幾何学の対話型教材の作成 - 公益社団法人 私立大学情報教育協会

幾何学の対話型教材の作成
発表者:佐藤宏一
北海道工業大学
共同研究者:荒井俊之
北海道工業大学
連絡先:〒006-8585 札幌市手稲区前田 7 条 15 丁目 4 番 1 号
Tel:011-688-2333
1.はじめに
GeoGebra というフリーの幾何学ソフトウエアを紹介
Fax:011-681-3622
E-mail:[email protected]
る.数学オブジェクトは、代数ウインドウにはシンボ
リックな表示,ドローイングパッドにはアイコニック
する.テキストや数式の表示能力,図形の作図能力に
な表示で行われる.ドローイングパッドに円を描くと,
優れており,作図履歴の保持や 2 つの幾何学オブジェ
代数ウインドウに円の方程式が表示される.逆に,キ
クトの関係を表示する先進的な機能も備えている.開
イボードで代数ウインドウの方程式を修正すると,す
発者たちによると,これらを用いて ”experimental
ぐにドローイングパッドの円が修正される.Geometry
learning for mathematics” が可能になるという.我々
Software と Computer Algebra の両機能を併せ持つ.
の研究グループでメニュに日本語を付け加えたので,
2.2
GeoGebra3.0 日本語(Windows 版)を紹介する.
次に GeoGebra を使用した対話型の教材作成について
ドローイングパッド
テキストや数式の表示機能は強力である.テキス
トボックスを開き,テキストや数式を入力してドロ
述べる.ガリレオ・ガリレイが著した『天文対話』を
ーイングパッドに表示する.ダイナミック・テキス
模倣し、数学教材を eTextbook とする試みである.具
トや LaTeX によるより高次の数式表示も可能である.
体的な作成法は次のとおり.視聴者(学生)の両側に
数学の問題を解くのに必要なすべてのもの,テキス
教師を一人ずつおき,三人でコンピュータを取り囲む
ト,数式,グラフ,図形をここに表示できる.
ような配置で座る.GeoGebra を動かして数学オブジェ
2.3
作図手順(Construction Protocol)
クトを描いていく.この描画の過程で生じる一切の事
表示メニュには,作図手順ナビゲーションバー
柄を,IT 技術,マルチメディア技術で視聴覚化する.
(Navigation bar for construction steps),作図
視覚情報はスクリーンキャプチャソフトを使用して動
手順(Construction Protocol)メニュが含まれてい
画にする.聴覚情報はマイクロフォンやミキシングコ
る.前者を選択すると,ドローイングパッドの下部
ンソールを用いて収録するが,教師間の発話,教師 A
に複数のボタンを含むコントロールボックスが現れ
から視聴者,教師 B から視聴者への発話,合わせて4
る.ボタンをクリックして,作図した工程を,1 ステ
チャンネルの発話を視聴者が聴き分けできる音場とし
ップごとに進める,戻す,さらに最初から通しで表
て収録し,後からオーサリングソフトウエアで動画と
示することができる.
あわせる.数学の基本知識,メタ知識などは教師 A と
作図手順メニュを選択すると,作図手順フローテ
教師 B の談話のなかに埋め込む.情報の伝達が発話で
ィング・ウインドウが表示される.作図に使用した
行われるので,言語の行為的な使用を生かすため,ト
数学オブジェクトを,構成した順に並べてテーブル
書と台詞を含む台本が必要になる.
としたものである.数学オブジェクトの名称,定義,
2.GeoGebra
コマンド名,代数式などの情報が付属している.詳
2.1
Bidirectional Combination
GeoGebra のウインドウは,代数ウインドウ(Algebra
Window)とドローイングパッド(Drawing Pad)からな
細な作図の履歴表である.
2.4
数学オブジェクト
ツールバーにはオブジェクト作成ツール,対称操
作ツール,計測ツール,図形を整えるツールなどが
社団法人 私立大学情報教育協会
平成20年度 教育改革IT戦略大会
ある.オブジェクト作成ツールには,点,直線,半
のときオブジェクトを構成している点の色彩が,そ
直線,線分,円さらには正多角形など,数学で必要
の点の移動方向を考えるうえで大きなヒントとなる.
とされるオブジェクトを作成できる.
