― 巻 頭 言 ― 日本の化学産業の立場 取締役 島津 京太郎 S HIMAZU Kyotaro メーカーの意義は言うまでもなく付加価値の創造にある。なかでも我々が属する化学産業は,例えば化学製品 の一つである発泡ポリスチレンだけでも,使用時の容積換算では粗鋼生産量に匹敵するなど,素材から応用製 品にいたる幅広い分野で大量に製品を供給しており,メーカーの果たす役割がとりわけ大きく,質・量ともに高い 技術力で裏打ちされた創造性が求められている。 化学製品があまりにも早いスピードで我々の生活の中に密着してしまったが故に,過去において化学産業は, 公害の元凶,3Kの代表とまで言われた時代があった。これらの克服のため,化学産業が,製品の収率,物質の 回収,エネルギーの回収,さらに公害処理などの面で,全知を絞った結果,現在では,過去とはまったく比較に ならない極めて高い製品品質と高効率の製造プロセスを実現するにいたっている。 これも化学産業の開発研究費が,製造業の中で電気機械に次いで第2位,設備投資額も自動車に次いで第2 位だと知ればなるほどと頷ける。しかし,化学産業の平均株価は電機の30%弱とその地位はむしろ低い。化学産 業は素材から最終製品に至るまで守備範囲が広く,一概に評価するのは難しいが,規模において,日本の電機 メーカーが海外と対等以上であるのに対し,化学メーカーの場合,日本のメーカーは海外に比較し圧倒的に小さ いという現状や,国際競争力の差などを反映したものとなっている。 日本の化学メーカーには,何らかの形で総合力を発揮して,グローバルレベルの競争に勝ち抜くための基礎 体力の向上が求められている。一刻の猶予も許されないし,もう独立独歩の時代ではない。産官学,産業間など あらゆる面での協調を考慮しなくてはならない。研究国家プロジェクト予算も過去には貿易型基幹産業向けが主 体であったが,近年は化学産業にも大きな配分が行われている。あらゆる場面で協調こそがお互いの質の向上 の場と心得て,胸襟を開くことが求められている。 また最近では,このような相互協調関係や従来のマスメディアに加え,ネットを通じた情報の活用が,極めて迅 速かつ有効になっている。それはあらゆる活動領域をカバーして,利用の仕方次第でその効果は計り知れない ものとなる。そのような中で当社のささやかな活動レビューもまた,地味ながら相互補完情報源であることを願いた い。
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