№15「スポーツ障害」

東 順子の症例研究
№15「スポーツ障害」
(平成 16 年 9 月 12 日の田園調布教室「東順子のからだ講座」における講義録)
私は、ダンスとか体操はそれほどヘタではないし、楽しくできます。楽しいという
ことはやはり大事なことだと思います。でも、球技に関しては、まったくダメです。何
をやってもダメです。大きいボール小さいボール、動いているの、止っているの、いろ
いろ試してはみましたが、何でこんなにヘタなの?というくらいヘタです。そして好き
になれない。だから練習しない、だからウマクならない。
でもこれは、遺伝とかそういう問題ではなく、私の場合トラウマだということに最近
気づきました。
ドッジボールです。
子どものときにさんざんやりましたよね。あの野蛮なスポーツ!ボールを相手のから
だに当てるんですよ。野蛮だと思いませんか?野球だったらデッドボールです。手で受
けようとすると突き指するし、逃げそこなって転んで膝小僧をすりむくし、私のように
からだが大きくて動きのノロい子はかっこうの餌食です。いつも当てられてばかりでし
た。
その結果、私の潜在意識の中に「丸いもの」に対するトラウマが形成され、以後「球
技恐怖症」になったに違いない、と個人的に納得しております。その証拠に、バドミン
トンはちょっと好きでした。(でも饅頭はべつに怖くありません)
ドッジボールのおかげでスポーツ嫌いになってしまい、部活は当然文科系。もうちょ
っと鍛えておけばよかったなぁと思うこともありますが、でも大人になって必ずしもそ
うではないと思うようになりました。
“昔野球少年”の同僚がいっていました。「運動やってるヤツ等って、だいたいから
だ悪いヨ」って。へぇ~、と思い、以後(お酒の席などで)スポーツが得意そうなヒト
を見るとインタビューを試みます。すると出るわ出るわ。腰がヘルニアだの、膝のお皿
が割れてるの、肩関節にボルトが入ってるの、アキレス腱を切ってるの、肘の軟骨がど
うの、やはり骨格系のトラブルが多いようです。しかも多くの人が後遺症を引きずって
いるようです。
運動をやめたとたんに太ってしまい、それからずっと肥満体型という人も少なくありま
せんが、こういうのはスポーツ障害というのかどうか…。
スポーツと健康は直結していないようです。
オリンピックに出場するようなレベルの人達は、ケガとの戦いもやむをえないかもし
れません。でも、一般の人が人生を楽しむためのスポーツなら、やはり安全第一で、練
習方法とか、ケガをしたときの対処とか、一応基本的なことは知っておいたほうがいい
と思います。今日はスポーツ障害とその周辺の健康トラブルについて考えていきます。
1
Ⅰ
スポーツ障害
スポーツ障害とは
障害とは
Ⅰ‐1 スポーツ障害
スポーツ障害は
障害は使いすぎ症候群
いすぎ症候群
Ⅰ‐1‐(1) 疲れがとれないときは要注意
れがとれないときは要注意
スポーツ障害とは、スポーツをすることによりからだを使いすぎて疲れがたまり、痛
みがなかなかとれない場合をいいます。また、スポーツをしていてケガをした場合は、
スポーツ外傷といいます。
このように、スポーツによる慢性および急性の痛みやケガをスポーツ障害ということ
が一般的です。したがって、広い意味ではスポーツ障害には成長痛やねんざ、打撲、な
ども含まれます。
ただ、運動をしたあとの疲れは、少なからず誰にでもあるものです。単なる疲れとス
ポーツ障害の違いは、疲れはせいぜい 1~2 日でよくなりますが、それ以上だらだらと
痛みが続く場合はスポーツ障害が疑わしいということになります。
特に子どもの場合は、少々の疲れや痛みは 1
スポーツ障害
スポーツ障害
日寝たら翌日にはとれることが多いので、安
慢性のケガや痛み、成長痛など
静にしていても痛みが強い場合や、運動を開
スポーツ外傷
スポーツ外傷
始してもいつもの動きができない場合や徐々
に動きにくくなる場合には、運動は休止する
急性のケガ
ねんざ、骨折など
必要があります。
痛みや疲れが多少残っていても、動いてい
るうちに徐々にからだがほぐれて動きやすく
なる場合は問題ありません。いつもの動きが
できないときが危険信号です。
同じ動作を繰り返すことにより、集中して
単なる疲
なる疲れ
スポーツ障害
スポーツ障害
2 日くらいでよくなる
何日もだらだらと
痛みが続く
図- 1
刺激が加わった部位に痛みなどの症状が出て
きますが、これは「使いすぎ」によるものです。
そういう意味では、私たち施術者の腱鞘炎なども似ています。もっともこれは労働障
害になるのでしょうが。
私たちは、はじめの 1 人や 2 人なら、手首を使って揉むこともできます。このときは
筋肉がうまく働いていて、関節が動いているのですが、やがて筋肉が疲れてくると、腱
の負担が大きくなり、腱鞘(腱を包んでいる鞘=さや)に炎症が起こるというのが腱鞘
炎です。それで私たちははじめから手首をできるだけ固定し、体重を使うようにトレー
ニングをしているわけです。
筋肉が疲れて関節の動きが悪いな、という時点で休ませると問題はないのですが、そ
れ以上無理を続けると障害として痛みが続くことになります。
2
成長期の場合には、骨より腱のほうが強いので、骨にくっついている腱の部分に、よ
り多く刺激が加わるために問題が出るのです。
Ⅱ 子どものスポーツ障害
どものスポーツ障害
Ⅱ‐1 身長がぐんぐん
身長がぐんぐん伸
がぐんぐん伸びる時期
びる時期が
時期が要注意
Ⅱ‐1‐(1) 骨の成長とスポーツ
成長とスポーツ
子どものスポーツ障害と最も関係があるのが骨の成長で
す。この身長の伸びの著しいときは、同時に骨が非常にも
ろい、危険な期間でもあります。日常生活で障害がおこる
ということはありませんが、この時期に激しい運動をする
