように見受けられるが,この用語を耳にする場合は概ね,病室であれば患者の退院後に
実施される徹底的な清掃,手術室などの区域であれば 1 日の終わりか手術の終了時に実施される清掃を指し
て用いられている。最終的清掃では室内のあらゆる物品および表面を洗浄・消毒する必要があるほか,室内
に残ることになる物品(スペースを区切るカーテンなど)に汚れているものがあれば取り替えることになる。
そのため,その作業の訓練を受け,適任者であると考えられる職員が首尾一貫した最終的清掃を実施するの
を支援するシステムがすでに整えられていなければならない。最終的清掃が患者追跡システムの一要素とな
るという考え方は,システム手法の直観に反するものである。日常の清掃法はクロストリジウム・ディフィ
シルのバイオバーデンに影響を与えるものでなければならず,最終的清掃は環境内に存在するクロストリジ
ウム・ディフィシルの根絶に近づくものでなければならない。
14. 長期ケア施設ではクロストリジウム・ディフィシル感染症の環境内の伝播リスクはど
のようなものであるか?
長期ケア施設など特定の環境内の伝播リスクは数量化されていないが,クロストリジウム・ディフィシル
感染症の発症および伝播に関与する危険因子は現場に関係なく概ね同じである。長期ケア環境では,抗微生
物薬の適正使用,手指衛生,標準予防策および接触予防策に力点が置かれる。ほとんどの現場で同じ要素に
力点が置かれる。クロストリジウム・ディフィシル感染症予防プログラムに“万能”はないが,そのようなプ
ログラムの構成要素は互いにかなりの部分が一致していなければならない。
15. クロストリジウム・ディフィシルの感染症管理に対する換気と気圧勾配の影響はどの
くらいあるか?
クロストリジウム・ディフィシルの芽胞が空中浮遊することを示す証拠はないため,換気と気圧勾配は特
定の措置を必要とする要素ではない。クロストリジウム・ディフィシルの芽胞の吸入によって感染症を引き
起こすことは考えにくい。ただし,芽胞または栄養型の細菌がエアロゾル化して口に接触したり,口に触れ
た手を汚染したりすると伝播経路となることが考えられる。このことは,標準予防策の考え方,個人防護具
の使用,患者の体液との接触を予防する措置に改めて裏づけを与えるものである。空気感染予防策も飛沫感
染予防策も適応となりません。接触予防策と標準予防策が伝播の予防に適した対策である。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
16. 結腸切除などの治療介入を受けた患者の感染の可能性はどのくらいあるか?
結腸切除ののち,偽膜性大腸炎の部位は切除されているが,微生物は大腸の残った部位に存在し続ける。
そのため,クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者には必ず予防策を継続する必要がある。患者
が人工肛門を使用している場合は,採便袋への排便を汚染源と考えなければならない。下痢が消失するか,
人工肛門から予想される便の硬さが戻るまで接触予防策を継続する必要がある。また,粘液瘻からの直腸ド
レナージを実施している場合は,ドレナージが止められるまで予防策を継続する必要がある。
17. 無症候性キャリアによる伝播のリスクはどのくらいあるか?
無症状の患者に監視検査,
「治癒判定目的の検査」を実施すべきではない。クロストリジウム・ディフィシ
ルには毒素を産生しないものもあれば,強毒性の毒素を産生するものもあり,全部が互いに似通っているわ
けではない。無症状の患者に検査を実施すると,その検査の感度および特異度による制約を受けるだけでは
なく,検査結果が何を意味するのかわからないままになってしまう。症状(下痢)のない患者がクロストリ
ジウム・ディフィシルを伝播させる可能性が高いとは考えられない。
18. クロストリジウム・ディフィシルの感染予防・感染制御に用いる専用トイレ付き個室
の有益性は何であろうか?
個室とトイレはクロストリジウム・ディフィシル感染症の伝播予防プログラムの一環として取るべき最も
重要な対応である。下痢のある患者を他の患者から離し,専用トイレを用意することが,クロストリジウム・
ディフィシル感染症伝播の連鎖を断ち切るための不可欠な対応である。
19. 超感染性者(ハイパースプレッダー,hyper-spreaders)は存在するのか?
存在するとすればどのような人か?
現時点では超感染性者(ハイパースプレッダー,hyper-spreaders)に関する証拠はない。ただし,SARS な
ど,他の感染症の症状および伝播についてこの概念を検討してみると,重症で著しい臨床症状を呈する人は
いる。このことから,深刻な下痢のある患者であれば他の患者よりも大きな度合いで環境を汚染するのでは
ないかと想像される。また,クロストリジウム・ディフィシルの強毒株だからといって伝播性が高くなるわ
けではないことも認識しておく必要がある。従って伝播予防の重要な要素に,クロストリジウム・ディフィ
シル感染症のある人の早期認識,それに続く早期の迅速な接触予防策実施が挙げられる。
20. クロストリジウム・ディフィシル感染症の感染率と看護師-患者比との間に関連性はあ
るのか?
