アスピリン喘息に合併した 好酸球性鼻副鼻腔炎の一例

アスピリン喘息に合併した
好酸球性鼻副鼻腔炎の一例
2010年4月選択実習
医学科6年 E.S
症例 60歳代 女性
【主訴】
臭いがしない、鼻水、くしゃみ
【現病歴】
30年前よりアスピリン喘息にて他院に通院し、
ステロイド吸入、気管支拡張剤を内服してい
た。5年前に鼻茸の手術を他院で施行。
嗅覚障害、鼻汁の悪化を認めたため手術治
療目的に当院耳鼻咽喉科紹介受診。
症例 62歳女性
【アレルギー】
ポンタール(メフェナム酸)にて発作あり。
【嗜好品】 喫煙(-)、飲酒(-)
【身体所見】
呼吸努力性であり、呼気終末にwheezeを聴取。
耳鏡にて両耳に炎症所見を認める。
【検査所見】
IgE 93 IU/mL Eosino8.3%(WBC 6100 )
【副鼻腔CT冠状断】
鼻内は術後の状態で、両側上顎洞自然口、篩骨洞は開放されている。
【副鼻腔CT 水平断】
水平断においても軟部濃度内に混在する高吸収域を認める。
【診断】
アスピリン喘息に合併した
好酸球性鼻副鼻腔炎
・平成21年2月入院
・平成21年3月 内視鏡下鼻内手術施行
【病理所見】
ポリープ状病変で、粘膜内には浮腫性変化。
血管新生、線維化、硝子化が見られる。
好酸球、形質細胞、リンパ球、などの中等度
炎症細胞浸潤(好酸球浸潤の定量化はされ
ていない。)
明らかな真菌は認められない。
【好酸球性鼻副鼻腔炎】
概念
従来の慢性鼻副鼻腔炎との臨床症状の比較
原因
診断基準、画像所見
アスピリン喘息との関連
【好酸球性鼻副鼻腔炎とは】
研究が進むにつれ難治性副鼻腔炎の中に、鼻茸中に著明な
好酸球浸潤がみられるものがあることがわかった。
【特徴】
・篩骨洞病変が中心
・非アトピー型喘息、アスピリン喘息に伴うことが多い
・血中好酸球が多い
・鼻茸は易再発、難治性
→2001年に慈恵医大の森山寛先生のグループが
好酸球性鼻副鼻腔炎という呼称を提唱
【好酸球性鼻副鼻腔炎と従来型の慢性鼻副鼻腔炎の比較】
好酸球性鼻副鼻腔炎 従来型の慢性鼻副鼻腔炎
症状
早期より嗅覚障害、
鼻閉
鼻汁、後鼻漏、鼻閉など
鼻内所見
粘稠性鼻汁、
多発性鼻茸
膿性鼻汁、中鼻道鼻茸
血液所見
好酸球増多
特になし
アレルギ―性
鼻炎の合併
鼻炎様症状が
あることが多い
少ない
【好酸球性鼻副鼻腔炎と従来型の慢性鼻副鼻腔炎の比較】
好酸球性鼻副鼻腔炎
従来型の
慢性鼻副鼻腔炎
気管支喘息の合併
成人発症の非アトピー型が多い、
アスピリン喘息、
Churg-Strauss
少ない
マクロライド療法
効果は不明
有効
全身性ステロイド
再発例に著効
効果は不明
術後の鼻茸再発
高率
少ない
鼻茸の組織学的所見
著名な好酸球浸潤、
リンパ球浸潤、基底膜肥厚
リンパ球浸潤、
鼻腺の増生
【好酸球性鼻副鼻腔炎の原因】
①スーパー抗原が関与
エンテロトキシンBがスーパー抗原として働き、
T細胞を活性化、好酸球の活性化と浸潤などに関与
していることが報告された。
②真菌が関与
細胞膜構成蛋白の一部がスーパー抗原として働く、
真菌成分中のprotease, phosphataseが好酸球の
活性化を引き起こす可能性。
【好酸球性鼻副鼻腔炎のCT所見】
① 篩骨洞優位のび慢性軟部濃度肥厚
② 軟部濃度内に混在する高吸収域
→好酸球性鼻副鼻腔炎に伴うallergic mucineを反
映する。
③ 鼻腔粘膜のポリープ様粘膜肥厚
→鼻茸を反映する。
【典型的な好酸球性鼻副鼻腔炎のCT画像】
【副鼻腔CT冠状断】
好酸球性鼻副鼻腔炎の画像所見
【副鼻腔CT水平断】
【好酸球性鼻副鼻腔炎の診断】
①CT、もしくはX-Pにて副鼻腔に陰影を認め、
その陰影もしくは副鼻腔炎症状(鼻漏、鼻閉
等)が12週間以上続くもの。
②鼻茸を有する。
③鼻茸あるいは副鼻腔粘膜に好酸球有意な炎
症性細胞浸潤(組織中好酸球数120/視野
