EDUCATIONAL COURSES of JUA 2016 Autumn 日本泌尿器科学会 2016年 東部・中部・西日本総会 卒後教育プログラム 青森県:三重県:山口県 2016年日本泌尿器科学会東部総会、中部総会、西日本総会における卒後教育プログラムの講師紹介・概要(シ ラバス)をまとめました。多くの会員の皆様のご参加をお待ち致しております。 本プログラムの実施にあたりましては、東部総会・大山力会長、中部総会・杉村芳樹会長、西日本総会・松山 豪泰会長および各地区総会の開催を担当して頂いた教室の先生方にご支援・ご協力を頂きました。この場をお借 りして厚くお礼申し上げます。 会員皆様の本プログラムの積極的な活用をお願い申し上げます。 松原 昭郎(教育委員会委員長) 開 催 概 要 第81回日本泌尿器科学会 東部総会 リンクステーションホール青森 10月8日(土) 1 . 8:30− 9:30 泌尿器科領域における感染制御 尿路性器感染症 2 . 9:50−10:50 腎移植手術と免疫抑制法 腎不全・腎移植 3 .11:10−12:10 過活動膀胱の診断と治療(難治性を中心に) 排尿機能・神経泌尿器科 4 .13:40−14:40 性分化疾患 小児泌尿器科 5 .15:00−16:00 腎盂・尿管癌診断と治療 泌尿器科腫瘍 6 .16:20−17:20 臨床研究における倫理 医療倫理* 10月9日(日) 7 . 8:30− 9:30 尿路結石の内科的治療(鎮痛、排石促進、溶解療法) 尿路結石 8 . 9:50−10:50 間質性膀胱炎 / 膀胱痛症候群 女性泌尿器科 9 .11:10−12:10 BPH/LUTS の病態と薬物治療の作用機序 老年泌尿器科・前立腺肥大症 10.13:40−14:40 限局性前立腺癌の診断と治療 泌尿器科腫瘍 11.15:00−16:00 泌尿器科血管病変・血尿の救急 外傷・救急医療 12.16:20−17:20 泌尿器腹腔鏡手術の基本手技と合併症予防 エンドウロロジー・腹腔鏡 *は日本専門医機構専門医共通講習 第66回日本泌尿器科学会 中部総会 四日市都ホテル・四日市市文化会館 10月27日(木) 1 .10:00−11:00 尿路結石の診断 尿路結石 2 .12:40−13:40 泌尿器科マイナーイマージェンシー2 外傷・救急医療 3 .10:00−11:00 病院の感染管理 感染対策* 4 .12:40−13:40 下部尿路通過障害 小児泌尿器科 5 .13:55−14:55 ロボット支援手術の基本と合併症予防 エンドウロロジー・腹腔鏡 6 .15:10−16:10 限局性腎癌の診断と治療 泌尿器科腫瘍 10月28日(金) 女性泌尿器科 7 . 9:00−10:00 女性泌尿器科における行動療法(生活指導、骨盤底筋訓練、膀胱訓練など)の実際 8 .10:15−11:15 副腎腫瘍の診断と治療 内分泌・生殖機能・性機能 10月29日(土) 9 .15:45−16:45 泌尿器科医が知っておくべき感染症ガイドライン 尿路性器感染症 10.17:00−18:00 神経因性膀胱の診断と治療 排尿機能・神経泌尿器科 11.15:45-16:45 加齢と LUTS 老年泌尿器科・前立腺肥大症 12.17:00−18:00 放射線治療の基礎知識 泌尿器科腫瘍 *は日本専門医機構専門医共通講習 第68回西日本泌尿器科学会 総会 海峡メッセ下関 11月24日(木) 泌尿器科腫瘍 1 .13:00−14:00 筋層浸潤および転移性膀胱がんの診断と治療(尿路変向・化学療法を含む) 2 .14:15−15:15 副腎・後腹膜腫瘍の診断と治療 泌尿器科腫瘍 11月25日(金) 3 . 8:40− 9:40 尿管瘤・尿管異所開口 小児泌尿器科 4 . 9:55−10:55 CKD の内科・外科管理と腎移植手術 腎不全・腎移植 5 .11:10−12:10 前立腺肥大症の診断と治療 老年泌尿器科・前立腺肥大症 6 .15:00−16:00 性機能障害の診断と治療 内分泌・生殖機能・性機能 7 .16:15−17:15 尿路結石の外科的治療(ESWL、TUL、PNL) 尿路結石 11月26日(土) 医療安全* 8 . 8:20− 9:20 標準化された医療事故調査方法から学ぶ“医療者が普段から意識すべきこと” 9 . 9:35−10:35 泌尿器科領域における周術期感染予防 尿路性器感染症 10.10:50−11:50 前立腺疾患術後尿失禁の診断と治療 排尿機能・神経泌尿器科 11.13:55−14:55 泌尿器科外傷2 外傷・救急医療 エンドウロロジー・腹腔鏡 12.15:10−16:10 前立腺肥大症に対するエンドウロロジー(手技と合併症予防) *は日本専門医機構専門医共通講習 ■ ビデオ講習の実施について ■ 各地区総会とも、最終日に卒後教育プログラムのビデオ講習会を実施いたします。実施時間、受講方法等の詳 細につきましては、次の通りとなります。 第81回日本泌尿器科学会 東部総会 リンクステーションホール青森 10月10日(月・祝) 第 1 会場(大ホール)定員1,000名 13. 8:30- 9:30 限局性前立腺癌の診断と治療 泌尿器科腫瘍 14. 9:50-10:50 腎盂・尿管癌診断と治療 泌尿器科腫瘍 15.11:10-12:10 臨床研究における倫理 医療倫理* 16.13:40-14:40 間質性膀胱炎 / 膀胱痛症候群 女性泌尿器科 17.15:00-16:00 泌尿器科血管病変・血尿の救急 外傷・救急医療 18.16:20-17:20 泌尿器腹腔鏡手術の基本手技と合併症予防 エンドウロロジー・腹腔鏡 *は日本専門医機構専門医共通講習 第 2 会場(中会議室)定員350名 19. 8:30- 9:30 性分化疾患 小児泌尿器科 20. 9:50-10:50 尿路結石の内科的治療(鎮痛、排石促進、溶解療法) 尿路結石 21.11:10-12:10 腎移植手術と免疫抑制法 22.13:40-14:40 泌尿器科領域における感染制御 23.15:00-16:00 BPH/LUTS の病態と薬物治療の作用機序 24.16:20-17:20 過活動膀胱の診断と治療(難治性を中心に) 第66回日本泌尿器科学会 中部総会 腎不全・腎移植 尿路性器感染症 老年泌尿器科・前立腺肥大症 排尿機能・神経泌尿器科 四日市市文化会館 10月30日(日) 第 1 会場(第 1 展示室 AB)定員220名 13. 9:00-10:00 尿路結石の診断 尿路結石 14.10:15-11:15 泌尿器科マイナーイマージェンシー2 外傷・救急医療 15.11:30-12:30 ロボット支援手術の基本と合併症予防 エンドウロロジー・腹腔鏡 女性泌尿器科 16.13:35-14:35 女性泌尿器科における行動療法(生活指導、骨盤底筋訓練、膀胱訓練など)の実際 17.14:50-15:50 泌尿器科医が知っておくべき感染症ガイドライン 尿路性器感染症 18.16:05-17:05 神経因性膀胱の診断と治療 排尿機能・神経泌尿器科 第 2 会場(第 1 展示室 CD)定員250名 19. 9:00-10:00 病院の感染管理 20.10:15-11:15 下部尿路通過障害 21.11:30-12:30 限局性腎癌の診断と治療 22.13:35-14:35 副腎腫瘍の診断と治療 23.14:50-15:50 加齢と LUTS 24.16:05-17:05 放射線治療の基礎知識 第68回西日本泌尿器科学会総会 感染対策* 小児泌尿器科 泌尿器科腫瘍 内分泌・生殖機能・性機能 老年泌尿器科・前立腺肥大症 泌尿器科腫瘍 *は日本専門医機構専門医共通講習 海峡メッセ下関 11月27日(日) 第 2 会場(国際会議場)定員270名 13. 8:00- 9:00 筋層浸潤および転移性膀胱がんの診断と治療 泌尿器科腫瘍 14. 9:15-10:15 尿管瘤・尿管異所開口 小児泌尿器科 15.10:30-11:30 前立腺肥大症の診断と治療 老年泌尿器科・前立腺肥大症 16.11:45-12:45 尿路結石の外科的治療(ESWL、TUL、PNL) 尿路結石 17.14:00-15:00 泌尿器科領域における周術期感染予防 尿路性器感染症 18.15:15-16:15 泌尿器科外傷2 外傷・救急医療 第 3 会場(海峡ホール)定員250名 19. 8:00- 9:00 副腎・後腹膜腫瘍の診断と治療 泌尿器科腫瘍 20. 9:15-10:15 CKD の内科・外科管理と腎移植手術 腎不全・腎移植 21.10:30-11:30 性機能障害の診断と治療 内分泌・生殖機能・性機能 医療安全* 22.11:45-12:45 標準化された医療事故調査方法から学ぶ“医療者が普段から意識すべきこと” 23.14:00-15:00 前立腺疾患術後尿失禁の診断と治療 排尿機能・神経泌尿器科 エンドウロロジー・腹腔鏡 24.15:15-16:15 前立腺肥大症に対するエンドウロロジー(手技と合併症予防) *は日本専門医機構専門医共通講習 ■ ビデオ講習に関する注意事項 ■ ●ビデオ講習を受講される場合は、総会参加受付をされていることが必要です。 ●前日までに当該地区総会中に実施された卒後教育プログラム(ライブ講習)と同じ講座は受講できません。 ■ 取得できる単位について(日本専門医機構の研修単位) ■ ●共通講習と診療領域別講習を合算して、1日で取得可能な単位数は4単位以内、会期中に取得可能な単位数は 8単位以内が上限となります。 例:①ビデオ講習の前日までに4コース受講し4単位を取得した場合 →ビデオ講習では4コース(4単位)が取得可能単位の上限となります ②ビデオ講習の前日までに8コース受講し8単位を取得した場合 →ビデオ講習での受講は単位になりません。 ③ビデオ講習の前日までに全く受講しなかった場合 →ビデオ講習では4コース(4単位)が取得可能単位の上限となります ※チケット発券におけるコース数の制限は設けておりませんので、各自ご確認ください。 ※日本泌尿器科学会の専門医教育研修単位については、上限は定められていません。 【共通注意事項】 ・受 付:各コースとも受講チケットを発券の上、会場にお越しください。 講義開始20分までに入場してください。 ・受 講 単 位:講義終了後、会場出口でチケットを回収します。終了前に退出された場合、受講単位 は付与されません。 日本泌尿器科学会専門医として 1コース3単位 日本専門医機構専門医として 1コース1単位 が付与されます。 (*印のものは専門医共通講習、それ以外は診療領域別講習) ・講習の資料:テキストは作成していません。