- 1 - MK 生徒指導 自分のよさに気付き,自信をもつ児童を育成する一

生徒指導
自分のよさに気付き,自信をもつ児童を育成する一試み
−
カウンセリングの技法(受容)を生かした学級づくりを通して
石巻市立貞山小学校
概
−
菅野
みきえ
要
豊かな人間性をはぐくむべき時期の教育には様々な課題が挙げられるが,問題の主体
は常に子供自身の中にあるであろう。そこで,子供の成長に集団の力を生かすことで,
自分で問題に対処する力や自信をもつことができるのではないかと考えた。本研究はカ
ウンセリングの技法を用い,学級づくりを通して友達とのかかわりから自分のよさに気
付き,自信をもつ児童を育成する一試みである。
1
主題設定の理由
現代社会は価値観が多様化し,学校や家庭を含めた地域社会の連携が希薄になり,子供は生活体験
の不足から自分に自信がもてず,成長に必要な発達課題である人間関係能力を十分に身に付けられな
いでいる。このような時代の背景を背負いながら生きる子供たちがつくるべき人間関係を大人がどう
援助するか,現代という時代に即応した人間関係づくりが求められる。
小学校時代は自己の確立の過程で,自分に対する自信,学ぶ楽しさと勤勉性・意欲を身に付けると
言われている。ハーヴィガースト(1953)は,児童期(ほぼ6歳∼12歳)の発達課題として友達と仲
よくすることを挙げている。子供は中学年の頃から急速に仲間意識が発達し,友達と遊ぶことや学校
での活動を喜びとするようになる。この時期は友達との関係が最も大切であり,集団と深いかかわり
をもつものが多い。発達課題にかかわる体験を学校生活や家庭生活の中で着実に積み重ねていき,対
人関係や集団生活での基本的なルールのもと,みんなで活動して楽しかったという体験を数多くさせ
ることで発達課題を達成していくことができると考える。
学級づくりにおいて,教師と子供,子供同士の信頼関係が礎となる。信頼関係を築くことは,受容
することから始まると押さえ,カウンセリングの技法である受容を用いようと考えた。本学級の子供
たちは活動意欲が高く,自分の活動におおむね満足している。反面,自己中心的な面が見られ,友達
とのかかわり方において配慮が足りないこともある。学級集団の中には,わずかではあるが,自分の
居場所を見付けられず友達と積極的にかかわれない子供もいる。このような実態を踏まえて,本校で
設定している,月曜日の朝の15分間の活動である「学級の時間」を子供たちの人間関係づくりに有効
に活用できないかと考えた 。「学級の時間」は,一週間の始まりを楽しい気分でスタートさせるとと
もに不登校傾向の子供を未然に防ぐねらいが含まれている。また,学級活動の時間には,本校のオリ
ジナルである学習案内としての「学習ナビ」を作成・活用し,子供たちの成長を見守っていきたいと
考える。加えて子供のよさは学校の教育活動だけで育つものではなく,学校生活と家庭生活の両方か
ら育成していくものであると考える。昨年度末に実施した保護者対象の「教育活動に関するアンケー
ト」の結果に基づき,あいさつをすることや人とのかかわり方を身に付けてほしいという願いを実現
できるようにするとともに ,
子供が自分自身のよさに気付くために保護者の協力を生かそうと考えた 。
教科の授業だけではなく学校生活全体を通して ,子供たちが友達や教師と学び合い活動する中で ,
自分がかけがえのない一人の人間として大切にされているということが実感でき,存在感,自己実現
の喜びを味わうことができれば,生徒指導の機能が学校の教育活動全体に生かされたということがで
きるであろう。子供が触れ合いのある人間関係の確立を集団体験から築き,人間形成の基礎を早い時
期に身に付けてほしいという願いから本主題を設定した。
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自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
2
研究目標
カウンセリングの技法(受容)を生かした学級づくりを通して,自分のよさに気付き,自信をもつ
児童の育成を図る。
3
研究仮説
学級づくりにおいて,以下のような手だてを講じていけば,自分のよさに気付き,自信をもつ児童
を育成することができるであろう。
(1) 朝の活動(学級の時間:「4の1タイム 」)や学級活動の時間に構成的グループエンカウンター(以
