十年一昔、そして新たな社内コミュニケーション

CSR コミュニケーションのこれから⑭
CSR 担当者と CSR 経営者のためのニュースレター
今津秀紀 凸版印刷株式会社 トッパンアイデアセンター
十年一昔、そして新たな社内コミュニケーション
セミナー講師として話を始める前に、必ず来場者に聞くこ
す。
とがあります。それは「CSR の部署に移動して何年目ですか」
KDDI は 2013 年前半期に社内に CSV 研究会を立ち上げま
という質問です。
「今年からの人は?」
「 2 年目の人は?」と
した。CSV は本業のビジネスを通じて進めることなので、組
順番に聞いていくのですが、3 年以内の人が会場全体の 7―8
織の機能や役割から見れば CSV を実践できるのは CSR 部門
割を占めています。5 年以上の人はもうほとんどいないといっ
よりもむしろ商品やサービスを開発して市場に提供する事業部
ていいでしょう。
門になります。
なぜこのような質問をしているのかというと、元々は来場者
そこで、同社の CSR・環境推進室は事業部の第一線で活躍
の経験に配慮するよう自分へ向けた注意喚起でした。しかしな
する社員に CSV を理解してもらい、新たなビジネスモデルを
がら、この 1 年は別の理由で特に注意を払うようにしています。
創出してもらうことを考えました。そして、自らは脇役(黒子)
2013 年は GRI ガイドライン G4 や IIRC の統合報告フレーム
の事務局に徹しました。事務局は、技術開発本部、経営戦略本
ワークが発表されて、CSR コミュニケーションが複雑に変化
部、サービス企画本部、KDDI 研究所などの 10 部門以上から
する年だったからです。加えて、本来の CSR 活動でもリスク
第一線のマネジャーを選抜して CSV の情報提供を始めました。
面では人権への対応が、価値の創造では CSV が広がりました。
彼らを選んだもう一つの理由は、各部門の部下や周囲にも大い
さて、ここで再びセミナー来場者への質問に関連した話に戻
に影響を与えられると判断したからです。月 1 回のペースで
るのですが、CSR に長年携わってきた側がコミュニケーショ
CSV 研究会を開き、外部講師を招いての CSV の基礎学習や
ンで注意をしなければならないと思うことがあります。それは、
事例学習、また、社内に広めるための問題点などを議論しなが
今の CSR 担当者が GRI ガイドライン G3 や G2 が発表され
ら、ワークショップで CSV プランを作り発表するところまで
た当時を知らないということです。最近の CSR セミナーでは
進めました。発表した内容は、後日、事務局を通じて経営層に
G3 から G4 への変更ポイントなども詳しく解説してくれるの
も報告されたと聞いています。
で知識は十分に持っています。しかし、CSR 元年から始まっ
後半期もこの活動は継続していて、例えば、メンバーがビジ
たあの熱気(!)を知らない現在の CSR 担当者がどのように
ネスモデルを検討するために、ある地方の現場を視察に行きた
受け止めているのかをイメージする必要を感じます。もしかし
いと希望した場合にはその出張費も提供します。ヒヤリングし
たら、GRI ガイドライン G4 と IIRC の統合報告フレームワー
たい政府や自治体や NPO の団体があればそのつなぎを事務局
クについて、その違いは理解していても受け止める価値の大き
がサポートします。このように、ビジネスモデルの立案はあく
さは同じくらいなのかもしれません。
まで選抜メンバーに任されていて、事務局はメンバー主体の活
CSR と CSV も同様です。これらの違いを知識では区別し
動を人的に金銭的に支援するのです。
ても、影響を受ける大きさは CSR < CSV かもしれないのです。
これまでの CSR の社内浸透は、CSR 部門が主体になり、
国内での CSR 元年から 10 年が過ぎました。十年一昔という
研修や e ラーニングを行うことで CSR を理解してもらい、各
言葉がありますが、世代間の CSR コミュニケーションも考慮
部門の活動に CSR を組み入れてもらうスタイルが多かったよ
しておく必要があると感じます。
うに思います。もちろんこれらも重要な活動ですが、KDDI の
新たな役割とコミュニケーション
場合は自らの立ち位置を従来から少し変えたのです。CSR、
CSV のどちらにせよ社会課題の解決に向けた新たなビジネス
さて、このようなことを書くと世代間の CSR コミュニケー
を創出するために CSR・環境推進室ができることは何かをゼ
ションに要注意の内容だけになってしまうので、逆に新たに
ロベースで発想した結果です。この活動を見ていると、もしか
CSR の部署に移動して来た人たちだからこそ実践できる、ユ
したら、CSR 部門がこれから担うべき新しい役割の 1 つなの
ニークな役割や CSR コミュニケーション例を 1 社ご紹介しま
かもしれないと、そのようにも思えるのです。
【いまづ・ひでのり】
入社以来、
トッパンアイデアセンターにて企画制作業務に従事。現在は CSR を軸にコーポレートコミュニケーション支援を担当。CSR 報告書アワー
ド最優秀賞、企業情報サイトランキング 1 位、エコサイトランキング1位など担当したクライアントで多くの実績を上げる。ステークホルダーダイアログ等のファシ
リテーターも 10 社以上で行っている。
第 17 号 P.18
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