ことでスポーツ障害がおこるのです。
スポーツ障害は、特に骨の成長に関係する部位(成長線
または骨端線、骨端軟骨ともいいます)におこった場合に
問題になります。
成長期のスポーツ障害がなぜこわいかというと、その成
長線に損傷がおこって骨変化が残ることにより、将来にま
成長期は
成長期は骨端線離開
がおこりやすい
図-2
で痛みが続いたり、関節の動きが悪くなるなどの影響がでることがあるからです。
身長がぐんぐん伸びている時期は、器具を使用しておこなうウエートトレーニングは
早すぎます。筋肉はつきませんし、骨や筋肉、関節の負担となるだけですので、おこな
わないで下さい。筋力トレーニングは、性ホルモンが出はじめ、身長の伸びが終わりか
けた頃(第二次性徴)の 16~17 歳頃からが適しています。
成長期の子どもがスポーツをする場合に、保護者や指導者がつねに頭に入れておいて
いただきたいのは、くれぐれもスポーツによる障害を将来に残さないようにするという
ことです。
図-3
図‐ 4
3
スポーツに必要
スポーツに必要な
必要な能力の
能力の発達
成長痛は特に運動をしていなくてもおこりますが、運動によって刺激が強くなるとおこりやす
くなります。
ほとんどは安静で治り、心配のないことが多いのですが、野球肘やオスグッド病だったにもか
かわらず、単なる成長期の痛み、と勘違いしている場合もあります。
自己判断するのは危険です。しつこく痛みが続くような場合は、必ず整形外科で診察を受け
ましょう。さらに骨は、成長につれて急激に変化しますので、一度問題ないと診断されても、痛み
や腫れが続いたり、異なる症状が起こった場合は、必ず再度診察を受けてください。
Ⅱ‐1‐(2) 子どものスポーツ
どものスポーツ障害
スポーツ障害で
障害で困るのは肘
るのは肘と膝
使いすぎによるスポーツ障害は、からだのどこにでもおこる可能性がありますが、や
はり、おこりやすい部位や関節があります。
運動をするときに動かすことの多い肩、肘、
膝、足首の関節、およびその周辺にスポーツ
障害はよくおこります。
肩
●野球、テニス、バドミントン等…肩、肘の
リトルリーグショルダー、
スイマーズショルダー
障害
肘
●陸上競技、バスケットボール等…膝、足首
野球肘、テニス肘
の障害
手
子どものスポーツ障害の中でもっとも心
配なのは 2 つです。野球肘と膝の痛みのオス
オス
野球肘
グッド病
グッド病です。肘と膝は骨変化がおこると将
来にまで影響が及ぶからです。
そのほかでは、肘や膝のまわりに腱鞘炎や
骨折、脱臼、突き指
腰
膝
腰椎分離症、
骨盤の剥離骨折
オスグッド病、ジャンパー膝、
靭帯損傷、半月板損傷
足
足首
疲労骨折
関節炎などがよくおこり、関節の中の軟骨に
靭帯損傷
傷がつくこともあります。おこりやすい障害
子どものスポーツ障害
どものスポーツ障害
は右図のようなものです。
図‐ 5
Ⅱ‐1‐(3) 家庭で
家庭で注意すること
注意すること
障害を予防するために、子どものどこに注意したらよいかというと、「日常のいつも
の動きができているか、いないか」とういことです。いつもの動きがスムーズにできて
いる場合は、少し疲れはあったとしても、まず問題はないと思っていいようです。
4
局所の
局所の動きをチェック
きをチェック
こっそり全身
こっそり全身の
全身の動きをチェック
肘や膝の動きは良いか
手や足を曲げたり伸ばしたりしても痛
みはないか
頭の後ろに手がとどくか
片足でジャンプはできるか
元気よく歩いているか
箸や茶碗などの食事の姿勢がいつもと
同じか
正座はできているか
テレビゲームをするときなど、あぐらを
かけるか
立ったり座ったりがスムーズか
階段の上り下りがスムーズか
表‐1
こんなことを訴
こんなことを訴えていませんか
どこかの痛みが続いている
どこかの腫れが続いている
練習がつらいとため息をつく
微熱が続いている
子どもの動作
どもの動作チェ
動作チェッ
チェックリスト
日常の動きに問題があるときは、とりあえず休ませどきと考えます。さらに、安静だけでいいの
か、何らかの治療が必要なのかは医師の診断を仰ぎましょう。
Ⅲ いろいろな障害
いろいろな障害と
障害と治療法
Ⅲ‐1 どんな治療法
どんな治療法があるか
治療法があるか
薬物療法
この章では部位別のさまざまなスポーツ
障害をとりあげますが、はじめに治療に関す
装具療法
る基本的な考え方を述べておきます。
Ⅲ‐1‐(1) 整形外科での
整形外科での治療
での治療
理学療法
右の 4 通りの方法があります。当然のこと
ながら同じ病気でも症状や状態により治療
手術療法
方法は変ります。また、運動をしている人と、
していない人に対する治療は基本的に違い
ます。精神的な治療の必要がある場合もあり
表‐2
治療の基本となるもの。塗り薬、湿布
(冷・温)、鎮痛消炎剤、抗腫脹剤など
の飲み薬、坐薬などがあり、いずれも
痛み止め。
手、足、腰などに予防的または補助
的にサポーターやコルセットをつけ
る。成長期の子どもにはあまり適して
いない。
慢性的な痛みが続くときにおこな
う。温熱治療や電気治療、牽引など
で筋肉や関節の血行をよくする。
成長期の子どもには慎重に判断す
る。血管、神経の損傷をした骨折や、
靭帯を損傷して激しい運動ができな
い場合など。
整形外科の
整形外科の治療方法
ます。
治療は、まず薬物療法、その中でも塗り薬が基本になります。平行して理学療法をす
ることもあります。
子どもの場合はまず注射は嫌がります。やむをえない場合のほかは、治療を受ける側
の希望を聞いて治療する必要があります。どんなにいい治療をするにしても本人の納得
がないと、効果は半減するでしょう。
Ⅲ‐1‐(2) TMS(
TMS(緊張性筋炎症候群)