下SGE)を活用し,学級づくりに生かす。
(2) 学級活動の「学習ナビ」を作成・活用し,振り返りや教師,友達,保護者からの励ましを通して
自己の成長を促す。
(3) 教師と子供,子供同士のコミュニケーションを図り,人間関係における学び合いを豊かにする環
境を整備する。
4
研究の対象と方法
4.1 研究対象
石巻市立貞山小学校
4.2 研究方法
第4学年1組
22名
(1) 「育てるカウンセリング」「SGE」についての文献や先行研究を通しての理論研究
(2) 学級集団の実態把握のための調査方法の検討と決定
(3) 学級集団の実態把握のための調査実施と分析及び考察
(4) 朝の活動の時間と学級活動の有効活用及び「学習ナビ」の作成と活用
(5) 人間関係を豊かにする学級経営や授業実践による研究仮説の検証
(6) 研究のまとめと考察
5
研究の概要
5.1 研究主題・副主題について
5.1.1 「自分のよさに気付き,自信をもつ児童の育成」について
子供たちはこれまで自分と向き合う時間や空間が不足し,十分に自分自身を見つめることができな
かったのではないだろうか。また,自分のよさを意識することなく,よさのとらえ方にも個人差があ
り,自分のよさを認めることができなかったのではないだろうか。そこで,自分のよさに気付くとは
自分を肯定的に見つめ,自分の長所はもちろん短所だと思っていたところも見方によっては長所にも
なるというように,あるがままの自分を受け入れることができることと押さえた。自我が未成熟であ
る中学年の子供たちに具体的な事例を挙げ,優れたところをモデルとして見るなど,何をもってよさ
ととらえるのかを教師側で押さえて子供に伝えたいと考える。自分のよさの気付きは,自己理解はも
ちろんのこと,他者理解や集団の中から気付くことが多く,個が成長することで集団へのかかわり方
も変わるであろう。人間関係の能力は自分自身について学ぶ,他人との関係性を学ぶ,集団における
自分の役割を遂行するというように段階を経て身に付くものである。
一方,自信をもつ児童とは,何かをやり遂げた体験,何かを認められた体験など自分自身の体験を
通して自己肯定感が高まり,やがては自信につながると押さえた。学校では係活動,当番活動,学校
行事で,家庭では手伝いなど,自分の体験を通して学んだことはさらに習熟し,達成感をもつことが
できる。自分のことは自分で判断し,解決していけるという自信,自分は誰かのあるいは学級の役に
立てるという自信をもつことで,自己理解が進み,やがて自己受容ができてくれば更に自信は深まる
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自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
であろう。また,子供の長所でも短所でも現実を受け入れ,必要なときに励ましの言葉がけがあれば
自信をもつことができ,頑張ろうとする力を引き出すことができるのではないかと考える。
以上の点を踏まえて,教師は日々の学級経営の中で,子供がよさを発揮できる場面を意図的に設定
するように心がけなければならない。学級の生活において,一日の大半は授業が占めるのであるが,
生徒指導の観点から子供が自分のよさに気付くことができるように学級づくりに主眼を置いた 。また ,
今まで意図的に計画・運営してこなかった朝の活動である学級の時間を有効に活用することとした。
それを受けて,子供がよさに気付き,自尊感情や自己肯定感を高めることで自信が付き,学級の一員
としての自覚が表れるだろうと考える。よさは数値的に測定できるものではないが ,「学習ナビ」に
書くことで振り返りを行い,記入した「学習ナビ」をファイリングすることで自己の変容が分かるよ
うに取り組んでいく。
「学習ナビ」とは,学校で行われる授業を中心とした学習案内であり,子供に「何を 」「何のため
に」「いつ」「どう学ぶか」を知らせるものである。学年の発達段階に応じて,学習活動,振り返り,
自己評価の要素を重視した「学習ナビ」として作成・活用し,学習後に家庭に持ち帰らせたい 。「学
習ナビ」は保護者に学習内容を知らせることはもちろんのこと,保護者の記入欄を設けることで家庭
の協力も得たい 。「学習ナビ」の活用を通して,保護者も子供のよさに気付くという相乗効果が望め
る。また ,「学習ナビ」と併せて学級だより,家庭訪問,個人面談等を通して子供のよさを伝えてい
