海外農場支配を強める機関投資家

新たな農場主
激増する海外農地支配を主導する企業投資家
訳
山本義行
2009 年 10 月、グレイン
「食の安全保障」の話や「韓国がマダガスカルの土地の半分を賃借している」1 といった歪曲したメディ
ア発表については、海外食料生産のための今日のグローバルな土地収奪の主役たちが国でも政府機関でも
なく企業であることはすべて多くの人々が知らない点です。
サウジアラビア、中国や韓国のように国の関与に多くの注目が集中し過ぎます。しかし、現実には取引を
促進しているのは政府であるにしても、土地の支配権を得ているのは民間企業なのです。そして彼らの利
益はこれらの政府の利益と単純に同じというわけではありません。
「これは、民間主導になるだろう。」と、2009 年の世界食料デーに、エジプトのアミンアバザ、農林水産
大臣は、エジプトのよそのアフリカ諸国での農地買収を明らかにしています。
一例をあげましょう。2009 年 8 月、モーリシャス政府は、外務省を通じて、モーリシャス市場向けの米を
生産するためにモザンビークの優良農地 20,000 ha の長期借地権を得ました。 これは食料生産の委託の問
題であって問題はありません。しかし、モーリシャスの政府は、モーリシャスの人々のために、その土地
で米を作って自国に逆輸入するつもりはないのです。モーリシャス農業産業大臣は、そうはせずに、すぐ
にこの土地を、シンガポール出身の 1 社(アフリカで独自のハイブリッドイネ種子市場開拓を切望してい
る)と、スワジランド出身のもう1社(牛の生産を専門とし、また、南部アフリカにおけるバイオ燃料に
関与している)の 2 社の企業にまた貸ししたのです。2 これがこの種の典型的なものです。そして、これ
は、私達は国が関与しているからといって目をごまかされてはならないということを意味します。行き着
くところは、企業の望み次第で決まるようになるからです。そのうえ、彼らは自分たちを擁護するための
防御となる金融、法律、政治上の道具立てを構えているのです。
「政府として格安な食料資源を確保し始めたことが実現可能なビジネスモデルとなり、多くの湾岸国企業
が農業投資に乗り出しポートフォリオの多様化を図っている。」
2009 年 9 月 12 日、ドバイ、ナショナル紙、 サルマドカーンによると、「農地投資ファンドが Dh1bn (1
0億 Dh
(2.70 億米ドル))を越える投資先を探し求めている。」
さらに、グローバルな土地収奪で民間セクターに関与しているのは、つい最近の契約農業のモデルを単に
拡大しているだけのユニリーバやドールといった従来のアグリビジネスやプランテーション企業であると
思い込みやすい。しかし、実際には、農業の経験が殆どない精力的な金融業界が重要な企業参加者として
浮上しているのです。そうであるだけに、今日の開発官僚のお題目となっている「農業への投資」という
文句そのものを公的資金の意味として単純に理解してはならないのです。この農業投資はますますビジネ
スに、なかんずくビッグビジネスになってきているのです。
モーリシャス農業産業大臣サティシュ Faugoo と署名合意する Vitagrain 社のグレアムロバートソン氏。出
典:ルマチナル紙
金融資本の役割
グレインは、現在、世界各地の海外食料生産用農地を実際に乗っ取ろうとしている民間部門の投資家の身
元をつまびらかに調べようとしています。私たちが集めた身元情報からすると、金融資本、つまり投資フ
ァンドと企業の役割がまさに大事になっています。そこで、私たちはこの全体像を分かち合うため表を作
成しています。この表は 120 の投資組織についてその概要をのせているもので、これらの多くは新たに創
設されたもので、金融危機の影響で海外農地の買収に余念がありません。3
これらの契約は成約済みと
商談中を含め数百億ドルにのぼります。しかし、この表では網羅はできていません。この表は、関与企業
や機関の種類と彼らが目指している投資程度の一例を提供しているだけです。
民間投資家たちは農業の方に心を向けて世界の飢餓を解決したり、農村部の貧困をなくそうとはしていま
せん。彼らはただ純粋かつ単純に利益を望むだけです。そして、世界は、今では農地から大金を稼ぐこと
ができるように変わってしまったのです。投資家の視点から、世界的な食料ニーズには、その必要な資源
ベースを支配する人たちにとって、食品価格が上昇して投資リターンを提供するための強固な基盤を提供
する成長が保証されています。その上、その基本的な資源、特に、土地と水がこれまでにないほど切迫し
た状態にあります。金融危機の余波を受け、インフラや農地などのいわば代替え投資なるものがすっかり
ブームになっているのです。農地自体がインフレに対する防護策を提供するものとして注目されています。
その上、その値段が金や通貨のような他の資産と同期して上下に変動しないので、投資家はそのポートフ
ォリオを上手く多様化することができるのです。
