クロストリジウム・ボツリナムの発酵、およびボツリヌス毒素医薬組成物の

JP 2007-506427 A 2007.3.22
(57)【 要 約 】
クロストリジウム・ボツリナムの発酵、およびボツリヌス毒素医薬組成物の調製に使用
するボツリヌス毒素の取得のための培地および方法。本発明の成長培地は、顕著に低下し
たレベルの肉副生成物または乳副生成物を含有し得、動物由来生成物の代わりに非動物由
来生成物を使用しうる。好ましくは、使用する培地は動物由来生成物を実質的に含まない
。
(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性なボツリヌス毒素を取得する方法であって、
( a) 動 物 由 来 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま な い 発 酵 培 地 を 用 意 す る 工 程 、
( b) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 生 産 を 可 能 に す る 条 件 下 で 発 酵 培 地 中 に ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ
リ ナ ム ( Clostridium botulinum) 細 菌 を 培 養 す る 工 程 、 お よ び
( c) 発 酵 培 地 か ら 生 物 学 的 に 活 性 な ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 回 収 す る 工 程
を含む方法。
【請求項2】
発酵培地を用意する工程において、培地が植物由来のタンパク質生成物を含む、請求項
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1に 記 載 の 方 法 。
【請求項3】
植 物 が 大 豆 で あ る 、 請 求 項 2に 記 載 の 方 法 。
【請求項4】
培養工程において、培養物の細胞密度が細胞溶解によって低下するまで培養を行う、請
求 項 1に 記 載 の 方 法 。
【請求項5】
培 養 工 程 に お い て 、 細 胞 密 度 が 細 胞 溶 解 に よ っ て 最 初 に 低 下 し て か ら 少 な く と も 48時 間
後 ま で 培 養 を 行 う 、 請 求 項 1に 記 載 の 方 法 。
【請求項6】
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ボツリヌス毒素の生産方法であって、
( a) 動 物 由 来 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま ず 、 か つ 植 物 由 来 の タ ン パ ク 質 生 成 物 を 含 む 第 1培 地
を用意する工程、
( b) ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 成 長 を 可 能 に す る 条 件 下 で 、 第 1培 地 中 に ク ロ ス ト
リジウム・ボツリナム細菌を培養する工程、
( c) 動 物 由 来 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま ず 、 か つ 植 物 由 来 の タ ン パ ク 質 生 成 物 を 含 む 第 2培 地
を用意する工程、
( d) 第 1培 地 を 第 2培 地 に 接 種 す る 工 程 、
( e) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 生 産 を 可 能 に す る 条 件 下 で 、 第 2培 地 中 に ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ
リナム細菌を培養する工程、および
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( f) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 回 収 す る 工 程
を含む方法。
【請求項7】
第 1培 地 を 用 意 す る 工 程 に お い て 、 第 1培 地 が 大 豆 由 来 の タ ン パ ク 質 生 成 物 を 含 み 、 か つ
第 2培 地 に 接 種 す る 工 程 に お い て 、 第 2培 地 が 大 豆 由 来 の タ ン パ ク 質 生 成 物 を 含 む 、 請 求 項
6に 記 載 の 方 法 。
【請求項8】
第 1培 地 を 用 意 す る 工 程 に お い て 、 第 1培 地 が 加 水 分 解 大 豆 を 含 み 、 か つ 第 2培 地 に 接 種
す る 工 程 に お い て 、 発 酵 培 地 が 加 水 分 解 大 豆 を 含 む 、 請 求 項 6に 記 載 の 方 法 。
【請求項9】
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第 1培 地 中 で ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 培 養 す る 工 程 に お い て 、 条 件 が 約 34℃ の
温度を含むと共に、培養中に細胞密度の低下が起こらないことを含み、かつ
第 1培 地 を 第 2培 地 に 接 種 す る 工 程 に お い て 、 2か ら 4%の 第 1培 地 を 第 2培 地 の 接 種 に 使 用
し、かつ
第 2培 地 中 で 細 菌 を 培 養 す る 工 程 に お い て 、 成 長 を 可 能 に す る 条 件 が 約 34℃ の 温 度 を 含
むと共に、培養物の細胞密度が細胞溶解によって低下するまで培養することを含む、
請 求 項 6に 記 載 の 方 法 。
【請求項10】
クロストリジウム・ボツリナムおよびボツリヌス毒素生産用培養培地を含む組成物であ
って、培地が動物由来生成物を実質的に含まず、かつ植物由来のタンパク質生成物を含む
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、組成物。
【請求項11】
植 物 が 大 豆 で あ る 、 請 求 項 10に 記 載 の 組 成 物 。
【請求項12】
加 水 分 解 大 豆 を 含 む 、 請 求 項 10の 組 成 物 。
【請求項13】
活性成分がボツリヌス毒素である、動物性生成物を実質的に含まない医薬組成物を製造
する方法であって、
( a) ( i) 動 物 由 来 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま な い 発 酵 培 地 を 用 意 し 、
( ii) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 生 産 を 可 能 に す る 条 件 下 で 、 発 酵 培 地 中 に ク ロ ス ト リ ジ ウ
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ム・ボツリナムを培養し、そして
( iii) 発 酵 培 地 か ら 生 物 学 的 に 活 性 な ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 回 収 す る
ことによって生物学的に活性なボツリヌス毒素を取得する工程、
( b) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 適 切 な 賦 形 剤 と 配 合 す る こ と に よ り 、 活 性 成 分 が ボ ツ リ ヌ ス 毒 素
である、動物性生成物を実質的に含まない医薬組成物を製造する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的に活性なボツリヌス毒素を取得するための培地および方法に関する。
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特に本発明は、生物学的に活性なボツリヌス毒素を大量に取得するための、動物性生成物
を 実 質 的 に 含 ま な い 培 地 、 培 養 物 お よ び 嫌 気 発 酵 法 ( ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム ( Cl
ostridium botulinum) 細 菌 な ど の 生 物 の ) に 関 す る 。
【背景技術】
【0002】
治療、診断、研究または美容を目的とするヒトまたは動物への投与に適した医薬組成物
は 活 性 成 分 を 含 む こ と が で き る 。 医 薬 組 成 物 は 1つ 以 上 の 賦 形 剤 、 緩 衝 剤 、 担 体 、 安 定 剤
、保存剤および/または増量剤も含むことができる。医薬組成物中の活性成分はボツリヌ
ス 毒 素 な ど の 生 物 学 的 物 質 で あ り う る 。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 1つ 以 上 の 動 物 由 来 生 成 物 (
例えば肉汁培地、および血液分画または血液由来の賦形剤)を利用する培養、発酵および
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配合方法によって取得することができる。動物由来生成物を利用する方法によって取得し
た活性成分の生物学的物質を含む医薬組成物の患者への投与により、様々な病原体または
感染因子をもらう潜在的危険に、その患者をさらすことになりうる。例えば医薬組成物に
はプリオンが存在しうる。プリオンは、正常タンパク質を作る配列と同じ核酸配列から異
常コンフォメーションアイソフォームとして生じると考えられているタンパク質性感染粒
子である。また、感染性は、翻訳後レベルでの正常アイソフォームタンパク質からプリオ
ン タ ン パ ク 質 ア イ ソ フ ォ ー ム へ の 「 補 充 ( recruitment) 反 応 」 に 存 在 す る と も 考 え ら れ
ている。正常な内因性細胞性タンパク質が病原性プリオンコンフォメーションへミスフォ
ー ル ド (misfold)す る よ う に 誘 導 さ れ る よ う で あ る 。
【0003】
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クロイツフェルト・ヤコブ病は、伝染性因子がプリオンタンパク質の異常アイソフォー
ムであるらしいヒト伝染性海綿状脳症の稀な神経変性障害である。クロイツフェルト・ヤ
コ ブ 病 患 者 は 見 か け 上 の 完 全 な 健 康 状 態 か ら 6ヶ 月 以 内 に 無 動 無 言 状 態 へ と 悪 化 し う る 。
したがって、動物由来生成物を使って取得されたボツリヌス毒素などの生物学的物質を含
有する医薬組成物の投与により、クロイツフェルト・ヤコブ病などのプリオン媒介疾患を
もたらす潜在的危険が存在しうる。
【0004】
ボツリヌス毒素
ク ロ ス ト リ ジ ウ ム 属 に は 127を 越 え る 種 が あ り 、 形 態 学 お よ び 機 能 に 従 っ て 分 類 さ れ て
いる。嫌気性グラム陽性細菌であるクロストリジウム・ボツリナムは、ボツリヌス中毒と
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して知られる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神
経毒であるボツリヌス毒素を産生する。クロストリジウム・ボツリナムおよびその胞子は
共に土壌中に見出され、該細菌は、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増
殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の
影響は、通例、クロストリジウム・ボツリナムの培養物または胞子で汚染された食品を飲
食 し た 18∼ 36時 間 後 に 現 れ る 。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 消 化 管 内 を 弱 毒 化 さ れ な い で 通 過 す る
ことができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス
毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にま
で進行し得る。
【0005】
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A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 人 類 に 知 ら れ て い る 最 も 致 死 性 の 天 然 の 生 物 学 的 物 質 で あ る 。
ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 ( 精 製 さ れ た 神 経 毒 複 合 体 ) A型 の 約 50ピ コ グ ラ ム が マ ウ ス に お け る LD5 0
で あ る 。 モ ル 基 準 で A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 致 死 力 は ジ フ テ リ ア の 18億 倍 、 シ ア ン 化 ナ ト リ
ウ ム の 6億 倍 、 コ ブ ロ ト キ シ ン の 3000万 倍 、 コ レ ラ の 1200万 倍 で あ る 。 Natuaral Toxins I
I[ B. R. Singhら 編 、 Plenum Press、 ニ ュ ー ヨ ー ク ( 1976) ] の Singh、 Critical Aspect
s of Bacterial Protein Toxins、 第 63∼ 84頁 ( 第 4章 ) ( こ こ で 、 記 載 さ れ る A型 ボ ツ リ
ヌ ス 毒 素 LD5 0 0.3ng= 1Uと は 、 BOTOX( 登 録 商 標 ) 約 0.05ng= 1Uと い う 事 実 に 補 正 さ れ る
) 。 BOTOX( 登 録 商 標 ) は 、 Allergan, Inc. ( カ リ フ ォ ル ニ ア 州 ア ー ビ ン ) か ら 市 販 さ れ
て い る A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 精 製 神 経 毒 複 合 体 の 商 標 で あ る 。 1単 位 ( U) の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素
は 、 そ れ ぞ れ が 18∼ 20グ ラ ム の 体 重 を 有 す る メ ス の Swiss Websterマ ウ ス に 腹 腔 内 注 射 さ
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れ た と き の LD5 0 と し て 定 義 さ れ る 。
【0006】
7種 類 の 血 清 学 的 に 異 な る ボ ツ リ ヌ ス 神 経 毒 が 特 徴 付 け ら れ て お り 、 こ れ ら は 、 型 特 異
的 抗 体 に よ る 中 和 に よ っ て そ の そ れ ぞ れ が 識 別 さ れ る ボ ツ リ ヌ ス 神 経 毒 血 清 型 A、 B、 C1 、
D、 E、 Fお よ び Gで あ る 。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の こ れ ら の 異 な る 血 清 型 は 、 そ れ ら が 冒 す 動 物 種
、 な ら び に そ れ ら が 惹 起 す る 麻 痺 の 重 篤 度 お よ び 継 続 時 間 が 異 な る 。 例 え ば 、 A型 ボ ツ リ
ヌ ス 毒 素 は 、 ラ ッ ト に お い て 生 じ る 麻 痺 率 に よ り 評 価 さ れ た 場 合 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 よ
り も 500倍 強 力 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 ま た 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 霊 長 類 で は 48
0U/kgの 投 与 量 で 非 毒 性 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る 。 こ の 投 与 量 は 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素
の 霊 長 類 LD5 0 の 約 12倍 で あ る 。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 コ リ ン 作 動 性 の 運 動 ニ ュ ー ロ ン に 大 き
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な親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリンのシナプス前放出を阻止する
ようである。
【0007】
ボツリヌス毒素は、例えば活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置
す る た め に 臨 床 的 状 況 に お い て 使 用 さ れ て い る 。 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 ( BOTOX( 登 録 商 標 )
) は 、 本 態 性 眼 瞼 痙 攣 、 斜 視 お よ び 片 側 顔 面 痙 攣 を 12歳 を 越 え る 患 者 に お い て 処 置 す る た
めに、また頸部ジストニアの処置のため、および眉間(顔面)しわの処置のために、米国
食 品 医 薬 品 局 に よ っ て 承 認 さ れ て い る 。 FDAは ま た 、 頸 部 ジ ス ト ニ ア の 処 置 の た め の B型 ボ
ツ リ ヌ ス 毒 素 も 承 認 し て い る 。 末 梢 注 射 ( 例 え ば 筋 肉 内 ま た は 皮 下 ) A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素
の 臨 床 的 効 果 は 、 通 常 、 注 射 後 1週 間 以 内 お よ び し ば し ば 数 時 間 以 内 に 認 め ら れ る 。 A型 ボ
