Festival space design

プロジェクト報告書(最終) Project Final Report
提出日 (Date) 2012/01/18
祝祭空間デザイン
Festival space design
b1009083 相内祥平 Shohei Aiuchi
1 背景
コンテンツの 3 つの要素に分類し,本プロジェクトでは
祝祭空間の演出プロセスのモデル化を目標とした.
今日,全国各地で開催されるイベントは規模や開催意
図や出展物等の祝祭空間の形態は様々である.しかしそ
3 目標達成へのプロセスの概要
れらの中には主催者や各出展者の間でコンセプトの共有
前述の目標を達成するためのプロセスとして,前期で
が十分になされていなかったり,コンセプトデザインの
は 4 月から 6 月中旬にかけて祝祭空間の題材である科学
統一がされていないことで,来場者の受けるイベントの
祭のテーマの分析,ベイシックエレメントとアプリケー
印象にぶれが生じてしまう場合がある.また,イベント
ションの制作を行った.テーマの分析から連想されるビ
会場内に展開される装飾やサインは既設の広告物との
ジュアルイメージを制作し,そこからテーマカラーやベ
差別化が難しくなっている.そこで本プロジェクトでは
イシックエレメントを制作した.6 月下旬からは本プロ
以上の従来例を踏まえて祝祭空間デザインを学ぶ.祝祭
ジェクトでは空間演出グループと AR グループに別れ
空間とは,人々が公共空間で行われる非日常的な催事を
て活動を行った.空間演出グループでは会場内の装飾や
通じて社会的な共感を得ることのできる空間である.祝
サイン計画などを担当した.AR グループでは科学祭を
祭空間におけるデザインとは,設定されたあるテーマに
広報するため AR 技術を取り入れたうちわと,科学祭
沿って演出することで効果が生まれる空間である.テー
のメインイベントである絵本カーニバルに合わせた AR
マに基づいた祝祭空間デザインを実現するために,テー
絵本の制作を担当した.空間演出グループは会場内のサ
マ分析の結果から制定したベイシックエレメントを用い
インを,壁などに貼ってある既存のサインに比べ,注視
てアプリケーションを展開する手法を行う必要がある.
を得やすい床面にサインを配置することにした.床面サ
その手法を用いた祝祭空間を本プロジェクト中で実装
インを制作するに当たり,サインが人へどのような効果
し,学ぶことが本プロジェクトの目的である.
を及ぼすのか検討するための実験を行った.空間演出グ
2 到達目標
ループは床面サインの評価実験を主に行い,アプリケー
ションの制作も行った.AR グループは AR うちわのプ
本プロジェクトでは,はこだて国際科学祭 (以下科学
ログラミングや,カメラをかざした際に表示される 3D
祭) の広報計画,空間演出,それに含まれる「絵本カー
モデルの制作を行った.科学祭開催までの期間それぞれ
ニバル」と「AR うちわ」,「AR 絵本」を担当した.科
のグループに分かれて制作を続けた.8 月の中旬に科学
学祭を演出するにあたり,利用者数の増加,祝祭空間の
祭のメイン会場である五稜郭タワーアトリウムへの本プ
質的向上を目標とした.広報計画は利用者数の増加を目
ロジェクトの空間演出を提示する検討会が設けられ,主
的として行った.空間演出は,利用者数の増加及び,祝
に床面サインや AR うちわの検討を行った.この検討
祭空間の質的向上を目的として行い,空間演出によって
会が高い評価を得,科学祭で本プロジェクトの制作物の
科学祭を知ってもらうことや,来場者が会場内のサイン
設置が実現した.科学祭の会期中は来場者の発話や滞留
やイベントを熱心に鑑賞することを狙い,行った.絵本
傾向の記録をとり,評価実験を行った.
カーニバルでは,流動経路を意識した配置を行い,多様
後期では科学祭の反省や実験の評価分析作業を行っ
な読書空間の提供や絵本の充実を目的とした.AR うち
た.メインイベントであった絵本カーニバル,AR うち
わは科学祭の広告物として制作し,AR 絵本は祝祭空間
わ,AR 絵本,床面サインの評価分析を行った.それぞ
の質的向上のために行った.以上の項目を広報,空間,
れ来場者の年齢や性別など量的な分析から,来場者の滞
• 健康コラム,クイズの問題制作
留傾向などをまとめた質的分析を行った.以上の評価分
• 最終発表ポスター制作
析をまとめ,本プロジェクトの目標の一つである祝祭空
成田の担当制作物は以下の 4 点である.