く。
5.1.2 「カウンセリングの技法(受容)を生かした学級づくり」について
カウンセリングは問題を抱えて困っている人の力になったり,今よりも考え方・感じ方・行動の仕
方を向上させたい人の力になることである。教育そのものが個人の心情や個人の事情を大切にする要
素があるので,すでにカウンセリング的であるという見方もされる。カウンセリングには「治すカウ
ンセリング」と「育てるカウンセリング」が挙げられるが,最近は,一対一のカウンセリングに限定
せず,個と集団の両方を育てる時代が来つつあると言われている。そのため,現場教師のカウンセリ
ングには問題解決や治療のためのカウンセリングよりも,自分づくりの力と人間関係能力の要素が含
まれる「育てるカウンセリング」が適していると言われ,未然に子供の問題が生じないようにする予
防・開発的なカウンセリングが求められている 。「育てるカウンセリング」は,能動的であり集団が
対象である。教師は,授業においても学級づくりにおいても常に集団を相手にしているため,たくさ
んの子供たちとかかわるときに,カウンセリングの理論や技法を用いれば効果的な指導が望めると考
える。また,カウンセリングは問題を抱える子供だけでなく,すべての子供のためと受け止めること
が大切な点だと思われる。教師は毎日子供と接することで,子供同士の触れ合いや教師と子供の触れ
合いをつくることができ,子供が発達課題に直面したときも,それにきちんと向き合い自分なりの答
えを出していけるように援助しなければならない立場にある。
受容はカウンセリングの技法の一つで,気持ちや思いを受け止める姿勢・態度であると言われる。
子供の存在そのものを価値あるものとして受け入れることは,教師の子供に対する基本的な態度であ
ると考える。SGEは集団体験を主とするカウンセリングとして,人間関係づくりの方法をもち,自
己理解や他者理解を促し,あるがままの自分を受容することが可能である。SGEを通して自己開示
をすること,互いの考え方をシェアリングし自分や他者のよいところを見付けられる体験は有意義で
ある。そこで,SGEと受容は互いに関連性があり,学級づくりに適していると考えた。一日の大半
を過ごす学級において,担任がエクササイズを通してプロセスをよく観察しながら援助をし,自分や
他者をかけがえのないものとして受け入れ認めることで,自己理解,他者理解が進み,さらに深める
ことや学び直す機会がSGEであるととらえた。人と一緒に活動して,相手から受け入れられ認めら
れて楽しんだことをSGEの振り返りとして,日常的に活用することで自己受容が高まっていくもの
と考える。そのためにSGEのエクササイズのねらいの中から自己理解,他者理解,自己受容を中心
に活用し,振り返りであるシェアリングを大切にしていきたい。学級の時間は15分間という制限があ
るため,SGEのショートエクササイズやSGEのワンポイント活用を図り,短時間でもできるよう
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自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
に工夫したいと考えている。
また,近年の生徒指導では,学級経営の充実や積極的な生徒指導が求められていることを受け,学
級づくりの段階を表1のようにまとめた 。(文献[4]参照)
表1 学級づくりの段階
段
階
目指す学級像と具体的な手だて
第1段階
いごこちのよい学級を目指す
(自分づくり,学級のリレーションづくり)
第2段階
人間関係のスキルを学ぶ
(友達を深く知り,学級集団を確立す る)
第3段階
さまざまなグル−プでの活動
あたたかい人間関係をつくり出し ,「私たちの学級」へと高めて
いく。
自己開示
SGE(他者理解 思いやり)
班活動
よりよい対人行動の方法や集団内での行動,問題解決や意思決
定の技能を身に付ける。
話合い
協働作業
問題解決学習
「心を開く 」「思いやりを示す 」「話合いができる」という行動
を子供たちが実践し体得する。
仲間とともに集団を高次の集団へとつくり変える。
グル−プ活動
表1から子供たち自身の成長と学級集団の育成にはカウンセリングの技法を用いることが有効であ
(学級としてのまとま り,学級集団の完成)
り,継続しながら取り組んでいくことで学級に支持的風土が生まれることを期待するものである。