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ツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和(例えば弛緩性筋肉麻痺)の典型的な継続
時 間 は 約 3ヶ 月 ∼ 約 6ヶ 月 で あ り 得 る 。
【0008】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの
放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、
か つ / ま た は こ れ ら の タ ン パ ク 質 を 異 な る 部 位 で 切 断 す る こ と に よ っ て 行 わ れ る 。 A型 ボ
ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 細 胞 内 小 胞 関 連 タ ン パ ク 質 SNAP-25の ペ プ チ ド 結 合 を 特 異 的 に 加 水 分 解
し う る 亜 鉛 エ ン ド ペ プ チ ダ ー ゼ で あ る 。 E型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 も 、 25キ ロ ダ ル ト ン ( kD) の
シ ナ プ ト ソ ー ム 関 連 タ ン パ ク 質 ( SNAP-25) を 切 断 す る が 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 と は 異 な る
タ ン パ ク 質 内 ア ミ ノ 酸 配 列 を 標 的 と す る 。 B型 、 D型 、 F型 お よ び G型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 小
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胞 関 連 タ ン パ ク 質 ( VAMP、 こ れ は ま た シ ナ プ ト ブ レ ビ ン と も 呼 ば れ る ) に 作 用 し 、 そ れ ぞ
れ の 血 清 型 に よ っ て こ の タ ン パ ク 質 は 異 な る 部 位 で 切 断 さ れ る 。 最 後 に 、 C1 型 ボ ツ リ ヌ ス
毒 素 は 、 シ ン タ キ シ ン お よ び SNAP-25の 両 者 を 切 断 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る 。 作 用
機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/また
は作用の継続時間に影響していると考えられる。
【0009】
血 清 型 に 関 係 な く 、 毒 素 中 毒 の 分 子 メ カ ニ ズ ム は 類 似 し 、 少 な く と も 3つ の 過 程 ま た は
段 階 を 含 む よ う で あ る 。 第 1段 階 に お い て 、 毒 素 は 、 重 鎖 ( H鎖 ) と 細 胞 表 面 受 容 体 と の 特
異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌ
ス 毒 素 の 各 血 清 型 お よ び ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 で 異 な る と 考 え ら れ る 。 H鎖 の カ ル ボ キ シ ル 末 端
10
セ グ メ ン ト (HC )は 、 毒 素 を 細 胞 表 面 に 指 向 さ せ る の に 重 要 で あ る よ う で あ る 。
【0010】
第 2段 階 に お い て 、 毒 素 は 、 冒 し た 細 胞 の 形 質 膜 を 横 切 る 。 毒 素 は 、 初 め に 、 受 容 体 媒
介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成され
る。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この最後の段階は、
約 5.5ま た は そ れ 以 下 の pHに 反 応 し て 毒 素 の コ ン フ ォ メ ー シ ョ ン 変 化 を 誘 発 す る H鎖 の ア ミ
ノ 末 端 セ グ メ ン ト (HN )に よ っ て 媒 介 さ れ る と 考 え ら れ る 。 エ ン ド ソ ー ム は 、 エ ン ド ソ ー ム
内 pHを 低 下 さ せ る プ ロ ト ン ポ ン プ を 有 す る こ と が 既 知 で あ る 。 コ ン フ ォ メ ー シ ョ ン の シ フ
トは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可
能にする。次に、毒素が、エンドソーム膜を通って細胞質ゾルに移動する。
20
【0011】
ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 活 性 の メ カ ニ ズ ム の 最 終 段 階 は 、 H鎖 お よ び L鎖 を 結 合 す る ジ ス ル フ ィ ド
結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素およびボツリヌス毒素の全毒素活性は、ホ
ロ ト キ シ ン の L鎖 に 含 ま れ る 。 L鎖 は 亜 鉛 (Zn
+ +
)エ ン ド ペ プ チ ダ ー ゼ で あ り 、 こ れ は 、 神 経
伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と
形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。ボツリヌス神経毒、ボツリ
ヌ ス 毒 素 B、 D、 Fお よ び G型 は 、 シ ナ プ ト ソ ー ム 膜 タ ン パ ク 質 で あ る シ ナ プ ト ブ レ ビ ン [小
胞 関 連 膜 タ ン パ ク 質 (VAMP)と も 称 さ れ る ]の 分 解 を 引 き 起 こ す 。 シ ナ プ ス 小 胞 の 細 胞 質 表
面 に 存 在 す る 大 部 分 の VAMPは 、 こ れ ら の 開 裂 現 象 の い ず れ か の 結 果 と し て 除 去 さ れ る 。 各
毒素は異なる結合を特異的に開裂する。
30
【0012】
ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 タ ン パ ク 質 分 子 の 分 子 量 は 、 既 知 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血 清 型 の 7つ の す べ
て に つ い て 約 150kDで あ る 。 興 味 深 い こ と に 、 こ れ ら の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 会 合 す る 非 毒
素 タ ン パ ク 質 と と も に 150kDの ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 タ ン パ ク 質 分 子 を 含 む 複 合 体 と し て ク ロ ス
ト リ ジ ウ ム 属 細 菌 に よ っ て 放 出 さ れ る 。 例 え ば 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 は 、 900kD、 50
0kDお よ び 300kDの 形 態 と し て ク ロ ス ト リ ジ ウ ム 属 細 菌 に よ っ て 産 生 さ れ 得 る 。 B型 お よ び C
1
型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 500kDの 複 合 体 と し て の み 産 生 さ れ る よ う で あ る 。 D型 ボ ツ リ ヌ ス
毒 素 は 300kDお よ び 500kDの 両 方 の 複 合 体 と し て 産 生 さ れ る 。 最 後 に 、 E型 お よ び F型 の ボ ツ
リ ヌ ス 毒 素 は 約 300kDの 複 合 体 と し て の み 産 生 さ れ る 。 こ れ ら の 複 合 体 ( す な わ ち 、 約 150
kDよ り も 大 き な 分 子 量 ) は 、 非 毒 素 の ヘ マ グ ル チ ニ ン タ ン パ ク 質 と 、 非 毒 素 か つ 非 毒 性 の
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非 ヘ マ グ ル チ ニ ン タ ン パ ク 質 と を 含 む と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 2つ の 非 毒 素 タ ン パ ク 質 (
これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性
に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸から
の 保 護 を 与 え る よ う に 作 用 す る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 よ り 大 き い ( 分 子 量 が 約 150kDよ り
も大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツ
リ ヌ ス 毒 素 の 拡 散 速 度 を 低 下 さ せ 得 る と 考 え ら れ る 。 毒 素 複 合 体 は 、 pH7.3に お い て 赤 血
球で処理することにより、毒素タンパク質とヘマグルチニンタンパク質に解離しうる。毒
素タンパク質は、ヘマグルチニンタンパク質から解離すると非常に不安定である。
【0013】
すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断
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またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として、クロストリジウ
ム ・ ボ ツ リ ナ ム 細 菌 に よ り 合 成 さ れ る 。 A型 お よ び G型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血 清 型 を 産 生 す る
細 菌 株 は 内 因 性 プ ロ テ ア ー ゼ を 有 す る の で 、 A型 お よ び G型 の 血 清 型 は 細 菌 培 養 物 か ら 主 に
そ の 活 性 型 で 回 収 す る こ と が で き る 。 こ れ に 対 し て 、 C1 型 、 D型 お よ び E型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒
素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときに
は 、 典 型 的 に は 不 活 性 型 で あ る 。 B型 お よ び F型 の 血 清 型 は タ ン パ ク 質 分 解 性 菌 株 お よ び 非
タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれで
も 回 収 す る こ と が で き る 。 し か し 、 例 え ば 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 産 生 す る タ ン パ ク 質 分
解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0014】
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切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する
。 し た が っ て 、 例 え ば B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 製 剤 は い ず れ も 一 定 割 合 が 不 活 性 で あ る と 考
え ら れ 、 こ の こ と が 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 と 比 較 し た B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 知 ら れ て い る 著
しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素
分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的
効 力 に 寄 与 せ ず 、 抗 原 性 の 増 大 に 関 連 づ け ら れ て い る 。 ま た 、 B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 筋
肉 内 注 射 さ れ た 場 合 、 同 じ 用 量 レ ベ ル の A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 よ り も 、 活 性 の 継 続 期 間 が 短
く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0015】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセ
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チルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を
阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物に
おけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳の
シナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドー
パ ミ ン 、 ノ ル エ ピ ネ フ リ ン 、 CGRPお よ び グ ル タ メ ー ト の そ れ ぞ れ の 放 出 を 阻 害 す る こ と が
報告されている。
【0016】
7
ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の Hall A株 か ら 、 ≧ 3× 10 U/ mg、 A2 6 0 / A2 7 8 0.60未 満
、 お よ び ゲ ル 電 気 泳 動 に お け る 明 確 な バ ン ド パ タ ー ン と い う 特 性 を 示 す 高 品 質 結 晶 A型 ボ
ツ リ ヌ ス 毒 素 を 生 成 し 得 る 。 Schantz, E. J.ら 、 Properties and use of Botulinum toxi
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n and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、 Microbiol Rev. 56:80-99( 1992) に
記 載 さ れ て い る よ う に 既 知 の Schanz法 を 用 い て 結 晶 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 得 る こ と が で き
る 。 通 例 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 を 、 適 当 な 培 地 中 で A型 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ
ムを培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。硫酸での沈殿によって粗毒素を採り
、限外マイクロ濾過によって濃縮することができる。酸沈殿物を塩化カルシウムに溶解す
ることによって精製を行いうる。次いで、毒素を冷エタノールで沈殿させうる。沈殿物を
7
リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム に 溶 解 し 、 遠 心 し う る 。 次 い で 、 乾 燥 し て 、 比 効 力 3× 10 LD5 0 U/ mgま
た は そ れ 以 上 の 900kD結 晶 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 を 得 る こ と が で き る 。 こ の 既 知 の 方 法
を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得るこ
8
と も で き る : 比 効 力 1∼ 2× 10 LD5 0 U/ mgま た は そ れ 以 上 の 分 子 量 約 150kDの 精 製 A型 ボ ツ リ
40
8
ヌ ス 毒 素 ; 比 効 力 1∼ 2× 10 LD5 0 U/ mgま た は そ れ 以 上 の 分 子 量 約 156kDの 精 製 B型 ボ ツ リ ヌ
7
ス 毒 素 ; お よ び 比 効 力 1∼ 2× 10 LD5 0 U/ mgま た は そ れ 以 上 の 分 子 量 約 155kDの 精 製 F型 ボ ツ
リヌス毒素。
【0017】
ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 ( 150kD分 子 ) お よ び ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 ( 300kD∼ 900kD) は 例 え ば
、 List Biological Laboratories, Inc.( キ ャ ン ベ ル 、 カ リ フ ォ ル ニ ア ) ; the Centre f
or Applied Microbiology and Research( ポ ー ト ン ・ ダ ウ ン 、 イ ギ リ ス ) ; Wako( 日 本 、
大 阪 ) ; お よ び Sigma Chemicals( セ ン ト ル イ ス 、 ミ ズ ー リ ) か ら 入 手 し 得 る 。 市 販 の ボ
ツ リ ヌ ス 毒 素 含 有 医 薬 組 成 物 に は 、 次 の も の が 包 含 さ れ る : BOTOX( 登 録 商 標 ) ( A型 ボ ツ
リ ヌ ス 毒 素 神 経 毒 複 合 体 と ヒ ト 血 清 ア ル ブ ミ ン お よ び 塩 化 ナ ト リ ウ ム を 含 む 。 使 用 前 に 0.
