利便性を考慮した栄養指導教材とパーツライブラリーの構築

利便性を考慮した栄養指導教材とパーツライブラリーの構築
田中雅章*1・神田あづさ*2
Email: [email protected]
*1: 鈴鹿短期大学生活学科
*2: 仙台白百合女子大学人間学部健康栄養学科
◎Key Words 栄養教育,栄養指導,感性情報
1.
はじめに
2004 年より情報系科目を栄養系専門科目の一つとし
て位置づける栄養教諭養成課程が増えた。学校教育法
に基づいた栄養教諭養成課程の「情報機器の操作」が,
情報機器を活用した実践的な指導方法を学ぶための必
修科目ではあるものの,栄養教諭の養成課程では充分
ではないとの考え方が増えたと考えられる(1)。
また,
「教育方法と技術」でも専門教科や教授法の知
識,教育方法を習得するための手段として情報処理技
術を活用した方法が研究されている。その背景には,
初等教育現場へ電子黒板や液晶プロジェクターの導入
が進み,情報機器を活用した指導や作業の技術習得が
必要であるとの認識が高まった。
プレゼンテーション技術の習得は教員になるために
必要な情報処理技術のひとつである。学習者の教育効
果を高めるには五感に刺激を与えることによって,集
中力を高める方法がある(2)。我々は栄養教諭養成課程に
おいて,栄養指導教材を作成するための支援環境を構
築したので,本稿にて報告する。
2. 教材作成から模擬指導まで
2.1 他教科との連携と位置づけ
本稿が対象とする「情報機器の操作」は,表1のよ
うに栄養教諭の養成課程のカリキュラムとして配置さ
れている。学習者が学習を進めていく上で,他教科と
の連携が必要不可欠である。
基礎教育科目の情報では,1年生前期にパソコンの
表1 他教科との連携
1年生
情報
栄養
教職
前期
後期
情報
情報
処理Ⅰ
処理Ⅱ
2年生
前期
夏休み
栄養
給食管理
給食管理
指導論
実習Ⅰ
実習Ⅱ
情報機器
栄養教育
の操作
実習
基本操作やインターネット検索,給食だよりや調理手
順書作成などの文書作成を学んでいる。後期では主に
表計算処理を学び,栄養価計算やグラフを文書へ貼り
付ける処理も学ぶ。表計算処理の学習と同時進行で「情
報機器の操作」を学習する。
栄養系専門科目の連携からみると,1年生の後期に
「栄養指導論」を栄養指導の基礎知識として学びつつ,
栄養指導論の教材作成の実践演習として「情報機器の
操作」を位置づけた。2年生の給食管理実習Ⅰでは,
給食の試食時に献立内容の説明や栄養指導が行われて
いる。そして,夏休み期間中に校外で「給食管理実習
Ⅱ」が行われる。
栄養教諭の教職専門科目の連携からみると,2年生
の前期に行われる「栄養教育実習」までに,教材の作
成や栄養指導方法を学んでおく必要があることが明確
である。
2.2 情報機器の操作のカリキュラム
プレゼンテーション技能の習得さえ行っていれば良
いわけではない。受講生が栄養教育や栄養指導ができ
るようになるには,栄養価計算ができることも重要な
ひとつである。
表2 情報機器の操作カリキュラム
内
容
回数
PowerPoint の使い方とポスター作成方法
1
画像処理の方法
1
ポスター作成作業
1
ポスター説明と相互評価
2
ポスターの修正・再提出
1
栄養分析・栄養指導(Excel)
2
栄養指導プレゼンテーションの作成法
2
作品作成(作成における質問)
1
プレゼンテーションと相互評価
3
プレゼンテーションの修正・再提出
1
学習者に栄養指導力を身につけさせるためには,模
擬指導の繰り返しが必要である。それは,ポスターの
作成や栄養指導プレゼンテーションで Plan(計画)→
Do(実践)→Check(評価)→Action(改善)という PDCA
学習サイクルの実践である(3)。
この実践では個人発表を全員が行うようにしており,
評価は学生による相互評価を導入している。さらに相
互評価の結果に基づき作品の修正し,再提出を行って
いる。
このように半期の短い授業にもかかわらず,非常に
盛りだくさんの内容である。短期間でこれだけのこと
が可能になったのは,栄養指導教材とパーツライブラ
リーを構築によるところが大きい。
からは,教材内容をよく吟味して制作作業を行なえる
ようになった。その結果,より質の高い教材が製作で
きるようになったと思われる。
3.
