1. ストレスとは?

1. ストレスとは?
何らかの刺激が生体に加えられ、その際に生じた生体側の歪みをストレスと
呼んでいます。つまり生体側の防衛反応がストレスであり、その反応を引き起
こした刺激はストレッサ- と呼ばれて、ストレッサ-とストレスは区別されて
います。
また、 生体側の反応に着目して、「ストレス状態」 と 「ストレス」 に区別
します。ストレスは生体反応の極限な状態(病気)を意味します。
例えば、樹木の枝に雪が積もる状況を想定してみましょう。
① 樹木の枝に与える雪の重みがストレッサーとなります。ストレッサーと
しては物理的、化学的、生物的のほかに、最近は欲求不満 (イライラ)、心配(ハ
ラハラ)、葛藤(クヨクヨ)、悩み、などの精神的ストレッサーが特に重要視され
ています。
② 雪の重みに抵抗して、たわんだ枝を元の姿に戻そうとしているのがストレス状態
です。 頭痛、 頭重、 めまい、 疲れやすい、 やる気がしない、 怒りっぽい、
息苦しい、 吐き気、 嘔吐、 下痢、 腹痛などの症状が現れたり、起こりやすい状
態になっています。
③ 雪の重みに耐えかねて、ついに枝が折れてしまったのがストレスです。
すなわち病気です。ストレスによって発症した病気は心身症と呼ばれ、
胃・ 十二指腸潰瘍、 高血圧 などの典型的な疾患のほかに、数多くの
疾患があります。そしてこれらの疾患の共通点は、ストレッサーを放置し
ておくと、一旦治癒しても再発しやすいことです。また、程度の差はあり
ますが、心の異常を来しやすいことです。
2.
ストレッサ−対策
① 睡眠・休養
睡眠・休養はストレッサーやストレス状態に対する最高の良薬です。1週
間以上眠れない場合は、専門医に受診しましょう。航海中であれば、 医療
通信の活用をお勧めします。
【睡眠について】
睡眠は成長や老化防止、免疫力アップなどと深い関係があります。スト
レッサーに対しても重要な役割を果たしています。その理由は、
(1) 情報の整理
前日の出来事や感情などを整理することで客観性が生まれ、気持
ちも整理することができる。
(2) 忘却機能
余計なことは忘れて、ストレッサーを減らすために重要。
(3) 熟睡すると体が楽になり、ストレッサーを受け入れないようになる。
② アルコールおよびカラオケ
ストレッサーを即効的に緩和しますが、効果は一時的です。 翌日は再びス
トレッサーに悩まされます。
③ 運動および趣味
運動や趣味は積極的にストレッサーを緩和するほか、ストレッサーに対す
る抵抗力を強めます。健康の保持増進の立場からも運動はお奨め品です。
【運動が勧められる理由】
運動不足の人は、僅かな運動でも交感神経がすぐに活性化し、アドレナ
リンの分泌を盛んにして、血圧、 心拍数、 心拍出量などを増加させます。
しかし適度の運動を続けている人は、交感神経活性化の低下、副交感
神経の活動の増強がみられます。このことは、多少の緊張状態に出会っ
ても動揺しない対処能力の増大、うつ状態を改善する、など心身にいろ
いろな変化をもたらしますが、これらはすべてストレッサーに対する耐
性を高めることに繋がります。
つまり 適度の運動の継続 は、
そして、とても重要なのが精神面での効果です。
これは気持ちが元気で明るくなる、体力のついたことが自信に繋がって
積極性がでてくる、この結果ストレッサーに対して強くなったと感じま
す。
この精神的なことは、運動を続けることによって脳内におけるβ-エンドルフィン の産生
が活発になったためです。
β-エンドルフィンは精神を安定させる作用があるため、運動がストレッサーを消却する
ことになるわけです。
④
日常生活
明るく、爽やかに(こだわらない)、積極的に行動しましょう。
以上がストレッサ-の処理です。ストレッサ-を潰してしまえば、ストレ
ス状態やストレスから完全に解放されます。予防と早期手当が、何物にも
勝ります。
(付)ストレスが心に影響した場合の処置
① 心が安定していると睡眠不足になると、仕事を旱めに切り上げてタップリと眠ります。
疲れがひどい と休暇を申請して休養します。体調が悪ければ受診します。
以上の行動は、まだ、 安定している心がコントロールしているからです。
② 多忙であると
疲労を無視して、 仕事にのめり込みます。 倒れるまで仕事を続けます。
これを 「 過剰適応」 と いって、 すでに心がバランスを失った状態を示
しています。なかには疲労を気付かない人もいて、そして過労で倒れ
ます。これは心がすでにストレッサーで不安定になってしまったため
です。
・休養をとる。
・休養をとるよう勧めます。
③ 心の異常が強まると(精神障害との区別が必要になります。)
表情がこわばって、口をきかなくなる。表情や動作に生気がない。暗
い印象を与えます。
・命令で休養をとらせます。期間は1-2 週間が必要。
・乗船中であれぱ、下船命令を考慮します。
④ さらに心の異常が高まると(精神障害者と同じ処置が必要です。)
動作や感情が鈍る。おとなしい人が粗暴になる。仕事のミスや人間関
係のトラブルを起こすようになる。そして職場の嫌われ者に転落する。
これを 「職場不適応者」と呼んでいます。
・休養は2-3 ヵ月が必要。2-3週間の休養では不十分です。
・乗船中であれば本社担当者と協議して、下船させるのが最良の方法
です。
(注)下船させると、間もなく「乗船させてくれ」と矢のような催促が
始まります。 妥協して乗船させると、再び下船させることになり
ます。本人の希望を無視して休養期間は、数ヶ月が必要です。
⑤ ストレス対策の問題の1 つは、自分がストレス状態にあることを気付
かない人がいることです。 自分の心の状態を客観的に把握するために、
「心の健康の自己チェック」をお奨めします。
3. ストレスのメカニズム
ストレッサーは大脳で知覚され、視床下部に伝えられた後、次の2つの経路に分かれ
ます。
この2つの経路で分泌された物質が、ストレスで重要な役目を果たします。
私たちの体はストレッサーに曝されていますが、一方、生体を安定した状態
に維持する仕組みを備えています。
例えば、心拍、血圧、体温、呼吸、体液、循環、睡眠、内分泌、 リズム、
血糖値、血液の浸透圧、エネルギー代謝など、安定した状態で機能を発揮
し、生存に極めて重要な役割を果たしています。このように生存するため
に必要な安定を保つための機構を、 ホメオスタシス(恒常性維持機構)
呼んでいます。
私たちの体内には大切な基本システムがあります。すなわち自律神経系、
内分泌系、免疫系が相互に働き合うことによって、ホメオシタシスを成立さ
せ、健康を維持しています。
と
図 ホメオスタシスにかかわる神経、内分泌、免疫の相互関係
外部環境からのストレッサーを体が常に感知し、それに対して常に適切に反
応することが、ホメオスタシスの維持のために大切であることはいうまでも
ありません。
私たちは何時もストレッサーに曝されていて、ストレッサーに対して防衛的
反応をしておりますが、問題なのは、過度のストレッサー、不適切なストレ
ッサー、不快ストレスを生じるようなストレッサーということになりましょ
う。
そして、過度のストレッサーが長く続くと、ホメオスタシスが破綻して(図
をご参下さい)、下記のような病気(心身症)を生じるようになります。
図
ストレスとホメオスタシス
ストレッサーが放置されて体に現れる病気(心身症)
それでは、生体が蒙るストレスの影響を、自律神経系、内分泌系、免疫系
の3側面からから考察してみましょう
4.