緊張性筋炎症候群)の治療
整形外科での治療法の中でも「精神的な治療の必要」と触れていますが、成長痛やス
5
ポーツ障害と思われている症状の中に、TMS がかなり含まれているという考え方があ
ります。抑圧された「怒り」が痛みとなって現れるという考え方ですが、講義録「TMS
(緊張性筋炎症候群)」に、ある程度詳しく説明しておりますので、是非参考にしてく
ださい。
これは、大人にも適用されるものですが、特に最近の子どもたちをとりまく環境は、
非常に複雑になってきており、大人が想像する以上にストレスを抱えている子どもたち
が多いようです。子どもは言葉による表現力が未熟なため、どうしてもからだに出やす
いのです。病院では、レントゲンに異常がないと、特に治療をしてくれないことが多い
ので、やはり周囲の大人が慎重に対処するべきでしょう。
Ⅲ‐1‐(3) 私たちの施術
たちの施術ができること
施術ができること
ねんざや骨折などで、炎症状態の場合施術はできません。基本的には病院の治療を受
けるべきです。
炎症のない筋肉痛や、筋肉の疲労、関節の動きが悪いなどの状態や、腱鞘炎、そして、
ねんざや骨折のリハビリ期に施術が効果的です。
大人も子どもも、障害を防ぐには、やはり運動前後のていねいなストレッチやマッサ
ージ、入浴、そして十分な睡眠などによって、からだの疲労を残さないというのが基本
的には大切だと思います。そういう意味では、足の施術は、足そのものの疲労回復に最
適ですし、からだ全体の血行を良くし、疲労物質をスピーディーに排泄するという点で
非常に効果があります。水分(白湯)の補給を十分におこなってください。
運動というのは、一種のストレスであり、からだだけでなく、心もかなり緊張してい
ます。そうした心身の緊張をほぐすということも大切です。親が子どもの足を揉んであ
げるというのも、心の交流という意味ですばらしいことだと思います。
すでにマラソンランナーの足のケアなどにもとりいれられています。
Ⅲ‐2 救急処置
救急処置
Ⅲ‐2‐(1) 腫れているときは RICE で!
外見上変形していたり、痛みが強い、みるみるうちに腫れてきたときなどは、なるべ
く早く受診しなくてはなりません。このような場合は、骨折、脱臼、重傷の靭帯損傷な
どが考えられますので、ダンボールや棒などを添えて、タオルや包帯などで固定すると
安静が保てます。変形があっても、そのまま動かないようにして安静を保ちます。
このときの処置の基本は RICE(
RICE(ライス)
ライス)療法といわれます。
要は安静を保ち、出血や腫れを極力おさえるようにします。
特に手足のケガの場合、痛みが強いばかりでなくしびれたり、うまく手足が動かなか
ったり、指の色が紫や黒っぽくなってくるような場合は急を要します。
6
Rest
Icing
Compression
Elevation
表‐3
このとき、砂や泥などの異物が傷口について
=安静
=冷却
=圧迫
=挙上
いれば、まずは水でよく洗い流します。洗った
あとは、できるだけ清潔なハンカチやタオルな
どで傷口を覆って、早めに治療を受けてくださ
い。
RICE 療法
Ⅲ‐2‐(2) アイシングの方法
アイシングの方法
前項の救急処置を要するとき以外は、アイシングをして経過をみて、翌日の状態で受
診するかどうかを決めても大丈夫です。
アイシングは、基本的には冷蔵庫の氷 4~5 個ぐらいか保冷剤をビニールに包み、さ
らにタオルでおおって腫れている部位に 15 分間当てます。このとき、痛みの部位や程
度によっては、15 分でなくても冷えたと感じるまででよいで
5 分~15 分冷やす
分冷やす
しょう。
痛みが
とれるまでく
り返す
1 時間たってもまだズキズキするようならアイシングを繰り
返しますが、やりすぎると凍傷になることがあるので、冷やし
すぎに注意してください。
1 時間放置
冷却スプレーを用いる場合は、説明書を十分読んで使用して
ください。打撲やねんざのあとの 2~3 日は腫れが強いので冷
図6
アイシング
やすことが必要です。
入浴をしますと、腫れがより強くなりますので、当日は入らないでください。湿布もお
こないません。大人の場合の飲酒も逆効果です。
Ⅲ‐3 部位別障害と
部位別障害と治療法
Ⅲ‐3‐(1) 目と鼻の打撲
目の周りの打撲は、顔面打撲の場合同様、少しずつ腫れが強くなって自覚症状がない
場合もあります。初期の段階での見た目では判断がつきにくいので、早めに眼科医を受
診しましょう。
網膜震盪症
(もうまくしんとうしょう)
網膜剥離(もうまくはくり)
網膜の細胞にずれが起こる。ひどい場合は光を感じるこ
とができないために、視力障害がのこる。
ケガ以外でもおこるが、網膜が眼底から剥がれた状態
で、手術をしないと失明することもある。
ほとんどは点眼薬で治るが、出血量が多いと手術でそれ
を取り除く必要が出てくる
視力障害から失明することもある。
全房出血
(せんぼうしゅっけつ)
顔面打撲による眼窩骨折
表‐4
目のスポーツ障害
のスポーツ障害
7
鼻を打つと、ひどい場合は尾骨骨折を起こすことがあります。その時は外見上、はっ
きりと鼻が曲がっているのがわかります。すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。処置
が必要になりますが、きれいに治ります。
鼻血が出たら、顔を前傾し、顎を引いて鼻をつまんで口で息をさせ、額から鼻の付け
根を冷やします。綿やティッシュを奥の方まで詰めてはいけません。特に綿は繊維が残
ることがありますので、それによって再出血することがあります。できればガーゼなど
を使用して、圧迫して止血します。
鼻の奥の方で出血した場合は、飲み込まず、吐き出すようにします。
