2-P-6 日本音響学会講演論文集 自動車内におけるハイレゾリューション音源の音質評価* ○山本竜太(DFJ),二矢田勝行(広島都市学園大学),水町光徳(九工大) 1 はじめに 近年 CD よりも高精細なハイレゾ音響の市 場規模が急速に拡大している。ホーム用途や ポータブル機器のほか,カーオーディオ用ハ イレゾ関連機器も販売され始めた。今後さら にカーオーディオのハイレゾ化が予想される。 我々はこれまで室内にて音質評価を行い, ハイレゾ音の音質を識別できるという結果を 得ているが(1),今回自動車内でハイレゾ,CD, MP3 の音質比較実験を行い,室内と同様にハ イレゾの良い音質が知覚できるかどうかを調 べた。また,被験者の音楽活動・音楽経験な どの違いと音質の識別能力の関係を調べ,ど のような人がハイレゾ音の知覚能力が高いか について検討した。 2 車室内における音楽データフォーマ ット違いに基づく音源の聴感評価 2.1 被験者 普段音楽をあまり聴かない者から現役の演 奏家や普段から音楽鑑賞を趣味としハイレゾ 音に馴染みのある者など 10 代から 70 代まで の様々な老若男女合計 34 名を対象とした。 2.2 評価音源 複数の候補楽曲の中から予備実験を行って 絞り込み,ハイレゾ JAZZ 曲(T-TOC DATA COLLECTION Vol.2 “Colors of darkness” )を 選定した。 長時間周波数特性を Fig.1 に示す。 ・ハイレゾ音(HRA) :原音(192 kHz サンプ リング/24 bit) の冒頭 2 分間を切り出した。 ・CD 音:上記ハイレゾ音にカットオフ周波 数 20k Hz の急峻なローパスフィルタを施 して高域成分を除去し,48 kHz サンプリン グ/ 16 bit に変換 ・MP3H:高音質版の MP3 音(320k bps) 上記 CD 音をフリーソフト LAME で変換 ・MP3L:一般音質版の MP3 音(128k bps) 上記 CD 音をフリーソフト LAME で変換 Fig. 1 Long-term averaged amplitude spectra 2.3 実験環境 2 台の実験車両(マツダ MPV,アテンザ) を用い,聴取位置(運転席・助手席)で両方 の車両の周波数特性がほぼ同等になるように 調整した。スピーカーは,左右のドアに設置 したウーファとフロントパネルの左右窓下に 設置したツィータの2ウェイ構成である。こ のツィータは中・高帯域と超高周波域を1個 でカバーできるオオアサ電子製のフィルムス ピーカーである。 実験時はエンジンを停止し, 静かな環境で行なった。 2.4 評価実験方法 [音 A(2 分) ]→(1 分休)→[音 B(2 分) ]の順に音を提示した。4 種の音源を2つ ずつ組合せ,A,B の入れ替えも含めて 12 の組 合せをランダムに提示した。提示される2つ の音源に対して, 「音質の良さ」を評価基準と した一対比較の回答を求めた。 3 結果 3.1 全被験者 34 名の音質評価結果 Fig.2 に一対比較の結果とその平均値を 示す。情報量が多いほうの音(横軸上段)が 「音質が良い」と答えた割合を示し,これを 「正答率」と呼ぶことにする。MP3H-MP3L は正答率が高いが,ハイレゾ・CD-MP3H は 低い。ハイレゾ-CD の正答率も比較的高い。 なお,二項検定において,ハイレゾ-CD,ハ イレゾ-MP3L,MP3H-MP3L の正答率は有 意である。*印で示した箇所は二項検定にて 有意な結果が得られている。 * Subjective evaluation of high resolution audio inside a car, by YAMAMOTO, Ryuta(Digifuision Japan Co., Ltd.) ,MIZUMACHI, Mitsunori(Kyushu Institute of Technology) and NIYADA Katsuyuki(Hiroshima Cosmopolitan University). 日本音響学会講演論文集 - 813 - 2015年3月 ゾを含まない比較項目では両グループの差が 小さい。生演奏やハイレゾ音楽に馴染みのあ る A&B グループはハイレゾ音を「良い音」 と判断している。一方,ハイレゾ音を聴く機 会のない C&D グループはハイレゾ音の識別 がほとんどできない。 Fig. 2 Results of paired comparison in preference of sound quality 3.2 音楽への親密度と音質識別能力 被験者の音楽に対する親しみ度合いによっ て音質識別能力に違いがあると考察し,被験 者の音楽活動状況アンケートに基づき,34 名 の被験者を次の 4 つのグループに分類し,集 計を行なった。 A:日常,音楽活動や音の評価に関わってい る人,現役の演奏家,音楽マニア(8 名) B:音響技術者,生演奏を聴く機会が多い人, 普段ハイレゾ音楽を聴いている人(9 名) C:生演奏やハイレゾ音楽は聴かないが自宅 や自動車で音楽をよく聴いている人(8 名) D:主に通勤,通学時に携帯音響機器で聴い ている人,あまり聴く機会の無い人(9 名) Fig.3 に一対比較の平均値をグループ毎に 示す。音楽に接する機会が多く,音を注意深 く聴く習慣を有している人ほど音質の識別能 力が高いことがわかる。 Fig. 3 Average of correct answer rate among the four groups 次に,普段聴いている音楽の種類と音質識 別能力の関係を調べた。4つのグループのう ち A,B グループ(A&B)は生演奏・ハイレ ゾ音楽に頻繁に接している被験者であり,C, D グループ(C&D)は主に MP3,CD を聴いて いる被験者である。両グループの一対比較の 正答率を Fig.4 に示す。*印で示す比較は t 検定において有意な結果が得られている。 破線で示した,ハイレゾとその他の比較 (HRA-CD,HRA-MP3H,NRA-MP3L)にお いて両グループの差が大きい。一方,ハイレ 日本音響学会講演論文集 Fig. 4 Results of paired comparison in preference of sound quality between the two groups 4 おわりに 車室内においてハイレゾ,CD,MP3(320k), MP3(128k)の 4 種の音源の音質比較を行った。 その結果,車室内においてもハイレゾ音質の 良さを知覚できることが分かった。 被験者を音楽に対する親密度でグループ分 けして比較した結果,音楽を注意深く聴く習 慣を有する人ほど音質識別能力が高い傾向が 見られた。特にハイレゾ-CD,ハイレゾ- MP3 の識別では,生演奏やハイレゾ音に馴染 みある人のグループとそうでない人のグルー プの差が大きい。ハイレゾが普及し,多くの 人が親しむようになれば,ハイレゾ音質の良 さがわかる人が増す可能性がある。 謝辞 本研究は平成 25 年度広島県次世代ものづ くり技術開発支援補助金の一環としてひろし ま医工連携・先進医療イノベーション拠点で 行われた。本研究を進めるにあたり実験にご 助力いただいた岩城富士大氏,上村一司氏, 末廣憲治氏に深謝する。また,実験用のツィ ータおよび実験車両を提供いただいたオオア サ電子(株),ならびに車両内の音響機器の提 供及び音響特性の調整をお願いしたパナソニ ック(株)の両社の関係各位に深く感謝する。 参考文献 [1] 山本竜太 他,ハイレゾリューションオー ディオの音質評価.産業応用工学会論文 誌 1(2) ,52-57,2013. - 814 - 2015年3月
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