「私たちは農家ではありません。私たちは、最先端技術を使用して高品質の大豆を生産する大企業なので
す。靴製造やコンピュータメーカーと同じように、私たちは農産物を生産するのです。」
ブラジル最大の農業企業の SLC のアグリコラ社のローレンス Beltrão ゴメスの言。
しかし、これは土地のことではなくて生産のことなのです。投資家たちは、借地を統合し、技術と資本と
経営能力とを一緒に注入して、インフラストラクチャを構築して可能性のある農場の大規模農業ビジネス
事業への変換を行う目的で、アフリカ、アジア、中南米、旧ソ連圏に進出できると確信しています。多く
の場合、彼らのお目当ては、その収穫とその土地自体との両方から収益の流れを生み出しその価値の値上
がりを期待することなのです。これは、完全に緑の革命の企業向けバージョンであって彼らのもつ野望は
大きなものです。
「私の会社の社長は、農業分野で一番のエクソンモービルをつくりたいと望んでいます。」、
とアルティマパートナーズワンワールド農業基金のジョセフカルヴァンは、2009 年 6 月のニューヨークで
の農地投資家の世界的な会合2で述べている。それで、政府たちや、世界銀行や国連がこれと連携したい
と望んでも不思議なことではない。とはいっても、これは彼らの仕事ではないのです。
豊か、から、より豊かに
「私は、農地は私たちの時代の最高の投資の 1 つになると確信しています。ゆくゆくは、もちろん、食品
価格も十分に高くなり、市場は恐らく新しい土地や技術、またはその両方の開発を通して供給で溢れると
同時に、強気の市場は終焉しましょう。しかし、それはまだ遠く離れた長い先のことでしょう。」
2009 年 6 月、ジョージソロス氏
今日の新興の新たな農場主はプライベートエクイティファンドマネージャーや、専門の農地ファンド事業
者、ヘッジファンド、年金基金、大手銀行などです。彼らの意欲のペースと広がりは目を見張るほどです
が、金融危機から回復するための緊急出動と考えれば驚くほどではありません。 1つにまとまったデータ
が欠けてはいますが、私たちは増しつつある多数の「急成長する」事業計画向けの農地買収に数十億ドル
が廻っていることが分かります。しかもこれらのドルの一部は米国や英国などの国々からの教員、公務員、
工場労働者が苦労して稼いだ退職貯蓄なのです。これにより、一般市民の多くがこのことを認識していよ
うとなかろうとこの風潮にある金融上の利害関係を有していることになるのです。
これは、また、企業利益に関する新しい強力な圧力団体が、彼らの農地への投資を促進すると同時に保護
する有利な条件を望んで集まっているということでもあるのです。彼らは負担となる外国人の所有を防い
でいる土地法を取り壊し、当事国の食品輸出に関する制限を削除し、遺伝子組み換え生物上のいずれの規
制も回避したいのです。これについて、私たちは、彼らが自国政府や様々な開発銀行とともに、自由貿易
協定や二国間投資協定、ドナーの資金引き出し条件を通じて、世界中で自分たちの議題を強引に推し進め
るために作業しているのを確認できます。
外国の「優れた」農業技術の移転がフィリピンの土地買収に対する歓迎すべき補償かどうか聞かれて、ネ
グロスオクシデンタル出身の農民たちは共通してうんざりと明確に反論して、自分たちは持続可能で多様
な自給自足ベースの農業に関する自分たち自身の知識とその実践に満足していると答えた。緑の革命によ
って喧伝された高収量な変種作物と化学物質集約的な技術に関する彼らの経験では、彼らをして彼らが農
家や科学者や MASIPAG や PDG 社などの会員組織の支援を利用して多様で有機的な農業への変換をうまくや
れるという結論が導れた。
-2009 年 9 月、テオドラ Tsentas、「外国国家主導型の土地買収と新植民地主義、フィリピンにおける外国
農業開発の質的ケーススタディ」
実際、世界の土地収奪は、北と南の両方において、政府という、より広い関連の中で、食料危機への主た
る答えとして自分たち自身の多国籍の食品とアグリビジネス企業の拡大を願って支援が行われています。
今日の推進されているおいしい話やプログラムはすべて輸出市場向けの大規模資本集中単一栽培作物を中
心にして食品産業体系のリストラや拡大の方向に向っています。一方で、「古臭く」聞こえるものでも、
中には新しくかつ独特な点もいくつかあります。第1は、このモデルはインフラストラクチャのニーズへ
の対処の必要です。(緑の革命にはこれは全くなかったものです。) 第2に、私たちの表で、明確なよう
に、新しい資金調達の形態です。第3は、南出身の企業や実業家から増えつつある提唱もますます有力に
なっている点です。かつて牛耳ったカーギル、タイソン、ダノンとネスレといった米国と欧州の多国籍企
業の脇に、現在は、COFCO、Olam、Savola、Almarai そして JBS などの新興財閥が居並んでいます。4 国連
