2008 年度『基本的人権Ⅰ』第 7 章に関する練習問題・解説 ⑴ 基礎知識の確認〔包括的基本権〕(昭 57 年度司法試験) ⑵ 学説と判例の整理〔包括的基本権〕(平成 18 年度司法試験) ⑶ 幸福追求権に関する学説の整理(平成 7 年度地⽅上級試験) ⑷ 幸福追求権に関する判例〔京都府学連事件〕(平成 20 年度法学検定試験問題集〔3 級⾏政 コース〕) ⑸ 包括的基本権に関する判例(平 17 年度司法書⼠試験) ⑹ 幸福追求権に関する学説・判例の整理(平成 14 年度地⽅上級試験) ⑺ 包括的基本権に関する総合問題(平 5 年度司法試験) 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 1 (昭 57 年度司法試験) 【基礎知識の確認(包括的基本権)】 日本国憲法第 13 条に関する次の甲・乙二つの見解と、A~E の五つの記述の組合せで論 理的に結びつかないのはどれか。 甲:日本国憲法第 13 条は、具体的な国民の権利および自由の根拠規定ではなく、公共の福 祉による制約規定である。〔幸福追求権の具体的権利性を否定する説〕 乙:日本国憲法第 13 条は、具体的な国民の権利および自由の根拠規定であり、公共の福祉 〔幸福追求権の具体的権利性を肯定する説〕 による制約規定である。 ■ 具体的権利性 A:日本国憲法第 13 条の権利および自由は、裁判規範として保障規定の意味を有しない。 ( 「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の略称)が独 13 条に定める「幸福追求権」 立した基本権であり、かつ司法救済が可能な権利(=具体的権利)であると解する場合、こ の幸福追求権を独自の根拠とする違憲主張が成り立ちうることになり、最高裁も京都府学 連事件(最大判 44・12・24)で、具体的権利性を前提とした憲法判断を行っている(大石眞 『憲法講義Ⅱ』47 頁以下などを参照)。本選択肢は、このような具体的権利性を否定するもの であるから、甲と結び付く。 ■ 包括的基本権/補充的権利性1 B:日本国憲法第 14 条以下の個別的基本権で保障されている権利および自由は、第 13 条の 自由および権利では保障されていない。 基本権は憲法典制定時の問題関心に沿って定められるものであるが、時代状況の変化に より、新たに基本権として承認されるべき価値が出てくることを否定するものではなく(高 橋和之『立憲主義と日本国憲法』120~123 頁など)、それ以外の「新たな基本権」が生み出さ れる余地を認めている。アメリカ合衆国憲法修正 9 条は明文でその旨を定めているが、わ が国で同じ機能を営むのが 13 条の「幸福追求権」である(尾吹善人『日本憲法――学説と判 例』224~226 頁、大石・前掲書 39 頁) 。したがって、13 条の幸福追求権は、単に 14 条以下 の基本権の総和ではなく、それ以外の権利・自由をも包括的に保障する意味をもつ「包括 的基本権」であって、新たな個別的基本権を生み出してゆく母胎としての役割を演ずる。 その意味で、幸福追求権は憲法 14 条以下の個別的基本権を補充する機能を営んでおり、こ の点に着目して「幸福追求権の補充的権利性」が語られる。このように、幸福追求権の包 括的権利性(および具体的権利性・補充的権利性)を承認する通説の立場(乙)は、本選択 肢の記述とは結び付かない(個別的権利・自由も「包括的に」保障されているのだから)。 それに対して甲は、そもそも幸福追求権の具体的権利性じたいを否定するのであるから、 ①14 条以下の個別的基本権、及び②「新たな具体的基本権」を包括的に保障する機能を幸 福追求権に認めていない。それゆえ、本選択肢は甲と結び付く。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 2 ■ 内在的制約 C:日本国憲法第 13 条に定める公共の福祉の原則は、同第 13 条の自由および権利を制約す る。 これと乙(幸福追求権の具体的権利性を肯定する説)が結び付くか、という設問であるが、 ⑴ 13 条の幸福追求権は 14 条以下の個別的基本権を包括的に保障する基幹的権利であり、 ⑵ 同条にいう「公共の福祉」は、基本権全体の内在的制約を定めるものだ、と解されて いる(現在の「一元的内在制約説」) という通説の立場からも分かるように、本選択肢は乙と結び付く。 ■ 補充的権利性2 D:憲法第 13 条の権利および自由は、第 14 条以下の各個別的基本権に含まれない権利およ び自由を補充的に保障する。 「B」の解説で述べたように、幸福追求権が「補充的権利性」を認められるためには、 その前提として、幸福追求権が具体的権利性(=「司法救済を求めうる基本権」であるという 性質)を有していることが前提とされている。それゆえ、本選択肢は乙と結び付くはずであ り、甲とは結び付かない。 ■ 包括的基本権/補充的権利性3 E:日本国憲法第 14 条以下に規定されている各個別的基本権に含まれない権利および自由 は憲法上保障されない。 →「B」の解説を参照。本選択肢は乙の立場と結び付く。 *以上より、正解は「4」である。 1 甲と A 2 甲と B 3 乙と C 4 甲と D 5 乙と E 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 3 (平成 18 年度司法試験) 【学説と判例の整理〔包括的基本権〕】 次の文章は、生徒の人権に関する教師と学生の問答である。