水をめぐる環境と法

1
水をめぐる環境と法
飯 島
哲
生
1.はじめに
2.地球上の水資源
3.水をめぐる環境
3.1 水の利用形態と飲料水
3.2 ボトルドウォーター・ビジネス
3.3 「水戦争」−新たな争いと環境・生態系への影響
4.考察
5.結論
水資源は、第二次世界大戦後急激に増大してきた人口増加と共に顕在化してきた、地球
規模の問題である。水は生命とその維持にとって、空気・温度と同様に必須のものである
から、多くの人々が生活するためには、より多くの水資源が必要となることは自明のこと
であろう。本論文では、水をめぐる環境・生態系の変化を概括するとともに、飲料水とし
ての上水道事業とボトルドウォーター・ビジネスの現状を、以下の点から考察し、環境と
法・政治との接点から将来の方向性について検討している。(1)
生活インフラとしての上
水道事業は誰がどのように担うべきか、(2)
地下水は誰のものか、(3)
見直しを求められる、
世界の多くのダム事業、(4)
食糧自給率低下に伴う間接水の消費、(5)
水を造る技術。
Water resource has become a global issue as population increases after the World War II. It is
clear that the more people there are, the more water we need. This paper introduces an overview
of the change on environment and ecosystem in relation to water, and discusses waterworks for
drinking and bottled−water business today in terms of the following points: (1) who is responsible
for waterworks as a life infrastructure and how it should be done, (2) to whom underground
water belongs, (3) dam construction, which is on the table of discussion for needfulness, (4)
indirect water consumption due to reduced food self−deficiency, and (5) technology in water
2
平成国際大学論集 第1
2号
production.
1.はじめに
水・空気(酸素)
・温度は生命の三要素とされ、いずれかが欠けてもそれを生成・維持す
ることができない。太陽系にあって、ただ一つ生命を誕生させ育んできた「水の惑星」1)、
地球。その地球に存在している我々は、今、地球規模の水資源・気候変動に大きな関心を
寄せざるを得ないでいる。
中央アジアにある、1
9
6
0年当時世界第四位の面積を誇ったアラル海が、急激に狭小化し、
1/4程度になったという2)3)。また、アフリカのチャド湖では、干魃により湖水が急激
に減少し、かつての漁港・港町が砂漠の中に取り残され、住民の多くがそこを離れてしま
ったという TV 報道もあった。一方、2
0
0
2年7月にはヨーロッパでエルベ川が氾濫して、
ドレスデンやプラハといった歴史ある都市が水につかり4)、2
0
0
5年8月にはハリケーンの
影響で米国のニューオーリーンズが大被害を受けるといった大規模な洪水・災害も頻発し
ている5)。
これらの大干魃や大災害は、地球規模の温暖化現象にその原因があり、気候変化や海水
上昇などを伴う地球全体の問題として国家の枠を超えて対策を行うべきであるという行動
指針6)にも現れており、事実、先進国首脳会議(サミット)
のメインテーマにも据えられる、
国際政治的にも格好の話題となる時勢となっている7)。加えて、温暖化を監視し緩和する
ため二酸化炭素(CO2)
削減の技術や施策にも世界の大きな関心が集まっているところであ
る8)。一方、数1
0
0万年規模の長期的な地球規模の気候変動でとらえると、むしろ現在は
第四氷河期の間氷期にあり、近年の気候変化はそのわずかの摂動であるとの説明9)にもま
た説得力があるようにも思われる。
さて、1
8
0
0年のころには約1
0億人であった地球全体の人口は、1
9
0
0年には約1
6億人、し
かし第二次世界大戦後急激に増大して2
0
0
0年に6
0億人を突破した10)。その増大率は急激で、
半世紀後(2
0
5
0年)
には9
0億人に達するであろうという推計がある11)。人々が生活するため
には、水は空気・温度と同様に必須のものであり、人口増加に伴ってより多くの水資源が
必要となることは自明であろう。
このような背景を受けて、すでに、1
9
7
0年代から「水」に関する多くの国際的な動きが
あった12)。1
9
7
7年3月、アルゼンチンで開催されたマル・デル・プラタ会議は、近い将来
に想定される地球規模の水危機に関する、国連主催の世界最初の大規模な「国連水会議」
水をめぐる環境と法
3
であった。この活動は継続しなかったが、1
9
9
0年代から水危機への意識の高まりが全世界
での共通の認識となるにつれて、再び「水」に関する各種の国際会議が開かれることにな
る。1
9
9
7年の第1回世界水フォーラムはその後も引き続いて3年ごとに開催されている。
また、1
9
9
2年の地球サミットでは地球環境問題への国際的対応が議論され、2
1世紀に向け
た行動計画、「アジェンダ2
1」が国家間で採択されることとなった。この地球サミットで
の地球温暖化対策と二酸化炭素削減の問題は、のちに「京都議定書」の伏線となっており、
その後の大きな国際政治的テーマにもなっている。
本論文は、水をめぐる環境・生態系の変化を概括するとともに、飲料水としての上水道
事業とボトルドウォーター・ビジネスの現状を、環境と法との接点という側面から検討し
ていくこととする。
2.地球上の水資源
水は生命の維持に欠かせない
水・空気(酸素)
・温度は生命の三要素とされ、いずれかが欠けてもそれを生成・維持す
ることができない。その我々が住む地球は、「太陽からみて3番目の惑星で、金星と火星
との間で微妙な位置を占め、太陽の恵みを最大限享受している」
。生命誕生と維持に不可
欠な微妙なバランスの空気をはじめ、「水の河川、湖そして広大な海洋が存在する太陽系
唯一の「水の惑星」であり、光合成により多様な生命体が生息しているユニークな惑星」13)
である。微妙な位置とは、太陽から見た地球の距離にあり、「地球は、ちょうどぴったり
の大きさと状態の恒星、つまり太陽から、ほどよく離れた位置を見つけたのだ。その結果、
本来ならつかの間のであるはずのまれな温度帯が長く保たれ、ここに4
0億年にわたる水の
歴史が悠然と流れ始めた」14)のである。ここに、地球と太陽との距離、1.
4
9
5
9
7
8
7
0×1
011
m は1天文単位距離(1AU: Astronomical Unit)
として定義されている15)が、その距離がわず
か太陽に近ければ灼熱の地獄となり、逆にわずかその距離が離れていても全てが凍り付い
た「氷の世界」となるであろうし、そもそも生命が誕生したのかさえもわからない。
地球上の水
3
3
地球上の水は、塩水が1
3億5,
1
0
0万 km と全体の9
7.
5%を占め、他の2.
5%、3,
5
0
0万 km
が淡水である。この淡水のうち、2/3以上を人類は利用できない16)でいる。それらは、
地表にある氷河、氷、雪、そして永久凍土であるからである。表117)からわかるように、
平成国際大学論集 第1
2号
4
表1
水の種類
地球上の水資源*
3
人類が利用可能な水としてはほとんどが地下水
3
量
(1
0 km) 百分率
(%)
塩水
海
人類が比較的容易に利用できる水は、湖沼(の
1
3
4
9
9
2
9
塩水湖
9
4
9
7.
5
0.
0
0
7
割合)
が0.
0
0
9%、
河川となるとわずか0.
0
0
0
1%、
両者を合わせても0.
0
1%以下にすぎない。しか
淡水
氷
淡水湖
川
2
4
4
8
7.
4
1.
7
5
も、この地球上の水の量は、地球誕生以来不変
1
2
5
0.
0
0
9
であるとされている18)。
1.
1
5
土壌水
2
5
地下水
1
0
1
0
0
0.
0
0
0
1
0.
0
0
2
水の循環
0.
7
2
地球上の水の大部分(9
7.
5%)
を占める海洋水
水蒸気
1
2.
6
0.
0
0
1
生 物
1.
2
0.
0
0
0
1
は、太陽の影響により蒸発(5
0
2,
8
0
0km/y)
し、
0.
0
1
0
8
また、陸からも蒸発散(7
4,
2
0
0km/y)
して、雲
その他
−
計
1
3
8
4
7
7
5.
3
6
1
0
0.
0
出典:櫃根勇『水の循環』共立出版
*
であり、全体の0.
7
2%をしめている。さらに、
高橋 裕著「地球の水が危ない」p.
4
5
表Ⅱ−1地球上の水の量より引用5)、岩
波新書(2
0
0
6)
3
3
3
を経て降水となる。海水への降水は4
5
8,
0
0
0km
3
/y、陸上への降水は1
1
9,
0
0
0km/y と見積も
られている19)。陸上への降水の一部は地表を流
れて河川となり海に注ぐが、その一部は地下に
浸透し、地下水として涵養される。そして人類
にとって利用可能な良質の水として蓄えられ役に立っている。このように大きく言えば、
水は地球上で循環しており、それ故それらの資源としての平均滞留時間が、表2に示す様
に推定されている20)。
たとえば、全地球表面の1年間あたりの平均降水量は約1
0
0
0ミリメートル(一日あたり
にして2.
7
4ミリメートル)
。一方、降水の材料である地球大気の全水蒸気量は、地球上の
水の0.
0
0
1%であることから、全地球上で平均すると2
7ミリメートルの高さ21)となる。即
ち、平均1
0日分の降水量が地表面大気中の全水蒸気量に等しく、大気の平均滞留期間は1
0
日と計算される。また、全地球上の水の大部分を占める海水だけを考えると、前述のとお
り年平均降水量が約1メートルであり、海水の平均深度は3,
7
9
5m22)ということから、水
の循環がなく蒸発だけを考慮すると、太陽からの放射エネルギーの下で、全海洋水が蒸発
しきるのに平均3,
7
9
5年かかるということ。換言すれば、
海水が全部入れ替わるのに約4,
0
0
0
年という数字の根拠となっている23)。
近年、かつて世界で4番目に大きい湖といわれたアラル海が急激に狭小化し、1
9
6
0年頃
の大きさの1/4程度となったという24)25)。また、アフリカのチャド湖では、干魃により
水をめぐる環境と法
5
表2 水圏における水の分布と平均滞留時間
北野 康著「新版水の科学」p.
2
0(表1 水圏における水の分布(米国、地質調査所による))
より引用20)、NHK ブックス
(1
9
9
5)
位
置
淡水湖
全体の水に対する
百
分
率
平均滞留時間
1
2
5×1
015
0.
0
0
9
1
0年
1
5
水 量 (")
塩水湖および内陸海
1
0
4×1
0
0.
0
0
8
−
河川水
1.
1×1
015
0.
0
0
0
1
2週間
6
6.
6×1
015
懸垂水(土壌湿気を含む)
深度8
0
0!以浅の地下水
深度8
0
0!以深の地下水
万年氷および氷河
大気
海洋
0.