卒後教育プログラム年間受講料をお支払いになった方 は、講習の資料(ハンドアウト)を学会 Web サイトよりダウンロードいただけます。 講義の際に必要な方は事前にご自身でご用意ください。 第81回 日本泌尿器科学会 東部総会 リンクステーションホール青森 10月8日(土)8:30~9:30 尿路性器感染症 1.泌尿器科領域における感染制御 泌尿器科医は、細菌を含んでいる可能性のある尿に触れる機会が多く、尿路感染症の原因菌としての大腸菌分 離の報告書を見る機会も多い。比較的多くの ICD(infection control doctor)もいることから感染制御に対する 関心はあると推測している。したがって、卒後教育プログラムでは、感染制御の基本を知っていただくとともに、 院内で(多少の)理論を伴って解説ができるように理解していただくことが私の講義の目的である。 感染制御については、標準予防策、接触予防策、手術場での対応、抗菌薬の適正使用、HBV 再活性化、内視鏡 の無菌操作と消毒・滅菌、針刺し・血液体液暴露、知識習得の機会、などについて、可能な限り無駄を省いて基 本となる事項のみを解説したい。標準予防策と接触予防策については、日常臨床の場面を想定して解説する。手 術場での対応は、手術場の入り口、手洗い法、手袋の交換、など、より SSI 予防に役立つような内容をお話しす る。抗菌薬の適正使用は、短時間では難しいのだが、投与中止の決断を判断する検査についても言及する。HBV 再活性化は、最近のトピックスであるが、システム作成も含めて、その重要性をお伝えする。外来などで膀胱や 尿道を観察する内視鏡は、自動洗浄機が普及しており標準的な方法での高水準消毒が確立しているが、守られる べきポイントについて解説する。その他、参加していただいた皆さんが自施設でフィードバックできる内容作り に努力したい。 高橋 聡 平成4年 札幌医科大学医学部卒業 同 14年 ワシントン大学(シアトル)研究員 同 18年 札幌医科大学医学部泌尿器科学講座講師 同 26年 同 准教授 同 27年 札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座教授 10月8日(土)9:50~10:50 腎不全・腎移植 2.腎移植手術と免疫抑制法 腎移植は末期腎不全患者に対する腎代替療法の第一選択として周知されている。近年免疫抑制療法の進歩と周 術期管理の確立により、腎移植後の患者生存率と移植腎生着率は飛躍的に向上した。一方、超高齢化社会と全世 界的なドナー不足を背景にレシピエントの高齢化、糖尿病を原疾患とする腎不全患者の増加に加え、長期透析患 者への腎移植など移植手術に対しよりリスクの高い症例が移植対象となりうる。 腎移植手術の特徴は、血管吻合(動脈、静脈)と尿路再建が必要で、血管外科の基本手技を習得する必要があ る。また周術期管理については、腎不全患者に対し適切な免疫抑制療法を施行しながら、様々な周術期合併症に 対処していく必要がある。 今回の卒後教育プログラムでは、腎移植手術に必要な血管外科の基本手技を概説するとともに、必要な器具と その特徴に関して説明を行う。免疫抑制療法に関しては、基盤となる移植免疫の基本事項について概説するとと もに、実際に用いる免疫抑制各々の特徴と配慮すべき周術期管理のポイントについて説明する。 日下 守 平成3年 大阪医科大学卒業 同 7年 米国ハーバード大学外科学研究員 同 10年 大阪医科大学泌尿器科助手 同 14年 藤田保健衛生大学腎泌尿器外科講師 同 21年 同 准教授 同 25年 同 臨床教授 10月8日(土)11:10~12:10 排尿機能・神経泌尿器科 3.過活動膀胱の診断と治療(難治性を中心に) 過活動膀胱(overactive bladder syndrome: OAB)は尿意切迫感を必須とした症状症候群である。OAB に対 する治療法として、これまでに様々な行動療法・生活指導、薬物療法が行われてきた。中でも薬物療法は OAB 治療の根幹をなし、過去10年の新規治療薬の開発・発売によってアンメットメディカルニーズは大きく改善され た。しかしながら、OAB の薬物治療継続率は他の慢性疾患と比較して低いことが示されており、更なる breakthrough が必要とされている。 2015年4月に出版された過活動膀胱診療ガイドライン第2版では、 「一次治療である行動療法および各種抗コ リン薬やβ3作動薬を含む薬物治療を単独ないしは併用療法として、少なくとも12週間の継続治療を行っても抵 抗性である場合」を難治性 OAB と定義した。欧米ではこのような難治性症例に対して神経変調療法(経皮的脛 骨神経刺激療法、仙骨神経刺激療法)やボツリヌス毒素の使用が行われ、良好な治療効果が示されている。一方、 日本国内ではこれらの治療法に保険が適用されておらず、治療に難渋するケースも少なくなかった。磁気刺激療 法は国内で唯一保険適応がある治療法であるが、広く普及はしていない。2016年の日本国内での動向として、ボ ツリヌス毒素の国内臨床試験(治験)が開始される予定である。また、仙骨神経刺激療法も蓄尿障害に対し適用 拡大となる可能性がある。 本プログラムでは OAB の病態生理について概説の上、神経変調療法やボツリヌス毒素も含めた治療ストラテ ジーについて解説を行いたい。本プログラムが諸先生方の知識の整理の一助とならば幸いである。 松田 陽介 平成9年 福井医科大学医学部医学科卒業 同 23年 ピッツバーグ大学泌尿器科研究員 同 25年 福井大学医学部器官制御医学泌尿器科学助教 同 27年 同 泌尿器科学講師 同 28年 福井大学学術研究院医学系部門医学領域附属病院部泌尿器科講師 10月8日(土)13:40~14:40 小児泌尿器科 4.性分化疾患 性の分化の過程として、遺伝的性(genetic sex)によって性腺の性(gonadal sex)が決定され、引き続いて外 陰部の性(phenotipic sex)や脳の性(gender identity)が形成される。社会的な性(social sex)は通常出生時 の外陰部の所見によって判定され、戸籍登録される(legal sex) 。この過程のいずれかのステップで異常が生じる と DSD(Disorders of Sex Development:日本泌尿器科学会用語集第4版では“性分化異常症” )となる。新生 児期、乳児期の外陰部異常、あるいは思春期の二次性徴の異常を契機に診断されることが多い。 外科的治療として男性外陰部形成術と女性外陰部形成術が行われる。前者は尿道形成術・陰嚢形成術が中心で あるが、腹腔内の性腺(多くは精巣)に対する精巣固定術もこれに含まれる。後者は陰核形成術と膣形成術が中 心となる。 近年、内視鏡の技術や設備が向上・発展し、腹腔鏡による性腺や内性器の診断、さらに腹腔鏡手術が普及して きた。私たち泌尿器科医が手術治療だけでなく診断にも貢献するようになってきたわけである。 今回の卒後教育プログラムでは21世紀になって提唱された新命名法も含め、広い範疇での“性分化疾患”とし て泌尿器科医が把握しておくべき知見を概説する。 林 祐太郎 昭和60年 名古屋市立大学医学部卒業 平成10年 米国 UCLA メディカルセンター小児泌尿器科留学 同 13年 名古屋市立大学医学部助教授 同 22年 名古屋市立大学附属病院泌尿器科病院教授 10月8日(土)15:00~16:00 泌尿器科腫瘍 5.腎盂・尿管癌診断と治療 腎盂尿管癌では、局所深達度、リンパ節転移、遠隔転移の有無といった臨床病期の正確な診断が治療方針決定 において重要である。診断手法としては、上部尿路の画像的評価においてかつての排泄性尿路造影に代わって、 診断精度が高く局所と同時に転移巣を評価可能な CT urography が重要な位置を占めるようになっている。治療 については以前から転移のない症例に対する標準術式である腎尿管全摘除術が腹腔鏡手術として広く行われるよ うになっている。診断・治療の手法が進歩する一方で、画像検査、尿細胞診、尿管鏡検査を組み合わせても診断 に苦慮するケースは多く、治療においても、リンパ節郭清術の範囲や適応と意義、BCG 上部尿路注入療法や尿管 鏡下腎温存手術の位置づけについてなど、議論のつきないテーマがいまだ多いのが現状である。また、転移性も しくは再発性の腎盂尿管癌に対する多剤併用化学療法としては MVAC 療法と GC 療法が広く行われてきたがそ の効果には限界があり、有効性が証明されている2次・3次化学療法のレジメンは現時点では存在しない。腎盂 尿管癌の大半は病理組織学的には膀胱癌と同じ尿路上皮癌であるものの、その罹患数は尿路上皮癌全体の10% 以 下と膀胱癌に比較して少ない。そのため得られるエビデンスに限界があり、診断・治療における重要な決定が各 主治医の経験のみに基づいて行われる場面が少なくなかったように思われる。しかし我が国においては2014年に 腎盂尿管癌診療ガイドラインが作成され、従来に比較して標準化された適切な診断・治療の提供がなされるよう になり、これに基づくデータの蓄積と解析も可能となりつつあると考えられる。 本プログラムでは、ガイドラインに則った腎盂尿管癌の標準的な診断と治療について解説するとともに、現時 点では十分なエビデンスが得られないために議論の分かれるポイントや、診断・治療に苦慮する症例についても 考察していきたい。 亭島 淳 平成6年 広島大学医学部卒業 同 16年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科腎泌尿器科学助手 同 19年 テキサスA & M大学客員研究員 同 22年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科腎泌尿器科学講師 同 27年 同 准教授 10月8日(土)16:20~17:20 医療倫理 6.臨床研究における倫理 高血圧症治療薬の臨床研究事案や理化学研究所における小保方問題に端を発して、我が国の臨床研究に関する 社会の目は非常に厳しいものとなっている。今後数年、我が国の臨床研究を取り巻く制度・環境が劇的に変化し てくことは避けられない。近年の大きな動きとして、厚生労働省・文部科学省が合同で新たな臨床研究倫理指針 である「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を制定したこと、文部科学省が「研究活動における不正 行為への対応等に関するガイドライン」を策定したことが挙げられる。