教材支援システムの構築
視聴覚教材を活用した学習は,その有効性が認め
られている。そのためには,学習教材を作成するた
めには環境整備が重要となる。過去に製作した教材
はアーカイブ(所蔵・閲覧を目的とした書庫)とし
て,いつでも参照できるように整備した。
しかし,制作年順に並んでいるだけでは,目的を持
って作品を閲覧するには,蓄積された作品数があま
りにも多くなってしまい使い勝っては良くなかった。
そこで,作品の傾向を調べ,参考にしやすいよう
に分類作業に着手した。作品の傾向は,表3のよう
になっていた。
表3 制作教材の傾向
項目
不足栄養素の摂取促進
偏食の防止
食事マナー
栄養バランスの促進
過剰摂取の防止
生活・食習慣の改善
朝食の摂取推進
食中毒・衛生管理
口腔衛生
三食の推進(欠食の防止)
飲酒
その他
比率
19.7%
13.5%
12.5%
8.5%
8.5%
8.2%
7.8%
5.3%
5.0%
5.0%
2.2%
3.8%
図1 パーツライブラリーの一部
この教材支援システムは,2台の PC サーバーが稼働
している。機器故障によるトラブル回避と高い稼働率
を維持することがその目的である。さらに一時的なリ
クエスト集中による過負荷を分散させ,レスポンスを
保証するためである。
このサーバーは,Linux 系 OS である Red Hat Linux
を拡張した Fedora を基本ソフトウェアーとして採用し
た。過去に作られた指導教材の閲覧や教材用パーツラ
イブラリーの参照は,Samba によるファイル共有サー
ビスで実現している。
4.
製作者の意図が対象者に正しく伝わり,製作者の思
いを対象者が共感することによって,その指導教材は
生きてくる。つまり,単純に数値で表すことができな
い感性が重要になってくる。
また,この表をよく見ると,促進や推進するグルー
プと防止や改善を促すグループの2つに分けることが
できる。このように感性情報に基づき,アーカイブの
分類作業を行った。
3.1 パーツライブラリーの整備
構築した教材用パールブラリーは,カラー・モノク
ロ合わせて約 20,000 個以上ある。その容量は約 2.5GB
にもなる。それらのパーツはカラー14 種類,モノクロ
10 種類である。その内訳は食育,保健,保育などの分
野別に分類されている。特に食育を中心として収録し
たので,食育用だけでもカラー2,700,モノクロ 2,000
個がある。さらに食育のカラー用は,食べ物,飲み物,
調理,知識などの 5 つに細分化されている。
これらの教材用パーツライブラリーを充実させるこ
とにより,学習教材の作成が容易となった。指導目的
をイメージするパーツが豊富にあるため,9割以上の
指導教材がパーツライブラリーを利用している。これ
までは,適切なパーツ探しに時間を費やしている傾向
があった。この教材用パーツライブラリーが充実して
まとめ
この栄養指導教材とパーツライブライーの構築によ
って,半期と限られた条件で教材作成を実践している
にも関わらず,計画されたカリキュラムをこなすこと
ができた。このように短い期間であっても,環境整備
と指導法の工夫によって,栄養教育や栄養指導が行え
ることが証明できた。余裕を持って授業の組み立てや
指導プレゼンテーション技術を修得も不可能ではない。
この授業の目的は将来の栄養教育者または教育者と
なるための教育・指導技術を修得し,学習者自身の事
例発表などに指導活動に自信を持たせることにある。
途中で脱落することもなく最後まで完成させた学習者
はこの演習の主旨をよく理解し,良く努力した。その
結果,受講生は栄養教育や栄養指導が行えるだけの指
導技術の修得ができたものと考える。
参考文献
(1) 友竹浩之,栢下淳,早川麻理子,太田房雄: 栄養士現場
で必要とされる情報処理技術に関する調査 ,栄養日本,
47 巻,10 号,pp32-35(2004)
.
(2) 寺岡千恵子,章志華: 女子短大の栄養士養成課程におけ
る栄養情報処理教育の試み ,山陰女子短期大学研究紀要,
28 巻,pp27-35(2007)
.
(3) 神田あづさ,田中雅章: 栄養教育・指導技法の改善 ,
IPSJ Symposium 2008,28 巻,pp61-67(2008)
.