ヨガの思想と基礎知識

ヨガの思想・基礎知識
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(C) Noboru Watanabe
ヨガの思想・基礎知識
(C) Noboru Watanabe
ヨガの思想 2007年 2月 渡邊 昇
はじめに このヨガの資料「ヨガの思想」は、ヨガを学ぶ人たちのために
ヨガ思想面、歴史面を、軽くかいつまんで解説したものです。
ヨガのそういった面は、みなさん難しいそうだなあと、
避けて通るものですが、ヨガの思想や歴史を知っておくことは
深くヨガを学ぶとき、理解の手助けと必ずなってくれるものです。
まずは、この資料を読み、こういう言葉がある。
こういう人がいたということだけでも、頭に入れておいてください。
「知識を入れ、知識を生かす。」これもヨガの一分野ですから。
目次 1 ヨガ概略
2 ヨーガスートラ
3 ハタヨーガプラディーピカー
4 バガバッドギーター
5 ヨガの歴史
6 日本のヨガ
7 ヨガの身体観
8 用語解説
9 参考資料
おことわり
*1 本来YOGAは”ヨーガ”と書くのが、原音に近いのですが、
日本では”ヨガ”と表わすことが多いので、
この資料ではヨガと統一表記させていただきます。
団体名・固有名詞・引用文等は除く。(例:広池ヨーガ、ヨーガスートラ)
*2 人名の敬称は略させていただいています。
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1 ヨガ概略
1―1 ヨガとは何でしょう?
ヨガって体操でしょうか?、宗教でしょうか?哲学でしょうか?
答えはすべて正解です。いろいろな要素が組み合って出来ています。
すべて正解ですが、要素を分解するとヨガではなくなってしまうような気がします。
それぞれ単独の宗教、健康体操、哲学になってしまいます。
それはヨガというものは、古代インドでつくられた修行の体系であり、
人間活動の分析から作られた”人間開発システム”だからです。
いろいろなものを含んでいます。
考え方、体の生かし方、生活のしかた、自然や人間に対する感じ方
古代インドの人が生きていく上の活動を結び、統合化したものと考えられます。
古代インドの人も現代に生きるわたしたちも
人間としての生きる働きは変わらないですね、
”食べる、呼吸をする、考える、楽しむ、悩む、恋をする、
人と接する、社会に接する”等々
だからこそ、ヨガが現代に生きるわたしたちをサポートしてくれる
システムになりうるのです。
そしてヨガから切りとって出来たもの、個別の要素が進化したものも、
現代に充分生かされているということを、頭に入れておいてください。
”ストレッチ体操、シュルツの自律訓練法(自己催眠)、禅”・・・
ヨガのシステムの一部です。
「システム(system)
個々の要素が有機的に組み合わされた,まとまりをもつ全体。体系。系。」
三省堂 大辞林より
1-2 ヨガの語源
ヨガという言葉は「結ぶ」という意味のインドの言葉です。
yuj、ユジュ=軛(くびき)をかけるという言葉から派生したものです。
軛とは、勝手に動き回る馬をコントロールするために首の後ろにつける乗馬用具です。
そこから、ヨガ=結びつけるもの、結ぶことと意味を広げて使われています。
インドの古い哲学書にウパニシャッドと呼ばれるものがあり、ヨガの考えが
いくつか書かれています。
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そのなかのカタ(カータカ)ウパニシャッドに、馬の例えが見られます。
「アートマンは車に乗るものであり、身体は実に車であるものと知れ。
統覚機能は御者であり、そして意(こころ)は、まさに手綱であると知れ
人々は、もろもろの感官をもろもろの馬と呼び、
感官の対象を馬に対して馬場と呼ぶ、アートマンと感官と意が結合したときに、
賢者はこれを享受者と呼ぶ。。」
カタウパニシャッド 3・3・4
参考 中村元選集24「ヨーガとサーンキャ」春秋社より
意のままにならない、心と体を制御し、悟りの境地へ持っていくことを、
馬車(潜在意識や体)を操る御者(ぎょしゃ)に例えています。
そしてそれらのはたらきの”結合”を説いています。これがヨガ(結び)です。
古典ヨガ(後述)では悟りへ自分を結びつけるものがヨガ。
ハタヨガ(後述)では心と体を繋ぐ、心身のエネルギーを宇宙エネルギーに結ぶ、
などと使います。
目的へ”結ぶ”ための手段のひとつが、アサナであり呼吸法であり、
ヨガ的生活(ヤマ、ニヤマ、クリヤーヨガ)であるといえます。
1-3 古典ヨガ
紀元前の昔、インドで生まれた宗教である
仏教の教祖、釈迦(ゴータマシッダルータ)や、ジャイナ教の教祖(マハビィーラ)も
ヨガ的瞑想から悟りを得たとされています。
静かに坐り呼吸を整え、心の本質、宇宙の本質を悟るための瞑想が
古い形のヨガなのです。そういう”瞑想的なヨガ”を「古典ヨガ」といいます。
紀元前数百年に編纂された哲学書、ウパニシャッドにこう出ています。
「心と五感とがともに静まり、知識が動揺しないときこれをパーラーガティ、
つまり最高の極致と名づける、この抑制こそヨーガである。」
カタウパニシャッド
パーラーガティって仏教の有名なお経、「般若心経」の後ろの方に出てくる
ギャーティ、ギャーティ、ハーラーギャティ・の波羅羯諦(はーらーぎゃーてい)です。
こういうふうにインド思想、哲学はつながっているのです。
そしてその境地にいくための作法、心と体の基礎修行が、
古典ヨガ(瞑想ヨガ)という共有システムであったと言われています。
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古典ヨガはインドの哲学のひとつ”サーンキャ哲学”とたいへん深い関係にあり、
文献として著わされたのは、パタンジャリ(紀元前2~3世紀)編とされる
「ヨーガスートラ」です。(実際に現在の形になったのは2~4世紀という。)
現在では古典ヨガを継承している”精神的ヨガ”を「ラージャヨガ」(ラージャとは王
のこと)すなわち心の王(主人)となるヨガと呼ばれています。
1-4 ハタヨガ
いっぽう現代でヨガというと、
ヨガポーズをする”体操的ヨガ”を思い浮かべます。
肉体的な修練より入るヨガです。
この現代の主流ヨガ、ヨガアサナ(ポーズ)を取ることで
顕在的そして潜在的生理機能をコントロールしていくヨガを
総称して「ハタヨガ」(ハタとは力、陰陽、日・月の意味)と呼び、
古典ヨガに対し、後期ヨガと分類します。
ですからアサナをする現代ヨガ、たとえばアイアンガーヨガ、パワーヨガ、
アシュタンガヨガ、クンダリニーヨガすべて
ハタヨガの流派といえるのです。
ハタヨガの哲学的背景はインドの哲学、ヴェーダーンダ哲学にあり、
文献として、スヴァート・マーラーマが著わした
「ハタヨーガプラディーピカー」が重要です。(16~17世紀)
1-5 まとめ
”悟りや真の存在である自分に到る”という
目的に対し、手段として
・生活の仕方、
・体の整え方、
・呼吸の整え方
・生体エネルギー、心のエネルギーの使い方
・哲学的思索、宗教的瞑想
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これらが統合進化していったものがヨガなのです。
そしてヨガは、”悟り”といった高次元?の目的の前に
”体の機能をより良くする”、”スタイルが良くなる”
”健康になる”、”精神を安定させる”、
”ストレス解消になる”といった、
実用的なニーズに対する手段になる
『今を生きる人間のためのシステム』なのです。
そのヨガシステムは大きく二系統があります。
・瞑想を重視し心をコントロールしていくことで悟りを得るヨガ
精神的ヨガ⇒古典ヨガ(ラージャヨガ)と
・ヨガポーズ、呼吸法、クンダリニー法を修練活用していくことで
能力開発し悟りを得る生理的ヨガ⇒後期ヨガ(ハタヨガ)です。
わたしたちヨガを学ぶものは、
昔の人が残してくれたヨガという優れたシステム遺産を活用し、
生きている人のためのツールとしてヨガを使うアドバイザーでもあるのです。
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2 ヨーガスートラ
2―1 ヨーガスートラの説くヨガとは?