また、特に注視すべき動きとして、未承 認・適応外の医薬品等の臨床研究ならびに製薬企業等から資金提供を受けた医薬品等の臨床研究(特定臨床研究) について法の下で規制をかける「臨床研究法案」が国会に提出されたことが挙げられる。 臨床研究の科学性・倫理性の担保において、倫理指針の正しい理解は必要不可欠であり、 「知らなかった」 「こ のくらいいいだろう」では許されない時代となってきている。上述のように研究倫理に係る制度は劇的な変化の 最中にあり、研究倫理に係る制度の変化を「知らなかった」ために発生した臨床研究事案が全国規模で報道され るに至った大学も幾つか存在する。しかしながら、臨床研究の性格は同意必須かつ研究資料の長期保存が義務づ けられる前方視的侵襲性介入研究から同意取得不要の後方視的観察研究多岐までに渡っており、あらゆるケース を想定して対応する指針・ガイドライン上の要求事項をすべからく記憶しておくことが極めて困難であることも また事実である。 本講演では、研究倫理に係る制度の変化を「知らなかった」ために発生した臨床研究事案を題材として、研究 の倫理性・科学性を担保する上で押さえておくべき重要ポイントや見落としやすいポイントを解説する。 板垣 史郎 平成11年 北海道大学薬学部総合薬学科卒業 同 15年 同 大学院薬学研究科助手 同 16年 博士(薬学)北海道大学 同 17年 海外長期出張 米国ジョージア医科大学博士研究員 同 22年 弘前大学医学部附属病院准教授 (兼任)弘前大学医学部附属病院治験管理センター(2013年7月より臨床試験管理センター) 副センター長 (併任)弘前大学医学部附属病院副薬剤部長 10月9日(日)8:30~9:30 尿路結石 7.尿路結石の内科的治療(鎮痛、排石促進、溶解療法) 授業内容 尿路結石症の薬剤治療を中心とした内科的治療の考え方、基礎理論を学び、日常診療に生かすための 教育講演である。 授業目標 尿路結石症内科的治療の基本的な原理や法則に興味を持ち、それらを理解し身につけることを通じ て、その価値を評価できるようになる。さらに、取得した知識を日常診療に正しく応用することで、 ガイドラインに沿った標準的治療の実践ができるようになる。 到達目標 講演を通じて、以下の資質・能力を身につける。 1.尿路結石症による疝痛発作のメカニズムを説明することができる。 2.尿管収縮および弛緩の生理作用を説明することができる。 3.尿管結石組成の特徴を理解し、形成過程に関心を持つ。 4.1から3までの基礎的概念を理解し、日常診療において治療に結びつけることができる。 講演計画 1.尿路結石症の診断 2.尿路結石症による疼痛メカニズムの基礎:プロスタグランディンの役割 4.尿管の神経支配:交感―副交感神経系、non adrenergic non cholinergic(NANC) 5.尿管収縮と弛緩:α1阻害薬、カルシウムチャンネル阻害薬 6.尿路結石組成と溶解:溶解療法、尿酸結石、シスチン結石 7.SWL および URS 治療後の内科的治療の意義:MET(medical expulsive therapy) 参考資料 尿路結石症診療ガイドライン初版および第2版、EAU Guideline Urolithiasis 2016 諸角 誠人 昭和57年 筑波大学医学専門学群卒業 順天堂大学医学部泌尿器科助手 平成13年 琉球大学医学部泌尿器科講師 同 15年 文部科学省在外研究員 University of Florida, visiting assistant professor 同 18年 埼玉医科大学総合医療センター泌尿器科准教授 10月9日(日)9:50~10:50 女性泌尿器科 8.間質性膀胱炎/膀胱痛症候群 間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis)は原因不明の膀胱痛を有する症候群で別名 膀胱痛症候群(Bladder Pain Syndrome)と言う。欧米でのコンセンサスは膀胱痛症候群で膀胱鏡にて膀胱上皮の病変を伴うものを間質性膀 胱炎と呼び、本邦でも難病指定となったハンナー病変がその典型所見である。 病態は膀胱上皮のバリアの破綻により尿の透過性が亢進し(尿が浸み込み)膀胱間質に慢性的に炎症が持続し 膀胱痛が生じる疾患で、尿路上皮の特徴的慢性炎症は、新生血管の増生集簇といった特徴的な発赤病変(ハン ナー病変)で確認される。欧米だけでなくアジアでも診療ガイドラインは専門家により提供され、広範にわたる 科学的な取り組みが続けられているにもかかわらず、間質性膀胱炎の明確な病因は未だに特定されておらず、プ ラセボ対照試験でも有効な薬剤は見つかっていない。 本卒後教育プログラムでは、まず診断力向上を目的に疾患概念、内視鏡所見を供覧する。欧米では common disease と言われている本疾患を理解していただき、明日からの臨床および基礎研究に役立てていただきたい。 上田 朋宏 昭和62年 産業医科大学医学部卒業 京都大学医学部泌尿器科 平成6年 公立甲賀病院泌尿器科医長 同 15年 間質性膀胱炎国際専門家会議(ICICJ)議長 同 17年 京都市立病院泌尿器科部長 同 24年 泌尿器科上田クリニック 院長 10月9日(日)11:10~12:10 老年泌尿器科・前立腺肥大症 9.BPH/LUTS の病態と薬物治療の作用機序 下部尿路症状に関連する診療ガイドラインには男女の下部尿路症状ガイドライン、前立腺肥大症、尿失禁、過 活動膀胱、慢性期脊髄損傷における排尿障害、二分脊椎症に伴う下部尿路機能障害、間質性膀胱炎、夜間頻尿な どが存在する。昨今の腎癌に対する分子標的薬や前立腺癌の3つの新規治療薬など多くの情報を整理して対応し ていかなくてはいけない泌尿器科医がこれらのガイドラインをすべて手元にそろえて日常臨床を行うことは困難 である。男性の下部尿路症状は前立腺肥大症という単一な疾患ですべてクリアカットに診断、治療が行えるであ ろうか?過活動膀胱を呈していたり、低活動膀胱を呈していたり、神経因性膀胱の要素が含まれていたりと複雑 であろう。本教育セミナーでは前立腺肥大症を含む男性の下部尿路症状、前立腺肥大症の病態、薬物治療の作用 機序についてこれまで知られている情報を整理し最新の情報を提供する。 また、クリニカルクエスチョンとして①前立腺肥大症の診断・治療において排尿記録は推奨されるか?②前立 腺肥大症を疑う患者には血清 PSA 値を測定すべきか?③合併症を有する高齢者に対して手術療法は推奨される か?④外科治療によっても症状が改善しない症例にはどのような対処が推奨され、手術前の検査で予想しうる か?などに焦点をあて、文献的報告、実際例を提示したい。 藤村 哲也 平成7年 山梨医科大学医学部医学科卒業医師免許取得(第392393号) 後、東京大学医学部附属病院研修医 同 8年 都立府中病院、武蔵野赤十字病院、同愛記念病院など勤務 同 20年 東京大学医学部附属病院泌尿器科講師 同 28年 東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学准教授 10月9日(日)13:40~14:40 泌尿器科腫瘍 10.限局性前立腺癌の診断と治療 国立がん研究センターによる2015年癌罹患数予測では、胃癌、肺癌を抜いて前立腺癌が男性のトップになった。 一方、本邦では新たに発見される前立腺癌に占める転移癌および局所進行癌の割合は依然高く、高リスク癌も 30% 程度認められるのが現状である。 低・中リスクにおける根治治療の成績は、手術、外部照射、小線源治療いずれを選択しても良好であり QOL を 重視した治療選択が重要となる。低リスクでは active surveillance が定着してきており、根治治療の適切な介入 時期の見極めがわれわれ泌尿器科医に求められる。また、以前は初期治療としてホルモン治療がよく行われてい たが、長期ホルモン治療による合併症回避は重要であり、さらに RALP の登場、IMRT、ブラキセラピーの普及 により根治治療(手術、放射線治療)を選択するケースが増えてきている。しかし、高リスク、超高リスクの治 療成績は、手術単独、放射線治療単独では依然、生化学的再発率が高く、multi-modality による集学的治療が必 要となる。 放射線治療では、以前よりホルモン治療併用の有用性が確認されており、最近の報告では高リスクにおける化 学療法併用の有用性が Phase 3 study で示された。また、転移性癌についても原発巣への根治治療が予後に寄与 する報告があり原発巣への根治治療の果たす役割は大きくなることが考えられる。 治療選択肢が多岐にわたり、長期の全生存率・癌特異的生存率が高い限局性前立腺癌では、QOL の維持と制癌 率のバランスから治療選択を決定することが重要であり、超高リスク局所進行癌では集学的治療による生存率向 上が求められる。本プログラムでは、前立腺癌診断に関する現状と問題点、限局性前立腺癌に対する治療選択の みならず、特に高リスク癌、局所進行癌に対する集学的治療について手術、放射線治療を中心に報告する。 田中 宣道 平成元年 奈良県立医科大学卒業 同 15年 奈良県立医科大学泌尿器科助手 同 16年〜17年 Central Operative Urology of Bremen 留学 同 18年 奈良県立医科大学泌尿器科学講師 同 26年 同 准教授 10月9日(日)15:00~16:00 外傷・救急医療 11.泌尿器科血管病変・血尿の救急 泌尿器科医が遭遇する泌尿器科救急疾患のうち、血管病変が原因となる疾患は、尿路結石症、尿路感染症など と比較すると多くはない。しかしながら尿路結石症発作との鑑別が必要となる腎梗塞を中心とした血管病変によ る疾患の存在を念頭に置くことは極めて重要である。本講座は腎腫瘍性病変の出血による後腹膜血腫、腎動脈瘤 (仮性動脈瘤含む)、腎動静脈瘻(腎瘻、腎生検後に発生する場合も含め) 、出血性膀胱炎、腎動脈塞栓症、抗凝固 薬と血尿についての項目を担当する。後腹膜血腫は腎外傷での対応と同様にタンポナーデ効果で止血されること も多いが、止血効果が期待できない場合には治療介入が必要となる。腎血管筋脂肪腫など腫瘍出血による後腹膜 血腫について自験例を交えて供覧する。腎動静脈瘻や腎動脈瘤は、それほど多く遭遇する疾患ではないが尿路に 出血すると肉眼的血尿を来し、膀胱タンポナーデをきたしうる。尿路外(後腹膜)に出血することにより一部の 症例では、疼痛のほか貧血が進行し、血圧低下など全身状態が悪化し得る危険性がある。治療は主に放射線科医 による Interventional radiology(IVR)が中心となるが、一般泌尿器科医の対応について述べる。