YUIMAII をベースにした金融機関向けアプリケーションの紹介 新日鉄住金ソリューションズ 柏倉 賢司 新日鉄住金ソリューションズは、東京大学大学院数理科学研究科吉田教授と最新数理統 計理論の金融実務導入に関する共同研究を行っている。その共同研究では、吉田教授が中 心となって開発を進めている R のアドオンライブラリである YUIMAII の金融実務への具 体的および発展的適用方法、実務での諸問題のソリューション等について研究を行ってい る。その成果はプロトタイプアプリケーションとして実装されている。アプリケーション として提供することには次の意義がある。 ① 正しい計算方法(YUIMAII の正しい適用方法)の担保 ② GUI 上の容易な操作による効率化向上・ミスオペレーション防止 例えば、YUIMAII を使って金融実務でのオプションプライシングに適用する場合を考え る。実際、いくつかの金融機関では複雑な商品のプライシングに漸近展開を適用している。 YUIMAII は多次元 Stochastic Differential Equation (SDE)上の多次元汎関数の期待値を 漸近展開で計算する関数を備えており、これを用いてプライシングを行うには、対象商品 に応じて関数に渡す引数を決定する必要がある。この引数は、漸近展開理論、YUIMAII の 仕様そして金融商品の商品性すべてを踏まえて決定する必要があり、必ずしも容易に行え るものではない。アプリケーションでは、ユーザがそれらを意識することなく、共同研究 で検証された金融商品毎の正しい引数でのプライシングを、GUI 上の簡単な操作で行うこ とができる。また、観測データの加工や管理、ある統計処理のアウトプットを使って別の 統計処理を行うということは、統計処理全般において必要となることであり、その操作は 煩雑になることも少なくなくミスオペレーションが発生する可能性がある。アプリケーシ ョンでは、これらの処理を容易に行える画面を提供し、操作効率の向上と正確性を実現す る。 以下に、現段階でアプリケーションに実装されている機能と、その概要を挙げる。漸近 展開やパラメータ推定等の統計解析は YUIMAII の機能を利用している。尚、吉田教授と機 能追加に関する検討を継続して行っており、随時バージョンアップを行っていく予定であ る。 ① 機能名 機能概要 モデル登録 金融資産をモデリングする SDE の登録。多次元の SDE を対象。 ブラウン運動も多次元に対応し、相関構造も設定可能。 ② シミュレーション ①で登録した SDE のサンプルパス、Terminal 時点のヒストグ ラム生成。パラメータや初期値を画面で自由に設定してシミュ 1 レーションを行うことが可能 ③ ヒストリカルデータ登録 SDE のパラメータを推定する為の時系列データを登録・管理す る。取り込んだデータのグラフ表示も可能。 ④ モデルパラメータ推定 ①で登録した SDE と③で登録したヒストリカルデータから SDE のパラメータを疑似尤度による最尤法で推定する。SDE と データは登録されたものからユーザが任意に指定可能。 ⑤ 取引入力 取引を入力する画面。 ⑥ マーケットデータ登録 プライス・リスク計算で使用するマーケットデータを登録。 ⑦ プライス・リスク計算 ①で登録した SDE と⑤で登録した取引を組み合わせて、漸近展 開により、現在価値・センシティビティ・行使確率を計算。組 合せは、登録されたものからユーザが任意に指定可能なので、 同一取引を複数モデルで計算、あるいは複数取引を同一モデル で計算など自由に設定可能。 ⑧ Tick データ分析 非同期時系列データを取り込み、相関係数・共分散の計算と、 それを応用した Lead-lag 推定を行う。 各機能の関連図 2
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