50
(7)
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9% 塩 化 ナ ト リ ウ ム で 再 構 成 す る 凍 結 乾 燥 粉 末 と し て 、 100単 位 バ イ ア ル で 、 カ リ フ ォ ル ニ
ア 、 ア ー ヴ ィ ン の Allergan, Inc.か ら 入 手 可 能 。 ) 、 Dysport( 登 録 商 標 ) ( A型 ボ ツ リ ヌ
ス毒素ヘマグルチニン複合体とヒト血清アルブミンおよびラクトースを製剤中に含む。使
用 前 に 0.9% 塩 化 ナ ト リ ウ ム で 再 構 成 す る 粉 末 と し て 、 イ ギ リ ス 、 バ ー ク シ ャ ー の Ipsen L
imitedか ら 入 手 可 能 。 ) 、 お よ び MyoBloc( 登 録 商 標 ) ( B型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 、 ヒ ト 血 清 ア
ル ブ ミ ン 、 コ ハ ク 酸 ナ ト リ ウ ム お よ び 塩 化 ナ ト リ ウ ム を 含 む pH約 5.6の 注 射 可 能 な 溶 液 。
ア イ ル ラ ン ド 、 ダ ブ リ ン の Elan Corporationか ら 入 手 可 能 。 ) 。
【0018】
種 々 の 臨 床 症 状 の 治 療 に お け る A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 成 功 は 、 他 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血 清
型 へ の 関 心 を 高 め て い る 。 す な わ ち 、 少 な く と も A型 、 B型 、 E型 お よ び F型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒
10
素 が ヒ ト に 対 し 臨 床 的 に 用 い ら れ て い る 。 更 に 、 純 粋 ( 約 150kDa) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 が ヒ ト
の 処 置 に 用 い ら れ て い る 。 例 え ば 、 Kohl A. ら 、 Comparison of the effect of botulinu
m toxin (Botox(R)) with the highly-purified neurotoxin(NT201) in the extensor di
gitorum brevis muscle test, Mov Disord 2000;15(補 遺 3):165参 照 。 す な わ ち 、 純 粋 (
約 150kDa) ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 使 用 し て 医 薬 組 成 物 を 調 製 す る こ と が で き る 。
【0019】
A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は pH4∼ 6.8で 希 水 溶 液 に 可 溶 で あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 約 7を 越 え
る pHで は 、 安 定 化 非 毒 性 タ ン パ ク 質 が 神 経 毒 か ら 解 離 し 、 そ の 結 果 、 特 に pHお よ び 温 度 が
上 が る ほ ど 、 毒 性 が 徐 々 に 失 わ れ る 。 Jankovic, J.ら 、 Therapy with Botulinum Toxin,
Marcel Dekker, Inc (1994)の 第 3章 の Schantz E.J.ら 、 Preparation and characterizati
20
on of botulinum toxin type A for human treatment( 特 に 第 44-45頁 ) 。
【0020】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活
性 は 、 少 な く と も 部 分 的 に は そ の 三 次 元 形 状 に 依 存 す る 。 す な わ ち 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素
は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、
既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常
に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起
こ る こ と が 知 ら れ て い る 。 毒 素 を mg量 か ら ng/ ml溶 液 へ 希 釈 す る の は 、 そ の よ う な 大 幅 な
希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を
製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をア
30
ルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0021】
ボツリヌス毒素が臨床的に様々に使用されていることが報告されており、その例には下
記のものが含まれる:
( 1) 頸 部 ジ ス ト ニ ー を 処 置 す る た め の 筋 肉 内 注 射 ( 多 数 の 筋 肉 ) あ た り 約 75単 位 ∼ 125単
位 の BOTOX( 登 録 商 標 ) ;
( 2) 眉 間 の し わ を 処 置 す る た め の 筋 肉 内 注 射 あ た り 約 5単 位 ∼ 10単 位 の BOTOX( 登 録 商 標
) ( 5単 位 が 鼻 根 筋 に 筋 肉 内 注 射 さ れ 、 10単 位 が そ れ ぞ れ の 皺 眉 筋 に 筋 肉 内 注 射 さ れ る )
;
( 3) 恥 骨 直 腸 筋 の 括 約 筋 内 注 射 に よ る 便 秘 を 処 置 す る た め の 約 30単 位 ∼ 80単 位 の BOTOX(
40
登録商標);
( 4) 上 瞼 の 外 側 瞼 板 前 部 眼 輪 筋 お よ び 下 瞼 の 外 側 瞼 板 前 部 眼 輪 筋 に 注 射 す る こ と に よ っ
て 眼 瞼 痙 攣 を 処 置 す る た め に 筋 肉 あ た り 約 1単 位 ∼ 5単 位 の 筋 肉 内 注 射 さ れ る BOTOX( 登 録
商標);
【0022】
( 5) 斜 視 を 処 置 す る た め に 、 外 眼 筋 に 、 約 1単 位 ∼ 5単 位 の BOTOX( 登 録 商 標 ) が 筋 肉 内 注
射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度
(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
( 6) 卒 中 後 の 上 肢 痙 性 を 処 置 す る た め に 、 下 記 の よ う に 5つ の 異 な る 上 肢 屈 筋 に BOTOX(
登録商標)が筋肉内注射される:
50
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( a) 深 指 屈 筋 : 7.5U∼ 30U
( b) 浅 指 屈 筋 : 7.5U∼ 30U
( c) 尺 側 手 根 屈 筋 : 10U∼ 40U
( d) 橈 側 手 根 屈 筋 : 15U∼ 60U
( e) 上 腕 二 頭 筋 : 50U∼ 200U。 5つ の 示 さ れ た 筋 肉 の そ れ ぞ れ に は 同 じ 処 置 時 に 注 射 さ れ
る の で 、 患 者 に は 、 そ れ ぞ れ の 処 置 毎 に 筋 肉 内 注 射 に よ っ て 90U∼ 360Uの 上 肢 屈 筋 BOTOX(
登録商標)が投与される。
(7)偏 頭 痛 を 治 療 す る た め に 、 25Uの BOTOX(登 録 商 標 )を 頭 蓋 周 囲 に 注 射 す る (眉 間 、 前 頭
お よ び 側 頭 筋 に 対 称 的 に 注 射 す る ): 該 注 射 は 、 偏 頭 痛 頻 度 、 最 大 重 症 度 、 付 随 嘔 吐 お よ
び 急 性 薬 剤 使 用 の 減 少 (25U注 射 後 の 3ヶ 月 間 に わ た る )に よ っ て 評 価 し た 場 合 に 、 ビ ヒ ク ル
10
と比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0023】
A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 最 大 12ヶ 月 の 有 効 性 を 有 し (European J.Neurology 6(Supp 4),
S111-S1150, 1999)、 あ る 場 合 に は 27ヶ 月 間 に も わ た る 有 効 性 を 有 し う る こ と が 既 知 で あ
る (Laryngoscope 109, 1344-1346, 1999)。 し か し 、 BOTOX (登 録 商 標 )筋 肉 注 射 の 通 常 の
持 続 期 間 は 一 般 に 約 3∼ 4ヶ 月 間 で あ る 。
【0024】
市 販 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 含 有 医 薬 組 成 物 は 、 BOTOX( 登 録 商 標 ) ( カ リ フ ォ ル ニ ア 、 ア ー
ヴ ィ ン の Allergan, Inc. か ら 入 手 可 能 ) の 名 称 で 市 販 さ れ て い る 。 BOTOX( 登 録 商 標 ) は
、 精 製 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 、 ヒ ト 血 清 ア ル ブ ミ ン お よ び 塩 化 ナ ト リ ウ ム か ら 成 り 、
20
無 菌 の 減 圧 乾 燥 形 態 で 包 装 さ れ て い る 。 こ の A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 は 、 N-Zア ミ ン お よ び 酵 母
エ キ ス を 含 有 す る 培 地 中 で 増 殖 さ せ た ボ ツ リ ヌ ス 菌 の Hall株 の 培 養 物 か ら 調 製 す る 。 そ の
A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 を 培 養 液 か ら 一 連 の 酸 沈 殿 に よ っ て 精 製 し て 、 活 性 な 高 分 子 量
毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複
合 体 を 、 塩 お よ び ア ル ブ ミ ン を 含 有 す る 溶 液 に 再 溶 解 し 、 滅 菌 濾 過 ( 0.2μ ) し た 後 、 減
圧 乾 燥 す る 。 BOTOX( 登 録 商 標 ) は 、 筋 肉 内 注 射 前 に 、 防 腐 し て い な い 無 菌 塩 類 液 で 再 構
成 し 得 る 。 BOTOX( 登 録 商 標 ) の 各 バ イ ア ル は 、 A型 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 約 100単 位 ( U)
、 ヒ ト 血 清 ア ル ブ ミ ン 0.5mgお よ び 塩 化 ナ ト リ ウ ム 0.9mgを 、 防 腐 剤 不 含 有 の 無 菌 減 圧 乾 燥
形態で含有する。
【0025】
30
減 圧 乾 燥 BOTOX( 登 録 商 標 ) を 再 構 成 す る に は 、 防 腐 剤 不 含 有 の 無 菌 生 理 食 塩 水 ( 0.9%
Sodium Chloride Injection) を 使 用 し 、 適 量 の そ の 希 釈 剤 を 適 当 な 大 き さ の 注 射 器 で 吸
い 上 げ る 。 BOTOX( 登 録 商 標 ) は 、 泡 立 て ま た は 同 様 の 激 し い 撹 拌 に よ っ て 変 性 し う る の
で 、 そ の バ イ ア ル に 希 釈 剤 を 穏 や か に 注 入 す る 。 滅 菌 性 の 理 由 か ら 、 BOTOX( 登 録 商 標 )
は 、 再 構 成 し た 後 4時 間 以 内 に 投 与 す べ き で あ る 。 そ の 間 、 再 構 成 BOTOX( 登 録 商 標 ) は 冷
蔵 庫 ( 2∼ 8℃ ) 内 で 保 管 す る 。 再 構 成 BOTOX( 登 録 商 標 ) は 、 無 色 透 明 で 、 粒 状 物 を 含 ま
な い 。 減 圧 乾 燥 生 成 物 は 、 冷 凍 庫 内 で -5℃ ま た は そ れ 以 下 の 温 度 で 保 管 す る 。
【0026】
概 ね 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 4つ の 生 理 学 的 分 類 群 (I、 II、 III、 IV)が 認 識