パタンジャリ(紀元前2世紀ごろの人)が最初の作者とされる
古典ヨガ(瞑想ヨガ)の教典ヨーガスートラは、
その後、さまざまな手を加えられ2~5世紀ごろ
現在の形になったとされています。
”スートラ”とはインドの言葉で”糸”を意味し、そこから織物、
思想の織物つまり、教典を示す言葉になりました。
「ヨーガスートラ」は、こう始まります。
「ヨーガとは心の作用を止滅することである。」
ヨーガスートラ 1・2
瞑想のはてに、心の働きすら無くし、”無心”の境地で、
真我(プルシャ)そのものになるのが、古典ヨガの目指すものなのです。
2―2 ヨガにおける位置付け
そのための心の分析と瞑想の段階を述べ、
行事ヨガ(生活のヨガ:クリヤーヨガ)を説きます。
これが、
・信仰のヨガ(バクティヨガ)や
・呪文のヨガ(マントラヨガ)、
・奉仕のヨガ(カルマヨガ)などに発展します。
瞑想以外に、それぞれの行為を通し、ヨガの目的である
”三昧(サーマディ)”に到る道です。
またヨガの8支則(8部門)という考えを始めて明文化したのが
ヨーガスートラです。
この8支則が、ヨガをしていく上の重要なカリキュラムとして
後世において発展していきます。
ヨーガスートラは、後期ヨガ(ハタヨガ)にも大きな影響を残しています。
「ハタ・ヨーガは高遠なラージャヨガに登らんとするものにとって、
すばらしい階段に相当する。」
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ハタヨーガプラディーピカー 1・1
ハタヨガ(後期ヨガ)がラージャヨガ(古典ヨガ)の準備段階だといっています。
古典ヨガ教典のヨーガスートラが”ヨガ根本教典”とよばれるのは、そのためです。
ヨガのバイブル的な文献だと思ってください。
2-3 心の分析
ヨーガスートラは五種類の心の作用を説きます。
1)正知:正しい知識
2)誤謬:誤った知識
3)分別知:ことばだけによる知識
4)睡眠:寝ている状態
5)記憶:経験の保持
これらの働きを無にする、三昧のための方法として
1)修習:瞑想の繰り返し
2)離欲:すべてのものへの愛着を捨てる
という方法を勧めています。
そして三昧(サーマディ)とよばれるヨガの最終過程の
状態の説明とつづきます。
三昧にはつぎの二つの状態があります。
1)有種子三昧:対象がある瞑想状態
2)無種子三昧:無となった瞑想状態
あとの無種子三昧が古典ヨガの目的である、
「心の作用が止滅した状態」です。
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2-4 ヨガの8支則
ヨガの8支則、八つの枝(アシュト・アーンガ)とは、
1) ヤマ
2) ニヤマ
3) アーサナ
4) プラーナヤーマ
5) プラティヤーハラ
6) ダラーナ
7) ディヤーナ
8) サマディ の八つをいいます。
1のヤマとは”禁戒”、社会的にやっては、いけないことです。
内容は、つぎの5つです。
1)アヒムサ(非暴力)非殺生、
2)サティヤ(正直)嘘をつかない
3)アステーヤ(不盗)人のものを盗まず
4)ブラフマチャリア(梵行)性欲のコントロール
5)アパリグラハ(不貪)むさぼらず。生きるのに最低限のもの以上所有しない。
2のニヤマは”勧戒”、自己規範としてやるべきことです。
内容はつぎの5つです。
1)シャウチャ(清浄)心身の浄化。
2)サントーシャ(知足)足るを知る。満足と感謝の心
3)タパス(苦行)心身、感覚器官の訓練
4)スワディヤーヤ(読誦)ヴェーダ教典の吟誦
5)イシュワラプラニダーラ(祈念)神への祈り、行為を神に捧げる心がけ
このニヤマの中の 3)~5)を特に”クリヤーヨガ(行事ヨガ)”と呼びます。
生活の中で”行う事の”ヨガという位置付けです。
3)タパス(”熱”の意)をつきつめると後期ヨガのハタヨガになりますし、
4)スワディヤーヤはマントラ(呪文、真言)ヨガ
5)イシュワラプラニダーラはバクティ(信仰)ヨガと
展開していきます。
(ヨーガスートラが完成されたとする4~5世紀ごろの
こうしたヨガの動きを文献にまとめようとしたものとも考えられる。)
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3のアーサナは”坐法”です。
呼吸法や瞑想のために静かに坐ることです。
ヨガポーズへの展開は、ヨーガスートラでは書かれていません。
(ハタヨガで出てくるヨガアサナに ~坐という和訳がつく場合は
この瞑想のための坐法という 考えを残す表現です。仏教寄りのヨガ団体に多い。
例 聖亀坐=クルマアサナ:亀のポーズ)
4のプラーナヤーマは”調息”、呼吸法です。
呼吸を調整する事で、心身の状態を瞑想に持っていく意味があります。
プラーナは、気のエネルギーという意味です。
後期ヨガでは、これをエネルギーコントロール法として位置付けます。
5のプラティヤハラは”制感”、感覚をコントロールし、
瞑想のため感覚の雑音を遮断していくことです。
6のダラーナは”凝念”意識を内外の対象物に集中する瞑想です。
精神集中法です。
7のディヤーナは”静慮”、静かに心と向き合い、無心の境地になる瞑想です。
これが仏教の禅となった元です。無念・無心を目指します。
8のサーマディ”三昧”は、存在の真の姿である
真我(プルシャ:純粋観照者)そのものと一体になった状態です。
2-5 まとめ
ヨーガスートラは最古のヨガ文献であり
瞑想ヨガのテキストであるとともに
後に続くヨガの様々な形の発展を含むものです。
特にヨーガスートラで重要な点は、
* 瞑想の意味と心の状態の分析
* ヨガの八支則 の二つです。
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3 ハタヨーガプラディーピカー
3-1 ハタヨーガプラディーピカー
プラディーピカーとは”灯り”という意味で、
ハタヨガ(力のヨガ)の道を行く人の
夜道を照らす案内の文献という意味です。
作者はスヴァートマーラーマ(16~17世紀)とされています。
ハタヨガはそれをさかのぼり13世紀ごろ”ゴーラクシャナート”が大成したもので、
その一派はナート派と呼ばれシヴァ神信仰に密接な関係がありました。
古典ヨガはどちらかというと無神論哲学なんですが、
ハタヨガは有神論寄りです。人格神を崇拝します。
3-2 アサナ
この”ハタヨーガプラディーピカー”の
ヨーガスートラと大きく異なる点は、
アサナというヨガポーズを具体的に示したことです。
ヨーガスートラのアサナ=瞑想の坐法、から
ハタヨーガプラディーピカーのアサナ=ヨガポーズ、の変化があったわけです。
以下、ハタヨーガプラディーピカーに記述のあるアサナです。
現代のヨガポーズとは、名前と姿勢が一致しないものもあります。
1) スヴァスティカアサナ(吉祥体位)
座禅のように足をふとももの上に乗せず、下腿部とももの間にはさむ坐法。 2) ゴームカアサナ(牛の顔の体位)
説明は現在のゴムカーサナのポーズの座り方の部分を示している。
3) ヴィーラアサナ(英雄の体位)
半跏趺坐、アルダパドマーサナ、いつもいう英雄のポーズとは違います。
4) クールマアサナ(亀の体位)
足を交差した正坐、くるぶしで肛門横を圧する。
これも通常いう亀のポーズとは違います。
5) クックタアサナ(鶏の体位)
パドマーサナで座り、その膝裏に腕を差しこみ、体を持ち上げる。
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6)ウッターナクールマアサナ
クールマの坐法から、上体を後ろへ倒し寝る。
7) ダヌスアサナ(弓の体位)
アカルナダヌラーサナ(弓を引く体位)のこと。
長座から片足を耳に引くポーズ
8)マッチェーンドラアサナ(捻りの体位)
9)パシチマターナアサナ(長座前屈の体位)
10)マユーラアサナ(孔雀の体位)
腕立て伏せ姿勢から、曲げた腕をみぞおちに当て、伸ばした全身を浮かすポーズ
11)シャバアサナ(しかばねの体位)
12)シッダアサナ(達人坐)
片方の踵を会陰部に当て、
もう片方を、性器のうえに当てる坐法。
クンダリニーに刺激を与える。
ジャーランダラバンダの姿勢で眉間を凝視
13)パドマアサナ1(蓮華坐1)
結跏趺坐(座禅の座り方)から
後ろへ回した手で交差した足先をつかむ。
両膝は近づけ引き締める。バッダパドマアサナ
・ジャーランダラバンダの姿勢で、鼻先を凝視 14)パドマアサナ2(蓮華坐2)
結跏趺坐で両足の交差するところへ
両手のひらを上向きに重ね置く。
・ジャーランダラバンダの姿勢で、鼻先を凝視
・舌先を前歯の裏根元につける(ジフヴァーバンダ)
・気(大地、下半身の気)アパーナを引き上げる。
15)パドマアサナ3(蓮華坐3)
結跏趺坐を固く組み、両手は2と同じ
・ジャーランダラバンダの姿勢で
引き上げたアパーナ(大地の気、下半身の気)と
吸いこんだプラーナ(宇宙の気、上半身の気)を
下降させ合流させる。
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16)シンハアサナ(ライオンの体位)
交差した正坐から、舌を長く出し、鼻先を凝視。
・重要な3つの引き締め技法であるバンダを統合するとされる。
・クンダリニーに関係
