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小惑星のライトカーブ観測の手引き
2005年7月9日
ライトカーブ研究会資料
浜野和天文台 浜野和弘己
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1.望遠鏡について
① 口径は20cm程度でも充分に対応する
(望遠鏡の大小は観測可能な限界等級に関係する)
② 焦点距離は併用するCCDとの関係で、比較星
を10個程度写すことが可能であること
(写野を広くとるためにはレデューサーを併用する)
③ 架台は赤道儀で自動追尾できるもの
(オートガイド装置があれば観測が楽になる)
④ ドイツ式赤道儀は子午線付近で鏡筒を反転させないとピヤー
等に当たってしまうので注意を要します (Tele-Westから
Tele-Eastに回転)
⑤ 経緯台式で自動追尾するタイプは時間経過と共に写野が回転
して行くので、フラット補正時に良好な結果が得られない可能
性があります (オプションの赤道儀変換マウントかフィールド
デローテーターを併用すべきでしょう
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2.冷却CCDカメラについて
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① CCDチップはモノクロタイプを選定する
(カラーチップは内蔵されたフィルターの影響で正確な
測光ができない)
② アンチブルーミングゲート無し(NABG)を選ぶ
(ABG有りはピクセルのカウント量を飽和する前に
ソフトウエアで光量をカットしてしまう=測光精度に影響)
③ CCDのピクセルサイズが大きい方が感度が高く良好
(著者使用のST-8は9x9μmなので、測光時は
3x3ビニング機能を使い27x27μmとしている)
④ 写野(チップの面積)は適度に大きいほうが有利
(ピクセル数は、あまり大きすぎると転送時間が長くなり
ファイルサイズも無用に大きくなってしまう)
⑤ A/D変換は16bitが望ましい (それ以下では変換
時にデータの一部が切り捨てられてしまう)
** ライトカーブは鑑賞写真とちがいピクセル数の大きさは2義的な
数値です、むしろピクセルサイズの大きなものを選ぶべきでしょう
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3.測光フィルターついて
① 測光観測には測光用フィルーが必要 (通常はRかIバンドを用いる)
② フィルターの透過特性図を確認する
③ 私達が使用しているフィルターIDAS UBVRIフィルター)
BVRセット: ¥55,000 U : ¥19,000
I
: ¥17、000
何れも(有)光映社扱い
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5.ターゲットとする小惑星を決定する
① 話題の多い小惑星(現在はItokawaなど)
② 自分たちの観測テーマに沿った小惑星
* MLの共同観測依頼に応ずる等々、
* (私達は日本に由来する小惑星について出来るだけ
多くの調査をしたいと思っています)
③ 掩蔽観測で充分に良い結果の得られた小惑星
(研究者と共同で小惑星の立体形状や自転軸の
向きなど有意義な結果が得られる)
* これから測光観測を始めようとする場合は、自転周期や
アンプリチュ-ド(光度変化量)が求まっている小惑星を
狙い、結果の比較をすると上達が早いでしょう
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6.観測準備手順
① 観測当夜の小惑星の位置データを求める
(私達が使用しているのはLowell天文台のAsteroid
Finder Chart で、観測時刻(UT)と小惑星の登録
番号、仮符号、名称の何れかを打ち込むと位置
データと周辺の星図が取得できます。1時間の移動
量と移動方向が記入されていてとても便利です
② 上記の位置データに相当する星図をPCのソフトで
表示しておく (私達はステラナビでGSCの星表と
CCDの写野を表示し導入の効率を良くしています)
③ PCを起動しCCDの冷却を開始する
・ 冷却開始時刻は撮像開始の1時間以上前に設定
・ 冷却温度設定は冷却能力の50%~70%程度
Asteroid Finder Chart と ステラナビ+GSC
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7.フラットフィールドの撮像
* 私達はトワイライトフラットを使用して良好な結果が得られて
いますので、この手法について説明します
① 望遠鏡の筒先にアクリルの乳白板を取り付ける
② 望遠鏡を天頂付近に向ける(雲が無いこと)
③ フォーカスモードで撮像してカウント値を確認する
・ カウント値は刻々減少して行く
・ 3~5秒積分でフルレンジの80%程度のカウントが得られる
