読書運動通信 15 号 2004 年 4 月 22 日発行 ★特集→先生方の一冊★ はじめに 四月になり新しい年度がスタートしました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうご ざいます。いろいろなことに挑戦して、充実した4年間を送ってください。 桜が散ろうとしていますね。「伊勢物語」に、 「散ればこそ いとど桜はめでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき」 という歌があります。訳は、「散るからこそますます桜はすばらしいのです。悩み多 いこの世に、何が久しくとどまっているでしょうか、何もないではありませんか。だ から散るのも当然、ことにわずかの盛りの華やかさを愛すべきです」となります。 皆さんも散りゆく桜を愛でながら本を読んで、新しい境地を開いてみてはいかがで しょうか。 さて、今号は 2003 年秋に先生方に行った「先生方の一冊」アンケートの回答第2 回目です。音楽学部の堀先生と、日本文学科の末岡先生の回答を掲載しております。 どうぞお楽しみください。 [質問] 1. 2. 3. 4. 好きな本や作家について、ご自由にお書きください。 今、フェリスの学生に薦めたい本があればお書きください。 先生の「青春の一冊」及び、その本にまつわるエピソードをお書きください。 今から読みたいと思っている本があればお書きください。 *回答は先生からいただいたものをそのまま載せています。 音楽学部器楽学科 堀由紀子教授 1. 好きな本や作家について、ご自由にお書きください。 好きな作家はトーマス・マン。30 歳でスイスに留学した時に、たまたま荷物の中に 入れてあった文庫本の『魔の山』に引き込まれ、もっと彼の本が読みたくなった。け れど全集は絶版となっており、神田の古本屋で見つけても 12 万という値がついてい て、学生の身では手が出ない。そのうちに、少し分かるようになったドイツ語で読み 始めたが、彼の文章の長いこと、1 ページにピリオド2つ、という具合で、一向に前 に進まない。 帰国して勤め始めたフェリスの図書館で、憧れの淡い水色の全集を見つけた時には、 もう一度にフェリスが大好きになった。でもやっぱり自分の手もとに置きたいなあ、 と、頭をもたげる所有欲と戦ううちに、親しい数学者の家に遊びに行ってこれを発見。 ホコリをかぶっている様子だったので、 「これって読んでる?」から始まり、商談(?) 成立。破格の値段で譲ってくれ、おまけにとびきりの赤ワインまでつけてくれたのだ った。 三浦)一冊の本からその作家さんに引き込まれるというのは私も体験したことがあります。そして、所有欲が 湧いてきて、買ってしまったりしました。好きな本が手元にあるというのは本当に嬉しいですよね。 2. 今、フェリスの学生に薦めたい本があればお書きください。 G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』、ソポクレス『オイディプス王』 三浦)この二冊がお勧めだそうです。皆さん是非読んでみてください。そして、何故先生がこの本を勧めて くださったのか、考えてみるのも面白いのではないでしょうか。 3. 先生の「青春の一冊」及び、その本にまつわるエピソードをお書きください。 12歳の頃、ドストイェフスキーの『罪と罰』や、スタンダールの『赤と黒』など、 とにかく火のように激しい感情が呼び起こされるものが好きだった。当時新しく教え て下さることになったピアノの先生は、「一日に5時間さらわなければこの子はクビ にします。」とやはり火のように厳しく、しかしそんなにさらうなんて、考えただけ でも血の気が失せた。聞き耳を立てているであろう家人の手前、とにかく何とか音は 出さなければ、と考えた結果、楽譜の上に小説本を置き、これを読みながらピアノを 弾くという習慣が生まれた。楽譜の方が本よりもずっと大きいため、うまくずらせな がらやると結構うまく行くのである。それに、楽譜をはやく覚えてしまった方が本が 楽しめるので手っ取り早く暗譜をする癖もついた。