血尿を主訴と する患者への対応は泌尿器科医にとって重要な役割となるが、そのうちのひとつに出血性膀胱炎が挙げられる。 出血性膀胱炎の原因、治療についても述べる。また社会の高齢化にともない抗凝固療法、抗血小板療法を受けて いる患者が増加している。血尿を訴える患者が抗凝固薬を服用している状況は稀ではなく、泌尿器科医もその対 応に迫られる場面も多い。本プログラムでは、一般泌尿器科医ならば遭遇すると思われる血管病変を中心とした 泌尿器救急疾患について、自験例を交えて各疾患別に症状、診断、治療について述べたいと思う。 八木橋 祐亮 平成11年 帝京大学医学部医学科卒業 同 11年 沖縄県立中部病院外科レジデント 同 13年 京都大学医学部泌尿器科医員 同 21年 田附興風会北野病院泌尿器科副部長 同 24年 沖縄県立中部病院泌尿器科副部長 10月9日(日)16:20~17:20 エンドウロロジー・腹腔鏡 12.泌尿器腹腔鏡手術の基本手技と合併症予防 泌尿器腹腔鏡技術認定制度は2004年度に始まり、2015年度の審査まで計12回の審査を終え、申請者のべ2,303名、 合格者1,332名、合格率57.8% であった。日本泌尿器内視鏡学会ではこれまで毎年総会時に泌尿器腹腔鏡ワーク ショップを開催し、各手術の標準術式の確立に努めてきたが、特に腎摘除術、副腎摘除術については年3回の泌 尿器腹腔鏡無編集ビデオ講習会や日本泌尿器科学会総会、地区総会時の教育プログラムで、その標準的な手術手 順、操作ならびに安全な鉗子やエナジーデバイスの使用法について教育活動を行ってきた。本プログラムでは主 にこれから技術認定審査に応募される方々を対象として、上記プログラムの内容を集約して、腎摘除術(経腹膜 到達法、後腹膜到達法)、副腎摘除術(経腹膜到達法)について解説したい。例えば、従来後腹膜到達法は術野が 狭いと言われてきたが、正しい手順で行えば邪魔になる他臓器のない十分に広い術野が得られる。また、術中の トラブルの多くは両手の協調操作不足で術野の展開が悪い時に起きるが、助手のアシストが必要な場面ではポー ト位置が悪く術野の展開がうまくできないこともある。術式の普及とともに血管処理操作は技術認定審査おいて も危険を感じることは減ってきているように思う。一方で、残念ながら今述べたような基本的な手順、操作が習 得できていないための危険な操作は未だ多く繰り返されているように感じる。これまでの技術認定審査に提出さ れたビデオの中で、教育に用いることを許可していただいたビデオからのクリップも使用させていただいて、わ かりやすく解説したい。 寺地 敏郎 昭和53年 京都大学医学部卒業 同 63年 米国 Cleveland Clinic Foundation 尿路癌学特別研究員 平成11年 京都大学大学院医学研究科助教授 同 12年 天理よろづ相談所病院泌尿器科部長 同 14年 東海大学医学部泌尿器科教授 第66回 日本泌尿器科学会 中部総会 四日市都ホテル・四日市市文化会館 10月27日(木)10:00~11:00 尿路結石 1.尿路結石の診断 尿路結石症診療ガイドラインは初版から11年が経過し、第2版が出版されたが、尿路結石症の診断自体に大き な変化はない。しかし、画像診断技術の向上に伴い、第一選択となる画像診断は変化してきた。多列検出器 CT (multi-detector CT)の進歩と普及により、画像は飛躍的に向上し、胸腹部 CT を数秒で撮影することが可能と なり、また、高画質な矢状断、冠状断、オブリーク断(傾斜した断面)画像を構成できるために、尿路結石症を CT で診断する機会が増えた。KUB の画質も格段に良くなったが、CT の進歩には遠く及ばず、この10年で単純 CT が尿路結石症の確定診断の第一選択であることに異論はない。第2版では CT の進歩に伴い、随所に CT に よる診断や治療選択を推奨している。一方で、IVU は結石の存在診断に使用されることが減ってきているが、治 療計画の策定には非常に有用な検査である。特に US、CT、KUB で尿路結石を診断し、尿管の走行や狭窄の有無 を確認しないままに ESWL 治療を施行した場合に、水尿管を来さない程度の尿管狭窄や尿路奇形のために stone street を形成し、TUL の際に初めて気付くということもある。IVU は造影剤を使用するため、安易に行う検査で はないが、治療計画を立てる際には必ず検討する価値のある検査である。 本教育講演では基本的にはなるが、尿路結石の診断を中心に診断から治療までの流れを再確認して頂きたい。 井口 太郎 平成10年 大阪市立大学医学部卒業 同 16年 大阪市立大学大学院医学研究科修了学位取得 大阪市立総合医療センター前期研究医 同 18年 SUNY Upstate Medical University Research Fellow 同 20年 大阪市立大学大学院医学研究科講師 10月27日(木)12:40~13:40 外傷・救急医療 2.泌尿器科マイナーイマージェンシー2 本プログラムでは、他科と関連した救急(癒着胎盤の膀胱浸潤など) 、がん救急(脊椎転移・麻痺への対応、脳 転移への対応)に関してお話しする予定である。 癒着胎盤は、産科救急の中でも最もリスクの高い疾患のひとつで、大量出血に対し、子宮摘除、IVR, 大血管 クランプが必要なことも多いといわれている。泌尿器科と関連するものとして、癒着胎盤(穿通胎盤)の膀胱浸 潤がある。胎盤の浸潤の程度にもよるが、止血デバイスや結紮では止血困難な症例もあり、膀胱部分切除を余儀 なくされる症例もある。出産前に癒着胎盤が診断できていれば、あらかじめ関係各科(産婦人科、放射線科、泌 尿器科、血管外科など)で対応に関して相談できるが、出産前に予測できないことも多く、術中大量出血の中、 予備知識のない泌尿器科医が呼ばれたときには対応に苦慮することになる。癒着胎盤の膀胱浸潤について、病態 とともに対処方法に関して解説する。 脊椎転移、脳転移は、泌尿器科悪性腫瘍においては比較的日常的に遭遇するが、いったん麻痺、意識障害、け いれんが出現した際には迅速な対応が要求される。脊椎転移の場合、完全麻痺をきたしてから48時間以内、予後 が6か月以上見込まれる場合に手術適応を考慮することになる。手術治療と放射線治療のどちらが優れているか についての、高いエビデンスはなく、実臨床上は治療方針に悩むことも多い。脳転移の救急も同様で、外科的治 療を行う場合にも腫瘍摘出だけでなく、ドレナージや外減圧術のみ行って、2次治療につなげる場合もある。脊 椎転移、脳転移の救急では、いずれの場合も MRI、CT で画像評価した上で、整形外科、脳外科、放射線治療科 とディスカッションして早急に方針を決める必要がある。実例を提示しながら解説する予定である。 井上 幸治 平成4年 愛媛大学医学部卒業 京都大学泌尿器科 同 13年 静岡県立総合病院泌尿器科 同 16年 倉敷中央病院泌尿器科 同 28年 神戸市立医療センター中央市民病院泌尿器科医長 10月27日(木)10:00~11:00 感染対策 3.病院の感染管理 良い病院に求められる要件として、人権を尊重した患者本位の医療、高い医療技術と良好な治療成績、良質な 人的・物的な医療サービスなどとともに、適切な医療安全・事故防止対策と院内感染対策の実施が挙げられる。 これらの適正な管理が担保されていなければ、患者さんは安心して医療を受けることができず、医療従事者の安 全な労働環境の確保もできない。ひとたび大きな医療事故や院内感染が起こってしまうと、病院に対する評価は 失墜し、対応に膨大な時間や労力を費やさざるを得ず、病院経営に対する経済効果も低下しかねない。 病院の感染管理では、感染防止対策の周知と遵守、医療環境の整備、抗菌薬使用の適正化などが柱となるが、 その遂行のための感染管理組織や多職種から構成される実践的な専門チームが構築され、病院の感染管理ととも に職員への啓発・教育活動、診療支援が行われている。現在これらの院内感染に対する感染管理活動の適正な実 践に対して診療報酬が加算されるようになった。 近年の交通事情の飛躍的発展にともなって、感染症は特定の地域にとどまらず、地球規模まで拡大し得る状況 になってきた。このような情勢から感染管理を自施設での実践のみにとどめることなく、地域の医療機関同士が 連携して対応することが求められている。施設間の感染管理に関する情報の共有や対策の協働、まだ感染管理に 関して発展途上にある医療機関の感染管理のボトムアップを目指した連携活動は活発化し、これらの動きは地域 から全国へと拡がり、さらにグローバルなレベルでの均質化を目指す時代になっている。 本講演では、このような感染管理活動の一端をご紹介したいと思う。 中村 敦 昭和62年 名古屋市立大学医学部卒業 平成15年 名古屋市立大学第一内科講師、 名古屋市立大学病院呼吸器内科副部長 同 19年 名古屋市立大学腫瘍・免疫内科学病院准教授 同 21年 同 准教授、名古屋市立大学病院感染制御室室長 同 26年 名古屋市立大学呼吸器・免疫アレルギー内科学病院教授 10月27日(木)12:40~13:40 小児泌尿器科 4.下部尿路通過障害 小児における下部尿路通過障害の代表的疾患は後部尿道弁(posterior urethral valve: PUV)、前部尿道弁 (anterior urethral valve: AUV)で、そのほかに尿道結石、特発性尿道狭窄などがある。PUV、AUV では、腎機 能および膀胱機能が不可逆的になる可能性があるので、早期に診断・治療することが重要であるとともに、長期 の経過観察を必要とする。 PUV は胎児超音波検査で発見される場合と生後の尿線の異常、尿路感染症などに対する精査で発見される場 合がある。膀胱は硬く、腫瘤のように触れる。超音波検査では水腎水尿管症、肥厚した膀胱壁が認められ、排尿 時膀胱尿道造影では、膀胱壁の不整、膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux: VUR) 、後部尿道の著明な拡張が認 められる。Young の分類では Type I がほとんどである。胎児治療として膀胱羊水腔シャントが行われることも ある。PUV に対しては内視鏡的弁切開が行われ、それにより VUR が軽減または消失し、また、膀胱機能が改善 する場合が多いが、中には膀胱のコンプライアンスが改善せず、膀胱皮膚瘻や膀胱拡大術を必要とする症例もある。 AUV は PUV よりもまれとされ、PUV と同様に尿線の異常、尿路感染症などで発見される。