17)バドラアサナ(吉祥体位)
両くるぶしを会陰の横につける坐法
さまざまな解釈の座り方がある。
バッタコーナアサナを深く組み、足を手で締め上げるなど。
以上ハタヨーガプラディーピカーで示す17のヨガアサナです。
最近は”クンダリニーヨガ”と”ハタヨガ”を分けていますが、
これを見るとハタヨガは最初からクンダリニー技法を含むものだと理解できます。
3-3 浄化法
体の浄化法として6つのことを書いています。
これはインド医学のアーユルヴェーダと関係があるようですので
詳しくはそちらを学ぶと良いと思います。
1)ダーウティ:細い布を飲みこみ、胃を洗浄
2)ヴァスティ:水の中で肛門から水を吸い上げ腸を洗浄
3)ネーティ:鼻から入れた紐を口から出し鼻腔を洗浄
4)トラータカ:まばたきしないで一点を凝視、涙で目を浄化
5)ナーウリ:腹直筋のコントロール体操、お腹の神経叢の浄化
6)カーパラバディ:ふいごの呼吸:気道、肺の浄化
* 具体的なこれら浄化法の資料として
「ヨーガセラピー」
スワミ・スヴァラヤーナンダ著 山田久仁子訳
春秋社刊 第4章をおすすめします。写真つきで載っています。
3-3 プラーナヤーマ
ハタヨーガプラディーピカーでは具体的な呼吸法が説明されます。
1)スーリヤベーダナ
太陽を意味する右の鼻の穴から息を吸い、
左の鼻(月)の穴から息を吐きます。 15
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2)ウジャーイー
両鼻から息を吸い気道から音をたて、左の鼻(月)の穴から息を吐きます。
3)シートカーリー
上下の唇の間に舌をあてシーという音で息を吸い(口から)
両鼻から息を吐く。
4)シータリー
舌を丸めて口から突き出し、息を吸い、
両鼻から息を吐きます。
5)バストリカー
両方の鼻の穴を使い、息を力強く、吸い吐くを繰り返す。
(ふいごの呼吸)
6)ブラーマリー
息を吸うとき、吐くときに、
蜂の羽音のような”ブーン”という音を出す。
7)ムールチャー
両鼻から息を吸った後、両手で顔をおおうようにし、親指で耳、人差し指で目、
中指、薬指で鼻、小指で口を抑える。
ジャーランダラバンダ(喉のひきしめ)をしながら
鼻を抑えた指をゆるめ、ゆっくり息を鼻の穴から出す。
8)ブラーヴィーニー
プラーナを胸に満たす呼吸法。この呼吸に熟達すると、水に浮き歩くことも出来ると言
う。
3-4 ムドラー
さらに身体コントロールをしていくため
ハタヨーガプラディーピカーではムドラー(印)、バンダ(束縛)という
特殊なポーズ、締めつけ技法を説明しています。
エネルギーの流れ(プラーナやクンダリニー)を方向転換したり
流れの量をコントロールする水門(ゲート)の役割をする特殊な姿勢です。
1)マハームドラー
ジャーヌシルシアサナとバンダ技法の組み合わせ。
踵でムーラダーラチャクラを刺激、のどの引き締め(ジャーランダラバンダ) 肛門会陰部の引き締め(ムーラバンダ)をする。
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2)マハーバンダムドラー
アルダパドマーアサナとの組み合わせ
3)マハーヴェーダムドラー
2の姿勢で両手を床につけ体を持ち上げる。
ハンドスタンド。
4)ケーチャリームドラー
舌を上アゴの鼻へと続く空間(頭蓋腔)へ挿入する。
5)ウッディヤーナバンダ
おなかの引き締め(引き上げ
エネルギーを引き上げる。
6)ムーラバンダ
肛門、会陰部の引き締め
7)ジャーランダラバンダ
のどの引き締め
首を通るエネルギーをコントロール
5)~7)を合わせて行うことを”バンダトラヤ”(3つのバンダ)といいます。
この3つの重要なバンダの名前はよく出てきますので、覚えておいてください。
8)ヴィバリータカラニー
腰を抑えたくの字の肩立ちのポーズ。
以上がヨガ教室で教える人が知っておきたいムドラーです。
*以下にセックス、性エネルギーとかかわる部分に話がすすみます。
詳しく知りたい方は
「ヨーガ根本教典」
佐保田鶴治著 平河出版社
P240~を読んでください。
3-5 ラージャヨガ
ハタヨーガプラディーピカーは、
始めにこうハタヨガを表現しています。
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「ハタヨガは高遠なラージャヨガに登らんとするものにとって、
すばらしい階段に相当する。」
ハタヨーガプラディーピカー 1・1
ラージャヨガとは、哲学・瞑想的なヨガ(古典ヨガ)のことです。
そのために心身のメソッドを突き詰めていくのが、ハタヨガの役割と宣言しているので
す。
そして終わりの章をまとめるとこうなります。
「ヨーギーにして、そのシャクティ(クンダリニー)の覚醒が起こり、すべての業作を
捨て去ったならば、彼にはおのずから忘我の状態が発現する。」
ハタヨーガプラディーピカー 4・11
さまざまなヨガアサナ、プラーナヤーマ、ムドラーを習得し
身体エネルギーであるクンダリニーを覚醒しコントロールしていくこと、
肉体面から入る瞑想状態がハタヨガの三昧(サーマディ)であると言っています。
ハタヨガとは、サーマディ状態に到るため、肉体的操作を極め、
眠れるエネルギー”クンダリニー”を操るヨガなのです。
3-6 まとめ
ハタヨーガプラディーピカーは、
ポーズとしての、ヨガアサナやムドラー、バンダ
具体的な呼吸法としてのプラーナヤーマを示し、
生体エネルギーコントロール法(クンダリニー法)を記述した
身体のヨガ(ハタヨガ)のテキスト(教典)です。
ハタヨーガプラディーピカーの示す、
ヨガポーズに焦点を当てたのが 現代のハタヨガで、
エネルギーコントロールに焦点を当てたのが、
現代のクンダリニーヨガということになります。
(クンダリニーヨガを別名ラヤヨガとも呼びます。)
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4 バガバッドギーター
4-1 バガバッドギーター
バガバッドギーターは2世紀ごろ成立したといわれている
700ほどの詩句からなるヨガ思想(インド思想)を良く表わした書で、
ヨガやインド思想を学ぶのに、勧められる文献です。
作者は不詳です。
叙事詩「マハーバーラタ」の一部分であるが、独立したものとして扱われ
ギーターと略して呼ばれることもあります。
インドの神クリシュナ(ビシュヌ神の化身)とインドの王子アルジュナの会話と
いう形をとって、ヨガ的思想が展開されます。
この書では、哲学瞑想的な古典ヨガ(ヨーガスートラ)を踏まえた上、
生活の中での宗教的ヨガ、業を修めるヨガ(叡智からでた行為でカルマを浄化するヨガ)
への大きな展開が見られます。
4-2 ギーターのなかで説かれるヨガとその詩句を紹介します。
1)ジュニヤーナヨガ 知のヨガ
サーンキャ哲学の理論を、瞑想思索して明晰なる知をもって
真我の境地に到ろうとするヨガ。
哲学好きな人向きでしょうか。
「この世界で知識(ジュニヤーナ)ほど神聖なものは他にない。
ヨーガを完成した人は、時到れば、
その知識を自ずと自分自身のうちに獲得する。」 ギーター 4・38 2)カルマヨガ 行為のヨガ、奉仕のヨガ
カルマとは”業(ごう)”という意味で、
たとえば悪いことをすれば、悪いことが起きる悪業悪果(あくごうあっか)という
因果応報の思想で、その行為であるカルマを浄化し、善のカルマを積み輪廻から
解脱しようというヨガ。
特にインドにおいては世襲性の仕事(カースト)を遵守遂行していくことに
結びつき考えられました。
仕事を通じてするヨガと言う意味でとらえてもよいです。
「行為において無為を、そして、無為において行為を見ている者は、
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人々の中の賢者であり、あらゆる仕事をしつつヨーガに安住している。」
ギーター 4・18
3)バクティヨガ 信仰的献身のヨガ
神への敬愛をもって、心身を神に集中し神と合一するヨガを説きます。
「ただただ、私(神)のことを思念しつづけ、私を信愛する人は、
常にヨーガに合一している。それらの人々に、
私はすべての世俗的に必要なものを満たしている。」
ギーター 9・22
* ハタヨガはおもに、シヴァ神信仰、
このギーター寄りのヨガでは、ビシュヌ神(クリシュナ神)信仰です。
4-3 まとめ
社会のなかで生きつつ生活を通し、宇宙存在との合一するヨガを目指すのが
バガバッドギーターで説かれるヨガです。
それはこの3つのヨガで分類されます。
・知識のヨガ(ジュニヤーナヨガ)
・行為のヨガ(カルマヨガ)
・信仰のヨガ(バクティヨガ)
ここには山の中に篭もって瞑想するタイプのヨガから、
社会的なヨガへの展開があります。
下の引用文では「平等心をもって働け」(生活しろ)と言っています。
このように、ギーターではヨガは、よりよく人生を生きるためのものと
規定しているのです。
「アルジュナよ、汝がヨーガの境地に達しても、成功にも
不成功においても、平等な態度を保ちつつ、執着なく働け。
平等心こそヨーガと呼ばれる。」ギーター 2・48
ヨーガの実践は世間から逃避してはできない。我々のヨーガの修練は、
世間から解放されるためではない。人生をより完全に生きるために行うものである。