Ⅲ‐3‐(2) すりきず
①病院へ
病院へ行ったほうがいい場合
ったほうがいい場合
痛みが強いとき、出血量が多いとき、傷が浅くても広範囲にわたっているとき、傷口
が砂や泥で汚い場合は、できるだけきれいなガーゼかタオルで傷口を覆って、早めに受
診してください。時間がたった傷口から液(浸出液)が出ているようなときも受診して
ください。
②自分で
自分で手当してよい
手当してよい場合
してよい場合
皮膚だけの傷で、傷口が小さくて浅く、すぐに出血が止り、砂などの付着がなくきれ
いな場合は、家庭用の消毒液で処置してください。短時間ならカットバンでもいいです
が、傷口がむれるので長時間はしないほうがいいです。ただし翌日、傷口の状態が汚く
なっていたら、病院を受診してください。
③化膿しやすい
化膿しやすい人
しやすい人の場合
虫さされのあとや、転んで少し膝をすりむいただけでも、その部位が化膿しやすい人
がいます。免疫能力が低下している場合や、糖尿病などの全身疾患としてあらわれるこ
ともありますが、子どもの場合はほとんど体質的なもののようです。小学生以上になる
と見られなくなりますし、特に心配はいらないようです。
④出血しているとき
出血しているとき
大きい血管以外では、5 分間の圧迫でほとんど出血は止ります。少し圧迫しただけで
ようすを見たりするとなかなか止りませんので、5 分間は我慢してください。
圧迫するときは、ティッシュなどの紙はさけ、ハンカチやタオルなどを使います。ま
た、傷口にアロエなどの汁をつけると、細菌に感染しやすくなりますのでやめましょう。
指のけがの場合、長時間にわたって根元をゴムなどできつくしばると、血行が悪くなっ
て治療に支障が出ることがありますので、出血部位のみ圧迫します。
※頭部や顔面の傷は、小さくても出血量が多いので、冷静に出血部位を見つけることが
大切です。
8
Ⅲ‐3‐(3) 骨折
①「ぐんにゃり」
ぐんにゃり」しなって折
しなって折れる
成長期の骨折は、骨が大人に比べてやわらかいため、粉砕するような骨折は少なく、
大人の
大人の骨折
子どもの
どもの骨折
ねじ曲がるような骨折が多いのが特徴です。
幼稚園児や小学低学年の子どもが手をついて倒れたとき
などに、前腕骨によくおこる骨折には、若木骨折といって、
若木骨折
若い細い木のようにやわらかく曲がるだけでレントゲン上
ではわかりにくい骨折があります。また、竹節様骨折
竹節様骨折とい
竹節様骨折
って、竹の節のように骨が両端から押されるために骨折し
たところがはれあがる骨折もあります。
これらは小児特有の骨折ですが、ひどく折れ曲がってい
るようでも、骨膜が完全に切れていないことが多いために、
手術をしなくても 3 週間程度固定するだけでなおります。
図‐7
大人の
大人 の 骨折と
骨折 と 子 ども
の骨折の
骨折の違い
②柔らかい骨端線
らかい骨端線を
骨端線を骨折する
骨折する
(3P 図‐2)子どもの骨には、大人の骨にはない骨端という部分があります。この部分
は軟骨でできていて、成長するにしたがってこの軟骨部分が少なくなり、やがてなくな
ります。
骨の軸に対して直角に外力が加わったときに、このような骨端線離開
骨端線離開とい
骨端線離開
う骨折が起こります。もうひとつは、剥離骨折
剥離骨折です。急激な筋肉の収縮によって、骨に
剥離骨折
ついている筋肉や腱の付着部分がはがれるために起こります。これは、急激な動作を始
めるときにおこり、このような場合、骨が成熟している大人だと、肉離
肉離れ
肉離れになります。
剥離骨折や肉離れを起こさないためには、準備運動の中でもストレッチが重要です。
骨端線での骨折は、肩や大腿骨(股関節)、腓骨、骨盤、坐骨結節部、恥骨結合部な
どでおこることがあります。肩の骨折は、少年野球選手に起こりやすい、いわゆるリト
ルリーグショルダーといわれるもので、上腕骨(肩)の骨端線離開です。
③疲労骨折
疲労骨折は普通の骨折とは違い、一度の外力でおこるのではなく、骨にわずかな力が
くり返しかかることによって微細な骨折が起こり、ついには骨折してしまうもので、か
つては兵士や軍人に多くみられました。針金の端を両手で持ち何回か折り曲げたりして
いると折れますが、この金属疲労と同じです。
運動としては長距離ランナーや走り幅跳び、走り高跳びなど、走ることがある種目で
起こり、下腿の膝の関節と足首の間の上 1/3 のところに非常によくおこります。また、
足部(中足骨)にも多くみられます。
また、ボールを投げることで上腕骨、バットスイングで肋骨におこり、長距離や短距
離走では大腿骨や坐骨などによくおこりますが、使いすぎればどこにでもおこる可能性
があります。
この疲労骨折は、痛みが出て 7~10 日間はレントゲン撮影には骨変化はでません。
9
ひびが治るときにできる新しい骨が骨変化として写るので、疲労骨折とわかるのです。
治療としては、ほとんどは日常生活程度の安静や飲み薬、塗り薬で治ります。ただ、
痛みが出てから 2~3 週間の間に無理をしていると治りにくくなることがあります。
Ⅲ‐3‐(4) 頭や頸の損傷
①頸部
ラグビー、柔道、すもう、器械体操、ボクシング、レスリング、スキーなどで、ぶつ
かりあったり投げられたときにおこります。いちばん問題になるのは、ラグビーでスク
ラムを組んだときや浅いプールに飛び込んだときに起こりやすい頸髄損傷
頸髄損傷です。
頸髄損傷
頸の骨を頸椎といいますが、これを骨折したり、ずれたりして神経をいためるのです。
この神経は頸髄神経といって、脊椎の中を頸から腰のほうまでつながっており、いため
たところから下のすべての神経がだめになってしまいます。
②頭部
頭を打った場合、ほとんど問題ないことが多いのですが、打った部位によってはしば