されている。血清学的に特定の毒素を産生し得る菌が、複類の生理学的分類群に属し得る
。 例 え ば 、 Bお よ び F型 の 毒 素 は 、 第 I群 ま た は 第 II群 の 株 が 産 生 し 得 る 。 更 に 、 ボ ツ リ ヌ
ス 神 経 毒 を 産 生 し 得 る 他 の ク ロ ス ト リ ジ ウ ム 属 の 株 [ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ バ ラ ッ テ ィ (C. b
aratii)、 F型 ; ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ブ チ リ カ ム ( C. butyricum)、 E型 ; ク ロ ス ト リ ジ ウ ム
・ ノ ビ イ (C. novyi)、 C1 ま た は D型 ]が 特 定 さ れ て い る 。
【0027】
クロストリジウム・ボツリナム種の生理学的分類群を、表1に示す。
40
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【表1】
10
20
【0028】
前記毒素型は、クロストリジウム・ボツリナム菌の適当な生理学的分類群からの選択に
よ っ て 調 製 し 得 る 。 第 I群 の 菌 は 通 例 、 タ ン パ ク 質 分 解 性 と さ れ 、 A、 Bお よ び F型 の ボ ツ リ
ヌ ス 毒 素 を 産 生 す る 。 第 II群 の 菌 は 糖 分 解 性 で 、 B、 Eお よ び F型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 産 生
す る 。 第 III群 の 菌 は 、 Cお よ び D型 の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 し か 産 生 せ ず 、 多 量 の プ ロ ピ オ ン 酸
を 産 生 す る 点 で 、 第 I群 お よ び 第 II群 の 菌 と 区 別 さ れ る 。 第 IV群 の 菌 は 、 G型 神 経 毒 し か 産
生しない。
【0029】
30
動物性生成物を実質的に含まない特定の培地を用いて破傷風毒素を取得することが知ら
れ て い る 。 米 国 特 許 6558926号 参 照 。 し か し と り わ け 、 該 特 許 に 開 示 さ れ た 「 動 物 性 生 成
物 不 含 有 」 培 地 で さ え も 、 肉 消 化 物 で あ る Bacto-peptoneを 用 い て い る 。 重 要 な こ と に 、
ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ テ タ ニ ( Clostridium tetani) に よ る 破 傷 風 毒 素 の 産 生 と 、 ク ロ ス ト
リジウム・ボツリナム細菌によるボツリヌス毒素の産生とは、必要とする成長、培地およ
び 発 酵 パ ラ メ ー タ お よ び 考 慮 す べ き 事 項 に お い て 異 な る 。 例 え ば Johnson, E.A.ら , Clost
ridium botulinum and its neurotoxins: a metabolic and cellular perspective, Toxi
con 39(2001), 1703-1722参 照 。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
40
【0030】
したがって必要とされているのは、生物学的に活性なボツリヌス毒素を取得または生産
するための、動物由来タンパク質などの動物性生成物を含まないまたは実質的に含まない
、培地および方法である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
概要
本発明はこの要求を満たし、生物学的に活性なボツリヌス毒素を取得または生産するた
めの、動物由来タンパク質などの動物性生成物を含まないまたは実質的に含まない、培地
および方法を提供する。取得されたボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素活性成分医薬組成
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物を製造するために使用することができる。
【0032】
定義
本明細書で使用する場合、下記の単語または用語は下記の定義を持つ。
「約」とは、そのように修飾された事項、パラメータまたは用語が、明記した事項、パ
ラ メ ー タ ま た は 用 語 の 値 の 上 下 に ± 10%の 範 囲 を 包 含 す る こ と を 意 味 す る 。
【0033】
「投与」または「投与する」とは、医薬組成物を対象に与える(すなわち投与する)ス
テ ッ プ を 意 味 す る 。 本 明 細 書 に 開 示 す る 医 薬 組 成 物 は 、 例 え ば 筋 肉 内 ( i.m.) 、 皮 内 、 皮
下 投 与 、 髄 腔 内 投 与 、 頭 蓋 内 、 腹 腔 内 ( i.p.) 投 与 、 局 所 外 用 ( 経 皮 ) お よ び イ ン プ ラ ン
10
ト(すなわちポリマーインプラントまたはミニ浸透圧ポンプなどの徐放装置の植込み)投
与経路などによって「局所投与」される。
【0034】
「動物性生成物を含まない」または「動物性生成物を実質的に含まない」は、それぞれ
「動物性タンパク質を含まない」または「動物性タンパク質を実質的に含まない」を包含
し、血液由来、血液プールおよび他の動物由来生成物または化合物の不在または実質的不
在を意味する。「動物」とは哺乳動物(ヒトなど)、鳥、爬虫類、魚、昆虫、クモまたは
他の動物種を意味する。細菌などの微生物は「動物」から除外される。したがって、本発
明に包含される動物性生成物を含まない培地もしくは方法または動物性生成物を実質的に
含まない培地もしくは方法は、ボツリヌス毒素またはクロストリジウム・ボツリナム細菌
20
を含むことができる。例えば、動物性生成物を含まない方法または動物性生成物を実質的
に含まない方法とは、動物由来タンパク質、例えば免疫グロブリン、肉消化物、肉副生成
物および乳汁または乳生成物もしくは乳消化物を実質的に含まない、または基本的に含ま
ない、または全く含まない方法を意味する。したがって、動物性生成物を含まない方法の
一例は、肉および乳生成物または肉もしくは乳副生成物を排除した方法(例えば細菌培養
法または細菌発酵法)である。
【0035】
「ボツリヌス毒素」は、クロストリジウム・ボツリナムによって産生される神経毒、お
よび非クロストリジウム種によって組換え生産されたボツリヌス毒素(またはその軽鎖も
しくは重鎖)を意味する。本明細書で使用する「ボツリヌス毒素」という表現は、ボツリ
30
ヌ ス 毒 素 血 清 型 A、 B、 C、 D、 E、 Fお よ び Gを 包 含 す る 。 ま た 、 本 明 細 書 で 使 用 す る ボ ツ リ
ヌ ス 毒 素 は 、 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 複 合 体 ( す な わ ち 300、 600お よ び 900kDa複 合 体 ) も 、 精 製 ボ
ツ リ ヌ ス 毒 素 ( す な わ ち 約 150kDa) も 包 含 す る 。 「 精 製 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 」 は 、 ボ ツ リ ヌ ス
毒素複合体を形成するタンパク質などの他のタンパク質から分離された、またはそれら他
のタンパク質から実質的に分離された、ボツリヌス毒素と定義される。精製ボツリヌス毒
素 は 95% よ り 高 い 純 度 を 持 ち 得 、 好 ま し く は 99% よ り 高 い 純 度 を 持 つ 。 神 経 毒 で な い ボ ツ
リ ヌ ス C2 お よ び C3 細 胞 毒 は 、 本 発 明 の 範 囲 か ら は 除 外 さ れ る 。
【0036】
「クロストリジウム神経毒」は、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・
ブ チ リ カ ム ( Clostridium butyricum) ま た は ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ベ ラ ッ テ ィ ( Clostridi
40
um beratti) な ど の ク ロ ス ト リ ジ ウ ム 細 菌 か ら 産 生 さ れ る 神 経 毒 、 ま た は そ れ ら ク ロ ス ト
リジウム細菌に固有の神経毒、および非クロストリジウム種によって組換え生産されたク
ロストリジウム神経毒を意味する。
【0037】
「全く含まない」(または「からなる」という用語法)とは、使用する機器または方法
の検出範囲内で、その物質を検出することができないこと、またはその存在を確認するこ
とができないことを意味する。
「基本的に含まない」(または「から基本的になる」)とは、その物質が痕跡量しか検
出され得ないことを意味する。
【0038】
50
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「 固 定 」 と は 、 対 象 が 1つ 以 上 の 身 体 部 分 を 動 か す の を 妨 げ る ス テ ッ プ を 意 味 す る 。 十
分な数の身体部分が固定されれば、その対象は相応に固定されることになる。したがって
「固定」は、肢などの身体部分の固定および/または対象の完全な固定を包含する。
【0039】
「修飾ボツリヌス毒素」とは、天然ボツリヌス毒素と比較して、そのアミノ酸の少なく
と も 1つ が 欠 失 、 修 飾 、 ま た は 置 換 さ れ た ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 で あ る 。 さ ら に 修 飾 ボ ツ リ ヌ ス
毒素は、組換え生産された神経毒、または組換え生産された神経毒の誘導体もしくは断片
であることもできる。修飾ボツリヌス毒素は、例えばボツリヌス毒素受容体に結合する能
力またはニューロンからの神経伝達物質放出を阻害する能力などといった天然ボツリヌス
毒 素 の 生 物 学 的 活 性 を 、 少 な く と も 1つ は 保 持 し て い る 。 修 飾 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 一 例 は 、
10
あ る ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血 清 型 ( 例 え ば 血 清 型 A) 由 来 の 軽 鎖 お よ び 異 な る ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血
清 型 ( 例 え ば 血 清 型 B) 由 来 の 重 鎖 を 持 つ ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 で あ る 。 修 飾 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の
も う 1つ の 例 は 、 サ ブ ス タ ン ス Pな ど の 神 経 伝 達 物 質 に 結 合 さ れ た ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 で あ る 。
【0040】
「患者」とは、医療または獣医療を受けるヒトまたは非ヒト対象を意味する。したがっ
て、本明細書に開示する組成物は、哺乳動物などの任意の動物の処置に使用しうる。
【0041】
「医薬組成物」とは、製剤を意味し、その活性成分はボツリヌス毒素であることができ
る 。 「 製 剤 」 と い う 単 語 は 、 そ の 医 薬 組 成 物 中 に 神 経 毒 活 性 成 分 の 他 に 少 な く と も 1つ の
追加成分が存在することを意味する。したがって医薬組成物は、ヒト患者などの対象への
20
診断的または治療的投与(例えば筋肉内注射もしくは皮下注射による投与またはデポー剤
もしくはインプラントの挿入による投与)に適した製剤である。医薬組成物は、凍結乾燥
状態もしくは真空乾燥状態にあるか、凍結乾燥もしくは真空乾燥した医薬組成物を食塩水
もしくは水を使用して復元した後に生成した溶液であるか、または復元を必要としない溶
液 と し て 存 在 し う る 。 活 性 成 分 は 、 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 血 清 型 A、 B、 C1 、 D、 E、 Fも し く は Gの
1つ ま た は ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 ( い ず れ も ク ロ ス ト リ ジ ウ ム 細 菌 に よ っ て 自 然 に 産 生 さ れ う る
もの)でありうる。上述のように、医薬組成物は液体または固体、例えば真空乾燥物であ
ることができる。医薬組成物の構成成分は、単一組成物(すなわち、医薬組成物の初期配
合時に、必要な復元液を除く全ての構成成分が存在する)に含まれるか、または二構成要