心と身体の相互作用
心と身体がどこでお互いに影響し合っているのか、どのような仕組みでつな
がっているのか について考えてみましょう。
人の心の作用を、知・情・意の三つに分けてみるのが一般的です。 このうち、
性や理性や意志の力は高等な精神作用で、人間は他の動物より高度に発達し
たものをもっています。
しかし、情とは本能にもとづく心の作用で、欲望が大きく関係してきます。
これを脳の解剖や生理と結びつけると、知・意は新皮質といって大脳の表面
の部分でつかさどられており、情は、その下層にある辺縁系という場所で支
配されています。この新皮質と辺縁系の協同作用によって、心の働きが生ま
れるわけです。
辺縁系に起きた本能的欲求が、新皮質によって抑制され、行動にそのまま表
さないことが人間としての特徴なのですが、時として、その抑制を強くしな
ければならないようなことが起きると、不快感になってきます。この不快な
感じが辺縁系に逆行し、さらにその下にある視床下部という部分を刺激しま
す。
ここには人間の身体全体の働きを統括している自律神経の中枢がありますの
で、そこが刺激されると内臓や筋肉や血管の働きの調節が乱れて、いろいろ
な体の症状が生じてきます。
これを神経性調節障害と言います。例えば、不快なことが起きて怒ると、顔
が 顔が青くなり手をふるわせますが、これは怒りという感情が自律神経の
中の 交感神経を與奮させるため、顔の表面の血管を狭くし血の流れが少な
くなるので顔色は青くなり、交感神経が筋肉をぴくぴくさぜているのです。
この時には血圧は上がっていますが、それも血管が狭くなるため血圧を上げ
ないと血が流れにくくなるからです。
ここで怒りという心の働きと、血圧上昇という体の症状が結びついてきます。
視床下部はもうひとつ重要な仕事をもっています。それはホルモンの調節作
用です。ホルモンは人体のあらゆる機能をなめらかに動かすために必要な物
質で、機械を動かすときの潤滑油に相当するものです。このホルモンを出す
器官を内分泌腺と言いますが、そのうちで最も重要な腺が脳下垂体で、視床
下部の下にぶらさがる形でついており、視床下部によって支配されています。
従って、心の不快な気分によって視床下部が乱されると、ホルモンの分泌量
が少なくなったり、逆に多くなったりして人体の調子を狂わせます。これを
化学性調節障害と言います。不快な生活が長く続くとインポテンツになった
り、月経が止まったりするのはこのためです。この化学性調節障害と、前に
述べた神経性調節障害の二つが、いろいろな内臓や筋肉や血管や神経の病気
を起こしてくるわけです。病気を治療するには患者さんの心を知らねばなら
ないというのはこのためです。
一般の人は、不快な感情を起こす原因になっている事柄を、『ストレス』と
言っていますが.理論的には正しくありません。ストレスとは、外からの刺激
によって生じた、体の中の異常状態をさすのです。その刺激をすべてストレ
ッサー といいます。すなわち、細菌感染、薬や毒物、暴力、高熱、寒冷など
もストレッサーであり、不快感、緊張感、不安感、焦りなどの心理的な刺激
もストレッサーになります。
このストレッサーが病気を起こすのだと主張したのが、有名たセリエという
学者ですが、その考え方は化学性調節障害とほぼ一致するものだったため、
ストレス病という言葉も心身症と同じような意味に用いられています。しか
し、誤解していただきたくないのは、心身医学は、あらゆる病気が心の作用
で起きてくるなどとは考えていない、ということです。病気には感染による
感染症や、生まれつきの遺伝子の欠陥による先天性疾患や、まだ原因がハッ
キリわかっていない病気がたくさんあります。
しかし、発病原因がなんであっても、一度発生した病気の経過に大きく影響
するのが、視床下部の神経性および化学性調節障害です。例えば、末期の癌
患者が自分は癌であると知ると、 たいていの場合、 がたがたと病勢が進行し、
死に対する不安が心を乱して行動も取り乱し、それがさらに癌の進行を早め
てしまいます。しかし、精神的に修行の積んだ人だと、癌と知ってもいささ
かの動ずる色もありません。このような人の場合には、病勢の進み具合がゆ
るやかになります。
心身医学では、癌に限らず、死に直面した患者さんの心を平安に導く方法も
研究されており、どんな病気に対しても、神経性および化学性調節を重要な
ものと捉えて研究が進められています。
5.心の健康
心の健康(メンタルヘルス)
はじめに
安全を発展させていくにあたって、今後は人の心の分野へのアプローチとな
ってきた。
「ヤル気」とか「参加」「関 心」 「興味」の段階である。つまり災害発生率
の横ばい状態の打開策は、人の心の領域への挑戦ではなかろうか。
船内管理の中で KYT や指差呼称を行うことはできる。しかし一人一人が心
を込めて「ヤル気」でやらなければ、効果は薄れ形式的なものになろう。
まさに人の心の健康が今後の課題となってきた。
乗船中の災害事故およぴ疾病発生が後を絶たない現在、災害防止活動はより
一層推進されなければならない。この小冊子を活用して「ゼロ災害・ゼロ疾
病」の達成に努めて頂きたい。
(本稿は1988年9月9日 在職中に作成したものです)。
1. 半健康という言葉をときどき耳にすることがあると思う。半健康は、健康
と病気の間である。気がついて、努力すると元の健康状態に戻る。放ってお
くと、病気になってしまう。
〔例〕:塩からいもの、コレステロールの多い食品
→高血圧→心臓病・脳卒中
食べすぎ、飲みすぎ、運動不足
→萵血糖→糖尿病
食事に気をつけて、休養をとり、適度の運動を続ける、のが「健康づくり」である。
2. 心の健康でも同じことがいえる。睡眠不足や心配ごと、悩みごとが長く続
くと、イライラする、怒りっぽい、疲れやすい、根気がない、考えがまとま
らない、記憶力が低下する、食欲がない、などの現象が現われてくる。この
まま放っておくと、ノイローゼやうつ病になってしまう。
イライラや疲れやすいなどの異常なサインに気づいたら、
(1) まずグッスリ眠ることである。眠れないときは、睡眠薬もよい。お酒もよい。
とにかく、グッスリ眠ることが肝心である。
(2) 適度の運動をする。運動をすると、気分がスカッとして、心の重荷が軽
くなる。この2 つで健康な状態に戻ることができる。これから述べる内容は、
心の健康はどうして損なわれるか、それを正常に戻すにはどうしたらよいか、
が中心である。
3. 職場で私達は精一杯働いている。しかしそこには仕事上の問題、人間閧係
があって、すべて順調とは限らない。
① 仕事では、その仕事が自分の性格に合っているとき、興味があるとき
は疲れないものである。疲れていても1 晩グッスリ眠ると、翌日は元
気で仕事ができる。仕事中は態度や動作がイキイキしている。表情も
明るく、冗談もいえる。友達が寄ってくる。上役も好意の目で眺めて
いる。
家庭では奥さんがいろいろと話しかけ、1 本つけましょうか? となる。
翌日も元気で働ける。病気や事故とも縁が遠くなる。
すべてが『良い良いづくめ」である。
ところが、つまらない仕事だとか、嫌な仕事だ、と思うことがある。
どうして自分だけ忙しいのか?
どうして自分だけきつい仕事をしなければならないのか?
と考えるようになったら、相当なストレス状態である。こうなると仕事中も気分が
暗く、表情がこわぱっている。 態度や動作に生気がなく、仕事が 「投げやり」
のように見える。友達が寄りつかない。上役も不気嫌で眺めている。細かいミス
や事故を起こすようになる。酒ぐせが悪くなる。
帰宅すると、家族は腫れものに触わるように気を使い、家庭が暗くなる。 会社へ
出ても面白くない。 トラブルを起こすようになり、 職場の嫌われ者になる (職場不適応)。
自分を理解してくれるのは、アルコールだけ
!
アルコールとの生活が始まり、アルコール依存となる。
一寸としたキッカケが、人生を狂わせ、希望のない奈落に引きずり込
んでしまう。
どうして、このようになったのだろうか
?
仕事がつまらない、嫌な仕事だ、と思ったのがキッカケである。
なぜ、こんな考えが浮かぶようになったのか?
(1) 職場にはハッキリした原因のないのが普通である。
(2) つぎは自分自身の問題である。慢性睡眠不足がなかったか、どう
か。病気は?
ご承知のように睡眠が不足すると、朝、気嫌が悪い。出社しても
愛想が悪い。一寸した噂にも、こだわって悪い方に解釈する。部
下をドナル。部下のミスを追究する、などが起こるものである。
睡眠が十分であれぱ、このような問題は避けられたと思われる。
原因がほかにあっても、明るい活動的な行動は転落を防止できた
筈。
したがって解決方法は、グッスリ眠ることである。十分に眠るこ
とによって、朝がさわやかである。友達がニコニコしているよう
に見え、仕事も楽しくできる。睡眠不足がひどけれぱ、熟眠も
3晩、4晩、あるいはそれ以上必要になろう。
② 人閭関係では、同僚のときも、上役であるときも、家庭では夫婦、嫁
姑とのこともある。自分は知らなくても相手にキズを負わせることも
あるし、キズをつけられることもある。原因がこのような場合は、雨
降って地固まるの例えどおり、悪化した人間閧係を修復できるもので
ある。
ギシギシした人間閧係を修復できないのは、歯車が合わないときで
ある。しかも頭からソリが合わないんだ』 と決めつけて、修復の努力を
しない場合である。
職場の上役と人間関係が悪いときは
(1) 意識的に明るく振るまう
(2) 仕事はガッチリやる。 上役と歯車が合わなくても、 仕事は認めてくれ
る。かりに上役が認めなくても、同僚や他の職場の人が認めてくれる、と自
信を持っことである。有能であると評価されると、必ず引き受け手が現われ
る。捨てる人もあれぱ、拾う人もあって、世の中は味わい深いものである。
どんなに仕事をしても、上役が認めてくれないんだ ! とクサるのは
最も危険。自分をダメにしてしまう。
(3) 上役の目にとまらないようにする。カメレオン戦術である。.