らくしてから症状が出ることもあるので、注意が必要です。とくに、頭痛、吐き気や嘔
吐などの症状があるときは脳神経外科を一刻も早く受診しなければなりません。
Ⅲ‐3‐(5) 肩のトラブル
肩関節脱臼や鎖骨の骨折、また有名な野球肩があります。それほど多くはありません
が、野球肩が成長期の子どもにおこるとリトルリーグショルダー
リトルリーグショルダーとよばれます。
リトルリーグショルダー
野球、バレーボール、テニス、バドミントンなどで多くおこります。
肩関節は 4 つの関節からできていて、球形をしているため、
他の関節に比べて動きが良いという特徴があります。そのため
に肩をグルグルまわしたりできるのですが、動きがよく無理が
きくということは、反面、負担も大きくなります。
体格に比べてボールが重かったり、投げすぎや、投げるとき
のフォームのわるさが原因のようですが、上腕骨の肩関節に近
い部位の骨端線部にねじれが繰り返しおこるために、ひどいと
きは骨折のようになります。(図
図‐2 のような状態)
図‐8
肩関節
レントゲンにははっきり写らないのですが、痛みが長く続き、肩の動きが悪くなりま
すので、ある程度判断がつきます。1 ヶ月間は完全に安静にします。復帰まで 3 ヶ月く
らいかかることもあります。
水泳選手の多いのがスイマーズショルダーです。これは、腕を動かすときに靭帯が骨を
こするために痛みがでるものです。手術が必要になることもありますが、早めに治療を
すれば問題なく治ります。
10
Ⅲ‐3‐(6) 肘のトラブル
①野球肘
投球による肘の痛みの総称です。これは、野球で投球をくり返したり、遠投したり、
全力で投げたりすることで、肘に負担がかかり、骨、軟骨、靭帯に損傷がでることもの
です。ポジションでは圧倒的に投げることが多いピッチャーによくおこります。
野球肘には、その障害がよくおこる場所により、「内
側型」
側型」と「
「外側型」
外側型」があります。ボールを投げるときに
は、肘の内側(机の角などで打つと激痛が起こる内側
の出っ張ったところ)と、その反対側の外側とに負担
がかかります。内側には手首を曲げるための腱がつい
ていて、ボールを投げるときに常に引っ張られ刺激を
受けます。外側は逆に軟骨と軟骨がぶつかり合うとい
う刺激があります。
小学生、中学生では内側の負担が多く、高校生にな
って変化球を投げ始めると、今度は外側の負担が強く
なって障害の部位が変わります。外側型がひどくなる
と、手が顔につきにくくなって、歯を磨くのすら難し
くなり、手術が必要になります。
図‐9
野球肘
症状としては、
「内側型」
「外側型」どちらにも痛み
がありますが、内側型は関節の外の障害で、外側型は関節の中の障害ですから、外側型
のほうが骨変化を起こすとやっかいです。
内側型の場合は、早く診断がつけば投球は禁止とし、3 週間程度の安静でほとんどの
場合は肘の動きが良くなります。
外側型では、肘の真後ろに痛みが出ますが、これは投球の最後にボールを離すときに、
骨と骨がぶつかり合うことで骨や軟骨をいためるのです。この場合は、関節の中の軟骨
の変化ばかりでなく、骨に変化が出て、間接の中に小さな骨の塊として剥がれ落ちるこ
とがあります。この剥がれ落ちたのが関節の中で移動するので、「
「関節ネズミ
関節ネズミ」
ネズミ」などと呼
ばれます。この状態を離断性骨軟骨炎
離断性骨軟骨炎といい、手術が必要になります。
離断性骨軟骨炎
関節内は栄養状態が良いので、関節ネズミは成長して大きくなることがあります。よ
くプロ野球の選手が肘関節の軟骨をとる手術をした、というニュースを耳にしますが、
これは関節ネズミをとる手術のことです。
②テニス肘
テニス肘
肘を曲げたときに少し出っ張る外側のところを上腕骨外上顆(じょうわんこつがいじ
ょうか)といい、ここには手首を背屈(そらして曲げる)させるための腱の付着部があ
ります。ここに炎症がおこったものを上腕骨外上顆炎
上腕骨外上顆炎といい、テニス肘のことです。で
上腕骨外上顆炎
すからテニスをしていなくても起こる可能性があります。
11
テニスではバックハンドの動きをくり返すことによっておこります。これは、使いす
ぎだけでなく、フォームやラケットの大きさ、重さ、グリップの太さ、ガットの張りな
ども関係してきます。
最近はバックハンドは両手打ちが主流になっていて、今後はテニスが原因のテニス肘
は少なくなるようです。いずれテニス肘という呼び方はなくなるかもしれません。
症状は、腕の筋肉痛から始まります。この段階で無理をしなければ大丈夫です。
テニス肘は、日常、手首をよく背屈させる仕事の人にも起こります。たとえば大工さ
んが釘を打ったり、漁師さんが一本釣りや網漁をしたり、理容師さんや美容師さんがは
さみやくしを使うときの動作をくり返すことで、肘が痛むことがあります。
予防としては、肩、腕、手首の筋肉強化があります。痛みがとれたら、腕立て伏せや
ダンベルなどでトレーニングをするとよいでしょう。
Ⅲ‐3‐(7) 手指のトラブル
手指のトラブル
①骨折
右の写真は、外見上は脱臼に見えますが、成長線での
骨折です。この場合は局所麻酔をして徒手整復(手で引
っ張って元に戻す)が可能です。その場に整形外科医が
いれば、麻酔無しでもその場で整復できます。しかし、
単なる脱臼の場合と比べると、へたに整復すると、骨折
の状態をさらにひどくする場合がありますので注意が必
要です。
②脱臼
図‐10
脱臼だけの場合は、直後なら意外に容易に整復できる
ことがあります。時間とともに腫れがひどくなり、整復
骨折している
骨折している
子どもの手
どもの手
(左小指を甲側からみている)
するのに指がつかみにくくなりますので、残酷なようでも、麻酔無しでも一瞬のうちに