0
0
5
2∼5
0週間
(?)
1
5
0.
3
1
1
0,
0
0
0年
1
5
0.
3
1
(数時間∼1
0万年)
1
5
2.
1
5
1
5,
0
0
0年
1
5
0.
0
0
1
1
0日
4,
2
0
0×1
0
4,
2
0
0×1
0
2
9,
0
0
0×1
0
1
2.
9×1
0
1
5
1,
3
1
9,
8
0
0×1
0
9
7.
2
4,
0
0
0年
(B.J.Skinner, 1982)
湖水が急激に減少し、かつての漁港・港町が砂漠化し、住民の多くがそこを離れてしまっ
たという TV 報道もあった26)。一方では、2
0
0
2年7月にはヨーロッパでエルベ川が氾濫し、
ドレスデンやプラハといった歴史ある都市・街が水に浸かり27)、また、2
0
0
5年8月にはハ
リケーンの影響で米国のニューオーリーンズが大被害を受けるという、大洪水・災害も起
きている28)。このような気候変動に対し、所謂地球温暖化との関係が論じられることも多
い。しかしながら、前述のとおり、地球上に存在する水の絶対構成量は地球誕生以来不変
である29)。従って、近年の地球温暖化現象や気候変動による様々な「水をめぐる気候変化」
はこれら地球上の水の循環の一部が偏在化あるいは局在化しているだけだとする解釈がよ
り説得力を持つ。
水と文明
世界の四大古代文明の発祥の地は、いずれも大河のほとりにあって、飲料水や食糧生産
を支える農業用水としての水をめぐる環境に恵まれていたといえよう。定期的に発生する
洪水は肥沃な土壌をもたらすこととなり、食糧生産としての農業活動に大きく貢献したは
ずである。
一方、我が国は、中緯度アジアモンスーン地域に位置し、周囲を海に囲まれている島国
のため、変化に富んだ四季に恵まれた温暖な気候で、多湿多雨と水田を中心とする稲作農
6
平成国際大学論集 第1
2号
業に適した環境にある。また、多くの火山帯で構成された地形から成り立っている。これ
3
0)
らの絶好の地理的・地勢的条件のため、国土の6
6%を占める山林(可住地面積は3
3%)
を
育む。例えば、我が国の年間降水量約1
6
0
0mm31)は、地球全体の平均降雨量約1,
0
0
0mm
をはるかにしのぐ。しかし、国土が狭く・細長く中央に2,
0
0
0m から3,
0
0
0m 級の山脈を
持つので、山岳部に降った雨は、その一部は地下水または地下涵養水となるものの、多く
は川となって海に向かう。しかもその流れは急で2日で海に達する速さである32)。これら
の地理的、地勢学的環境は、海洋も含めた水循環がスムースであるとも言える特徴である。
このように、我が国は雨量には恵まれ、比較的利用しやすい河川、湖沼も豊富であるため、
飲料水に困るという状況にはなかった。中世以降、唯一季節的に襲来する渇水と河川の増
水と氾濫の防止(治水)
が時の治世者の大きな仕事(政治)
の一つであったと考えられる33)。
その治水蹟が信玄堤などとして各地に残されている。このような利水の形態が後世、川の
水は地域共通のものという認識が生まれたのではないかと推察される34)35)。事実、用水(最
初は農業用水として)
開発は公共事業であり、その結果完成した灌漑施設や上水は多くの
人々を安定的に潤すことになった。
地球規模の人口増加と水の需要
図136)は、世界の人口増加を表したものである。
1
8
0
0年には1
0億人であった人口が、
1
9
0
0
年には1
6億人、1
9
5
0年には2
5億人、2
0
0
0年には6
0億人と急激に増大し、2
0
5
0年には9
0億人
になると予想されている。その多くは開発途上国地域の人口増大によるところが大きい。
1
7世紀から1
8世紀の人口増加は、産業革命による第2次産業の興隆期で工業の発達ととも
に、人の生活に広がりが出てきたことが背景にある。2
0世紀後半からは第2次世界大戦後
の好景気と多くの植民地が独立して多様化が始まったことによると推察される。先進国で
はモータリゼーションの発展とともに、第3次産業の発達により、生活水準と生活の質そ
のものの向上が加速する。一方、多くの植民地が独立することで、貧富の差と貧しさに由
来する人口増の現象が急激となった。
図237)は全世界の水需要を表したものである。図1と比較してわかるように、水需要は
人口増加と同じ傾向をたどり、人々の生活の場、すなわち、水需要の場の構図となってい
3
3
る。全世界で年一人あたりの水利用は、1
9
0
0年の3
5
0m が2
0
0
0年には6
4
2m と1世紀の間
に2倍近い増加となった38)。
この人口増加に対応して水不足が顕在化してきている。世界の全取水量ベースで整理す
3
3
ると、1
9
0
0年には5
7
9km/y であった取水量が1
9
5
0年には2倍以上の1,
3
8
2m/y、2
0
0
0年
水をめぐる環境と法
7
図1 全世界の人口増大
高橋 裕著「地球の水が危ない」p.
4
5(図Ⅰ
図2 全世界の水需要
−1 世界人口の増加(出典:世界資源研究所編
)
よ
『世界の資源と環境1
9
9
4−95』中央法規出版)
高橋 裕著「地球の水が危ない」p.
4
5(図2
全世界の水需要(出典:Asit K.Biswas, Water for
Agri-cultural Development, Water Resources
Development, 9.3-12.1993))より引用5)、岩波新書
(2
0
0
6)
(2
0
0
6)
り引用5)、岩波新書
3
3
にはこの3倍近い3,
9
7
3km/y となった。そして2
0
2
5年には5,
2
3
5km/y になると予想さ
)
れている39(生活用水のみの統計では、
9
6!/人・日――>1
7
6!/人・日)
。2
0
0
0年にお
ける水利用の目的別割合は、その6
9%が農業用水、2
1%が工業用水、そして残りの1
0%が
生活用水である40)。
地域でみると、北米、ロシア、北・西欧諸国の一部、赤道直下の南米、アフリカ、そし
て一部の国々を除く南アジアで、農業用水の使用が最も多くなっている。これは、増大す
る人口に見合う食糧確保のため農業用水の需要が第1に重要な要素を占めてきたからであ
る。欧米の先進国では、工業用水のための取水が最も多く、ついで、農業用水または生活
用水の順となっている。一方、中国、インド、南アジアの多くの途上国では、飲料水確保
のための地下からの取水や、大規模灌漑による農業用水の取水によって水需要のしわ寄せ
が顕在化してきている。また、我が国では、農業用水、生活、および工業用水の順となっ
ている。とくに飲料水を含む生活用水は、3
2
2!/人・日と米国に次いで使用量が多い41)。
以上のべたように、人口増と水需要のアンバランスにより、2
0
0
0年の総人口6
0億人のう
ち、5億人の人々が慢性的に水不足の国に住んでおり、2
0
5
0年には、予想総人口9
0億人の
うち、半数近い4
0億の人々が慢性的に水不足の国に住むことになるかもしれない42)。それ
らの国々は、中央および南アジア、アフリカの多くの国々、中米の多くの島国、そして東
欧のいくつかの国々である。
8
平成国際大学論集 第1
2号
環境の変化と課題
近年の急激な人口増とそれに伴う水需要の急増によって、水を確保する動きが活発化し
てきている。とくに、地球上に潜在的に多くの量を有する地下水がそのターゲットとなっ
ている。
そこで、飲料水としての地下水の使用状況43)をみると、ヨーロッパ(地域ごとの飲料水
の地下水依存度)
では7
5%、米国が5
1%、アジア太平洋地域が3
2%、中南米諸国が2
9%と
なっている。一方、灌漑の地下水依存率は、バングラデッシュ:6
9%、インド:5
3%、イ
ラン:5
0%、パキスタン3
4%と南アジア諸国に多い。近年、人口数が安定しているヨーロ
ッパでは、歴史的に地下から及び湧水を利用して良質な地下水の取水が適正に行われてい
ると考えられる。フランス、スペイン、イタリア、オーストリアなど取水量の多い国でも、
1
0
1∼2
5
0m/年・人(2
7
7∼6
8
5!/日・人)
。しかも、この取水量は年間涵養量よりも小
3
さい44)。
しかしながら、それ以外の多くの国では、地下からの取水が水の年間涵養量よりも大き
い。それが数々の環境悪化や水の汚染などのマイナスの面(副作用)
をもたらす結果になっ
ている。過剰な取水を行っている地域・国は、アメリカ合衆国、中国、インド、そして周
辺の中近東諸国、北アフリカ諸国などを数える。
アメリカ合衆国では、カリフォルニア州のセントラルバレーや、ネブラスカ、カンサス、
テキサス、オクラホマ、ニューメキシコ、コロラド、ワイオミング、そして、サウスダコ
ダの八州にまたがるオガララ帯水層などから大量の取水が行われている。揚水量は、前者
が年間1
6億立方メートル。後者では年間約1
2
0億立方メートルずつその帯水量が減少して
おり、その結果、一部の井戸が干上がったり、その地域の地盤が3
0m も低下したりその
被害が現れているという報告がある45)。
一方、人口増加の激しい、中国、インドおよびその周辺の国々では、地下水の取水をめ
ぐる環境の悪化が顕在化している。中国では、華北を中心として灌漑用に地下水が過剰に
取水されており、これによって水位が低下するとともに、慢性的水不足の状態にある。断
流など灌漑用水の減少、少ない水でも収穫の上がる農作物への転換、そして、土壌の品質
悪化や地域的な砂漠化の現象が顕在化していると報告されている46)。インドでは、1
9
5
1年
に約4
0
0万あった井戸が、1
9
9
7年には1
7
0
0万と4倍強の数となり、地下水による灌漑面積
はこの間に6倍の3
6
0
0万ヘクタールになった47)、という。特に南部と北西部の9つの州で
は、地下からの過剰揚水が激しく、地下水位は年間0.
5ないし0.
7m の割合で低下しつづ
けており、飲料水への塩分混入などの汚染が広がっているという。また、バングラデッシュ
水をめぐる環境と法
9
でも、飲料用として採掘された井戸にヒ素が混入し深刻なヒ素中毒の汚染が広がってい
る48)。
これらの、水をめぐる地球規模の環境変化と人類の飲料・健康・食環境に対する主な問
題点を整理すると、以下のようになる。
!農業用灌漑による湖沼の減少、地下水位の低下:アラル海49)、アフリカのチャド湖50)
では湖の縮小、中国華北部の慢性的水不足51)
"過剰取水による砂漠化と汚染:インド南部と北西部52)
#水と健康:農業でつかわれる化学肥料・農薬による汚染:
インドの DDT による地下水汚染53)、バングラデッシュのヒ素汚染54)
$大規模地下水資源の減少化傾向とその影響:
5
6)
米国の地下水位減少55)と資源の枯渇化(オガララ帯水層)
%食料問題57):第1に食糧生産、また豊かな食糧は間接的な水消費に。
直接的には、食糧として直接口に、間接的には、豊かな食料生産は水の消費として認
識され、食料輸入は水の輸入・水の消費とみなされる、その結果として水消費の格差
は益々広がることとなっている。この点については、3.
