CONTENTS §筑豊小児科医会のご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 §小児科医会の報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 §飯塚病院月間診療のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 §地域連携ささえあい小児診療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 §今月の TOPICS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 §筑豊小児科医会のご案内 *8月は休会です。 ■第 257 回 ●日 時:2014 年 9 月 17 日(水) (18:30~) ●場 所:のがみプレジデントホテル 「中耳炎と副鼻腔炎」 小児科と耳鼻科から講演とシンポジウムを予定しています。 §小児科医会報告 ~第 256 回~ ■ 第 256 回まとめ (一般演題: 「重症心身障害児に対する幽門後ルートからの半固形化栄養法の経験」 飯塚病院 小児外科 鳥井ケ原 幸博) 重症心身障害児は重度の脳障害に起因して、身体的にさまざまな合併症が必発する。てんかん発作や 誤飲、誤嚥に伴う呼吸障害、嚥下や消化吸収能力低下、胃食道逆流に伴う栄養障害により、気管切開や 胃瘻増設、胃食道逆流防止術(噴門形成術)などの手術を余儀なくされる場合が多い。今回は経腸栄養 を行っている重症心身障害児で、半固形化食品を使用した栄養法の改善に取り組んだ 1 例を紹介してい ただいた。 ○重症新生児仮死後(在胎 40 週 3,800g 胎便吸引症候群)の脳性麻痺(CP),精神運動発達遅滞(MR), てんかん(Epi)でフォロー中の 10 歳男児。 2 歳時に胃瘻増設術を行うも、注入したものが口腔内に逆流することがあり、高度の胃食道逆流症 (GERD)による誤嚥や栄養障害を認めていた。これまでは空腸から長時間かけてラコールを注入してい た。今回は腹腔鏡下胃食道逆流防止術(Nissen 法:噴門形成術)目的で入院。注入時間の短縮、ダンピ ング症候群、注入部位のスキントラブル等の予防目的で栄養剤を液体食(ラコール)から半固形の栄養 剤に変更したところ、注入時間の短縮や便性の改善など明らかな改善を認めた。 半固形化栄養法とは、寒天やペクチンといった「固め剤」を使って液体を半固形化して、これを急速 に投与する方法である。寒天などで半固形化された市販品(ハイネゼリーAQUA)などが利用可能である。 (特別講演: 「日常小児外科疾患に対する当科での取り組み」 飯塚病院 小児外科 部長 中村 晶俊) 小児外科疾患としてコモンディジーズである 4 つの疾患、外鼠径ヘルニア、停留精巣、急性虫垂炎、 腸重積の外科、特に最近進歩の著しい腹腔鏡下手術について手術の動画も交えて解説いただきました。 1 ○外鼠径ヘルニア 小児期の外鼠径ヘルニアは、胎生期における腹膜の鼠径管内への嚢状突出、すなわち腹膜鞘状突起が 開存したままでヘルニア囊となり、おもに腸管などの腹腔内臓器がヘルニアを起こす疾患である。外鼠 径ヘルニアは自然治癒する可能性は低く、ことに低年齢では嵌頓の危険性も高いため、診断が付き次第 手術する方が望ましい。小児の外鼠径ヘルニアの標準的な術式として、従来法は Potts 法といい、鼠径 部 に 横 切開 を 入れ ヘ ルニ ア 嚢 の高 位 結紮 の み行 う 方 法で あ った が 、近 年 は LPEC (Laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure:エルペック)法という腹腔鏡下での腹膜鞘状突起の内鼠径輪 の閉鎖術が行われている。LPEC 法の最大の利点は正確な対側検索が可能なことである。臍輪に切開を入 れ、従来は腹部に 3 カ所ホールを入れていたが、SILPEC(Single Incision LPEC:シルペック)と言って 臍部のみの 1 カ所の切開のみで対処できる方法も編み出されている。