(×400)以上もしくは総浸潤細胞数の40%)が認
められる。
東京慈恵会医科大学 松脇 由典、春名 眞一、森山 寛 提唱
【好酸球性鼻副鼻腔炎の治療】
術前の保存的治療
手術
術後治療
【好酸球性鼻副鼻腔炎の治療】
手術
内視鏡下副鼻腔手術
(Endoscopic Sinus Surgery: ESS)
鼻茸を除去し副鼻腔を大きく開放することで、
術後管理がしやすい鼻・副鼻腔形態を作る。
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【好酸球性鼻副鼻腔炎の治療】
術後治療
①鼻腔洗浄
微生物やサイトカインなどを除去する。
②内服薬
・少量のステロイド剤
・トシル酢酸スプラスト、ロイコトリエン受容体拮抗薬
により炎症の軽減と再発予防を行う。
【好酸球性鼻副鼻腔炎とアスピリン喘息】
好酸球性鼻副鼻腔炎は成人発症気管支
喘息に合併することが多く、約3分の2の
症例が気管支喘息と診断されている。
中でもアスピリン喘息と好酸球性鼻副鼻
腔炎との合併は高率であり、関連が示
唆されている。
【アスピリン喘息】
シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有する非ス
テロイド性抗炎症薬(NSAID)の投与で喘息
発作が誘発される,あるいは増悪する喘息。
成人喘息の約10%にみられ,副鼻腔炎,嗅
覚低下,鼻茸を高率に合併する。
アスピリン喘息
?
好酸球性鼻副鼻腔炎
好酸球性中耳炎
【好酸球性鼻副鼻腔炎とアスピリン喘息】
One airway, one disease
アスピリン喘息
好酸球性鼻副鼻腔炎
好酸球性中耳炎
【好酸球性鼻副鼻腔炎とアスピリン喘息】
One airway, one disease
好酸球性中耳炎
好酸球性
鼻副鼻腔炎
アスピリン喘息
【好酸球性鼻副鼻腔炎とアスピリン喘息】
Cys-LTs(システィニルロイコトリエン )
 アスピリン喘息では発作時にCys-LTsが著明に増
加する。PG2の低下が関与しているのではと考えら
れている。
 好酸球性鼻副鼻腔炎の鼻茸中にもCysLTsが存在
する。副鼻腔に存在する肥満細胞が産生していると
考えられている。
【好酸球性鼻副鼻腔炎とアスピリン喘息】
Cys-LTsは
・気管支収縮作用
・骨髄にて好酸球分化に作用する
・好酸球の生存を助ける
などの作用を持つ。
→ One airway, one diseaseを引き起こす
結語
アスピリン喘息に合併した好酸球性鼻副鼻腔
炎の一例を経験した。
アスピリン喘息、好酸球性副鼻腔炎は共通の
CysLTsという共通のメディエーターにより惹
き起こされる疾患である可能性がある。
【参考文献】
1)「日本耳鼻咽喉科学会会報 vol.111,no.11」P712-715
2)「日本耳鼻咽喉科学会会報 vol.111,no.2」P58-64
3)「耳鼻咽喉科・頭頚部外科 vol.81,no.1」P11-17
4)「Fokkens W, Lund V, Mullol J
European position paper on rhinosinusitis and nasal polyps 2007.
[Journal Article]
Rhinol Suppl 2007; (20):1-136.」
5)「Matsuwaki Y.
Int Arch Allergy Immunol 2008;146 (Suppl. 1):77-81 (DOI:
10.1159/000126066)
6)「Eli O. Meltzer The Journal of Allergy and Clinical Immunology
December 2004 (Vol. 114, Issue 6, Supplement, Pages 155-212)
7)「アレルギーの臨床 vol.27 no.9」 P34-38