小説の内容が激しくなって興奮し てくると、その興奮を自分でも表わすために曲の激しい部分を取り出しては弾き、 「う ーん、二つ重ねるとすごい迫力!」などと悦に入っていた。ショパンのスケルツォ第 1番や、ベートーヴェンの悲愴ソナタなどは、特に登場回数が多かった。(ピアノの 先生からは毎週のようにクビ!と叫ばれていたが・・・) 芥川の『羅生門』は、何か合わないなあと思いながらも何とかゴリ押したのだが、 『或阿呆の一生』でついにどちらも訳がわからなくなり、この楽しかった習慣にもピ リオドが打たれたのだった。 三浦)私もスタンダールの『赤と黒』を読んだ時はいろいろな感情が湧きあがってきたのを覚えています。楽譜の 上に小説を置き読みながらピアノを弾いていたなんて凄いです。今年の一冊の本から感じたものを、是非 先生にも演奏していただきたいです。 4. 今から読みたいと思っている本があればお書きください。 プルースト『失われた時を求めて』 三浦)私もこの作品は読んだことがないので是非読んでみたいです。皆さんもこの作品を読んで、先生とお話し してみてはいかがでしょうか。 おまけコラム∼先生方の一冊@大学附属図書館 著者 タイトル 配架場所 請求記号 トーマス・マン トーマス・マン全集 緑園 4F 948¦¦M28¦¦1∼12 G.ガルシア=マルケス 百年の孤独 〃 963¦¦G21 ソポクレス オイディプス王 〃 991¦¦So53 ドストエフスキー 罪と罰(ドストエーフスキイ全集 6 巻) 〃 988¦¦D72¦¦6 スタンダール 赤と黒(スタンダール全集 1 巻) 〃 958¦¦St4¦¦1 芥川龍之介 羅生門 (芥川龍之介全集 1巻) 〃 918.68¦¦A39¦¦1 〃 918.68¦¦A39¦¦16 〃 或阿呆の一生(芥川龍之介全集 16 巻) プルースト 失われた時を求めて 〃 953¦¦P94¦¦1∼13 司馬遷 史記(中国古典文学大系 10-12 巻) 〃 928¦¦C62¦¦10∼12 アレクサンドル・デュマ モンテ・クリスト伯(巌窟王)(岩波文庫) 緑園 1F BR¦¦533¦¦1∼7 ヴィクトル・ユゴー レ・ミゼラブル(ああ無情)(岩波文庫) 〃 BR¦¦531¦¦1∼4 日本文学科 末岡実教授 2. 今、フェリスの学生に薦めたい本があればお書きください。 司馬遷『史記』 中国は前漢の司馬遷がまとめ上げた一大歴史書ですが、個人の伝記物語集で、 特に「列伝」の部分がおすすめ。陰影に富んだ表現、鋭い洞察、不条理への沈痛 な憤り、歴史そして社会と人間を追求した一大文学書です。数種類の翻訳があり、 手軽に読めます。 三浦)『史記』は高校生の時国語の授業で項羽本紀や荊軻の話などを学習したのを覚えています。インパクトが 強く、今でも学習したこれらの文章が頭に焼きついて離れません。末岡先生の漢文学概説の授業でも項羽 本紀を学習しました。興味がある方は授業を履修してみてはいかがでしょうか。 3. 先生の「青春の一冊」及び、その本にまつわるエピソードをお書きください。 『巌窟王(モンテ・クリスト伯)』『あぁ無常(ジャンバルジャン)』 正義は必ず行われ、其実はいつかきっと明らかになる、という素朴な善良主義 的な感情を植えつけてくれ、今の 人を疑う ことを知らない自分を形作ってく れた、少年期に読んでいまだに心に残る物語です。 三浦)私も小学校時代に簡約されたものを読みました。私の心にもいまだに残っています。また、舞台化され たものも見てさらに心に残りました。本が苦手だという方は是非舞台を見てみてはいかがでしょうか。 いかがでしたでしょうか。今回初めて音楽学部の先生の文章を掲載させて いただきました。先生方の新しい一面を垣間見ることができたのではないで しょうか? さて、次回は諸橋先生特集です。コミュニケーション学科設立記念号としてお 届けいたします。ご期待ください。 発行:フェリス女学院大学附属図書館読書運動プロジェクトチーム
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