前部尿道憩室と AUV の鑑別に関しては、前部尿道憩室では posterior lip を伴うが、AUV では認められないとする意見もあるが、 両者の鑑別は容易ではなく、類縁疾患とする意見もある。AUV に対しても内視鏡下弁切開術が行われ、腎機能・ 膀胱機能に関して長期観察する。 本プログラムでは、PUV、AUV を中心に小児下部尿路通過障害につき、アップデートする。 杉多 良文 平成元年 神戸大学医学部卒業 同 2年 兵庫県立こども病院泌尿器科研修医 同 7年 メルボルン王立小児病院外科研究員 同 9年 兵庫県立こども病院泌尿器科医長 同 15年 同 科長 10月27日(木)13:55~14:55 エンドウロロジー・腹腔鏡 5.ロボット支援手術の基本と合併症予防 ロボット支援下前立腺全摘除術(RALP)は2012年に保険収載されて以後、その施行数は右肩上がりに増加し、 近年では前立腺癌に対する標準的な手術術式となりつつある。それに伴い、本術式を執刀する術者も増加し、パ イオニア世代から次世代への移行しつつある。本教育プログラムの前半では、本術式の経験の少ない先生方を主 な対象として①ロボット手術のコツ、② RALP の時間短縮するためには?、③難所(膀胱頸部離断など)のポイ ントなどを中心にお話させて頂く予定である。 後半では、今年4月に保険収載されたロボット支援下腎部分切除術(RAPN)に関して、①トロカーの挿入位 置の考え方、②術前画像のシュミレーションで何をする?、③腫瘍切除の仕方、④切除面の処理について解説す る。RAPN は、大血管の剥離を必要とする点で、前半の RALP とは格段に安全に域の狭い術式と言える。安全に 本術式を施行するには、本術式の特徴や短所をよく理解し、緊急時の対策などをよくシュミレーションしておく ことが必須である。 ロボット手術は急速に普及し、もはや確立された術式の感がある。しかし、どんなに確立した術式であっても、 これから新規に術式を学ぶ者にとっては、いくもの難所があり、それを必ず克服しなければならない。本教育プ ログラムが、ロボット手術をこれから始められる先生方やロボット手術が難しいなと感じている先生方にとっ て、少しでも有益なものとなれば幸いである。 小林 泰之 平成10年 岡山大学医学部卒業 同 15年 東海大学外科学系泌尿器科助教 同 18年 岡山大学医学部・歯学部附属病院泌尿器科 医員 同 20年 岡山大学病院泌尿器科助教 同 26年 岡山大学病院低侵襲治療センター講師 10月27日(木)15:10~16:10 泌尿器科腫瘍 6.限局性腎癌の診断と治療 腎がんの頻度は、近年わずかながら上昇傾向にある。しかしながら死亡率の上昇はそれほど顕著ではない。こ れは限局性腎癌、とくに小径腎癌の頻度の増加による影響が大きいと思われる。現在われわれの施設においては、 腎がんで受診する患者の79%が stage1である。多くの症例が外科的治療を適応になるが、現在腎部分切除術が 標準的治療として推奨されている。最近では低侵襲手術も普及しつつあり、本邦でも2016年4月より Da Vince サージカルシステムを用いたロボット支援腹腔鏡下腎部分切除が保険収載され、今後さらに普及してくることが 予想される。しかし症例の癌死亡率は低く、期待余命や患者の合併症、腎機能を考慮した治療選択を行う必要が ある。こうした患者背景を考慮した治療選択を行うため診断・治療のアプローチはこの10年ぐらいで大きくかわ りつつある。画像診断のみならず、より積極的な腫瘍生検の施行が進み、局所療法や経過観察を行う症例も以前 よりも増加しており、現在小径腎癌に対する治療は多様化している。近年の高齢化、有合併症率の増加、とくに 慢性腎臓病などの理解が進むにつれ、こうした治療選択はますます重要となる。 本講座では、限局性腎癌とくに小径腎癌の診断・治療として1)画像診断のポイント、2)生検の意義、3) 外科的治療、とくに腎部分切除の意義、4)低侵襲手術の意義、5)経過観察の適応などについて解説する。 近藤 恒徳 平成2年 北海道大学医学部卒業 同 2年 東京女子医科大学腎臓病総合医療センター外科入局 同 6年 クリーブランドクリニック泌尿器科リサーチフェロー 同 20年 東京女子医科大学泌尿器科講師 同 25年 同 准教授 10月28日(金)9:00~10:00 女性泌尿器科 7.女性泌尿器科における行動療法(生活指導、骨盤底筋訓練、膀胱訓練など)の実際 女性泌尿器科領域で扱う疾患に対する診療指針として「女性下部尿路症状診療ガイドライン」が刊行されてお り、尿失禁,頻尿をはじめとする蓄尿症状,排尿症状と排尿後症状といった多彩な症状に対して、その治療につ いても包括的かつ、きめ細かい解説がされている。薬物療法、手術療法に並んで章立てされている「行動療法」 の項では、生活指導、理学療法、膀胱訓練などが提示されており、高い推奨グレードとされている治療も明記さ れているものの、実際の臨床の現場で十分な実施がされているとは言い難いのではないだろうか。 行動療法は、患者に動機づけを行い、具体的な実施方法を指導して本人に継続させる、という患者の能動的な 行動を引き出す必要がある。患者が受動的であっても比較的実施が可能な薬物療法や手術療法と異なるのがこの 点であり、しばしば医師が敬遠しがちな、不得手な分野であるかもしれない。しかしながら下部尿路症状に対す る行動療法は、疾患の治療のみにとどまらず予防的観点からも重視すべきであり、対象症例は医療機関の外にも 多く、ニーズも高い。また、昨今話題に上る女性の社会参画推進や高齢者の健康寿命の維持などの点からも、下 部尿路症状への対策は積極的に実施されることが求められており、行動療法もその重要な分野である。 本プログラムでは、主な行動療法の指導を中心として、患者評価、介入計画の立案、実施の方法について、実 践的な内容について解説する。また行動療法を実施するために有用な各種デバイスや、関連他職種との連携の方 法についても触れ、下部尿路症状に対するチームアプローチの方法についても紹介する予定である。 吉川 羊子 昭和62年 名古屋大学医学部卒業 平成2年 碧南市民病院泌尿器科 同 11年 名古屋大学医学部助手 同 19年 同 講師 同 20年 小牧市民病院泌尿器科排尿ケアセンター部長 10月28日(金)10:15~11:15 内分泌・生殖機能・性機能 8.副腎腫瘍の診断と治療 副腎腫瘍は、近年画像診断の発展・普及により副腎偶発腫瘍として発見されることが多くなっている。副腎偶 発腫瘍は加齢とともに増加することが知られており、今後も副腎腫瘍を診療する頻度は増加すると予測される。 一般に、副腎腫瘍が発見された場合は臨床症状がなくとも、内科医による内分泌機能検査が行われ、ホルモン を過剰に産生する機能性腫瘍とホルモンを産生しない非機能性腫瘍の鑑別が行われる。機能性腫瘍や非機能性で あっても悪性が疑われる腫瘍の場合は、腹腔鏡下または開腹による副腎摘除術の適応となり、国内ではわれわれ 泌尿器科医が手術を担当することが多い。 本プログラムでは、まず一般診療で遭遇する頻度の高い副腎偶発腫瘍の鑑別診断と治療、非機能性であった場 合のフォローアップについて海外のガイドラインを提示して概説する。さらに手術適応となる機能性腫瘍とし て、頻度の高い原発性アルドステロン症及びクッシング症候群 / サブクリニカル・クッシング症候群、褐色細胞 腫、また稀ではあるが予後不良の副腎皮質癌を中心に診断と治療、術後フォローアップについて総合的に詳説す る。機能性腫瘍では過剰産生されるホルモンの影響で疾患ごとに特徴的な合併症もあるため、術式は同じ副腎摘 除術を行うとしても周術期管理や術後フォローアップに関して安全かつ最適な治療スケジュールで診療にあたる ことが求められる。また、サブクリニカル・クッシング症候群の新しい診断基準の提唱など副腎腫瘍の診断と治 療における最近の国内外の動向について適宜加えて解説する。 内海 孝信 平成18年 千葉大学医学部卒業 同 22年 千葉大学医学部附属病院泌尿器科医員 同 26年 千葉大学大学院医学薬学府修了 東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器腹腔鏡センター助教 同 28年 ノースカロライナ大学チャペルヒル校博士研究員 10月29日(土)15:45~16:45 尿路性器感染症 9.泌尿器科医が知っておくべき感染症ガイドライン 泌尿器科日常診療では感染症を扱う場面は多いが、感染症は昨日まで元気であった人の命を奪うことがあるの が恐ろしいところである。感染症診療では感染部位はどこか、推定される原因菌は何か、それに基づき投与すべ き抗菌薬に何を選択するか、そして必要な治療期間はどれくらいか、などを適切に理解しておかないと治癒に至 らない。正しい診断なくして正しい治療はないのである。 一方、近年では薬剤耐性菌の世界的蔓延が問題となっている。2014年に WHO が薬剤耐性菌に関して報告した 中では7つの重要な薬剤耐性菌を取り上げ、それらのうち泌尿器科領域に関してはキノロン耐性 / セファロスポ リン耐性の大腸菌と淋菌を挙げている。大腸菌では基質特異性拡張型β - ラクタマーゼ(ESBL)産生株が重要 で、現在わが国では10~15% 存在する。ESBL 産生大腸菌は同時にキノロン耐性であることが多いので注意を要 する。淋菌はすでに既存の抗菌薬の有効性は低く、アジスロマイシンでさえ10~20% が耐性株であるのでセフロ リアキソンなどの注射薬しか推奨されていない。しかし、そのセフロリアキソンですら抗菌力が低下しつつある。 このような原因菌の薬剤感受性を想定した感染症の治療の原則は “Hit and Away”、すなわち、十分な用量を投与 し、出来るだけ短期に勝負をつけることである。このことが耐性菌発現を抑制するのに重要である。 このような原則を踏まえて作成された泌尿器科領域感染症のガイドラインには以下の4つがあり、本プログラ ムではそれらの骨子、注意点を中心に解説する予定である。 1)JAID(日本感染症学会)/JSC(日本化学療法学会)感染症治療ガイド2014 2)日本性感染症学会 診断・治療ガイドライン2011 3)日本泌尿器科学会 泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン2015 4)日本泌尿器科学会 泌尿器科領域における感染制御ガイドライン2010 清田 浩 昭和55年 東京慈恵会医科大学卒業 昭和62年〜平成元年 米国ハーバード大学ブリガム & ウィメンズ病院研究員 平成3年 東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座講師 同 15年 同 准教授 同 24年 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター泌尿器科教授 10月29日(土)17:00~18:00 排尿機能・神経泌尿器科 10.