5.2 実態調査
5.2.1 実態調査のねらい
学級内で子供同士がどの程度かかわり合っているかを把握し,カウンセリングの技法を生かした学
級づくりの指導の手がかりとする。
5.2.2 調査対象
石巻市立貞山小学校
5.2.3 調査方法
第4学年1組
22名
質問紙法(選択肢式)
実態調査では,河村茂雄氏の開発したQ−U(心理検査質問紙)を用いて行った。Q−Uは児童の
意欲を測る「学校生活意欲尺度(やる気のあるクラスをつくるためのアンケート )」と学級集団の状
態を的確に把握する「学級満足度尺度(いごこちのよいクラスにするためのアンケート )」の二つの
診断尺度と「自由記述アンケート」から構成されている。これを実施することにより,個人の状況だ
けでなく個人と集団の関係についても知ることができる。
5.2.4 調査時期
平成18年7月5日(水)
平成18年10月16日(月)
5.2.5 調査結果と考察
(1) やる気のあるクラスをつくるためのアンケ−ト(学校生活意欲尺度)の解釈
学校生活意欲とは,学校・学級の集団生活ないし諸活動に対する帰属感や満足感などを要因とする
児童の心理状態をいう。学校生活意欲尺度を用いて児童を理解するには,学校生活意欲が高いか低い
かと友達関係・学習意欲・学級の雰囲気のバランスはどうかという二つの視点がある。調査の結果を
表にしてみた。
表2 やる気のあるクラスをつくるためのアンケ−ト調査結果
群 名
児 童 の 特 徴
(人数の上段は7月,下段は 10 月)
人
数
高意欲児童群 学校生活における活動に積極的にかかわり,自分の活動にとても満
足している。学級の中でリーダーシップをとることが期待できる。
13名(59%)
10名(46%)
中意欲児童群 強い児童のリーダーシップの陰に隠れがちで積極的とは言えない
が,そこそこの意欲を見せている。
8名(36%)
8名(36%)
- MK 4 -
自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
低意欲児童群 学級の活動に意欲をもってかかわれないか,自分の活動に満足でき
ていないと思われ学級集団での適応に問題がある。
1名(5%)
4名(18%)
7月の調査では,高意欲児童群が13名と学級の半分以上を占めていた。10月の調査では,わずかに
人数が減少したものの学校生活意欲プロフィール(学級平均)は友達関係,学習意欲,学級の雰囲気
ともに平均値を上回っている。中意欲児童群は,友達関係,学習意欲,学級の雰囲気のいずれかに意
欲のばらつきが予想され,思うように自分自身を発揮できず,学校生活において何らかの不満を感じ
ているものと思われる。低意欲群の児童は,学級集団での適応に問題があると考えられ,子供の置か
れている環境を把握することが必要である。
(2) いごこちのよいクラスにするためのアンケート(学級満足度尺度)の解釈
上記と同様,調査の結果を表にしてみた。
表3 いごこちのよいクラスにするためのアンケート調査結果
(人数の上段は7月,下段は 10 月 )
群 名
児 童 の 特 徴
人 数
学級生活満足群
学級内で侵害行為を受けている可能性が低く,かつストレスや 6名(27%)
11名(50%)
1名(5%)
非承認群
不安も少ない。
学級内で侵害行為を受けている可能性は低いが,自分の居場所
を見いだしていない傾向をもつ。学級内で認められることが少
3名(14%)
侵害行為認知群
なく,自主的に活動しようという意欲が乏しく目立たない児童
である。
他の児童とのトラブルがある可能性が高い。学級内では自主的
に活動するが,やや自己中心的な面が見られる。友達とのかか
わり方が友達の心情に配慮していないことが考えられる。
12名(54%)
2名(9%)
学級生活不満足群 学級に自分の居場所がなく友達から認められる機会が非常に少
3名(14%)
ない。不安傾向が強い。
6名(27%)
7月の調査では,学級全体が侵害行為認知群・優位型に属し,児童の活動意欲は高いが児童間の友
達関係が希薄でトラブルが多いという見方をしていた。10月の調査では,学級生活満足群に属する児
童が11名と学級の半分を占めていた。侵害行為認知群に属する児童も大幅に減少し,学級生活にに概
ね満足し,安心できる状態になってきている。しかし,学級生活不満足群に属する児童が6名と7月