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以上”ギーター”の引用は
「ギーター・サール インド思想入門」
Aヴィディヤーランカール著 長谷川澄夫訳 東方出版より
インド独立の父と呼ばれる、非暴力主義の政治家”マハトマ・ガンジー”も
この”ギーター”を愛読して精神的支えとしたそうです。
「マハトマ・ガンジー (1869-1948) インドの政治家・民族運動指導者。
ロンドンに留学して弁護士となり,
帰国後国民会議派に参加,これを指導して非暴力主義の立場から
無抵抗・非協力・不服従の全国的な反イギリス独立運動を展開,
マハトマと称せられた。
1947年インド独立後はヒンズー・イスラム両教徒の融和に努力したが,
狂信的ヒンズー教徒により暗殺。インド独立の父。ガンディー。」
三省堂 「大辞林」より
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ヨガの思想・基礎知識
(C) Noboru Watanabe
5 ヨガの歴史
5-1 古典ヨガからハタヨガへ
いままで1~4でみてきたヨガの形を含め、さらに歴史の流れからまとめてみました。
紀元前2000ごろ
・インドの古代文明であるインダス文明で、
ヨガをしている(ヨガの坐法)と思われる神像が作成されている。
モヘンジョダロ遺跡で発掘されたレリーフ(1924年 ジョン・マーシャルが発見)
プロトシヴァ(シヴァ神の原形)とも呼ばれるもの。
「インダス文明
紀元前2500年頃から前1500年頃までインダス川流域に栄えた青銅器時代の都市文明。
アーリア民族侵入以前のものともいわれる。
下流にモヘンジョ-ダロ,上流にハラッパーなどの遺跡がある。」三省堂 大辞林
紀元前 1000~
・ヴェーダ編纂(バラモン教の聖典)
・古ウパニシャッド成立(ヴェーダの哲学書)
瞑想を通じ悟りへといたる修行者達の
呼吸の整え方、体の整え方、心の整え方がヨガと呼ばれる。
タイティリーヤ・ウパニシャッド、カタ・ウパニシャッドに見られる
「信仰をその頭とし、正義をその右腕とし、真実をその左腕とし、
ヨーガをその躯幹とし、大(マハー)をその坐となす。」
タイティリーヤ・ウパニシャッドより
ヨガ行法(瞑想)が修行の本体であると言っています。
紀元前 500~ ・瞑想の実践からインドの宗教、仏教やジャイナ教が生まれた。
・マイトリ・ウパニシャッドにヨガの6部門(6支則)が表わされる。
1) 調息(プラーナヤーマ)
2) 制感(プラティヤハラ)
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ヨガの思想・基礎知識
(C) Noboru Watanabe
3) 禅定(ディヤーナ)
4) 凝念(ダラーナ)
5) 思弁(タルカ)
5) 三昧(サーマディ)
・パタンジャリが”ヨーガスートラ”を著わす(?)
これらの瞑想的ヨガを現代ヨガ(身体的ヨガ)に対し
”古典ヨガ”または”ラージャヨガ”と呼ぶ。
~2世紀
・バガバッドギーターが成立
瞑想ヨガから社会的ヨガへの展開が見られる。
知識のヨガ(ジュニヤーナヨガ)、
行為のヨガ(カルマヨガ)、
信仰のヨガ(バクティヨガ)
~5世紀
・ヨーガスートラの現在の形が成立されたとされる。
瞑想ヨガへの8支則、心と瞑想の分析が主な内容で、
他に古典ヨガとバガバッドギーターで説くヨガをまとめようとする意図がみられる。
クリヤーヨガ(行事ヨガ)の部分。
・インド6派哲学の大成
このうちの一つが”古典ヨガ学派” ・ヨーガ系、新ウパニシャッドが編纂される。
~13世紀 ・ゴーラクシャナートが身体的ヨガ”ハタヨガ”を大成したとされる。
「ゴーラクシャ・シャカタ」を著わす。
~17世紀
・スヴァートマーラーマが”ハタヨーガプラディーピカー”を著わす。
ハタヨガの重要文献。
その他ハタヨガの教典として”シヴァ・サンヒター”や”アーナンダ・サムッチャヤ”
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ヨガの思想・基礎知識
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や、チャルパタによる”チャルパタ・シャカタ” ゲーランダによる”ゲーランダ・サンヒター”がある。
5-2 現代のヨガ展開
神秘主義との接触
1878年 神智学協会 ブラヴァッキー夫人(1831~1891)、
オルコット大佐がインドで活動を始める。
西洋神秘学とインド思想(ヨガ、特にクンダリニーヨガ)の接近、欧米への紹介。
1927年 リードピーター著「チャクラ」等
西洋的身体メソッドにチャクラとかクンダリニーの概念が導入される元はこの
神智学協会の活動が最初。
二代目はアニーベサント(1847~1933)インドの社会運動や教育運動に貢献。
3代目と目された救世主、クリシュナムルティ(1895~1986)は協会を離脱。
他にこの組織から、”人智学協会”のルドルフ・シュタイナーが出ている。
ヨギー(ヨガ行者)の西欧進出
・ラーマクリシュナ・パラマハンサ(1836~1886)
ヨガやキリスト教、イスラム教など宗教の枠を超えた修行で悟りを得た
現代的ヨガ行者。
その弟子のヴィヴェーカーナンダ(1863~1902)が師の思想を世界に広げた。
ラーマクリシュナ教団。
日本でも横山大観や岡倉天心などがその影響を受けている。 ・シュリ・ヨーガナンダ、”ヨーゲンドラ”とも呼ばれるヨガ行者は1920年ごろ、
ヨガの科学的、医学的研究を手法に、ヨガの世界的普及に貢献。
著書は「ヨガ健康法の科学」山崎正訳(絶版)
・オビロンド・ゴーシュ(1872~1950)
インド哲学をヨガの立場から整理し、発表。
西欧社会でその思想がよく読まれた。
また”インテグラルヨーガ”(総合的ヨガ)と呼ばれるものを創始する。 インテグラルヨーガは、ハリダースチョードリー博士の著書により
世界に知られる。 25
ヨガの思想・基礎知識
(C) Noboru Watanabe
ヨガからヒントを得たセラピー(治療)の展開 ・シュルツ博士の自律訓練法(自己催眠法)
「自律訓練法はもともとヨガの行法にヒントを得て
ドイツのシュルツ博士によって創始されたもの」
心療内科 池見酉次郎著 中公新書より
・仏教の中のヨガ(ディヤーナ瞑想)である禅思想を受け
森田療法(森田正馬博士)や、
ゲシュタルト療法(フレデリックSパールズ)が生み出される。
・他に,筋弛緩法(アメリカのジェイコブソン)やストレッチ体操、
バイオフィードバック法(カミヤのα波フィードバック)や
行動療法(アメリカのワトソン)なども
ヨガの心身コントロール法にヒントを得たと言われています。
瞑想ヨガの世界進出
・マハリシ・マヘッシ・ヨーギの”TM瞑想”(超越瞑想)
トランセンデンダル・メディテーションの略
マントラ(呪文・真言)を用いる瞑想 1960ごろ~
・バグワン・シュリ・ラジニーシの”ダイナミック瞑想”
チベット仏教の瞑想やクンダリニー瞑想の応用
音楽に合わせて体を動かすとかの要素を取り入れている。
1960年代
アメリカの若者カルチャーとインド、ヨガのつながりが見られる。
ヒッピー文化(厭世的思考)や
反戦平和主義、自然回帰思考の一環でインド思想が好まれる。
ビートルズがインドでヨガを学ぶ。等
さまざまなヨガのスタイルが世界に
・アイアンガーヨガ B・K・Sアイアンガーが作ったスタイル。
細かい体の分析から、厳密なヨガアサナ(ポーズ)を作り上げていくヨガで
ハタヨガの代表的存在。
・アシュタンガヨガ シュリ・K・パッタビジョイスが作ったスタイル。
ヴィンヤーサといわれる呼吸と動作を一致させたヨガで、
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ヨガの思想・基礎知識
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80ほどの決められたポーズの流れをメニューにしたものを行う。
根幹となる動きは”太陽礼拝(スーリヤナマスカーラ)”
・パワーヨガ
アシュタンガヨガをベースにアメリカで生まれたヨガ
トレーニング科学の概念をヨガと融合している。
筋肉意識、骨格意識、コアトレーニング等。
その他、高音多湿の室内でヨガを行う、ビクラムヨガ(ビクラム・チョードリー)、ホッ
トヨガ
など、さまざまなヨガのスタイルが世界で行われている。
現代的ヨガスタイルのまとめ
・病気をなおすため、心を強くするため期待して始めるヨガ
日本では戦後の社会的に貧しい時期から高度成長期に移行する時代
↓
・高度成長期、ベトナム戦争のころ
現代文明への不信とか、自然回帰指向のムードに乗り 神秘主義オカルト指向のヨガ、瞑想で意識変容するタイプのヨガがはやる。
↓
・健康指向のヨガ、フィットネス・エアロビクスなどの流行とともに
カルチャースクールやスポーツクラブで行われるプログラムのヨガが出来る。
健康体操やスポーツの一環としてとらえるヨガの時代。 ↓
・ライフスタイルとしてのヨガの時代
格好いいライフスタイルとしてヨガを始める時代
自然生活指向の人、アウトドアスポーツの人が、
大自然の中の自分の体というものはなにか?
