海外の地方自治制度及び住民参加制度

資料2
海 外 の 地 方 自 治 制 度 及 び 住 民 参 加 制 度 の 概 要 (英 ・ 米 ・ 独)
イギリス
アメリカ
ド イ ツ
面 積
24.2万k㎡
937.3万k㎡
35.7万k㎡
人 口
5,950万人(1999年)
2億8,142万人(2000年)
8,226万人(1999年)
立憲君主制/議院内閣制
連邦共和制/大統領制
連邦共和制/大統領制
ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの地方議会
50州
国家統治機構
広域政府の形態
と自治政府
16州
(うち、ベルリン、ハンブルク、ブレーメン3州は都市州)
イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの 50の州と、その下に約3千のカウンティ、約1万9千の市町 地方自治制度は各州が定める。
4つの地方からなる連合王国であり、地方自治制度は、そ 村等で構成される。ただし、連邦制をとっているため、地 基礎自治体としての市町村と広域自治体である郡の二層
れぞれの地域で特色がある。
方制度は州により大きく異なり、単純な二層制ではなく、 制となっている。ただし、特別市については一層制である。
イングランドの制度をみると、イングランドは、ロンドンとロ 一層制のところや基礎自治体自体が存在しないところも ○郡(クライス) 323
地方自治体の種類
ンドン以外に分けられ、ロンドン以外は、バーミンガム等の ある。
○市町村(ゲマインデ) 14,458
大都市圏と非大都市圏に分けられる。ロンドンと非大都 ○郡(カウンティ) 3,042
○特別市(郡に属さない都市) 116
市圏の大半は二層制、大都市圏と非大都市圏の一部は
○市町村(マニシバリティズ)
※州により異なる
一層制となっている。 (一層制と二層制が混在)
※市町村の呼称には、シティ、バラ、タウン、タウンシップ、 【図−2参照】
[イングランドの場合] 【図−1参照】
ビレッジなどがあるが、これらを総称してマニシバリティ
○ロンドン
ズと呼ぶ。
大ロンドン庁 − ザ・シティと32バラ (二層制) ○特別区(スペシャル・ディストリクト)
○大都市圏
学校区、公園区、衛生区、消防区など特定目的のために
36ディストリクト (一層制)
州憲法又は法律に基づき設置される。憲章を持たないが、
○非大都市圏
課税権や起債権を持つものもある。学校区は約1万5千
34カウンティ − 238ディストリクト (二層制) 団体ある。
46ユニタリー (一層制)
※州により多様
※他にパリッシュ 【図−2参照】
イギリス
地方自治権の保障
成文憲法なし
アメリカ
州憲法
ド イ ツ
連邦基本法及び州憲法
○カウンティ : 人口12∼260万人(平均約90万人) ○カウンティ : 人口1∼2.5万人の団体が約30%、人口 ○郡 : 規模は郡により多様
○ディストリクト : 人口2.5∼100万人(平均約12万人) の約半数が25万人以上の大カウンティの区域に居住 ○市町村 : 人口5千人以下の団体が全体の約75%
地方自治体の規模
(平均約6万人) 人口2万人以下の団体が全体の約95%
○市町村 : 人口千人未満が約半数、人口5万人以上の
市は全体の約2%だが、人口全体の55%がその区域に
居住
イギリスの地方自治制度は単一国家体制のもと、中央政 アメリカは連邦国家であり、憲法上、連邦の権限を限定 ドイツは連邦国家であるが、立法権は主として連邦に 府の強いコントロールのもとにおかれている。地方自治体 列挙し、残余を州の権限としている。このため、州政府に ある。ただし、①連邦参議院は州の代表で構成されること、
の権限は、法律の規定に基づいたものに限られ(「制限列 強い権限が付与されているが、建国以来、徐々に連邦の ②州は法律の発議権を有することにより、連邦の立法過