3節で述べる。
3.水をめぐる環境
3.1
水の利用形態と飲料水
−多摩川水系に見る公共上水道マネジメント
我が国は古来、稲作を中心とする農業が中心であり、とくに中世の戦国時代から江戸時
代にかけては安定な収穫を得るため農業用灌漑に力を注いできた。これは、降水量には恵
まれているとは言え、河川の水位は必ずしも安定ではなく、度々洪水や渇水に見舞われて
きた。そのため、川の氾濫を抑え、安定的な食糧生産環境を作るため治水事業が行われ、
現在にも「信玄堤」など時の治世者の名を付した治水工事蹟を各地に見ることができる。
江戸時代の初期には、幕府の安定化を目指した江戸の街作りと参勤交代制などの制度に
より、人の都市への移動が生じ、1
6
0
0年頃には1
6万人ほどだった江戸の人口も1
6
5
0年頃に
は6
0万人ほどにも達したとされる。この人口増加に伴いそれまで使用してきた、赤坂の溜
池や神田上水の水では足らなくなって、多摩川からの用水(路)
が計画された。現在も残る
「玉川上水」は、幕府の工事として始められ、その後玉川兄弟によるボランティア活動に
も助けられ、1
6
5
3年(承応2年)
1
1月、四谷大木戸までの約4
3km
(標高差9
2m)
が、翌1
6
5
4
10
平成国際大学論集 第1
2号
年6月にはさらに虎ノ門まで石樋、木樋による配水管が敷設され、江戸城をはじめ、四谷、
赤坂、芝、京橋方面に至る市内南西部へ給水が開始された58)。
昭和になって、近代化で増大する人口に対応して、生活インフラとしての水道事業が積
極的に計画される。東京市民に向けて、より安定的な飲料用水の確保の手段として、多摩
川水系の上流に小河内ダムが建設される。完成した小河内貯水池の流域面積は約2
6
3平方
キロメートル、東京都奥多摩町、山梨県小菅村など4市町村にまたがる59)。1
9
6
4年、首都
圏の大渇水により利根川水系からの取水を始めるまで、多摩川水系の水は、東京都民の水
道のほぼすべてをまかなってきた60)。
現在では、都民の飲料水として総給水量の2
0%を供給し、加えて他の8
0%の供給量を占
める利根川・荒川水系の緊急時のバックアップシステムへと統合されている。多摩川水系
の取水量は年間3億トン、都民一人あたりの給水量に換算すると、3
8
5リットル/人・日
となって、日本に住む人口一人あたりの使用量の統計値、3
2
2リットル/人・日61)より2
0
%程多い。これは、首都圏では人口が集中していることにより大規模事業所、交通機関、
病院、ホテルなどの使用分をより多く含むためと考えられる。
2
小河内ダム上流の流域面積(2
6
3km)
の大部分が水源林となって管理されており、全体
3
で水に換算して4,
0
0
0万 m の水量を蓄積している62)。この地域の年間降水量1
6
0
0ミリメー
トルを考慮すると、降雨の9.
5%が水源林などによって地下水として涵養されていること
になる。小河内ダムを計画実行した当時、積極的に東京市への所有地化が推進されたこと、
また水利権の整理も比較的容易だったとも伝えられており、近年の生態系の維持と環境に
配慮した政策の大きな方針転換を考え合わせると、当時の東京市長63)の先見性をみるもの
と考えられることもできる64)。ダムへの存在意義の見直しと環境への配慮は、時代の要請
2
でもある。東京都の所有地内水源林は、現在小河内ダム上流の流域面積2
6
3km のうちの
約6
0%となっており、生態系の回復や保存、環境への配慮した政策に現れているとの見方
をすることができる。例えば、法的動きとしては1
9
9
7年の河川法の改正により、従来の「活
水と水資源開発・活用」という河川法の従来の目的に加えて、生物学・生態学の領域を考
慮すべく「河川環境の整備と保存」という目的が第1条に加わった65)。
2
0
0
3年、水道法第4条に基づく水質基準が改正され、2
0
0
4年4月1日から施行された66)。
東京都では、これらの基準を満たす品質の水を供給する一方、従来の水品質改善のための
処理(沈殿、濾過、及び消毒)
では、十分に対応できないカビ臭の原因となる物質やカルキ
臭の元になるアンモニア態窒素などを取り除く、高度な浄水処理システムを導入したりし
て、より安全でおいしい水づくりの水を供給に努めているという67)。
水をめぐる環境と法
11
我が国では「水と空気はタダ」と言われてきた歴史がある。事実、地理的、気候学的、
地勢学的見地から、およそ何処を採掘しても良質の地下水脈に当たり、飲料水には不自由
しないと考えられてきた。また、火山性の山々に恵まれ、豊富な降水量もあって、地下で
涵養された多くの地下水が良質な湧水となって現れている。しかし、近代化は急激な人口
増と水需要を生み出し、また公衆衛生の観点からの施策ということもあって、公共機関に
よる上水道事業が飲料水供給の担い手になってきた68)。また、法律的にも民間が参入しに
くい制度が整えられていった69)。その結果、各地方団体が公共事業として長年取り組んで
きた歴史がある。また、当時から定量制の料金収入に頼る独立採算制の考え方を基本とし
ていることに加えて、事業の効率という点からも大量使用を奨励する料金体系であること
には変わりはなく、この体質が水の公平性の観点からの一つの弊害であるとの指摘もあ
る70)。
しかしながら、この状況は、2
0
0
2年に改正された地方自治法と2
0
0
1年の水道法の改正に
よって、将来、問題が表面化してくる(危機に陥る)
可能性がある。まず、「水道法の2
0
0
1
年の改正は、第2
4条の三項で、水道事業者が浄水場の運転管理や水質管理など高い技術力
を必要とする業務を、第三者へ委託する旨を定めた」
。また、「地方自治法の改正により、
これまでは市町村長は、地方公共団体が出資している法人か、公共団体にしか管理を委託
することができなかったが、法改正により、法人その他の団体であって、普通地方公共団
体が指定するものに、公の管理を行わせることができる、と改められた」71)。
これらの法改正によって、民間に水道事業を委託することが可能となり、大きなビジネ
スチャンスとみなしている企業が進出の機会を狙っていると伝えられるからである。事実、
世界に目を転じると、「特に多国籍企業がビジネスチャンスを求めて水資源の獲得や利用
7
2)
の権利を確保するために、世界各地に進出している」
現実がある73)。例えば、フランス
のヴェオリア社は世界各国1
0
0カ国以上で、総売上1
3
6億ユーロ74)をあげている。主な公共
上下水道事業を行った都市は、上海、成都(以上中国)
、仁川(韓国)
、ベルリン(ドイツ)
、
プラハ(チェコ)
などをはじめ1
2都市をあげているという75)。
このような企業による事業の問題点は、公正な価格で品質のよい水を安定に供給すると
いう事業の生活インフラとしての正当性とサービスの継続性に疑問の余地があると考えら
れることである。即ち、低所得者層などお金の払えない人々への水の供給は止められ、公
衆衛生上劣悪な水を使用せざるを得ない状況に追い込みかねないこと、漏水やメンテナン
ス等コストのかかる事業には消極的な姿勢も取り得ること、他の競合事業者がいないので
普遍的なサービス提供という点で課題があること、などである。我が国における上下水道
12
平成国際大学論集 第1
2号
は、近年公共事業としての役割を担ってきたが、これらの新しい「ウォーター・バロン」
の動き76)についても注意をしておく必要があるように思われる。
3.2
ボトルドウォータービジネス
近年、急激に進むグローバリゼーションのなかで、ボトルドウォーターが新たなビジネ
スとして脚光を浴びてきている。また、水道水への不満、一層の生活レベルの向上や簡便
性などの理由で、飲料用としてボトルドウォーターを飲む習慣も醸成されつつある。図3
はミネラルウォーターの生産と輸入量の推移を示したものである77)。統計を取り始めた
1
9
8
6年の8万2
0
0
0万トンから、2
0
0
5年にはおよそ2
0倍以上の1
8
3万トンに、そして2
0
0
6年
には2
5
3万トン、出荷金額ベースで1
8
6
3億円、清涼飲料水に占める割合でも1
2.
7%と大き
く出荷量、価格、シェアを伸ばした78)。
一方、ボトルドウォーター先進国を見ると、各国の一人あたりのボトルドウォーターの
消費ベストテンは、イタリア(2
0
3)
、アラブ首長国連邦(1
9
7)
、
メキシコ(1
9
1)
、
フランス(1
4
9)
、
ベルギー/ルクセンブルグ(1
4
5)
、ドイツ(1
2
9)
、スペイン(1
2
6)
、レバノン(1
1
7)
、スイス
(1
1
0)
、そして、アメリカ合衆国(1
0
4)
の順(括弧内の数字は2
0
0
6年の消費量、単位リット
ル/人(年)
)
となっている79)。ちなみに、日本でのボトルドウォーターの消費量(生産量・
輸入量ベース)
は、下記図3(統計データ)
より、1
6.
7リットル/人(年)
と算出され、イタ
リアの1
2分の1、アメリカ合衆国の約6分の1である。
図3 ボトルドウォーターの国内生産量と輸入量の推移77)
国土交通省 web 頁より。ただし、輸入量等のデータは財務省関税局 日本貿易統計によるとの記
述がある。http://www.mlit.go.jp/tochmizushigen/mizsei/c_actual/actual 07.html(2
0
0
7年7月2
7日現在)
。
水をめぐる環境と法
13
さて、このボトルドウォーターの品質の定義は、各国で異なっている80)。日本では、農
林水産省が「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン(1
9
9
0.
3.