素系として、例えば食塩水などの希釈剤(この場合の希釈剤は医薬組成物の初期配合時に
30
存在しない成分を含有する)で復元される真空乾燥した組成物などとして含まれうる。二
構 成 要 素 系 に は 、 長 期 間 貯 蔵 す る の に 二 構 成 要 素 系 の 第 1構 成 要 素 と あ ま り 適 合 し な い 成
分を組み込むことができるという利点がある。例えば復元用のビヒクルまたは希釈剤は、
使 用 期 間 中 ( 例 え ば 1週 間 の 冷 蔵 貯 蔵 中 ) は 微 生 物 成 長 に 対 す る 十 分 な 防 護 を も た ら す が
、 毒 素 を 分 解 す る か も し れ な い の で 2年 間 の 冷 凍 貯 蔵 期 間 中 は 存 在 さ せ な い 保 存 剤 を 含 む
ことができる。長期間はクロストリジウム毒素または他の成分と適合しないかもしれない
他 の 成 分 は 、 こ の よ う に し て 組 み 込 む こ と が で き る ; す な わ ち 、 使 用 直 前 に 第 2ビ ヒ ク ル
(例えば復元液)に加えることができる。ボツリヌス毒素活性成分医薬組成物を調製する
方 法 は 、 米 国 特 許 出 願 公 開 第 2003/0118598号 ( A1) に 開 示 さ れ て い る 。
【0042】
40
「 実 質 的 に 含 ま な い 」 と は 、 当 該 医 薬 組 成 物 の 1wt%未 満 の レ ベ ル で 存 在 す る こ と を 意 味
する。
「治療製剤」とは、ある製剤が、ある障害または疾患、例えば末梢筋の活動亢進(すな
わち痙縮)を特徴とする障害または疾患を、処置およびそれにより軽減するために使用で
きることを意味する。
【0043】
本発明は、動物性副生成物または乳副生成物のレベルが少なくとも低下している培地、
好ましくは動物性副生成物または乳副生成物を実質的に含まない培地を提供する。「動物
性副生成物または乳副生成物」とは、インビボであるかインビトロであるかにかかわらず
、動物細胞(細菌細胞を除く)において、または動物細胞(細菌細胞を除く)によって産
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生された、任意の化合物または化合物の組合せを意味する。タンパク質、アミノ酸、およ
び窒素などの培地成分の好ましい非動物性供給源として、植物、微生物(酵母など)およ
び合成化合物が挙げられる。
【0044】
本 発 明 は 、 動 物 性 副 生 成 物 ま た は 乳 副 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま な い 少 な く と も 1つ の 培 地
を使ってボツリヌス毒素を取得する方法も提供する。例えば、動物性生成物を実質的に含
まない発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナムを培養することによって、ボツリヌス
毒素を取得することができる。
【0045】
本発明は、動物性生成物を実質的に含まず植物由来生成物を含む発酵培地でクロストリ
10
ジウム・ボツリヌナムを培養することによって取得されるボツリヌス毒素も包含する。ま
た、動物性生成物を実質的に含まずいくつかの大豆系生成物を含む発酵培地中でクロスト
リジウム・ボツリナムを培養することによって、ボツリヌス毒素を取得することもできる
。
【0046】
も う 1つ の 好 ま し い 実 施 形 態 と し て 、 動 物 性 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま ず 、 動 物 由 来 生 成 物
の代替物として加水分解大豆を含有する発酵培地中でクロストリジウム・ボツリナムを培
養することによって、ボツリヌス毒素を取得することができる。好ましくは、発酵培地に
おける成長は、少なくとも細胞溶解が起こるまで進行する。発酵培地の接種に用いるクロ
ストリジウム・ボツリナム源は、クロストリジウム・ボツリナムを含有する種培地から得
20
ることができる。種培地中で成長させて発酵培地用接種物として用いるクロストリジウム
・ボツリナムは、好ましくは、細胞溶解を起こしていない。種培地の接種に用いるクロス
トリジウム・ボツリナム源は、凍結乾燥培養物から得ることができる。クロストリジウム
・ボツリナムは、畜乳または豆乳中の培養物として凍結乾燥することができる。クロスト
リジウム・ボツリナムは、好ましくは、豆乳中の培養物として凍結乾燥される。
【0047】
本発明はまた、クロストリジウム・ボツリナムを培養するため、動物由来生成物を実質
的に含まない培地を含む組成物を提供する。
【0048】
一実施形態において、本組成物は、動物由来生成物を実質的に含まず、かつ少なくとも
30
1つ の 非 動 物 源 由 来 の 生 成 物 を 含 有 し 、 さ ら に ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 含 む 培 地
を含む。
【0049】
も う 1つ の 実 施 形 態 に お い て 、 本 組 成 物 は 、 動 物 由 来 生 成 物 を 実 質 的 に 含 ま ず 、 か つ 少
な く と も 1つ の 植 物 由 来 の 生 成 物 を 含 有 し 、 さ ら に ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 含 む
培 地 を 含 む 。 本 発 明 の も う 1つ の 実 施 形 態 は 、 動 物 由 来 生 成 物 を 実 施 的 に 含 ま ず 、 か つ 少
な く と も 1つ の 大 豆 由 来 の 生 成 物 を 含 有 し 、 さ ら に ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 含 む
培地を含む組成物でありうる。
【0050】
説明
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本発明は、生物学的に活性なボツリヌス毒素を産生する能力を持つ生物(例えばクロス
トリジウム・ボツリナム細菌)の培養および発酵に役立つ、動物性生成物または動物性副
生成物を含まないまたは実質的に含まない培地および方法の発見に基づいている。取得さ
れるボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素活性成分医薬組成物の製造に使用することができ
る。したがって本明細書には肉副生成物または乳副生成物のレベルが著しく低下している
培地を開示し、好ましい培地実施形態はそのような動物性生成物を実質的に含まない。
【0051】
本発明は、クロストリジウム・ボツリナム成長用培地に動物系生成物が必要でないとい
う本発明者の驚くべき発見、特に、そのようなクロストリジウム・ボツリナム成長用培地
に通例使用される動物系生成物を植物系生成物に代替することができるという本発明者の
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驚くべき発見を包含する。
【0052】
細 菌 の 成 長 お よ び 発 酵 に 現 在 使 用 さ れ て い る 培 地 は 、 通 常 、 1つ 以 上 の 動 物 由 来 成 分 を
含む。本発明によれば、好ましいクロストリジウム・ボツリナム成長用培地は、培地の総
重 量 の 約 5か ら 約 10%を 越 え な い 量 の 動 物 由 来 成 分 を 含 有 す る 。 よ り 好 ま し く は 、 本 発 明 の
範 囲 に 包 含 さ れ る 培 地 は 、 培 地 の 総 重 量 の 約 1%以 下 な い し 約 5%未 満 の 動 物 由 来 生 成 物 を 含
む。最も好ましくは、ボツリヌス毒素を生産するためのクロストリジウム・ボツリナムの
成長に使用される全ての培地および培養物は、動物由来生成物を全く含まない。これらの
培地には、クロストリジウム・ボツリナムの小規模および大規模発酵用の培地、種(第1
) 培 地 お よ び 発 酵 ( 第 2) 培 地 の 接 種 に 用 い ら れ る ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 培 養 物
10
の成長用培地、ならびにクロストリジウム・ボツリナム培養物(例えば保存培養物)の長
期保存に用いられる培地が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0053】
本発明のある好ましい実施形態において、クロストリジウム・ボツリナム成長用および
ボツリヌス毒素生産用の培地は、動物由来生成物の代わりに大豆系生成物を含むことがで
き る 。 あ る い は 、 大 豆 系 生 成 物 の 代 わ り に 、 ル ピ ナ ス ・ カ ン ペ ス ト リ ス ( Lupinus campes
tris) の 脱 苦 味 種 子 を 使 用 す る こ と が で き る 。 L.カ ン ペ ス ト リ ス 種 子 の タ ン パ ク 質 分 は 大
豆のものとよく似ていることが知られている。好ましくは、これらの培地は、加水分解さ
れ る お よ び 水 に 可 溶 で あ る 大 豆 由 来 生 成 物 ま た は L.カ ン ペ ス ト リ ス 由 来 生 成 物 を 含 む 。 し
か し 本 発 明 で は 、 不 溶 性 の 大 豆 生 成 物 ま た は L.カ ン ペ ス ト リ ス 生 成 物 も 、 動 物 性 生 成 物 を
20
代 替 す る た め に 使 用 す る こ と が で き る 。 大 豆 生 成 物 ま た は L.カ ン ペ ス ト リ ス 生 成 物 で 代 替
す る こ と が で き る 一 般 的 な 動 物 由 来 生 成 物 と し て 、 牛 心 臓 浸 出 液 ( BHI) 、 動 物 由 来 ペ プ
ト ン 生 成 物 、 例 え ば Bacto-peptone、 加 水 分 解 カ ゼ イ ン 、 お よ び 畜 乳 な ど の 乳 副 生 成 物 が
挙げられる。
【0054】
好 ま し く は 、 大 豆 系 生 成 物 ま た は L.カ ン ペ ス ト リ ス 系 生 成 物 を 含 有 す る ク ロ ス ト リ ジ ウ
ム・ボツリナム成長用培地は、実質上全ての動物由来生成物が植物由来生成物で代替され
る点以外は、動物由来生成物を含有する一般に使用される成長培地に似ている。例えば大
豆 系 発 酵 培 地 は 、 大 豆 系 生 成 物 、 グ ル コ ー ス な ど の 炭 素 源 、 NaClお よ び KClな ど の 塩 、 Na2
HPO4 、 KH2 PO4 な ど の ホ ス フ ェ ー ト 含 有 成 分 、 鉄 お よ び マ グ ネ シ ウ ム な ど の 二 価 カ チ オ ン 、
30
鉄 粉 、 な ら び に L-シ ス テ イ ン お よ び L-チ ロ シ ン な ど の ア ミ ノ 酸 を 含 む こ と が で き る 。 発 酵
( 第 2) 培 地 に 接 種 す る た め の ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 培 養 物 を 成 長 さ せ る た め に
用 い ら れ る 培 地 ( す な わ ち 種 培 地 ま た は 第 1培 地 ) は 、 好 ま し く は 、 少 な く と も 、 大 豆 系
生 成 物 、 NaClな ど の 塩 源 、 お よ び グ ル コ ー ス な ど の 炭 素 源 を 含 有 す る 。
【0055】
本発明は、動物由来生成物を実質的に含まない培地を使ってボツリヌス毒素の生産量を
最大化するクロストリジウム・ボツリナムの成長方法を提供する。クロストリジウム・ボ
ツリナムおよびボツリヌス毒素の生産のための成長は、動物性副生成物に由来する成分を
代替する大豆副生成物を含有する培地での発酵によって行なうことができる。発酵培地用
の接種物は、それより小規模の成長培地(種培地)から得ることができる。培養物のバイ
40
オマスを増加させるために行なわれる種培地における継代数は、発酵工程の大きさおよび
体積に応じて変動しうる。発酵培地の接種に適した量のクロストリジウム・ボツリナムを
成長させるために、種培地における成長を伴う一工程または複数工程を行なうことができ
る。動物由来生成物を含まないクロストリジウム・ボツリナム成長法にとって、クロスト
リジウム・ボツリナムの成長は、非動物由来培地に保存された培養物から起こることが好
ましい。保存培養物(好ましくは凍結乾燥物)は、大豆由来のタンパク質を含有し動物性
副生成物を欠く培地における成長によって製造される。発酵培地におけるクロストリジウ
ム・ボツリナムの成長は、保存された凍結乾燥培養物からの直接的な接種によって行なう
ことができる。
【0056】
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本発明の好ましい実施形態では、クロストリジウム・ボツリナムの成長が、種成長およ
び発酵という二相で進行する。これらの相はどちらも嫌気環境下で行なわれる。種成長相
は一般に、微生物の量を保存培養物から「スケールアップ」するために用いられる。種成
長相の目的は、発酵に利用できる微生物の量を増加させることである。また、種成長相に