挙方式」)、法律に規定された仕事以外は行うことができな 権限が強化されている。現在では連邦政府の直接的支出 程に意思表示することができる仕組みとなっている。
い。
と州への財政援助を通じて、農業、教育、商業、保健、老 連邦と州の関係では、行政権は主として州にある。連邦
あらゆる活動に法律の根拠が必要であり、新たな分野に 人対策など幅広い分野で連邦が関与している。
国と地方の関係
法に定められた事務のうち、連邦が直接執行するのは外
取り組むには特定の地域のみを対象とする法律(local a 連邦憲法では地方制度について何らの規定も置いてい 交、国防、連邦銀行、連邦鉄道、連邦自動車交通、連邦
ct)を新たに制定する必要がある。中央と地方はそれぞれ ない。法的には地方自治体は「州の創造物」とされ、その 保健、連邦保険等である。これ以外の事務の多くは、連
の法律の範囲で独立して行政を執行する。地方自治体は 種類や組織は州ごとに異なる。
邦法で定められた事務を州が執行する。この場合、州は
根拠法の定めるところにより条例を制定することができるが、 地方自治体には、住民の要請に基づき、州から「憲章」 州の固有事務として執行する。このように、連邦は全国統
主務大臣の承認が必要となる。また、法律の委任の範囲を (チャーター)が与えられるものとそうでないものがある。市 一的な調整を行うが、連邦と州の明確な権限配分は行わ
超えていないかを審査する司法審査制度がある。
町村はあくまで住民の意思に基づいて設立されるのが趣 れていない。
国と地方自治体の間の事務配分は明確に区分されてお 旨であり、その区画も住民の意向が第一に重視される。 州と基礎自治体の関係は州法によって定められるため、
り、同一種類の事務を国と地方で分担したり、国の事務を このため、すべての地域が市町村に編入されているわけ 地方制度の仕組みは州ごとに異なっている。
地方に委任するといった方法は原則とられていない。
ではない。また、市町村の事務は広範にわたっており、市 郡は州により設置され、州の行政機関としての性格と自
町村が存在するところでは、郡の事務の大半は市町村が 治権を有する地方自治体としての性格を有する。地方自
実施している。
治体としては、区域内の市町村の行政活動を補完する地
域的な事務を執行する。基礎自治体には、連邦基本法
により強い自治権が保障されている。
イギリス
○国
アメリカ
○連邦
ド イ ツ
○連邦
農林水産、通商産業、労働などの経済対策、年金等の社会 憲法で連邦に委任されている権限は、租税の賦課徴収、 外交、国防、通商、連邦鉄道、郵便、電信電話等
保障、保健・医療
国債発行、外国・州間の通商、貨幣発行、外交、防衛な [州と競合] 民法、刑法、裁判制度、経済法、労働法、土
※上下水道、河川管理、水質汚濁防止等の水行政は、特 どに限定されている。
地法に関する事務、住宅、社会保険、公的扶助、交通等
別法に基づく地域水政庁(国)が所管
○州
[大綱を制定し、詳細は連邦法で定める立法]
国 の 事 務
○カウンティ(県)
連邦政府の権限に属するもの以外については、基本的 自然保護、景観保護、国土計画等
地方自治体の事務
地域基本計画、道路、交通、警察、消防、教育、図書館、 に州の権限とされている。
○郡
社会福祉、廃棄物処理等
○郡(カウンティ)
○ディストリクト(市)
検察、警察、刑務所、検屍、生活保護、道路、裁判、農 制(営業、交通、建設等)、社会保障、道路(郡道)等
地域計画、開発規制、住宅行政、環境衛生等
業、保健、医療扶助、小中学校、図書館等
[任意事務] 上水道、中学校、病院、老人ホーム、下水道等
○市町村
○市町村
[法定事務] 職業学校、住宅建設、保健衛生、広域的規
教育、警察、保健衛生、福祉、道路、消防、上下水道、 [法定事務] 小学校、社会扶助、道路(市町村道)、住民
公営企業等(市町村設置によりカウンティの事務が移行) 登録、消防、土地利用計画等
○特別区
[任意事務] ゴミ処理、下水道、公共施設(公園、文化施
学校、公園、衛生、道路、消防などの特定事務