3
0策定)
」
を策定し
ている。それによると、(1)
ナチュラルウォーター、(2)
ナチュラルミネラルウォーター、
(3)
ミネラルウォーター、そして(4)
ボトルドウォーターの4つに分類している81)。日本
やアメリカなどでは、原水(地下から揚水した水または自然に湧水した水)
を加熱殺菌また
は同等以上の効果を有する殺菌処理をすることが食品衛生管理上の必須のルール
(プロセ
ス)
となっているが、ヨーロッパ諸国では、これらの処理をすることなく原水をできるだ
けすみやかにボトル詰めすることが基本となっている82)。これは、ヨーロッパ諸国では水
に対する品質に基づく理解と効果効能に適応した違いがあることにある。即ち、ヨーロッ
パ諸国では硬水83)が多いので、加熱滅菌によって品質が変化しやすいこと、調理する食品
材料によって味の変化に差が生じやすいこと、それらが文化の違いとなって現れているこ
と、などに基づくと考えられているからである84)。
国内のミネラルウォーターの製造業者は5
0
0社以上に、出荷ベースで1
8
0万!(トン)
(2
0
0
6
年)となっているが、それぞれ原水の産地の名称を付したブランド化戦略をとっていると
ころが多い。フランスのエヴィアンやボルヴィックに習い、「南アルプスの天然水」
「お
いしい六甲の水」などの産地名付き名称が主流である。
一方、取水にまつわる様々な問題も浮かび上がってきている。山梨県北杜市(旧白州町)
では複数の大手企業が自ら所有する土地から取水しているが、「地下水は土地所有者であ
る個人のもの」という慣習的な考え方で納得が得られるのかどうか。地元の山梨県では「取
水に課税しようとする働きかけ」もあった85)。米国では、個人がボトルドウォーター企業
と組んで、自ら所有する土地から地下水を汲み上げそれをボトル詰め工場に売却する契約
を結んだが、この取水によって近隣の生態系に変化を生じ、湖沼が縮小したり、井戸がか
れたりしたために、この契約の見直しを求める民事訴訟が行われていることが報告されて
いる86)。
上記白州町では、基本的に1つの地域にある同一水脈を複数の企業が揚水しビジネスを
展開しているわけで、「地下水はタダという考え方で良いのかどうか」
、「フェアな取水
なのかどうか」という疑問がウオーター税導入の動機になっているのではないかと考えら
れる。ちなみに、フランスのエヴィアンやボルヴィックでは、「一水系(水脈)
一企業」の
構図と考えられ、ボルヴィックでは、環境・生態系維持への取り組みは当然の事として、
地方自治体と企業が一体となって取り組んでいる企業形態と推察される。ここでは、他社
の企業活動はなく、日本の取水環境とも異なっているように感じられる87)88)。
14
3.3
平成国際大学論集 第1
2号
「水戦争」−新たな争いと環境・生態系への影響
「2
0世紀には石油争奪が原因で戦争が勃発したが、来る2
1世紀には水獲得問題が原因と
なって戦争が発生する可能性が高い」89)と警鐘を鳴らしたのは、世界銀行で水問題を担当
していたイスマエル・セラゲルディン副総裁。1
9
9
5年8月、ワシントン D.C.での発言だ
った。2章で述べたように、人類が最も利用しやすいのは、河川・湖沼の水である。単一
の島国である日本と異なり、多くの国は大陸にあり国境を接している。この国境線は河川
・湖沼の中にあることが多い。逆に、河川・湖沼は政治的に区分された国境とは独立に地
理学的・地勢学的理由によって存在しているため、人類の都合で複数の国を通過して海に
注ぐという形態が普通である。即ち、利用可能な水は国際河川・国際湖にあり、その利用、
維持・管理、等に関して、自国の利権だけでは解決できない政治・経済・宗教上の多くの
困難な問題を抱えている。
高橋90)によれば、五大州における国際河川数は2
6
1
(1
9
9
9年)
、また五大州における国際
河川流域面積は全陸地の4
5.
3%(1
9
9
9年)
を占める。紛争の構図としては、上下流域国間の
水利用をめぐる紛争、および水質悪化に対する問題である。この問題に直面している、世
界の代表的な地域とその主要問題は、(a)
エジプトとスーダン他上流にある国との間でダ
ム建設をめぐる争い、(b)
中近東河川の水資源の所有をめぐる紛争、(c)
インドとバングラ
デッシュおよびメコン川流域の国々の水利用をめぐる争い、(d)
ドナウ川をめぐる環境と
開発の対立、(e)
南北アメリカの国際湖・国際河川をめぐる水質問題、などとなっている。
ここでは、ダム建設をめぐる新たな動きと食料問題に関する最近の動向について述べる。
ナイル川は古代エジプト文明を象徴する世界最長の大河91)で、ミシシッピ・アマゾンと並
んで世界三大河川の一つに数えられる。タンザニア、ケニア、ウガンダ、そしてルワンダ
の四カ国にまたがるビクトリア湖にその源を発する「白ナイル」と、エチオピアに源を有
する「青ナイル」がスーダン中央部で一つの流れとなって北上しエジプトを縦断して地中
海沿岸に向かう。1
9
7
0年に完成したアスワンハイ・ダムはこれらの自然の流れをせき止め、
広大な面積の農業用灌漑領域を生み出すこととなった。しかしながら、このダム建設によ
って水没した文化遺産や周辺の流域への影響は計り知れないものがある。古代の王ラムセ
ス二世を祭るアルベルシル神殿は高台に移設されて水没を免れたものの、多くに遺跡が湖
底に沈んだ。また、灌漑施設によって、農業生産が大きく増えたが、人口増加に伴う農業
生産が停滞することなく水の使用が増え、ダム下流では、水量・水位とも減少して塩害が
広がっているという92)。また、住血吸虫症の蔓延(急増)
もダム建設の負の面を示している。
このように、主として農業用灌漑として建設されたダムにおいて、その負の面が顕在化し
水をめぐる環境と法
15
てきているという側面にも注目しなければならない。
近年、米国を中心にこのダムの見直し評価を行い、効率の悪いダムを取り壊して、元の
生態系や環境に戻す動きが注目されている。米国93)では、1
9
1
2年以降、約6
0
0のダムが撤
去されたと推測されている。「昔のダム撤去は経済性と安全性が主な理由」だったが、「近
年はそれに環境を重視する考えが加わったことが大きな変化」ともいう。日本でも、新た
に建設が予定されているダムの見直しを求める動きが出てきた。米国の動向に従う形で、
かつての長野県知事がダム建設の中止を実行したことが話題となった。また、既存のダム
撤去が決定した事例94)が紹介されている。熊本県が同県坂本町にある球磨川の県営発電ダ
ム、荒瀬ダムの撤去を決め、2
0
1
0年に取り壊し工事にかかるというのである。
最後に意外な問題を提起なければならない。これまで、日本は水資源に恵まれており、
むしろ多すぎる降雨量や良質の地下水量を誇ってきたことを述べた。しかしながら、近年
大幅な食糧輸入国に転じたことから、間接的ながら大幅な水輸入国として認めなければな
らなくなった。例えば、食料とその食料生産に必要な水を列挙すると
(括弧内の数字は
食糧1!の生産に最低必要な水量、単位[リットル]
)
、ジャガイモ(5
0
0)
、小麦(9
0
0)
、と
うもろこし(1,
1
0
0)
、大豆(1,
6
5
0)
、米(1,
9
0
0)
、鶏肉(3,
5
0
0)
、牛肉(1
5,
0
0
0)
となる95)。大
型家畜の肉製品は、飼育中に大量の草を食べるだけではなく多量の飼料を必要とする構図
から、大量の水を消費していることになるという。とくに、牛肉では1!あたり1
5トンの
水が必要という計算になり、「牛丼1杯に水1トン」96)の比喩が成り立つという訳である。
このように、食糧自給率の低下や輸入に頼る豊かな食糧は、間接水の消費として認識さ
れ、食料輸入は水の輸入・水の消費とみなされる。この「水の消費・輸入」に対して、生
態系の確保や環境に対する考え方を今一度見直し、豊かな水の惑星を継続させる努力が必
要となってくる。
4.考察
水を巡る環境について地球規模から身近な上水道やボトルドウォーターの現状を概説し
たが、それらと「法」や「政治」との接点に関して以下に考察する。それらは、
(1)生活インフラとしての上水道−上水道は公営か民営か?
(2)ボトルドウォーター・ビジネスに潜む問題−地下水は誰のものか?
(3)ダムの環境・生態系への影響−有益なダムだけが生き残る?
(4)意外な水の消費−食糧自給率低下は水の大量消費に?
16
平成国際大学論集 第1
2号
(5)水を造る技術−地球上の水を増やすことができるのか?
である。
(1)生活インフラとしての上水道−上水道は公営か民営か
生活インフラとしての上水道を誰がどう担うのか、という問いかけである。
我が国では、近代化に伴う急激な人口増と水需要のなかで、また公衆衛生の観点からの
施策ということもあって、第二次世界大戦後、公共水道事業を推し進めてきたという経緯
がある。各地方団体が独自に自らの住民の水需要を満たすために水資源開発とその保全、
および安全で安定的な上水道の提供を目指してきた。この状況は、2
0
0
1年および2
0
0
2年に
改正された水道法および地方自治法によって、将来、危機を迎える可能性があると指摘さ
れていることは3.
1節に述べた。即ち、所謂「平成の市町村大合併」に同期して行われた
これらの法改正によって、民間に水道事業を委託することが可能となり、大きなビジネス
チャンスとみなしている企業が進出の機会を狙っていると伝えられるからである97)。
民間の大企業の進出がなぜ問題となるのか?
先に紹介したように、「特に多国籍企業
がビジネスチャンスを求めて水資源の獲得や利用の権利を確保するために、世界各地に進
出している」現実に注目しなければならない。このような企業による事業進出の問題点は、
公正な価格で品質のよい水を安定に供給するという事業の生活インフラとしての正当性と
サービスの継続性にあると考えられている。即ち、水事業の民間企業への委託が安易にな
されれば、サービスへの対価が速やかに求められ、とくに途上国では低所得者層などお金
の払えない人々への水の供給は止められ、公衆衛生上劣悪な水を使用せざるを得ない状況
に追い込まれかねない。また、一般的に、漏水やメンテナンス等コストのかかる事業には、
コストイフェクティブな観点から消極的とも見なされる対応もあり得ること、他の競合事
業者がいないので普遍的なサービス提供という点で課題があること、なども当該各国共通
の問題である。このほか、民営化の議論の際に対極の一つとして提示される「水の人権
論」98)にも耳を傾ける必要があるように思われる。
以上述べたように、上水道のあり方を巡っては、これらの新しい「ウォーター・バロン」
の動きを注視していく一方、現状の各地方公共団体の水資源保全と環境・生態系に関わる
施策について関心を持っておく必要がある。先進国の代表として米国では、飲料水(上水
道事業)
に関しては「公営」という「意外な」面もある99)100)し、水事情に恵まれていない
インドでは過去に公共上水道は無料のサービスであった101)との現実もある。生活インフ
ラを支える事業体としての存在意義を再確認するとともに、規制緩和がもたらす不安材料
水をめぐる環境と法
17
などのグローバリゼーションに伴う様々なリスクを考えておく必要があるように思われる。
(2)ボトルドウォーター・ビジネスに潜む問題−地下水は誰のものか?
