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妻による夫婦関係チェックテスト(ASTWA) ~解説編~
「採点編」での結果について、解説とアドバイスをします。
このチェックテストは、アルコール依存症から回復していない夫を持つ妻と、フルタイムで働いている職域集団の妻に協力して
いただき、科学的な統計分析の手法を用いて作成したものです。国内の学会報告を経て、米国アルコール乱用・依存国立研究機
関(NIAAA)からも評価された共依存のチェックテストです。
共依存は病気ではありません。誰しも、困難な事態に直面した時、下記に述べるような共依存の傾向が現れて、当然です。
それ故、結果は「良い」とか「悪い」とか言うものでは決してありません。
ただ、その共依存の傾向が自分自身を苦しくするとともに、夫のアルコール問題を心ならずも改善しない事があるのです。テス
トの結果を参考に振り返ってみましょう。そして、変えられることは変えていく勇気を持ちましょう。
このチェックテストは作成から一定の年月を経ていますが、現在も役立つものと考えられます。
また、問題や困難が「アルコール」によるもののみならず、「ギャンブル」・「薬物」・「その他の嗜癖」を持つ夫
の妻など、機能不全の夫婦関係にある妻にも、同様の「共依存」が生じますので、振り返りに役立つ可能性があります。
このチェックテストでは…
「世話焼き傾向」「支配的傾向」「巻き込まれ傾向」「完全主義傾向」「低い自己評価
傾向」…の5つの項目をみています。これらは、まとめて「共依存」と呼ばれているもの
です。
「採点編」での結果は、それぞれ…
【1】が「世話焼き傾向」、
【2】が「支配的傾向」、
【3】が「巻き込まれ傾向」、
【4】が「完全主義傾向」、
【5】が「低い自己評価傾向」、
【6】が「共依存の総合傾向」
…の強さを意味します。
「採点編」で【1】~【6】の結果が、『強い』もしくは『非常に強い』となった
あなたは、以下の該当する項目へと読み進めてください。どの項目も『無いか弱い』
となったあなたにも、末尾にアドバイスを用意してあります。
【1】「世話焼き傾向」が『強い』・『非常に強い』場合…
○ 夫の不健康な状態から生じるごく自然で当然の傾向ですが、夫の代行・肩替りをした
り、夫の後始末をしたり、世話焼き過剰状態にあると言えます。
○ 世話焼き過剰は、あなた自身の疲労感・睡眠不足・恨みの感情・怒りの感情を高めて
しまいます。その結果、あなたの心(脳)は、冷静さを失い、本来の力を失っている
可能性があります。
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○ 世話焼き過剰は、夫が飲酒や飲酒問題の結果という現実と向き合うことを遠ざけ、夫
が本当の問題に気付きにくくする場合があります。飲酒による不健康な結果に夫自身
が気付くことは、夫の飲酒行動修正には不可欠の条件です。
○ 世話焼き過剰は、あなたの期待とは裏腹に「余計なお世話」と夫の反発を招いている
かもしれません。
○ 勇気が必要ですが、夫の問題は夫の心(脳)にゆだねる気持ちになりましょう。
○ 自分自身の楽しみ、趣味、生きがいを大切にしましょう。自身のゆとり、冷静さがあ
ってこそ、困難な問題に上手く対処ができるようになるものです。
【2】「支配的傾向」が『強い』・『非常に強い』場合…
○ 夫には、酔い・酩酊による「記憶の曖昧さ」と、長期の飲酒がもたらす脳の変化に基
く「飲酒欲求の高まり」が生じています。その結果、夫の心(脳)と、妻や家族の心(脳)
とは過去と現在を共有できず、互いがかけ離れた状態になります。それは、夫婦関係
の基礎である「会話」を困難にします。「会話が成立しない・しにくい」状態のため、
妻は感情的に反応して、夫を無理にコントロールしようとしてしまいます。
○ 「支配」には「支配」が返ってきます。夫婦の緊張と反発が高まったり、欲求不満が
高まったり、夫は自尊心を傷つけられたように感じることがあります。
○ 夫の問題に口出ししたいと思ったとき、控え目にしましょう。夫のイライラ・焦躁感
に火を付けることは避けましょう。
○ 昔の事を持ち出して、クドクド・ガミガミ言うことは止めて、「簡単明瞭」「サラリ
とした」「爽やかな」物言いに心がけましょう。
○ 夫に対して、過剰な期待をするは止めましょう。本人はとても苦労しながら、何とか
回復をめざしているはずです。
○ 夫婦とはいえ、互いに心(脳)のつくり、育ち方、感じ方、考え方、判断の内容、計
画の方法、実行の手順、価値観は異なっています。さらに、男女の感じ方の違いもあ
ります。夫と自分には元来色々な違いがあることを認識しておきましょう。