神経因性膀胱の診断と治療 神経因性膀胱とは下部尿路機能を司る神経システムの障害に起因する下部尿路機能障害の総称です。 神経因性膀胱における泌尿器科医の役割は、正確な病態把握と上部尿路障害、症候性尿路感染、尿失禁の回避 あるいは改善を目標とした適切な排尿管理法の決定にあります。 神経因性膀胱は一般的に、仙髄よりも上位の障害による核上型神経因性膀胱と仙髄以下の障害による核・核下 型神経因性膀胱に分けられ、核上型についてはさらに橋排尿中枢より上位の障害による核上型・橋上型とそれよ り下位の障害による核上型・橋下型に分けられます。それぞれの障害部位における典型的な尿流動態検査所見を 把握しておくことは神経因性膀胱の診療上、非常に重要となります。 神経因性膀胱の治療に際しては、排尿管理法として随意的排尿、間欠導尿、留置カテーテルのいずれを選択す べきか、薬物療法を併用すべきか、場合によっては外科的治療を行うべきかを尿流動態検査所見などを基に決定 する必要があります。特に間欠導尿については幾つかのポイントを把握しておくことが、指導あるいはその後の 経過観察上で重要となります。 本教育コースでは神経因性膀胱の病態と治療に関するポイントを分かり易く概説し、神経因性膀胱診療の基本 的事項の理解を深めることを目標とします。神経因性膀胱と聞くと何だかとっつきにくい難解な分野であるとい う印象をお持ちの先生方に苦手意識を克服して頂けるようなコースにしたいと考えています。 関戸 哲利 平成3年 筑波大学医学専門学群卒業 同 9年 筑波大学臨床医学系助手 同 11年 カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員 同 15年 筑波大学臨床医学系講師 同 24年 東邦大学医療センター大橋病院教授 10月29日(土)15:45~16:45 老年泌尿器科・前立腺肥大症 11.加齢と LUTS 実臨床では加齢と下部尿路症状(LUTS)に密接な関連があることを実感するが、大規模な疫学研究において も、加齢に伴い LUTS の有症率が増加することが示されている。なぜ加齢により LUTS が増加するのか。そのメ カニズムについては様々な要因があると考えられている。例えば、男性における LUTS の代表的疾患は前立腺肥 大症であるが、前立腺は加齢とともに腫大し、加齢は前立腺サイズ増大に関与する有意な因子であるという報告 がある。また、加齢による膀胱自身の機能低下や、膀胱収縮に関与する受容体分布の変化なども畜尿障害の一因 と考えられている。さらに近年、排尿に関与する大脳野の加齢変化も下部尿路機能障害の要因として注目されて いる。女性においても LUTS の原因となる過活動膀胱、骨盤臓器脱は加齢とともにその罹患数が増加し、先述し た要因に加え、加齢に伴う骨盤支持組織の脆弱化などが関与している。もちろん、加齢にともない増加する脳神 経系疾患は LUTS を引き起こすことは広く知られているし、また最近では、男女を問わず加齢に伴う血管障害、 骨盤内虚血などが、LUTS の発症に強く関与しているという報告も多い。 このように加齢に伴う局所、全身の変化が下部尿路症状の発現に大きく影響しており、今回のセミナーでは、 これらの変化を系統的にまとめ、症状のみならず病態の面から高齢者に対する有効な LUTS の診断・治療を考え たい。 松川 宜久 平成12年 名古屋大学医学部卒業 半田市立半田病院研修医、泌尿器科医員 同 14年 社会保険中京病院泌尿器科医員 同 18年 名古屋大学大学院医学系研究科泌尿器科助教 同 28年 名古屋大学医学部附属病院泌尿器科講師 10月29日(土)17:00~18:00 泌尿器科腫瘍 12.放射線治療の基礎知識 近年、がんの治療に対して放射線治療が大変注目されるようになっており、 「切らずに治す」治療として放射線 治療を受ける方が増えています。さらには、強度変調放射線治療(IMRT)や体幹部定位照射等の高精度放射線 治療が増加しています。従来においては、がんに対する放射線治療の効果は限定的で、緩和的・姑息的に放射線 治療が行われることが多かったのですが、近年では高精度放射線治療の普及により、症例によっては根治的治療 を行うことが可能となっています。本講演では、前立腺癌に対する放射線治療を含めて、1 放射線治療とは、 2 がんに対する放射線治療─現状─、3 がんに対する放射線治療─今後─、と言う形で放射線治療について の概説をいたします。1では、一般的な放射線治療の理論と方法と日本における現状について概説いたします。 2では、IMRT や体幹部定位照射、等の現在の放射線治療が行うことが出来る高精度治療の実際について紹介い たします。さらには、前立腺がんに対する放射線治療に関する放射線治療法(外部照射療法と小線源療法) 、効 果、合併症、等の放射線治療の現状と問題を紹介いたします。3においては、寡分割照射、粒子線治療や免疫療 法等の今後の開発が期待される分野について紹介いたします。本内容が、今後の臨床に少しでもお役に立てるよ うであれば幸いです。 小川 和彦 平成3年 千葉大学医学部卒業 同 5年 琉球大学医学部放射線医学教室助手 同 17年 米国ハーバード大学留学 同 19年 琉球大学医学部附属病院放射線部准教授 同 21年 大阪大学大学院医学系研究科放射線治療学講座教授 第68回 西日本泌尿器科学会 総会 海峡メッセ下関 11月24日(木)13:00~14:00 泌尿器科腫瘍 1.筋層浸潤および転移性膀胱がんの診断と治療(尿路変向・化学療法を含む) Stage II 以上の膀胱癌を大雑把に局所限局性癌(T2N0M0)、局所浸潤性癌(T3-4aN0M0)、骨盤内進展癌 (T4bN0M0あるいは TanyN1-3M0)、遠隔転移性癌(TanyNanyM1)の4つに大別すると、それぞれの5年癌特 異的生存率は62−84%、31−66%、21−35%、5%未満と報告されている。局所限局性癌の標準治療は膀胱全摘 除術であるが近年、化学放射線照射などを用いた膀胱温存療法の治療成績は向上しつつある。しかし膀胱温存治 療に定まった、一般化された治療レジメンは存在せず、故に施設間でその治療成績はばらついている。局所浸潤 性癌は微小転移を伴っている可能性が高く、故に膀胱全摘除術に加え周術期化学療法が広く選択される。特に術 前化学療法は高いエビデンスに裏付けられている。とはいえ最適なレジメンが未だ確立していないこと、局所治 療が遅れてしまうことへの不安などから術前化学療法が実臨床に広く定着しているとは言いがたい。骨盤内進展 癌の治療は全身化学療法が基本となる。果たして膀胱全摘術を施行すること自体が予後改善に寄与するかは不明 であり、また化学療法抵抗性癌に対する治療の切り札を現時点で我々は持ち合わせていない。遠隔転移性癌に対 してはシスプラチンを含む多剤併用療法が広く用いられておりその短期成績は50〜70%とされている。しかし治 療後の再燃癌に対する確立したセカンドラインは存在せず今後の大きな課題である。本プログラムでは筋層浸潤 性膀胱癌に対する治療指針を整理し検証する。とはいえ個人的には筋層浸潤性膀胱癌に対して型にはめた治療方 針は存在せず、個々の症例を丁寧に吟味して総合的判断力で立ち向かう必要あると常々感じている。また今後抗 PD-1抗体、抗 PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤の登場によりさらに筋層浸潤性膀胱癌の治療方針は 複雑さを増していくのではと推察する。 菊地 栄次 平成6年 慶應義塾大学医学部卒業 同 13年 米国メモリアルスロンケタリング癌センターに留学 同 17年 慶應義塾大学医学部泌尿器科助手 同 21年 同 専任講師 11月24日(木)14:15~15:15 泌尿器科腫瘍 2.副腎・後腹膜腫瘍の診断と治療 副腎は第11ないし第12胸椎の高さで腎上極付近に位置し、腎周囲脂肪組織に取り囲まれた長径2~4cm、厚さ 5~10mm の内分泌臓器である。右副腎は下大静脈後方で肝右葉後面に接するように存在し、左副腎は膵の後方 で左腎上極前方内側に位置し三日月形あるいは楕円形を呈している。副腎は解剖学的に皮質および髄質から形成 されるが、副腎皮質からはアルドステロン(鉱質コルチコイド) 、コルチゾール(糖質コルチコイド) 、アンドロ ゲンなどのステロイドホルモンが分泌され、髄質からはカテコラミンが分泌される。副腎疾患には、これらのホ ルモン分泌の異常から種々の症状を示すものや、明らかな分泌異常のみられないものがあるが、悪性腫瘍を含め 内分泌学的検査に加え放射線学的検査により鑑別、診断することが臨床上重要となってくる。副腎腫瘍に対する 外科的治療は小さな腫瘍であれば、現在では鏡視下手術が標準術式として行われているが、大きな腫瘍や悪性腫 瘍の場合には従来から行われている開腹術も適応となる。 また副腎以外に発生する後腹膜腫瘍も頻度は低いものの、泌尿器科医として実臨床で経験する疾患である。後 腹膜腫瘍の組織型には良性・悪性を含めさまざまなものが報告されているが、症例数の少なさから、エビデンス レベルの高い治療法は確立していないのが現状である。進行性の悪性後腹膜腫瘍では外科的治療以外に化学療 法、放射線療法を含めた集学的治療が必要となってくると考えられる。 本プログラムでは代表的な副腎・後腹膜腫瘍の診断について、CT、MRI および核医学検査を中心に症例を供 覧しつつ解説し、外科的治療に加え化学療法、放射線療法についても概説する予定である。 吉村 一宏 昭和61年 和歌山県立医科大学卒業 大阪大学医学部泌尿器科入局 平成15年 大阪大学大学院医学系研究科(泌尿器科)講師 同 21年 近畿大学医学部泌尿器科准教授 同 26年 同 教授 11月25日(金)8:40~9:40 小児泌尿器科 3.尿管瘤・尿管異所開口 尿管瘤・尿管異所開口は、膀胱−尿管接合部異常である先天的な anomaly で、さほどよく遭遇するわけではな いが、決してまれな疾患ではない。適切なマネージメントがなされなければ、腎障害、排尿障害などに陥るリス クが高い。本疾患の症状は、尿路感染による症状をはじめ、膀胱尿管逆流症による発熱、水腎症による腹部腫瘤 や疼痛、さらには所属腎機能障害、尿失禁などの下部尿路症状等多彩な症状を呈する。