最近、山梨県北杜市(旧白州町)
でボトルドウォーター・ビジネスを行う企業に対して、
山梨県が所謂「ミネラルウォーター税」を新設しようと言う動きがあった102)。また、米
国では、個人地主がボトルドウォーター企業と契約して、自ら所有する土地から地下水を
汲み上げそれをボトル詰め工場に配送する売却契約を結んだが、この取水によって近隣の
生態系に変化を生じ、湖沼が縮小したり、井戸がかれたりしたために、この契約の見直し
を求める民事訴訟が行われているとの報告がある103)ことも3.
2節で述べた。
前者は、各企業の所有する土地からの取水であって、慣習によれば、地下水は地主の所
有物ということになっている。後者の米国の例でも、当該個人地主は大規模な土地所有者
であって、個人的な目的の取水では現行法でも問題とはならないが、大規模なボトルドウ
ォーター・ビジネスを行う企業との契約・実行で周辺地域の湖沼の水位が低下する、地盤
沈下が認められる、といった生態系・環境への影響が深刻になっているため訴訟になって
いる。訴訟の争点(項目)
としては、ゾーニング変更差し止め訴訟、工場建設差し止め訴訟、
そして、水の所有権(
“水は誰のもの”訴訟)
と継続している104)。
はたして、地下水は個人のものであろうか?
第2章で見てきたように、水は地球規模
でも循環しており、地下水はそのルートの一つとして重要な役割を演じている。地下水は
地下に溜まった滞留水を指すが、長い時間をかけて移動してできたものである。その移動
の地域や時間は、地理的、地勢学的条件によって様々で、少なくとも個人所有の土地より
は遙かに大きい地域にまたがる。しかも、その平均滞留時間は一般的に長く
(平均1万年
という数字が示されている)
、数時間から1
0万年のオーダの範囲と推計されている105)。ま
た、人類に共通の水資源としての意義も考慮されなければならない。このように、自然な
地勢学的条件で涵養されている地下水を、たまたまその地域のごく一部を所有する一土地
所有者のものというのはいかにも公平を欠くと言えないだろうか。また、その地域の地下
水系や下流域となる地域の生態系や環境を考えなくて良いのかという疑問が生じる。それ
がボトルドウォーター・ビジネスとなってグローバル化して、政治的・経済的に大きな影
響を持ち始めた状況においてはなおさらである106)。
(3)ダムの環境・生態系への影響−有益なダムだけが生き残る?
3.
3節で、米国を中心に行われている、ダムの見直し評価の概要を述べた。効率の悪い
18
平成国際大学論集 第1
2号
ダムを取り壊して、元の生態系や環境に戻す動きである。米国においてダム建設機関、陸
軍工兵隊の元幹部や内務省開発局の元総裁は、「昔のダム撤去は経済性と安全性が主な理
由でした。近年はそれに環境を重視する考えが加わったことが大きな変化」107)108)などと、
その変化のきっかけを述べている。
図4に、主として発電能力からみたダムの効率を比較した図を示す109)。横軸に水没面
積を発電能力で割った値を、縦軸に移住人口を発電能力で割った値で示し、左下ほど効率
の良いダム、右上ほど悪いダムと表示されている。地球規模で見る、世界各地のダムの功
罪を表したものとして注目される。生態系・環境の問題や農業用水としての塩害などの問
題を持つアスワンハイ・ダム(エジプト)
や、今なお建設中で多くの住民の移動などの社会
問題をも含む山峡ダム(中国)
が中位から効率の悪いダムという評価に位置していることが
わかる。中央左上のプロットは、本論で取り上げた小河内ダムにおける値を示した。ダム
の目的や条件が異なるため、一概には言えないが、数値の上では、上記アスワンハイ・ダ
ムや山峡ダムよりは、下位に位置している。建設当初の資源林育成への対応や良質な上水
道供給の実績、生態系や環境問題にも考慮していることは認められるとしても、近年の下
流域の水流や温度による生態系への影響に対するクレームなど、世界的な規模の評価基準
から見ると、なお検証の余地があるのではないかと考えられる。
(4)意外な水の消費−食糧自給率低下は水の大量消費に?
「食料生産は水を使うなりわいである」110)の言葉の通り、全ての食料・食糧生産には水
を大量に必要とする現実がある。我々の主食である米1!を生産するのに1,
9
0
0リットル
の水を消費すると言われれば、早春に見られる見事な水田を思い浮かべてそうかと納得で
きなくはないが、牛肉1!を生産するのに水1
5,
0
0
0リットル(1
5トン)
必要であると言われ
れば驚きを隠せない。大型の家畜は大量の草を食べるが、また効率化のために大量の飼料
を与えられて育てられ、肉製品となっていることを考慮しなければならない。
このように、生きていくために食糧生産に励まなければならない多くの国がある一方、
食糧自給率の低下をよそに、飽食と天下太平の世になれた我が国民にとって、水の大量消
費という現実が待っている。豊かな食糧は、間接的には水の消費として認識され、食料輸
入は国際的には水の輸入・アンバランスな量の水の消費とみなされる。
生態系の確保や環境
に対する考え方を今一度見直し、豊かな水の惑星を継続させる努力が必要となってくる。
これは、水の先進消費国である我が国が果たすべき国際政治学的問題であろうと考えられ
る。
水をめぐる環境と法
19
図4 世界のダム比較
渡辺 斉著「水の警鐘」p.
1
5
8(移住人口と水没面積に照らした発電効率のよいダム(左下)
と悪いダム
(右上)
〈ロバート・グッドランド氏の資料から作成〉
)
から引用93)
ここに著者の計算による小河内ダムの評価の位置をプロットした。
(5)水を造る技術−地球上の水を増やすことができるのか?
繰り返し述べてきたように、地球規模で考えると、地球上にある水の量は不変である。
また、その構成も同一であると言われてきた。従って、人類の利用できる淡水を造り出す
ことは困難なことである、と。しかしながら、その構成を時間的にごくわずか変化させる
ことは可能ではないだろうか。それは、近年の地球規模の気候変化が砂漠化現象や地域的
な大洪水・大災害に見られるように地域的に偏在化してきた現象であるのに対して、時間
20
平成国際大学論集 第1
2号
的に偏在化させる試みと見なすことができる。
その一つの例が、逆浸透膜による海水の淡水化の技術である。これは、海水を、圧力等
をかけて0.
1ミクロンオーダのポアから成るフィルム(逆浸透圧膜)を通すことによって、
真水を得る方法であって、そのため品質の安定した浸透圧膜やこれを利用する際に必要な
圧力などのエネルギーを消費する。この技術は通常の利用可能な淡水に恵まれなく、しか
も海洋に近接している国々にとって、恩恵となっている111)という。
この方法によると、海水のごく一部が真水に変わるわけであるが、その量は海水全体に
比べると無視できるほど小さい。即ち、淡水化製造装置周辺の海水の塩濃度をわずかに上
昇させるものの、その偏差は地球規模の変動量に吸収されるし、海水に地球規模の水の構
成を変化させるほどのものではない。新聞記事によると、日本企業がアルジェリア、イス
ラエル、マルタ、及びアルジェリア等で海水の淡水化に使う逆浸透圧膜を受注し、前者で
日産5ないし9万トン、アルジェリアでは、日産2
0万トンの淡水を造るという112)。この量
3
がたとえ数1
0
0万トンの規模であっても、地球の全塩水(海水)量1
3億5
1
0
0万 km に対し
て、1
0−12と天文学的小さな値の偏在化にすぎない。
このように、限られた資源である水を効率的に配分しようという新しい技術は、現在は
本質的な水資源の量や構成を変えるものではあり得ないが、一時的な水枯渇の解決には有
効であるかもしれない。あるいは、将来地球の水の量とその構成を多少偏在化させること
ができるようになり、人類のための有益な水資源が生み出され得るとすれば、地球を含め
たあらゆる規模でどのような影響がでるのであろうか?
このような新しい試みを継続さ
せながら地球規模、国を超えた広域地域の規模で、継続的に検証していかなければならな
いテーマであると考えられる113)。
5.
結論
これまで、水をめぐる環境・生態系の変化を概括するとともに、飲料水としての上水道
事業とボトルドウォーター・ビジネスの現状を、環境と法との接点という側面から検討し
た。議論に上がった主な点から、将来に向けた方向性を以下に列挙する。
(1)生活インフラとしての上水道を誰がどう担うのか、という問いかけに対しては、新た
に確立しつつある「安全で安定的な水の供給は人権」という考え方が理想であり、そ
うであれば、公共上(下)
水道の形態が望ましい。
(2)ボトルドウォーター・ビジネスに潜む問題の一つは、地下水は取水井戸の地表層の土
水をめぐる環境と法
21
地所有者のものという考え方でよいのか、という疑問である。それは、地下水の涵養
と循環という資源的意味を考慮すると、個人レベルの問題ではなく大地域的な環境や
生態系をも考慮しなければならない地球的規模の問題に帰結するからである。現在の、
地下水は個人のものという慣習的考え方からは環境・生態系維持という概念は生まれ
ない。
(3)灌漑用農業用水、電源開発、そして公共上水道を提供してきたダムの存在およびダ
ム建設は、環境・生態系維持の観点から見直すべき点が生じてきた。存在価値をなく
したダムは多額の費用をかけてでも解体するという大きな動きが現実となっている。
(4)全ての食糧は水の消費の結果であるという当然のことが、食糧大量輸入国であり、
食糧自給率がなおも低下し続けている我が国に、「水の大量消費国」であるとの国際
的な認識を与えることとなる。国土が狭く資源の乏しい我が国にとって、甘受しなけ
ればならない現実ではあるが、それを上回る地球規模の貢献こそ真に求められている。
(5)
「水を造る技術」は我が国に与えられた、水資源問題に対する地球規模の貢献の一
つとして絶好のチャンスであるかもしれない。地球上の水資源の量・構成は変わらな
い、という大きな「原理」に挑戦し、「水の惑星」を維持する motive force となり得
る。
なお、最近の日本経済新聞によると114)、「世界最大の水道会社である仏ヴェオリア・
ウォーターは日本の水道事業に本格参入する」
。手始めに水処理事業に関して、日本企業
を傘下に収めて、(中略)
「自治体から上下水道の運営を受託するとともに、日本市場開
拓を急ぐ。
」とあり、日本での事業展開の本格スタートと見ることができる。
22
平成国際大学論集 第1
2号
参考文献:
1)ライアル・ワトソン著、内田美恵訳、「水の惑星」
、河出書房新社(普及版)(2
0
0
0)
。
2)沖 大幹監修「水の世界地図」
、p.