(4) 上役が呼びつけて 「難クセ」
をつける場合は、居直ることである。
上役の理不尽は職場の誰もが知っているので、馘首はできない。サ
ラリーマンを長くやっていると程度の差こそあれ、このような上役に接す
ることがあるものである。解決には (1) (2) がすすめられる。
③ 判断に苦しむとき: YESか NO かをなかなか決められないで、苦し
むことはよくある。
うまく処理しようと思うから、損得の欲があるから、判断に苦しむわけである。
失敗するとどうなるか ? サラリーマンであれば地位を失い、自営業
であれぱ破産しよう。ここまで考え詰めると、気分が楽になる。つまり
居直った心境といえよう。
その居直った気持で、
(1)
(2)
(3)
(4)
考えれるだけ考える。トコトンまで考える。するとYES にするか
NO にするか、おぽろげに判るような気がしてくるものである。
そしてグッスリ眠る。アルコールの手助けも必要になろう。
数日後、 アッ、 ソウカ、 そんな手があったのか、と気がつくことが
多い。考えが熟成したためである。ただし、希望的判断は失敗の
元であるから、 あくまで客観的な判断ができるまで、考えること。
自分なリの結論を得てから、同じ道を歩んできた先輩の意見を乞
うのが最善である。
「すぐれた判断を下すには、グッスリ眠ることが必要」だというこ
と。
4.脳
さて、仕事も、 人閭関係も、 判断も、 それらを処理するところは脳である。
脳も酷使が続くと一たとえぱ悩みごとのようになかなか結論が出ない場合
は一脳は疲れる。
すると、イライラする、怒りっぽい、疲れやすい、根気がない、何事も面
白くない、つまらない、気がめいる、物を忘れる、おっくう、などの現象
が現われてくる。
そこで脳のアウトラインを述べる。
① 脳は体の中で一番大きく1500g。肝臓は1400g。
(1) 脳には神経細胞が140 億個あって、140兆本の線維が互に連絡しあっ
ている。1万本のコードのついた電話器が、140億個あると考えてよい。
(2) 脳の神経細胞は毎日10 万個死んでいく。しかし線維が速絡を緊密に
しているので、不都合は生じない。最近の研究によれば、年をとっても線
維は再生するので、
70-80才の手習いも十分可能である、とされている。
(3) 脳はお椀を2 つ合わせたような格好をしている。
左半分はしゃべったり、
計算したり、論理的に考えたりする。 右半分は絵や音楽を理解したり、
全体を把握する能力にすぐれている。性格の異なる2 人の人間が同居
していると考えてよい。左右の脳は2 億本の線維で連絡して、コミュニケーション
を密にしている。
(4) 脳は酸素の欠乏に敏感である。酸素がわずかでも減ると、アクビをした
り、ぽんや りしたり、 眠くなったりする。
空気中の酸素が8%になる
と、失神昏倒して 7~8 分以内で死亡する。「酸欠」である。
(5) 脳に必要なのは、 学習と睡眠である.以上はご承知のとおりであるが、脳
はホルモンを分泌することを付け加えたい。
正確には 「神経伝達物質」 と呼ばれるが、ホルモンといっても差し支えない。
② 心配や悩みごとが続いたり、判断がなかなか下せないとき、脳はどうなっ
ているのか ?
ホルモンはどんな現象を現わすのだろうか?
(1)
情報を処理するホルモン が欠乏する。すると、話を聞いてもなかなか
理解できなかったり、本を読んでも理解に手間どる。記憶力も低下す
る。注意力も低下するので、ミスや事故を起こしやすい。
( 2) 意欲(やる気) のホルモン が欠乏する。自分でやる気がなくなる。あそ
こがおかしいのでは? と気がついても、自分がやろうとしない。人に会うのも、
話をするのもおっくうである。夫婦関係もおっくうである。職場でも、宴会でも、
集会でも独リ 「ポツン」 としている。
( 3) 感情のホルモン が欠乏する。 新聞も、 雑誌も、 テレビも面白くないから
見ない。落語や漫才を聞いても、チットも面白くない。人生がはかない一
死にたい、と思うようになる。
( 4) 眠りのホルモンが欠乏する。 すると、眠れない。 したがって、爽やかな
朝がない,など、 ホルモンの減少と、 それによって起こる現象が判って
いる。また個々のホルモンの欠乏現象は総合されて、
などが生ずることになる。この状態を放っておくと、うつ病やノイローゼに移行
するようになる.。車でいえぱ、今まで述べた現象はバッテリーがあがった状態
である。
グッスリ眠ることは充電に相当する。充電すれぱバッテリーがあがったために生
ずる諸現象はたちどころに解消する。仕事も人間関係も判断も、すべて良い方
向に進 む。「グッスリ眠ることが大切だ」 と何度も述べてきたが、理屈は以上の
如くである。
一寸横道へ入るが、脳の活用法にふれる。午前中の脳は快調であるか
ら、頭を使う仕事 一文章を作る、 趣味などの創作、 通信教育の勉強な
ど一に時間を割くとよい。職場では新しい機器の取り扱い方や仕事の流れの変
換などを午前中に行うのがよく、午後は慣れた仕事をする。
こうすると能率が上がり、ミスが少くてすむ。作業量を曲線で示したものを生理的
作業曲線というが、明らかに午前中の成績がよい。
③ もうひとつ留意すべきものに、『過剰適応』 がある.。必要以上に、自分
を環境に合わせることである。仕事に不満はない、人間閧係もよい、判
断に苦しむことは少い。しかし、仕事がハードで、エンドレスの場合にみ
られるものである。帰宅するのは、23~24 時。メシ、フロ、バタン。
翌日は平時出勤。このような生活が続く場合である。
人にはそれぞれの性格があって、この場合も
(1) 適当に休暇をとって休む。
(2) 仕事があるために休めない、休まない。疲れているから休みたいと思
っても、もう1人の自分が 『仕事が終るまで頑張ろう』 とか 『疲れるのは気
のタルミだ! 頑張れ!』 とシッタ激励する。この2 つのタイプがある。
休まないタイプは、絶えず緊張を強いられているから、血液中には
いわゆる闘争ホルモンとか攻撃ホルモンとも呼ぱれるアドレナリンが
充満している。
このホルモンは
・ 胃・十二指腸では、粘膜の抵抗力を弱めて漬瘍を作る。
・ 血管では、 細い動脈を収縮させるから血圧が上昇する。高血圧であ
る。とくに心臓の筋肉を養っている細い動脈は犯されやすく、狭
心症や心筋梗塞をひき起こすことになる。
・ 血液中のブドウ糖は、食後大量に増えると姿を変えて、肝臓や皮
下脂肪に貯えられる。ところが、このホルモンは、血液中にブド
ウ糖を増やす。この結果、糖尿病の前段階である高血糖を生じ、
放っておくと糖尿病へ進展する。
したがって、適当な間隔をおいて、 休暇をとることは絶対に必要である。
休暇は、健康で仕事を繞けるための必要な措置である。心臓は休みなく動い
ているではないか? との疑問がある。心臓の拍動を
1分閻 70 回とすると、人生 80 年間の拍動数は約 30 億回に達する。
よく疲れないものだと不思議に思えるが、1 回の拍動を観察すると、半分
は休んでいる。長く活動するには休みが必要一これが生物の鉄則である。
④ 心の健康を保つために
さて、本題の心の健康を保つにはどうしたらよいか、について述べる。
(A) 自分の性格を知る
人にはそれぞれの性格がある。そして 「心の健康」 と閧係の深い性格が
統計上みられる。 ここで断っておくことは、A の性格の人は、 A という精
神病になる!と決めることはできないということ。
統計ではいえても、個人では例外が多いからである。
統計的に、うつ病になりやすいタイプと神経症になりやすいタイプの性格を
比較してみよう。そのおもなものは下記のとおりである。
神経症タイプ
1.完全欲や向上心が強く、高望みする。
2.理知的であるが、行動力や決断力に欠ける傾向がある。
3.理想主義であり、自己中心主義
4.メンツが許さないので、人に相談できない。
5.責任をとって辞職しない。
6.なかなか自殺しない。
7.部下を踏み台にして、出世をする。
一言でいえぱ參謀タイプ
うつ病タイプ
1.他人の意向や期待に合わせようとする。
2 .仕事が粘り強い。 仕事が増えても質を落とさずにやり遂げるので、
オーバーヒートに陥いる。
3.部下が思うように働いてくれないと自分でやってしまう。
4.几帳面で義理固く、自分を犠牲にする。自分の貴任である、とい
ってたやすく辞表を提出する。
5.自殺する。
6.部下をトコトン可愛いがり、苦楽をともにする。
実務タイプまたは親分タイプ
分裂病タイプ は
人間関係に淡白で、自然科学とか哲学や宗教に興味を示す。「ひょ
うひょう」としたところがある。
ところで、性格には 「三つ子の魂百までも」といわれるように、生まれながら
に備っているものは変らない。しかしその後環境や教育によって、性格は変
っていくものである。それは人形に着物をきせ、その上に着物をきせ、さらに
着物を重ねるようなものである。
典型的なものに 『役割性格』がある。
「 エッ !あの人が部長になったって !」。周囲の興味をよそに、本
人は最初の半年はギコチないが、 1 年もすると立派に部長職が板につ
くものである。胸を張って、自信に満ちた態度を示すようになる。
しかし部長職を去ると、いつの間にか元に戻ってしまう一。
以上のように、性梧は目的に向って変えることができるものである。
とくにうつ病タイプの者は、自分の欠点を知って、仕事にのめり込
まないよう、極端に走らないよう、心に 『ゆとり』 を持つ必要がある。
また『こだわりやすい』 人は、さらりと流してしまう努力が求められる。
始めは思いどおリに行かないが、いつの間にか身につくものである。
(B) 情報を先取りし、また学習をして事態の本質をつかんでおく。
今までの慣れた生活や仕事と、新しい生活や仕事の差が大きいほど、
ストレスを受けやすい。たとえば、部・課内の配置換え、転勤、出向
や派遣、転職、新しい機械を取り扱うようになった場合、始めて沢山
の部下を持った場合などである。
知識や経験がまったくない、180度方向の違った仕事をやれ!とい
われたとき、人はどのように反応するだろうか ?