学生AからEの説明のうち、 正しいものは幾つあるか。 教 師:今日は、校則による生徒の人権侵害の問題を考えてみましょう。例えば、バイク について、免許を取らない、乗らない、買わないの「バイク三ない原則」を定めた校則 があります。この校則は生徒の「バイクに乗る自由」を制限するものですが、この自由 はそもそも憲法上の自由といえますか。 学生 A:憲法第 13 条の保障範囲について、学説では、人間のあらゆる行為を広く保障対象 とする一般的行為自由説と、個人の人格的生存に不可欠の権利に限られるとする人格的 利益説の二つが有力です。前者は、人間の全ての行為が憲法で保障されるというのです から、バイクに乗る自由も当然保障されます。人格的利益説では、人格との結び付きが 問題になりますが、バイクに乗っているその生徒自身にとっては人格的生存に不可欠と いえるので、同説でもバイクに乗る自由は憲法上保障されていることになります。 一般的行為自由説と人格的利益説の説明自体は、それぞれ正しいといえる。もっとも、 ... 一般的行為自由説の本来の出発点が、 「裁判所が新たな基本権を創造しうるのは、自由権に 限られる」とする点にあったことには、留意しなくてはならない(裁判所が社会権等の国務 請求権を「新しい基本権」として承認することは、裁判所の法創造能力の限界を超えるからであ る)。その意味で、 「一般的」行為自由(=フランス人権宣言 4 条にいう「他者を害しない限り 何でもする権利」)ではなく、 「自由権で、かつ、14 条以下の個別的基本権と同じぐらいの重 要性をもつ権利」に限定しようとする尾吹説は、再評価される余地を秘めている(尾吹・前 掲書 228~229 頁)。 学生 A の発言に戻れば、 「バイクに乗る自由」まで「人格的生存の不可欠」と言っている 点で、明らかに言いすぎである。 教 師:バイクに乗る自由が憲法上の権利だとしても、未成年者は大人と違った制限が可 能ではありませんか。道路交通法が 16 歳にならなければ原付免許を取得することはでき ないと定めている点はどうでしょう。 学生 B:一般的行為自由説は、保障範囲は広いのですが、制限を広く認めます。道路交通法 の規定も緩やかな基準で審査するので合憲とされます。これに対して、人格的利益説は、 制限立法の合憲性を厳格な基準で審査するので、道路交通法の規定は違憲となります。 前半は正当で、「麻薬吸引の自由」 「蓄髪の自由」「喫煙の自由」などを基本権野市内容と して認めたとしても、実際には法律による禁止・制限を課すのが当たり前のことが多すぎ て、基本権というものの「基本性」を相対化する役割すら果たしかねない、というのが通 説である。もっとも、人格的利益説から見れば一見つまらないような「自由」であっても、 当人が挫折・失敗を繰り返しながら「善き生」を選び取ってゆくという人間観に立つ場合、 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 4 このような自由も基本権として保障すべきだという一般的行為自由説の立場が出てくる。 換言すれば、一般的行為自由説は「弱い人間像」を前提にしている(高橋・前掲書 121~122 頁)。 学生 B の発言の問題点は後半部分にあり、 「人格的利益説」だから司法審査基準が当然に 厳格化される、というわけではない。 教 師:校則で生徒の人権を制限できる理由は何ですか。 学生 C:最高裁判所は、以前、大学は、国公立であれ私立であれ、学生の教育と学術の研究 を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がなくても、設置目的を達成する ために必要な事項を学則等で一方的に制定し、これによって学生を規律する包括的権能 を有する、と述べました。下級審の判決では、高校の場合にも、最高裁判所のこの考え 方に沿った判断が示されています。 これは、今年の講義では触れなかった「特別権力関係」 「部分社会の法理」に関する議論 の一部である。最判 49・7・19 で最高裁は、学生 C の説明内容通りのことを判示しており、 本選択肢の記述は正しい。 教 師:私立高校の校則にも憲法の人権規定が直接適用されるのですか。 学生 D:憲法の人権規定は、本来、国や公共団体と個人の関係を規律するもので、私人間で は直接適用されないのが原則ですが、最高裁判所は私立高校も「公共的な施設」であり、 国の財政援助を受けているので、私立高校の行為を国の行為と同視して、人権規定が直 接適用されるとしています。 これは「基本権の私人間効力(第 5 章)」に関する問題であるが、最高裁がこのような「私 立学校(という社会的権力)=国家」という議論(「社会的権力説」)を採用していないのは、 三菱樹脂事件/上告審判決(【資料 25】)に照らして明らかである。この点については、第 5 章の練習問題を参照されたい。 教 師:そうすると、「バイク三ない原則」の校則に違反したことを理由とする退学処分は 許されないことになりますか。 学生E:そのとおりです。ただし、最高裁判所は、退学処分は違憲無効であるとしていま すが、自主退学の勧告については違憲でも違法でもないとしているため、実質的な退学 処分の抜け道になっていると批判されています。 