離散の数理 演習問題 略解

3 年次・数理科学コース
2004-11-29 00:28
2004年度・後期
離散の数理 演習問題 略解
(担当:長谷川雄之)
1 群論
1
G を群とするとき,次のことを示せ.
(1) H が G の部分群ならば,HH = H である.
e を G の単位元とする.h ∈ H ならば h = he ∈ HH だから H j HH となることは明らか.
逆に,h0 ∈ HH をとると h0 = h1 h2 (h1 , h2 ∈ H) と書けるが,H は部分群だったからもち
ろん積について閉じているので h1 h2 ∈ H, すなわち HH j H である.ゆえに HH = H.
(2) H1 , H2 が G の部分群ならば,H1 ∩ H2 も G の部分群である.
e を G の単位元とすると e ∈ H1 かつ e ∈ H2 だから,e ∈ H1 ∩ H2 . 次に a, b ∈ H1 ∩ H2 を
任意にとる.a, b ∈ H1 で H1 は部分群だから ab−1 ∈ H1 . 同様に,ab−1 ∈ H2 であることが
わかる.したがって ab−1 ∈ H1 ∩ H2 となるから,H1 ∩ H2 は G の部分群であることが示さ
れた.
2
群 G において単位元 e 以外の元がどれも位数 2 であるとき,G は可換群であることを示
せ.
一般に (gg 0 )−1 = g 0−1 g −1 である.さらに,仮定より各 g ∈ G の位数は 2 以下(つまり 1 または
2)だから g 2 = e, すなわち g −1 = g であることに注意すると,a, b ∈ G に対して ab = a−1 b−1 =
(ba)−1 = ba となることがわかる.したがって G は可換群である.
3
次の G, H において,G が乗法群であることおよび H が G の 正規 部分群であることを
示せ.
(Ã
a
G=
c
(Ã
a
H=
c
b
d
)
!
b
d
a, b, c, d ∈ R, ad − bc 6= 0 ,
!
)
a, b, c, d ∈ R, ad − bc = 1
まず,2 次単位行列 E は G に属しているから G 6= ∅ である.A, B ∈ G ならば det A 6= 0, det B 6= 0
であり,行列式の性質から det AB = det A · det B 6= 0 となるから AB ∈ G. よって,G は行列の
積に関して閉じている.行列の積は結合法則を満たすから,群の公理 G1 は成り立っている.明ら
かに E は単位元の性質 G2 を満たし,A ∈ G の逆行列 A−1 は逆元の性質 G3 を満たす.以上によ
り G が行列の積に関して群となることが示された.
行列に行列式を対応させる写像 det : G 3 A 7→ det A ∈ R× は行列式の性質により準同型写像で,
det A = 1 ⇐⇒ A ∈ H だから H = ker(det). ゆえに H は G の正規部分群である.
4
次の写像は群の準同型写像であることを示せ.また,im f と ker f を求めよ.
(1) f = log : R>0 3 x 7→ log x ∈ R
x, y ∈ R>0 に対して log xy = log x + log y であるから log は乗法群 R>0 から加法群 R への
準同型写像である.任意の実数 z に対して log x = z となる正の実数 x がただ 1 つ存在する
から log は実は同型写像である.よって im(log) = R, ker(log) = {1}.
(2) f : Z 3 x 7→ (−1)x ∈ {±1}
f (x + y) = (−1)x+y = (−1)x (−1)y = f (x)f (y) だから f は加法群 Z から乗法群 {±1} への準
同型写像である.x が偶数(つまり x ∈ 2Z)ならば f (x) = 1 で,x が奇数ならば f (x) = −1
だから im f = {±1}, ker f = 2Z である.
3 年次・数理科学コース
5
2004-11-29 00:28
H を G の部分群とするとき,(G : H) = 2 ならば H は G の正規部分群であることを示
せ.
H による G の剰余類を考えると,a ∈ G で a 6∈ H なるものをとれば
H ∩ aH = ∅, G = H ∪ aH
であり,また
H ∩ Ha = ∅, G = H ∪ Ha
でもある.G の元で H に属さないもの全体は第一の表し方では aH, 第二の表し方では Ha で両者
は当然一致するから,aH = Ha. これは,H が G の正規部分群であることを示している.