(1) どうしたらよいのか、途方に暮れる
(2) 何とかやり遂げようと努力する
そして1 人前になっていくのが普通である。ところが次のような
過程をたどる人もいる。
(3) 努力して、努力して、過労に陥いる。自分にとって、この新しい
仕事は無理ではあるまいか ? と疑問がわくようになる。
(4) それでも努力を続ける一ますます疲れる。この仕事は自分に向い
ていない、と悟るようになる。ここから悩みが始まる.
(5) 上役に何時、どこで、 どのように説明しようか ? 不甲斐ない奴!
と叱られないだろうか ? 自分の意向を認めてくれたら一そしたら
何処かへ飛ぱされるだろう一そしたら退職するようになるかも知れ
ない一そしたら生活は ?一悩みが果てしなく続いて、脳のホルモ
ンはますます滅って、うつ病の状態になってしまう。
この状態になるのを避けるには
・180度違った仕事を経験し、成功した先輩を訪ねてアドバイスを
受ける
・関係書を集めて勉強する、の2 つが解決策である。
もうひとっ奨められる方法は、人事に精通している交遊関係から
情報を集めて分析し、傾向を察知して、心の準備をすることであ
る、といえよう。情報の活用である。
(C) つぎに 即応できるものとして、下記のようなものがある。
(1) グッスリ眠ることが重要であることはすでに各所で述べている。
(2) 適正な食事を規則正しくとること。空腹はイライラさせたり、怒
っぽくさせる。食事を規則正しくとることは、潰瘍を予防する重
要な手段でもある。
頭を使う人によい食べものは、牛乳、卵、あぶら身を除いた牛
肉。
(コレステロールに注意!)
上記を効率よく作用させるために、穀類は少な目に、野菜は多
い目にとる。
(3) 何時でも、何処でも、独りでもできるウォーキング、ゆっくりし
たジョギングがすすめられる。
(4) 気分の転換をはかる。アルコールは極めて有効であるが、飲みす
ぎないこと。1 人でできる趣味。 テニス、 野球など勝負に関係
するものは、かえってストレスになる人もある。
(5) 明るく、さわやかに振るまう。努力が必要であるが、習慣となれば
素晴らしい効果を生む。
(6) 何でも相談できる人脈を持つ。経験に富んだ先輩の話には有益
なものが多い。
(D) 以上予防方法を述べてきたが、人は誰でもそれなりに予防方法を身
につけているものである。だからこそ今の仕事をして、今の生活をして、
心の健康を保っているといえよう。
自分の人生で遭遇した難関を思い浮かべて、そのときどんな対応をし
たか、どのように切り抜けたか、を改めて検討するのは、極めて有意義
である。忘れかけていた記憶が鮮明となって、これから起るかも知れな
い、心配ごと、悩みごとの解決に威力を発揮することは疑いない。
最後に
心の健康を保つにはどうするか、心の異常を正常に戻すにはどうするか、
その対策をまとめると、つぎの3 つに絞ることができる。
〔追加〕 心の健康状態を知る
心の健康問題で大切なことは、心の異常に気づくごとである。
(1) 心が平静であると、疲れやすい、根気がなくなった、気がめいる、
などに気がつく。朝からイライラしているが、どうしたのだろうか
と心配することもある。睡眠不足が長く繞くと、今夜は早く寝よう
という気持がわく。つまり異常サインに気がついて、心配したり応
待したりしている。これが普通である。
(2) 多忙であると、とくに忙しすぎると、サインに気がつかないこと
がある。また気がっいても、仕事を優先させて異常サインを無視す
ることもある。このようなときは、心の健康が蝕まれて、知らず知
らずのうちに正常から異常に移行して、次第に異常の程度が強まっ
ていく。
(3) 異常が高まると、朗らかな人が陰気になったり、大人しい人が粗暴
になったりして、周囲の人も気がつくようになる。友達や上役の人
が心配して「どこか悪いのではないか」「医者に診てもらったら」
と忠告すると、猛然と怒り出すことがある。自分は何でもないのに、
そんなことをいわれるのは、プライドを傷つけられた! と解釈するか
らである。
(4) 心の健康問題は、自分で気がつかなかったり、あるいは否定すると、
解決へ向ってまったく動きがとれないものである。
そこで考え出されたのが「心の健康しらべ」である。高血圧を否定する者でも、
血圧の測定値で説明すると、誰もが納得する。『心の健康しらべ』は、心と体
の健康状態を客観的に知る方法である。
6.ストレスがもたらす害作用
ストレスが身体にもたらす害作用について、少し詳しく述べます。
まずストレスは、大脳辺縁系が視覚や聴覚などを通して入ってき
た情報を、 危機的状況だと判断することから始まります。そして、
大脳辺縁系が視床下部や自律神経系の興奮を呼び、神経ホルモン
(ノルアドレナリン)によって前頭前野の活性が低下します。
視床下部の興奮は、 交感神経の興奮となり、 動悸促進、 血圧上昇、
副腎髄質からのアドレナリンの分泌による血糖値上昇、呼吸数増
加などを引き起こし、身体を緊急事態に備えた状態にします。
この緊急事態に備えた状態というのは、「戦うか逃げるか」の状
態です。したがって、実際に戦ったり逃げたりして生命の危機的
状況から逃れることができれば、大脳辺縁系や視床下部、交感神
経の興奮は収まります。そして、前頭前野の活性が戻り、心拍数
や血圧、血糖値、呼吸数も平常に戻ります。
しかし、上司に対する嫌悪感のような場合、戦ったり逃げたりす
ることはできません。
そのため、緊急事態に備えた状態が長く続くことになってしまい
ます。これは心身にとってかなりの負担となります。活動し続け
ている神経細胞自体も疲労してしまい、活性度が低下してしまい
ます。動悸促進や呼吸数増加は、それぞれ心臓や肺、筋肉の負担
となります。さらに血圧上昇や血糖値増加は血管に負担をかけ、
動脈硬化の原因となります。
こうしたことから、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳内
出血や脳梗塞などの脳血管障害、糖尿病などを発病する危険性が
高くなります。
交感神経の興奮が続くと、それを抑えるために副交感神経も興奮
し続けるようになります。そのため、副交感神経が支配している
消化管の異常、たとえば胃潰瘍や十二指腸潰瘍、便秘や下痢など
が起こりやすくなります。
さらに視床下部は、ストレッサーによって、いくつかのホルモン