従来法に比較し、LPEC の利点とし て、創傷が残らず整容性に優れていること、剥離範囲が非常に狭いこと、臍ヘルニアなど臍形成も同時 に出来るのが利点である。昨年(H25)の 4 月以降現在(H26.6)まで精索水瘤も含めて 88 例(男児 64 例、 女児 24 例)の手術を行い、うち 64 例が LPEC 法、24 例に Potts 法が施行された。 ○停留精巣 停留精巣は 1000 人出生当たり 7~8 人の頻度と言われており、生後 3 か月以降は自然降下しないため、 3 か月健診で停留睾丸を指摘されたら手術をする方針を家族に説明する。精巣の温度が大事で腹腔内に あると温度が高くなり、精巣の機能に影響を与える。精巣の機能は男性ホルモン分泌機能と精子形成能 があり、父性獲得率と密接に関与する。両側性の停留睾丸は父性獲得率が明らかに低い。停留精巣は妊 朶性の問題、悪性化の問題も指摘されているため、術後から 2 次性徴開始まで定期的に経過観察をする 必要がある。また停留精巣で精巣捻転の報告もあり、乳児期に固定術を行うべきである。昨年 4 月以降 の手術症例は 11 例で、鼠径部に停留例が 10 例、腹腔内が 1 例。手術時年齢としては生後 7 か月時の手 術が 3 例で最も多く、11 歳が 1 例であった。 ○急性虫垂炎 腹腔鏡下での虫垂切除は世界的には 1983 年に始まった。最近は単孔式が主体だが、従来法では 3 ポー ト腹部にホールを形成していたが、ポート創にケロイドが残るのが欠点であった。虫垂炎も鼠径ヘルニ アと同様臍を起点にするものの単孔式では縦切開を行う。昨年 4 月以降現在までの手術症例は 34 例(男 児 17 例、女児 18 例)で、穿孔性虫垂炎は 7 例。単孔式の腹腔鏡下手術を行った症例は 27 例で創外に虫 垂を引きずり出して切除。入院期間は非穿孔例では平均 3 日、穿孔例では平均 7.5 日であった。 ○腸重積 腸重積の治療法として発症 24 時間以内であれば 8 割は非観血的整復法で対処できる。手術は Hutchinson 法があり、重積した腸管を口側から押しだしながら整復する方法である。腸重積の手術も単 孔式で腹腔鏡下手術が主体になっている。小腸小腸型腸重積で手術した症例では器質性病変が隠されて いる症例があり、最近経験した 9 か月男児の症例は先進部に内翻したメッケル憩室が確認された。 ○術後疼痛対策 腹腔鏡下手術が開腹手術に比べ整容性に利点があるとはいえ、術後の疼痛は回避できない問題である。 臍部アプローチからの手術が増えたため、腹直筋鞘ブロック(RSB: Rectus Sheath Block)法があり、 閉創する前に、内側から外側に向けて局所麻酔剤を腹直筋鞘に局注する方法である。この疼痛対策も向 上したことから鼠径ヘルニア等の日帰り手術も促進されている。 2 §飯塚病院月間診療のまとめ ●入院患者数 133人 《2014年6月》 ●外来患者数 1.635人 ●救命救急センター受診者数 891人 ●新生児センター入院患者数 19人 ●分娩件数 38件 ●主要疾患数(退院患者数;119 人) 痙攣及びてんかん 急性上気道感染症 喘息 新生児感染症 33 5 4 1 低出生体重児 新生児呼吸障害・心血管障害 腸重積・腸閉塞 その他 ●紹介件数 106件 肺炎・気管支炎 急性胃腸炎 高ビリルビン血症及び黄疸 10 4 1 (件) ① 社会保険田川病院 6 ② 弥永内科小児科医院 5 ③ 嘉麻赤十字病院 4 田川市立病院 4 ⑤ 10 5 2 44 あざかみこどもクリニック 3 こどもクリニックもりた 3 ささきこどもクリニック 3 田中クリニック 3 たなかのぶお小児科 3 津川診療所 3 松口循環器科・内科医院 3 見立病院 3 §地域連携ささえあい小児診療 地域連携ささえあい小児診療スケジュール ■2014 年 8 月・9 月 8月 9月 8月5日 火 栗原小児科医内科クリニック 栗原 潔 9月2日 火 宮田病院 甲斐丈士 8月7日 木 飯塚市立病院 