より、保存培養物中の比較的不活発な微生物を、若返らせて活発に成長する培養物へと成
長させることもできる。さらに、活発に成長する培養物からは、保存培養物からの場合よ
りも、発酵培養物の接種に用いる生存可能な微生物の体積および量を正確に制御すること
もできる。したがって、発酵培地に接種するための種培養物を成長させることが好ましい
。また、発酵培地に接種するクロストリジウム・ボツリナムの量をスケールアップするた
めに、種培地における成長を伴う連続工程を何回でも使用することができる。発酵相にお
10
けるクロストリジウム・ボツリナムの成長は、直接接種によって保存培養物から直接進行
しうることに注意されたい。
【0057】
発酵相では、種成長によって得られたクロストリジウム・ボツリナムを含有する種培地
の一部またはそのような種培地の全部を、発酵培地の接種に使用する。好ましくは、約2
か ら 4% の 、 種 成 長 相 で 得 ら れ た ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 有 す る 種 培 地 を 、 発 酵
培地の接種に使用する。発酵は、大規模嫌気環境下で最大量の微生物を生産するために用
い ら れ る ( Ljungdahlら 「 Manual of industrial microbiology and biotechnology」 ( 19
86) , Demain ら 編 , American Society for Microbiology, ワ シ ン ト ン D.C., 84頁 ) 。
【0058】
20
ボツリヌス毒素は、タンパク質精製技術分野の当業者に周知のタンパク質精製方法を使
っ て 分 離 し 精 製 す る こ と が で き る ( Coligan ら 「 Current Protocols in Protein Science
」 Wiley & Sons、 Ozutsumi ら , Appl. Environ. Microbiol. 49 ; 939-943: 1985) 。
【0059】
ボツリヌス毒素を生産するために、クロストリジウム・ボツリナムの培養物を、発酵培
地に接種するための種培地中で成長させることができる。種培地における成長を伴う継代
工程数は、発酵相におけるボツリヌス毒素の生産規模に応じて変動しうる。ただし、上述
のように、発酵相での成長は、保存培養物からの接種により、直接進行することもできる
。 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 成 長 用 の 動 物 系 種 培 地 は 一 般 に BHI、 bacto-peptone、 Na
Cl、 お よ び グ ル コ ー ス か ら 構 成 さ れ る 。 上 述 の よ う に 、 本 発 明 に 従 っ て 、 動 物 系 成 分 を 非
30
動物系成分で置き換えた代替種培地を調製することもできる。例えば、限定するわけでは
ないが、クロストリジウム・ボツリナム成長用およびボツリヌス毒素生産用の種培地には
BHIお よ び bacto-peptoneの 代 わ り に 大 豆 系 生 成 物 を 使 用 す る こ と が で き る 。 好 ま し く は 、
大豆系生成物は水溶性であり、加水分解大豆を含むが、クロストリジウム・ボツリナムの
培養物は、不溶性大豆を含有する培地中でも成長しうる。ただし、成長レベルおよびそれ
に続く毒素の生産レベルは、可溶性大豆生成物を用いた培地の方が高い。
【0060】
本発明では任意の大豆系生成物源を使用することができる。好ましくは大豆は加水分解
大 豆 で あ る 。 加 水 分 解 大 豆 源 は 様 々 な 供 給 業 者 か ら 入 手 す る こ と が で き る 。 例 え ば 、 Hy-S
oy( Quest International) 、 Soy peptone( Gibco) 、 Bac-Soytone( Difco) 、 AMISOY( Q
40
uest) 、 NZ soy( Quest) 、 NZ soy BL4、 NZ soy BL7、 SE50M( DMV International Nutrit
ionals、 ニ ュ ー ヨ ー ク 州 フ レ ー ザ ー ) 、 お よ び SE50MK( DMV) な ど が あ る が 、 こ れ ら に 限
定 さ れ る わ け で は な い 。 最 も 好 ま し く は 、 加 水 分 解 大 豆 源 は Hy-Soyま た は SE50MKで あ る 。
他の使用可能性のある加水分解大豆源も知られている。
【0061】
本 発 明 の 種 培 地 に お け る Hy-Soyの 濃 度 は 25か ら 200g/Lの 範 囲 で あ る 。 好 ま し く は 、 種 培
地 中 の Hy-Soy濃 度 は 50か ら 150g/Lの 範 囲 で あ る 。 最 も 好 ま し く は 、 種 培 地 中 の Hy-Soy濃 度
は 約 100g/Lで あ る 。 ま た 、 NaClの 濃 度 は 0.1か ら 2.0g/Lの 範 囲 で あ る 。 好 ま し く は 、 NaCl
濃 度 は 0.2か ら 1.0g/Lの 範 囲 で あ る 。 最 も 好 ま し く は 種 培 地 中 の NaCl濃 度 は 約 0.5g/Lで あ
る 。 グ ル コ ー ス の 濃 度 は 0.1g/Lか ら 5.0g/Lの 範 囲 で あ る 。 好 ま し く は 、 グ ル コ ー ス 濃 度 は
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0.5か ら 2.0g/Lの 範 囲 で あ る 。 最 も 好 ま し く は 、 種 培 地 中 の グ ル コ ー ス 濃 度 は 約 1.0g/Lで
ある。種培地の他の成分と一緒にオートクレーブ処理することによってグルコースを滅菌
することも好ましいが、それは本発明にとって必須ではない。成長前の種培地の好ましい
pHレ ベ ル は 7.5か ら 8.5の 範 囲 で あ る 。 最 も 好 ま し く は 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム が
成 長 す る 前 の 種 培 地 の pHは 約 8.1で あ る 。
【0062】
種 培 地 に お け る ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 成 長 は 1つ 以 上 の 段 階 で 進 行 し う る 。
好 ま し く は 、 種 培 地 に お け る 成 長 は 二 段 階 で 進 行 す る 。 第 1段 階 で は 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム
・ ボ ツ リ ナ ム の 培 養 物 を あ る 量 の 種 培 地 に 懸 濁 し 、 嫌 気 環 境 下 に 34± 1℃ で 24か ら 48時 間
イ ン キ ュ ベ ー ト す る 。 好 ま し く は 、 第 1段 階 で の 成 長 は 約 48時 間 行 な う 。 第 2段 階 で は 、 ク
10
ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム を 含 有 す る 第 1段 階 培 地 の 一 部 ま た は 全 部 を 、 さ ら な る 成 長
の た め に 第 2段 階 種 培 地 の 接 種 に 使 用 す る 。 接 種 後 、 第 2段 階 培 地 を 嫌 気 環 境 下 に 34± 1℃
で 約 1か ら 4日 間 イ ン キ ュ ベ ー ト す る 。 好 ま し く は 、 第 2段 階 種 培 地 で の 成 長 は 約 3日 間 行 な
う。また、どの段階でも、種培地における成長は、種培地での最終成長物を発酵培地に接
種する前に細胞溶解を起こさないことが好ましい。
【0063】
動物性副生成物を含有するクロストリジウム・ボツリナム成長用の標準的発酵培地は、
Muellerお よ び Millerの 配 合 ( MM; J. Bactgeriol. 67:271, 1954) に 基 づ く こ と が で き る
。 動 物 性 副 生 成 物 を 含 有 す る MM培 地 中 の 成 分 と し て 、 BHIお よ び NZ-CaseTTが 挙 げ ら れ る 。
NZ-CaseTTは 、 カ ゼ イ ン ( 畜 乳 中 に 見 い だ さ れ る 一 群 の タ ン パ ク 質 ) の 酵 素 消 化 物 に 由 来
20
す る 市 販 の ペ プ チ ド お よ び ア ミ ノ 酸 源 で あ る 。 本 発 明 は 、 発 酵 培 地 中 の BHIお よ び NZ-Case
TTの 代 わ り に 非 動 物 系 生 成 物 を 使 用 す る こ と が で き る こ と を 実 証 す る 。 例 え ば 、 限 定 す る
わ け で は な い が 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 発 酵 に 用 い ら れ る MM培 地 の 動 物 系 成 分
を、大豆系生成物で代替することができる。好ましくは、大豆系生成物は水溶性であり、
加水分解大豆に由来するが、上述のように、不溶性大豆生成物を使って本発明を実施する
こともできる。
【0064】
本発明では任意の大豆系生成物源を使用することができる。好ましくは、加水分解大豆
を Quest International( シ ェ フ ィ ー ル ド ) か ら Hy-Soyと い う 商 標 で 入 手 す る か 、 DMV Int
ernational Nutritionals( ニ ュ ー ヨ ー ク 州 フ レ ー ザ ー ) か ら SE50MKと い う 商 標 で 入 手 す
30
る 。 可 溶 性 大 豆 生 成 物 は 、 例 え ば Soy peptone( Gibco) 、 Bac-Soytone( Difco) 、 AMISOY
( Quest) 、 NZ soy( Quest) 、 NZ soy BL4、 NZ soy BL7、 お よ び SE50MK( DMV Internatio
nal Nutritionals、 ニ ュ ー ヨ ー ク 州 フ レ ー ザ ー ) な ど と い っ た ( た だ し こ れ ら に 限 定 さ れ
るわけではない)様々な供給源から入手することもできる。
【0065】
本 発 明 の も う 1つ の 好 ま し い 実 施 形 態 で は 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 発 酵 に 用
い ら れ る 培 地 が 、 動 物 性 副 生 成 物 を 含 ま ず 、 加 水 分 解 大 豆 、 グ ル コ ー ス 、 NaCl、 Na2 HPO4
、 MgSO4 7H2 O、 KH2 PO4 、 L-シ ス テ イ ン 、 L-チ ロ シ ン 、 お よ び 鉄 粉 を 含 む 。 種 培 地 に 関 し て
開示したように、発酵培地中の動物性副生成物は加水分解大豆で代替することができる。
こ れ ら の 動 物 性 副 生 成 物 と し て 、 BHIお よ び NZ-CaseTT( 酵 素 消 化 カ ゼ イ ン ) が 挙 げ ら れ る
40
。
【0066】
ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 を 生 産 す る た め の 発 酵 培 地 に お け る Hy-Soyの 濃 度 は 、 好 ま し く は 約 10か
ら 100g/Lの 範 囲 で あ る 。 好 ま し く は 、 Hy-Soy濃 度 は 約 20か ら 60g/Lの 範 囲 で あ る 。 最 も 好
ま し く は 、 発 酵 培 地 中 の Hy-Soy濃 度 は 約 35g/Lで あ る 。 ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 生 産 量 を 最 大 に
す る に は 、 発 酵 培 地 中 の 成 分 の 特 に 好 ま し い 濃 度 は 、 約 7.5g/L グ ル コ ー ス 、 5.0g/L NaCl
、 0.5g/L Na2 HPO4 、 175mg/L KH2 PO4 、 50mg/L MgSO4 7H2 O、 125mg/L L-シ ス テ イ ン 、 お よ び
125mg/L L-チ ロ シ ン で あ る 。 鉄 粉 の 使 用 量 は 50mg/Lか ら 2000mg/Lの 範 囲 で あ る こ と が で き
る 。 好 ま し く は 、 鉄 粉 の 量 は 約 100mg/Lか ら 1000mg/Lの 範 囲 で あ る 。 最 も 好 ま し く は 、 発
酵 培 地 中 に 用 い る 鉄 粉 の 量 は 約 200mg/Lか ら 600mg/Lの 範 囲 で あ る 。
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【0067】
毒 素 生 産 レ ベ ル を 最 適 に す る た め に 、 大 豆 系 発 酵 培 地 の 初 期 pH( オ ー ト ク レ ー ブ 処 理 )