多くが有症状であること から、ほとんどが外科的治療の介入が行われるが、膀胱尿管接合部の病変のみならず所属腎機能との兼ね合いで、 その治療プランは立てられる。すなわち、所属腎機能が保たれている場合は、膀胱尿管接合部の病変に対しての 治療を行い、所属腎機能が著しく低下している場合は、腎摘除(上半腎摘除)が検討されることになる。このた め、下部尿路の評価のみならず腎機能の評価も本疾患では必須となる。また、本病態では、重複腎盂尿管である ことが多く、この場合は病変部が上半腎所属であることがほとんどであり尿管瘤であれば、経尿道的尿管瘤開窓、 膀胱尿管新吻合、上半腎摘除など、外科的治療プランの選択肢は多くなる。本疾患は、多くが乳幼児期に診断・ 治療されるが、治療後の所属腎機能はもちろん、膀胱尿管新吻合を行った場合などは排尿機能についても十分注 意を払い経過をみていくこととなる。本教育プログラムでは、本疾患の診断から治療について概説させていただく。 野口 満 昭和62年 長崎大学医学部卒業 平成12年 長崎大学医学部腎泌尿器科病態学講座助手 同 19年 長崎大学医学部・歯学部付属病院泌尿器科講師 同 22年 佐賀大学医学部泌尿器科学講座准教授 同 27年 同 教授 11月25日(金)9:55~10:55 腎不全・腎移植 4.CKD の内科・外科管理と腎移植手術 CKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)は、①腎障害を示唆する所見(検尿異常、画像異常、血液異常、 病理所見など)の存在、② GFR 60mL/分/1.73m2未満、のいずれかまたは両方が3カ月以上持続することに よって診断される。我が国における CKD の推計罹患者数は1000万人以上であり、腎臓内科医のみならず泌尿器 科医も CKD 患者に遭遇する機会は多い。保存期 CKD 患者における泌尿器科医の主な役割は、尿路結石・前立腺 肥大症・神経因性膀胱などの閉塞性尿路疾患の有無の診断と尿路管理である。CKD が進行し、末期腎不全に至っ た場合は、血液および腹膜透析や腎移植も泌尿器科医が扱う領域である。腎移植を希望する末期腎不全患者につ いては、レシピエントおよびドナー候補者の詳細な評価を行って腎提供・腎移植を妨げる要因がないかを慎重に 検討する。腎移植が可能と判断された場合には、日程に従って免疫抑制剤を開始し、血液型不適合の場合は抗体 除去療法を行って手術に備える。これらの一連の過程は腎臓内科医やレシピエント移植コーディネーターと協力 して行うチーム医療である。移植腎採取術はドナーの安全を第一に考え、慎重におこなう。腎移植手術はすでに 確立された術式であるが、血管および尿路の再建手術であることを踏まえ、臓器・組織を丁寧に扱う。術後はレ シピエントに医療従事者の関心が集まりがちであるが、ドナーにも十分な敬意を払って接しなければならない。 腎移植後のレシピエントの管理では、一般的な術後の全身管理に加えて、拒絶反応・感染症・薬物の血中濃度の モニタリングなど、通常の泌尿器科診療とは異なった知識を獲得したり、経験したりすることができる。本講演 では、腎移植を中心として泌尿器科医が知っておくべき CKD の管理について概説する。 力石 辰也 昭和59年 北海道大学医学部卒 平成10年 聖マリアンナ医科大学講師 同 17年 同 助教授 同 20年 同 教授 11月25日(金)11:10~12:10 老年泌尿器科・前立腺肥大症 5.前立腺肥大症の診断と治療 前立腺肥大症(BPH)は、腫大、閉塞、下部尿路症状(LUTS)を古典的3徴とする高齢男性にとって、また 泌尿器科医にとって common disease である。かつては、α1遮断薬が唯一無二の治療薬であったが、BPH の病 態解明がすすむにつれ、全身性疾患の中における BPH といった位置づけになってきた(BPH/LUTS)。実際、 BPH の自然史をみてみても、年齢、男性ホルモンのみが増大の因子であるばかりではなく、その他に前立腺局所 の虚血、炎症、さらには生活習慣病が病態形成に大切である。BPH には人種差も存在する。したがって、アメリ カ泌尿器科学会、欧州泌尿器科学会の BPH ガイドラインは存在するが、本邦独自のガイドラインに沿った治療 が大切である。しかし、本邦で作成された前立腺肥大症ガイドラインは2011年のものですでに5年が経過してい る。2014年に新たに PDE5阻害薬が本邦でも使用できるようになり、治療もだいぶ様変わりしてきた。 BPH に伴う下部尿路症状は多彩である。診断は、QOL スコア(国際前立腺症状スコア、主要下部尿路症状ス コア)に基づく症状中心であるが、閉塞の診断、さらには併存する神経疾患を除外するめには今なおウロダイナ ミックスは有用である。内服治療は、α1遮断薬、PDE5阻害薬、5α還元酵素阻害薬を中心とする治療になる が、肥大のない LUTS には抗コリン薬、β3刺激薬も第一選択になりえる。実際の治療においては、BPH が直 接的原因でない排尿症状も存在する。その除外診断には排尿日誌は有用である。前立腺特異抗原の測定はいうま でもない。外科治療においては、経尿道的前立腺切除術(TURP)はいまだに gold standard であり、レーザー 核出術(HoLEP)、バイポーラ―核出術(TUEB)、レーザー蒸散術(PVP)と実に多彩である。 本講演では、多彩になった BPH を簡潔に理路整然と診断・治療ができるように解説する。 宮里 実 平成5年 琉球大学医学部医学科卒業 同 9年 琉球大学医学部附属病院・泌尿器科・助手 同 21年 東北大学医学部・泌尿器科・助教 同 23年 琉球大学医学部附属病院泌尿器科講師 同 27年 琉球大学医学部腎泌尿器外科准教授現職 11月25日(金)15:00~16:00 内分泌・生殖機能・性機能 6.性機能障害の診断と治療 性機能障害には性欲障害、勃起障害、射精障害、オルガズム障害が含まれる。最も臨床で遭遇する勃起障害 (Erectile dysfunction: ED)は NIH コンセンサス会議で「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、 または維持できない状態」と定義されている。ED は器質性(organic)と心因性(psychogenic)に分けられる。 器質性の中には、血管性、神経性、解剖性、内分泌性が含まれる。また、器質性に心因性要素が合併することが あり、どちらが主要な原因か不明な場合は混合性(mixed)ED と分類される。本邦では器質性および混合性が大 多数を占める。また、ED にはさまざまなリスクファクターがあり、加齢、喫煙、生活習慣病などが主なもので あり、最近では、ED と心血管疾患はリスクファクターを共有する点からも密接に関連しているとされ、同じ血 管内皮障害の症状と考えられるようになっている。むしろ、ED が心血管疾患の前兆と考えられている点が強調 されている。診断の手順としては、まず ED の状態を含めた病歴を問診する。ED の発症時期やその経緯、これ まで治療歴、性欲、射精、マスターベーションについて記載する。勃起の状態については、Sexual Health Inventory for Men(SHIM)などの質問票を用いて情報を得る。前述のリスクファクターの有無について確認す る。手術歴や神経疾患の罹患歴なども慎重に聴取する。その後、身体所見を確認する。特に二次性徴の発来を念 頭に外陰部の診察を行う。最後に一般的な検血、血液生化学、検尿により、リスクファクターに関与する項目に ついて検討する。また性腺機能低下症を疑わせる所見があった場合には、ホルモン検査も追加する。必要に応じ て、専門的特殊検査を行う。診察、検査の詳細、並びに治療法について本講演では基本事項の再確認と最新情報 を update する。 宮川 康 平成2年 大阪大学医学部卒業 同 5年 米国国立衛生研究所留学 同 15年 米国クリーブランドクリニック留学 同 21年 大阪大学大学院医学系研究科講師 同 26年 同 准教授 11月25日(金)16:15~17:15 尿路結石 7.尿路結石の外科的治療(ESWL、TUL、PNL) 本邦における尿路結石の外科的治療はこの10年程でかなりの変化が起きている。近年の結石破砕関連機器の進 歩と技術の伝承が大きく功を奏し、以前の ESWL 一辺倒であった状況から TUL 症例数が確実に増えており、そ れに伴い PNL も増加傾向にある。保険未収載で破砕治療ではないが、体腔鏡による腎盂・尿管切石術も僅かでは あるが行われている。Stone free という結果だけで見るならば破砕治療を凌駕するであろう。保険収載が適った 段階で大きく症例数をのばしていく可能性がある。まさしく尿路結石の外科的治療は diversification の時代に突 入したと言える。 しかしながら、現状尿路結石の外科的治療の多くは結石の破砕治療である(ESWL・TUL・PNL)の何れかで 行われていることに違いない。根本的には結石を破砕して医師側が破砕片を体外へ摘出するか、または患者に飲 水と運動を推奨しながら尿路から自然の尿の流れに則り破砕片を体外へ排出してもらうかのどちらかとなる。 10mm 以下の尿管結石や15mm までの腎結石であれば、 (ESWL・TUL・PNL)これらの何れか一つの手技で外科 的治療は完遂するであろうから、(ESWL vs TUL vs PNL)とうい図式が出来上がってくるため分かり易い話に なる。しかし15mm 以上の尿管結石や20mm 以上の腎結石になってくると、 (ESWL・TUL・PNL)のうち一つの 手技だけでは治療を終わる事は難しくなってくるため話は複雑になってくる。つまり幾つかの治療を組み合わせ たり、繰り返したりしながら stone free を目指す事になる訳である。この範疇の結石は一度の手技で破砕治療を 終わらせようと拘り過ぎると痛い目を見る事が少なくない。近年における ECIRS や TAP は患者の体位を工夫し て TUL と PNL を同時に行う手技である。この項ではさらに複雑でガイドラインに収まるような index stone で はない結石症例を示しながら、実際の破砕治療経過を示しながら論じて行く予定である。 荒川 孝 昭和54年 北里大学医学部卒業 同 55年 聖路加国際病院で泌尿器科研修 同 63年 興生会相模台病院尿路結石破砕治療センター長 平成17年 北里大学泌尿器科助教授 同 18年 国際医療福祉大学三田病院泌尿器科教授 尿路結石破砕治療センター長 11月26日(土)8:20~9:20 医療安全 8.