クロストリジウム・ディフィシル感染症の感染率と看護師­患者比との間の関連性を示す明確な証拠はな
いが,人員配置の影響と,手指衛生や環境清浄などの基本的な感染予防策の遵守率の低下という結果を明ら
かにした以前の研究から教訓を得ることができる。クロストリジウム・ディフィシル感染症の発症は多面的
であり,抗菌薬の使用法,手指衛生,環境清浄および接触予防策など,多数のさまざまな要素がかかわって
いるため,看護師­患者比が唯一の関心事ではないことはたやすく理解できる。クロストリジウム・ディフ
ィシル感染症の発症および伝播を予防するため,システム的なアプローチが重要であることがわかる。ひと
つのプロセスが単独で伝播の原因となっているのではないため,ひとつのプロセスや相互関係が単独で感染
予防の対象ではない。
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医療環境におけるクロストリジウム・ディフィシル伝播阻止のためのガイド
21. クロストリジウム・ディフィシルの診断には糞便検体をいくつ送る必要があるか?
検査法は医師,微生物専門の臨床検査技師および感染予防師の間の話し合いによって決定するのが理想的
である。現時点では,所定の患者の検査に送るべき糞便検体の数を定める手引きとなるデータはない。その
ため,入手しうる最良の情報を用いて,施設の支援システムおよび能力の範囲内でその場所の方針を確立し
なければならない。この問題をめぐる意志決定の手引きとなるデータはないものの,方針を策定する手段と
して次の手順を実行した施設もある。
•
患者にクロストリジウム・ディフィシルの検査を実施する場合は,微生物検査室によって軟便,水様便の
検体だけを評価する。有形便の検体は評価の対象とせずに廃棄する。
•
24 時間の間に微生物検査室によってクロストリジウム・ディフィシルの検査を実施するのは 1 糞便検体に
限定する。それ以外の検体は評価の対象とせずに廃棄する。
•
クロストリジウム・ディフィシルに関する検査では,1 日 1 検体を 2 日連続で送付する。いずれの検体も
陰性であった場合は,患者の臨床経過が変化しないかぎり,それ以上は検査を実施しない。1 回目の検査
がクロストリジウム・ディフィシル陽性であった場合は,それ以上は検査を実施しない。
•
治癒判定検査は実施しない。
いずれも厳格な規則ではなく,単に一部の施設で用いられている方法の組み合わせである。感染予防師は,
感染予防・感染制御委員会とこの問題について議論し,各施設でのルールを決定することが推奨される。
22. クロストリジウム・ディフィシル感染症のある患者に使用した内視鏡は別の方法で取
り扱うべきか?
自身の内視鏡の再処理の手順が最新の推奨事項に一致していれば,現行の方法を変える必要はない。2003
年に発表された「軟性消化器内視鏡の再処理に関するマルチソサエティ・ガイドライン(Multi-society Guideline
for Reprocessing Flexible Gastrointestinal Endoscopes)
」※28は,HICPAC 滅菌・消毒ガイドラインに取り上げられ
た情報ともども資料として利用できる。もちろん,セミクリティカル器具の再処理にミスがあれば患者をリ
スクにさらすことになるため,自身の手順には手順への遵守率を監視し,評価する段階を組み込む必要があ
る。
23. 多数のスキンケア用品と糞便処理システムを見かけた。クロストリジウム・ディフィ
シル伝播の予防にこれらは何らかの役割を果たすか?
患者の皮膚を無傷な状態に保つことが常に患者ケアの目標となる。クロストリジウム・ディフィシル感染
症のある患者には液状便がみられるため,スキンケアがプライマリ・ナーシングケアの目的となるだろう。
このほか,環境および手指の汚染を最小限に抑えるシステムの採用が,医療環境におけるクロストリジウム・
ディフィシルの伝播の予防に役割を果たすだろう。
※28 監訳注:2010 年に改訂版が刊行されている。
Multisociety guideline on reprocessing flexible gastrointestinal endoscopes: 2011. Gastrointest Endosc 2011;73:1075-1084.
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参考文献や資料へのリンクについては,
ウェブサイト www.apic.org/EliminationGuides をご覧ください。
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このガイドについて
クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の影響は医療全体
にわたって実感されるようになりました。今やメチシリン耐性黄色
ブドウ球菌に匹敵するほど医療に影響を及ぼす病原菌と認識されて
います。CDIは患者らと病院の両者に深刻な打撃を与えていると言
え、入院期間が大きく延び、治療費が著しく増大しています。本資
料はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の伝播阻止のた
めに必要な、根拠に基づく包括的なガイドです。
主な内容
・CDIの発生機序と疫学的状況
・効果的なサーベイランスの方法
・手指衛生
・環境感染制御
・クロストリジウム・ディフィシルへの段階的な対応
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