設、墓地等)の維持・管理等
イギリスの地方自治体にはカウンシルが置かれる。日本 地域により多様であるが、大別すると5つの形態になる。 州により異なるが、大別すると5つの形態になる。
語訳では議会となるが、日本の議会とは異なり、議決機関 ①議会−強力市長型
①参事会制
と執行機関の性格を併せ持つ。一般的には、主要な政策 議会、市長とも直接選挙により選出される。公選市長が 執行機関としての参次会と議決機関としての議会が置
については本会議で決定し、各行政部門の執行について 行政部門の長であり、議会は政策決定機関である。市長 かれる形態。参事会は市長、助役及び参事会員(無
市町村(基礎的自治
は、カウンシル内に設けられている各委員会の責任とされ は部局の長の任命権と予算の編成権を持ち、しかも広範 給)で構成される。市長は議会の互選により選出され、
体)の統治形態
る。
な拒否権を有する。立法と行政の区分が明確であり、日本 参事会の議長を務める。
概ね市長を兼務する議長は、1年ごとに議員から選出さ の市町村長は形式的にはこの形態に一番近い。
②市町村長型
れ、対外的に当該地方自治体を代表するが、実質的な権 ②議会−非力市長型
議会と市町村長が置かれる形態。市町村長は議会に
限は持たない。地方自治体を統括するのは議会の多数派 議会と市長には明確な区別はなく、立法・行政の区別も より選出される。執行機関の長であると同時に、議会の
の代表であるリーダーである。地方自治体の多くは各委員 明確ではない。市長は議会の議長も務めるが、限定さ 議長を兼務する場合が多い。
会の上に「政策委員会」という統括委員会を設置している。 れた予算編成権と人事権しか持たず、拒否権はない。 ③南ドイツ評議会型
この委員会の長にはリーダーが就くことが通常である。そ 議会は政策の決定に加え、委員会形式で行政も行う。 議決機関であるとともに執行機関である評議会が置か
イギリス
アメリカ
のため、実質的には、日本の首長にあたる職はメイヤー ③議会−支配人型
ド イ ツ
れる形態。評議会議員と市町村長は、ともに公選選挙
ではなくリーダーがより近いといえる(ただし、議員である 市町村議会が行政の専門家を支配人として任命し、支 で選出される。市町村長が評議会議長となり、評議会
ため行政部局に対しては常勤で具体的な事務執行に
配人が行政のほとんどすべてにわたり権限を持つ。支配 の指示に基づいて行政の事務を執行する。
当たっているわけではない。)。
人は議会に対して責任を負う。中小都市に多く、全体の ④北ドイツ評議会型
行政各部局は議会から指揮監督を受ける。行政部門
半数近くがこの形態をとる。
市町村(基礎的自治 に対して常勤で統括するのは、公募により任期を定めて ④委員会型
体)の統治形態
議決機関であるとともに執行機関である評議会が置か
れる、もう一つの形態。市町村長は評議会議員の互選
選出される事務総長(チーフ・イグゼキューティブ)である。 概ね3∼5人程度の委員で構成される委員会が、立法機 により選出され、評議会議長を務める。行政上の事務
関になるとともに各委員が行政主要部局の長になる形態。 処理に関する指揮は評議会の選挙に基づいて任命さ
一部の中小都市にみられるが、数は少ない。
れる市町村支配人が受け持つ。
⑤住民総会型
⑤町村総会型
有権者の全員参加による住民総会(タウン・ミーティング) 議会の代わりに有権者の総会を置く形態。ごく小規模
により議決や行政の執行を行う形態。この形態に代表制 の指示に基づいて行政の事務を執行する。町村で採
を加味しているところもある(ニューイングランド地方に 用される。
多い)。
○住民投票(参加)制度について
○住民投票制度の概要
○住民投票制度の特徴
イギリスは、とくに地方圏においてパリッシュという非常に アメリカの住民投票(直接立法)制度には、イニシアティブ ドイツの各州や自治体における州民・住民投票制度
小さなコミュニティの自治体があり、そこを経由して、ディ とレファレンダムとがある。