これを知るためにヨガを行うスタイル。
サーファーとかクライマー,ダイバーなど
都会生活の中で体と向き合えるヨガ、
体を動かせる、伸び伸びさせる気持ち良さをヨガで味わえる。
そして、かっこいい人、あの一流モデルが、有名人が
セレブビューティが、やっているヨガ、試しにいってみると
これまた素敵な先生、インストラクターがいるではないですか。
そんなことで、通うヨガ。
さまざまなヨガライフスタイルがある現代です。 27
ヨガの思想・基礎知識
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ヨガの思想・基礎知識
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6 日本のヨガ
6-1 仏教とともに
昔、瑜伽(ゆが)という言葉で仏教とともに日本に伝えられたものが、
日本に伝えられた最初のヨガで、瑜伽=心身の合一、悟りとの合一を示す仏教用語だと思
ってください。
ゆが [1] 【瑜伽】〔梵 yoga「相応」と訳す〕
呼吸法・座法・瞑想法などの訓練によって,普通の人間以上の高度な心身を実現しよう
とする修行法。
インドで多くの 宗派に共有された方法で,仏教では唯識派・法相宗で特に重視され,
密教への影響も大きい。
三省堂 「大辞林」より
奈良仏教の”法相宗(ほっそうしゅう)”という哲学面を重視した流派は別名”瑜伽
宗”といいますし、
真言宗や禅もヨガとの関係が深いものです。
真言宗開祖、空海著の「即身成仏義」にも悟りに到るための
瑜伽(六大瑜伽:宇宙の構成要素との合一)の教えが、書かれています。
真言宗は仏教の中で”密教”という、神秘体験を重視する流派です。
これはマントラヨガ、瞑想ヨガ、クンダリニーヨガと関係が深いものです。
たとえば”陀羅尼”(だらに)という言葉があります、
今は真言マントラ、つまり呪文を示す言葉の意味で用いられますが、
陀羅尼の本来の意味は、ヨガの8支則の6番目ダラーナ(凝念法)です。
マントラを用いる精神統一法(マントラヨガ)を真言陀羅尼と呼び
それが意味を転じてマントラそのものを示す意味になりました。
他に、真言宗には”ア字観瞑想” という梵字(サンスクリット文字)を見つめ
そこから心身を宇宙に広げたり、文字そのものになるといった瞑想法があります。
文字そのものになり、文字を見ている自分を見る。
これは、視覚から入る凝念(ダラーナ)から三昧(サーマディ)になった状態のようで
す。
ヨーガスートラでいうプルシャ(純粋観照者)となった状態です。
禅も、仏教に取り入れられたインドの瞑想法で、ヨガでいうと
8支則の7番目ディヤーナ瞑想(静慮)です。
この”ディヤーナ”が中国で音訳され”禅那”という言葉になり、
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ヨガの思想・基礎知識
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禅宗という仏教流派となり日本にもたらされました。
6-2 中村天風
日本において始めてヨガの名を一般に普及した人が
中村天風(1876~1968)です。
日露戦争に軍事探偵として活躍した人で
戦争終了後、医者も見離す病にかかり、それを治すため世界を遍歴し、
ヨガ行者カリアッパ師と出会い、ヨガ修行を始め重病を治したそうです。
その後日本に帰り、修行体験から得た心身の強化活用の道を
”心身統一法”としてヨガを普及をし、
教えは、政治経済の大物・文化人たちを始め、さまざまな人に多大な影響を与えました。
天風ヨガの内容はラージャヨガ(瞑想により自己の王になるヨガ)の流れを汲むもので、
1)クンバハカ法という止息(クンバカ)呼吸法。気合い法
2)安定打坐法という音を使ったディヤーナ瞑想法
3)誦句(しょうく)という自己宣言文による自己啓発が主なものです。
”力の誦句”を参考までに
「私は力だ力の結晶だ。何ものにも打ち克つ力の結晶だ。
だから何ものにも負けないのだ。
病にも、運命にも、 否、あらゆるすべてのものに打ち克つ力だ。
そうだ!強い強い力の結晶だ。」
「運命を拓く」中村天風 講談社文庫より
*組織 (財)天風会
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ヨガの思想・基礎知識
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6-3 沖ヨガ
中村天風の経歴を踏襲し、第2次世界大戦で軍事探偵として活躍
その後、インドや中東でヨガをはじめとする様々な宗教的修行をし
東洋思想や、さまざまな健康法を取り入れた総合ヨガ、
”沖ヨガ”をつくりだしたのが、沖 正弘(1921~1985)です。
沖ヨガの3大ヨガ行法
1)修正法:ヨガアサナに加え、個人個人の体のゆがみからくる病や、症状を改善する
体操法
2)浄化法:余分なエネルギーを消費させ、新陳代謝を促進する体操
3)強化法:動物の動きやさまざまな体操法を取り入れた鍛練法
生命力(自然治癒力)を目覚めさせる。
などが特色あるものです。
また沖ヨガは、生活のすべてをヨガにしていくという考えを展開し、生活ヨガを提唱し
ました。
仕事はカルマヨガ、芸術も心身一致のヨガ、というふうに。
沖 正弘はマクロビオティック(正食運動)の桜沢如一の教えもうけていました。
そのため、沖ヨガの生活の面、食事の面の考え方には、
陰陽刺激とか、陰陽食などその影響が多く見られます。
中村天風に教えを受けたことがあります。
沖に「独立した自分の組織を作れ」と指導したのは、中村天風なのです。
中村天風の影響として、沖ヨガの合宿は天風会の合宿をモデルにしていますし、
ヨガ的生活をしていくうえでのポリシーを”誓いの言葉”という形にしています。
参考までに、”中村天風の力の誦句”と合わせてお読みください。
目覚めの誓い
「わたしは、ただいま目覚めさせていただきました。
目覚めたということは、
生きるのに充分な体力の与えられているということです。
私は今日一日あらゆることに全力を出しきって生きることを誓います。」
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ヨガの思想・基礎知識
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「沖ヨガ生活行持集」 求道実行会密教ヨガ修道場(沖ヨガ本部道場)より 生きる力、生命力を沖 正弘は神と呼びました。
「生命即神」という標語が沖ヨガの一番大事にしている思想です。
戦後から、高度経済成長時代に移り行く変動の時代のニーズ。
強い体をつくりたい。
西洋医療で治らない病を治したい。
強い精神を作りたい。
こうしたものに、生命力UPのノウハウを持ち対応できた沖ヨガは、
日本初のヨガの協会をつくり、全国に支部道場、傘下教室を多数もつなど
大きく普及し、日本のヨガの発展に貢献しました。
現在は、沖 正弘の愛弟子や直接、間接に教えを受けた指導者が
多数独立して活躍しています。
このため日本ヨガの父とも称されるのが沖 正弘なのです。
*沖 正弘・著書 「冥想ヨガ入門」(沖ヨガでは瞑想と書かず、冥想と書く)
「ヨガ修正行法」
「ヨガのすすめ」
「生命力強化法」以上、日貿出版社 「ヨガの喜び」カッパブックス 等 *沖ヨガ(沖 正弘)に教えを受けた指導者
龍村修(東京)龍村ヨガ
石井三郎(東京)ファミリーヨガ
水野健二(北海道)水野ヨガ
森信子(静岡)
数珠泰夫(大阪)
西村和子(愛知)西村ヨガ
北山佐和子(愛知)
大槻高弘(兵庫)大槻ヨガ 平井謙次(和歌山)
田原豊道(日本ヨーガ協会)
内藤景代(東京)NAYヨガ
友永淳子(東京)友永ヨーガ学院
橋本光(東京)日本フィットネスヨーガ協会
伊藤昇(東京:胴体力)飛龍会
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ヨガの思想・基礎知識
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藤本憲幸(愛知) 等