整復したほうが本人にとって楽です。整復の瞬間は叫ぶほどの痛みですが、整復される
と意外に痛みが引くようです。
③突き 指
軽度の場合は安静のみで治りますが、困るのが、指の第 1 関節が「おじぎしたように」
なる骨折です(図
図‐11)
。これは、固定してもうま
くくっつかないことが多く、場合によっては手
術が必要になります。そのまま放置しても見か
剥離骨折
けが悪いだけで、手を使う機能には問題はあり
ません。
突き指をして、レントゲン写真で骨折はない
と診断を受けても、痛みや腫れが 1 ヶ月以上続
12
図‐11
重症の
重症の突き指
く場合は、関節軟骨の損傷と考えられます。その場合も、きれいに治りますので心配は
要らないのですが、指の関節の動きが悪い間は、無理をしないように注意します。
Ⅲ‐3‐(8) 膝のトラブル
膝のスポーツ障害は、主として膝の曲げ伸ばしをやりすぎたことによりおこります。
成長期に多いオスグッド病、ジャンパー膝、半月板損傷、前十字靭帯損傷(ぜんじゅう
じじんたいそんしょう)などがあります。いずれも、けがや使いすぎによって、骨、軟
骨、靭帯などを損傷するものです。
長期のランニング、ジャンプやダッシュのくり返しや、立ったり座ったりが多かった
り、坂道のランニングや階段の昇降などの訓練のやりすぎなどでよくおこります。
①オスグッド病
オスグッド病
成長痛の中でもっとも多いのがオスグッド病です。身長の伸びの著しいときに、激し
く運動したり、とんだりはねたりが多いと、膝の下でやや外側の少し出っ張ったところ
が痛くなります。ここにはお皿(膝蓋骨=しつがいこつ)からつながっている靭帯(膝
蓋靭帯)が脛骨にくっついているところがあり、膝を曲げたり伸ばしたりするときに、
ここが引っ張られるために、骨が出っ張ったり、はがれたりすることがあります。
この部分は人の骨の中で最後にできあがるところなので、骨として非常に弱い期間が
長いのです。そのために成長痛として多く見られるのです。
痛みは正座や運動をするときに出ますが、骨が出っ張るだけでしたら、少しぐらい痛
みがあっても運動はしてもよいでしょう。しかし、歩くだけでも痛みが出たり、1 日休
んでもその痛みがよくならなかったり、足を引きずりながら無
理に走ったり、をくり返していると、必ず状態は悪くなります。
このような時は運動を軽くするか、休むようにしなければいけ
ません。
治療としては内服薬や、張り薬、塗り薬、電気をかけるな
どですが、どうしても痛みがとれない時は、剥がれた骨を取り
除く手術をする場合もあります。このオスグッド病も、予防は
できる病気です。
図‐12
オスグッド病
オスグッド病
正常
異常
図‐13
オスグッド病
オスグッド病の発生
骨片が離れ
て残った例・
MRI
図‐14
13
手術により摘
出した骨片
(2.5×2.5cm)
オスグッド病
オスグッド病
正常例
MRI
②半月板損傷
上から半月板
から半月板を
半月板を見たところ
ジャンプの着地時に膝をひねって強い痛み
があり、4~5 日で治るようなときは単なる軽
外側半月
内側半月
いねんざのことが多いのですが、ひねったあ
と膝の動きが悪く、歩くのに不自由で、1 週間
以上にわたり動きが悪い場合は、半月板をは
じめ関節内の軟骨が傷ついた可能性がありま
す。
切れめが入
れめが入った半月板
った半月板
小さな傷なら、1 ヶ月以内に自然に治ること
が多く、それにつれて膝の動きはよくなりま
すが、ある程度大きな傷があると自然には治
縦断裂
横断裂
りません。狭い関節内でクッションの役割を
している半月板に傷があると、膝の屈伸をす
るときに引っかかったりして、スムーズに動
図‐15
けなくなります。
半月板
1 ヶ月以上経過しても、膝の動きが元に戻らない場合は、検査もかねて関節鏡視下手
術という方法があります。検査をしながら同時に手術もできるというものです。5 日ぐ
らい入院が必要です。
この関節鏡視下手術は、腰から麻酔をかけておこないます。関節の中に水を流しなが
ら、えんぴつぐらいの太さのレンズの入った金属の棒のようなものを、関節の中に入れ、
それに小さなテレビカメラをつけてモニターを見ながら、別の穴から機具を入れ、手術
をしたり内部を調べたりします。
この手術は関節を開きませんし、傷ついた部分をとり除くだけなので、膝への影響は
少なく、多くは 3 週間ぐらいで運動に復帰できます。
③膝に水がたまる
膝に水がたまるというのは加齢による変形性膝関節症をイメージしますが、この場合
は、関節内の軟骨がすり減り、骨に機械的な刺激が加わって、そのために炎症を起こし
て水がたまるのです。
もともと正常の膝関節内には 2~3cc の水があり、それは関節を包んでいる袋(関節
包)の内側の膜(滑膜)により、だしたりひっこめたり調節されています。それが炎症
を起こすと、膜の調節するはたらきが悪くなり、水がでっぱなしになって吸収する働き
がわるくなるので、たまったままになるのです。半月板損傷などでも水がたまることが
あります。
小学生の年代でも、まれですが、膝がしつこく痛んだり、関節内に水がたまったりす
ることがあります。
14
水がたまる原因には、機械的な刺激が原因の場合と、細菌が入り込んで炎症を起こす
場合と、膜そのものに病気がある場合があります。細菌や膜そのものの病気の場合は、
汚い濁った水や、血の混ざった水などがたまります。このようなことは、まれですが、
いったんおこるとなかなかよくならず、手術が必要になることがほとんどです。
このように関節にたまるものはいろいろありますので、どんなものがたまっていたの
か自分で見ておくといいでしょう。また、関節の水を抜くと癖になるのでは、とよくい