私立大学と学生との関係は「私人間」の問題であるから、基本権・憲法秩序は直接及ば ないのが原則である(直接効力説の否定)。であるとすれば、退学処分が「違憲」無効とは ならないのが原則である筈である。憲法秩序の効果が及ぶとしても、それはあくまで私法 の一般規定を通じたものでなくてはならない(間接効力説)、というのが通説・判例である (ただし、基本権規定が適用されているかどうか、という問題としてみる限りは、 「間接効力説」 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 5 は論理的には「基本権規定無適用説」であるはずである。大石・前掲書 30 頁等を参照)。 *以上より、正しい記述は C のみであり、正解は「1」である。 1 1個 2 2個 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 3 3個 4 4個 5 5個 6 (平成 7 年度地方上級試験) 【幸福追求権に関する学説の整理】 憲法 13 条後段については、前段の「個人の尊厳」原理と結びついた「幸福追求権」を規 定しており、その内容については、 「人格的自律の存在として自己を主張し、そのような存 在であり続けるうえで必要不可欠な権利・自由を包括する主観的権利である」と解する説 が主張されている〔人格的利益説〕。 次の A~E は、この見解を支える理由、あるいはこの見解に対する批判を述べたものであ るが、これらを理由と批判に正しく分類しているのはどれか。 A:「幸福追求権」は具体的内容を持った法的権利というには漠然としている。 上記の人格的利益説が「包括的基本権」として幸福追求権を位置づけていることの意味 は、14 条以下の個別的基本権に該当しない自由・権利であっても、時代状況の変化により、 13 条を根拠に保障する(=「新たな基本権」として承認する)途を開こうとする点にある。 すなわち、13 条を独自の根拠とする違憲主張を認める(=具体的権利性を認める)わけであ るから、本選択肢の記述は、これと対立する内容をもつ(=批判に該当する)。 B:アメリカ独立宣言時の「幸福追求権」は、個別的・具体的権利を内実とするものであっ た。 「A」の解説を参照。こちらは問題文の「人格的利益説」に沿う内容である。 C:「幸福追求権」が人格的生存に不可欠な利益を内実とするという意味で包括的であると いうことは、それが不明確であることを直ちに意味しない。 これが人格的利益説を支持する内容であることは、特に説明を要しないであろう。 D:憲法には詳細な基本的人権のカタログがあり、「幸福追求権」を具体的内容を持った法 的権利とする必要がない。 これは幸福追求権の具体的権利性を否定する見解であるから、「A」の説明に鑑み、問題 文の「人格的利益説」と対立する内容をもつ(=批判に該当する)。 E:国政の一般原理の宣言と個別的・具体的権利の保障とは両立しない。 13 条が「立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」という部分(国政の一般原理 ........... の宣言)に着目して、同条の幸福追求権の具体的権利性を否定する見解であるから、問題文 の「人格的利益説」と対立する内容をもつ(=批判に該当する)。 *以上より、正解は「4」である。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 7 (平成 20 年度法学検定試験問題集〔3 級行政コ 【幸福追求権に関する判例(京都府学連事件)】 ース〕 ) 憲法 13 条に関する以下の文中のカッコ内に入る語の組み合わせとして、正しいものを 1 つ選びなさい。 憲法 13 条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対す る国民の権利については、 ( a )に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重 を必要とする。」と規定しているのであって、これは、国民の( b )が、警察権等の行 使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人 の( b )の 1 つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容 ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを( c )と 称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼ う等を撮影することは、 憲法 13 条の趣旨に反し、 許されないものといわなければならない。 しかしながら、個人の有する右自由も、( なく、 ( d )の行使から無制限に保護されるわけでは a )のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして 明らかである。そして、犯罪を捜査することは、 ( a )のため警察に与えられた国家作用 の 1 つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法 2 条 1 項参照)、 警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者であ る個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければな らない。 