6
m, n を正の整数とするとき,mZ ∩ nZ を求めよ.
s ∈ mZ ∩ nZ とすると,s は m の倍数でもあり n の倍数でもある.つまり s は m と n の公倍数で
ある.そこで,l を m, n の最小公倍数とすると s ∈ lZ. 逆に,m, n の最小公倍数を l として s ∈ lZ
をとると s は l の倍数だからもちろん m および n の倍数ともなる.すなわち s ∈ mZ ∩ nZ であ
る.以上により,mZ ∩ nZ = lZ(ただし,l は m, n の最小公倍数)であることがわかる.
7
同型 Z/6Z ∼
= Z/2Z × Z/3Z を示せ.
a ∈ Z および正の整数 m に対して,これまで a から得られる Z/mZ の元を簡単に a と表してきた
が,この問いのように 2 種類の剰余群が出てきた時はかえって混乱の恐れがある.そこで,ここ
では a から得られる Z/mZ の元を a (mod m) で表すことにする.この記号を用いると,整数 b か
ら得られる Z/mZ の元 b (mod m) が a (mod m) に一致するための必要十分条件は b を m で割っ
た余りが a を m で割った余りに一致することであるということができる.
さて,各 a ∈ Z に対して (a (mod 2), a (mod 3)) ∈ Z/2Z × Z/3Z を対応させる写像 f は明らかに
準同型写像となる.よって,この f が全射で核が 6Z になることを示せばよい.そのために,まず
(b (mod 2), c (mod 3)) ∈ Z/2Z × Z/3Z をとる.b = 0, 1, c = 0, 1, 2 としてよい.
・b = 0, c = 0 のとき……
・b = 0, c = 1 のとき……
・b = 0, c = 2 のとき……
・b = 1, c = 0 のとき……
・b = 1, c = 1 のとき……
・b = 1, c = 2 のとき……
a ∈ 6Z の像は (0 (mod 2), 0 (mod 3))
a ∈ 4 + 6Z の像は (0 (mod 2), 1 (mod 3))
a ∈ 2 + 6Z の像は (0 (mod 2), 2 (mod 3))
a ∈ 3 + 6Z の像は (1 (mod 2), 0 (mod 3))
a ∈ 1 + 6Z の像は (1 (mod 2), 1 (mod 3))
a ∈ 5 + 6Z の像は (1 (mod 2), 2 (mod 3))
これは f が全射かつ ker f = 6Z であることを示している.ゆえに Z/6Z ∼
= Z/2Z × Z/3Z である.
(一般に,m, n が互いに素[最大公約数が 1]ならば Z/mnZ ∼
Z/mZ
× Z/nZ となる.
)
=
8
群 G = Z/3Z × Z/3Z の部分群をすべて求めよ.
|G| = 9 だから部分群 H の位数 |H| は 1, 3, 9 のいずれかであるが,|H| = 1 ならば H = {e},
|H| = 9 ならば H = G である.そこで位数が 3 の部分群 H の個数がわかればよい.ところで,位
数が 3 の群は(同型の差を除いて)巡回群 Z/3Z のみである.よって,単位元以外の G の元はす
べて位数 3 であることに注意して,そのような 8 個の元が生成する巡回群を全部見い出せばよい.
ここで,(1, 0) と (2, 0) のように異なる元が同じ部分群を生成することがあるから注意すること.
求める部分群は次の 4 通りである.
・h(1, 0)i = {(0, 0), (1, 0), (2, 0)}
・h(1, 2)i = {(0, 0), (1, 2), (2, 1)}
・h(1, 1)i = {(0, 0), (1, 1), (2, 2)}
・h(0, 1)i = {(0, 0), (0, 1), (0, 2)}
以上により,G の部分群は全部で 1 + 1 + 4 = 6 個ある.
(一般に,素数 p に対して Z/pZ × Z/pZ の部分群の個数は p + 3 個ある.
)