の調査に比べて多くなっていて学級生活に対する思いに個人差が見られる。そこで,学級生活不満足
群に属する児童の観察を強めるとともに機会に応じて教育的相談を行っていく必要があると考える。
(3) まとめ
以上の結果から学校生活における児童の活動意欲を大切にするとともに,教師が日頃から言葉がけ
をし,児童が認められる機会や場を意識して設定するなど観察を深めていく必要がある。児童一人一
人を見ると個性を発揮し学校生活を楽しんでいるようだが,望ましい人間関係を育成するという点か
ら学級全体を見ると,支援を必要としている児童がおり,学級づくりにおける課題が見えてきた。
5.3 指導対策
研究仮説と実態調査の結果を踏まえ,次のような指導対策を立てた。
5.3.1 実態調査から
教師から見て,学級生活満足群を始めとする各群の児童たちには,どういう共通点があるのか,教
師として児童一人一人に自分はどのように接しているのか,観察を含めながら振り返ってみる必要が
ある。学級経営で大切なのは,教師と児童及び児童間に触れ合いのある人間関係を育成することと考
える。その中で,友達とかかわる体験を通して自分のよさに気付き,自信をもつことができるような
場を意図的に設定するように心がけていく。
アンケート調査に加えて,これまでの子供たちの様子を見ると,発表する子供が限られていたり,
発表しても声が小さく自分の言葉でなかなか言えないなど,学級が安心して発言できる場とはなって
いないことが分かった 。「聞く」という姿勢にやや課題があることと合わせて ,「話す 」「聞く」時の
- MK 5 -
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態度や相手のことを考えて行動するなど,集団におけるルールも身に付けさせたいと考える。
5.3.2 学級の時間(「4の1タイム 」),学級活動の有効活用について
望ましい人間関係を育成するために ,「4の1タイム」で児童同士が仲よくなれる活動を意図的に
計画し設定していく。SGEの中から受容のエクササイズに絞って取り組むとともに,児童が発達段
階に即した社会性を身に付けるために,学級における基本のルールを確立させるSGEも取り入れた
いと考える。また,SGEは集団を対象としたカウンセリングの方法であるが,毎回,学級全体に対
して一律にエクササイズを行うだけではなく,学級を構成する様々な子供の実態を配慮した上で,子
供の実態に合ったエクササイズの導入も考えていく必要があると感じている。
表4
活
朝の活動計画
動
名
内
容
教師 ミニ学級活動
主体 自分自身を見つめる
月 学級の時間
朝会
生徒指導上有効な点
・子供たちのよさを見付ける。
・友達とのかかわりや協力する態度を育成
児童 レクリエーション
する場が設定できる。
主体 学級課題の克服
話合い
・不登校を未然に防止することができる。
音楽集会 校長先生,生活当番の先生のお話 ・聞くことの大切さを知るとともに,場に
火 児童集会
今月の歌
学年の発表
応じて話すことができる。
学級の時間
(※学級の時間は,4 週に1回の活動)
かしの木タイム なわとび
・望ましい集団行動を身に付ける。
木 学級の時間
マラソン
(雨天時 )
・共に汗する体験が共有できる。
・運動が苦手な友達を励ますことができる。
表4は,本校の朝の活動計画に生徒指導上有効な点を考えて作成したものである。この中でも月曜
日の「学級の時間」「
( 4の1タイム 」)は,学級独自に与えられた時間で,教師や子供たちの工夫で
学級づくりや人間関係の育成に生かすことができると考えた 。これを受けて作成したのが表5である 。
表5
朝の活動「学級の時間 」「
( 4の1タイム 」
)の年間活動計画(一部抜粋)
(◇教師 主体
時
期
4月
活
動
名
◇先生の自己紹介
主
な
ね
ら
い
主
な
活
動
内
○児童主体)
容
教師 が自己開 示をす ることで ,あた 学級目標を提示し,教師が自己開示をする。
たかい雰囲気を出す。
○レクリエーション
リレ ーション づくり のために 身体を ゲームなど子供たちが考えた内容で実施する 。
動かす。
例)みんなで輪く ぐり
◇学芸会に進んで取り組もう 学校 行事に取 り組む ことを通 して, 学芸会 で自分 が取り 組み, 頑張り たいこ とを発
10月
自分のよさに気付く。
◇楽しい 学校生活を
送るためのアンケート
3月