ア.肖像権、 イ.国家権力、 ウ.公共の福祉、 1.a=イ、 b=ア、 c=ウ、 d=エ 2.a=ウ、 b=エ、 c=ア、 d=イ 3.a=イ、 b=エ、 c=ア、 d=ウ 4.a=ウ、 b=イ、 c=エ、 d=ア エ.私生活上の自由 *これは前出の京都府学連事件・上告審判決の判決文である。特に知識がなくとも簡単に (幸福追求権というよりも、同条の)個人の尊重原 正解できると思われるが(正解は「2」)、 理に由来する「私生活上の自由」の一環として、「みだりにその容ぼう・姿態を撮影されな い自由」を承認した判決として有名である。もっとも、そのような自由を承認したことの 意義は余り大きくなく、むしろ、犯罪捜査・証拠保全のためには本人の承諾及び令状がな くても撮影できるとした点こそが、本当のポイントである(大石・前掲書 41 頁を参照)。 以下に判決文へのリンクを示しておくので、一読されたい。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/93A81DCEC9E77E1049256A850030ABC4.pdf 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 8 【包括的基本権に関する判例】(平 17 年度司法書士試験) 憲法第 13 条に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものは 幾つあるか。 ア 何人も、自己消費の目的のために酒類を製造する自由を有しているから、製造目的の いかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上で、免許を受けないで酒類を製 造した者を処罰することは、憲法第 13 条の趣旨に反し、許されない。 これは講義で触れることができなかったが、「どぶろく裁判」として有名な判決である。 同判決によれば、「酒税法の各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを 放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるとこ ろから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わ ず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰す ることとしたものであり(昭和二八年間第三七二一号同三〇年七月二九日第二小法廷判 決・刑集九巻九号一九七二頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約さ れるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明 白であるとはいえず、憲法三一条、一三条に違反するものでないことは、当裁判所の判例 (・・)の趣旨に徴し明らかである」と述べている。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2C21C1F72E8CC9F949256A850030A991.pdf イ 何人も、公共の福祉に反しない限り、喫煙の自由を有しているから、未決勾留により 拘禁された者に対し、喫煙を禁止することは、憲法第 13 条の趣旨に反し、許されない。 これも講義で触れることができなかったが、被拘禁者喫煙禁止事件・上告審判決(最大判 昭45・9・16)の内容である。同判決は、 「喫煙の自由は、憲法一三条の保障する基本的人権 の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではな い。したがつて、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性な どの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自由の制限は、必要かつ合理的 なものであると解するのが相当であり、監獄法施行規則九六条中未決勾留により拘禁され た者に対し喫煙を禁止する規定が憲法一三条に違反するものといえないことは明らかであ る」と述べている。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/38A69EA3F5F57CD549256A850031223B.pdf ウ 何人も、個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力によ り強制されることはないという利益を有しているから、外国人に対し、外国人登録原票 に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度を定めることは、憲法第 13 条の趣旨に反 し、許されない。 