6-4 佐保田ヨーガ
佐保田鶴治(大阪大学名誉教授:1899~1986)が、始めたヨガの流れで
日本化したヨガ(沖ヨガ)に対し、自分のものはインドの正統ヨーガであるとの意思表示
から
ヨーガと表記しています。
ここにヨガとヨーガの違いがあります。
佐保田鶴治はヨーガスートラを始めとするヨガの古典の翻訳、
「ヨーガ根本教典」正・続として出版、などでインドの正統ヨガ思想を日本に紹介し、
ヨガ愛好者やインド哲学研究者のためのすぐれた資料を残してくれました。
学者としてのインド哲学面に通じるヨガであり、
佐保田、自身が高齢で始めたヨガですので、一生を通じて行えるヨガを提唱しています。
思想的には仏教寄りの面が見られる流派です。
*佐保田鶴治・著書 「八十八歳を生きる」人文書院
「ヨーガ禅道話」正・続 人文書院
「ヨーガ根本教典」正・続 平河出版社 等
組織は、ヨーガ禅道友会
*系列流派では愛弟子の番場一雄(1937~2003)が
”日本ヨーガ光麗会”として活動。
番場一雄 著書 「一億人のヨーガ」 人文書院
「ヨーガの思想」 NHKブックス
「ヨーガ健康法」 講談社
「目覚めのヨーガ」講談社 等
番場浩之(現日本ヨーガ光麗会・会長) 著書 「一日5分簡単ヨーガ健康法」講談社α新書 等 6-5 その他日本のヨガ
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ヨガの思想・基礎知識
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1) 綿本ヨーガ 綿本昇が始めたヨガで組織は、日本ヨーガ瞑想協会 オーソドックスなハタヨガを一般向きに指導普及することに成功。
(”沖ヨガや佐保田ヨーガのもつ宗教色や哲学色”の少ないヨガスタイルであることが
鍵)
*綿本昇著書 「ストレッチヨーガ」
「調気ヨーガ」 主婦と生活社
「健康ヨーガ入門」日東出版 等
現在は二代目、綿本彰がパワーヨガをアメリカから取り入れ成功。
綿本ヨーガスタジオ
*綿本彰 著書
「パワーヨーガ」新星出版
「インド式美容健康法・アーユルヴェーダ」テラコーポレーション、等 2) 広池ヨーガ 作家でもある広池秋子(1919~)が始めたヨガで、
コアラのポーズ、タツノオトシゴのポーズなど変わったヨガポーズ名に特色がある、
ゆったり系ハタヨガ。高齢でも出来るヨガの見本。
シルシアサナ(垂直倒立)の専門指導員もある。
この広池ヨーガも、沖ヨガなどと同じくヨガ以外の健康法をさかんに取り入れている。
西式健康法の毛管運動⇒”ゴキブリのポーズ”等
*広池秋子 著書
「至福の生活ヨーガ・垂直倒立のすべて」出帆出版
「元気がでるらくらく生活ヨーガ」海竜社 等
3) 火の呼吸(クンダリーニジャパン)
小山一夫がヨギ・バジアンより習ったクンダリニーヨガを
もとに”火の呼吸”というメソッドをつくり普及し、
有名格闘技選手にも取り入れる人がいて注目を浴びる。
宗教や神秘体験を否定しあくまで、ヨガをテクニック、
道具としてあつかう合理的思考が特色。
小山一夫 著書
「火の呼吸!」 KTC中央出版
「武術脳でつくる達人体」BABジャパン 等 4)他に外来系ヨガとして
ケン・ハラクマのIYC(インターナショナルヨガセンター)がアシュタンガヨガ(シュ
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リ・K・パッタビジョイス創始)、
三浦徒志郎のクリパルジャパンがクリパルヨガ(スワミ・クリパル創始)
柳生直子の日本アイアンガーヨガ協会がアイアンガーヨガ(B・K・Sアイアンガー創
始)
など、いろいろな指導者、組織が活動をしています。
6-5 ヨガを学ぶスタイル
日本でヨガをするスタイルとして大きく4つに分けられます。
1) 専門のヨガスタジオ、教室
・組織・協会系
・個人の教室 2) スポーツクラブ(ジム)のプログラム
例:ティップネスの「パワーヨガ」「ハリウッドヨガ」
コナミの 「ボディヒーリング(ヨガや他の要素も入った総合プログラム)」 3) カルチャースクールのプログラム
3ヶ月とか半年のコースで気軽に試してみられる。 4) ワークショップ・イベント 一日の講座から合宿(リトリート)まで短期イベントが催されている。
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ヨガの思想・基礎知識
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7 ヨガの身体観
7-1 人体は小宇宙
人体は小宇宙だといいます。それをハタヨガ(クンダリニーヨガ)の古典
シヴァ・サンヒターのなかに見ることができます。
「この肉体のなかにメール山があって、七つの島に囲まれている。
そこには、河があり、海があり、山があり、田地があり、領主がいる。」
「そこには、リシ(聖仙)やムニ(聖者)も住み、すべての星宿、惑星もおられる。
そこには、巡礼の聖地もあり、神殿があり、神殿の神々がおられる。」
シヴァサンヒター 2・1
体内を自然環境、地球の縮図を見ています。
星々や神々まで人体の中にあるという、ヨガの身体観を著わしたものです。
”人体は小宇宙説”その元になる文章のひとつです。
文の中にある、メール山(須弥山)は人体の脊柱だと考えてください。
そこの中心をスシュムナー管というエネルギーが通るメインの道(河)があり
左右にイダーとピンガラーという側道があり、
月(陰)のエネルギーや日(陽)のエネルギーが昼夜運行しているとされます。
7-2 気道・ナーディー(ナディ) 気道ナーディーとは気のエネルギー、プラーナの通り道をいい、
人体に7万2千本(シヴァサンヒター説では35万本)の道が走っているとされます。
実際の肺に空気を通している”気道”ではなく、中国医学で言う経絡に近い考えのもので
す。
主要なものは
1) 中心気道 スシュムナー
2) 左気道 イダー 3) 右気道 ピンガラー の三本です。
一般的に、スシュムナーは尾骨の先から頭頂までのまっすぐな管、
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ヨガの思想・基礎知識
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イダーとピンガラーは尾骨(骨盤底:ムーラダーラ)から、
(イダーは左に、ピンガラーは右に)いったん出て、
上部にあるチャクラ(エネルギーセンター)を挟む形で交差を繰り返し上昇する管です。
顔の付近では,イダーは左鼻を通り、ピンガラーは右鼻を通ります。
その後、アジナーチャクラ(額のチャクラ)でスシュムナーに合流します。
他の主要なナーディーとして
シヴァサンヒターでは、つぎのものを名前だけ挙げています。
4) ガーンダーリー
5) ハスティジフヴィカー
6) クフー
7) サラスヴァティー
8) プーシャー
9) シャンキニー
10) パヤスヴィニー
11) ヴァールニー
12) アランブサー
13) ヴィシュヴォーダリー
14) ヤシュヴィニー
7-3 プラーナー(プラナ) プラーナーは中国の気功で扱う”気”のエネルギー概念と同じく
広い意味で自然の気エネルギーを表わし、
狭い意味で生体の気エネルギーを表わしたことばです。
これを、操ることをプラーナー・アーヤーマー、
略してプラーナーヤーマといいます。ヨガの8支則の4番目です。
ここでは狭い意味のプラーナーを見てみます。
人体内で働く、気を総称し”ヴァーユ(風)”と呼び
10種のヴァーユを、ハタヨガの古典、ゲーランダサンヒターならび、シヴァサンヒター
で
挙げています。
10種のヴァーユ、(プラーナーを代表とする体内の気)
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1) プラーナー 人体の胸(心臓)から鼻までではたらく気
2) アパーナー へそから足までにはたらく気
3) サマーナー へそから心臓までにはたらく気