◇自分への手紙
表する。
学級 内で児童 同士が どの程度 かかわ Q−Uのアンケートを実施する。
り合っているかを把握す る。
1年 間を振り 返り, 自分のよ さを認 4年生 として 生活し た1年 間を振 り返り ,成長
めることができる。
した点を中心に自分あての手紙を書く。
活動については教師主体,児童主体で,各々年間を通して半分ずつの割合で計画した。今後,1回
ごとの計画を作成し実践していこうと考える。教師主体の活動は,学級生活の充実と向上を目指すS
GEのエクササイズを中心に行う。朝の活動である「学級の時間」は,15分間という限られた時間で
あるが,子供たち自身が中心になって活動できるレクリエーションを始めとする児童主体の活動内容
を取り入れることで,学級における自分の役割や友達とのかかわりの場面を設定したいと考える。
- MK 6 -
自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
図1は「4の1タイム」の
活動計画例である。内容とし
て活動名,ねらい,カウンセ
リングの技法と期待される効
果,主な活動内容,活動上の
留意点,準備物,活動を振り
返っての感想・反省,子供た
ちの様子,今後の指導に役立
てたい点を入れて計画した。
15分間の活動のため,SGE
のショートエクササイズを活
用した。
月一回はレクリエーション
として,子供たちが計画した
内容で実施したいと考える。
活動内容は係の子供を中心に
決めさせるが,同じような活
動にならないように教師側で
適宜アドバイスをしていきた
い。また,活動をスムーズに
進められるように事前に簡単
なリハーサルを行いたい。
「楽しい学校生活を送るた
平成18年
6月
日(
)
◇教師主体
<活動名>
私の好きなこと・好きなもの
<ねらい>
自分が好きなことを確かめ,自分を肯定する気持ち を育てる。
カウンセリ ングの技法と期 待される効果
<自己受容><他者受容>
・友達に受け入れてもらうことによ り,自己肯定感をもつ。
主な活動内容
1
活動上の留意点
準備物
自分の 好きな こと, 好きな ものを カー ・ カ ー ド は 事 前 に配 ・カード
ドに書く。
布 し て 書 く よ うに
させる。
2
カード に書い たこと をみん なに紹 介す ・ 実 物 提 示 が で きれ
る。
3
ば準備させる。
友達の紹介を聞いての感想を発表する。
<活動を振り返っての反省・感想>
<子供たちの様子・感想など>
<今後の指導に役立てたい点>
図1
「4の1タイム」の活動計画例
めのアンケート」も年間3回
実施したいと考える。
5.3.3 「学習ナビ」を作成・活用し子供の変容をみることについて
年間35時間設定されている学級活動の時間は,月1∼2回程度の割合でSGEのエクササイズを取
り入れ,併せて学習ナビを活用していこうと考える。また,朝の活動と学級活動との一貫した指導を
行う意味で,本校の学級活動の題材についても見直しをして示したい。
表6 学級活動の指導計画 (一部抜粋)
時期
題 材 名
主 な ね ら い
7月 1学期の反省をしよう
1学 期の 学校生 活を振 り返 り,頑 張った こ
手だて・方法
1学期がんばったこと ベスト3
とや よか ったこ と,2 学期 に努力 してい き 自分への手紙(SGE )
たい こと を出し 合い, これ からの 学校生 活
に生かせるようにする 。
10月
1月
クラスの友達
短所にばんざい!
たかい人間関係をつく る。
学習ナビ
私はわたしよ(SGE)
自分 が失 敗した ことを しっ かり受 け止め ,
学習ナビ
自分 自身 と友達 の違い を認 め,学 級にあ た
友達 に伝 えるこ とで, 親し みをも って仲 間 ここだけの話ですが( SGE)
づくりをする。
- MK 7 -
自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
学級活動学習ナビ
2学期の反省をしよう
平成18年12月
日(
)
今日 の授業で感じた ことを書
名前
∼お家の方から∼
いてみよう。
めあ て
・ 自分がしたことをふりか えり,できるようになったこと
努力していることを見つ け,自分で自分をほめてみよう。
2学期がんばったことベスト3
○
1.
2.
○
賞
○○○さんへ
あなたは2学期
をとても よくがん
3.