を分泌します。たとえば、そのなかの一つ、副腎皮質刺激ホルモ
ン放出ホルモン(CRH)は、 脳下垂体に作用し、 副腎皮質刺激
ホルモン(ACTH)の分泌を促します。さらに、ACTHは、副腎皮質に作
用し、副腎皮質ホルモン(コルチコイド)の分泌を促します。これらのホ
ルモンは、ほかのホルモンとも協調しながら、ストレッサーを緩和する働
きを持っています。
副腎皮質ホルモン(コルチコイド)の作用
しかし、 副腎皮質ホルモンには有害な作用もあります。
たとえば、消化を悪くしたり、生殖ホルモンや生長ホルモンの分泌を阻害し
たりします。
その上、 免疫機能や脳にも障害を与えてしまいます。
(1)免疫機能に対する障害では、副腎皮質ホルモンがリンパ球
や白血球に作用して、死滅させてしまうということが、まず挙げ
られます。また、リンパ球を作り出す臓器で、免疫機能の中心的
役割を果たしている胸腺にも直接作用して、萎縮させてしまいま
す。このためリンパ球や白血球の数が減少し、結果として、抵抗
力の減弱から さま ざま な感 染症にか かり やすくな って しま
いま す。
リンパ球の一種であるナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の減少は
深刻です。 NK 細胞は、 体内の細胞が癌化したときにその細胞
を殺す役割も担っています。 そのため、 NK 細胞が少なくなる
と、癌になる危険性が高まってきます。
(2)脳に対する障害
は、大脳辺縁系の一部である海馬に表れま
す。海馬は記憶処理で重要な働きをしている場所ですが、副腎皮
質ホルモンの血中濃度が上昇すると、海馬の神経細胞が障害を受
けます。このことから、大脳辺縁系全体のバランスが崩れ、情緒
不安定が起きると考えられています。
また、コルチゾールの過剰分泌が、脳の神経伝達物質の機能を邪
魔します。
このため、過去にきちんと整理されていた情報も、簡単につなげ
られなくなり、脳の細胞同士がきちんと連絡を取り合うことがで
きないので、神経機能が低下します。
さらに、あまりに過剰なコルチゾールは、脳細胞を死に追いこみ
ます。これは、コルチゾールが正常な脳細胞の代謝を破壊し、脳
細胞の中に過剰な カル シウ ムを入ら せて しま うときに起こ ります。
過剰なカルシウムは、活性酸素を生産し、それが脳細胞を中から
破壊してしまうのです。長期的に見れば、過剰なコルチゾールは
このようにして何十億もの脳細胞を破壊しています。
ストレスが精神面に与える影響も無視できません。ストレス状態
が長く続いていると、交感神経も副交感神経も機能が低下して、
うつ状態が表れてきます。うつ状態になると、強い疲労感、食欲
低下、仕事の能率低下、慢性的な睡眠欲求などの症状が表れてき
ます。それでも、たっぷりと睡眠を取ることができれば、比較的
速やかに、この状態は解消します。
ところが、疲労感が強くても、気が滅入ってきて眠れなくなるこ
とがあります。こうなると、食欲低下が著しく、体重も減少して
きます。眠れないため疲労が蓄積して、やがては自責感にさいな
まれ、死への願望が生じてきます。これがうつ病と呼ばれている
状態です。
また、 典型的なうつ病 までいかなくても、近年特に増えている 『無
気力』 という状態に陥ることがあります。慢性のストレスにさらされ続
けたため、なにもする気が起こらなくなり、惰性だけで生きているよう
な状態です。
現代社会でストレスが問題視されるのは、心身の健康を損ねる可
能性を持っているからです。その可能性として次のことが考えら
れます。
① ある種の病気に罹りやすい素因あるいは素質を持っている人
に対して、その病気を誘発する因子になること。
② 潜行している病気(前病気状態)を顕在 化させる因子になるこ
と。
③ すでに身体的な病気あるいは精神的な病気にかかっている人
に対しては、その病気を悪化させる因子になること。
④ 身体的病気の発症にかなり重要な役割を演じる場合があるこ
と。つまり、心身症の発症要因になること。
⑤ 精神的な障害を引き起こす要因になること。つまり、不眠症な
ど軽度な精神障害から神経症やうつ病、心因反応などに関与して
くるなどです。
7.テクノストレス
『テクノストレス』とは、コンピュータ・テクノロジーに健全な
形で対処できないことから起こる不適応症候群です。
『テクノストレス』には、 まったく異なる二つの症状があります。
1つは、『テクノ不安症』
コンピュータを使いたいのに、どうしてもなじめなかったり、使
いこなせなかったりする人に起こる症状です。
初期の症状は、コンピュータに対する苦手意識が、様々な形とな
って現れます。
例えば、短気・頭痛・コンピュータに関する学習への抵抗とか、
拒否などです。
2つは、『テクノ依存症』
コンピュータ・テクノロジーとうまく同化できた人々にみられる
症状です。 初期の症状は、他者に対する思いやりの欠如とか、対
話の不足などです。テクノ依存症の特徴は、事実絶対主義です。
感情の起伏に乏しく、効率とスピードにひどくこだわります。で
すから人間の行動やコミュニケーションの暖昧さを非常に嫌いま
す。また、心身両面において自覚症状がなく、ストレスをストレ
スと感じるこさえ出来なくなってしまう傾向がみられます。
●『テクノ不安症』の具体的症状
・コンピュータに対する忌避感、嫌悪感が生じる。
・短気になり、すぐにイライラするようになる。
・自信喪失、強い絶望感といったものを示す。
・いつも不安でうつ的な表情を示すようになる。
・悪夢を見るようになる。
●『テクノ不安症』の予防策
・コンピュータ操作以外の自分の能力にも目を向け、自信を持つ
ようにする。
・コンピュータ作業中に精神的に不安になったり不快になったり
したら、すぐに休憩する
・コンピュータが不得意な人は、得意な人に指導してもらうなど
の対策を、積極的に取る。
・コンピュータを使い始めるときには、前もってセミナーを受け
たりするなどの準備を行う。
●『テクノ依存症』の具体的症状
●『テクノ依存症』の予防策
・人に対する自分の考え方や態度を省み、思いやりや優しさのの
重要さを再認識する。
・ 家族や友人と過ごす時間を大切にし、 人との交流を豊かにする。
・体を動かすような趣味や音楽鑑賞など、自分を表現できる情緒
豊かな趣味を持つ。
・コンピュータ作業中には、できるだけ頻繁に休憩を取るように
する。
8.心のメンテナンスしてますか?