3
0−3
1、丸善(第4刷)(2
0
0
7)
。Robin Clarke and Janet King,
“The atlas of water” Myriad Editions Limited 2004 からの翻訳本。
3)高橋 裕著「地球の水が危ない」
、p.
3
0−3
3、岩波新書(第7刷)
(2
0
0
6)
4)前掲書3)
、pp.
3
8−4
2参照。同書、表Ⅰ−5には1
9
9
0年代以降の世界の大規模洪水災害が示され
ている。
5)国連の防災対策機関である国際防災戦略(ISDR)
によると、2
0
0
5年8月のハリケーン、カトリー
ナによる被害額は、過去最大の1
2
5
0億ドル(約1
4兆6
0
0
0億円)に達した。しかも、2
0
0
5年の自然災
害による年間被害総額は1
5
9
0億ドルに達し、1
9
9
5年の阪神淡路大震災のそれ(1
2
1
0億ドル)を超え、
過去最大になったという。Web サイト Go To U.S.A.(http://scw.jugem.jp/?month=200601)
より(2
0
0
7
年7月2
5日現在)
。NIKKEI NET(ジュネーブ発=市村孝二巳記者)の記事として記載されている。
6)アル・ゴア著、枝廣淳子訳、不都合な真実、ランダムハウス講談社。消えゆく氷河に焦点を当て
た著作、中尾正義編「ヒマラヤと地球温暖化」昭和堂(2
0
0
7年3月3
0日)
、他多数参照。なお、ア
ル・ゴア(Albert Arnold Gore Jr.)は、後述の参考文献8)に示す Intergovernmental Panel on Climate
Change
(IPCC)
とともに、その活動によって2
0
0
7年のノーベル平和賞を受賞する。受賞理由は、“for
their effort to build up and disseminate greater knowledge about man−made climate change, and to lay the
foundations for the measures that are needed to counteract such change” 。
http://nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2007/index.html 参照(2
0
0
7年1
0月1
7日現在)
。
7)例えば、安部内閣メールマガジン(第2
7号 2
0
0
7/0
4/2
6−0
5/0
3)
http://www.kantei.go.jp/jp/m−magazine/backnumber/2007/0426.html 参照(2
0
0
7年9月1日現在)
。
8)最近の動向は以下の環境省 web 頁(http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4 th/wg 1_gaiyo.pdf)または、
気象庁訳、IPCC 第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(http://www.data.kishou.
go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar 4/ipcc_ar 4_wg 1_spm_Jpn_rev 2.pdf)を 参 照。と も に(2
0
0
7年9月4日
現在)
。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
第1作業部会第1
0回会合(平成1
9年1月2
9日∼2
月1日、於 フランス・パリ)において、IPCC 第4次評価報告書第1作業部会報告書の政策決定
者向け要約(SPM)が承認されるとともに、第1作業部会報告書本体が受諾され、2月2日、IPCC
より公表されました。
」との説明とともに検討資料が公表されている。
9)内嶋善兵衛著「新・地球温暖化とその影響」pp.
4
0−4
2 裳華房(2
0
0
6.
6.
2
0)
、によれば、現在
から遡って約2
0
0万年続いている氷河期(第四期)の中にあって、現在は、氷期−間氷期のサイク
ルの約1万年続いている間氷期にある。さらに、この氷期−間氷期のサイクルは十万年のサイクル
で繰り返していることが南極の氷柱サンプルの分析から明らかになっている(藤井理行「氷期−間
氷期の仮説実証へ」日本経済新聞記事(2
0
0
7.
9.
1
6)より)
。同様に、池田清彦著「環境問題のウソ」
pp.
7−5
1ちくまプリマー新書(2
0
0
7.
4.
5)参照。またもっと短い周期で太陽活動との関係を示す観
測データも紹介されている(例えば、近藤邦明著「温暖化は憂うべきことだろうか」pp.
8
1−8
4、
不知火書房(2
0
0
6.
7.
2
0)
)
。なお、上記書籍のデータは、吉村宏和氏からの引用とある。
1
0)前掲書3)
、p.
1
1参照。
1
1)前掲書2)
、pp.
1
8−1
9参照。
1
2)前掲書3)pp.
1
7
8−1
9
0、とくに、pp.
1
7
8−1
8
1参照。
1
3)前の文章共、日本惑星協会 web 頁(http://www.planetary.or.jp/earth.html)参照(July, 18, 2007 現
在)より。カギ括弧内は引用、また原文は位地とある。
1
4)前掲書1)
、p.
1
1参照。
1
5)理科年表 p.
8
7、丸善(1
9
8
9)参照。
1
6)前掲書2)
、p.
1
6−1
7参照。
1
7)前掲書3)
、p.
4
5参照。
1
8)前掲書2)
、p.
1
5参照。同書には「淡水量」とあるが、地球全体の「水」と解釈した方が自然で
あると思われる。
1
9)前掲書2)
、pp.
1
6−1
7参照。
水をめぐる環境と法
23
2
0)北野 康著「新版水の科学」p.
2
0、NHK ブックス、日本放送協会(1
9
9
5)
3
9
2
1)全水量/地表面積=1.
3
8
6×1
0(km
)
(*0.
0
0
1%/(4πr2)
=2
7.
1mm)となり、およそ1
0日分の降
水量が地表大気中に滞留している水蒸気量となる。ここで、地表面積=4πr2(r=6
3
7
8km)で、
地球が球と仮定して表面積を求めた。地球半径の6
3
7
8km は赤道半径(前掲書1
5)
)「理科年表」p.
8
8(1
9
8
9)
)
の値を使用。
2
2)海洋の平均深度は前掲書1
5)
、p.
6
7
2参照。
2
3)前掲書2
0)
、p.
2
0及び p.
5
5参照。
2
4)前掲書3)
、pp.
3
0−3
3によると、カザフスタンとウズベキスタンに囲まれ、1
9
6
0年ころの面積は
6.
8平方キロメートル、実に琵琶湖の約1
0
0倍の大きさであった。ところが、2
0
0
0年現在、約5万平
方キロメートル、水深も約1/4の1
5m 程度となった、とある。
2
5)前掲書2)
、pp.
3
0−3
1参照。1
9
5
7年以来、面積で5
0%、水量で6
6%縮小した。アラル海に注ぐア
ムダリヤ川、シルダリヤ川の流れを灌漑のために取水したことが主な理由である、と記述されてい
る。
2
6)TV 報道より(2
0
0
7年:日時、ch. 共不明)
。また、前掲書3)
、pp.
3
3−3
5参照。これによれば、
アフリカ中央部のニジェール、チャド、ナイジェリア、カメルーンに国境を接し、1
9
6
2年までは、
2.
5万平方キロメートルとアフリカ第4位の湖であったが、現在ではその二十分の一となった、と
ある。
2
7)前掲書3)
、pp.
3
8−4
2参照。同書、表Ⅰ−5には1
9
9
0年代以降の世界の大規模洪水災害が示され
ている。
2
8)前掲5)参照。
2
9)前掲書2)
、pp.
1
6−1
7参照。
3
0)国土交通省のデータベースから、全国の可住地面積(=行政面積−林野面積−湖沼面積)は
2
1
2,
5
3
3,
0
8
6ha、国土の総面積、3
7
7,
9
1
4.
7
8km(平成1
8年)で割ると、約3
3%の値を得る。
3
1)我が国の水資源の現状は国土交通省 土地・水資源局水資源部の web 頁(http://www.mlit.go.jp/
tochimizushigen/mizsei/c_actual/actual 01.htm)他、に詳述されている。それによると、「我が国の年
3
3
間の降水量は約6,
5
0
0億 m(1
9
7
1年から2
0
0
0年までの3
0年間の平均値)
。そのうち、約2,
3
0
0億 m は
3
蒸発散し、残りの約4,
2
0
0億 m は理論上人間が最大限利用可能な量であり、これを水資源賦存量と
3
いう。実際に使用している水量は、2
0
0
3年の取水量ベースで年間約8
3
9億 m であり、平均的な水資
3
源賦存量の約2
0%に相当する。残りの3
0
0
0億 m 以上の水は海に流出したり、地下水として蓄えら
3
れる。水の用途別使用状況(2
0
0
3年)は、農業用水が約5
5
7億 m で全体の6
6%、工業用水が約1
2
1
3
3
3
億 m で全体の約1
4%、生活用水が約1
6
1億 m で約1
9%となっている。また、使用される約8
3
9億 m
3
3
のうち、約7
3
5億 m(約8
8%)は河川及び湖沼から、約1
0
4億 m(約1
2%)は地下から取水されてい
る」
。
なお、国土交通省国土地理院 平成1
7年全国都道府県市区町村別面積調査に基づく全国の面積
(=
2
3
7
7,
9
1
4.
7
8km)を使って平均の降水量を求めると、1,
7
2
0
[mm]
と計算される。元になる年間の降
水量のデータの出典が不明なので確認はできないが、オーダ的に合致していると考えられる。
3
2)前掲書3)
、p.
1
6
5参照。同書に、「日本最大の流域面積の利根川ですら、最上流の三国山脈北部
丹後山付近への降水による洪水流が加工の銚子に達するのに二日もかからない」の記述がある。
3
3)前掲書3)
、pp.
1
6
0−1
6
1、および pp.
2
1
2−2
1
3参照。
3
4)後述するように、そもそも国際河川のない日本では、地球上の多くの国が抱える国際河川・国際
湖沼という概念、そしてそれらの国々では人種・国を超えての水をめぐる紛争の種となってきた事
実は理解しにくい。もちろん、中世の群雄割拠の時代などでは、それぞれの国の境界の多くは河川
など自然物があったであろう。少なくとも近代になってからは、川は地域のものという考え方にな
ってきていると推察される。前掲書3)
、pp.
1
9
1−1
9
4の「水田稲作農業は沖積平野で特徴づけられ
る、自然と人間との共生システムである」という記述の中に、その沖積平野を形作った川の役割と
機能が推察できるように思われる。
3
5)中村靖彦著「ウオーター・ビジネス」
、岩波新書(2
0
0
6、第4刷)
、岩波書店(2
0
0
6)
、pp.
2
2
2−
2
2
7に「我が国では、川の水は公のもの」との趣旨の記述がある。
3
6)前掲書3)
、p.
9(図Ⅰ−1 世界人口の増加)参照。また、米国勢調査局に関連づけされた web
24
平成国際大学論集 第1
2号
サイト、(http://arkot.com/jinkou/)によれば、2
0
0
7年7月2
6日午前8時2
0分(日本時間)現在、6
6
億1
5
5
5万5
9
4
4人とある。国連の統計データから推計したもの。
3
7)前掲書3)
、p.