○ 感情的な反応を回避するために、夫との適切な「間(距離感)」を大切にしましょう。
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○ 「私は…のように考えます」「私は…のように感じます」「私の希望は…ですが、あ
なたの希望は…」というように、「私は…」という主語で意見を述べ、「あんたは…」
という「非難」「攻撃」「侮辱」「押し付け」にならないように気をつけましょう。
ニッコリ笑って、「ノー」と言えるように心がけましょう。
○ 夫婦喧嘩をしても、延長戦をすることなく朝の挨拶などで関係修復のキッカケをつか
みましょう。
【3】「巻き込まれ傾向」が『強い』・『非常に強い』場合…
○ 酩酊や離脱時の脳は、「焦燥感・イライラ」を高めています。その結果、攻撃的な言
動を見せる夫、また、理不尽で感情的な夫の主張に対して、自分には不本意だと思っ
ていても、黙り込んだり、しぶしぶ従ったり、嫌な気分に陥ったりするところがあり
ます。
○ あなた自身の考えや立場を、夫にハッキリと示すことが苦手なところがあります。自
分自身の考えに基づいて、夫に「イエス」・「ノー」を上手に伝えられるようになり
ましょう。ここでも、ニッコリ笑って、「ノー」と言える事を目指しましょう。
○ 巻き込まれないようにするために、夫との空間的な「間」、時間的な「間」、関係の
「間」をとりましょう。
○ 喧嘩・暴力・暴言を防ぐために、前兆をキャッチし、予防を心がけましょう。
○ 喧嘩や家庭内暴力に対して火に油を注がないように、適切な「間」を取りましょう。
○ タイムアウトのルール※で喧嘩の予防をしましょう。
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※タイムアウトのルール…
口論・喧嘩になりそうになったら、その話題を中止するルール
です。前もって、夫婦で決めておきましょう。口論・喧嘩になりそうな場合、「タイム」を
一方が宣言したらその話題は例えば5分間以上はしない。5 分後落ち着いたところで、双方
がその話題の続きをすることに賛成すれば続け、どちらか一方が反対すればその話題につい
ての会話を中止する。といった具合です。
○ 夫婦喧嘩をしても、早期終結を心がけ、挨拶など関係修復のチャンスを持ちましょう。
【4】「完全主義傾向」が『強い』・『非常に強い』場合…
○ 物事への強いこだわり、白黒思考、柔軟性の欠如は、あなたの生き方を苦しくしてい
ます。自分で出来る認知行動療法が役に立ちます。
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○ あなたの完全主義は、周囲の人に「心の刃」を向けている可能性があることに注意を
向けましょう。
○ もう少し「いい加減に」考えたり、処理したりすることを心がけましょう。
○ 周囲の人に、自分の尺度・考えを押し付けがちになることに気をつけましょう。
○ せっかちな場合には、スローダウンを心がけましょう。
【5】「低い自己評価の傾向」が『強い』・『非常に強い』場合…
○ 夫の飲酒によって、恥ずかしい思いをしたり、夫の飲酒をどうしようも出来ない自分
を責めたり、周囲からも対応が悪いと批判・非難をされたりしていると、自分の価値
を低く見るようになり、周囲の人に左右されやすくなります。
○ あなたの長所・強みを5つあげてみましょう。そして、自分の良いところを忘れない
ようにしましょう。
○ 自分を大切にしていない傾向があるので、もっと自分自身・自分の人生を大切にしま
しょう。これまで辛抱してきた趣味やオシャレや生きがいのあることをやってみまし
ょう。
○ 落ち込みやすいので、マイナス思考を止めましょう。認知行動療法は役立ちます。
あなたに上記の「共依存」の傾向があったとしても、夫の断酒が始まり、夫の脳が回復
して行くと、間違いなく、あなたの「共依存」の傾向は低く小さくなります。
夫がアルコール問題を抱えた期間の長さ、夫の脳の機能不全の軽重、夫のアルコール問
題への気付きの程度、夫の断酒の長さや安定度、夫の脳の機能の回復の程度、これらの条
件によって、あなたの共依存は高くなったり、低くなったりします。あなたは、夫との「関
係」に深く影響されているのです。
◎【1】から【5】までのどの傾向も、『無い・弱い』の場合…
○ あなたは夫の問題や家族の問題を回避しようとして、仕事や子育てへの過剰な没頭、
或いは、あなた自身もギャンブルやアルコールなどで紛らわせているかもしれません。
そのようなことがないか、もう一度自分自身の不健康な部分についてチェックしてみ
ましょう。
○ あなたは育った過程で、家族内での妻としての役割、主婦としての役割を学習してこ
