「桐編」 pdf 1.59M

山奥の巨木たち
山から人里へ
~第2の人生へのステップを追う~
物語の始まり
私たちは、会津桐の将来を考え循環型の資源として見直しを図っています。
地元の、どの場所に、どんな桐があるのかを探し続けていた平成19年6月、
山奥に詳しい人がいると話を聞きつけ、ある地区の角田さんのお宅に
立ち寄った事からこの物語は始まります。
角田さんは 数年前までマタギをしていて、山奥に入って熊を射止める名人でした。
今は体調を崩し、山には入っていません。
しかし、山についてはこの人ほど詳しい人はこのあたりではいません。
角田さん宅で山の話を色々と聞いていたある日、
「自然に育った桐で、約70年ほどたったものが、山の中に2本あるはずだ」
という話を聞きました。
私は、非常に興味を持ち、これは自分の目で確認しなくては・・・・・と、使命感に似た
感覚を覚え、すぐに、山と木のプロフェッショナルである友人の五十嵐さんに
桐の木の話をしました。すると、どんどん話がはずみ、
さっそく次の日に山に入ってみようという事になりました。
樹齢70年の自然桐を求めて
入山当日は、澄み切った青空が広がり、春を感じさせる天候です。
そこは、私も昔に入った事がある山で、熊やカモシカ等の野生動物が生息している
人の手が入っていない自然のままの険しい山です。
熊対策で、2人で鈴を鳴らしながら沢沿いに歩いてゆくと、
途中で道が無くなってしまい、仕方なく藪をこぎ分けて1時間ぐらい入ったところ、
私たちの前に「栃の大木」が現れました。
「こんなに大きい栃を見たのは久しぶりだぁー」と五十嵐さんが木を見て呟きました。
私は、こんな大木の栃の木を見たは初めてです。
その後も、栃の大木が何本も現れ、私はただ驚くだけ・・・・・・・・・・
しかし、探している桐は、まだ見つかりません。
熊だっ!!
歩き続けて3時間が経つ頃、突然前方の草が揺れ、我々から逃げていくように
草がなびいたのです。
! ! ! ・・・・
私は、とっさに熊だと思い、
周りの木を叩いたり、大声を出したりと防衛策を講じると、
遠くから、うなり声が聞こえ、徐々に遠ざかっていきます。
それはやっぱり熊でした。姿は見えなかったものの、2人は力が抜けてしまい、
この日はこれで帰ることにしました。
熊が居ると分かっていても、実際に遭遇すると、やはり怖いものです。
途中で、用意してきた昼食をとり、疲れ切った足で一歩一歩引き返しました。
この日は結局、桐は見つかりませんでした。
下山後、角田さんにもう一度よく場所を確かめてみること、今日は桐がある所まで
辿り着いていなかったようだったので、後日、再挑戦することにしました。
伝説の桐との遭遇
数日後、再び、2人で山に入りました。前回の場所までは、スムーズに足が運びました。
角田さんの説明から察すると、ここから500m圏内に問題の桐はあると確信し、
左右の山に入り探し続けました。
しかし一向に見つからないまま、時間だけが過ぎていきます。
ここを見たら今日も諦めようと決め、右上の山の中を探し歩いている時、
突然、目の前の雑木の中に、ひときわ黒く、桐がそびえているのが目に入りました。
あったぞー! やったー!
私も五十嵐さんも、思わず子供のように大声を出してしまいました。
足早に近づいて見ると、背丈が13尺、胸回りが7尺、すごい桐です。
「角田さんが近くにあると言っていたなー もう一本探そう 」
あったぁぁぁぁぁぁー!!!
でも・・・・・ 「倒れている。残念だなー 朽ち果てている」
角田さんが言った事は、本当だったのです。 伝説の桐は、確かに存在していました。
桐は見つかったものの...