間の演出プロセスのモデル化を行った.本プロジェクト
が行った活動を空間,広報,コンテンツの 3 要素に分類
• VisualC++ での AR の実装
し,時系列順に何を行ったのかを可視化した.
• AR マーカの調整とテスト
4 目標達成へのプロセスの詳細
• AR 絵本の制作
• 最終発表ポスター制作
今回,祝祭空間を演出するために,本プロジェクトメ
ンバーそれぞれに担当課題として科学祭における制作
中村の担当制作物は以下の 5 点である.
物の制作を割り当てた.また,本プロジェクトの活動内
• 絵本カーニバルの日付ロゴ制作
容,目的などを発表する場として中間発表会,五稜郭タ
• 中間発表空間の提案
ワーアトリウムへの検討会,最終発表会があったのだ
• 中間,最終発表用原稿の制作
が,それぞれにおける発表に必要な制作物の担当も割り
• 演台装飾の制作
当てた.
• 五稜郭タワーアトリウムプレゼン資料制作
各個人の主な担当制作物は以下のとおりである.
相内の担当制作物は以下の 5 点である.
新沼の担当制作物は以下の 3 点である.
• Metasequoia を用いた 3D モデル制作
• VisualC++ での AR の実装
• VisualC++ での AR の実装
• 中間発表用の台本制作
• 最終報告書の章立て
• 最終発表空間の提案,台本制作
• 最終発表空間の提案
野崎の担当制作物は以下の 3 点である.
• AR ポスター制作
• AR うちわ両面の最終調整
石田の担当制作物は以下の 5 点である.
• 中間発表用のイージーバナーの制作
• 中間報告書の章立て
• 中間及び最終報告書の取りまとめ
• 科学祭用の全イージーバナー制作
• 成果発表用 Flash の制作
• 中間,最終報告書の章立て
• 成果発表会での展示物制作
堀内の担当制作物は以下の 6 点である.
• キャッチフレーズの考案
• 中間発表空間の提案
• 床面サインの加工,素材の管理
蝦名の担当制作物は以下の 6 点である.
• ベイシックエレメントの制作
• AR うちわのデザインの原案制作
• 床面サイン配置計画の提案
• 成果発表用 Flash の制作
各課題を達成するために本プロジェクトでは初めに科
• 中間発表ポスター制作
学祭のテーマ「はこだて・健康・みらい」の分析に力を
• 科学祭受付用イージーバナー制作
入れて取り組んだ.高田 AD のアドバイスを参考に,健
• 誘導ラベルサイン制作
康とかけはなれたワードから健康のイメージを連想し,
• 最終発表用スライドの制作
夏の原風景のようなビジュアルイメージにたどり着い
佐藤の担当制作物は以下の 4 点である.
た.そのビジュアルイメージから今回の科学祭のテーマ
カラーである赤,水色,緑,茶の 4 色を決定することが
• 巨大バナーとステージバナー制作
• 色つきドーナツと健康コラム,クイズの制作
できた.明確なビジュアルイメージを確立し,テーマカ
ラーを制定したことによって,後の制作物のデザインの
た.主に床面サインと AR コンテンツの発表を行った.
統一をすることがねらいであった.ベイシックエレメン
床面サインの検証結果や素材の説明をし,高い評価を得
トとしてテーマカラー 4 色と科学祭のベイシックカラー
ることができ科学祭での床面サインの使用が実現した.
の 1 色を合わせたパッチワーク柄を使用し,制作物のデ
AR コンテンツも高い評価を得ることができた.これら
ザインを統一することができた.以上のようなプロセス
の制作プロセスを経て 8 月に科学祭が開催された.開催
を経て,本プロジェクトのメンバーが各制作物の制作を
中も本プロジェクトが制作した制作物が来場者にどのよ
した.
うな影響を与えているのか,来場者の発話や行動の記録
またサイン計画では前章でも述べたが,壁などに貼っ
をとった.