1
1参照。「図Ⅰ−2 全世界の水需要」より)
。図2は全世界の水需要を表したも
の。
3
8)前掲書2)
、pp.
1
8−1
9参照。
3
9)前掲書2)
、p.
2
0−2
1参照。
4
0)前掲書2)
、p.
2
0参照。
4
1)前掲書3)
、p.
1
8参照。東京都民に供給される上水量から推計した一人あたりの水使用量は3
8
5!
/日(リットル/日)である。これらの数字には、事務所ビル、交通機関、病院、ホテルなど都市
共通の施設の使用料も含まれており、著者によると、日本人一人あたりの水使用量は2
0
0!/日程
度であろうとの記述がある。
4
2)前掲書2)
、p.
2
1参照。
4
3)前掲書2)
、p.
2
2−2
3参照。
4
4)前掲4
3)に同じ。
4
5)前掲書3)
、p.
2
5−2
6参照。このオガララ帯水層の年間減少量は、日本の年間地下水使用量1
1
1億
立方メートルとほぼ等量である。また、前掲書2)
、p.
6
0−6
1、および前掲書3
5)
、pp.
1
3
7−1
4
1参
照。
4
6)前掲書3)
、p.
2
0−2
5参照。
4
7)前掲書3)
、p.
2
3参照。
4
8)前掲書2)
、pp.
5
2−5
3、および前掲書3)
、pp.
2
8−2
9参照。
4
9)前掲書2)
、3)参照。
5
0)前掲書3)
、pp.
3
3−3
5参照。
5
1)前掲4
6)参照。
5
2)前掲4
7)参照。
5
3)前掲書2)
、pp.
3
2−3
3参照。
5
4)前掲書3)
、pp.
2
8−2
9、および前掲書2)
、pp.
5
2−5
3参照。
5
5)前掲書2)
、pp.
6
0−6
1参照。
5
6)前掲書2)
、pp.
6
0−6
1参照(同上または同右)
。
5
7)前掲書2)
、pp.
2
8−2
9参照。
5
8)東京都水道局「羽村取水所しおり」より。現在は、上水道として羽村、小作の2カ所から取水し、
村山・山口貯水池などを経由して都内4カ所の浄水場に運ばれ、所定の処理を経て水道水として供
給されている。
5
9)1
9
3
2年(昭和7年)7月東京市議会において、第二水道拡張事業が採択され、1
9
3
8年(昭和1
3年)
1
1月小河内ダムの建設に着手。第二次世界大戦での中断を経て1
9
5
7年(昭和3
2年)1
1月に竣工する。
数値は東京都水道局、小河内貯水池管理事務所発行のパンフレット「小河内ダム」より。
6
0)前掲書3)
、p.
1
2
5参照。小河内ダム竣工式で当時の東京市長、安井誠一郎は「これで東京の水は
将来にわたって当面大丈夫」と話した、などとある。その7年後(1
9
6
4年)
、アジアで初めて開催
されるオリンピックをひかえた東京は異常な大渇水に見舞われ、当時の河野一郎建設大臣の決断で
新たに利根川・荒川水系からの取水を決断することになる。
6
1)前掲書3)
、p.
1
8参照。事業所、病院などの使用を含む数値と記述にある。
6
2)東京都水道局 PR ビデオより。
6
3)当時の1
4代東京市長は永田秀次郎(在任期間は昭和5.
5.
3
0∼昭和8.
1.
2
5)
。
6
4)東京都の web 頁(http://www.metro.tokyo.jp/PROFILE/rekidai.htm 9)参照(2
0
0
7年9月1日現在)
。
水利権に関しては、建設省京浜工事事務所資料(平成1
1年4月2
0日現在)
(1
9
9
9)として示されて
3
いる、多摩川水系における水利権量は、合計1
2
4件で1
2
2.
4
2m/sec である。農業用水としての水
利権数が8
1件で4
4
1ha の灌漑面積に利用されている。水利権量としての内訳は、発電用水の利用が
3
最大(8
4.
7
8m/sec:6
9.
2%)で、以下水道用水2
3.
1%、農業用水3.
8%、工業用水3.
5%、雑用水
0.
4%となっている。発電用水は下流4カ所の発電施設を経由した後、主に飲料用として羽村の取
水堰で取水される。この取水堰の下流域で主として農業用水や工業用水としての取水が行われてい
水をめぐる環境と法
25
る。(同資料、図5−6の多摩川水系水利模式図に水利権量と系統図が示されている)
。
6
5)前掲書3)
、p.
1
3
2参照。
6
6)東京都水道局の web 頁、http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/w_info/s_kijun.htm から「今回の改
正では、旧水質基準4
6項目のうち、大腸菌群、有機物(過マンガン酸カリウム消費量)など9項目
が除外され、大腸菌、全有機炭素、アルミニウムなど1
3項目が追加され、5
0項目となった。また、
水質基準を補完する項目として設定されていた「快適水質項目」や「監視項目」を廃止し、「水質
管理目標設定項目」
(2
7項目)
、「要検討項目」(4
0項目)が導入された」
。(2
0
0
7年7月2
7日現在)
。
6
7)前掲6
5)の web 頁(http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/)など、参照。(2
0
0
7年7月2
7日現在)
。
6
8)国土交通省 web 頁によると、現在の上水道の普及率は9
7%超である。また、前掲書3)
(p.
1
1
2)
、
によると、第二次世界大戦終了直後には、水道普及率は3割にも満たなかった。その後、水道法の
施行(1
9
5
7年公布、施行)や厚生省などによる普及の努力もあって普及率は向上し現在は9
7%に達
した、とある。また、当時から独立採算制に基づく考え方を基本としており、(事業の効率という
点からも)大量使用を奨励する料金体系であることには変わりはない旨、述べられている。
6
9)前掲書3
5)
、p.
2
0
0参照。また、同書によれば、日本でも昭和初期には民営の水道事業はあった。
東京のような大都市で、工業用の水を供給する施設があったし、千葉県野田市には大手の醤油メー
カが経営する水道事業があった、とある。
7
0)前掲書3)
、pp.
1
6
4−1
7
2参照。
7
1)前掲書3
5)
、p.
2
0
0参照、水道法及び地方自治法の改正のカギ括弧付き説明は同書からの引用。
7
2)前掲書3
5)中村靖彦著(N)「ウオーター・ビジネス」
、岩波新書(2
0
0
6、第4刷)
、岩波書店、
(2
0
0
6)
。
7
3)国際調査ジャーナリスト協会(ICIJ)著、佐久間智子訳「世界の水が支配される!」作品社、(2
0
0
7
第3刷)
(2
0
0
7)
。
7
4)前掲書3
5)
、p.
1
8
9参照。日本円にして約一兆7,
0
0
0億円。
7
5)前掲書3
5)
、pp.
1
8
8−1
9
5参照。
7
6)前掲書7
3)参照。
7
7)国土交通省 web 頁より。ただし、輸入量等のデータは財務省関税局 日本貿易統計によるとの
記述がある。
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/c_actual/actual 07.html(2
0
0
7年7月2
7日現在)
。
7
8)日本ミネラルウォーター協会 web 頁(http://www.minekyo.jp /および http://www.minekyo.jp/07−1
n.pdf(2
0
0
7年7月2
7日現在)
)
によれば、2
0
0
6年の出荷量は、1,
8
0
0,
8
5
0キロリットル、輸入量は
5
5
2,
5
9
1キロリットル、合計が2,
3
5
3,
4
4
1キロリットルで、前年比1
2
8%。金額は、国内メーカにつ
いては出荷価格、輸入は C.F.I.価格(cost, insurance and freight 運賃保険料込価格)
。なお、日本で
最初のミネラルウォーターの販売は1
8
8
9年(明治2
2年)とされる(前掲書3
5)
)
、pp.
4
6−4
9参照)
。
主に外国人向けのものだったという。所謂最近のボトルドウォーターの事業化はサントリー社によ
る1
9
9
6年1
1月のこと。
7
9)National graphics, vol.212, no.1, p.24, July 2007 参照。
8
0)前掲7
8)の web 頁によると、「ミネラルウォーターは商品の特性上、気候・気象・地質・地形
等自然の条件に強く関わり合っているので、世界各国によって考え方に差があり、品名表示の方法
もそれぞれ異なっている」との説明がある。
8
1)前掲7
8)の web 頁から、(1)
ナチュラルウォーター「特定の水源から汲み上げた地下水を原水と
して沈殿・濾過、加熱殺菌以外の化学処理はしていない水」
、(2)
ナチュラル・ミネラル・ウォータ
ー:ナチュラルウォーターのうち、地下にある無機塩類が溶けて含まれている地下水を原水とした
水、(3)
ミネラル・ウォーター:「ナチュラル・ミネラル・ウォーター」を原水とする。そして品
質を安定させるために、ミネラルの調整、あるいは複数の水源からのナチュラル・ミネラル・ウォ
ーターのブレンドなどを行った水、(4)
ボトルドウォーター:「飲料可能な水。水道水でもよい。
処理方法に制限なし」
。米国では、この分類はなく、名称もスプリングウォーターと称していると
いう。
8
2)前掲7
8)の web 頁によると、「日本では、食品衛生法で認められた製造基準が定められており、
その原水に適合した安全な水を用いて、同じく食品衛生法で認められた製造設備を用いて製造され
26
平成国際大学論集 第1
2号
る」
。加熱殺菌または除菌の方法は、「汲み上げられた原水はスレーナーのような目の粗い濾過器
を通して砂などの異物を除去した後、8
5℃3
0分の加熱殺菌か、またはそれと同等以上の効力を持つ
殺菌、または除菌濾過を行う」とされている。このような加熱殺菌等の処理を加えるかどうかは、
原水そのものの品質(硬度)はもちろん、原水の硬度や加熱方法、他の食材との調理方法などとの
関係がある。
8
3)理化学辞典、p.