貿易開発会議からの最近の報告書は、昨年の農業生産分野でのすべての合併や買収のうち 40%強が南―南
貿易であったと指摘しました。5 率直に云って、アフリカの明日の食品業界は主にブラジルや、中国民族、
そしてアラブ湾岸国の資本によって広く動かされていくことになるでしょう。
食料不安の輸出
今日の土地収奪における民間セクターの担っている役割を考えれば、これらの企業が、私たちに食料主権
をもたらす農業の類には関心がないのは明らかです。人口成長率より速い速度で増大する飢餓にも、食料
安全保障にも多くをなしそうにない可能性が高いでしょう。ベナン出身の農民シナジー(Synérgie
Paysanne)出身のある農民リーダーはこれらの土地収奪を根本的に「食料不安の輸出」と見ています。と
いうのは、彼らは他人から食料生産資源を奪うことによって一部の人々のトウモロコシまたはお金という
ニーズに答えようとしています。彼はもちろん間違っていないのです。殆どのケースでは、これらの投資
家たちは自らの農場経営の経験はあまりないのです。フィリピンにおける MASIPAG のコーディネーターが
よく見ている通り、彼らはきっと、参加しても、集約農業を介して、生物の命と栄養の条件となっている
土壌を枯渇させ、数年後には撤退することになって「砂漠」を地域社会に残してしまうはずなのです。
「自分たちの土地が地域社会まるごと外国人投資家の利益のために奪われています。(...)土地にあるア
フリカにおける地域社会の生得権が維持されなくてはなりません。」
- 2009 年 6 月、N'Diogou Fall、ROPPA(生産者と農民組織の西アフリカネットワーク)
突然急増するドルとディルハムがグローバルな食料危機の解決に向けた懸案に流れるよう討議することは、
あからさまな危険が無ければ変に思われる恐れがあります。ニューヨークの国連本部から欧州の首都回廊
まで、皆これらの取引を「ウィンウィン」にすることについて話し合っています。私たちがなすべきこと
のすべては、この発想が進むことであって、投資家が追いたてられる危険なしに、土地収奪契約が実際に
地域社会に役立つように、道徳ある規律のあるものにするための何点かの要因について同意することです。
世界銀行ですらも、これまでヤシ油、林業又はその他の採掘業の場合に努力されてきた方針にのっとって、
「持続可能な土地収奪」になり得るものに関するグローバルな事業計画認証監査局の創設を願っているの
です。
「ウィンウィン」の肩をもつより先に、「誰と?、誰が投資家なのか?、彼らの関心は何なのか?」を聞
き出すのが利口でしょう。すぐに使える非常に多くのお金があって、過去の鉱業出身にせよ大規模農園出
身にせよ、大量の土地使用権やその転換を扱った社会的経験に関する非常に多くの蓄積があった上に、金
融や農業ビジネス産業の中心的役割が与えられるとあっては、これらの投資家がフェアプレーをするとは
俄かには信じがたいのです。各国政府や国際機関が俄かに彼らに十分な償いをさせられるとはとても信じ
難いのです。
「一部の企業は、サトウキビ向けの農地の買収やその国際市場での売却に関心を持っている。これはビジ
ネスに過ぎません。」
2009 年 6 月 28 日、シャラ Pawar、インドの農林水産大臣は、彼の政府がアフリカ農地の新たな植民地化を
擁護しているとの苦情を退けました。
これらの投資を上手くいかせるには出発点からしてあまりに不適切です。小規模農家たちの努力が実際の
食料主権を支えているのです。これらは極端に二極化した懸案事項であって相互にすれ違っては間違うこ
とになるでしょう。投資家が何者で本当に望むものが何かをもっと細かく調べることがとても大切です。
その適切な基盤の上に立って食料危機問題の解決に向けて追求していくことの方が大事なのです。
参考文献
1 -それは韓国ではなく大宇ロジスティクスだった。
2 –グレインを参照のこと、「モーリシャス、モザンビークの稲作用地収奪で先行」Oryza hibrida、2009
年 9 月 1 日、http://www.grain.org/hybridrice/?lid=221 (英語、フランス語、ポルトガル語で利用でき
ます)。
3 - 表は 3 種類の実体組織を扱っている:そのほとんどが農地ファンドという特殊なファンド、資産や投
資マネジャー、そして関連投資家である。私たちは、これらは幅の広い混合組織であることを認識してい
ますが、私たちは表を分かりやすく保つことの方が重要です。:http://www.grain.org/m/?id=266
4 – COFCO は中国を本拠にしており、Olam はシンガポールに拠点を置き、Savola はサウジアラビアを拠点
とし、Almarai はサウジアラビアに拠点を置くものであって、JBS はブラジルに拠点を置いています。
5 -2009 年 9 月、ジュネーブでの、UNCTAD 世界投資報告書 2009、27p、ほとんどの外国直接投資は合併
や買収を介して行われています。