ばり ました 。そのが んばり をたた え,ここ に賞を お
自分 への手紙
くります。
○○○さんへ
平成18年12月
4年1組
日
担任
菅野みきえ
∼一言コメン ト∼
4年1組
図2
○○○より
「学習ナビ」の例
図2は「学習ナビ」の一例である。本時の学習のめあて,SGEを活用した学習活動,授業後の振
り返り,教師からのコメント,保護者の記入の欄を内容として盛り込んでいる。授業で活用すること
を通して,子供たちも自分自身を深く見つめることができるようになると考える。学習後は,ファイ
リングし,成長の軌跡を振り返らせる。
5.3.4 人間関係を豊かにする環境を整えることについて
(1) 学級開きについて
学級づくりのスタートである学級開きでは,教師が自己開示をするとともに「こんなクラスに・こ
んな子に」という形で学級目標を提示する。そして,自分たちの学級を向上させようという意欲を子
供一人一人にもたせる。
(2) 書く活動について
学校生活において,教師は一日の流れの中で行う生徒指導を意識し,子供の様子を観察することは
もちろん,具体的な方法で子供とのかかわりをもつようにする。その中でまず,書くという活動に焦
点を当てる。班ノートは順番で一日の生活の様子や反省を日記風に書くようにし,書くことに慣れて
きたら友達の記録を読んだ感想を一言付け加えることで,生活グループ内での交流を図っていく。家
庭学習カードには,家庭での手伝いや家庭からの連絡の欄を設けて教師と子供及び家庭との交流を深
めていく。この間,教師も個人の変容と併せて集団の変容を記録するために,生徒指導記録カードを
簡単なメモ程度の記録として活用する。今回,補助資料に提示した生徒指導記録カ−ドは学級づくり
において,教師が身近に置き,子供のよさを中心にメモをとり,併せて集団の変容を記録するもので
ある 。1週間程度の期間で区切り ,記録したものは ,週学習指導計画の中に綴じ込んで累積していく 。
(3) 朝の会や帰りの会について
日常的な小さな振り返りの積み重ねが自己理解や他者理解を促し,学級にあたたかい人間関係をつ
くるという意味で朝の会や帰りの会は,あいさつや諸連絡だけに終わらせずに教師の一工夫でコミュ
ニケーションを図る時間とする。朝の会では心身の健康状態を観察するとともに,1日の生活への励
ましの言葉がけを行う。帰りの会では1日の反省とともに,子供たちや学級全体のよさを見付け,頑
張ったことが学級にとってどのような意味があるのかを説明しながら具体的に褒めるようにする。
朝の会や帰りの会のプログラムは,その日の子供たちの様子に応じて教師側で考えたプログラムも
- MK 8 -
自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
盛り込んでいく。例えば朝から全体的に落ち着きが感じられないときは,軽いスキンシップや深呼吸
に関するSGEのエクササイズを活用する。
(4) 教育相談的な指導について
教育相談的な指導の場では,一度に学級集団全体を相手にするのではなく,最初は1対1の触れ合
いのある関係から徐々に学級集団を形成していくのが望ましいと考える。1日のスタートは,教師が
教室に足を運ぶことに始まり,登校後の子供たちの様子を観察し,言葉がけを通して学校生活への意
欲づけとする 。気になる行動が見られた時は ,休み時間を利用して行う「チャンス相談 」を実施する 。
また,年間3回実施した「楽しい学校生活を送るためのアンケート」の結果を受けて,交友関係や学
級での生活の様子について話し合う場を設定する。
(5) 物的環境の整備について
物的環境の整備においては,教室の前面に学級目標や子供たちの自画像,背面には「友達のよいと
ころが書いてある木」を掲示する。また,子供たちの活動や成長の様子を知らせる意味で ,「係から
のお知らせ」や学級の歩みを短冊で示し,年表風に記録していくなど子供たちの活動や成長の様子を
掲示していく。季節や行事に関するディスプレイは,製作の過程で各自が役割を得て,子供たち全員
がかかわれるように,また,場に応じて教え合いができるようにし,自分たちの生活の場である教室
を居心地のよい場所としていく。
5.4 授業実践から
(平成18年11月13日)
5.4.1 題材名
「クラスの友達」
5.4.2 本時の目標
○自分自身と友達の違いを認め,学級にあたたかい人間関係をつくる態度を育成する。
5.4.3 本時の展開の場面 (一部抜粋)
段階
ふ
れ
主な学習活動(◎:教師 ○:児童の反応,行動)
1 自分のよさについて考える。
○読み上げられたカードをもとに名前を当てていく。
主な支援や留意点と評価(☆)
・「 いいとこさがし」カードを事前に
る
つ
か
2
配布して記入させる。
・「 学習ナビ」に基づいて,学習のめ
あてを知らせる。
む
・
考
3 「私はわたしよ」のエクササイズをする。
☆自分の個性に誇りをもつとともに