オブジェクトの「変形」に関する実験を行うことが
オブジェクトを作成するには,各作成ツールから
必要なオブジェクトをドローイングパッドに置いて
できる.
4.対話型教材の作成
いく.既に作成されたオブジェクトの位置や関係,
教材作成に必要な機材の調査を行った.コンピュー
プロパティ,作成順序の情報をもとにして,GeoGebra
タ画面のキャプチャソフトウエアとして,株式会社デ
は,新しいオブジェクトを三種類の色彩点で表示す
ジベリー社の Demo Builder 6.0 と株式会社アスキーソ
る.自由点は青,半自由点(例えば直線上にある点)
ルーションズ社の Camtasia Stuio 5 を比較検討した結
は淡青色,従属点は黒に色づけされている.後者の
果,後者を選択した.音場の収録には,RODE 社製の
点をマウスでつかんで動かすことはできない.
コンデンサマイクロフォン(NT1-A),ヤマハ社製の
2.5
USB ミキシングスタジオ(MW8cx)を使用した.
2 つのオブジェクトの関係を表示する
興味を引くツールに,[2 つのオブジェクトの関係]
これらの機材を使用して,手始めに GeoGebra の操
がある.2 つのオブジェクトの関係を,関係ダイアロ
作法ムービーを作成した.GeoGebra リソースと操作法
グに表示する.例えば,3 直線が 1 点で交わることを
ムービーを入れた CD を作成し,数理基礎演習科目の
示す証明で,GeoGebra に 2 直線の交点 D ともう 1 本
クラス学生に配布し,GeoGebra の解説を行った.
の直線 f との関係を尋ねると,関係ダイアログ
5.今後の課題
に ”Point D lies on f.” というメッセージを返す.
GeoGebra3.0 にはバグがある.日本語版にも表示の
点 D が直線 f 上にあるのは偶然ではなく,必然であ
不具合がある.次の stable 版は 3.2 とされている.
ると明言している.フリーの幾何学ソフトウエアで,
リリースノートには Dynamic Worksheet を XHTML 対
この機能を備えているソフトウエアは初見である.
応にする,Spreadsheet,リスト処理,レイヤー機能
3.GeoGebra の試用評価
を盛り込むと記してある.懸念されることは,ソフ
3.1
トウエアの多機能に伴ってプログラムのバグが増え
ePaper として使用可能
ドローイングパッドには数学の表示に必要なすべ
ることである.これに伴い,日本語化作業が困難に
てのもの,テキスト,数式,グラフ,図形という身
なることである. GeoGebra の日本語表示を正確にす
分の異なる知識を記述できる.さらにすべてのオブ
るよう心掛けるつもりではある.
ジェクトの作図履歴が作図手順に残っているので,
中高一貫校の教科書(幾何学編)をもとに,平面図
紙媒体では難しいとされる作図問題の評価も正しく
形の基礎項目,対称な図形,図形の移動,作図,面積
行うことができる.解答用紙として使用可能である.
と長さ等の項目から eContents を作成している.音声
3.2
の収録技術が難しいことを肌で感じている.マイクセ
experimental learning が可能
対称操作ツールには,点対称ツール,線対称ツー
ッティングとミキシング技術の修得が必要,発話の特
ル,平行移動や回転移動のツールがある.オブジェ
徴を生かすために,言語の行為的機能や談話分析を生
クトにこれらの対称操作を施し,その結果をすぐに
かした台本が必要とされる.
確認できる.オブジェクトの「移動」に関する実験
6.参考文献
を行うことができる.
1. Geogebra 公式サイト
作図の過程で作成されたオブジェクトたちは,三
http://www.geogebra.org/cms/
種類の色彩点で表示されている.オブジェクトのな
2.シンデレラ‑幾何学のためのグラフィックス‑
かの自由点(青色)を一つ選び,マウスで掴んでド
J.リヒター‑ゲバート,U.H.コルテンカンプ著,阿原
ラッグすると,残りのオブジェクトたちは,この自
一志訳,シュプリンガー・フェアラーク東京
由点の動きにもとづき,この自由点の位置から作図
3.シンデレラで学ぶ平面幾何学,阿原一志著,シュ
の構成で定められた方向にそれぞれ動いていく.こ
プリンガー・フェアラーク東京
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平成20年度 教育改革IT戦略大会