これは外国人登録法違反事件・上告審判決(最①判平9・11・17)の内容で、同判決によ 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 9 れば、「弁護人武村二三夫ほか五名の上告趣意のうち、憲法一三条、一四条違反をいう点に ついて憲法一三条により個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を 公権力により強制されることはないという利益が尊重されるべきであるとしても、右のよ うな利益ないし自由も無制限なものではなく、公共の福祉のために制限を受けることは、 憲法一三条の文言から明らかである。〔・・・〕右のような立法目的の合理性、制度の必要性、 相当性が認められる登録事項確認制度は、公共の福祉の要請に基づくものであって、同制 度を定めた前記各規定は、憲法一三条に違反しない」旨、判示している。したがって、本 選択肢の記述は正しくない。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/8B1EE66DC0EF797049256A850030A92E.pdf エ 何人も、公共の福祉に反しない限り、自己の意思に反してプライバシーに属する情報 を公権力により明らかにされることはないという利益を有しているから、郵便物中の信 書以外の物について行われる税関検査は、わいせつ表現物の流入阻止の目的であっても、 憲法第 13 条の趣旨に反し、許されない。 これは憲法 21 条 1 項の「検閲」に関する問題であるから、そもそも適切な出題とは言え ない。この点については、輸入禁制品該当通知取消等請求事件(最③判平 20・2・19)を参 照。結論として、「我が国において既に頒布され,販売されているわいせつ表現物を関税定 率法 21 条 1 項 4 号による輸入規制の対象とすることは、憲法 21 条 1 項に違反しない」旨 を述べている。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080219115355.pdf オ 何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼうを撮影されない自由を有しているから、 警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼうを撮影することは、憲法第 13 条の趣旨 に反し、許されない。 →問⑷の解説を参照。京都府学連事件・上告審判決に照らし、正しい記述である。もち ろん、このあとに「しかし無制約ではない」という判示が続くことになる。 *以上より、正しい記述は「オ」の 1 個のみであり、正解は「1」である。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 10 【幸福追求権に関する学説・判例の整理】(平成 14 年度地方上級試験) 憲法に定める幸福追求権に関する記述として、妥当なのはどれか。 1 幸福追求権の性格については、人格的生存に必要不可欠な権利・自由を包摂する包括 的な権利であり、個別的人権との関係では一般法と特別法との関係に立つと解されてい る。 →人格的利益説に関する通説的記述であり、その意味で正しいが、ただし、「一般法=特 別法」のアナロジーが不適切であることについては、高橋・前掲書 122 頁を参照。 2 幸福追求権が保障する権利の範囲については、散歩、自動車の運転などのあらゆる生 活領域における行為の自由を保障していると解するのが通説である。 .. 一般的行為自由説が多数派の支持する説でないことを確認させる問題であるが、余り意 味のある出題とは思えない。 3 幸福追求権から導き出される人権として、最高裁判所の判例が認めたものには、プラ イバシー権のほかに、環境権、アクセス権、自己決定権がある。 環境権は「新しい基本権」としてしばしば主張されるが、「侵害」「環境」の意味や、権 利者の範囲をめぐって不明確な権利であるに止まっており、具体的・明確な基本権類型と して定式化された主張は見られない。それゆえ、このような「環境権」が判例で認められ た例は一件も存在しない(大石・前掲書 48 頁などを参照)。 4 京都府学連事件で最高裁判所は、国家権力に対して保護されるべき私生活上の自由の 一つとして、何人もその承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由を有し、この 自由は、公共の福祉の要請によっても制限されないと判示した。 →問⑷の解説、及び問⑸「オ」の解説を参照。検閲の禁止の要請などとは異なり、「みだ りに容ぼう等を撮影されない自由」が一定の制約に服するのは当然である。 5 ノンフィクション「逆転」事件で最高裁判所は、前科等にかかわる事実を公表されな いことはプライバシーの権利であると認め、さらに表現の自由との関係では、プライバ シー権が当然に表現の自由に優越すると判示した。 そもそも同事件(最③判平元・9・5)は、私人間の問題(=私人間における基本権的価値の .... 衝突の問題)であり、 「憲法上のプライヴァシー権」の問題そのものではない(むしろ前科照 会事件(最③判56・4・14)の方が適切である)。