[日経パソコン]から引用したものです。末尾に「あなたのストレス度チェク」掲載
ドリンク剤では解消できないストレス疲労
疲労が積み重なり、マイナス指向に陥ったり、なんとなくイライラする、根気
がなくなる、朝、憂うつな気分がするといった症状が出たら、それは「休息し
なさい」という警告信号である。お腹や頭が痛いといった身体症状が体の異常
を知らせる警告信号であるのと同じように「心の疲労」にも警告信号があり、
これを無視して頑張ると、当面はなんとかしのげても長くは続かない。そのう
ちに深刻な状態や症状になって表れることがある。
朝、出勤途中の駅のホームでドリンク剤を一気に飲んで、なんとなく元気にな
ったような気分がするのは、ドリンク剤の多くに含まれているカフェインなど
による興奮作用あるいはドリンク剤を飲んだのだからという一種の暗示作用の
ようなもの。肉体疲労は別にして、医学的には精神的な疲労はドリンク剤の効
果は少ないと思っていただいた方がいい。
仕事の重圧につぶされてしまいそうな疲労、
ものも言いたくないような疲労感、
自分だけが辛い目に会っているという疲労感、いつもは感じない目や肩や腰の
不快感、そんな疲れを感じた人はきっと多いはず。一方、スポーツの後に残る
さわやかな疲労感というのもある。
こうした疲労感は、精神的にも肉体的にもリフレッシュ効果を持つが、からだ
や心の疲労につながりやすい「ぐったりとした疲労感」と、その質は天国と地
獄ほど違う。根っからの疲労を解消するためには一時的な対症療法的なドリン
ク剤ではなく、ストレスを緩和することを考える必要がある。
ストレスバリアを補強しよう
現代社会はストレスに満ち溢れている。まさにストレス社会である。歴史をふ
りかえってみれば、過去の知識人は、同時代を巧みな表現で言い表してきた。
たとえば、第 2 次世界大戦前夜を「アスピリンエイジ」と呼び、日本では戦後
生まれのベビーブーマーが「団塊の世代」と呼ばれた。
とすれば、 ビジネス社会の第一線で活躍する現代の 30 代、 40 代はさしずめ 「ス
トレスエイジ」 である。 そしてストレス世代は現代のスピード社会に増強され、
精神的疲労を積み重ねやすい環境で働いているといえる。
1 例をあげよう。 パソコン作業に熱中している人に多く見られるテクノストレス
眼症という病気がある。主症状は目の疲れや痛み、首や肩の疲労感などだが、
やがてパソコン作業にともなう精神的疲労が引き金になって対人関係にまで支
障をきたすこともある。眼症状だけなら治癒も早いが、こうした症状が出現す
ると「心の治療」も必要になる。
表のチェックリスト
は、心や体に現れた自覚症状からあなたのストレスの度合
いを調べる簡単な検査表である。この表でチェックする項目が多ければ多いほ
ど、あなたのストレス度は高くなり、精神的疲労も蓄積されている証拠。これ
をストレスバリアが非常に低下した状態と言う。ストレスバリアを補強して、
ストレスによる疲労を緩和させることが、現代社会を生き抜くために必要だ。
ストレス世代を救う「ストレス緩和薬」
「そうは言っても精神科や心療内科を改めて受診するほどのこともない」。確
かにそうである。最近は精神科医や心療内科医がメンタル・クリニックを開業
するケースが増え、そういうクリニックを受診してストレスバリアを強化する
のも 1 つの方法だが、ストレスで心や体が疲れているなと感じたときには、一
般内科の開業医や会社の診療所などでも対処することが多くなっている。
ストレスに対する感受性は人によって異なる。同じ対人関係の軋轢(あつれき)
でも、たいしたことないとやり過ごせる人もいれば、また、あの人と顔を合わ
せるのかと思うと、いっそ休みたくなってしまう人もいる。対人関係に敏感な
人は、そう思ったとたんに不安感がつのり、消化器症状や頭痛・頭重感などの
身体症状が出現したりする。
昔から病は気からというが、心の負担が体の症状として現れるのはよくあるこ
と。そんなときには、日常の悩ましい問題から離れて、趣味の世界に没頭する
なども必要。それでも、対処できなければ医学の恩恵にすがるのも賢い選択で
ある。最近では、内科開業医や会社の診療所などで「ストレス緩和薬」を処方
してくれるケースが増え、ストレス世代を深刻な「心の疲労」から救ってくれ
るのだ。
その代表的な薬剤のひとつが、 セロ トニンアゴ ニス ト と呼ばれる系 統の薬剤で、
国内では 1 種類存在する。このような症状には日本では従来、ベンゾジアゼピ
ン系と呼ばれる薬剤が使われていたが、日中の眠気・ふらつき・依存性の高さ
という副作用が我々働き盛りの世代にとって障害であった。
しかしセロトニンアゴニストは、しばらく服用する間に優しく効果を発揮し、
副作用の点でも安心できる薬剤といえる。
精神的疲労が積み重なってイライラしたり不安感が強いと感じ、動悸や息切れ、
消化器症状、頭痛・頭重感の状態が一日中持続することを、医学的には「全般
性不安障害」というが、この状態のとき、休養する時間をとったりストレス緩
和薬を服用すると、深刻なうつ状態に陥る可能性も減少し、ストレスバリアの
強化ができるのである。一度、近所の医院や会社の診療所などに足を運んでみ
てはどうだろうか。
あなたのストレス度チェック
このチェックリストは、心やからだにあらわれた自覚症状からストレスの度合
いをみるものです。
過去 6 ヶ月を振り返って、あなたはいくつあてはまりますか?
□よく肩がこる
□全身がだるい
□腰が痛む
□めまいがする
□便秘がち
□胸が圧迫されるようで苦しい
□よく喉が渇く
□手足がしびれる
□朝早く目が覚める
□朝、憂うつな気分がする
□仕事にとりかかる気になれない
□根気が続かない
□物事がなかなか決断できない
□なんとなく不安でイライラする
□いっそこの世から消えてしまいたい
□これから先の自信がない
□いつものように人に気軽に付きあえない
4
ストレスチェック判定
個以下→問題なし
これからもストレスをため込まないように
5~9個→やや問題あり
休養などで、ストレス解消を心がけましょう
10個以上→要注意
長引く場合、早めに医師に相談しましょう
9.「ストレス」を考える
1.感受性によってストレス反応が異なる
大手メーカーの中間管理職だった55歳のAさんは、会社から突然インドネシ
アへの転勤を 命じられた。ジャングルの中に新しく工場を作るという困難な事
業を仰せつかったのである。
本来海外勤務は夫人同伴であるはずなのに、そこは毒虫や毒蛇の徘徊するよう
なへき地であり、「とても女性が行けるようなところではない」という理由で
単身赴任を求められた。
Aさんは会社の命令にしたがうべきかどうか迷った。年齢からいってこれが会
社での最後の仕事になりそうだが、それほど有望な事業とも思えず気が進まな
い。いっそ会社を辞めてしまおうかとも思ったが、まだ子供たちは大学に通っ
ていて手がかかる。 転職しようにも、 この不況下ではおいそれと次の仕事も
見つかりそうもない。
さんざん考えた末、結局、Aさんはインドネシアに飛び立つことになった。
ジャングルでの仕事に着任して、3ヵ月でAさんは熱病にかかってしまう。生
死をさまようような状態で日本に飛行機で強制送還された。そのまま病院に入
院して1ヵ月くらいで病気はなんとか治ったが、会社からは病床に見舞いに訪
れる人もなかった。Aさんは仕事で思わしい成果をあげられなかった責任をと
って、会社に辞表を出さざるをえなくなってしまったのである。
一方、47歳のBさんはある医療機器の会社の支店長を務めていた。医者や病
院相手の仕事はストレスを感じることが多く、つい過食になりがちで体重が1
20キロ近くにもなり、糖尿病を患っている。ある日いつものとおり出社して
みると、会社が倒産していた。
もちろん簡単には新しい仕事が見つからず、毎日何をして過ごしたらいいかわ
からない。妻に本当のことを言い出せないまま、朝になるとこれまでと同じ出
勤スタイルで家を出て誰もいなくなった事務所に通っていた。ところが、つい
に事実を知られ、妻は「どうしてそんなに大切なことを私に話してくれなかっ
たのか」と怒って子供を連れて実家に帰ってしまった。
仕事も家族も失ってしまったBさんは、いまだに何もすることのない元の事務
所へ「通勤」している。
じつはAさんもBさんも、最近浜松医科大学心療内科の永田勝太郎医
師を訪れた患者だった。
日本は世界でも有数のストレス社会と言われているが、永田医師は「不況で世
の中が冷え込んでいるこの時代、社会の下層にいる人ほどプレッシャーが厳し
くなっている」と話す。ストレスの問題は、いつもこうした社会の状況と深く
結びついている。
「今年の夏は非常に厳しい暑さが続いていますが、ストレスには夏の暑さや冬
の寒さ、湿気、騒音などの物理的な問題や、人間関係、人生の様々なできごと
などが原因となります。
そしてこうしたストレスの原因を『ストレッサー』と呼んでいます。とくに現
代社会特有のストレッサーというと、時間に追いまくられたり、狭い空間に閉
じ込められたりすることや、縦・横・斜めの多様な人間関係などがあげられる
でしょう。
これらのストレッサーをどう受け止めるかを『ストレス感受性』といいます。
このストレッサーとストレス感受性の関係によって、いろいろな『ストレス反
応』が起こってきます」。
そもそもストレスとは、物理学の用語で「ゆがみ」という意味だ。たとえば