われますが、これは間違いです。ただし頻繁に抜いても意味がありませんので、じゃま
になれば抜くということでいいようです。
④膝の靭帯損傷
膝をひねったあと、膝の動きはいいが、関節内に血がたまっている場合には、まず関
節内の靭帯損傷を考えます。
血がたまる原因には、関節内の骨折、靭帯損傷、半月板損傷でも関節包に近い部位損
傷などがあります。血がたまる単独の傷のうち、80%が前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじ
じんたいそんしょう)です。
前十字靭帯は、膝の前後の動きを制限する
働きがありますので、これが切れたり伸びた
りの損傷を受けると、膝に不安定感が出たり、
後十字靭帯
大腿骨
外側側副靭帯
膝くずれが起こったりします。そのため全力
前十字靭帯
で運動をするのが怖くなり、階段がスムーズ
外側半月板
にとんとん降りられなくなり、歩くのもかば
いながらになってしまいます。しかし時間が
内側半月板
腓骨
たつにつれて、弱い部分をカバーするように
筋肉が働くようになり、軽い運動なら問題な
脛骨
膝蓋靭帯
膝蓋骨
くできるようになります。しかし、本格的に
運動をする場合は手術をするようになりま
図‐16
膝関節の
膝関節の構造
す。
手術をおこなうと膝は安定しますが、やはり完全に元に戻るわけではありません。手
術の条件は、骨が完全に成長していること、今後も激しい運動を続ける希望があること
などです。
⑤お皿(膝蓋骨)
膝蓋骨)が割れた
これは、分裂膝蓋骨や二分膝蓋骨ともいわれ、お皿にひびが入っているように割れて、
ほとんどはお皿の外上 1/4 の部分が分離している状態です。
以前は生まれつきと考えられていましたが、現在では疲労骨折と考えられています。
膝の曲げ伸ばしの激しいスポーツで痛みが出ることが多くみられます。痛みが強く、ど
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うしようもない場合は、この分離した骨片をとりのぞくか、逆に新しく骨折をつくり、
それをくっつける手術をすることもあります。
また、まれですが、膝のお皿が脱臼しそうになることもあります。習慣性膝蓋骨亜脱
臼といい、関節のゆるい女性(生まれつき脱臼をしそうになる骨組みをもっている人)
に多く見られます。
Ⅲ‐3‐(9) 腰のトラブル
①筋膜性腰痛症
これは疲れによる腰痛で、私たちが中腰で作業をしたときなどにおこる痛みと同じで
す。筋肉や筋膜の痛みです。スポーツによる筋膜性腰痛症では、準備運動や整理運動が
不足している場合や、運動の強度などにも原因があります。ほとんどは数日の安静か軽
い運動に変更するぐらいで治ります。
②成長期特有の
成長期特有の腰痛
腸骨は骨盤を形成していますが、この部位は中学、高校生ではまだ未熟で弱い成長過
程の骨なのです。
腸骨には、腰の筋腱やお尻の筋腱の付着部があるので、どんな動きでも負担が多くか
かり、痛みの原因になります。しかしこの部分はよほどのことがない限りは骨変化はお
こさないので問題はありません。したがって運動は様子をみながら続けてかまいません。
③腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニア
椎間板という軟骨でできたクッションが、斜め後ろに出っ張って、神経を刺激するた
めに坐骨神経痛をおこすものです。
ときに、若年性ヘルニアといって、痛みはたいして訴えないのですが、まっすぐにし
ているつもりでも背骨が横に傾いてしまうことがあります。痛みがなくても姿勢が悪い
ときは受診してください。
また、お尻から足にかけての痛みがある場合、坐骨神経痛の可能性があります。
明らかにしびれや痛みなどの神経症状がある場合は、運動どころではなく、精密検査
と完全休養が必要となります。
④腰まわりの骨折
骨盤周辺の剥離骨折…骨の発育中は筋肉や腱が強い力で引っ張られることによって肉
離れのような感じになり、さまざまな剥離骨折を起こしやすいのです。ほとんどは安静
のみで治ります。
腰椎分離症…テニスや野球による腰椎の回転運動、体操、柔道など、何度も圧迫をくり
返すことによりおこります。ほとんどは痛み止めの飲み薬と安静でよくなります。疲労
骨折の一種です。
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Ⅲ‐3‐(9) 下腿のトラブル
下腿のトラブル
①疲労骨折
マラソンや長距離走の中継などでよく耳にする病気です。ランニングやジャンプのや
りすぎなどで、骨にくり返しかかった力が微小な骨折となります。
レントゲン写真でみると、疲労骨折の治癒過程として新しい骨ができているのが骨変
化としてわかります。その具合で、骨折をおこしてからどれくらい経過しているのか、
また運動の再開はいつごろがいいのかを判断します。
無理をすると新しい骨がたくさんできすぎて、それが吸収されるのに時間がかかり、
本来なら 4~6 週間で完全に治るのが、さらに時間がかかったり、わるくなったりしま
す。
また、足の中足骨の疲労骨折も多く見られます。
②骨膜炎(
骨膜炎(シンスプリント)
シンスプリント)
同じ疲労性の障害です。疲労骨折は下腿の真ん中から上 1/3 のところに多いのです
が、骨膜炎の場合は、内くるぶしの少し上で、下腿の下 1/3 のところに痛みがでます。
ここには足関節で地面をけるときに使う靭帯の付け根があり、骨のまわりの骨膜とい
う膜にくっついています。ランニングなどで靭帯の付け根が引っ張られ、刺激としてこ
の膜に機械的な炎症が起こるのです。
Ⅲ‐3‐(10)
10) 足部のトラブル
足部のトラブル
脛骨の下端を骨折(骨端線離開)することがあります。これはサッカーなどボールを
