演劇活動を通したコミュニケーション教育の在り方

演劇活動を通したコミュニケーション教育の在り方 教育実践高度化専攻 教育実践リーダーコース 松原 宏樹 Ⅰ 問題の所在 「それを契機としてさらに一歩踏み出すかどう
平成 22 年 5 月,子どものコミュニケーション
かは、教師の手にゆだねられている」4)と述べ,
能力の育成を図るための具体的な方策や普及の
演劇を通した学びの進展は教員に委ねられる部
在り方について調査・検討を行う「コミュニケ
分が大きいことを指摘している。 ーション教育推進会議」が文部科学省で設置さ
このような現状から,全国の子どもが演劇を
れた。平成 23 年 8 月の審議経過報告では,その
享受できる環境を創造するためには,実演家が
方策として「ワークショップの理論や手法を備
いない場面でも,演劇の専門的知識がない教員
えた芸術家等の外部講師が授業に参画する」 1)
でも,実践可能で実効性のある演劇活動のスタ
等を挙げ,その第一に演劇ワークショップを紹
イルを生み出す必要がある。 介している。このように演劇を通したコミュニ
ケーション能力の育成が注目されている。 Ⅱ 研究目的 しかし現在の学校教育に演劇が位置付けられ
本研究の目的の第1は演劇ワークショップに
ているとは言えない。学校現場への導入に向け
携わる指導者の基本的姿勢を明らかにすること
ての大きな課題の一つは,
「指導が難しい」とい
である。第2は,実演家がいない場面でも,一
う点である。谷口(2007)は,コミュニケーシ
教員が実演家の示す基本的姿勢と同様な演劇活
ョン学習としての対話劇教材の在り方を検討す
動を行うことでコミュニケーション能力の育成
る中で,演劇に専門性のない指導者が授業を行
に効果が得られるのかを事例を通して明らかに
うと演劇を用いる効果が薄くなることを指摘し
することである。 ている
2)
。また広瀬(2011)は、学校で演劇を
十分に指導できる教員の不在・欠如を深刻な問
Ⅲ 調査1 題とし,教員養成の改善の急務を訴えている 3)。 1 目的 そのような現状から,実演家を招いて演劇ワ
演劇ワークショップにおける実演家の働き
ークショップを行う取組が全国で広がっている。
かけの特徴を明らかにする。 しかし(特に地方の学校において)費用や様々
2 調査期間 な問題で,すべての学校で実演家を招くという
平成 24 年 6 月 6 日,6月 13 日,6 月 28 日 ことは現実には難しい状況である。 3 調査対象 N 県M市立A小学校 また,指導の継続性の問題もある。平林(2011)
・4年生児童26名 ・A小学校教員2名 は,実演家との授業実践から,実演家は教師に
・実演家2名(劇団S所属) 生徒理解を深めるきっかけを与えてはくれるが,
4 活動手続(演劇ワークショップの内容) コミュニケーション能力の育成をねらいとし,
・対象者に IC レコーダーを装着し発話を記録。 班ごとに3分程度の寸劇を作る。(全3回) ・ビデオカメラ2台で活動が行われる教室全体
5 調査方法 の様子を対角線上から記録。 ・対象者に IC レコーダーを装着し発話を記録。 6 分析方法 ・ビデオカメラ2台で活動が行われる教室全体
①活動中の子どもの会話内容 の様子を対角線上から記録。 学び合い演劇活動 と実演家による演劇ワー
6 分析方法 クショップにおける会話を古田・西川(2001)
①演劇ワークショップにおける実演家の児童へ 5)
の働きかけ 話合いのケース分類の手法で分類・比較する。 ②教員の働きかけと子どもの行動との関連性 演劇ワークショップにおける実演家の児童
学び合い演劇活動 における教員の働きかけ
への働きかけを,活動前に行う「語り」と活動
と児童の発話との関連性を事例から分析する。 中の「声がけ」の2つの視点で内容を分析する。 ②ワークショップ反省会での会話 7 結果・考察 ①両活動とも経験交換ケースの出現率が高い。 実演家と担任教員による反省会における会
②
学び合い演劇活動
では「目標設定」やビ
話から,働きかけの基本的姿勢ついて分析する。 デオによる「可視化」が子どものコミュニケー
7 結果・考察 ションへの積極性を引き出す要因となっている。 ①「語り」では演出の仕方等技術的説明に時間
をかけている。 みんなで 活動することを求め
Ⅴ 終わりに ている。
「声がけ」では演技の指導や提案は少な
演劇活動を通してコミュニケーション能力の
く,児童の考えを肯定・賞賛する内容が多い。 育成を図ろうとする場合,指導者は「活動を子
②「大人は口を出さず,児童が自分たちで劇を
どもに任せる覚悟」をもつことが求められる。 つくりあげること」に価値を置いている。 引用・参考文献 Ⅳ 調査2 1) 文部科学省:「子どもたちのコミュニケーション能力
1 目的 を育むために」p.5,2011. 調査1で明らかとなった基本姿勢と同様の
2) 谷口直隆:「コミュニケーション学習のための演劇-
演劇活動を一教員が行った実践から,コミュニ
対話劇教材の検討-」,広島大学大学院教育学研究科
ケーション能力の育成の効果を明らかにする。 紀要,第 1 部,第 56 号,pp.145-151,2007. 2 調査期間 3) 広瀬綾子:
『演劇教育の理論と実践の研究 自由ヴァ
平成 23 年 6 月 30 日,7 月 14 日,9 月 15 日 3 調査対象 N 県J市立S小学校 ・演劇クラブ児童(4
6 年生)15 名・教員1名 4 活動手続(演劇活動の内容) ルドルフ学校の演劇教育』pp.i-vi,東信堂,2011. 4) 平林正男:
「「演劇科目」の授業実践」,『学校という
劇場から―演劇教育とワークショップ』, 佐藤信・
編,論創社,p.145,2011. 既成の台本を使用し,劇をつくる。教師の役
5) 古田豊・西川純:「小学校の理科学習における学び合
割を「課題設定」「可視化」「評価」とし,活動
いの発達に関する研究」,日本教科教育学会誌
中は直接的な演技指導を行わず,児童に委ねる。
24(2),pp.11-19,日本教科教育学会,2001. (以降, 学び合い演劇活動 ) 5 調査方法 指導 西川 純