割り箸に力を加えて曲げていくとき、この力をストレッサー、曲がった状態を
ストレス状態と考えることができる。力を加えると曲がりはさらに大きくなり、
ついにポキンと折れてしまう。
ところが、割り箸がゴムで作った棒だったら、いくら力を加えても折れずに元
に戻ることができる。すなわち割り箸とゴムの棒の間には、ストレス感受性の
違いがあるわけだ。ストレス状態が過剰で病気になり、割り箸のようにポキン
と折れた状態を「死」と考えることもできる。
2.逃げていると自己破壊に陥りやすい
日本でストレスを専門的に研究している学問領域は心療内科学だが、全国で8
0におよぶ医科大学・医学部の中で心療内科学の講座をおいているところはそ
の10分の1もない。
また日本ストレス学会、日本産業ストレス学会、心身医学会、 心療内、 科学会、
自律神経学会など、各医学会でストレスが扱われているが、ストレスというものを
どうとらえるかについては必ずしも一致した意見があるわけではないのが現状だ。
ただし、ストレスが身体疾患やうつ病という心の病気に結びつくという認識は
いまや誰にも共通のものとなっている。
「アメリカのシカゴ精神分析研究所にいたフランツ・アレキサンダーは、『七
つの聖なる疾患』 という概念を打ち出しました。この中で、ストレスが糖尿病
や高血圧などの慢性疾患にかなり強い影響を与えるという考え方を示していま
す。今日では生活習慣病といわれる疾患はみんなストレスと関係があると考え
られるようになってきました」。
最近は、病気が起こる原因は遺伝子にあるというふうに考えることがトレンド
のようになっている。確かに病気は遺伝的な要因が基本にあるが、それなら遺
伝的要因があれば必ずその病気になるかというとそうではない。たとえば糖尿
病の遺伝要因を持っている人が糖尿病を起こす割合は25パーセントで、75
パーセントの人は糖尿病にはならない。
リウマチの遺伝要因を持っていてもリウマチウになる人とならない人がいる。
すなわち病気が起こるのは、遺伝因子ばかりでなく、生活習慣が大きくかかわ
ると考えられるわけだ。
「WHO(世界保健機構)で健康の定義を提唱したステーシー・デイは、『生
活習慣はその人の身体的要因、心理的要因、社会的要因の三つの要因がかかわ
っており、このことを生活の主体である医療の中に持ってくるべきだ』と主張
しています。そして、生活のなかでのゆがみがストレスというものです」。
さらにこのストレスに対して、どのように適応するかは人によって4つくらい
のタイプがあるとされる。
1つはストレスと「闘う」というもの、次が「逃げる 」というものでいわゆる
「飲む・打つ・買う」などがこれにあたる。また、相手にこびへつらうような
「過剰適応」という対応もあり、さらに相手と適当に距離(間=ま)をとって
「うまく付き合う」という対応がある。
「どのように対応するかによって、ストレスがどう影響するかが変わってくる
わけです。ところが、一般に現代社会のサラリーマンなどは、逃げるタイプが
圧倒的に多く見られます。ストレスが溜まってくると飲みにいったり、徹夜で
麻雀をするわけですが、こうしたストレスの発散法が過ぎると、100のスト
レスを発散するために200のエネルギーを使うといったことになりかねませ
ん。その結果、自己破壊的ライフスタイルに陥り、かえってこれが病気の原因
になってしまうという傾向が目立ちます」。
3.ストレス度が測定できるようになった
我々の先祖が野生の生活していた時代、人間は牙も角も持たない弱い存在だっ
た。狩猟や採集に出かけたとき、クマやトラなど、思わぬ外敵に出くわすこと
も少なくなかっただろう。そうした危機に陥ったとき、身体は血中に肝臓や筋
肉から一気にブドウ糖を放出して血糖値を上げてエネルギーを高め、心拍数も
血圧も高めて敵と闘う準備を整える。まさにこれがストレスに出会ったときの
反応である。
「我々がストレッサーを目や耳で認識すると、脳の下垂体からACTH(副腎
皮質刺激ホルモン )という物質が分泌され、副腎を刺激する。すると副腎から
ストレスホルモンといわれるコルチゾールが出てくる。これらが身体の筋肉も
骨も、すべて動員してブドウ糖を作り出させる。
アドレナリンというホルモンもそこに協力して心臓をどきどきさせ、血圧を高
め、一方では末梢部分を引き締めていくわけです。もちろんこれは非常時に対
応するための身体の態勢づくりであるのですが、その状態が日常的に続き、闘
い続けなければならないとしたら、最後には身体はボロボロになってしまいま
す」。
最近、こうしたストレスによって身体の中で起こる反応のメカニズムを利用し
て、ストレスの強さを測定する方法が開発されている。ストレスが強くなるほ
どコルチゾールが増強することになるが、これを導くのが17 ―OHCS (17
α―ヒドロキシコルチコステロイド)という物質であることがわかってきた。この
17 ―OHC Sは尿に排泄されるので、その濃度を調べることによってストレス
度が測定できるというわけである。
「いろいろな『ストレス度チェック』といったものが見られますが、これらは
あくまでも主観的な見方によって作られたものであり、誰にも共通して利用
できるものではありません。ところが、尿中の17 ―OHCSを調べれば、その
人のストレス度は客観的に評価できるわけです」。
さて、もし人間が日常的にストレスにさいなまれ続けてコルチゾールをどん
どん分泌させていったらどうなるだろうか。がんの末期や糖尿病の末期の患者
は痩せこけてついに死にいたるが、ストレスもそうした可能性は確かにありそ
うだ。ただし、多くの場合、ストレスではそう簡単に死んだりしない。
「たとえば政治家などは、絶えず激しいストレスに直面しているのに、彼らは
したたかな生命力を発揮させています。これはどうしてなのか、人間の身体の
中にはきっとストレスに抵抗するホルモンが出ているのではないかということ
で、長い間研究されてきた結果、近年になってそれがDHEA ―Sというホル
モン であることが突き止められました」
今年行われた高度先端医療研究会という学会では、「夢のDHEA―S」と
も呼ばれるこのホルモンがテーマの一つに取り上げられた。免疫力の向上、精
力増強、体力強化、糖尿病に対する血糖降下作用、快眠効果、抗炎症作用など
があり、神経・内分泌・免疫の全ての回路に関係する万能的な作用を持ったホ
ルモンとして注目を浴びている。当然DHEA‐Sはストレス性疾患に対する
特効薬としても期待できることになる。
4.脳を鍛え鍼(はり)治療を受けると生命力がアップ
「DHEA―Sは、じつは赤ちゃんのいるお母さんの胎盤やへその緒にも多く
存在していることがわかっています。昔は赤ちゃんが生まれると、へその緒を
桐の箱に入れて保存したものですが、これは赤ちゃんが病気になったときに煎
じて飲ませるものでした。
今日のように医学が発達していない頃は、生後一年以内の自分でDHEA‐S
を作れない期間の赤ちゃんの死亡率が非常に高かったのです。そこでいざとい
うとき、抗炎症作用、免疫向上作用があるDHEA―Sを含んだへその緒を利
用するという生活の知恵があったのだと考えられます。イヌやネコは赤ちゃん
を生むと母親が胎盤を食べてしまうし、アメリカインディアンも赤ちゃんを生
んだお母さんに胎盤をステーキにして食べさせたといいます。これはお産によ
って消耗した体力回復をはかるための知恵と考えられます」。
DHEA ―Sはストレスホルモンのコルチゾールに対抗することから、アンチ・コル
チゾール ともいわれる。これまでDHEA―Sはもっぱら副腎と男性の睾丸で作ら
れていると考えられてきた。ところが、加齢にともない誰しも副腎や睾丸の機能が落
ちてくるはずなのに、「老いてますます盛ん」というタイプの人も珍しくない。そこで、
それ以外にDHEA―Sを生産している器官はないかと調べた結果、人間の脳や皮
膚でも作られていることがわかってきた。
DHEA ‐Sは脳のどこでも無尽蔵に作れます。だから頭を使い、脳を鍛える
ということはストレスに対する抵抗を養うことになります。そのため、自分の
生きる意味に目覚めてそれを追求している人はストレスに強いわけです
。
年をとってもいつまでも元気な政治家などは、生きる意味を強く持ち、DHE
A ―Sをいっぱい備えているからだと思います」。
さらに皮ふがDHEA―Sを作ることから、鍼(はり)灸(きゅう)やマッサージなども
DHEA―Sを強化し、ストレスに強い身体を作るうえで有用だという考え方も示さ
れている。
京都の白畠康鍼灸師と永田医師らの研究によると、鍼治療を行った後は、行う
前と比べるとDHEA‐Sの代謝物である17 ―KS―S(17―ケ トステロイド硫酸
抱合体)を調べると、その量は鍼の直後より下がってはいるものの、前日の値よ
りは上がっていることがわかったという。
「鍼(はり)が生命力を高めるということはこの実験で見事に証明されていま
す。鍼は一つは対症療法的に肩こりや腰痛を改善する作用がありますが、もう
一つはストレスに強くなるホルモンの分泌を促進するという役割が大きいとい
えます」。
現代社会では誰もストレスを避けて生活することはできない。ストレスに強い
体質をつくるための個々の.取り組みは、現代人に欠かせないものとなるのでは
ないだろうか。
10.