牟田広実 9月4日 木 津川診療所 津川 信 8 月 12 日 火 ひじい小児科・アレルギー科 クリニック 肘井孝之 9月9日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 8 月 19 日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 9 月 11 日 木 飯塚市立病院 牟田広実 8 月 21 日 木 やまのファミリークリニック 山野秀文 9 月 16 日 火 荒木小児科医院 荒木久昭 8 月 26 日 火 細川小児科内科医院 細川 清 9 月 18 日 木 たなかのぶお小児科医院 田中信夫 8 月 28 日 木 くわの内科小児科医院 桑野瑞恵 9 月 25 日 木 あざかみこどもクリニック 阿座上才紀 9 月 30 日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 2014 年 8 月 8 日現在 3 §今月のTOPICS 今月も先月に続き、本年 6 月横浜で開催された「第 28 回小児救急医学会」の教育講演「救急対応が予 後を決定する小児の低血糖」 (鳥取大学 小児科 神崎 晋 教授)をご紹介します。 ○低血糖はなぜ重要か? ブドウ糖はエネルギー源として中心的な役割を担い、特に脳の主要なエネルギー源で血糖の維持は極 めて大切である。小児(特に新生児)は体重当たりの糖消費が多く、肝臓での糖原(グリコーゲン) 、糖 新生が少ないことより低血糖を起こしやすい。小児期の低血糖は早急に診断を確定し、適切に対処しな ければ重篤な中枢神経障害を残す。低血糖は緊急事態であるとの認識が必要で、低血糖の処置を優先す る必要がある。 ○低血糖の原因 低血糖の原因は血液中へのブドウ糖の動員が少ない場合(需要低下)と血液中からのブドウ糖の流出・ 消費が多い場合(消費過剰)の大きく 2 つがある。 1)血糖の需要低下による低血糖 飢餓と消化管からの栄養の消化吸収障害がある場合、糖新生とグリコーゲン分解の障害、脂肪酸酸 化障害およびケトン体産生異常、内分泌疾患(拮抗ホルモンの異常)などがある。 2)血糖の消費過剰による低血糖 新生児期の一過性インシュリン分泌過剰、先天性インスリン過分泌と糖尿病時のインスリン治療に よる反応性低血糖があげられる。 ○低血糖の診断のポイント 低血糖の数値上の基準値は新生児が 30mg/dl 以下、乳児期以上の小児は 45 以下、成人は 54 以下と定 義付けられている。低血糖の症状は、エピネフリン分泌亢進による交感神経の興奮と中枢神経の糖利用 障害から説明される。但し新生児低血糖の場合は、仮死や子宮内発育不全、糖尿病母体児、多血症など の一過性低血糖が原因で、チアノーゼや無呼吸など多彩な非定型症状を示しやすいのが特徴である。他 に肝腫大(糖原病)や多呼吸(代謝性アシドーシス)、特異顔貌(代謝性疾患)、成長率低下・小陰茎(下 垂体機能低下)などの臨床症状も低血糖を来たしやすい疾患の鑑別として重要である。 ○低血糖の回避システム:食事と生体のホルモン分泌動態 食事と時間経過による低血糖を回避するシステムとして以下の 3 段階がある。 第 1 段階:食事をしてから 4 時間まで 経口由来の食事による栄養としてのブドウ糖供給で、重要なホルモンとしてはインスリンが関与する。 ブドウ糖摂取ですぐにインスリンが分泌されるが血糖値が 80 以下になるとインスリン分泌低下で血 糖値を維持しようとする。 第 2 段階:食後 7~8 時間まで この段階の低血糖予防としての生体の反応は、グリコーゲンの分解が起こり、血糖値が 70 以下になる とグルカゴンやアドレナリンが大量に放出され血糖を維持しようとする。 第 3 段階:食後 10 時間以降 この段階は糖新生や脂肪酸ベータ酸化によるケトン体産生が起こる。血糖値が 60 以下になると成長ホ ルモンやコーチゾールが分泌されることにより低血糖を回避しようとする。 このように低血糖の病態を考える時は、食事との時間経過を考えることが大事である。