は 好 ま し く は 約 5.5か ら 7.1の 範 囲 で あ る 。 好 ま し く は 、 発 酵 培 地 の 初 期 pHは 約 6.0か ら 6.2
である。種培地に関して述べたように、グルコースおよび鉄を包含する発酵培地の成分は
、好ましくは、滅菌のために一緒にオートクレーブ処理される。
【0068】
好 ま し く は 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 成 長 に 使 用 し た 第 2段 階 種 培 地 の 一 部 を
、 発 酵 培 地 の 接 種 に 使 用 す る 。 発 酵 は 嫌 気 チ ャ ン バ ー 中 、 約 34± 1℃ で 約 7か ら 9日 間 行 な
わ れ る 。 成 長 は 培 地 の 光 学 密 度 ( O.D.) を 測 定 す る こ と に よ っ て 監 視 さ れ る 。 発 酵 は 、 好
ま し く は 、 成 長 測 定 ( 光 学 密 度 ) に よ る 決 定 で 、 細 胞 溶 解 が 少 な く と も 48時 間 進 行 し た 後
10
に 、 停 止 す る 。 細 胞 が 溶 解 す る に つ れ て 、 培 地 の O.D.は 低 下 す る だ ろ う 。
【0069】
本発明の好ましい実施形態では、クロストリジウム・ボツリナムの長期保存および種培
地の接種に用いられるクロストリジウム・ボツリナムの培養物を、豆乳中で成長させて、
凍 結 乾 燥 し た 後 、 4℃ で 保 存 す る 。 保 存 用 に 凍 結 乾 燥 さ れ た 畜 乳 中 の ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・
ボツリナム培養物も、ボツリヌス毒素の生産に使用することができる。しかし、ボツリヌ
ス毒素生産の全工程にわたって、動物性副生成物を実質的に含まない培地を維持するため
に、クロストリジウム・ボツリナムの初期培養物は、畜乳ではなく豆乳中に保存されるこ
とが好ましい。
【0070】
20
実施例
以下の実施例は、本発明に包含される特定の方法を説明するものであり、本発明の範囲
を 限 定 し よ う と す る も の で は な い 。 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 培 養 物 は 、 List Labor
atories( カ リ フ ォ ル ニ ア 州 キ ャ ン ベ ル ) を 含 む い く つ か の 供 給 源 か ら 入 手 す る こ と が で
きる。全ての実験および培地は再蒸留水を使って調製することができる。以下の全ての実
施 例 に お い て 「 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 」 と は 、 A型 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ
ム の Hall A( ATCC 登 録 番 号 3502) 株 を 意 味 す る 。
【実施例1】
【0071】
動物性生成物を含まないクロストリジウム・ボツリナム用種培地の調製
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対 照 種 培 地 は 培 地 各 1リ ッ ト ル に つ き 以 下 の 成 分 を 使 っ て 調 製 す る こ と が で き る : NaCl
( 5g) 、 Bacto-peptone( 10g) 、 グ ル コ ー ス ( 10g) 、 BHI( 1リ ッ ト ル に な る 量 ) 、 pH8.1
( 5N NaOHで 調 整 ) 。
【0072】
試 験 ( 動 物 性 生 成 物 不 含 有 ) 種 培 地 は 培 地 各 1リ ッ ト ル に つ き 以 下 の 成 分 を 使 っ て 調 製
す る こ と が で き る : NaCl( 5g) 、 Soy-peptone( 10g) 、 グ ル コ ー ス ( 10g) 、 Hy-Soy( 35g
/リ ッ ト ル 、 培 地 液 を 1リ ッ ト ル に す る 量 ) 、 pH8.1( 5N NaOHで 調 整 ) 。
【実施例2】
【0073】
動物性生成物を含まない種培地におけるクロストリジウム・ボツリナムの培養
40
実 施 例 1の 対 照 種 培 地 お よ び 試 験 種 培 地 各 1mlに ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 凍 結 乾
燥 培 養 物 を 懸 濁 し 、 ( 各 種 培 地 を ) そ れ ぞ れ が そ れ ぞ れ の 種 培 地 10mlを 含 有 す る 2本 の 試
験 管 に 分 割 し た 後 、 34℃ で 約 24か ら 48時 間 イ ン キ ュ ベ ー ト す る こ と が で き る 。 次 に 、 培 養
物 1mlを 、 40mlの ( 各 ) 種 培 地 を 含 有 す る 125ml DeLong Bellco培 養 フ ラ ス コ の 接 種 に 使 用
す る こ と が で き る 。 接 種 さ れ た 培 養 物 を 、 Coy嫌 気 チ ャ ン バ ー ( Coy Laboratory Products
Inc.、 ミ シ ガ ン 州 グ ラ ス レ イ ク ) 中 、 33℃ ± 1℃ で 24時 間 イ ン キ ュ ベ ー ト す る こ と が で き
る。
【実施例3】
【0074】
動物性生成物を含まないクロストリジウム・ボツリナム用発酵培地の調製
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基 礎 発 酵 培 地 は 培 地 各 2リ ッ ト ル に つ き 以 下 の 成 分 を 使 っ て 調 製 す る こ と が で き る : グ
ル コ ー ス ( 15g) 、 NaCl( 10g) 、 NaH2 PO4 ( 1g) 、 KH2 PO4 ( 0.350g) 、 MgSO4 7H2 O( 0.1g)
、 シ ス テ イ ン -HC( 0.250g) 、 チ ロ シ ン -HCl( 0.250g) 、 鉄 粉 ( 1g) 、 ZnCl2 ( 0.250g) 、
お よ び MnCl2 ( 0.4g) 。
【0075】
対 照 発 酵 培 地 は 、 調 製 さ れ る 培 地 各 2リ ッ ト ル に つ き 以 下 の 成 分 を 使 っ て 調 製 す る こ と
が で き る : BHI( 500ml; こ れ は 牛 心 臓 浸 出 液 乾 燥 重 量 約 45.5gに 相 当 す る ) 、 NZ-CaseTT(
30g) 、 お よ び 基 礎 培 地 ( 2リ ッ ト ル に な る 量 ) 、 pH6.8。
【0076】
基 礎 発 酵 培 地 を ま ず 調 製 し 、 そ れ を pH6.8に 調 整 す る こ と が で き る 。 次 に 、 牛 心 臓 浸 出
10
液 ( BHI) BHIを 調 製 し 、 5N NaOHで そ の pHを 8に 調 整 す る こ と が で き る 。 次 に 、 BHIを 基 礎
培 地 に 加 え る こ と が で き る 。 次 に NZ-CaseTTを 調 製 す る こ と が で き る 。 次 に 、 牛 心 臓 浸 出
液 が 既 に 加 え ら れ て い る 基 礎 培 地 に 、 NZ-CaseTTを 加 え 、 HClの 添 加 に よ っ て 溶 解 さ せ る 。
次 に 5N NaOHで pHを 6.8に 調 整 す る こ と が で き る 。 次 に 、 こ の 培 地 を 16本 の 100mm試 験 管 に 8
mlず つ 分 注 し た 後 、 120℃ で 25分 間 オ ー ト ク レ ー ブ 処 理 す る こ と が で き る 。
【0077】
試 験 発 酵 培 地 ( 動 物 性 生 成 物 不 含 有 ) は 、 対 照 発 酵 培 地 中 に 存 在 す る BHIの 代 わ り に 試
験窒素源を使用することによって調製することができる。好適な試験発酵培地窒素源には
、 Hy-Soy( Quest) 、 AMI-Soy( Quest) 、 NZ-Soy( Quest) 、 NZ-Soy BL4( Quest) 、 NZ-So
y BL7( Quest) 、 Sheftone D( Sheffield) 、 SE50M( DMV) 、 SE50( DMV) 、 SE%)MK( DMV
20
) 、 Soy Peptone( Gibco) 、 Bacto-Soyton( Difco) 、 Nutrisoy 2207( ADM) 、 Bakes Nut
risoy( ADM) 、 Nutrisoy flour、 Soybean meal、 Bacto-Yeast Extract( Difco) 、 Yeast
Extract( Gibco) 、 Hy-Yest 412( Quest) 、 Hy-Yest 441( Quest) 、 Hy-Yest 444( Quest
) 、 Hy-Yest 455( Quest) 、 Bacto-Malt Extract( Difco) 、 Corn Steep、 お よ び Proflo
( Traders) な ど が あ る 。
【0078】
試 験 発 酵 培 地 は 、 BHIを 除 外 す る 点 以 外 は 、 対 照 発 酵 培 地 に つ い て 上 述 し た よ う に 調 製
す る こ と が で き 、 適 切 な 窒 素 源 を ま ず 3N HClま た は 5N NaOHで pH6.8に 調 整 す る こ と が で き
る 。 培 地 は 16本 の 100mm試 験 管 に 8mlず つ 配 分 し た 後 、 120℃ で 20か ら 30分 間 オ ー ト ク レ ー
ブ処理することができる。
30
【実施例4】
【0079】
動物性生成物を含まない発酵培地におけるクロストリジウム・ボツリナムの成長
試 験 種 培 地 培 養 物 ( 動 物 性 生 成 物 不 含 有 ) を 40μ lず つ 使 っ て 、 8ml 16本 の 100mm試 験 管
中 の 対 照 ま た は 試 験 発 酵 培 地 各 8mlに 接 種 す る こ と が で き る 。 次 に 、 培 養 物 を 33± 1℃ で 24
時間インキュベートすることができる。次に、細菌を成長させるために、試験管を嫌気チ
ャンバー中でインキュベートすることができる。各培地アッセイは三重に行なうことがで
き ( す な わ ち 同 じ 培 地 に 独 立 し て 3回 の 接 種 を 行 な う こ と が で き る ) 。 非 接 種 対 照 を ( 分
光光度計用のブランクとして使用することができる)を含めることもできる。成長(光学
密 度 OD に よ っ て 測 定 さ れ る ) は 、 Turner分 光 光 度 計 ( 330型 ) を 使 っ て 660nmで 24時 間 ご
40
と に 測 定 す る こ と が で き る 。 細 胞 溶 解 が 約 48時 間 続 い た 後 に 培 養 は 停 止 す べ き で あ り 、 そ
の後、ボツリヌス毒素生産量を測定することができる。
【0080】
培 地 各 500mlに つ き 以 下 の 成 分 を 含 有 す る Hy-Soy発 酵 培 地 を 使 っ て 、 追 加 実 験 を 行 な う
こ と が で き る : Hy-Soy( 17.5g) 、 グ ル コ ー ス ( 3.75g) 、 NaCl( 2.5g) 、 Na2 HPO4 ( 0.25g
) 、 MgSO4 7H2 O( 0.025g) 、 KH2 PO4 ( 0.0875g) 、 L-シ ス テ イ ン ( 0.0625g) 、 L-チ ロ シ ン
( 0.0625g) 、 鉄 粉 ( 0.25g) 、 pH6.8。
【実施例5】
【0081】
動物性生成物を含まない発酵培地におけるクロストリジウム・ボツリナム成長によるボツ
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リヌス毒素生産量の決定
実 施 例 4の 培 養 細 胞 を 遠 心 分 離 し た 後 、 上 清 の pHを 測 定 す る こ と が で き る 。 与 え ら れ た
試料中のボツリヌス毒素のレベルは、標準抗毒素を添加し、フロキュレーションまでの経
過 時 間 を 測 定 す る こ と に よ っ て 、 測 定 す る こ と が で き る 。 Kf( フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン が 起 こ
る の に 要 す る 時 間 、 単 位 : 分 ) お よ び Lf( フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン 限 界 、 フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン
に よ っ て 確 立 さ れ る 1国 際 単 位 の 標 準 抗 毒 素 に 相 当 ) を ど ち ら も 測 定 す る こ と が で き る 。
与 え ら れ た 培 養 物 に つ い て 発 酵 ブ ロ ス 4mlを 各 発 酵 管 か ら 採 取 し 、 合 計 12mlを 15ml遠 心 管