なかったのかもしれません。もう一度家族内の自分の役割について考えてみましょう。
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○ あなたは夫との不健康な関係に徒労感を感じたり、夫への関心を失ったり、関係改善
の意欲を失ったりしているかもしれません。
○ あなたは夫との関係の問題点を客観的に捉えられていないかもしれません。もう一度
相手の立場に立って、自身を見直してみましょう。
◎◎◎上記のどれにもあてはまらなかった場合、あなたは夫のアルコールによる脳(心)
の変化があっても、あなた自身は過度な反応をせず、冷静で落ち着いた対応が出来ていま
す。この関係を維持して、夫の回復を支援して行きましょう。
~夫婦が互いに理解を深めるためのヒント~
本人には酩酊時と離脱時の記憶の曖昧さ・脱落があるために、飲酒の過去と現実が見
えていません。それは、「アルコール」による記憶や認知機能の低下が非常に大きいた
めです。そのため、過去と現在の共有が困難なため、会話が成り立ちにくい夫婦関係、
家族関係となっています。
会話が成立する夫婦関係の再構築のためには、妻や家族が「本人が飲酒によって苦し
んでいる現実を本人に伝える冷静な心」「家族が飲酒によって苦しんでいる現実を本人
に伝える冷静な心」「本人の飲酒を巡る現在と将来を心配している心」、「飲酒の現実
と苦闘している本人への励ましの心、慈しむ心、思いやる心」を持つ必要があります。
これは時間や困難を要することではありますが「可能」です。
妻や家族が「冷静な心」「心配している心」「励ましの心」「慈しむ心」「思いやる
心」をもって、本人に伝えることは特に必要です。そのためには、家族が自分の心を大
切にして、生活の中に自分のための時間・行動を持つことが大切です。家族の心に「余
裕」や「満足感」「充足感」があることで、上記の心が生まれ育って来ます。
「苦しんでいるのは自分1人ではない!」、「自分には仲間がいる!」という安心感
は、上記の心を生み出します。自助グループや治療プログラムにはそれがあります。
人間の脳は「問題」部分に集中してしまう傾向があります。そして、問題が大きいほ
ど、「問題」部分のみに集中して、全体が見えなくなる時が多くなります。「樹を見て
森を見ざる」にならないように、本人の強みや長所、良いところ、嬉しかった出来事、
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楽しかった出来事、本人を誇りに思えたこと、有り難かったことを思い出して、「全体」
を見るようにしましょう。
家族のこれらの気持ちが本人に伝わった時には、「アルコール」が家族に辛い思いを
させていることへの「気付き」が得られ、断酒・回復への本人の努力が始まります。
しかし、上記のような対応で気付きが得られない場合があります。
すなわち、記憶の曖昧さと脱落がひどく、また、飲酒への渇望感が非常に強いために
現実が見えず、「飲むのは当然!」、「家族は飲ませるのが当然!」、「飲んで、家族
に悪いことをしているはずがない!」と思っている場合、現実に気付いてもらうために、
また、問題と向き合ってもらってもらうために、家族が空間的な「間」、時間的な「間」を
設ける事で、本人が気付く場合があります。すなわち、別室に行く、自宅を一時的に離
れる、別居する等が有効な事もあります。これは、飲酒による健康被害等リスクを伴う
場合があるので、他の選択肢が無くなった段階での方法です。
病気を持つ本人の立場を家族が理解するには、家族の「想像力」によるところが大き
いと考えられます。本人は記憶曖昧・脱落のために想像する努力が家族以上に要求され
ます。
「想像力」は、病気に対する知識を本などから得ることは勿論、自助グループや治療
プログラムの中で、家族は他のアルコール依存症の人の体験を聞くことによって、育ま
れます。また、回復の先を行く家族の体験を聞くことによって、あなたは「想像力」を
働かせて、本人の病気を理解し、回復の先行きを理解することが可能となります。結果
として、あなたは夫婦関係や家族関係の回復へ知恵と勇気を得ることができます。
~参考文献~
廣中直行:快楽の脳科学.日本放送出版協会,2003.
甘利俊一,加藤忠史:精神の脳科学,東京大学出版会,2008.
遊佐安一郎:家族療法入門.星和書店,1984.
猪野亜朗:ASTWA,BDIM を通して見る共依存の実像.編者:清水新二,共依存とアディクション,2001.
松本元:愛は脳を活性化する
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