○「いいとこさがしカード 」を参考に「 私はわたしよ 」
友達の個性についても尊重しよう
を書く。
としているか 。(思考・判断)
え
る
4
今日の学習のめあてをつかむ。
・金子みすずの「私と小鳥と鈴と」
を模造紙に書き ,黒板に掲示する 。
資料を読んで話し合う。
ふり 5 本時を振り返る。
・今後も自分のよさとともに友達の
かえ ○活動について自己評価し,授業を通して感じたこと
よさを見付け,認めていくように
る
気付いたことを「学習ナビ」に書く。
励ます。
5.5 授業実践の結果と考察
(1) SGEを活用した活動について
「いいとこさがし」は,カードを事前に配布し保護者と一緒に書くことで,自分自身を深く見つめ
ることができた。授業でも誰のことかを当てるときにスムーズに進めることができた。その後 ,「い
いとこさがし」をもとに「私はわたしよ!」のエクササイズに取り組んだが,初めて体験したエクサ
サイズであることや2つのエクササイズの関連性を見いだせず,やや書きにくい様子であった。
(2) 「学習ナビ」の活用について
自己評価を見ると,本時の学習を楽しいと感じた児童は,ほぼ全員であった。また,授業を通して
自分自身のことよりも友達のよさを見付けることができたようである。授業を振り返っての感想には
「人にはみんないいところがある 。」「友達のことをもっと知りたい 。」「これからも友達のよいとこ
- MK 9 -
自分 のよ さに 気付 き, 自信 をも つ児 童を 育成 する 一試 み
ろをさがしていきたい 。」などを挙げていた。授業後は,教師からのコメントを記入し,家庭へ持ち
帰らせ保護者からのコメントを記入してもらった。
(3) 学び合いを豊かにする環境の整備について
帰りの会のプログラムで友達のよいところを見付けて発表させている。日々の活動が生かされ,自
分自身を含め友達のよさを見付けようとする態度が身に付きつつある。
6
研究のまとめと今後の課題
6.1 研究のまとめ
(1) 朝の活動として ,「4の1タイム」は定着しつつある。実態調査を実施した7月頃と比較すると
学級全体に落ち着きが感じられる。子供たちは,SGEのエクササイズにも慣れ,自分の役割を得
て喜んで活動する一方,次の活動を楽しみにするようになった。
(2) 学級活動の「学習ナビ」を作成し,活用してきた。授業で活用したものには,教師がコメントを
書き,その後,家庭へ持ち帰らせ保護者に授業内容を知らせるとともに,保護者にもコメントを記
入してもらい啓発に努めることができた。今後も少しずつ改良を加えながら継続させていきたい。
(3) 子供たちは,自分のよさを友達とのかかわりから気付くことが多かった。そして,自分のよさに
気付くことは,学級生活から徐々に広がりを見せ,学校行事や他校の取組などからも見付けようと
している。見付けたよさを自分の中に取り入れることで,自信をもつことができ,前向きに積極的
な態度で学校生活を送ろうとする姿勢が見られるようになってきた。
6.2 今後の課題
(1) 「4の1タイム」や学級活動の計画に基づいて,学級づくりに取り組んでいくが,活動後の反省
を生かすとともに,子供たちの活動の様子を見ながら少しずつ改良を加え,活用しやすいものにし
ていきたい。そして,実践の様子は他学級へも啓発していきたい。
(2) 「学習ナビ」は,子供たちの記入の様子を基に活用しやすいように見直しを図っていきたい。ま
た,
「学習ナビ」と併せて,子供たちのがんばりの記録(学芸会がんばりカード,マラソン大会の
完走証など)もファイリングすることで,自分の成長の軌跡を振り返らせ,子供たちの財産として
いきたい。
(3) いじめに関するニュースが取り上げられるようになってきて,教師としてどのようにあるべきか
常に考えさせられ,教師と子供及び子供同士の人間関係の構築に,より一層,取り組んでいかなけ
ればならないと思う。いごこちのよい学級を目指し,子供と一緒にいる時間を見付け,相談しやす
い雰囲気づくりを心がけて学級経営に努めていきたい。
主な参考文献
全般的な参考書
[1]國分康孝著:「カウンセリングの技法」
[2]國分康孝監修:「エンカウンターで学級が変わる」
誠信書房
図書文化
1979
1996
[3]諸富祥彦著:「学校現場で使えるカウンセリング・テクニック」
[4]國分康孝編集:「育てるカウンセリング」
[5]國分康孝編集:「育てるカウンセリングが学級を変える」
誠信書房
図書文化
図書文化
1999
1998
1998
[6]諸富祥彦編集代表:「教師が使えるカウンセリング」
[7]諸富祥彦編集代表:「学級経営と授業で使えるカウンセリング」
第5章
ぎょうせい
ぎょうせい
2004
2004
[8]河村茂雄編集:「学級経営スーパーバイズ・ガイド」
[9]國分康孝監修:「エンカウンターで学級が変わる」
図書文化
2004
図書文化
1999
ショートエクササイズ集
- MK 10 -