海外調査部会 米国訪問調査報告 - 日本教育工学振興会Japet

海外調査部会 米国訪問調査報告
本会常務理事・事務局長 森本 泰弘
1. 調査概要
2. 学校訪問
米国は、州や学校区の独立性が強く、全体としての
デンバー学区の小学校 1 校、中学校 1 校を訪問し、
動向が把握しにくい国であるが、近年、標準カリキュ
授業を見学した。いずれも ICT 活用に熱心な学校で
ラム Common Core State Standards の普及が進んで
ある。
いる。この結果どのような変化が生じているのかを確
かめるため、コロラド州の教育委員会、同州デンバー
(1)Grant Beacon Middle School
市の学校を訪問するとともに、テキサス州オースティ
ノート PC(Chromebook)による生徒 1 人 1 台の環
ン市で開催された TCEA 展示会を視察した。
境を実現している。Chromebook を利用しているのは、
①安価であること、②クラウド上で簡単に情報共有が
できることがその理由である。
(1)日程と訪問先
今回の訪問調査は、表1に示す日程で実施した。
ラスをいくつかのグループに分けた授業を行うことが
表1 日程と訪問先
月日
訪問先等
1月31日 ㈰ 移動(成田~デンバー)
午前 Grant Beacon Middle School 訪問
2月1日 ㈪
午後 Sabin World Elementary School 訪問
午前 コロラド教育局訪問
2月2日 ㈫
午後 デンバー学区教育委員会訪問
2月3日 ㈬
移動(デンバー~オースティン)
午後 TCEA 展示会見学
2 月 4 日 ㈭ 終日 TCEA 展示会見学
2月5日 ㈮
米国の学校は一般に、一斉授業ばかりではなく、ク
移動(オースティン~デンバー)
移動(デンバー~成田)
多い。この学校でも 1 クラスを、
教師が教えるグループ、
児童同士で協働学習を行うグループ、PC を利用して個
別学習を行うグループなどに分けて授業を行っている。
様々な授業パターンがあり、Blended Learning と総称
している。
Common Core に基づくカリキュラムを実施してい
るが、教える内容が難しすぎる場合には、生徒のレベ
ルに合わせた指導をしている。
学習管理システム(LMS)としては、ピアソン社の
Engrade を利用している。また、Moodle を利用した
成績管理も行っており、生徒 1 人ひとりに適した学習
指導に生かしている。
2 月 6 日 ㈯ 帰国
この学校では、ICT の活用だけではなく、人格形成
のための教育(Charcter Traits)も行っており、①リー
(2)参加者
13 の企業・団体から 20 名(事務局を含む)
、教育関
ダーシップ、②忍耐力、③正直さ・誠実さ、④好奇心、
係者 2 名、計 22 名が参加した(写真 1)
。
⑤優しさを持つよう指導している。
写真1 参加者集合写真(コロラド教育局にて)
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(2)Sabin World Elementary School
この学校でも、1 クラスを 3 グループに分け、目標別
4. TCEA 展示会
に PC も使いながら授業を行う Blended Learning を実
TCEA(Texas Computer Education Association)
践している(写真 2)
。個々に合った学習(Personalized
は、テキサス州に本拠地を置く ICT 利用推進の団体で
Learning)にも力を入れている。Chromebook が多数
ある。展示会には、約 450 の企業展示ブースが設置さ
整備されており、児童には Google ID が付与されてい
れ、テキサス州内の教育関係者を中心に 12,000 人程度
る。自宅への持ち帰りは行っていない。
の参加者があったと推測される(写真 3)
。しかし、会
少人数グループの授業を行うために、学校専任の教
場が広いため、それほど混雑しているという感じはな
師のほかに、ほぼ同数の教員養成系の大学院生も教え
く、じっくりとブースで話をすることができた。
ている。また、電子黒板と書画カメラは、ほぼすべて
の教室に整備され利用されているが、授業では、日本
のように広い黒板やホワイトボードとの併用は行われ
ていない。
この学校では、国際バカロレア教育も実施している。
ただし、小学校では資格の取得はなく、上級学校の国
際バカロレアにつながる活動をしている。世界の人々
がお互いに理解しあえるように、積極性、思いやり、
写真3 TCEA展示会風景
継続性を持った学習者になるように指導している。
(1)ハードウェア
①電子黒板は、プロジェクター型よりも液晶ディスプ
レイ型が主流になっている。
②衝撃吸収用のシリコンカバーや充電保管庫などタブ
レット関連製品が多く展示されていた。
③タブレットと連携した理科用のワイヤレスセンサー
製品が多く出展されていた。
写真2 Sabin World Elementary Schoolの授業風景
(2)コンテンツ、学習管理ソフトウェア
3. Common Core とコンピュータテスト
Common Core State Standads についてコロラド
教育局(Colorado Department of Education)で話を
①VR 技術利用教材:alive STUDIOS(KAPLAN)
②学習管理・評価を行うソフトウェアを多く見かけた
・ All in Learning:形成的評価プラットフォーム
・ Hapara:学習状況を管理・共有するツール
伺った。
コロラド州でも Common Core State Standards( 幼
(3)クラウド、バックエンドシステム
稚園から 12 年生までの国語と算数・数学が対象 ) を導
生徒に関する様々な情報を学校や学区が管理するた
入している。コロラド州では、その評価のために、コ
めの SIS(Student Information System)とそれに連携
ンピュータテスト(CBT)として PARCC(Partnership
する LMS が多く出展されていた。
for Assessment of Readiness for College and
①LMS
Careers)を採用している。 GradPoint(ピアソン)
、Engrade(マグローヒル)
、
PARCC は、コンピュータテストではあるが、まだ
SAFARI Montage
適応的なテスト
(Adaptive Testing)
にはなっていない。
②SIS
また、すべての学校に必要な PC が十分整備されてい
Infinite Campus、Aeries
るわけではないので、コンピュータテストが実施でき
ない学校もある。したがって、ペーパーテストも併用
されているのが実情である。
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