気持ちを取り直し、立っている桐に近づき、周りを良く見ると、
根元は熊に傷つけられているようです。一部、立ち枯れが進んで、枝も折れています。
「この木も隣の桐と同じく朽ち果ててしまうのかなー、もったいないなー」
休憩しながら、2人でいろいろ話をしました。
「今年いっぱい立っているかなー だしたいなー」
「出すには、大変なお金が掛かるよなー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自然に朽ちていく大木たちを、なんとかできないか
桐を後にして帰る途中、一本の朽ち果てた栃に出くわしました。
直径2.5m以上、長さは約40m、
すでに、一部自然に帰っています。
「自然の法則ではあるが、もったいないなー」
「世に出ることの無いまま
この場で朽ち果てる。なんか虚しいなー」
しばらく行くと、一部穴が開いたり、
折れたりした栃がまた現れました。
木々がこのように朽ち果て、
自然に還っていく・・・・・・・・・・
直径2.5m以上の栃
朽ち果てた栃を見て、ため息をつく五十嵐さん
さて、これらの栃をどうしようかなー。
それは確かに自然の摂理です。
しかし、大木が朽ちて倒れる時には、
周囲の大木も巻き込んで共倒れになる
可能性が大きいのです。
山に生きる私たちにとって、
これらの木々が、このまま朽ちて腐ってしまうのは、あまりにも、もったいない。
何百年もの風雪を刻んできた木を、材木として世に出したい。
そういう思いが強く湧き上がってきました。
老木を伐採することで、山の更新が順調に行われ、山の保全に繋がるのです。
「よし、この桐と栃を一緒に出そう!」
2人の思いが一致しました。
友人の五十嵐さんは、この後、きこりとしてプロジェクトの主役を演じることになります。
第1章
栃
第2章
編
桐
編
第2章
樹齢70年
「桐」
山歩きをして2日目。
入山して、約2時間後の状況です。 前に茂っているのは「こごみ」です。
見渡す限り雑木で埋め尽くされており、諦めて下山しようとした、
その時・・・・・・・・・・・・・・
あったぞー!!
見つけました。
どこにあるか分かりますか。中央の黒っぽく太い木です。
私も良く見つけたと思います。
早く、近くで見たい。 はやる気持ちで急ぎ登っている状況です。
幻の桐は見つかりました。
話は本当でした。
これが幹の太さです。 7尺あります。
現在、この地方で、こんな太い桐とは滅多に出会えません。
五十嵐さんは2日に渡っての
捜索のため、疲れ切っています。
それにしても、
木肌が良い桐です。
この桐を山から出したいなー
話では、もう一本あるはずだ。
さぁ、もう一本見つけよう。
2人で回りを見渡します。
あったぁぁぁぁー
でも・・・・・・・・・・・・残念!
朽ち果てている・・・
ここまでは19年6月の事です。
19年10月秋、 満を持して桐の伐採を始めました。
五十嵐さんの切れるチェーンソーが入りました。
頑張ってください。
倒れ掛けている状態です。
方向もいいですねー
逃げろー
倒れるぞー
山に倒れた音が響きます。
熊もたまげたでしょう。
満足そうな顔です。
桐は少し穴が開いていますが、良い桐です。 樹齢70年。
これから、バックホーで3日がかりで造った道を利用し、機械での搬出に移ります。
出したばかりの桐です。
地区の人々が、栃と桐をみて驚いていました。
この桐は何になるのでしょうか?
工場に着いた桐です。
すばらしい桐です。
欲を言えば、穴がなければ・・・・
でもここまで出せたので満足です。
工場の人々も栃、桐を見て驚いています。
早速、桐屋が私のところに来ました。
良い物は、直ぐ売れてしまいます。
琴になるようです。
山奥に静かにたたずみ、朽ち果てるのを待っていた桐が、
琴として、新たな命を与えられます。
素晴らしい音色を響かせる、良い琴になるでしょう。
地区の皆様本当にありがとうございました。
きこり
五十嵐 林業
五十嵐 馨
諏訪 幸彦
北村 作男
撮 影
佐久間建設工業 株式会社
五十嵐 善徳
連絡先 0241-52-3111
今回の一連プロジェクトは、
様々な人々の協力のおかげで、山でひっそりと朽ち果てようとしていた
桐と栃を皆様の前に出すことが出来ました。
又、老木となった樹木を伐採することにより、日陰になっていた若い木々が
新たに成長し多くの二酸化炭素を吸って育ち、
山林が循環と勢いを取り戻していくことでしょう。
それが広がっていけば、地球温暖化防止に繋がっていくだろうと考えます。
今回、協力して頂いた皆様方に、感謝と御礼を申し上げます。
幻の桐を探す事から始まったこの物語は、
素晴しい桐と同時に、これら栃の老木たちとの出会いももたらしてくれたのでした。
幻の桐を探す旅の物語は、まずはここで幕を閉じます。
きっと、これからも様々な木の物語が語られていくことでしょう。
佐久間建設工業 株式会社
五十嵐 善徳