てある既存のサインに比べ,注視を得やすい床面にサイ
後期では科学祭で配布したアンケートやプロトコルの
ンを使用することとした.科学祭のメインイベントの絵
データをもとに絵本カーニバル,床面サイン,AR コン
本カーニバルでは多くの子どもが来場することが予想さ
テンツの評価分析を行った.それぞれの項目についてア
れるため,子どもを対象とした遊びを誘発するサイン計
ンケート結果からは来場者の年齢や性別,関係など量的
画として検討した.制作物は色つきドーナツと呼ばれる
な分析を行い,プロトコルデータからは来場者の滞留傾
大中小の大きさのわっかのサイン,健康に関するクイズ
向や発話から質的な分析を行った.分析結果から本プロ
やコラム,動物の足跡,来場者を誘導させるための誘導
ジェクトの活動内容を空間,広報,コンテンツの 3 つ
ラベルであった.以上の床面サインを科学祭で効果的に
の分類にし,祝祭空間の演出プロセスのモデル化を行っ
実現するために数回にわたる検証実験を行った.検証実
た.祝祭空間の演出プロセスに適応させることによって
験から床面サインには人を誘導するサイン,人を集合さ
本プロジェクトの目標である利用者数の増加,祝祭空間
せるサイン,会場を盛り上げるためのサインの 3 つに
の質的向上が祝祭空間の期待される効果である.本プロ
分類できることがわかった.また床面サインを実装する
ジェクトは以上のように活動してきた.
に当たり素材の実験を行った.PVC ビニールシートと
5 結果
コールドラミネート呼ばれる素材を 1 週間程度外に貼
り,耐久性の検証した.検証結果から十分な耐久性と安
ここでは本プロジェクトが担当した課題である,科学
全性が確認できたことから実際の科学祭で使用すること
祭の広報計画,会場装飾,絵本カーニバル,AR うちわ,
を決めた.
AR 絵本の評価分析と祝祭空間プロセスのモデル化につ
AR グループは AR コンテンツを制作するためにプロ
いて述べる.今回の祝祭空間の体験者数はのべ 39,125
グラミングは言語は Processing,3D モデルの制作では
人だった.この数値は昨年度の科学祭の来場者数を上回
Metasequoia を使用した.AR コンテンツは科学祭で来
る数値であり,今回プロジェクトが行った広報計画が効
場者に非日常的な体験をしてもらうために制作した.特
果的だったことが言える.またベイシックエレメントで
に AR うちわは特殊広報として利用者数の増加のため
あるパッチワーク柄が来場者の印象に残り,科学祭の空
に制作した.港まつりで 200 部配布した.AR 絵本は絵
間演出も効果的に行うことができた.
本カーニバルに合わせて制作した.科学祭でしか体験で
会場装飾では一般装飾と床面サインがあり,一般装
きない AR 技術を取り入れた絵本のことで,絵本の中に
飾ではイージーバナー,巨大バナー,ステージバナー,
四角い枠の模様を取り入れて,それをカメラにかざすと
ウィンドーシールを制作し,床面サインでは色つきドー
キャラクターが飛び出る仕組みである.絵本はさるかに
ナツ,健康クイズとコラム,動物の足跡,誘導ラベルを
合戦と浦島太郎を制作した.本プロジェクトでは科学祭
制作した.一般装飾は科学祭会期中に来場者が制作物を
の広報活動として,ポスターやチラシの配布,港まつり
見て発話したり,熱心な鑑賞行動が見られた.床面サイ
での AR うちわの配布を行った.ポスターは五稜郭周辺
ンでは子どもが色つきドーナツでけんけんぱをして遊ん
に配布を行った.AR うちわはおよそ 200 部配布した.
だり,健康クイズ,コラム,足跡が来場者の発話のきっ
以上の前期の活動を科学祭のメイン会場である五稜郭
かけとなっていたことから会場を盛り上げるコンテンツ
タワーアトリウムの運営会社の経営者への検討会を行っ
として効果があった.しかし誘導ラベルは科学祭会期中
に来場者を誘導する状況があまり見られなかったことか
てもらえたことで科学祭の集客効果,質の向上を果たし
ら,効果的ではなかった.このことはゲーム性のサイン
ていたと考えられる.以上より本プロジェクトでは目標
と誘導を促すサインが競合してしまったためであり,床
である利用者数の増加と祝祭空間の質的向上を達成する
面サインではゲーム性のサインと誘導を促すサインは共
ことができたと考える.
存できないと考える.