4) ウダーナー 鼻から頭にはたらく気
5) ヴィアーナ 全身に行き渡る気
6) ナーガ おくび(ゲップ)
7) クールマ まばたき
8) クリカラ くしゃみ
9) デーヴァダッタ あくび
10) ダナンジャ 声の気
とくにこの中で 1)プラーナー と 2)アパーナーは
上半身の気、プラーナ、下半身の気、アパーナとして
よく出てきますので大事です。
7-4 クンダリニー
クンダリーとも呼ばれるこのエネルギーは、
眠れる蛇とも、シャクティ女神とも呼ばれる力です。
性エネルギー・女神のエネルギー・始源エネルギーとも例えられます。
このクンダリニーはスシュムナー管の最下部入り口、ムーラダーラチャクラに
三回り半のとぐろを巻いて寝ているそうです。
ハタヨーガプラディーピカーにも書いてあるように、これを覚醒させ、
頭上のチャクラ(サハスララチャクラ:シヴァ神の坐)まで上昇、合一させるのが
ハタヨガ(クンダリニーヨガ)の目標なのです。
そのための方法として、ムドラーと呼ばれる特殊なヨガポーズや
いろいろなプラーナヤーマがあるのです。
7-5 チャクラ
チャクラとは”車輪”の意味で、丸い形をした
生体エネルギーセンターという意味合いがあります。
チャクラは7つあります。
1)ムーラダーラチャクラ :ムーラ(根)アーダーラ(支える)
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ヨガの思想・基礎知識
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根っこのチャクラ
仙骨神経叢・会陰部、肛門部 などに関連 2)スヴァデシュターナチャクラ :スヴァデシュターナ(自分の本質)
下腹部のチャクラ 腰椎部神経叢・性器、膀胱、前立腺、直腸 などに関連
3)マニプーラチャクラ :マニ(宝)のプーラ(町)
お腹、臍のチャクラ
腹部神経叢・お腹の内臓すべてに関連
4)アナーハタチャクラ :アナーハタ(不打音、二つのものが接触しないで出す音)
胸のチャクラ
心臓神経叢、迷走神経、心臓、肺
5)ヴィシュダチャクラ :ヴィシュッダ(清浄な)
喉のチャクラ
甲状腺、脳神経(3、7、9、10番)などに関連
6)アジュニャーチャクラ :アジュニャー(命令)
眉間のチャクラ・第三の目
視床下部、脳下垂体、松果腺などに関連
7)サハスラーラチャクラ :サハスラーラ(千の花弁)
頭頂のチャクラ
大脳皮質全体、潜在意識などに関連
*カタカナ表記はいろいろな資料により差異があります。
どこを伸ばして発音するのかも同じく差異がある。
一般的には、該当する体の場所でいう言い方が普及しています。
お腹・お臍のチャクラ(マニプーラチャクラ)とか、
胸・ハートのチャクラ(アナハタチャクラ)いうふうに。
そして、チャクラはインドの五大という宇宙構成元素の象徴という
意味を持ちます。
五大とは”地・水・火・風・空”をいいます。
ムーラダーラは地、スヴァデシュターナは水
マニプーラは火、アナーハタは風
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ヨガの思想・基礎知識
ヴィシュッダは空に対応しています。
アジュニャーは大(マハー)
サハスラーラは輝く光だそうです。
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8 用語解説
8-1 哲学、宗教
1) サーンキャ哲学
計数哲学、仏教では”数論”と呼ばれる、
数でもろもろの事を示すところからきたもの。
神の存在を否定する無神論。
サーンキャ哲学の宇宙を表わす原理は
真我(プルシャ)という見ているだけの、作用しない純粋な精神と
自性(プラクリティ)という物質界のすべて、生理活動のすべてを構成していくものの
2つからなるというもの。⇒二元論
2つの原理”プルシャ”と”プラクリティ”は、合わさることはない。
それで二元論という。
このサーンキャの物質界分析を医療の面から、アプローチしているのが
インドの伝統医学アーユルヴェーダであり、
サーンキャ哲学の影響を精神面、瞑想でアプローチしているのが古典ヨガといえる。
ヨーガスートラで説く,三昧(最終段階)は
すべての物質活動を超え、心の働きを止めたものであり、
プラクリティの活動をなくし、真我の存在となることである。
(古典ヨガはサーンキャとまったく同一思想ではなく、神の存在を肯定しているし
当時のインド仏教との思想交流も見られる。)
2) ヴェータンダ哲学
サーンキャの二元論に対し
宇宙我(ブラフマン)と個々の真我(アートマン)は本来同一のものだとするのが
一元論のヴェータンダ哲学である。
ハタヨーガプラディーピカーにはこの影響が見ることが出来る。
3) ヴェーダ
古代インドの征服者アーリア人の宗教文学書をいう。
もろもろの生活活動を神事に結びつけたマニュアルみたいなもの。
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ヴェーダ(Veda)とは知識の意味があるので、
”宗教的知識体系”と解釈できる。
バラモン教の聖典であるヴェーダはつぎの種類に分類される。
・リグヴェーダ(神々を祭りの場に呼び讃歌を誦するホートリ神官に属する)
・サーマヴェーダ(歌を主どる、ウドガートリ神官に属する)
・ヤジュルヴェーダ(祭りの進行、供養などを主どるアドヴァリユ神官に属する)
・アタルヴァヴェーダ(祭祀儀礼全般、呪法を主どるブラフマン神官に属する)
4) バラモン
アーリア人社会の階級の最上位にたったのは
祭祀を主どるバラモン(神官)で、宗教体系をバラモン教という。
(それが後年、大衆化したのが、今のヒンズー教)
5) ウパニシャッド
ヴェーダの”哲学解釈書”がウパニシャッドと呼ばれる文献。
古ウパニシャッド (紀元前600ごろのもの)と、
それ以降の新ウパニシャッドと呼ぶものがある。
古ウパニシャッドには、瞑想哲学としてのヨガの定義を見出せる。
新ウパニシャッドには、ヨーガウパニシャッド(古典ヨガ派)と呼ばれるものがある。
6) インド6派哲学
2世紀から5世紀に主流となった6つの哲学。
・バイシェーシカ
多元論 原子論自然哲学(仏教では”勝論”)
・ヴェーダンダ
ヴェーダの末部、アンタつまりウパニシャッド(哲学書)を重視する派。
教典はバーダラヤマが著わした「ブラフマスートラ」が重要
究極の存在”ブラフマン”(梵)を重視する一元論。
・サーンキャ
二元論 開祖は”カピラ”
イーシュヴァラ・クリシュナの「サーンキャ・カーリカ」五世紀で大成。
・ニヤーヤ
実在論 有神論
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・ミーマーンサー
ヴェーダの中のブラーフラマ文献(祭儀書)を重視する派。
祭儀の効力のみを認める無神論。
開祖はジャイミニ「ミーマンサースートラ」を著わす。
・ヨーガ(古典ヨガ)
パタンジャリ「ヨーガスートラ」
思想はサーンキャ哲学を背景にするが、有神論
この6つをインド6派哲学という。
7) インドの3大神
現在この3大神のうちシヴァ神、ビシュヌ神への信仰が強く、また
ヨガにも関係が深いものである。 ・シヴァ神
破壊と再生の神 ハタヨガでの信仰が強い
シンボルは、三叉戟(みつまたの槍)、リンガ(男根)
踊るシヴァ神をナータラージャといい火輪の中で卍のポーズをとる像が有名。 ・ヴィシュヌ神
保持と平和の神 バクティヨガの対象
この世のバランスを維持するため様々な化身(アヴァターラ)となってあらわれる。
代表的な10の化身は
1、魚(マツヤ)
2、亀(クルマ)
3、猪(ヴァラーハ)
4、人獅子(ナラシンハ)
5、小人(ヴァーマナ)
6、斧をもつラーマ(パラシュラーマ)
7、ラーマ(ラーマヤーナの主人公)
8、クリシュナ神
9、ブッダ(釈迦)
10、カルキ(未来の救世主)
ヨガポーズには、このビシュヌの化身にあやかったとされるポーズがある。
(1、2、4) シンボルは、リング状の武器”チャクラ”、ほら貝
・ブラフマー神
宇宙の創造神 上記の神さまにくらべ人気がない?