4
3
6(1
9
7
1第3版第1刷)
、岩波書店(1
9
7
1)より。「水中のカルシウム塩及びマ
グネシウム塩の含有量によってその水の硬度を表す。日本では、水1
0
0cc 中に酸化カルシウムとし
て1mg を含むとき1度とし、マグネシウムは 1.4 MgO=1 CaO の関係で酸化カルシウムに換算す
る。通常2
0度以上のものを硬水、1
0度以下のものを軟水という。なお、ドイツやフランスではその
定義(換算方法)が異なる」
。
8
4)前掲7
8)の web 頁によると、カルシウム塩類とマグネシウム塩類の含有量が比較的低い(硬度
が低い)軟水がほとんどである日本では、加熱殺菌によっても味が変わりにくく、「ものの香りや
味を引き出す力」があるとされている。一方、硬度が高い水を用いてお茶を入れたり調理をした場
合、ものの味がカルシウムなどと結びついて、本来の味が薄まり(変化し)
、味がマイルドになる
とされる。逆に、肉を調理する場合、軟水では肉の臭みが出てしまうが硬水の場合には肉のタンパ
ク質がカルシウムと結合し、硬蛋白質(アク)となって抜けるため良い味に変わるという傾向があ
る、との解説がある。
8
5)山梨県が検討したミネラルウォーター税の経緯、等は以下の最初の web サイトに、その後の取
水企業等との検討会はその後に挙げた web ページを参照されたい。
http://www.pref.yamanashi.jp/barrier/html/zeimu/images/houkoku 01.pdf 中間報告(山梨県)山梨県地
方税制研究会 中間報告(平成1
4年1
2月)
。
http://www.pref.yamanashi.jp/barrier/html/zeimu/images/23734123307.pdf 第1回 議 事 録(平 成1
7年6
月1
3日)
http://www.pref.yamanashi.jp/barrier/html/zeimu/images/16423661850.pdf 第2回 議 事 録(平 成1
7年8
月2
6日)
http://www.pref.yamanashi.jp/barrier/html/zeimu/images/56455786776.pdf 業 界 の 意 見(2
0
0
5年8月2
6
日)
8
6)米国の例、前掲書3
5)
、pp.
1
0
3−1
3
4参照。米国では「地下水はその土地の所有者のもの、河川が
州のもの」との記述がある。
8
7)フランスの volvic 村では、中世に噴火したとされる複数の火山山系から開けた谷の一つに volvic
社(DANONe 社)の取水井戸がある。その谷を含めてその山系一帯が保護水源林となっている。
限定的ながら、ここでは他社の企業活動を目にしていない(2
0
0
7年6月時点)
。フランスでは、ボ
トルドウォーター・ビジネスは既に成熟産業であり、企業の競争は適正に行われているためと見る
か、単に企業モラルの問題なのか。日本の山梨県での取水企業が3
9社、旧白州町だけでその半分(前
掲書3
5)
、p.
1
5)という状況と対照的である。
8
8)前掲書3
5)
、pp.
1
0
0−1
0
1 にフランスでのボトルドウォーターの動向に関連して、「普通は一採
水地一ブランド」の記述がある。
8
9)前掲書3)
、の序より、pp.
2−3参照。
9
0)前掲書3)
、より、pp.
4
3−1
0
4参照。該当する数値は、p.
4
6と p.
4
7より。
9
1)長さ9
9
6
0km、世界最長の川。以下の web 頁参照。
http://www.tv−asahi.co.jp/earth/midokoro/2001/20010401/index.html(2
0
0
7年9月3日現在)
2
9
2)前掲書2)
、pp.
3
0−3
1参照。灌漑によって塩類が集積した土地の面積は、1
0,
0
0
0km 以上と分類
されている。さらに、「ナイル川が海にたどり着くことは決してない。ナイル川の水はあまりにも
広範にエジプト穀倉地帯を灌漑するため、地中海に流れ込む頃にはなくなっている」というショッ
キングな記述もある。
9
3)渡辺 斉著「水の警鐘」
、pp.
1
7
3−1
8
4、水曜社(2
0
0
4年8月初版第1刷)
(2
0
0
4)
。
9
4)前掲書9
0)
、p.
1
8
2参照。
9
5)前掲書2)
、p.
2
9、(2
0
0
0年の統計)参照。
9
6)前掲書3
5)
、pp.
1
5
6−1
6
5参照によれば、間接水の概念を考えついたのは、1
9
9
0年代の初め、ロン
水をめぐる環境と法
27
ドン大学のトニー・アラン教授であり、その後、沖らによって、この間接水を作物毎に計算し定量
化した、と紹介されている。前掲書2)は沖氏の監修になる著書である。なお、その後ファースト
フードにも適用し、牛丼では2トンと言っているが、作物からの数値から推量して1トンというが
妥当(控えめ)な数字であろう。
9
7)前掲書3
5)
、pp.
2
0
2−2
0
3参照。広島県三次市の例が紹介されている。人口3
0,
6
5
0人、水道普及率
8
0%の同市は2カ所にある浄水場の管理を民間に委託した(2
0
0
2年)
。目的は人事の活性化とコス
ト。東京の企業から5人が派遣されて水の供給管理、保守業務を行っているという。
9
8)前掲書3)
、p.
1
7
0参照。
9
9)前掲書3)
、p.
1
7
2参照。アメリカでは水道事業は公営が一般的であったが、アトランタ市が民間
企業と1
9
9
9年から2
0年契約で水道事業の委託契約を結んだ、との記事がある。同書に、フランスの
水道民営化は1
8
5
3年ジェネラル・デゾー社(現、ビバンディ社)によるリヨン市水道の委託管理か
ら、また、イギリスではサッチャー政権により1
9
8
9年に、イングランドとウエールズの1
0カ所の水
道公社が民営化された、とある。
1
0
0)前掲書3
5)
、pp.
1
8
8−2
0
5参照。とくに、p.
1
9
4に、氏岡庸士作成の「世界の水道事業民営化の地
域別概要」
(
「水道法ハンドブック」より)が引用されており、北米で1
0%、フランス7
5%、イギリ
ス9
0%、欧州全体で2
0%、との数字が読み取れる。なお、同書に、水道事業の民営といっても色々
な形態があり、完全な株の所得、JV(ジョイントヴェンチャー)
、合弁事業、委託、など様々であ
るとの紹介がある。
1
0
1)private communication また、下記 web サイトの解説も参照。
http://en.wikipedia.org/wiki/Water_supply_and_sanitation_in_India(2
0
0
7年9月1日現在)
。
1
0
2)前掲8
5)参照。
1
0
3)米国の例、前掲書3
5)
、pp.
1
0
3−1
3
4参照。
1
0
4)前掲1
0
3)参照。p.
1
3
3−1
3
4に経緯がまとめられている。要約すると、第1のゾーニング変更差
し止め訴訟では、採水からボトルドウォーター・ビジネス化の行為が、現地の農業用途から商業用
途へのゾーニングの変更にあたるかどうか、第2の工場建設差し止め訴訟では工場建設が当地の水
資源開発法に抵触するかどうか、で争われ、いずれも原告敗訴となった。第3の水の所有権
(
“水は
誰のもの”
)
訴訟では、取水が周囲の環境や生態系に大きな影響を及ぼすのかどうかが争われ、取水
を中止すべきとの原告勝訴の判決を得た。その後被告であるボトルドウォーター企業側の判決差し
止め緊急仮処分の申請が上級裁判所によって認められ、継続審議中となっている(2
0
0
4年1月時点)
。
1
0
5)前掲書2
0)
、の表「水圏の平均滞留時間」 p.
2
0参照。
1
0
6)米国では、地下はどこまでもその地表の地権者に権利がある、との考え方が一般的である(前
掲書3
5)
、p.
2
2
7)
。フランスでは、個人の所有のこともあるし市町村の所有のこともある、とした
上で、「フランスでは国が所有するのは石油と石炭だけである」という記述がある。日本でもこれ
までは、山梨県の例にあるように、地権者のものと考えるのが一般的であるように思われる。河川
法の対象になるような川の水は、国が利用について許可を与えるが無料という認識(同書 pp.
2
2
7
−2
3
1参照)
。
1
0
7)前掲書9
3)pp.
1
7
3−1
7
4参照。
1
0
8)前掲書1
0
7)pp.
1
7
4−1
8
4参照、によると、米国での米国内務省開拓局の総裁だった、ダニエル
・ビアード氏が1
9
9
5年に来日して行った講演の中に、「ダム建設の時代は終わる」という言葉が引
用されている。その根拠となった政策転換のポイントが5項目上げられている。それらは、「第一
は経済。農業用水を確保する水資源開発は受益者負担を前提にしてきたが、金利分は補助金で賄う
といった具合に、実際には投資した費用の一部しか回収できなかった。こうした事業は同じ規模の
財源を他へ振り向けた時より、米国経済への貢献は小さい。第二は社会的現実。農業関係者のため
に働き、増大する都市住民の要求に応えてこなかった。その結果、社会の支持は低下した。第三は
運営の現実。土壌の塩化、漁業の衰退、湿地の消滅、先住民族の文化の破壊、農業による汚染、貯
水施設の堆砂、ダムの安全性の問題など、開発に伴う二次的コストの重大性を学んだ。第四は環境。
環境に影響を与えると知りつつ、過去は開発を進め、農業生産の増加と引き換えにしてきた。しか
し、米国の世論は今日、川の生態系、文化的価値の方に、より重きをおいている。政府の機関とし
ては、社会の価値観と意見に沿って働かなければならない。第五は代替手段。ダム建設以外の代替
28
平成国際大学論集 第1
2号
手段がたくさん存在することを実感するようになった。それは億の場合、低コストで、環境への影
響も小さい(農業用水の都市用水への転用、水の再利用などを指している。
」(以上、pp.
1
8
3−1
8
4
の引用で、筆者によれば、片岡夏美氏とヘザー・スーター氏の訳を参考にしたと記載されている)
。
1
0
9)前掲書9
3)からの再掲載、p.
1
5
8。元の図は、ロバート・グッドランド氏の資料からの作成、と
ある。中央左上のプロットは、本論で話題に取り上げた小河内ダムにおける値を示したもの。たん
水面積4
2
5ha、発電能力4
6,
1
0
0kW、移動人口3,
7
8
0人(移動世帯数9
4
5とある。1世帯平均4人とし
て推計した)は、東京都水道局資料から引用して計算した。
1
1
0)前掲書2)
、p.
2
8参照。
1
1
1)日本経済新聞の記事より。また、前掲書3)pp.
5
3−5
4、pp.
1
7
3−1
7
4にある。それによると、
日本では、沖縄県で日量4万立方メートル(4万トン)
、福岡市で5万立方メートル(2
0
0
5年)が
稼働とある。
1
1
2)日本経済新聞記事(2
0
0
7年1月1
4日付)より。本記事にはその他の多くの企業が、米国、中国
などから工業用や発電用に使う水の前処理用に使う精密濾過膜などを受注し、またプラント・装置
の受注も相次いでいるという。
1
1
3)前掲書3)
(p.
2
9)等に、地下水よりも利用しやすい、雨水利用の技術について、降水量が多い
バングラデッシュでの活動が紹介されている。
1
1
4)日本経済新聞記事(2
0
0
8年2月3日付)
。