タイミングを待つ (私達のCCDのフルレンジは約66500
なので50000カウント程度を目標にしています)
④ フラットフィールドの撮像を実施する
・ 撮像モードに切り替える
・ 冷却温度が適当かを確認する
・ 設定した積分時間でのフラットフィールドの撮像、保存
・ 設定した積分時間で複数のダークフレームの撮像、保存
・ 引き続き複数枚の撮像を実施
(このときカウント値が刻々減少していきますので撮像時間を
少し長くしてダークとフラットを取得する必要も生じるでしょう)
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* トワイライトフラットが取得できるタイミングは刻々変化する空の
明るさの中でごく一瞬ですが、何度か体験すると慣れることが
出来るでしょう
* その他のフラットフィールドの取得方法
・ドームフラット(この方法が主流と思われます)
ドーム内で望遠鏡に直角に吊り下げた均質な白い布等に
2個以上の光源を均一に当て、これを撮像する方法で、
ダークも同時に取得します
・スカイフラット
・その他
* ライトカーブ観測の成否は良質なフラットが取得できるか否かに
かかっていると言っても過言ではありません。いろいろな方法を
試して比較し、最良のスタイルを確立してください
宮坂氏のURL(Minor Planet at 366)に詳しい解説が
ありますので参照してください
トワイライトフラット取得中
2005年6月28日19時頃
浜野和天文台にて(5215)
Tsurui観測用フラット取得中
望遠鏡は天頂付近に向け
筒先に乳白板を取り付け
ドーム内でフラットフィールド
撮像中、当日はCCDの冷
却は約2時間前に開始して
います
筒先後方にはド-ムフラット
撮像用のスクリ-ンも見えて
います
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8.オブジェクトフレームの撮像
* 実際の観測を開始しますが、一般的にターゲットの地平高度が
20度以上になっていることが条件です
① PCの時計合わせを慎重に行う (1秒以内の誤差)
② 望遠鏡を基準星に向ける
③ 3秒程度のフォーカスモードで基準星を写野の中央に導入する
④ 基準星の設定を行う
・ 据付型の望遠鏡のアライメントはこれで済みますが、ここまで
は使用する望遠鏡の手順に従ってください
⑤ ターゲットの小惑星を導入する
・ このときCCD制御用とは別のPCに周辺の星図を表示して
恒星の位置関係から小惑星を断定します。通常ここまでは
3秒程度のフォーカスモードで連続してPCのモニターに表示
しています
⑥ ガイド鏡にガイド星を導入してオートガイドを開始
⑦ ダークフレームを撮像し保存します
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⑧ ここから連続してオブジェクトフレームを撮像します
・ 積分時間は小惑星のカウントが充分にとれる量にします
・ 私達は通常6分インターバルで連続撮像します
・ 2~3カット撮像したところでプリンクコンパレータにかけて
小惑星の移動を確認し、導入エラーを防いでいます
・ ダークフレームは外気温が1℃変化する毎に取得し更新
しています
⑨ 空の状態や小惑星の地平高度などの条件を満たす時間帯
で可能な限り長い観測をおこないます
(初期の観測結果から大体の自転周期を求め以後の観測
計画を立てますので、初期の観測データは長い時間取得
するのが良いでしょう)
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* CCDによってはソフトウエアで連続的な撮像と保存の出来る
ものがありますが、私達は1カット毎に撮像時刻、空の状況や
冷却温度、ガイド状況を確認しそれらを記録しながら観測を
続けます
(この間もたまにプリンクにかけて、NEOなど他の不審な天体が
入り込んでいないかを監視しています)
* 観測の途中で雲が通過するとオートガイダーがガイド星を
見失うことがあります、監視が必要でしょう
* 空の状態が悪くなると撮像したバックグラウンドの値が高く
なりますので、観測継続の可否を判断する基準とします
* 小惑星が恒星と重なる場合は測光が出来なくなりますので
注意が必要です。同じ観点から、銀河方面の小惑星の観測
は、避けた方が賢明でしょう
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8.ドイツ式赤道儀の問題点
* ドイツ式赤道儀では子午線付近で鏡筒がピヤーに当たって
しまいます、このとき鏡筒を反転させて導入し直しますが、
写野が上下反転します。 また、さらに厄介なのは反転前の
フラットは適用できないようです。 この場合は観測の最後に
反転後のフラットを取得し,反転の前後で使い分けています。
9.参考文献
・ 宮坂正大氏 Minor Planets at 366 (URL)
http://www.toybox.gr.jp/mp366