哲学的思想的なブラフマーを人格神にしたため抽象的な神である。
仏教では”梵天”と呼ばれる。
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シンボルはヴェーダ書 鉢(壷)
8) ジャイナ教 〔Jina ジャイナは勝利者の意〕インドで,
紀元前六世紀頃開かれた仏教と並ぶ非バラモン系統の宗教。
開祖はマハービーラ。厳しい戒律生活と苦行の実践による輪廻(リンネ)からの
解脱を説く。二世紀頃二派に分裂。信者はインド国内に限られ,現在約二百万余。
耆那(ジナ)教。
9) 仏教 〔仏陀が説いた教えの意〕紀元前五世紀(一説に六世紀)に
釈迦が開いた宗教。インドにおこり,ほぼアジア全域に広まった。
この世を苦しみ・迷いの世界と見,苦行にも悦楽にも偏らない正しい実践によって
そこから脱け出ること,さらには迷いに沈む生きとし生けるものを救うことを目ざす。
発展史的に原始仏教・部派仏教(小乗仏教)・大乗仏教,
伝来の相違により南伝(南方仏教)・北伝(北方仏教)などの区別が立てられるが,
受容された地域の特殊性や社会変動によって多様な信仰に展開した。
8)と9)は三省堂 大辞林より
8-2 ヨガ
1) アサナ (アーサナ)
存在する⇒坐る⇒姿勢⇒ポーズと意味が広がっていったもの。
・古典ヨガでは坐法
・ハタヨガでは体位を示す。
2) ムドラー
”印”の意味。
1、クンダリニーをコントロールする特殊なアサナを”ムドラー”と呼ぶ。
ジャーヌシルシアサナにこの要素が加わると”マハームドラー”になる等。
2、手を使った形、手印もムドラーと呼ばれる。
3) バンダ
アサナや呼吸法で大事な要素としてバンダがある。
”締める、縛る”という意味。
重要なバンダとして
・ウッディヤーナバンダ(お腹の引き締め)
・ムーラバンダ(肛門、会陰部の引き締め)
・ジャーランダラバンダ(喉、首の引き締め)がある。
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4) ヴィンヤーサ
動きと呼吸を一致させ、ポーズとポーズをつなぐものを言う。
太陽礼拝(スーリヤナマスカーラ)が代表的なもの。
5) ドリシュティ
視線、視覚で意識するポイント。
動きやポーズをより効果的に導くため用い、内部に意識を戻す働きをする。
シュリKパッタビジョイスのアシュタンガヨガでは、
つぎのドリシュティを使う
・ナサグライ (鼻先)
・オングスタマディヤイ(指先)
・ブローマディヤ(第3の目)
・ナビチャクラ(へそ)
・ハスタグライ(手)
・ウルドヴァ(天)
・パダヨラグアイ(足先)
・パールシュヴァ(側方)
4) プラーナーヤーマ
調息 呼吸法
もともとの意味は”呼吸を止める”クンバカに同じ。
今は呼吸コントロールとして使うのが一般的。
呼吸のインドの言葉
・プーラカ 息を吸う
・レーチャカ 息を吐く
・クンバカ (クンバク)息を止める
クンバカにはつぎの3種がある
・アービャンタラクンバカ 吸息後息を止める
・バーヒャクンバカ 出息後息を止める
・ケーヴァラクンバカ (1)自然に起きる止息 の意味とつぎの意図的止息がある。 (2)呼吸の途中で肺の中とと外気のバランスがとれたとき止息 5)インドの数の数え方
1 エーカム
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2 ドヴェ
3 トリニ
4 チャトヴァリ
5 パンチャ
6 シャト 7 サプタ 8 アシュト
9 ナヴァ
10 ダーサ
アシュタンガヨガではこのカウントに沿ってレッスンが進められる。
「エーカム、インヘルゥ、ハンズアップ!」(1、息を吸って両手を挙げて~) 「ドベェ、エクセル、ヘッドダウン!」(2、息を吐いて、頭を下ろす~)
というふうにインドの言葉と英語を主に使いヨガの誘導をする。
またポーズ名にも関係があるので、参考までに
例:チャトランガ・ダンダ・アサナ(チャトランガ:4つの、ダンダ:杖のポーズ)
トゥリ・コーナ・アサナ(トゥリニ:3つの、コーナ:角のポーズ)
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9 参考資料
この原稿を書くのに用いた資料です。
1)ヨーガの古典、インド哲学
「インドヨーガ根本教典」 「続インドヨーガ根本教典」佐保田鶴治 平河出版社
「ギーター・サール インド思想入門」
Aヴィディヤーランカール著 長谷川澄夫訳 東方出版
「ウパニシャッド」辻直四郎 講談社学術文庫
「インド文明の曙・ヴェーダとウパニシャッド」辻直四郎 岩波新書
「中村元選集24 ヨーガとサーンキャ」中村元 春秋社
2)ヨガ全般知識
「ヨーガの哲学」立川武蔵 講談社現代新書
「ハタヨガの真髄」
「ヨガ呼吸冥想百科」BKSアイアンガー著 沖 正弘監修 白揚社
「ヨーガの思想」 番場一雄 NHKブックス
「ヨーガセラピー」スワミクヴァラヤーナンダ著 山田久仁子訳 春秋社
「ヨーガ医学大要」カティル・ナラシンハ・ウドゥパ著 木村慧心訳 たま出版
「仏教医学事典・補ヨーガ」福永勝美 雄山閣出版 「ヨーガ教育的治療心理学」山崎正 日本文化科学社 「東洋医学の本」 学研
「ヨーガの科学的評価」 KTベハナン著 石川澄子訳 平河出版社
3)ヨガの歴史、宗教史
「ヒンドゥー教 インドという<謎>」山下博司 講談社メチエ
「瞑想の科学」石川中 講談社ブルーバックス
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ヨガの思想・基礎知識
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「密教 悟りとほとけの道」頼富本宏 講談社現代新書
「覚りと空 インド仏教の展開」竹村牧夫 講談社現代新書 「空海 即身成仏義」金岡秀友 太陽出版
「Yogini別冊 ヨガのすべてがわかる本」えい出版社
4) 一般ヨガ資料
「アシュタンガヨーガ」ジョンスコット 産調出版
「ヨガ・マーラ」シュリKパッタビジョィス著 ケンハラクマ監修 産調出版
「冥想ヨガ入門」 「ヨガ修正行法」「ヨガのすすめ」
沖 正弘 日貿出版社
「沖ヨガ生活行持集」 求道実行会密教ヨガ修道場(沖ヨガ本部)
「運命を拓く」中村天風 講談社文庫
「中村天風 自分に奇跡を起こせ」池田光 知的生きかた文庫
「パワーヨーガ」綿本彰 新星出版社
「健康ヨーガ入門」綿本昇 日東書院
「至福の生活ヨーガ 垂直倒立のすべて」広池秋子 出帆新社
「火の呼吸」小山一夫 KTC中央出版
「インドヨガ教典 冥想と健康の技法」「続インドヨガ教典 冥想と健康の技法」
ジバナンダ ゴーシュ 評言社
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ヨガの思想・基礎知識
(C) Noboru Watanabe
おわりに 以上、知識としてのヨガの思想、歴史を見てきました。
ヨガの広い体系と方向性のため、まとめて語ることは難しいものですが、
最低限つぎのことを理解し、人に質問されたとき答えられるようにしておきたいもので
す。
Q1 ヨガを大きく分類したときの二つの流れは?
Q2 そのうち古い方の代表的文献は?、作者はだれ?
Q3 新しい方のヨガの代表的文献は?、作者はだれ?
Q4 ヨガの8支則を言えますか?
Q5 クリヤー(行事)ヨガってどういうもの?
Q6 チャクラの名前と場所を言えますか?
Q7 日本のヨガの流れを簡単に説明できますか?
Q8 プラーナとアパーナの違いは?3つの重要な気の道は?
Q9 ヨガの語源は?
Q10 ヨガの目的は、目標とするものは? 49