の特徴は、アメリカと同様に拘束型のものではあるが、
ストリクト(市町村)やカウンティ(県)、さらには中央省庁 ①イニシアティブ
あくまで間接民主主義(議会制)を基調とし、自治体
にまで住民が意見をいうことができたため、サッチャー政 住民が提案し、署名・請願を経て、住民投票を行うもの の意思決定機構の中で、それを補完するものとして
住民投票制度の概要
権時代までは住民投票(参加)制度はほとんど重視され であるが、対象となる事項は極めて多様である。また、 位置づけられる。
ていなかった。
署名・請願と住民投票の間の議会議決の有無により、 自治体の住民投票の対象事項の限定方法としては、
1997年以降(ブレア政権)は、ブレア首相が住民投票を 直接イニシアティブと間接イニシアチィブに分けられる。 ポジティブリスト、ネガティブリストがあるが、ネガティ
重視した政策に転換してきており、その対象事項も個別 [対象事項]
ブリストをあげる方法の方が多い。
の政策だけでなく、自治体の予算など政策全般までを住 公選者の任期制限、増税の制限、政治資金の制限
○市町村レベルの住民投票における主な対象事項
民投票で決定するといった発想であった。
①ポジティブリスト
ギャンブルの公認、犯罪者の重罰化、犯罪被害者
大ロンドン庁の創設にあっては、ブレアの選挙公約どお の権利保護 等
学校等公共施設の設置・廃止、自治体の廃置分
イギリス
り、1998年に住民投票を実施している。
アメリカ
②レファレンダム
ド イ ツ
合・境界変更、自治体内部の行政区制の導入・
しかし、労働党が政権をとっている自治体のなかにも、住 地方議会が決定した事項を住民投票にかけるものであ 廃止 等
民投票制度の導入に反発するところが多く、ブレア政権 るが、その性格により以下の3つの種類に分けられる。 ②ネガティブリスト
も住民投票を強制しないというようにトーンダウンしはじ 1)強制的レファレンダム (義務的レファレンダム) 議員・首長・職員の法関係、首長・参事会の法定
めている。
住民投票制度の概要
憲法・法律等で地方議会の議決を住民投票にかける 権限、財政問題、委任事務、違法目的の追求 等
ことが義務づけられているもの
○州法における住民投票制度
[対象事例]
州民投票制度は、基本的に憲法・法律の制定改廃
憲法・憲章の修正、公債の発行、超過課税、
をめぐる州民立法制度であり、しかもイニシアティブ
境界変更 等
中心となっている。しかし、基本的には間接イニシア
2)諮問的レファレンダム (選択的レファレンダム) ティブ方式(議会を経由し、議会が無修正で受け入
住民投票にかけるかどうかの決定が地方議会に委ねら れたときは投票を行わない。)を採用し、さらには、
れているもの
一般的には、予算・税・公務員給与が法律イニシア
3)請願レファレンダム (抵抗的レファレンダム) ティブの対象から除かれている。
地方議会が議決した条例について、住民が一定数の 住民投票制度が州法により制度化されてきたのは、
署名を集め、住民投票で是非を問うもの
1990年代に入ってからであり、それまでは、バーデ
[対象事項]
ン・ビュルテンベルク1州であった。1997年に、ザー
あらゆる事項について可能とする州と特定の事項を ルランド州で制度化されたことにより、ドイツ全州で
除いた事項について可能とする州がある
(竹内譲監修・著『新版 世界の地方自治制度』(イマジン出版 2002年))
(竹内譲『議会制民主主義と住民投票』(月間自治研1997年1月号))
(生田希保美・越野誠一著『アメリカの直接参加・住民投票』(自治体研究社 1997年))
(『地方分権と住民参加を考える』(財 社会経済生産性本部 2001年))
(大塚祚保著『イギリスの地方政府』(WEB大学出版))
(『海外の地方自治制度の概要』(地方分権懇話会 2002年))
(『自治的コミュニティの構築と近隣政府の選択』(財 日本都市センター 2002年)
住民投票制度が制度化されるに至った。