食事から低血 糖になる時間として、食後すぐに低血糖になるのはインスリンの異常、食後 7~8 時間経過して低血糖に なる場合はグリコーゲン分解の異常、食後 10 時間以上経って低血糖になる場合は脂肪酸代謝の異常を考 える必要がある。 4 ○低血糖の原因検索のための検査 種々の原因で低血糖になりやすいことから、低血糖の原因検索としてすぐに結果が分かる検査の他に、 特に代謝性疾患の鑑別目的にろ紙血での検査や尿や血清の検体を冷蔵保存しておく必要がある。 血液検査:遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、インスリン、コルチゾール、ACTH,IGF-1,血液ガス、乳酸、 ピルビン酸、アンモニア、尿酸、CK,BUN,AST,ALT,カルニチン分画、アミノ酸分析、アシルカルニチン 分画分析、血清保存(凍結) 尿検査:ケトン体定性、有機酸分析、尿保存(凍結) ○低血糖の治療 低血糖時は 20%グルコースを 1~1.5ml/kg をゆっくり静注し、以後グルコースを 6~8mg /kg /分を点 滴する。これで維持できない時や副腎不全がある時はヒドロコルチゾン 1~2mg /kg を投与する。 ○ER での症例から~本当は怖い内分泌代謝疾患~ 救急外来で経験した内分泌代謝救急疾患の症例を紹介します。 〈症例 1〉先天性副腎過形成(CAH) 1 歳の CAH の女児に MR ワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)を接種したところ約 1 週間後に発熱あり。 その後けいれん重積、低血糖、意識障害で救急外来を受診したが死亡。原因は急性副腎不全(副腎クリ ーゼ)で、本児は元来ステロイド剤内服しているが発熱時には通常の 3 倍位の内服は必要。シックデイ 時の救急対応が問題に。 〈症例 2〉先天性尿崩症 2 歳男児。原因不明の発熱とけいれん、脱水で受診。一般検査で電解質異常として血清 Na が 161 と高 値を確認。血漿浸透圧 385 に対し尿中浸透圧は 110 と極端に低値。尿崩症と診断した。 〈症例 3〉腎性尿崩症 腎性尿崩症でフォロー中の 12 歳男児。嘔吐による経口摂取不良で来院。血清 Na が 162、水分が入ら ないと容易に脱水になりやすい。高 Na 血症を呈した高張性脱水では、低張液で急速静注を行うと血漿浸 透圧の急激な変化で中心橋壊死(浸透圧脱髄症候群)を起こしやすいので低張液での補正は禁忌。 〈症例 4〉1 型糖尿病 生後 2 ヶ月男児で、生後 1 ヵ月ごろより多飲多尿傾向があった。64 生日で意識障害、多呼吸呻吟で救 急外来受診。血糖値 860 とケトアシドーシスを認めた。HbA1c は 22%で 1 型糖尿病と診断された。 〈症例 5〉フルクトース 1,6-2 リン酸欠損症 10 ヶ月男児。傾眠傾向、けいれんで救急外来受診。血糖値は 1mg/dl。乳酸・ピルビン酸の上昇あり。 尿中有機酸分析で、糖新生に関わる代謝酵素である フルクトース 1,6-2 リンの酵素欠損が判明した。食事が取れない時、シックデイ時にこのような病態に なりやすいため、食事の重要性を家族に指導した。 〈症例 6〉成長ホルモン分泌不全による低血糖 6 歳男児。低身長、精神発達遅滞があり 1 歳頃より無熱性けいれんの反復あり。けいれんで受診し た際の血糖値が 18 mg/dl。頭部 MRI 検査で頭蓋内病変を検索したところ、下垂体病変が確認された。成 長ホルモン(GH)と副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が出ないときは、インスリン拮抗ホルモンの低下に よる低血糖を来たしやすい。 5 飯塚病院 〒820-8505 飯塚市芳雄町 3-83 TEL0948-22-3800(代) Vol.92 発行日/2014 年 8 月 10 日 発行/飯塚病院 小児科 6 http://aih-net.com/
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