けるスポーツによくみられます。この骨折をおこす年齢では骨の再生も早く、整復後の
関節面の状態に問題がなければ、その後の運動には問題はほとんどありません。
Ⅲ‐3‐(11)
11) 足がつる
運動中に足がつるのは筋肉のけいれんで、こむらがえりともいわれます。筋肉のけい
れんは背中、手指、足の指などでもおこりますが、よくおこるのはふくらはぎの筋肉で
す。
これは、運動をしていて、突然、筋肉が収縮するもので、激痛をともない歩くのも困
難となります。原因はよくわかっていませんが、準備運動不足や、汗が出ることによっ
て急激な温度変化がおこるためと考えられています。また、水泳中などでは呼吸のバラ
ンスがくずれることで酸素運搬能力が変化することにも関係があるように考えられて
います。こむらがえりは癖になることが多いようです。
治療は、けいれんで硬くなっている筋肉をほぐしながら伸ばしてあげることです。足
のマッサージが効果的です。
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予防としては、準備運動(特にふくらはぎのストレッチ)を十二分に行うことと、あ
せをかいたときはよくふき取り、こまめにズボンをはくなどして保温します。
Ⅲ‐3‐(12)
12) 肉離れ
肉離れ
肉離れは、急激にダッシュをしたときや走行中に筋肉が引っ張られて、部分的に筋肉
が切れる状態です。太ももやふくらはぎによくおこります。いきなりブチッ、となにか
が切れたように感じる人が多いようです。そのあと、走ろうとして倒れることもありま
す。曲げるための筋肉と、伸ばすための筋肉の筋力の差が原因と考えられます。
子どもは、大人に比べて筋力が弱いために、引っ張られる力も弱く、肉離れは起こり
にくいのですが、高校生ぐらいになり筋力が強くなるとおこりやすくなります。
ほとんどは安静のみで治ります。ちぎれた筋肉の状態が落ち着くのに 3 週間はかかり
ますので、その間無理は禁物です。リハビリは受傷後 2 週間くらいで歩行がスムーズに
なってから。ストレッチから徐々に開始します。
Ⅲ‐3‐(13)
13) アキレス腱
アキレス腱のトラブル
①アキレス周囲炎
アキレス周囲炎
アキレス腱が痛むのはアキレス
アキレス周囲炎
これとアキレス腱が切れるアキレス
アキレス
アキレス周囲炎といいます。
周囲炎
腱断裂とはまったく別物で、アキレス腱周囲炎から断裂へ移行することはありません。
腱断裂
アキレス周囲炎は走ったり、ジャンプでけったりすることによる疲れでおこります。
したがって無理さえしなければ治ります。しかし、歩くだけでもアキレス腱に負担がか
かりますので治りにくいのです。
足首の動きを制限すれば負担は軽くなりますので、ハイヒールのようにかかとを高く
するとよいのです。1~2cm 程度の厚さのクッションをかかとにしいておくと、少しは
アキレス腱の負担が軽くなるのでよいようです。
②アキレス腱断裂
アキレス腱断裂
筋力に腱が負けた状態です。ふくらはぎの筋肉の急激な収縮によって腱が引っ張られ、
それに耐えきれず切れてしまうのです。筋力の強さが条件ですので、高校生以下や高齢
者ではおこりにくいのです。
Ⅲ‐3‐(14)
14) 足首のねんざ
足首のねんざ
足首の靭帯を内側と外側で比較すると、内側のほうが幅の広い靭帯で強く固定されて
います。バランス的に外側が弱くなっている構造なので、ねんざをするときには、ほと
んど小趾側が下になるような状態になります。これを内反(うち返し)ねんざといいま
す。したがって外側の靭帯損傷がおこり、外くるぶしの周辺が腫れてきます。
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靭帯損傷の程度は、ねんざ直後の腫れ方でみます。一気にテニスボールのように腫れ
るときは重症です。
足首のねんざの治療方法は、軽症でも重症でも、医師の考え方により非常に差が出ま
す。そして、足首のねんざほどたくさんの治療法がある病気はないといわれます。
成長期のねんざの場合、時間さえあれば、何らかの強めの固定をしていれば手術は必
要ない場合が多いのですが、何回も繰返しねんざをおこしたり、早く運動に復帰したい
場合は手術もひとつの治療と考えます。
固定に関しても、長期間固定すると、安静を保つ意味ではいいのですが、それだけ復
帰に時間がかかります。したがって、安静を主体として治療をするか、復帰を主として
治療をするかを状況によって決めることになります。
Ⅲ‐3‐(14)
14) かかとの痛
かかとの痛み
かかとの状態も、腸骨と同じように、将来にわたって骨変化を起こすようなことはあ
りませんので、少々の痛みがあっても運動の継続に問題はありません。
ただし、痛みに対する対処は必要です。痛み止めの軟膏や、靴底のかかとにクッショ
ンをしくなども有効です。
Ⅳ
スポーツ障害
スポーツ障害の
障害の予防
1 十二分なストレッチ
2 安全な靴
3 ラケットは少し軽めに感じるものを
4 O 脚や X 脚では膝に障害が起きやすいので、靴のインソールなどで調整する。
5 疲れをためない
などが考えられます。具体的には実技の時間に実際にやってみたいと思います。
以上
参考文献
「子どものスポーツ障害を防ぐ・治す」 松井 達也/著 講談社/刊 ¥1,300(別)
「スポーツ障害と予防」 奥脇 透/著 少年写真新聞社/刊 ¥1,900(別)
「スポーツ外傷と障害」 (財)スポーツ医・科学研究所/編著
ベースボール・マガジン社/刊 ¥1,200(込)
インターネット「スポーツ障害」 松井 達也医師の HP
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