本プロジェクトでは以上の活動の結果を踏まえて祝祭
絵本カーニバルでは絵本を 300 冊展示し読書空間と
空間の演出プロセスのモデル化を行った.祝祭空間の演
して提供し,体験者数はのべ 2,800 人であった.絵本
出プロセスのモデル化とは公共空間で行われる催事の演
カーニバルは 30 代男女と 10 代男女による利用が多く
出プロセスを可視化することである.これまでの本プロ
見られた.利用方法は親子による読み聞かせや,35cm
ジェクトの活動を空間,広報,コンテンツの 3 つに分類
× 35cm 角の木製の箱のヒレルボックスに着座での読書
し,時系列順に表した.科学祭のプロセスでは 4 月か
スタイルが多く見られた.このように多くの来場者に多
らの 1 ヶ月間でテーマ分析,コンセプト設計,配置計
様な読み方をされたことは,本プロジェクトが様々な読
画の準備を行い,5 月からの 1 ヶ月間は広報,空間の面
書スタイルが可能な空間を提供できたことが理由と考え
ではベイシックエレメントの制作,コンテンツでは床面
られる.来場者の流動経路を意識し,そこに人気の本を
サインの準備,その後 6 月から本番前まではそれぞれ 3
配置した.また奥まった空間にはヒレルボックスや座布
要素で計画し制作し,本番では搬入から始まり実装,設
団を配置し,長時間の読書をしたい来場者に合わせた空
置,運営,搬出という流れである.これらのプロセスを
間作りができた.これらの空間づくりの結果,幼児によ
モデル化するために一般化すると,科学祭と同様にはじ
るヒレルボックスや座布団を使って遊ぶ情景も見られ
めの 1 ヶ月間でテーマ分析,コンセプト設計,配置計画
た.以上のことより絵本カーニバルは多くの人に利用さ
の準備を行い,次の 1 ヶ月間では広報,空間の面ではベ
れ,祝祭空間の質を向上させることができたと考える.
イシックエレメントの制作,コンテンツではコンテンツ
AR うちわは利用者数を増やすために制作した.およ
準備,その後から本番まではそれぞれ 3 要素で計画し
そ 360 人が体験した.8 月 1 日の港まつりで配布したう
制作,本番では搬入から始まり実装,設置,運営,搬出
ちわを科学祭当日持ってくる来場者がいたことから科学
が行われるというモデル化を本プロジェクトでは提案し
祭の集客効果として十分な効果があったといえる.AR
た.このモデルを祝祭空間に適応させることによって科
絵本は祝祭空間の質的向上のために制作し,主に AR う
学祭の目標として挙げていた利用者数の増加と祝祭空間
ちわを体験した人があわせて AR 絵本も体験した.体験
の質的向上が得られる.
者数はおよそ 370 人だった.絵本から飛び出すキャラ
6 今後の課題,展望
クターに惹かれ夢中になる来場者が多く見られた.また
以上の AR コンテンツ利用者が絵本カーニバルを体験す
今後の課題として挙げられるのは,20 代の集客につ
るという流れができていたことがプロトコル分析からわ
いてである.今年度の広報計画として AR うちわを特
かったため,AR コンテンツが科学祭のコンテンツの利
殊広報として制作し港まつりで配布したが,20 代の集
用のきっかけになったといえる.これらの結果が得られ
客にはつながらなかった.このことは 20 代の若者の価
たことは消費行動の仮説である AIDMA の理論による
値観が多様化しており,科学祭のコンテンツ内容が 20
ものである.AIDMA は Atteintion,Interest,Desire,
代の若者に合っておらず,興味関心を持たれなかったと
Memory,Action の頭文字であり,Attention は AR う
いうことが原因の一つとして挙げられる.そのため来年
ちわの模様により注意が向く,Interest は赤テントに
度はさらに若者に向けた肌理細やかな広報展開とコンテ
持っていくと何かが起こるというメッセージによって興
ンツの提供が課題となる.また今回行ったモデル化した
味がわく,Desire はどんなことが起きるのか確かめたい
プロセスを用いることで,来年度の科学祭ではさらなる
と欲望が生まれる,Memory は今までの流れから期待が
来場者の増加と充実した空間づくりができることを実証
生まれ,AR が記憶に残る,Action は AR コンテンツを
していきたい.
実際に体験する,以上の流れが生まれ AR に興味を持っ