標準化された医療事故調査方法から学ぶ “医療者が普段から意識すべきこと” 2015年10月、医療事故調査制度が施行された。今回の制度では重大な医療事故が発生した時の医療機関の対応 について、外形的な手続きの標準化はなされたが、どのような手順でどのような調査を行うのかなど、具体的な 手法についての標準化はなされておらず、今後の課題となっている。 医療事故調査・支援センターにはすでに多数の医療事故調査報告書が提出されているが、調査手法が標準化さ れていないことによる問題点が指摘され始めている。それは、①報告書の形態や記述量がまちまち(定型がな い) 、②調査が系統的でなく、調査側が重要視したポイントのみ記載されている(調査漏れが否定できない) 、③ 調査結果の羅列にとどまるものが多く、その結果を導いた背景や根拠が示されていない、④解剖が行われていな い場合、または解剖を行っても死因が不明だった場合、それ以上調査が掘り下げられていない、などである。 そこで、本日は、日本病院会が発行した「院内事故調査の手引き」を基とした、標準化された医療事故調査方 法について、紹介する。医療事故調査方法が標準化されれば、医療事故発生時に、何がどのように検証されるの か、といったことが多くの医療者に理解されることになる。そのことは、医療者が日常、どのようなことに注意 しながら医療業務に専念すればよいか、どのようなことを医療者に注意喚起していけばよいかなど、事前の備え の議論に自ずとつながる。すなわち、標準化された質の高い事故調査手法を知ることにより、質の高い日常診療 を意識できるようになる。 医療事故調査を単に事故の検証に留めるのではなく、医療業務に求められる日常診療の「型」を再確認する教 育の仕組みへと発展させることが重要と考えている。 長尾 能雅 平成6年 群馬大学医学部卒業 同 17年 京都大学医学部附属病院医療安全管理室室長・助教 同 22年 同 准教授 同 23年 名古屋大学医学部附属病院医療の質・安全管理部教授 同 24年 名古屋大学医学部附属病院副病院長 11月26日(土)9:35~10:35 尿路性器感染症 9.泌尿器科領域における周術期感染予防 周術期感染症を考える上では、清潔手術、準清潔手術、汚染手術の3つの手術カテゴリーの特性を考えて、抗 菌薬の種類と投与方法を的確に選択し、感染予防対策をたてていく。抗菌薬投与期間は、経尿道的手術、清潔手 術、準清潔手術においては、単回〜24時間以内とすべきであり、消化管利用手術では2日間以内で十分と考えら れている。誤った抗菌薬選択や投与タイミングが周術期感染症を増加させることも報告されており、これらの基 本事項は絶対厳守されるべきである。 周術期感染症発生の患者側危険因子には、糖尿病、喫煙、ステロイド長期投与、放射線治療歴などが存在する。 その一方で、入院から手術までの期間、術前の除毛方法とその時期、皮膚消毒、術者の手洗い、薬剤耐性菌保有 患者の取り扱い、手術室の衛生環境、手術機器やドレープの滅菌方法、術中の清潔手技、手術時間、出血量、術 後の創部処置方法、カテーテルやドレーンの種類・抜去時期など、より多くの医療側要因が関与することを認識 しておく。 尿路を開放する手術および内視鏡手術では、術前の尿路感染の有無を確認することは極めて重要であり、術前 に尿路感染を適切に治療したうえで手術を行う必要がある。やむを得ず尿路感染を合併した状態で手術を行う場 合には、尿路感染原因菌の抗菌薬感受性を手術前に確認し、その結果に従った抗菌薬を術前より投与する。本ガ イドラインに述べられている抗菌薬選択は、低リスク患者(ASA スコア1または2)に対する一般的な手術に適 用すべき基本コンセプトである。術前より尿路感染が確認されている経尿道的内視鏡手術や、腹膜炎や感染創に 対する感染手術は、ターゲットとなる細菌に対する抗菌スペクトラムを有する抗菌薬を選択しなければならない。 山本 新吾 昭和62年 京都大学医学部卒業 平成7年 アラバマ大学客員研究員 同 14年 京都大学大学院泌尿器科学分野講師 同 17年 兵庫医科大学泌尿器科准教授 同 21年 同 主任教授 11月26日(土)10:50~11:50 排尿機能・神経泌尿器科 10.前立腺疾患術後尿失禁の診断と治療 ロボット支援手術が、前立腺全摘除の標準治療として確立し、Rocco らの方法を初めとする様々な尿禁制の工 夫が導入された。全体的には、早期尿禁制率は改善傾向にあるが、中長期の尿禁制率が明らかに改善したとする 報告はない。術後1~5年の尿失禁有症状率は8−20%程度、1−3%の患者に重症尿失禁が発生する傾向は続 いており、外科的治療を要する尿失禁の発生頻度が、劇的に現象する可能性は少ない。 前立腺全摘除後の腹圧性尿失禁に対する外科治療として、人工尿道括約筋埋込術、尿道スリング手術、調節型 尿禁制バルーン埋込術、幹細胞注入療法が施行されている。重症例に対しては、人工尿道括約筋が唯一の選択肢 であるが、軽症~中等症で、保存的治療が抵抗性の場合には、自然排尿を担保するため、後者3方法の導入・発 展も考慮する必要がある。保険適応は、人工尿道括約筋のみで、幹細胞注入療法の臨床研究が急ピッチにすすん でいる。 上記の背景を踏まえて、本稿では、 1.外科的治療介入の時期と治療の選択 2.人工尿道括約筋埋込術を成功に導くポイント 特に、カフを巻き付けるための尿道剥離のコツ、バルーン埋込における前立腺全摘の術式別注意(開放と ロボット、腹腔鏡手術での差) 3.尿道スリング手術の詳細と筆者らの試み、術中スリング手術の紹介 恥骨固定型と経閉鎖孔型スリング手術の概説と我々の成績 4.調節型尿禁制バルーン埋込術の紹介 5.幹細胞注入療法の現状と展望 上記について詳細に概説する。また、ポイントについてはビデオで供覧する。 泌尿器科医自身がつくった尿失禁であり、手術の普及と表裏一体をなす分野であることから、一定の知識を もって、日常診療に励むことが重要と思われる。 増田 均 平成元年 東京医科歯科大学医学部卒業 同 15年 ピッツバーグ大学泌尿器科リサーチフェロー 同 19年 東京医科歯科大学泌尿器科講師 同 23年 東京医科歯科大学医学部・腎泌尿器外科学准教授 同 24年 がん研究会有明病院泌尿器科副部長 11月26日(土)13:55~14:55 外傷・救急医療 11.泌尿器科外傷2 本プログラムでは、泌尿器科医にとって悩ましい医原性尿路損傷のマネージメントと、外的損傷による泌尿器 科外傷に対する初期診療の総論・各論的事項を解説する。 医療が大幅に低侵襲化した現代においても、医療行為を行っている限り医原性損傷を避けることはできない。 医原性損傷に上手く対応できないと重篤な機能障害を残すだけでなく、患者との無用なトラブルに発展するおそ れがある。医原性尿管損傷の多くは婦人科手術や下部消化管手術の術中損傷が原因である。損傷が確認された場 合は即時修復が原則であり、診断が遅れると尿管狭窄、尿嚢腫形成、敗血症などを続発して修復が困難となる。 医原性膀胱損傷は経尿道的膀胱腫瘍切除時に注意しなければならない合併症である。経尿道的手術や不適切な尿 道カテーテル挿入による医原性尿道損傷は高頻度に尿道狭窄症を続発する。内尿道切開や尿道ブジーなどの経尿 道的治療で狭窄を複雑化させる前に尿道形成術により修復する。手術や放射線治療など、前立腺癌の局所治療に 続発する膀胱頚部硬化症、尿道直腸瘻も悩ましい合併症である。遭遇する頻度の高い症例を具体的に提示し、ト ラブルシューティングを解説する。 外傷患者を確実に救命し、機能予後を最善化するためには、適切な初期診療が不可欠である。腎外傷では非手 術療法を選択する例が多いが、依然として開放手術を要する例も存在するため、適応を慎重に見極める必要があ る。尿道外傷の多くは鈍的外傷で、騎乗型外傷による球部尿道外傷と骨盤骨折による後部尿道外傷がある。初期 診療時の尿ドレナージ法の選択によっては、続発する尿道狭窄症を複雑化する可能性がある。頻度は低いが、陰 茎、精巣などの性器外傷も妊孕性や性機能の温存、美容的観点から重要である。当日は泌尿器科外傷の各論とと もに、泌尿器科医が知っておくべき外傷初期診療の総論についても解説する。 堀口 明男 平成6年 慶應義塾大学医学部卒業 同 6年 同 泌尿器科学教室研修医 同 15年 防衛医科大学校泌尿器科学講座助手 同 16年 米国コーネル大学泌尿器科リサーチフェロー 同 20年 防衛医科大学校泌尿器科学講座講師 11月26日(土)15:10~16:10 エンドウロロジー・腹腔鏡 12.前立腺肥大症に対するエンドウロロジー(手技と合併症予防) 前立腺肥大症は男性下部尿路症状をきたす代表的な疾患で泌尿器科医が臨床で関わる頻度が最も高い疾患の一 つである。肥大結節の増大による尿道の圧迫が原因となる下部尿路閉塞により様々な症状が現れる。したがって 外科的治療の目的はこの閉塞の解除となる。前立腺肥大症の手術は長らく経尿道的前立腺切除術がゴールドスタ ンダードとされてきた。非常に合理的で優れた術式であるが時間当たりの出血量が問題であり前立腺サイズが大 きくなるほど術者の技量による差が大きくなるため安全に手術が出来る前立腺のサイズは術者により違いがある といわれてきた。そのため非常に大きな前立腺肥大症には開腹手術が選択されることも多くまた TURP を選択し ても出血量が増えることが懸念され輸血を行うことも稀ではなかった。1990年代後半から2000年初めにかけて高 出力レーザーが登場し前立腺肥大症の治療を様変わりさせた。現在、前立腺肥大症の内視鏡手術の術式には大き く分けて 切除術 蒸散術 核出術 の3つがある。それぞれの術式には特徴があるが近年徐々に境界がなくな る傾向がある。さらに今後新たなデバイスが登場すれば新たな術式が出現する可能性もある。今回は高出力レー ザーを使用した前立腺肥大症手術のうち我が国で最も普及したといっても良いホルミウムレーザー前立腺核出術 (HoLEP)について手術手技と合併症予防について解説する。 設楽 敏也 昭和62年 北里大学医学部卒、北里大学医学部泌尿器科研修医 同 63年 聖路加国際病院研修医 平成3年〜5年 国外留学(米国、CITY OF HOPE National Medical Center) 同 11年 渕野辺総合病院泌尿器科部長 北里大学泌尿器科非常勤講師 同 16年 HoLEP 約2200例
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