パソコン健康生活のススメ
心のエラーメッセージを見逃すな
文中に自己チェック用の質問票
【日経パソコンから引用しました】
職場でも家庭でも、パソコンがあって当たり前という時代。「やらなきゃならないけど、
本当はやりたくない…」 というアナタ、パソコンのプレッシャーで心がくたくたになって
いないだろうか。
あるいは、三度の飯よりパソコンが好きだというアナタ、パソコンにのめり込みすぎて、
仕事や人間関係に亀裂が生じてはいないだろうか。
長時間のパソコン作業は肉体的な不調だけでなく、メンタルヘルスを損ねることもある。
心にやさしいパソコンとの付き合い方を身につけよう。
パソコンに向かうと頭が重くなったり胸がドキドキ。あるいは 「も
うやめなければ」と思いつつ、ゲームやチャットで深夜までパソ
コン漬け。おかげでまた会社に遅刻。もしこんな心当たりがある
なら、あなたのテクノストレス度は相当かもしれない。
テクノストレスという言葉は、1980 年代にアメリカの心理学者ク
レイグ・ブロードによって作られた。コンピューター作業をする
人に特徴的に見られる心理的傾向や精神的問題を表し、「テクノ
不安症」と「テクノ依存症 」の2つに大別される。
テクノストレスも大衆化
テクノ不安症は、パソコン作業に適応できないことが原因で体調
を崩したり、うつ状態などに陥るタイプ。
一方、テクノ依存症は、 社会生活や人間関係に支障をきたすほど、
パソコンにのめり込んでしまうタイプだ。
ただ、 これらのタイプが提唱されてから20 年近くがたち、今や 1人
1 台ほどにまでパソコンが普及している時代。テクノストレスの中身も
以前に比べ多様化していると、芝浦工業大学工学部人間科学教室
の春日伸予助教授は指摘する。
「例えばテクノ不安症は、パソコンの知識や技術の不足が主因で
したが、今ではコンピューターの専門家が陥ることも珍しくあり
ません。次から次へと常に新技術の開発にせき立てられ、慢性的
な疲労感や不安感を抱え込むようになるんですね。また、以前は
コンピューターに強い一部の人にしか見られなかったテクノ依存
症も、今では子供から大人まで幅広い層に広がっています」。
つまり、テクノ不安症もテクノ依存症も今の時代、だれが陥って
もおかしくはない。パソコンの大衆化には、テクノストレスの大
衆化という厄介な副産物も潜んでいるのだ。旧労働省の実態調査
(1998 年)では、 パソコン業務で精神的な疲労やストレスを感じて
いる人は 36.3%。 3 人に 1 人以上がテクノストレスを抱えている。
さて、 あなたはどうだろうか。下は、 1000 人以上を調べた春日助
教授による質問票。自分のテクノストレス傾向をチェックしてみよう。
はい
はい
うつ病への発展を防ぐ
長時間、パソコン作業を続けていると目の疲れや肩こりなどの肉
体的疲労だけでなく、精神的疲労も起こってくる。千葉大学医学
部環境労働衛生学の研究グループが 20~59 歳の会社員 2 万 5000
人以上を対象に調べた結果では、パソコン作業が長くなるほど肉
体的な不調が増加し、また作業時間が1 日 5 時間以上を超えると
不安感やうつなどの心の問題や不眠に悩む人も多くなったと報告
されている。
長時間のパソコン作業はメンタルヘルスを損ね、テクノ不安症を
招きやすいわけだ。
テクノ不安症の代表的な症状には、
不眠やイライラ、 やる気の低下、 頭痛、 めまい、 動悸(どうき)、食
欲不振、下痢、吐き気などがあるが、心身医学では肉体的な症状がそ
の人の心理を代弁するという解釈もある。
ケイ・メディカルオフイス・テーオーシービル診療所(東京都品川
区)心療内科の姫野友美医師はこう話す。
「例えば、頭痛や肩こりは体力や能力以上の仕事を背負い込んで
いるという過剰反応の表れ、吐き気や食欲不振は目の前の現実を
受け入れたくないという拒否感、動悸は『うまくやれるだろうか』
という予期不安を示しています。
心の SOS が身体症状の形で表れることもあるのです」。
またテクノ不安症で注意したいのは、
うつ病への発展だ。うつ病がひどくなると自殺につながる恐れも
ある。何もやる気がしない無気力感や疲労感が2 週間以上も続く
ようなら、早めに精神科や心療内科の診察を受けるようにしたい。
もう一方のテクノ依存症だが、パソコン作業でつい熱中して時間
を忘れるのはだれにでも起こりうること。これと「病的なテクノ依存
症」の違いはどこにあるのだろうか。
「熱中」と「病気」の境界
「社会生活に支障が出ているかが、ボーダーライン。例えばパソ
コンのやりすぎで遅刻や欠勤が続き、仕事も人間関係もうまくい
かなくなったような場合は、立派なテクノ依存症で、治療が必要
です」と姫野医師。
パソコンヘの熱中も度を超すとギャンブルやアルコールと同様、
人生の破たんを招く。
社会への適応性が著しく低下することが、テクノ依存症の一番の
問題なのだ。 例えば 20 代後半のある男性は、 家に帰るとすぐ
にパソコンに向かい、チャットに参加。次第にのめり込み、仕事もお
っくうになった。いざ出勤と電車に乗っても、息苦しくなって途中下
車してしまう。やがて家に閉じこもり、パソコンの世界にどっぷり浸る
生活に。
心配した家族に連れられて受診したが、待合室でもパソコンに熱
中していたという。
「元々、人間関係がうまくいかないという不安感があったようで
すね。現実世界の満たされない思いがパソコンヘの依存を加速さ
せたと考えられます」(姫野医師)。
一般にテクノ依存症になりやすいのは、
対人関係が苦手できちょうめん、きまじめ、内向的、論理的思考
を好むといった人が多い。また、 女性より男 性が多いと話すのは、
テクノストレス患者を多く診ている成城墨岡クリニック (東京都世田
谷区)の墨岡孝院長だ。「女性はパソコンを洗濯機や掃除機などの
延長線上にある便利な道具としてとらえる傾向が強いが、男性は思
い入れが強く、白分の分身や相棒のように見なしがち。愛用のパソ
コンに名前を付けている人もいるほどです。パソコンが原因でストレ
スを抱えていることにすら、気づいていない人も多い」。
自分のストレスを認識する
ただ、カウンセリングなどで自分のストレスを認識して治療の必
要性に納得すると、元々きちょうめんな性格なので、まじめに治
そうとする姿勢が見られるという。「治療を受け入れるまでに多
少時間はかかるが、だいたい4 ヵ月くらいで良くなる。治療では
パソコンに向かう時間を徐々に短縮して、適度な付き合い方を身
につけていきます」(墨岡院長)。
春日助教授も、まず「気づき」が大切と力説する。「自分がテク
ノストレスに陥っていることに気づいた上で、それを軽減するよ
う心がける。それだけで状況はかなり好転します」。パソコンも
車と同じ。心の事故を起こさないよう、ぜひ安全運転で。
呼吸法でストレス退治
イライラしたり、眠れないときなどは、複式呼吸が効果的だ。全
身に張り 巡ら され た自 律神経には交感神経と 副交感神経がある が、
ストレスの多い現代人は心身を興奮させる交感神経が優位になり
がち。いわば常に臨戦態勢を強いられている。こんな緊張した状
態を緩めてくれるのが腹式呼吸。お腹に力を入れて長く息を吐く
と、緊張を緩める副交感神経が優位になり、心身ともにリラック
スできる。高めの血圧も、これだけである程度下がってくるほど
だ。
また東邦大学医学部生理学第一講座の有田秀穂教授の研究では、
意識的に腹式呼吸を続けると、セロトニンという脳内の伝達物質
が増えることも明らかになっている。セロトニンは不安を抑えて
心を穏やかにし、やる気を起こす「元気物質」。不足すると、う
つやパニック障害、過食などを招きやすくなる。
腹式呼吸の基本は、お腹の底から深く長く息を吐き切ること。口
を少しすぼめてゆっくり息を吐き出し、いつもなら「吸う」に転
じるあたりから、グッと腹筋に力を入れて残りの息を絞り出す。
息を出し切ったら、お腹を緩めるだけで自然に空気が入ってくる。
8~20秒ほど吐いて、4~10 秒ほどで吸うのが目安。 苦しくなら
ない程度に繰り返そう。心も体もすっきりフレッシュするはずだ。
いつでもどこでもできるのが腹式呼吸の利点。パソコンの前でも
気軽に始められる。お腹に手を当てると、腹部を絞りやすい。
こんな症状が現れたら、専門医に相談しよう!
・夜中になかなか眠れない
・急に食欲がなくなった
・朝刊を読む気がしなくなった
・出社するのがおっくうになり、実際に2~3日休んでしまう
・急に怒りっぽくなったり、わけもなく涙が出る
・気分転換をしてもすっきりせず、余計に疲労をかんじる