その上で裁判所は、 「前科等にかかわる事実 については、これを公表されない利益〔私法上のプライヴァシー権〕が法的保護に値する場 合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にか かわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 11 者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者 の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照 らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかか わる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った 精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない」旨を判示している。 それゆえ、本選択肢の後半の記述は明らかに誤りである。 *以上から、まがりなりにも妥当な記述といえるのは「1」のみである。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 12 (平 5 年度司法試験) 【包括的基本権に関する総合問題】 次の 1 から 5 までのうち、B の記述が A の見解に対する反論となっていないものが 1 つ ある。それはどれか。 1 A 憲法第 13 条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は、単に自由権のみ ならず社会権をも含むものと解すべきである。 B 憲法は、社会権に関する一群の規定の冒頭に憲法 25 条の生存権規定を置いて、その 総則的性格を明示している。 これは論理の問題で、 「25 条が社会権に関する総則だから、13 条は「社会権」に関する 総則たる性質をもたなくてもよい」という B の命題は、A に対する反論となっている。 2 A 憲法第 13 条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」には、実体的な権利 ばかりでなく、適正な手続的処遇を受ける権利をも含むものと解すべきである。 B 憲法第 13 条は、憲法に個別に列挙されていない基本的人権を包括的に保障した規定 とみるべきであるところ、適正な手続的処遇を受ける権利は、憲法第 31 条により保 障されている。 これも論理の問題で、A が幸福追求権に「適正な手続的処遇を受ける権利」が含まれると するのに対し、B は「それは憲法 31 条の個別的基本権により保障されているので、幸福追 求権の補充的性格からして、幸福追求権の保障内容ではない」としており、有効な反論と なっている。 3 A 憲法第 13 条は、「公共の福祉」により基本的人権を制約するための根拠法規となり 得る。 B 「公共の福祉」を根拠に法律で基本的人権を制約することができるとなると、明治 憲法下の法律の留保と変わらないことになる。 当初、一元的外在制約説が「『公共の福祉』に適う制約立法により、基本権の内容を自由 に制約できる」と唱えたのに対して、内在的制約説・二元的制約説は、「それでは明治憲法 下の法律の留保に等しくなるので、各種基本権は、他人の権利を害さないという『内在的 制約』を受けるにとどまる(=「公共の福祉」を理由とする外在的制約〔=他者の基本権との調 整以外の理由に基づく制約〕は許されない) 」と主張したのであった(第 6 章練習問題問⑴「ア」 「イ」の解説を参照)。その意味で捉える限り、B は A に対する反論となっている。 4 A 憲法第 13 条は、裁判上の救済を受け得るような具体的権利の根拠規定と解すること はできない。 B 憲法は、詳細な人権のカタログを設けているが、 「個人の尊厳」原理を実質的に保障 する上で必要不可欠な権利・自由をすべて個別に挙げることは困難である。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 13 これは、とくに解説の必要はないであろう。 5 A 憲法第 22 条第 1 項、第 29 条第 2 項のように、憲法が特に「公共の福祉」による制 約を認めている場合のほかに、憲法第 13 条を根拠に基本的人権が「公共の福祉」に より制約されていると解すべきではない。 B 憲法第 13 条は、すべての権利・自由の基礎となる個人の人格を国政において尊重す べきである旨を宣言した規定であって、いわば訓示規定と解すべきである。 A は「3」で出てきた内在的制約説・二元的制約説の主張で、先の主張に続けて、 「ただ ・29 条(財 し、憲法典の明文で「公共の福祉による制約」をうたう 22 条(職業選択の自由) 産権)などのような経済的自由権(及び、国家権力による積極的な背策を求める権利であり、 したがって国家権力の政策的な判断に基づく規律をそもそも予想している社会権)は、 「公共 の福祉」による制約を受ける」と考える立場である。そのため、12 条や 13 条の「公共の 福祉」規定は、法的効果を持たない単なる訓示規定(心構え)を説くに過ぎない、とする のであって、B の内容はまさしく A と同じ立場からのものである。それゆえ、B は A に 。 対する反論となっていない(以上につき、第 6 章練習問題問⑴「イ」の解説を参照) *以上より、正解は「5」である。 基本的⼈権Ⅰ 練習問題・解説 14
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