中 で 混 合 す る こ と が で き る よ う に 、 そ れ ら を 合 わ せ る こ と が で き る 。 遠 心 管 を 4℃ 、 5000r
pm( 3400g) で 30分 間 遠 心 分 離 す る こ と が で き る 。 上 清 を 1mlず つ 、 0.1か ら 0.6mlの 標 準 ボ
ツリヌス毒素抗血清を含有する試験管に加え、内容物を混合するために試験管を注意深く
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振 と う す る こ と が で き る 。 次 に 試 験 管 を 45± 1℃ の 水 槽 に 入 れ 、 開 始 時 刻 を 記 録 す る こ と
が で き る 。 試 験 管 を 頻 繁 に 調 べ て 、 フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン が 始 ま っ た 時 間 を Kfと し て 記 録 す
る こ と が で き る 。 フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン を 1番 目 に 開 始 す る こ と が で き る 試 験 管 内 の 毒 素 濃
度 を LfFFと 指 名 す る こ と が で き る 。 2番 目 に フ ロ キ ュ レ ー シ ョ ン を 開 始 す る こ と が で き る
試 験 管 中 の 毒 素 濃 度 を LfFと 指 定 す る こ と が で き る 。
【0082】
並 行 発 酵 、 成 長 お よ び 毒 素 生 産 量 ア ッ セ イ は 、 ( a) 対 照 種 培 地 ( 対 照 発 酵 培 地 の 接 種
に 使 用 ) お よ び 対 照 発 酵 培 地 な ら び に ( 2) ( 動 物 性 生 成 物 不 含 有 ) 試 験 種 培 地 ( 試 験 発
酵培地の接種に使用)および(動物性生成物不含有)試験発酵培地の両方について行なう
ことができる。重要なことに、動物性生成物を含まない培養物から接種された動物性生成
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物を含まない培地におけるクロストリジウム・ボツリナムの発酵(大豆系生成物で動物性
生 成 物 を 代 替 し た も の ) は 、 約 50以 上 の Lft o x i n を も た ら す こ と が で き る と 決 定 す る こ と
が で き る 。 最 小 と し て 、 Lft o x i n は 約 10で あ る 。 好 ま し く は Lft o x i n は 20以 上 で あ る 。 最 も
好 ま し く は Lft o x i n は 50よ り 大 き い 。
【0083】
ま た 、 様 々 な 大 豆 生 成 物 が BHIを 欠 く 発 酵 培 地 に お け る ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム
の成長を支えることを決定することができる。すなわち、クロストリジウム・ボツリナム
の 成 長 に 、 BHIを 可 溶 性 大 豆 調 製 物 で 代 替 す る こ と が で き る 。 最 適 濃 度 は 12.5ま た は 25g/L
で あ る 。 Hy-Soy( Scheffield) は 最 高 の 成 長 を も た ら す こ と が で き る 。 不 溶 性 大 豆 調 製 物
はそれより有効性が低い場合がある。
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【0084】
さ ら に 、 Quest Hy-Soy、 DMV SE50MK、 お よ び Quest NZ-Soyが 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ
リ ナ ム の 成 長 に 関 し て BHIに 代 替 し う る 点 で 、 有 効 な 大 豆 生 成 物 で あ り う る こ と を 示 す 結
果 を 得 る こ と も で き る 。 こ れ ら の 結 果 は 、 成 長 に 最 適 で あ り う る 大 豆 生 成 物 ( 例 え ば Ques
t Hy-Soy、 DMV SE50MK、 お よ び Quest NZ-Soy) は 、 毒 素 生 産 に 関 し て BHIに 代 替 す る の に
も 有 効 で あ る こ と が で き る こ と を 明 ら か に す る 。 毒 素 生 産 に と っ て 最 適 な 大 豆 生 成 物 は 22
.75g/lの Quest Hy-Soyで あ る 。 こ の 生 成 物 を さ ら に 高 濃 度 で 使 用 し た 場 合 、 成 長 は よ く な
っ て も 毒 素 生 産 量 は 改 善 さ れ な い と い う こ と が あ り う る 。 同 様 の 結 果 は SE50MKで も 得 る こ
とができると考えられ、その濃度を上げると成長は増加しても毒素生産量は増加しないと
い う こ と が あ り う る 。 こ れ に 対 し て NZ-Soyは 、 濃 度 を 上 げ る と 成 長 お よ び 毒 素 生 産 量 が 向
40
上しうる。
【0085】
最 後 に 、 大 豆 生 成 物 が BHIお よ び NZ-CaseTTに 効 果 的 に 代 替 で き る こ と を 決 定 す る こ と が
で き る 。 大 豆 系 培 地 か ら NZ-CaseTTを 除 去 す る と 、 成 長 が 約 2分 の 1か ら 4分 の 1に 抑 制 さ れ
う る 。 NZ-CaseTTの 存 在 下 で も 不 在 下 で も 成 長 に と っ て 最 適 な 大 豆 生 成 物 は SE50MKで あ り
う る 。 毒 素 生 産 に 関 し て 、 HY-Soyは BHIお よ び NZ-caseTTの ど ち ら に も 代 替 す る こ と が で き
る 。 た だ し 1日 ま た は 2日 と い う 長 い 発 酵 周 期 が 必 要 に な り う る 。 HY-Soyは 毒 素 生 産 用 培 地
中 の BHIお よ び NZ-CaseTTを ど ち ら に も 代 替 し う る 。 し か し 酵 母 抽 出 物 は 毒 素 生 産 に と っ て
阻害的でありうることを決定することができる。
【0086】
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毒 素 生 産 に 関 し て 、 HY-Soyは 22.75g/lで BHIお よ び HY-CaseTTの ど ち ら に も 完 全 に 代 替 し
う る こ と を 決 定 す る こ と が で き る 。 成 長 に 対 す る 作 用 ( こ の 場 合 は 56.88g/lの HY-Soyが 最
適 で あ り う る ) と は 異 な り 、 毒 素 生 産 相 に は 34.13g/lの HY-Soyが 最 適 で あ る こ と が で き る
。
【0087】
こ の よ う に 本 発 明 者 は 、 驚 く べ き こ と に 、 Hy-Soyま た は [ Hy-Soy+ Hy-Yest] が ク ロ ス
ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム 種 成 長 用 培 地 中 の BHIお よ び Bacto-peptoneに 代 替 で き る か ど う か
を決定した。また、クロストリジウム・ボツリナムによるボツリヌス毒素生産レベルを最
大にするべく、種培地の成分の最適濃度を決定するための実験を計画することができる。
BHIお よ び NZ-CaseTTを 含 ま な い 種 培 地 お よ び 発 酵 培 地 で 成 長 さ せ た ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ
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ツ リ ナ ム に よ る 毒 素 生 産 量 は 、 BHIお よ び NZ-CaseTTを 含 有 す る 培 地 で 達 成 さ れ る レ ベ ル に
達するか、それを越えることができる。
【0088】
種 培 地 中 の 成 長 の た め の Hy-Soyま た は [ Hy-Soy+ Hy-Yest] の 最 適 濃 度 を 決 定 す る こ と
ができる。クロストリジウム・ボツリナムの成長およびその後の発酵相におけるボツリヌ
ス 毒 素 の 生 産 に 関 し て 、 種 培 地 中 の 窒 素 源 と し て 、 Hy-Soyが BHIお よ び Bacto-peptoneに 代
替 で き る こ と は 、 実 験 で 確 認 す る こ と が で き る 。 ま た 、 種 培 地 中 の 窒 素 源 と し て の Hy-Soy
は 、 Hy-Soy+ Hy-Yestと 比 較 し て 、 後 の 発 酵 工 程 で 高 レ ベ ル の ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 生 産 を も た
ら す こ と が で き る 。 最 適 な 毒 素 レ ベ ル を も た ら す 種 培 地 中 の Hy-Soyの 濃 度 は 、 約 62.5g/L
か ら 100g/Lの 範 囲 で あ る 。
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【0089】
追加実験が、発酵によるクロストリジウム・ボツリナムのボツリヌス毒素生産量を最大
に す る た め の 種 培 地 中 の 最 適 Hy-Soy濃 度 を 決 定 す る た め に 計 画 さ れ る 。 例 え ば 、 種 培 地 中
の Hy-Soy 30g、 50g、 75gお よ び 100gは 、 い ず れ も 、 ク ロ ス ト リ ジ ウ ム ・ ボ ツ リ ナ ム の 発 酵
に よ る ボ ツ リ ヌ ス 毒 素 の 生 産 を も た ら す こ と が で き 、 そ れ は BHIお よ び Bacto-peptoneを 窒
素源として含有する種培地で作られるボツリヌス毒素のレベルと同等またはそれ以上であ
る。
【0090】
種 培 地 中 の 濃 度 100g/Lの Hy-Soyは 、 後 の 発 酵 工 程 に お い て 、 最 も 高 い 毒 素 生 産 レ ベ ル を
も た ら し た こ と が わ か る 。 ま た 、 Hy-Soy種 培 地 の 種 工 程 1は 、 24時 間 後 よ り も 48時 間 後 の
方が大きい成長をもたらしたことを、データは示している。
【0091】
本明細書では様々な刊行物、特許および/または参考文献に言及したが、その内容は参
照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
本発明を特定の好ましい方法に関して詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の実施形
態、変形、および変更形態も可能である。例えば、動物性生成物を含まない多種多様な方
法が本発明の範囲に包含される。
したがって特許請求の範囲の要旨および範囲は、上述した好ましい実施形態の説明に限
定されるべきではない。
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【国際調査報告】
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.
FI
A61P 1/10
A61P 25/08
A61P 27/02
(2006.01)
(2006.01)
A61P
(2006.01)
テーマコード(参考)
1/10
A61P 25/08
A61P 27/02
(81)指定国 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),
EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IT,LU,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,
CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,
DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,M
A,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG
,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW
(72)発明者 スティーブン・ドノバン
アメリカ合衆国92624カリフォルニア州カピストラーノ・ビーチ、カリェ・アネホ27252
番
Fターム(参考) 4B050 CC01 DD02 EE02 LL01
4C084 AA06 BA44 CA04 DA33 NA07 ZA022 ZA232 ZA332 ZA722 ZA942
4H045 AA20 AA30 BA72 CA11 DA83 DA89 EA20 FA73